我が名はマドカ。聖剣に選ばれし✝︎漆黒の黒騎士✝︎ 作:めど
皆様のおかげです、応援ありがとうございます……!
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『ちょっとお待ちなさいッ!!
何ですのコレはッ!!?!?』
ハイスピード学園厨二病バトルコメディ
ここに始動!
4月3日。日曜。
例年より少しだけ余暇を与えられた新入生徒諸君は、外出するも良し、上級生に挨拶回りするも良し、校内を巡るのも良し。それぞれの休日を……の、前に。
その後のマドカがどうなったか、少し時間を巻き戻して覗いてみよう。
「
4月2日土曜。
午後、23時。
「──よし、とりあえずこんなものか」
一夏の特例措置以前に部屋指定があったにも関わらず、そいつは自ら隔離を申し出たと言わんばかりに。
「うむ。ここなら朝の修練場も近い。人の通りも比較的少ないし、巧く利用できそうだ。我ながら上出来な位置取りだな」
四桁の番号が貼られた部屋、ではなく。
巫山戯た新拠点は木々並ぶ芝の上。土足で踏み入り鉄杭を打ち。
この時点で門限破りと資産損壊を含めた多重校則違反に該当するのだが、ひと仕事やり切ったと額を拭う。
「後は高台なんかを作れば……いや、いっそワイヤーで吊って樹上式にするのもアリか」
童心を忘れない厨二病らしく、彼女はMinecraftを開けば真っ先にツリーハウスを作りたがるタイプだ。木材に執着したがる。
今の気分は、さながら。
「名付けて、『牡猫ムルの人生観』……フッ、ちょっと派手すぎるかな?」
見付かれば粛清。想像なんて容易い。どこまでバレずにやり過ごせるか。
ミューゼルが軍役時代の着想を得て開発した、『携帯式光学迷彩ドームテント』を。
矮小の業人マドカ=ウォヴェンスポートは、他の誰の許可もなく。勝手に設置していた。
と、ここまでが昨日の出来事。
それから暫く、マドカの幻魔界活動限界である『
午前9時を迎えても、一年寮にマドカの姿はない。今頃、ラジオ体操代わりにドンブラダンスでも踊って──
「みんなぁぁぁぁ!!
おっはよおおおお!!」!!!
『うるせぇ!!』
うるせぇ!! ──失礼。
真っ赤なカチューシャがよく似合う、自称ウザキャラ。第九巻で挿絵まで貰った優遇ネームドモブの一人こと、
「ふわぁぁぁぁ……のほほんさんはまだねむねむなんだよぉ〜」
「ごめん本音……勲章集め全然終わらなくて……」
──私、岸原理子! 青春真っ只中の、ぴちぴちぴっちの15歳!
昨日から世界一と名高い名門校『IS学園』の生徒になったんだけど、私の担任はなんとなんと! あの伝説の『ブリュンヒルデ』こと織斑千冬様!
しかも千冬様の弟の一夏くんもクラスメイトになったし、これって運命で結ばれてる……って、コト!?
今日もいい天気だし、朝からお通じバリバリだし、気分はウルトラハッピー── 「ぶえっ!!?」
「おっと」
まるでプリキュアの主人公のような自分語りから疾走を止めなかった岸原だが、階段近くで強制終了。
案の定、出会い頭による衝突事故だ。
「いったぁ〜い……あぁ、メガネが……」
古典的の極みたる3の字と化した目で、地面をまさぐる様はこのご時世。ヤバい奴にしか見えない。
スカートの中を覗き込まれたと勘違いして、通りがかった生徒がみな悲鳴を上げている。
「──悪い、オレの不注意だ。怪我ないか?」
「わ、私もつい舞い上がっちゃって……」
「こいつだろ。大事なもんは」
過失なき10:0被害者から差し出された、衝撃一つで折れそうなか細いフレーム。
岸原の眼鏡で間違いない。吹っ飛ばされたにも関わらず、奇跡的に無傷だ。
「おぉ、み、見える。見えるぞッ……! どうもありがとう──えっ」
「良かった、壊れてないようで。じゃ、楽しい
刹那、時が止まった。奪われた。
去りゆく親切の後ろ姿。その正体を目に焼き付けて。岸原は思わず、その場でへたれ込んだ。メスの顔になった。
「どったのリコリン、腰抜かして。ひょっとして漏らした?」
「ちがわいっ!」
「どうだか」
最後の通りすがりにして埼玉出身のお友達、
日常茶飯事なのか、応対はドライなもので。慣れた扱いだ。
「そんなことより聞いてよ聞いてよバルクホルンちゃん。今さっき廊下の角で超絶イケメンさんとうっかりバッタリ会ったんだよね。そしたら誰だったと思う? あのレイン様だったんだよっ!! 目と目が合った瞬間に堕ちた、完全に私はフォーリン・ラヴしちゃった……これはもう告白しに行くしか──」
「いやバルクホルンじゃないし。私、谷本癒子さんだし*5。というか、あの人はやめといた方が良いよ」
谷本が指す方向には、先ほどの彼女が。しかし、すぐに視界から消えた。何処からか湧き出た無数の外野共が被さって、見えないのだ。
そうして一分もしないうちに、人混みが激増。はっきり言ってクッソ邪魔。
客寄せサーバルキャットの比にならないほどの、完全包囲された状況が出来上がった。
『レイン様、私を彼女にしてくださいっ!』
「恋人がいようと関係ないです!」
「(あなたと会うまで)ずっと耐えてたんですよ。そしたらだんだん、気持ち良くなっちゃって……」
「Hな看護してください!」
「愛をください!」
「喋りたい……(切実)」
求婚めいた愛の告白が殺到する。
直立の人間すら圧殺しかねない怒涛の様は、まるで血肉を食らい尽くそうとする
「……オレもう相手いるからさ。恋人は一人って決めてんだ。ごめんな」
「ほらね」
けれど彼女は、節度と理性を弁えていた。同時に谷本の証明が完了した。
同性婚が世界的に認められた昨今、ホモだろうがレズだろうが珍しくも何ともない。が、流石に。99人も恋人を作ったどこぞのオランダ代表候補生のような度胸を、彼女は持ち合わせていなかった。それだけの話だ。
「……終わった。私の初恋。ゆっこ、慰めて」
「嫌です……」
「どうじでぞんなごどいうおおおおお」
「てか昨日織斑くんが初恋って言ってたじゃん……そっちにしなよ……」
「だっでじのののざんどでぎでるっでぎいだもおおおおん」
倒れたまま喚き散らす猿の人形のように駄々をこねるも、時は遅い。
誰宛の紙袋を背負った彼女を、岸原は。秒で振られた有象無象と共に、黙って見送るしかなかった。
──が。
突如、彼女は振り向いた。
「──あぁ、そういや誰でも良いんだが」
『はい!!』
「ハイ!!!」
「いや返事すんのかい」
そりゃ応えるに決まってる。逆に問うが、応えない理由が存在するのか。とでも言いたげだ。
しかし、その次の言の葉で。
一同は現実から背いた絶望の眼差しに豹変し、粛々と解散する運びとなる。
「マドカ=ウォヴェンスポート・ミューゼルっつー、イキった髪したこんくらいのチビ。あいつオレの
彼女の名はレイン・ミューゼル。3年1組。
『
緊急有事の際は自由戦闘権限を一任された、『
付け加えると元・学園最強。
すなわち元・『生徒会長』。
ミューゼル・マテリアルに所属する彼女だが、専用機持ちでありながらまともに試合で勝てた試しがない。
そのせいで『ミューゼルの面汚し』『能天気の子』『最弱全敗の馬鹿無能』『自分を代表候補生と思い込んでいる精神異常者』『モンドグロッソ忖度部門王者』『Tier467』『はずれ』等、
刃牙ハウスを建設できるくらいの蔑称を保有している。
日曜の絶妙な活動時刻といえば、午前10時。例の見逃し配信にわざわざ合わせて。*6
ミューゼル・エディションと銘打った案件用ワイヤレスイヤホン、更に同じく、案件用投影モバイルモニターと。無駄に金の掛かった構えで
確かにやる気だけは満々だが、脳内に校則の概念が存在しない破茶滅茶野郎である。
そうでなければ、専用機持ちのくせに誰よりも抜きん出た惨敗記録保持者になる筈もない。セシリアとは真逆のIS人生を歩んでいる。
公式戦、たったの三勝。
その尽くの敗因は『自爆』。
非専用機持ちの量産機にすら勝てない、見るも無惨な操縦技能と。
マイスター・ライセンスの修得及び維持条件は何故か企業並びに政府承認の特例が適応され、未達成事項を悉く素通り。
全てが謎に包まれたその生態系を調査する者は後を絶たないが、一切の報告が表に上がって来ない。
これは前代未聞の有り得ないことで、アラスカ条約加盟国の間でも由々しき問題として取り上げられた。
そのヤバさを例えるなら、有権者の面白半分で政治家に成り上がったものの、一度も国会に出席しないまま何の実績も残さず満期を迎えた詐欺師の如き国家反逆行為に相当する。
何時殺されてもおかしくない状況下で、今に至るまで。
身の程を理解していないマドカ本人が御体満足で生きてこれたのは、正直奇跡に等しい。これもまた、誰よりも抜きん出た悪運であろう。
「──よう、チビスケ」
そして自分の世界に入り込んでいるので、背後から誰が来ようと全く気付かない。気付こうとしない。
未だにソーラン節よろしく腰を深く落とし、右腕で波打っている。
「…………終わったか。おい、気付け」
そうして腕をぶん回した後に、ロックンローラーの如く天高く指を掲げ。
ぴたりと静止したところで、声の主は一連の終わりを察した。物理的接触を決断し、イヤホンを引っぺがす。
「──何奴だ!! ッ、師匠!? どうして此処が!」
「変な奴が公園で踊ってるって苦情聞いたらお前しかいないだろ」
『苦情を授かりし反英雄』ことマドカ=ウォヴェンスポートの師匠。
そんな世界一のお人好しは、同じくミューゼルに所属するレイン・ミューゼルただ一人。
彼女もまた、マドカとは真逆の人間であった。……というかマイスターに至る九割のISプレイヤーは、マドカとは真逆だ。
「てか、なんつー格好してんだお前は」
「鍛錬用の正装、と言って頂きたい」
「小学四年の裁縫箱みたいなコレが?」
べっこう色のサングラスに、過激な刺繍が施されたドンキに売ってそうな黒のジャージ。
背中には『天上天下唯我独尊』と、不遜傲慢な文字に囲まれた黄金の龍が躍っている。不良高校の卒業式に持っていけばウケるかも。……で、右手の黒いシルクグローブは外せないらしい。
服飾ブランドも経営するミューゼルにあるまじき、その論外激ダサファッションに対してはもちろん。貶しが入った。が、例えは言い得て妙。
きっと誰しもが、通り得る道だ。
ドラゴンやらペガサスが印刷されたエプロンとかリュックとか彫刻刀の箱とか、ちょっと厨二病だった時期の皆さんも経験したに違いない。後日「普通のを選べば良かったのに」と、お母さんに小言で殴られるのがセットである。
まぁ、それはそれとして。
「……にしても、ちったぁ背伸びたのかよ?」
「あれから0.5cmほど加算されたぞ」
「それアホ毛が伸びたとかじゃないよな」
いつものように、わしゃわしゃと大雑把に撫でてやる。
二人の対面する頻度は、レインの入学から年4、5回程度に激減していた。故にそれなり久しい再会であったが、マドカの身長はやはり変わっていない。出会った時から、ずっと小さかった気がする。
「あぁ、そうだ……ほらこれ。昨日違うやつ着てきただろ」
「む、これは…………!!」
要件その一として、レインはマドカへ紙袋を手渡した。
どうやら先ほどのアレは、こいつ宛のものだったらしい。
「ミス・ブリュンヒルデにオーダーされた純白の生地、それに漆黒の外套まで……満場一致の完璧な正装じゃないか!」
「お前が昨日持ってったやつ、叔母さんとこで作った採寸用らしい。そっちが正解だとさ」
「何ッ、つまりサンプルだったのか?」
中に入っていたのは。
白を基調としながら黒の大襟を際立たせた、その上真っ赤なラインを添えた国宝級のエレメント。『これ以上のデザインは未だ存在しない』と嫌味たらしく言わしめた、本来の歴史ある由緒正しき、IS学園制服そのものだった。おまけでパーソナルカラーのベスト付き。
これで不審に及ばなければ、文句無しに構内を堂々闊歩出来るであろう。寧ろこれが無ければ、教室出禁ですらあった。
「黒い方はどうする? 要らないならオレから渡して──」
「……いや、アレは記念に貰っておこう。お気に入りなんだ」
そっちはどう考えても処分した方がいいと思うが、制服の問題はひとまず解決された。
「お返しと言ってはなんだが……どうだ、師匠も一杯」
「ん? ……あぁ、これコーヒーの臭いか。気が利くじゃ…… !!!???」
おもむろにマドカは。火にかけた漆黒ケトルから注がれた、お子様舌が到底飲めない目覚めの漆黒を手渡す。が。
それらは本来、『この場』に持ち込んではならない類であった。
考えてみればこいつ、ゴリゴリに芝の上で木に火ィ点けて燃やしてんじゃねーか。
「なッ、ま、まさか毒でも!?」
「ちげーわ!! 何やってんだお前!!?」
「? 朝の一杯を温めていただけだが。何か問題でも?」
「いやダメに決まってんだろココどこだと思ってんだバカじゃねぇのか!?」
すんでのところで正気に戻ったレイン。
勿体ない真似だが、ぶんどったケトル諸共。黒い液体を火のもとへ叩きつけた。
じゅわあああー、と。もはや心地良さすらある蒸気の立ちこもり、及び蒸発の炸裂音だ。欧州式の焚き火スタイルコーヒーは、こうして呆気なく露と消えた。
因みにこの公園区画は原則、火器使用厳禁である。ISの使用なんてもっての論外で、看板までブッ刺さっている程。
「…………あー」
「師匠?」
と、いうことは。
快晴に渡る雲の流れよりも、目の前に広がる湖畔の流れよりも、ごく自然な。かつて『掟は破るためにある』と胸を張ったマドカから導き出された、ただ一つの事実が頭を過る。悪寒が走った。
「……お前、昨日どこで寝た?」
誰よりもこいつの奇行蛮行を目の当たりにしてきたレインは、何となく察していた。
出来れば今後も末永く、的中して欲しくない予感である。
いやしかし、マドカはこう見えて立派な高校生。飛び級だが。
まさか未だにそんな馬鹿げたことをしでかそうなんて、流石に無いだろうと。もう卒業したよなと、一抹の希望的観測に縋ろうとする自分もいる。頼むから何もするなと──
「何処って、あそこのテントで一睡したが?」
「……は?」
──当然、そんな浅はかな希望は叶うわけもなく。
それまで見えていなかったテントが、マドカの指パッチンで
「おま、部屋は……えっ、は? なんで?」
「? この学園の内情を調べ尽くすなら、却って不便でしょう?」
「っ〜〜──……後でブリュンヒルデにシバき倒されても知らねーからな……」
何故部屋が用意されているのに敢えて野宿しようと思ったのか。何故
一瞬でも期待した自分がクソバカだったと、レインは眉間を摘んだ。
イカれた行動を起こさないよう、また面倒を見る羽目になったと。残酷に確定した瞬間でもあった。
……残り一年しかないが、ミューゼルの未来のためだ。叔母さんも困ってるだろうし。
義姉として、お目付け役をやるしかない。
「……よく聞けよ。こんなこと言いたくねーんだけどな。お前は昨日から、寮で決まった部屋で寝泊まりする筈だったんだよ。つまりテントは禁止。野宿はするな。分かったか?」
「ッ!?!?!?」
「何をそんなに驚いてんだよ」
「私には潜入捜査とデータ収集の任務が……」
「んなもん中でやりゃ良いだろ……」
ぶっちゃけ社内の人間はマドカの成果をアテにしていないし、弾除け以上の働きをしてくれる奴なんてそこらに腐るほどいる。
新型専用機のプロトタイプに載せるだけの、ただひたすらに出来の悪い生体CPUとして利用されているだけだ。一切の責任を問わない人体実験として、たまたま都合のいい部品があっただけの話。それでもおかしな話である。
剥奪支持派も多数いる中で、何故性懲りも無く『IS学園入学』というチャンスを与えられたのか。
「とりあえず、全部片付けるぞ」
「まぁ、師匠がそういうなら……」
「オレじゃなかったらどうするつもりだったんだよ」
実のところ、後には退けないような。
『家畜に情が湧いてくる』のと似たような、呪いめいた知らぬ間の依怙贔屓があるのかもしれない。或いは。
「……ったく。手塩にかけたら溶けるような義妹を持つと、義姉は苦労するもんだ」
「私はナメクジじゃないぞ」
「クソザコナメクジ呼ばわりされてんのは事実じゃねーか。……ゴミ袋あるか?」
「無論だ、私を誰だと思っている?」
「バカ」
真実は深き闇の中だ。
比較的上流の家庭に育ち、愛され、しがらみなく。不自由ない生活を送ってきた。……けれどこうして、事実陳列の軽口を投げる『レイン・ミューゼル』ですら。
貴重なISコアの資格者にマドカが選ばれた、本当の理由を知らない。
「ほんっと、朝から何やってんだろーな。今日はちゃんと寮に帰れよ」
「善処しよう」
たった半日足らずで、テントも解体されて。
残ったのはどうしようもない焼け跡と、信用が虚無の辺獄まで落ちた応答。
「──って、今日はこんなコトしに来たわけじゃねーんだ。ほら、これ捨てたらとっとと行くぞ」
「む、師匠
「ちげーよ」
先からずっと、ボケとツッコミの洪水が巻き起こっている。
常人ならとっくに酸欠となるところだが、特別な訓練を施されたレインからすればまだ序の口。朝飯前。話を続ける。
「お前、まだ学園の中身全然知らないだろ。叔母さんの頼みでな、このレイン様が直々に案内してやるって話」
「そ、それはつまり……共同任務と? そうか、私の単独行動が縛られるのも合点がいく……そうだったのか……遂に師匠と!」
「ついでにオレのツレとか、紹介してや──」
『レイン様っ!!!』
「げっ」
そうして独り言を受け流した矢先に、これだ。
冒頭とはまた違う求愛集団が、レインの居場所を嗅ぎ付けて大量発生した。
「卍レイン親衛隊卍」と書かれた変な鉢巻巻いてる奴とか、コンプリートフォーム21みたいにブロマイドを大量に貼り付けたクソダサマント女とか、ヤバいのが混じっている。
「モンスターハウスだッッッ!!!」
「お前マジで黙ってろ」
「こんな休みの日までゴミ拾いだなんて……」
「学園がいつも綺麗なのは、レイン様のお陰だったんですね……!」
「全生徒の鑑……」
「恋煩いしちゃうよぉ?」
「(課外貢献度が)太過ぎ……!!」
「あぁ(一見粗暴そうでそうない姉御肌×超マジメ優等生のギャップに)おっぱい感じちゃう……」
「先輩、好きっす!!」
しかも不始末を処分しただけで、たまたまゴミ袋を担いでいただけで。盛大な勘違いを受けている。
何故かこいつらは、勝手に感極まってレインへの好感度を爆上げしていた。基本的にIS学園の生徒は物凄く頭が良いのだが、推しを目の前にすると知能が著しく低下する傾向がある。
旬を過ぎたナーロッパ諸国民のモブに負けじと劣らない。
「…………ん」
「?」
「"とにかく逃げるぞ。二手に別れっから、お前は建物が見えるまでひたすら真っ直ぐ走れ"」
「"ふっ、承知した"」
こうなれば出番となるのが、久々のアレ。
未確認超越生命体共に鼻で笑われるような、意味不明なハンドサインによる二人だけの意思疎通だ。
「"よし、行け"」
「スゥぅ……──ふははははは!! さぁ来るがいい
「まぁお前んトコには誰も行かねーけどな……じゃ、そういうことで。Bye」
『コ゜ッ゜ッ゜!゜!゜(絶命)』
『ウ゜ッ゜!!??!? ……あぁぁ、待ってレイン様〜!!』
どうせいあいしゃのうさつウインク
ぶんるい:とくしゅ
タイプ:.ほのお.
むこうに ならず かならず あたる。
あいては 「メロメロ」の じょうたいに なる。
さらに 1/2の かくりつで ひんしに なる。 クソ技。
うまく にげきれた。 ▼
内半数、一撃必殺判定で吐血による失神。が、もう半分は耐えた。
当然こいつらはマドカなど最初から眼中にないので、群れバトルの回避はレインの撒き次第となる。
本当に誰一人としてマドカを追いかけようとしないので、エンカウントすら不成立だ。まるで常時むしよけスプレー状態。哀れな道化。
「……ふん、我が瞬足に臆したか。それとも少し、本気を出し過ぎてしまったか──む、アレが師匠の指す『建物』……ISアリーナか」
数分後。
文字通り愚直な直線に進んだマドカは、アリーナに突き当たる。あろうことか、本当に人間外れのスピードで公園を駆け抜けてしまった。
実に数百メートルの距離を自転車以上自動車以下の速度でぶっ飛ばしたマドカであったが、その秘密は『靴』にあった。
「しかしまぁ、この『
かつてガキ共の陸王として平成の世に流布した『速く走れるヤツ』*7を大改造した、ローラーシューズを履いていたのだ。
無論、学園の規則には『指定された場所・通路以外でのローラー、スケート、車両、IS等に類するものの移動手段の利用を禁ずる。』と記載されている。
これで校則違反が『制服』と門限無視火器使用資産損壊込みの『野宿』とプロローグの『学園領空圏内におけるIS無断展開』を含めて、何度目であろうか。
「さて、今のうちにフォームチェンジと参るか……とうッ!」
重なりし罪科の業は。
よく厳しめを自称した揚げ足取りに選ばれるであろう、ISで人をぶん殴る傷害行為や国辱*8一発分に匹敵する。
影に隠れた自覚なきマドカは、全てのガラクタを収納したトランクを置き。ノミの如き跳躍を経て──
「は゛ぁ゛っ……はぁ、“
「師匠、待っていたぞ」
──またしばらくすると。
肩で悪態を吐きながら、レインが到着。至るところに枝やら葉やら被った様相から、あの区画の中で激走を繰り広げたことが窺い知れる。
「んでお前……いつの間に着替えたのか……」
「早着替えは私の108個ある得意技の一つ。もうお忘れですか?」
レインの言う通り、さっきの芋ダサジャージから一転。
指抜きグローブ、革ジャン、チェッカー柄スカート、ロングブーツの格好付けフルセットを揃えていた。……右手だけは変わらず、黒のシルクグローブを着けている。
その上で憎たらしいドヤ顔と共に腕を組んだ、マドカのお着替えタイムはわずか0.05秒に過ぎない。では、癒着プロセスをもう一度見てみよう……なんてやってる場合ではなかった。
「……まぁいいや。今度こそ行くぞ、時間押してるしな」
規模は計六つある中で最大。実技試験にも採用されたドーム状の新・第一競技場を尻目に、やっとのスタートを切ろうとしていた。
これから汚名を払拭する常識人として、レインはマドカを先導しなければならない。
「にしても光栄ですよ。まさか『
「何をそんな大袈裟に────」
だが、そんな彼女にも秘密があった。
「────おい」
「何でしょう?
「テメェ今何つったよ?」
人には、知られたくない過去がある。
人には、忘れられない秘匿がある。
そして人には、決して明かしてはならない黒歴史がある。
レイン・ミューゼル。
3年1組、元・生徒会長。
2023年予定の三回モンド・グロッソ参戦に王手を掛けた、アメリカ代表候補生。そしてマドカ・ウォヴェンスポートの剣術指南役。
またの名を『
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