我が名はマドカ。聖剣に選ばれし✝︎漆黒の黒騎士✝︎   作:めど

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沢山の感想、本当にありがとうございます!
……これで1話分ってマジ?


クラスメイトは『唯一無二(イレギュラー・ワン)/厨二病(ワースト・ゼロ)』 3/3

.

 

「……やっぱ、全っ然わかんねぇ」

 

 

 

 

 時刻、十六(ひとろく)三◯(さんまる)

 あっという間に初回授業が終わり、窓の向こうは夕暮れの赤い兆し。生徒はみな、一目散に寮へ駆け込む──ということはなく。それぞれの放課後を過ごすことだろう。

 バカデカい島を丸ごと改造し尽くしたこのISアカデミーは、いわゆるアフター・ファイブを充実させる設備に抜け目ない。

 

 

 

 そんな中、教室でひとりぽつんと。

 机に顔面をへばりつかせ、項垂れる男がいた。織斑一夏以外に誰がいるのか。

 

 

 

()()()()()()じゃ足りないってことか……」

 

 

 ISと()()

 語感が似ただけの全く非なる二文字だが、同じ路線で数駅跨いだら。

 費用全額免除を賭けた徹夜の受験勉強が災いし、寝惚けて会場を間違えた。なんて嘘松のような盛大なうっかりが、ISとの運命的遭遇に繋がったのだ。

 昨日どころか今朝のことのように、一から十までハッキリ覚えている。

 

 

 

 IS適性が発覚してから即、『国際IS査問会』と名乗る黒服共に囲まれ、黒塗りの高級車に拉致されて。

 かと思えば、突如飛んできたIS学園関係者が黒服共を薙ぎ倒して、今度は白塗りの高級車に拉致されて。

 ……黒服のそれは、詐称だったらしい。ホイホイついて行ったらと考えると……ぞっとする。

 

 

 

 恐ろしく座り心地の良い後部座席で、当時の一夏は賢しく悟った。今までの努力とこれから描く展望全てが、ISの介入で水泡に帰したと。

 かつて箒を含む篠ノ之家が受けた措置と待遇差はあれど、『重要人物保護プログラム:Ⅲ』の発動。それに付随した強制入学の宣告が、何よりの証明だった。

 

 

「……まぁ、考えてもしょうがないよな」

 

 

 当の本人は現実に嘆く間も無く、とっくに諦観を終えていた。

 何故か。言うまでもない。唯一の家族が勝ち取った、誇りと尊厳を守るためだ。

 

 ()()()()()()退()()()()()()()()()()

 その先に、苦難の道が待ち構えていようと。

 

 苦渋の決断で受験勉強を全て棄却し、自分なりに新たな予習へと励んだ。けれどそれは、『予習したつもり』に過ぎなかっただけ。見通しが甘かっただけ。

 はっきり言って、僅か二ヶ月足らずでISの全てを頭に叩き込むなど……狂人の沙汰でしかないのだが。そう言い聞かせることでしか、あの時の一夏は現実を直視できなかった。

 

 

 

 

「どこで何を過ごそうと、日々を充実させるのはお前自身──強いて言えば、『求めよ、されば与えられん』──そういうことだ」

「……千冬姉。それ砂糖じゃなくて塩だけど──あだっ!?」

「話を折るな馬鹿者。とにかく。これから出逢うISに、強く望むといい。『あいつら』が好む隣人は、夢を持つ人間だからな」

 

 

 

 

 ふと、入学前の千冬の言葉が過ぎった。

 

 夢と決意を抱き続ける。

 どれだけ綺麗な、絵空事だとしても。どれだけ格好悪くとも。

 世界最強と血を分かつ、自分なら。

 

 

「……大丈夫だ、俺なら」

 

 

 だから不可能は無い。

 やろうと思えば何とかなる。

 

 丁度、明日は休日。本格的なカリキュラムが始動するまで、少しだけ猶予がある。

 まだ間に合う筈だ。今度こそ、ゼロから一歩を作るために。

 

 

「えっ、と、確か図書館が……」

 

 

 ここらで反省会を切り上げ、帰宅の準備にかかる。鞄から地図を取り出そうとした。

 

 と、その時。

 

 

 

 

 

There is a will, there is a way( 意思あるところに、道は在り ). ──つまりそういうことだな、織斑一夏よ

「えっ?」

 

 

 

 

 

 ひとりでに開くオートの扉。

 一夏が振り向くと、そこには大胆不敵な暗黒微笑浮かべる、混色の(まなこ)が。

 そして顔を見せた威光の如き茜が逆光となり、言霊を説く黒い人塊と化す。

 

 

 

 

 

「やはり君は、我が組織と共に世界の裏側の均衡を護る素質がある。私と来ないか? 暁の幻影円卓──『ファントム・タスク』に」

「……えっ?」

 

 

 

 

 

 全てを分かりきったような口振りと共に、ちっせぇ影をとき解いた少女。

 

 呪われたアニメ二期*1を三話切りしなかった方ならご存知の通り、『ファントム・タスク』とはロケット団並にろくでもない非道の限りを尽くすかと思えば別にそうでもなかったりする、割と人間味の溢れた悪のガバガバ秘密結社のことを指すのだが──それは追々の話になるだろう。

 

 とにかく。

 『それ』を自称する時点で頭のおかしな、著しく常軌を逸した思考能力を持つ、あるいは薬物を摂取したか洗脳されていると思われても仕方のない、カルト軍団の総称なのだ。

 

 そして、『入学早々各好感度がマイナスを振り切った逆なろう系』ことマドカ=ウォヴェンスポートは──そいつらを正義と悪の狭間に生きる、ダークヒーロー集団と勘違いしていた。

 

 

 

 

 

「……信じられない、といった顔だな。まぁ無理もないか。だが私は決して、怪しいホモ・サピエンスではないと──あっ、ダッ!!?

 

 

 

 

 

 どんがらがっしゃーん。

 

 ねっとり気味に一歩、また一歩と、マドカは一夏に接近。しかし三歩目で挫いた。

 プロローグでもそうだったが、やけに転ぶのはヒール付き漆黒ブーツが原因だ。解けた長紐を毎回、思い切り踏んでいる。

 

 

「だっ、大丈夫か?」 

「大丈夫だ、問題ない」

「丸出しの海老反りで言われてもな……」

「安心しろ、君に近付いたのは(よこしま)なるハニトラが目的じゃないぞ。例え君が今のようなナチュラルセクハラ発言をしようと、私は一切咎めない。フェアにいこうじゃないか」

「それは本当にすまん」

 

 

 今回は派手に行き過ぎたようだ。

 躓いた拍子に教卓を張り倒し、中の紙類を見事にぶちまけた。織斑千冬大先生に見つかれば、ブチギレだけでは済まない。

 

 

「詫びになるかどうかだけど、一緒に片付けるからさ。ほらいくぞ、せーので上げるから」

「ギブ・アンド・テイクか、良いだろう」

「「せーのっ」」

 

 

 女だけでは、ましてや非力貧弱に部類されるマドカ一人では、この事態収拾に少々手こずるだろう。だがそこに男が加われば、軽々だ。

 

 

「……いやぁ、助かった。やはり君は、私の見込んだ通りの男だな」

「特別なことは何もしてないんだけど……っし、とりあえず片付いた……ん?」

「末永き友好の証さ。この学園における、初めての友へ」

「お、おう……」

 

 

 散らばったプリントの束を揃え、所定の位置に戻し終えると。

 突然マドカは、未だに黒いシルクグローブを纏う右手を差し出した。流石に六時間以上の着用となると、汗水で蒸れていそうである。

 

 恐る恐ると握ると──

 

 

 

 

 

(…………なんか握る力強くなってない?)

「改めて自己紹介しよう。我が名はマドカ=ウォヴェンスポート・ミューゼル。アメリカ代表候補生。これは秘密だが、聖剣に選ばれし漆黒の黒騎士にして序列七番末席のカリバー・セブンスを担っている。間違いなく超能力因子(インパクト・ファクター)を持っている君にはそれはもう伝えたいことがチョモランマのように高くマリアナ海溝のように深く──」

「ちょちょちょちょちょちょ待て待て意味がわからない」

 

 

 

 

 

 想像以上に固かった右手で拘束しながら、マシンガン自分語りを始めた。

 この女は別の世界に住んでいるのだろうか。誰もが「は?」と返すであろう、同じ地球に住む人間とは思えない意味不明な単語の捲し立てに。一夏は一時停止を所望する。

 

 

「ッふふ、つい悪い癖が出てしまったな。だが気にするな、悪いようにはしない」

「……あー、俺は織斑一夏。よろしく──」

「忘れるなよ、私は君を常に()()()()

「へ?」

 

 

 ベラベラと秘密を明かした次は、二本のピースサインを一夏の眼前に。

 監視(ストーカー)宣言とも見て取れる急な方向転換に対しても、男は間抜けな生返事をするしかない。今の今で「悪いようにはしない」と宣った矢先にこれだから、無茶苦茶である。

 

 

「122年前にこの世を去った、フリードリヒ・ニーチェはこう遺した──

 

Und wenn du lange in einen Abgrund blickst,(   汝が深淵覗くその時、   )

blickst der Abgrund auch in dich hinein( 深淵もまた等しく汝を覗く ).

 

 ──とな。私が君を視るのと同じように、私もまた、組織に『視』られているのさ……」

? ? ? ? ? ? ? ? ? ?

 

 

 同じISパイロットからの評判がすこぶる悪い大半の理由を占めるのが、この通訳すら匙を投げる遣り取りにある。

 空想と現実を交ぜた無駄なお喋りのせいで、まともな会話ができないのだ。挨拶を交わしたその時点で、殆どが意思疎通を諦めたという。

 

 

「君は人類の希望になるかもしれない、とても貴重な存在だ」

「希望……?」

「そう。不本意に弱者とカテゴライズされた、強き漢たちのな。この先命を狙われることもなんら不思議ではない……その点、私と手を交わしたことは実に幸運だったな。下心で忍び寄る虫共を見かけたら、師匠に負けじと面倒見の良いこの私が排除してやろう」

 

 

 まぁ、『根はいい奴』なのは確かだろう。

 彼女はISが誕生しようがしまいが2022年に顕著になった『女尊男卑』*2という、サイゼリヤで焚き火したがる偏りまくった思想の影響を全く受けていない。

 代表候補の専用機持ち(マイスター)にしては、余りにも弱くてクッソ上から目線で頭が悪いだけだ。

 

 

「その、今日が初対面なのに、どうして俺にそこまで?」

 

 

 一夏も怪しさMAXの知らない人に着いて行くような、馬鹿丸出しではない。入学前のいざこざで流石に学習した。

 故に、まるで血の繋がった兄妹のような距離の詰め方で妙に馴れ馴れしいマドカに対する疑念が晴れない。

 

 

「君のファン第一号となるため──と言えば聞こえは良い。けれど、建前だとしたら?」

「……それって」

「ハッキリしておくのも今後のためだな。私は君との接触を本国に命令されている。君の適正値と戦闘データが目的だ。私以外の生徒も、()()()()()()()と認識しておくべきだろう──

 

 

 ──さもなくば、いずれこうなる

 

 

「っ!?」

 

 

 ミューゼルが提案した対人関係の矯正法その一、質問には素直に答えるのが筋。故に長ったるい前置きを終えると。

 本音を察した一夏の心臓に、マドカは例の殺生丸(キラー・スミス)を突き付けた。事実と共に。お前これがやりたかっただけだろ、なんて野次を背後から突き刺すべきか。

 

 

「冗談だ。手荒な真似をしたな」

「あっ、あぁ……」

 

 

 マドカも喧嘩を売りに来たわけではない。友達が少ないので仲良くなりたいのが本心だ。

 経年劣化の傷だらけで若干へたれて曲がってすらいる玩具を、レッグポーチに納める。収めようとした。

 

 

「ん、入らんな、この」

 

 

 もたもたするな。

 

 

「よし入った……とまぁ、そういうことだ。何なら、男に化けて君のあらゆる情報を盗もうとする産業スパイが出てくる──なんて与太話も有り得る。用心しておくことだ」

「……でもそれって、入学前の身体検査でバレるもんじゃないのか?」

「鋭いな、確かにそうだ。実は暗殺計画が立った故に保護目的で入学、とかな。それくらいの目的がなければ、学園の門は簡単に通れないだろう」

 

 

 ご丁寧に半年以上の未来まで、物凄いネタバレを口にしている気がする。今更か。

 この辺りのツッコミは揚げ足取りをしたところで「Q.そうはならへんやろ→A.なっとるやろがい」を繰り返すのがオチだ。SF好きの諸君も大人しくハイスピード学園ラブコメの部分を堪能しよう。

 

 

「どうした?」

「……いや。もし女が男になったとしたら、男でも心は女だったら。ISの起動ってできるのかなって……」

「LGBTQQIAAPPO2Sにまで精通しているとは、素晴らしく幅広い視点を持っているな。やるじゃないか」

「なんて?????」

「ただ、量子変換技術を用いた遺伝子の編集が可能なら、誤認という形で理論上は通る。私を引き取った『ドク』はゲノム研究に精通していたから、そういう話もよく小耳に挟んだよ……む、やはり見つからないな。仕方がない、日を改めるか」

 

 

 不審な仕草で、自分の机の中をガサゴソと漁り始めるマドカ。

 が、お目当ての(ブツ)は無かったらしい。

 

 

「遺伝子組み替え食品なら、多少聞いたことがあるだろう? そいつを人間に応用すれば、最近流行りのTS(トランス・セクシャル)が出来上がる訳だ」

「……流行ってるの?」

「昨今のネットノベルのランキングはTSが総なめしていると聞いたが、環境が変わったのか?*3

「俺そういうの読んだことない……」

「何ッ、ならば魔法少女リリカルなのはとか全く知らないということか!?」*4

 

 

 インターネット老人会。

 年齢的には千冬の世代がブッ刺さりだが。

 というかISの同期の魔法少女なら、どちらかと言えばまどマギだとかそれはさておき。こんな昔話をしたところで誰も幸せにはなれない。心にぽっかり空いたまま取り残された、もう存在しない栄光と虚無の表れに過ぎないのだから。

 

 

「強き心を得るために履修しておいて損はないのだが……よし、今度Blu-rayを貸してやろう。Vivid Strikeまであるから少し長いが、見てしまえばあっという間だ」

「……えっと、気が向いたら、頼むよ」

「ふッ。今の君は、少し生き急いでいるような目をしているからな」

「っ」

 

 

 思わず一夏は、目を逸らした。

 前触れなく核心を突くことに関しては、定評があると。それが自慢であるかのように、マドカは薄っぺらい胸を張る。

 人の心に易々と土足で入り込む様は、簡略で『無礼』という。

 

 

「逃げ道が必要なら、私を呼ぶと良い。最強への道は果てしなく長いからな……」

 

 

 逃げ道なんてあるのか。

 今は言葉狩りの如く、否定的な文言が胸に突き刺さった。

 

 重々承知していた。

 『一番弱い』立ち位置に、いることくらい。

 

 知恵も能力も、正規の一万倍率をくぐり抜けた他の全員に大きく劣る。天秤にかければ、吹っ飛ぶのは自分だ。

 けれど、()()()()()を理由に。世間の期待を失望させるような、姉の名誉を汚すような、無様な真似だけはできない。故に、刻一刻が過ぎ去るのがもどかしく、焦っている。

 

 

「『聖剣士(カリバー)は助け合い』、それが私のモットー。時には憎むべき敵同士であろうと、共に空を眺めるくらいの、絶妙な関係で有りたい──」

 

 

 今、自分に必要な『生存戦略』を。

 果たしてマドカ=ウォヴェンスポート・ミューゼルは、熟知しているのだろうか。

 頼ってもいいのだろうかと、一夏は揺れ動いていた。

 

 と、そこに。

 

 

 

 

 

「──そうだろう、()()()()

 隠れてないで出てきたらどうだ」

 

 

 

 

 

 マドカは教室の外から『視』ているであろう、第三者の気配を察知していた。

 のほほんさんに背後を取られ、隙を晒したことを猛省したのか。誰よりも機敏だった。

 

 看破された主も黙っていない。

 このような邂逅を、本来は望んでいなかったが。呼ばれたなりに筋を通すべく、華々しさから程遠い入室を選んだ。

 

 

「やはり君だと思っていたよ。久しぶりだな、セシリィ」

「あなたに用はありません」

 

 

 拒絶の第一声と共に。

 黄金の巻き髪が揺れる。

 真白の肌を覆う茜とは対照の、吊り上がった蒼き双眸が瞬く。

 

 

「私がそんなに恋しかったのか?」

「わたくしの目的はあなたではなく、()です」

 

 

 再度拒絶。顔も合わせず靴を鳴らす。

 

 冷徹。麗美。高潔。高貴。

 その克己的佇まいが、次元の違い、格の違いを物語っている。

 ひと目見た刹那、一夏は視界を奪われた。

 

 

「連れないな、セシリィは。本当は会えなくてちょっぴり寂しかったのだろう、戦いたかったのだろう。決着もまだ──」

()()()()()()()()()。わたくしはあなたに、以前そう言った筈ですが」

 

 

 今のご時世の()()()()を集結させた、正しく『強き女性像』に近い雰囲気を、否。これは威風だ。彼女は醸し出していた。

 けれど男を見下すような、浅はかな傲慢さを感じない。偏見に遥か勝りし強者の纏いが、マドカへの態度に(あらわ)れて。

 

 

「……盗み聞きの件に関しては、この場を借りてお詫び申し上げます──そして初めまして、織斑一夏さん

 

 

 少々不気味なくらい丁寧に。スカートの端を摘んでお辞儀をする様は、まるで。

 童話の世界だけに存在する姫や令嬢を想起させた。

 

 

「……確か、欧州最強のルーキーとか、で」

「流石にご存知でしたか。世界最強と血の繋がりを持つ殿方にお会いできて、光栄で──」

 

 

 ようやく口を開いた一夏にとって。

 マドカとは180度以上違う応対の彼女は。イギリス代表候補生セシリア・オルコットは。

 非現実的な世界へと誘う──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()の……」

「全然違います」

 

 

 ‪‪‪✕‬‬

 教室の温度が1か2くらい下がった。

 

 

「…………」

「…………」

「どうした、セシリィを見て惚れたか?」

黙りなさい穀潰し。……きっと今のは、わたくしの聞き間違いですわね。えぇ、そうですとも。()()()()()()()。こほん……改めて、続けて下さる?」

 

 

 貴族たるもの寛大で、常に優雅であれ。オルコット家の家訓にも刻まれてある。これぞノブリス・オブ・リージュの精神。多分。

 ひとまずセシリアは、百歩譲り自分の耳を疑ってやることにした。

 

 

「…………ッスゥ、あぁ、その」

 

 

 一夏も目を泳がしながら、記憶のネジを巻き直す。間違いなく、ISの勉強の最中で。雑誌かネットで目にしたことがあるのだ。

 彼女が慈悲に恵んだ挽回のチャンスをみすみす見逃すなんて、ただの阿呆。次こそ。

 

 

「……じゃなくて、イ──」

「!」

「──()()

全然違いますわ

 

 

 ✕ ✕‬‬

 惜しい。いや惜しくない。

 ちょっと(メルカトル図法から見て右下に)ズレてるかな……。

 

 せっかくの挽回を無碍にした己の愚鈍っぷりに、頭を抱え始める一夏。

 対してセシリアは両手を机に置いて、青ざめた。絶望している。

 

 

「わ、わたくしを知らないだなんて、いいえ、何かの間違いですわ……120%有り得ない……」

「世界は広い。だが、未知の事態に遭遇するのも、また違った発見があって面白いぞ」

Zip your lips( 口を閉じろ下郎 ).

 

 

 うっかり母国語が出てしまった。

 名誉のために補足しておくが、一応。来日した際にはかなり手厚い歓迎を受けたし、今朝の教室でもジャパニーズ・クラスメイトに囲まれた。そのため知名度には誰にも負けないくらい、自信があったのだ。

 

 少々ナルシズムな考えが許される程度には、彼女の地位と名声は本物である。けれど一夏にとってはどうだ。二回も玉砕した。

 

 

「………… 」

…………

「✝️…………✝️」

 

 

 なんとか言え。

 あとカメラ目線やめろ、マドカ。

 

 因みに揺れの特殊タグで存在を主張している真ん中がセシリア。イギリス代表候補生にして、入試主席のエリート中のエリートの、セシリアである。

 

 

「……っ、い、一応、共和国では、ありませんのよ?」

 

 

 ほら回答権が三本も入った。

 さて、これがラストチャンスか。

 現実を認めたくないあまりに。彼女はここにきて、最大のヒントを提示する。

 

 

……連邦、なわけないもんな。じゃあ王国か……?

……はぁぁぁぁっ…………ッッ

 

 

 が、これ以上は時間の無駄か。

 嗚呼、認めたくない。亡者の山に降り立つ龍の腐食化ブレスの如きクソデカ溜め息を吐いて、決着をつけるなんて。

 この茶番がミリオネアであれば、全てのライフラインを使い果たしてもなおヒントを乞食する状態と同じだ。

 

 

「……ユナイテッド」

「──思い、出した!

「!!!」

 

 

 最後はほぼ答えを言っているようなものだが、ようやく。

 点と点が全て繋がり、指を鳴らしたその確信的様相を見て。無茶苦茶嫌々ながら誘導を促したセシリアは、「勝った」と激情を抱く。

 

 

「……ッフフ。やったな、セシリィ」

「…………ふん」

 

 

やりましたわ。投稿者:英才エリートお嬢様

今日4月2日、お夕日が沈みゆくIS学園校舎にて、世界初の男性IS操縦者(織斑一夏さん)と、先日わたくしにスパムメールをくれたこの世で最も忌むべきアメリカ予備代表候補生と、このわたくしイギリス代表候補生を務めるセシリア・オルコットの三人で、己の『格』を見せつけ合いましたの。申し訳ありませんが、今回も勝たせて頂きましたわ。少しばかり苦戦はしたものの、わたくしの敵ではなかった、ということです。やはり最強のルーキーとして君臨し、いずれブリュンヒルデとなるべきわたくしを知らぬ者など存在しない。あってはならない。

今を羽ばたく者として下々に施すは、パーフェクト・ハーモニー。つまり圧倒的完全調和。『100』などと誰かが勝手に決めた上限を意図も容易く超えてゆく完璧な美貌と完璧な格の違い、そして完璧な振る舞いを見せつけては初見で「Oh(おっふ)……」と言わせしめ、二言目に「あの!?(皆様ご存知)」と続けさせるのが専売特許。まさにお伝家の宝刀(エクスカリバー)でしてよ。──と。

 

 尖った容姿に反して、中身が結構ユルユルだった。しかも『勝ち』にこだわり過ぎて随分とハードルが低い。判定も謎。

 

 

「そうと決まれば、あなたが今思い浮かべたその国の名を。わたくしに聞かせてくださる? さぁ勿体ぶらずに」

 

 

 今、湧き立つ心の中では。

 後光が差し込んで薔薇の花弁が舞い、本人も令嬢らしからぬはしたないガッツポーズを掲げている。英雄の証も流れてる。

 急かされた一夏もはっきり頷いて、人差し指に明瞭を添えて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()──

馬鹿にしてますの?

馬鹿にしてますの?

馬鹿にしてますの?

「すみませんでした」

 

 

 ✕ ✕ ✕‬‬

 スリーアウト。あなたの負けです。

 

 

 半ギレどころか全ギレ。とうとう逆鱗に触れてしまった。というか最後はもはや欧州ですらない。欧米か(激寒ギャグ)。

 仏ならぬ、女神の顔も三度までと。芸人のような連続ボケめいたミステイクは、神経を逆撫でるだけだ。

 

 

「私の出番か。セシリィの所属はイギ──」

「わたくしの所属はユナイテッド・キングダム、つまりは()()()()代表候補生。そのことをどうか、肝に銘じてお忘れなく

「あっ、はい…………」

「良・い・で・す・わ・ね?」

 

 

 屈辱を味わったセシリアは。

 あくまでその麗美を崩さぬまま、無知なる男に詰め寄って釘を刺す。青筋ならぬ赤筋を立てた笑顔なので、余計に怖い。

 

 

「あっ、みなさんまだ教室にいたんですね」

 

 

 と、そこに割って入る自動ドア開閉の音。

 振り向くと二人の影。山田真耶と織斑千冬の教師陣だった。

 

 

「少し心配していましたが、三人とももうすっかり仲良くなったようで──」

「それはないですわね」

「えぇ!?」

「あぁ、違いない」

「織斑先生まで!?」

 

 

 しかし、ものの数秒で。二声目が出落ち。

 

 

「……それより、先生方が来られたということは、何かご用件でも?」

「そ、そうでしたっ。この度織斑くんの寮生活が決定したので、ルームキーの手続きをしようと思いまして……」

「荷物は私が手配している。必要そうなものは()()()()()突っ込んでおいたから、困ることはない」

「あ、うん、どうも、千冬姉……」

「すぐに終わりますので、少しだけ織斑くんを借りますね」

 

 

 一夏を手招くと、山田先生は業務用のスマホに入力を始める。

 諸々の支払いや入室は全てIC化した生徒証に紐付けされており、殆どの施設はタッチしてやれば通る仕組みとなっている。噂ではamiiboを誤って上書きして死ぬほど怒られた馬鹿がいたとか。

 

 

「そうです、ここに生徒証のIDを入力して……はいっ、これで完了です!」

「ありがとうございます。『1025』か……」

「でしたらわたくしはこの辺りで、失礼させて頂きますわ。もうすぐお稽古の時間ですので」

「……け、稽古?」

 

 

 確かに、気が付けば一時間経過していた。そろそろ暗くなる頃合いだろう。

 各自解散の時間だが、セシリアはまだやることがあるらしい。そもそも、入学初日から容赦無い過密なスケジュールの合間を縫って、わざわざ一夏に会いに来たのだ。流石は代表候補生のエリート、か。

 

 

「また後日、お話し致しましょう」

「どうやら御開きのようだな。そうだ、織斑一夏。帰りにこの私とちょっとした校内探索でもしないか。武勇伝を聞かせながら──」

「み、道草食べちゃダメですからねっ!」

「山田先生の言うとおりだ。図に乗るなよ、ウォヴェンスポート」

 

 

 食べる道草なんて、校舎から寮の推定50弱メートルまで自生していないのだが、マドカが隣なら話は別だ。しかも千冬に引き止められた。強制的に。

 首根っこを掴まれたまっくろくろすけは、実は体重が40を超えた試しがない。いとも簡単に力のまま、引き寄せられる。

 

 そうして千冬が耳打ちしたのは──

 

 

「私の弟にくだらんことを吹き込んでみろ、もう一度地獄に叩き落としてやる

「?」

 

 

 ──並大抵の人間なら、国家代表すら気絶するであろうドス赤黒い忠告だった。

 しかし残念ながら、マドカ本人があまり事の重大さを理解していないようで。とぼけた顔でいる。

 

 教師二人に続いて、セシリアも教室から出ようとしていた。が、そこは漆黒の黒騎士だ。隙あらばしぶとくしつこくアプローチしていく。

 

 

「……しかし今日から特訓とは、相変わらずストイックだなセシリィ。どうだ、今夜暇なら気休めに一杯──」

「あなたとわたくしが親しく馴れ合うなんて、200%有り得ない」

 

 

 ノーサンキュー。

 それだけ吐き捨てると、去ってしまった。

 まさに、追い討ち。玉突き事故。尋常じゃないマドカの憎まれようは、一体何なのか。

 

 

「……ひょっとして、嫌われてるのか……?」

「ふっ、どうだかな。だが、例え嫌われていたとしても、だ……

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 けれど。

 一つだけ、世の理よりも確かなことがある。

 

 それは、どんなに罵倒されようと威圧されようと、平然としていられるこのウルツァイト窒化ホウ素*5並みのメンタルがなければ。

 マドカのように最弱を掲げて全世界で生き恥を晒しながら、代表候補生面なんて()()()できない。ということだ。

 

 彼女は常に、全く動じない。

 セシリアとはまた違った自信に満ちた彼女は、実は凄い奴なんじゃないかと。一夏がマドカの潜在能力を疑ったところで。

 波乱の初日が、邪険な終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 なお。

 1025室の住人は、一夏だけではない。

 最後に「一夏と同室」という破格の人権を得た篠ノ之箒と、もうひと騒ぎあったと。締めとして追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.INFINITE STRATOS ACADEMY.

 

(ほん)(らい)()()ない(だん)(せい)IS(てき)(せい)(はっ)(かく)したら、

それは(きょう)(せい)(にゅう)(がく)への(かた)(みち)(きっ)()

 

もう(あと)(もど)りはできない

 

To Be Continued ... 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


次回予告


 

 

 

マドカ

待たせたな。さぁ遂に始まったぞ、『我が名は†漆黒の黒騎士†』!

 

???

それ旧タイトルですけどね。実質投稿三回目ですし、路線変更も──

 

マドカ

んッ、誰だ!? ……気のせいか、まぁいい。次は満を持して、我が師匠が登場するぞ! なにっ、恋人もいるだと? つまり姉上が増えるということか!

 

???

何故彼女が『ダリル・ケイシー』と名乗らないのか……それも明らかになるでしょう。多分。

 

 

 

 

 

次回 Infinite Stratos Fun Fiction

元・生徒会長(レイン・ミューゼル)は"元"・『厨二病(✝︎カリバー✝︎)

 

須らく見るがいい!

 

 

 

 

.

*1
余談:総じて悪評の多い二期の内容が絡んだ途端、物凄く中途半端な打ち切りになる死の呪いが存在する。七巻を区切りに出版元を変更してエタった原作やアニメは無論、五巻に相当する文化祭で急に雑になり凄惨なヤケクソ投げ槍エンドを迎えたサンデーGX版が顕著。さながら交響曲第9番である

*2
皮肉にも原作者の時代考証が大成功した一例

*3
@hameln_tukuru「TSはいいぞ……」

*4
もしかして:にじファン(2012年7月20日に消滅した、いわばハーメルンの前身に当たる罪深き旧地。あの世。つまりにじファン閉鎖は白騎士事件が原因だった……?)

*5
地球上で最も硬い物質。ダイヤモンド以上




織斑一夏
零和の人類がドンブラ粉をキメようとした矢先に出現した我らが主人公。合法体罰を目撃して開いた口が塞がらない。曇りそう

織斑千冬
もう曇ってない?
"織斑"家繋がりで『マドカ』とは因縁のある世界最強の究極人類。詳しくは12巻を買ってください!
同じ名前をした同じ顔の女を見た瞬間に情緒がめちゃくちゃになって「えぇ……」と思って腹いせに殺そうとしたんですけれど(誇張表現)。コナーを躊躇なく射殺するハンクくらい敵意が限界突破している

マドカ=ウォヴェンスポート・ミューゼル
初日から不審者認定を受け教師の頭を悩ませたピカピカの厄介クソボケ一年生。自分を超人気者と勘違いしている精神異常者

セシリィセシリア・オルコット
三年近くマドカに付き纏われている可哀想な人
因みにストレスが溜まり過ぎた結果、連続稼働時間が原作の200%くらい多い

スコール・ミューゼル
ただのおばさん
不具合でマドカのママになった


舞台設定
Q, この世界どうなってんの?
A, 織斑千冬が第二回モンド・グロッソを棄権せず二連覇してしまった世界線。親の顔より見た一夏が亡国機業に拉致されて腹筋ボコボコにパンチ食らってついでに半殺しにされる「織斑家崩壊闇堕ちif」でよくあるやつ
もうめちゃくちゃに各国代表の姉ちゃんに辛酸を舐めさせ合い、クソ環境と言わしめ、二回も零落白夜を出した。もう一度やりたいぜ。そのため一夏くんに対するプレッシャーが上方修正されています。誘拐事件はきちんと起きているので安心!

因みに本来不戦勝で二代目ブリュンヒルデになる筈だった真の人類最強ことイタリア代表アリーシャさんは、千冬にボコられて負けました。その後千冬がプレミアム殿堂入り(引退)したことにより夢物語が終わったので、彼女も後追いで引退してます


実は近々転勤で引っ越す予定で(ただし転勤先はまだ知らされていない)、散らかり放題から同人野郎らしい部屋作りとかしてみたいと思う次第です。目的と手段が逆になったインフルエンサーモドキみたいな部屋に住みたい……

次回の連日投稿は来週になりますが、その次辺りで既存の旧話を全て削除する予定となっております。そうなれば脱皮完了ですね

変わらず20時22分投稿となります
それでは次回第二話を、お楽しみにください

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