あなたが選ぶ競争馬の道   作:6LD

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順調に書けたので早め投稿

7/25新潟1800(!!!!) 117
10/2阪神1800(!!) 72
11/28東京2000(!) 22
12/25中山2000(!!) 9

早めの時期の方が人気がありますね
波乱の方が好きなのか早めの方が有利やろ派が多いのかはてさて

新潟が選ばれたので本来想定されていた今話の内容に変化があり、今話でも同じ内容のアンケートがあります
詳しくは本文と後書きをどうぞ


イベント:サイレントロードという馬

「……ふぅ」

 

駒場に新馬戦の相談を持ち掛けた池尾はそれが決定したところで電話を切り、そして自然と溜息を零した。

 

 

 

サイレントロード号の調教の遅れ。

癖のある馬は何頭も見てきたが、担当予定厩務員からの報告には流石に困惑した。これは想定外である。

何かアドバイスを求められ、咄嗟に出てきた言葉が「一度いい騎手を回す」だった自分にもむかっ腹。

これを馬のせい、としているようではプロとは言えない。馬によってその能力性格に差はあれど、それをきちんと走るようにするのが仕事なのだから。

 

「……」

 

数分の無思考と脱力。そして彼はおもむろに携帯電話を取り出し、慣れた手つきで電話帳を呼び出し通話をかける。

コールは2回ですぐに出た。

 

「もしもし」

『もしもし、ヤスヒロ?どうしたん急に』

「……」

『ヤスヒロ?』

 

かけた相手は調教を頼みたいベテラン騎手。そして、同級生にして幼馴染。

 

「ああすまん……2歳馬の調教の依頼したいんだけど、空いてる時間あるか?」

『この時期に?ええとちょっと待ってて』

「出来れば早めがええんだけど」

『んー……再来週の火曜日とかなら』

「なら頼む、場所は」

『いやいや、どんな馬なのか教えてよ』

 

半笑いで雑談に興じようとする騎手に対して難しい声で唸る池尾。それを聞いて騎手……「天才」関稔(せき/みのり)は思わず居住まいを正した。

 

『……なんか問題ある馬なのかい?』

「問題がある、っちゅうかな……」

 

もごもごと口を動かし、観念したようにサイレントロード号のことを伝える池尾。

それを聞き終え関も唸った。

 

『馬側にやる気が無いとは、なるほど難儀だね。言葉を噤んだのも仕方ないか』

「あっちにとっちゃ恥やからな。だがまあ正直打つ手無いからこうして頼んどるわけや」

『まあ話はわかったから、予定を調整しておくわ』

「助かるわ、じゃあお疲れ」

『お疲れ、また今度』

 

勝手知ったる仲。だからこそのあっさりとしたやり取り。親とコネは使ってナンボだ。

はてさて、どうなるか。

 

 

 

 

 

 

「おはよう」

「おう、おはよう」

 

言っていた通り2週間後の火曜にふらっと現れた関。サイレントロード号は電話の5日後に輸送して既に入厩させている。

入厩直後は環境の変化でピリピリする馬が多いのだが、この馬は一切そんなことはなく輸送翌日もピンピンしており、一応2日明けて始めた調教ではなんの影響も見られず飄々と指示を熟していた。

 

「この馬かい」

「おう」

「利口な馬だね」

 

人の気配を察したのか既に馬房から顔を覗かせようとしていたサイレントロード号。本当に人に慣れている。

生産した牧場がそもそも馬自体がそこまで多くなく、また母馬が子に関心を示さなかった影響で人の手を主に育てられたからではないかとは聞いた。

父のトウカイテイオー、母父のサンデーサイレンス、父父のシンボリルドルフ、どれを取っても気性が大人しいとは言えない馬なのだが……。

 

「庄司」

「はい」

「担当厩務員さんですか」

「はい、馬場庄司(ばば/しょうじ)です」

「よろし、うわ本当に人懐っこいね」

 

興味深そうに関の方に顔を寄せるサイレントロード号。

サイレントロード号の担当にはベテランの厩務員を現状付けている。しかし……。

 

「厩舎での様子は?」

「あまりにも手がかからなくて困る、といったところでしょうか。大人しく、利口で、そしてよく言うことを聞きます。他の厩務員にも一度世話をさせてみましたが、印象はあまり変わってないですね」

「ありがとうございます。じゃあ本当に調教だけなんだね……とりあえず、乗ってみますね」

「頼む」

 

 

 

 

調教の場として選んだのはウッドチップコース。普通の馬の調教時間と大きくズレた午前11時という都合人も馬も朝と比べてまばらな時間。

厩舎から歩かせているサイレントロード号の背に乗った関は乗り心地を確かめていた。

 

(背に乗っても嫌がる様子は無し。淡白というか、乗り手を気にしていないのかな。暴れるわけではないにしろ確かに指示に従わないような気性ではあるかもしれないけど、強めに追う時だけ反応しないというのは引っかかるな)

 

到着したウッドチップコースは1周1800m。比較的内側ということで小回り気味で、実戦さながらのコース取り練習が行えることで非常に需要の高いコースだ。

 

「1周を回って、最後の直線で加速してゴール。育成牧場でやることは概ね終わってるから、一度走ってみて単走で本番さながらの走りをしてみてほしいってとこだ」

「了解。じゃあよろしく、サイレントロード」

 

ぶるひん、と首を振って返事をしたサイレントロード号。

それを合図にゴーグルを付けた関はコースをまずはキャンターから入り、少しずつ脚を慣らしていく。

そしてスタート地点で停止の指示を出せば素直に止まり、池尾に目で合図を出し頷きが返ってきたところでスタートの指示を掛けた。

 

ポンと飛び出しそのまま直線を駆けて第1コーナーへ。とりあえずは馬の好きなように走らせつつコース取りだけの指示であったが、少しペースが早いように思えて手綱を引けば、途端に力を抜いて速度を落とし楽なリズムで、実に楽しそうに走るようになった。

 

(言うことは間違いなく聞く。

重心をずらすだけで器用に手前を変えるからコーナーの回り方も問題無い。

ハミもしっかり噛んでる。

ここで3コーナー……手前を変える指示もしっかり理解してる。

これが満2歳にすらなってない、育成牧場での調教しかしてない馬だって?冗談だろ?)

 

4コーナーを回ってさあ直線に入ったところで、関は他の馬に乗る時のように姿勢を変えて手綱をしごく。

聞いていた話ではこれをしても全く反応しないという話だった。

しかし。

 

 

 

「うお」

「え?」

 

 

 

大きめに一つ手綱をしごいた瞬間、関は一瞬「浮いた」と感じた。

池尾と馬場は一瞬「残像がブレた」ように幻視した。

 

 

 

それは僅か1秒。あまりの急加速に思わず関がバランスを崩し、その瞬間サイレントロードは減速し元のスピードに戻っていた。

そのままゴールと指定されたラインを通過したところで関は関らしからぬ慌てようで手綱を引っ張り、そしてやはり理知的なサイレントロードは少しずつ速度を落とし、そして池尾の下へと歩いていった。

 

「関」

「うん」

 

短いやり取り。

たった1秒、されど1秒。その1秒で見せた輝きは、2人の目を潰すのに十分なものであった。

 

「印象は?」

「ディープやね」

「それほどか」

 

日本競馬の至宝、英雄ディープインパクト。

記憶に新しい人々を魅了したその馬に唯一乗り続けた騎手をして、その断言はある種最大級の賛辞であり最大級の侮辱でもあった。

 

「詳しく聞いてええか?」

「もう少し乗ってからでも?ちょっとまだ確信が持てへん」

「おう」

 

再びサイレントロードに指示を出してスタート地点へ。

指示と共にポンと飛び出して駆けだす。さっきと同じく手綱を持ったまま好きに走らせると、今度はさっきよりは少しだけ早めのペースとなった。

 

 

 

馬というのは基本的には全力で走りたがる生き物だ。競馬というのは、騎手というのはそれを如何に馬の気分を害さないように適切なペースで走らせ、絶好の位置でスパートをかけさせるかが問われる競技だ。

そしてそれは馬の性格や癖によって方法は様々で、それを如何に矯正させるなり馬に納得させるかが鍵となる。

 

18歳でデビューして20年以上。数多の馬に乗った。

癖馬もいた。

気性の荒い馬もいた。

走ろうとしない馬もいた。

それらと対話し続け、乗り続け、数多の勝ちと負けを齎した。

 

そんな関がサイレントロードの背に乗って伝わってきたこと。

 

(……試されている)

 

先ほどの一瞬の加速でバランスを崩したことでこちらを気遣ってか、そもそも育成牧場でのスタッフの騎乗が基準となっているのか、理由はまだわからないが……。

恐らく全力で走ると騎手が完璧な騎乗を出来ないことをわかっている。

逆説的に、こいつは恐らく完璧な騎乗が出来ない騎手を背に乗せてレースをさせたい……いや、本気で走らせる為に言うことを聞かせたいなら完璧に乗りこなせと挑発している。

 

(上等)

 

こちらもトップジョッキーとしての意地がある。

乗り越してみせようじゃないか。

 

淀み無く3コーナーを回り、4コーナーに入り、コーナー終わりで手綱をしごく。

……動く様子無し。舐めてるなこいつ。

そちらこそ舐めてるんじゃないぞ。

 

 

 

 

直線残り150m付近、手綱をしごき続けていた関の騎乗にようやく応え、脚の回転数が一気に変わる。

今度は関もバランスを崩すことなく騎乗しきったように、池尾の目には見えた。

その約8秒か9秒、150mの走りをなんと表現すればいいか、池尾は何も言葉が出なかった。

 

 

 

 

ゴールラインを過ぎたところでしごくのをやめて、それに呼応するかのようにサイレントロードも減速していった。

 

「関」

「この馬やばいわ」

「そんなにか」

「乗りこなしさえすれば、そして騎手の指示に従うようにさえなれば、という枕詞は着くしそれも馬の能力のうちではあるんやけど。

……ディープ以上とは、言いたくないな」

 

言葉を選んだ発言。しかしそれは事実上の、ディープインパクトの敗北宣言ですらあったのかもしれない。

池尾は背が震えた。だって、凡百の騎手じゃない。

関なのだ。「生けるレジェンド」関稔なのだ。

「若き天才の恋人」スーパークリークから始まり、「大井から来た豪傑」イナリワン、「葦毛の怪物」オグリキャップ、「ターフの名優」メジロマックイーン、「一等星」ベガ、「女帝」エアグルーヴ、「海を越える輝き」シーキングザパール、「気品漂う胡蝶蘭」ファレノプシス、「日本総大将」スペシャルウィーク、「黒船来航」クロフネ、「雷神」カネヒキリ、「朱に染まる砂の王座」ヴァーミリアン……そして「英雄」ディープインパクト。

数多のGⅠ馬の立役者であり近代日本競馬史で常に先頭を走り続けた関稔なのだ。

 

「……乗りたいか?」

「そりゃあ乗りたいね」

「なら鞍上頼む」

「いいのかい?」

「乗るの難しいんやろ?」

「難しいというか……乗るだけなら簡単だね、乗り心地は凄くいい。難しいのは言うことを聞かせて、レースで勝たせることだと思う。とにかく上手く騎乗しないと舐められてしまう馬だよ」

「出来るか?」

「……乗せてもらえるなら、やってみせる」

「なら頼む」

「いいのかい?」

「お前にそんなこと言わせる馬を乗りこなせるやつおらんわ」

「そんなことは無い……って言える立場じゃないもんね。わかった、乗るよ」

 

こうして実にあっさりと、トップジョッキー関稔が主戦となることが決まった。

 

 

 

 

 

 

その1ヶ月後の3月27日。

GⅢ毎日杯にて、関稔騎乗馬ザタイキが骨折。

その場で予後不良と診断され、処置が施された。

そして騎乗していた関稔は、頭から叩きつけるように落馬。

肩関節が破壊されたかのような重症に、医者は全治半年の診断を出した。

 

 

 

 

 

そのニュースは競馬ファンと関係者全ての下へとあっという間に知れ渡った。

もちろん、池尾の下にも。

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

関の担当エージェントからの現状の連絡を受けた池尾は電話を切り、そして自然と溜息を零した。

 

「どうする……いや、駒場さんに連絡して聞く方が早いわな」

 

幸いにも今日は事前に聞いていた連絡可能日、池尾はすぐさま電話をかけた。

 

『池尾さんお疲れ様です』

「お疲れ様です。少しご相談したいことが……」

『おやまたですか……なんでしょう?』

「実は……」

 

そして言葉を選びながら、池尾は順に説明を始めた。

 

新馬戦を決める際にも話したベテランジョッキーへの調教依頼が思ったよりも早く通ったこと。

そのジョッキーをして「怪物である」と言わしめたこと。

そしてそのジョッキーを所謂主戦としてデビューする予定であったこと。

そのジョッキーが先日大怪我をしたこと。

 

「関稔さんって言うんですけど、聞いた事ありませんか」

『あー聞いた事ある気がします……え、そんなすごい人が乗る予定だったんですか?』

「このまま行けばその予定でした。ですが……」

 

全治6ヶ月。

現在は3月の末。となれば当然7月に予定されている新馬戦に騎乗するのは不可能だ。

 

幸い期間はまだまだ4ヶ月もあるので別のジョッキーの手配自体は問題無い。

しかしそのジョッキーがきちんとサイレントロードを乗りこなせるかどうかは別の話だ。

なんせ関稔に「乗りこなすのが難しい」「上手く騎乗しないと舐められる」と言わしめたのだ。他のジョッキーに頼んだとして、乗りこなすまでに舐められてもう本気を出さなくなるなんてのは想像に難くない。

 

逆に、もしかしたらサイレントロードと相性が良く折り合いの付くジョッキーが見つかるかもしれない。こればかりは試してみなければわからないのだ。

 

『うーん……なるほど』

「調教師である私としてももちろん依頼する騎手にとっても、もちろんそれが仕事というのもありますがプライドというものもありますので、全力を尽くすという事は変わりません。

ですが、全力を尽くしてもどうにもならないということはあるかもしれないというのは、覚えておいていただきたいのです」

『まあ野球もそういう面はありますから、理解は出来ますよ』

 

 

 

新馬戦の決め直し。

関稔の復帰を待たず有利な時期の新馬戦を目指すか、関稔の復帰を待ちローテを考えるか。

 

駒場の選択は……。




原作が残酷過ぎる定期



>関稔
苗字は2文字ずらし
名前は元の名前からの連想

>関西弁
元ネタとなるお二人の対談では関西弁だったので軽く混ぜる感じで

>馬場庄司
サイレントロードの担当厩務員(架空)。
この道30年のベテラン
その内設定が生えるかもしれない

>最大級の賛辞であり最大級の罵倒
「日本近代競馬の結晶」と称されたディープインパクトと並ぶという賛辞であり、乗っている馬を全然関係無い別の馬に例えるという罵倒
罵倒っていう表現もなんか違う気がするが語彙力G
表現を罵倒→侮辱に直した(7/13)

>異名
軽く調べて出てきたやつだけ
ちょっと待って?〇〇が入ってないやん?っていうのは別にその馬が嫌いとかじゃなくて軽く調べた範囲では出てこなかっただけ
こういうの好きなんだけどどうやって探せばいいのかわからん


>アンケート
というわけで前話と全く同じ選択肢でもう一回。今話のアンケートは前話での得票数を加え「ません」、今話のアンケート結果のみを参照します
期限は7/16の12:00まで
前話のアンケートなんだったの?とは思うかもしれないが原作者がすぐ怪我させるのが悪い

新馬戦はどれを選びますか?

  • 7/25新潟1800(!!!!)
  • 10/2阪神1800(!!)
  • 11/28東京2000(!)
  • 12/25中山2000(!!)

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