ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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1周年記念話、です!
大変お待たせいたしましたぁぁぁ!!!

番外編ということで一応本編を読んでいなくても読むことができると思います。



それではどうぞ。


番外編
キミと願うミライ√雪花ラミィ


 

 

 

 

 

 これは、ありえたかもしれない物語。

 

 無限に分岐する人生の一つの可能性。

 

 一人の少女が願った、少年(キミ)とのミライ。

 

 

 

 その、一つの断章。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ん」

 

 小鳥のさえずる鳴き声とともに重い瞼を開けて少年は目を覚ます。

 しかしその意識はいまだ半分は夢の中。

 正直に言うと前日は遅くまで作業があったので二度寝をしていたい気分ではあるのだが、今日のこれからの予定のことを考えるとそうも言ってられないとベッドに寝ころんだまま指を軽く振って魔力で制御されたカーテンを開く。

 差し込む朝日に目が刺激され意識が徐々に覚醒する。

 

 

 

「眩しい…」

 

 しかしまだ春先とは思えない照りつくような朝日に思わず手で瞳を覆う。

 億劫とは言わないがさすがに朝一番に浴びるには些か過剰な光にもう少し何とかならないだろうかと太陽に向かって意味もない愚痴をこぼしそうになる。

 

 

 

 

 

 そんなことを考えていると、少年の隣で安らかに夢の世界に飛んでいた()()()()が太陽の光を拒否せんとばかりにもぞもぞと動きながら毛布にくるまっていた。

 毛布に隠れて見えてはいないが少年の片腕はその少女の華奢な両腕によって抱きしめられて完全に固定されており自由に動けない状態。健康志向の少年がいまだにベッドから抜け出せていないのはこれが理由だったりする。

 

 毛布の隙間からわずかにクセのある艶やかなアイスブルーの髪がのぞく。

 それを見て何の気なしに指でその綺麗な髪を軽く梳く。一切の抵抗なく指の間をすり抜けていくそれが入念に手入れされているのは一目瞭然だろう。髪は女の命と分かってはいるが、これは一度体験してしまうとやめられない中毒性があるから仕方がないと自分に言い聞かせて二度三度と髪を傷つけないように梳いていく。

 

 

 

 

 

「んんぅ………」

 

 

 

 数分くらいそうしていただろうか。

 飽きることなく続けていると不意に聞こえてきたくぐもった声に少年はようやく我に返る。

 せっかく予定通りに起きたのにこのままではいけないとすでに若干の手遅れ感を感じながらも少年は少女を起こしにかからんといまだに固定されて動かせない腕とは逆の腕を使って軽くゆする。

 

 

 

「ほら、起きて。もう朝…」

 

「ん~、まだ寝るぅ…!」

 

「へ?うわ…!」

 

 

 

 少年の腕を固定していた腕が体の方に伸びる。

 少女の予期していなかった行動に少年は抵抗する時間もなく毛布の中に引きずり込まれた。

 

 二人が寝転んでもなお余裕があるサイズのベッドのスプリングが少年が倒れた衝撃でわずかに軋み反発する。

 だが巻き込まれた少年はそんな些事など気にするほどの余裕はすでになくなっていた。

 

 

 

 その原因は現在の二人の体勢にある。

 

 少女の腕は背中に回され、脚はもはや起きてやっているのではというくらいにしっかりと絡められており密着状態。扱いが完全に抱き枕のそれだった。

 さらにギューッという擬音が聞こえてきそうなほど結構な強さで抱きしめているのか、薄手のパジャマの上からよく分かる豊かな膨らみが胸板によって潰されフニフニと形を変えている。お互いの心臓の鼓動がダイレクトに伝わり心地よいやら恥ずかしいやらの感情が駆け巡る。

 

 そして何より顔が近かった。

 少年の視界は少女の顔で埋まっており、少し前に動けば触れられてしまうほどの近さ。それゆえに彼女の美しさというのがより鮮明に映った。

 白磁のような透き通った肌に人形のような整った美貌。視線を引き込み魅了するような黄金色の瞳は今現在閉じられているが、その美しさは贔屓目になるかもしれないが傾国の美女と称しても決して過言ではないだろう。

 

 

 

 少年としてはいつも見ている姿ではあるのだが、シチュエーションも相まって思わず赤面してしまい「ぅぁ…」と変な声が漏れる。

 

 しかし先ほども言った通り今日は予定がある。

 頭をブンブンと振ってたまっていた熱を飛ばす。眠っている彼女には申し訳ないがこれ以上の遅れは本格的にスケジュールに影響が出る。

 どうにか起こそうと声をかけようとして

 

 

 

 

 

「えへへ、悠くん…」

 

 

 

 

 

 そんな彼女の幸せそうな寝言を聞いた瞬間に全てがどうでもよくなった。

 

 確かに予定はある。だがそれは言ってしまえば二人のデートの予定であり、その内容も「お弁当を作ってどこかで食べよう」程度のもの。

 お弁当を作らなきゃいけなかったから早起きの必要があったのだが、今の彼女の様子を見て頭の中でリスケを決行した。

 

 これが惚れた弱みというやつだろうか。

 

 

 

 無防備な寝顔を見て自然と笑みがこぼれる。

 

 幸せそうな寝言を聞いて心が暖かくなる。

 

 抱き合って伝わってくる心音や温かさで多幸感が溢れてくる。

 

 

 

 一つ息を吐くと起き上がろうとした体から力を抜いてポスンと頭を倒す。

 すでに冴えたと思っていた頭が段々と生じた眠気によって夢へと誘われていく。

 元々二度寝したいと心のどこかで思っていたのもあったためかすぐさま意識が薄くなり瞼が落ち始める。

 

 

 

 

 

「おやすみ、ラミィ」

 

 

 

 少年───星宮悠は残った意識でどうにか力を振り絞ると少女───雪花ラミィの頭に手を置き一撫で。

 そして両腕をラミィの背中に回して抱きしめ瞼を閉じる。

 

 

 

 願わくば、彼女の見ている夢が幸せのままでありますように。

 最後にそんな祈りを捧げながら、悠は夢の中へと意識を落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたらラミィの顔が目と鼻の先になった。

 寝る前は閉じられていた黄金色の瞳が開かれており、悠の星のような瑠璃色の瞳と視線が交差する。

 

 

 

「あ、おはよう悠くん!」

 

「…おはよう、ラミィ」

 

 

 

 体勢は寝る前と変わらないまま、向けられるのは美しさというよりも愛らしさが際立つ花咲くような満面の笑み。

 

 寝る前に閉じていたカーテンを再び開けると差し込んでいた朝陽はすっかり昇りきり時間の経過を突き付けられる。

 ずいぶん長く寝てしまったようで体感的にはお昼前後といったところだろう。

 今から諸々準備して出掛けるとなるとあまり長い時間外に出ることはできなさそうだが。

 

 

 

「どうする?」

 

「…せっかくの休みだし出掛けたいな。最近話題になってるカフェがあるの、そこに一緒に行こ?」

 

「ん、そうしよっか」

 

 

 

 ということでリスケが完了。

 お互いに感じる温もりを惜しむように体を離すと、出掛ける準備を始めるためベッドから抜け出して行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあそれから少し経って今現在悠は一人待ち合わせ場所の公園でラミィのことを待っていた。

 同棲しているのだから家から一緒に行けばいいのではと思ったのだが、ラミィ曰く

 

「たまにはこういう雰囲気も大事にしたいの!」

 

 ということらしい。

 まあ離れることを嫌う彼女がこんなことをする理由は決してそれだけではないのだろうが、それは聞くだけ野暮というものだろう。それにこうして彼女を待つ時間も決して嫌いじゃない。いや、むしろこのわずかな緊張と楽しみが入り混じったドキドキ感もたまにはいいのかもしれないとすら思ってしまう。

 ちなみにこういう一人のタイミングで話すことの多い我が相棒のストライクハートだが、昨夜に行った大掛かりなメンテナンスで現在はスリープモードに入ってたりする。この状態の時のストライクハートはこちらから呼びかけない限り応答することはないので、メンテナンスはまあラミィとデートをする前日などの恒例行事なのである。

 

 春先にしては少々暑さがあるということで近場のコンビニでドリンクを二つ購入しそのうち一つをカバンに戻しもう一つに口をつける。喉を通る適度な冷たさが心地よい。

 

 

 

「ねえねえおにーさん、一人?」

 

「?」

 

 

 

 日差しをよけるために移動しながらそんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。

 振り返ってみてみると、そこにいたのは一人の少女。服装といい出で立ちといいまさにギャルといった姿でポケットに手を入れながら下から覗き込むように悠を見つめている。

 

 

 

「暇だったらアタシと遊ばない?いいトコ知ってるんだ~」

 

 

 

 そう言いながらグイグイと距離と詰めてくるギャルの少女。

 客観的に見ても悠の顔立ちはそれなりに整っている方である。加えて今の服装はラミィセレクションで白を意識したカジュアルスタイル。一見して精悍というよりかは柔和な雰囲気を持つ悠だから押せばいけるという判断なのだろうか、悠が話す間もなく気づけば二人の距離はほとんどなくなっていた。

 普段はラミィがいつも一緒にいるからこういう(ナンパされる)経験なんて一度たりともなく一瞬口ごもるが、この状況をラミィに見られた時の未来を想像すると背筋が凍り付いた。

 

 

 

「えっと、申し訳ないけど彼女と待ち合わせしてるんだ。だから…」

 

「えー、こんなカッコいいおにーさんを待たせるなんてあんまりいい彼女さんじゃないんじゃない?アタシの方が楽しませられるよ~!」

 

 

 

 ギャルが悠の手を取り引っ張っていこうとする。

 だが悠は動かず、今の言葉を静かに反芻していた。

 

 

 

(今、この子は何て言った?)

 

 

 

 

 

 一瞬、悠は自分の顔から表情が消えるのを自覚した。

 どうしてだろうか?

 いや、理由なんて分かりきっている。

 

 よく知りもしない相手に彼女(ラミィ)をバカにされた。

 

 怒りを覚えるにはあまりにも自然で、至極真っ当な理由。

 そこに疑問を挟む余地なんてどこにもない。

 

 

 

(知りもしないくせに…)

 

 ふつふつと怒りが湧き上がる。

 前までならここまで怒りの沸点が下がることはなかったのだが、こと()()のことになるとどうしようもなく感情の振れ幅が大きくなってしまう。

 

 

 

「キミが…」

 

 ラミィの何を知っている。という言葉は出てこなかった。

 それより前に

 

 

 

 

 

「何をしているんですか?」

 

 

 

 迸る冷気とともに、件の彼女(雪花ラミィ)がやってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~~♪」

 

 ラミィは鼻歌交じりに悠との待ち合わせ場所までの道を駆け抜ける。

 足を踏み出すたびに彼女のトレードマークともいえるハートマークのアホ毛がぴょこぴょこと小さく揺れる。

 

 今日は朝から幸せの連続だった。

 朝の記憶自体はおぼろげだが、悠を無理矢理毛布の中に引きずり込んだラミィを優しくなででくれた。

 次に目が覚めたら悠に抱きしめられていた。普段抱きしめ返してはくれるものの、あまり悠の方からしてくれないだけにうれしさもひとしおだった。

 そして彼が起きるまで愛おしい寝顔を間近でずっと眺めることができた。

 

 加えてこれからのデートである。

 

 

 

 悠くんの一番好きなラミィでいたい。

 

 そのために洋服や化粧のチェックは入念にしたし、ちょっとしたサプライズ兼初デートのような外で待ち合わせるというシチュエーションに憧れて彼には先に待ち合わせ場所へ向かってもらった。

 好きな人に会いに行くという行為そのものがどうしようもなく鼓動を昂らせる。

 

 

 

(悠くんもそう思ってくれてるかな?…そうだと、いいなぁ)

 

 

 

 似合ってるって言ってくれるかな?

 

 かわいいって、思ってくれるかな?

 

 想像するだけで顔がにやけるのが止まらない。

 彼の声を聴いているだけで嬉しくて、見ているだけで嬉しくて、一緒にいられることが嬉しくて。

 そんな何気ない小さなことでも心臓が爆発しちゃうんじゃないかってくらいドキドキしっぱなしになってしまう。

 

 一途で純粋な(狂おしいまでの)愛情。

 

 それを親友の獅子の獣人に意気揚々と話したら「あーうん、まあらみちゃんらしいと思うよ…」と言外に若干引かれていたのは誠に遺憾だったが。

 

 

 

 

 

 閑話休題(そんなことはどうでもよくて)

 

 

 

 そろそろ待ち合わせ場所が見えてくる頃合い。

 逸る心のままに足並みを早めて駆け抜ける。

 十字路を曲がった先の公園が悠との待ち合わせ場所である。

 ラミィは抑えるつもりもない喜色にあふれた顔で十字路を曲がり、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠がギャルの少女に話しかけられているのを見てしまった。

 

 

 

「え………?」

 

 ラミィの足が止まり、そして思考が止まってしまった。

 その間にもギャルの少女は悠に迫り、その手を取って連れて行こうとする。

 

 なんでなんでなんで?

 ラミィの頭の中で一つの感情がはじけた。

 悠は絶対について行ったりしない。そんなことは当然分かってる。それだけの信頼とそれに足る時間を共に積み重ねてきた。

 

 分かっているし、理解もしている。

 それでも、納得できるかどうかは別の問題なのだ。

 他の女に言い寄られている事実に嫉妬してしまうのは、仕方がないじゃないか。

 

 はじけた感情が魔力を溢れさせ、現実を改変していく。

 足を踏み出す度に地面が凍り付く。

 周囲の空気が急激に冷却され、氷点下を下回った水分が小さな氷の粒に変化する。

 

 

 

「何をしているんですか?」

 

 気づけばラミィは、二人の目の前までその身をさらけ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あー、これはやらかした…)

 

 湧き出していた怒りはすっかり鳴りを潜め、今の感情をいうなればそれは『諦観』だろう。

 本当ならラミィが来る前に終わらせたかったのだが現実はそううまくいかないもので。

 

 やってきたラミィはその足を止めることなく悠たちの元までやってくるとギャルの少女の手を悠の腕から引きはがし、そのまま自身の腕と胸の中に抱きすくめるとキッと睨みつけた。

 

 

 

 悠は自分の彼氏なんだと見せつけるように。

 

 自分は悠の彼女なんだと知らしめるように。

 

 

 

 正直に言うと少女に向けている視線もあまり怖いものではなかったのでひとまず直接的な矛先が相手にいかなかったことに安堵した悠だが、ラミィの感情の発露による凍てつくような冷気がいまだ続いていることに気づいた。

 春から冬へ季節が逆行したかのような急激な変化に空恐ろしさを感じつつも、ひとまずこの場を収めるために悠はおもむろにラミィによって固定されているのとは逆の腕を使ってラミィを抱き寄せた。

 

 

 

「ひぁ…!?」

 

 ラミィから頬を朱に染めて変な声が漏れる。

 すると冷気が収まりみるみるうちに周囲の気温が戻っていく。

 

 

 

「…まあということでこれ以上大事な彼女の機嫌を損ねるわけにはいかないから。遊ぶのは勘弁してくれるとありがたいかな」

 

 やや申し訳なさそうな表情で言う悠にラミィは腕の中でプクーと頬を膨らませて強い視線を悠に向ける。

 その顔にはいかにも「これで許したりしたわけじゃないから!」というなんとも可愛らしい心情がありありと浮かんでおり、最初の底冷えするかのような声に恐怖してしまっていた少女も今ではラミィをどこか保護者みたいな目線で見てしまっている有様である。

 

 

 

「アッハハハ!!!ゴメンゴメン!おにーさんがカッコよかったからついね。それじゃあお邪魔虫は退散ってことで、じゃーねー!」

 

 ニシシとあくどい笑みを浮かべて駆けだす少女。

 と思いきやふと立ち止まりこちらを見ると手をブンブン振って声を上げる。

 

 

 

「あ、おにーさん!こんなにに想ってくれるいい彼女を離しちゃダメだからねー!!!」

 

 

 

 さっきと言ってることが真逆ではないか、というツッコミが喉まで出かかってしまったのをどうにかギリギリで抑え込む。もはやノリと勢いだけで生きているかのような少女は再び二人に背を向けて走り出し、今度は止まることなく気づけば既にその姿は見えなくなっていた。

 

 まるで嵐が過ぎだった直後のような静寂。

 

 

 

「…ごめん、ラミィ。不安にさせ…ぐぇ」

 

 謝罪の言葉は最後まで出てこなかった。

 言葉の途中で顔を伏せたラミィの全力の抱擁によって止められてしまった。

 

 

 

「ラミィ以外の子の手をとってた」

 

「…ごめん」

 

 それに関しては弁明のしようがない事実である。

 すぐに離そうとした、などと言ったとしてもそれはただの言い訳でしかない。

 

 

 

「…頭撫でて」

 

「え?」

 

「抱きしめて、頭撫でて!」

 

 

 

 地味に要求が増えてるではないか。

 しかしこうなったときのラミィは止まらないし、やってくれるまで「やだやだやだ!」と子供の癇癪のように言い続けるのはここまで一緒に過ごしてきた中で学習した。

 

 

 

「そしたら、許すから」

 

 

 

 それに、こんなことを言われてしまったらやらないわけにはいかないじゃないかとわずかな逡巡の後にラミィの要求通りにする。

 下手に力を入れたら折れてしまいそうな細い体を抱きしめる。「んぅ」と声を漏らすラミィに愛しさを覚えながらポンポンと頭に手を置いて割れ物を扱うかのようにゆっくりと頭を撫でる。

 お互いに動かない、動けない。

 こんな幸せな時間がずっと続いてほしいと思ってしまうがゆえに。

 

 

 

 そこから二人が動き出すまで30分の時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的のカフェは待ち合わせに公園からほど近い場所にあった。カジュアルで明るいよくあるカフェというわけではなく、木を基調に彩られたその外観はシックで大人なイメージを感じさせる。

 最近話題とラミィが言っていたのもあって満席も覚悟していたが、時間帯がすでに昼を過ぎ黄昏時に近くなっておりピークタイムを過ぎているのか客足は悠とラミィを覗いて数組といったところであった。

 

 席に余裕があるということで背もたれがあるテーブル席を選ぶ。

 ラミィを先に座らせ、悠もまた当然のように向かい側ではなくラミィの隣へ座った。

 テーブル席に座るときの二人のいつものスタイルである。

 

 一息つくと置いてあったメニュー表を二人の間において顔を寄せ合って見る。

 思ったよりメニューは豊富でオムライスやパスタといった主食系、サンドイッチやパンケーキといった軽食系、はたまたケーキやパフェといったデザート系と種類には事欠かずの多さであった。

 どれにしようかと悩みながらも注文が終わり、悠はラミィの横顔をチラッと見て何かに気づく。

 

 

 

(あ、髪型が違うんだ)

 

 

 

 さっきの騒動が原因であまりゆっくり見る時間がなかったから気づくのが遅れたが、普段のラミィとは髪型が変わっていた。わずかにクセのある艶やかなアイスブルーの髪が今は綺麗なストレートに伸ばされており、その一部を黒いリボンで左右に結ったいわゆるツーサイドアップという髪型である。

 おそらくはこの準備兼サプライズのつもりで悠を先に行かせたのだろう。

 普段見れない姿というのは鮮明に、そして魅力的に映る。

 無意識にじっとラミィのことを見ていた悠だが、その視線に気づいたラミィが悠に視線を合わせる。

 

 

 

「?どうしたの悠くん」

 

「え?あー、その………」

 

 下から覗くようにこちらを見つめてくるラミィに思わず言葉を詰まらせる。

 付き合ってるとはいえいまだに可愛いと褒めるという恥ずかしさに抵抗がなくなるわけではない。

 でも、多分ラミィはそれを求めているのであろう。

 それが分かってしまうからこそ、悠は逃げることはしなかった。

 

 

 

「…髪型、変えたんだね。普段と違って快活なイメージで、とても似合ってる。…可愛いよ」

 

「………ふぇ」

 

 瞬間、ラミィの頬が朱に染まる。

 おや?と悠は一つ疑問。

 

 ラミィはかなりの甘え上手である。

 褒めて褒めてとねだってくることもあるし、それで素直に褒めたら満面の笑みを返してくる。

 少なくとも、こんなふうに褒められて黙ることはただの一度もなかった。

 

 

 

「み、見ないで!」

 

 

 

 咄嗟にラミィは悠の目を手で隠して物理的に視界を塞ぎにかかる。

 「え、ちょ!?」と悠が困惑しているが、ラミィにその声は聞こえず顔を伏せる。

 

 

 

 

 

 ダメダメダメ。

 絶対に悠くんに今の顔は見せられない。

 もし見られでもしたら恥ずかしすぎて死んでしまう。

 

 

 

 隠した理由は単純明快で、とてもこんな嬉しさで破顔しきった顔など悠には見せられないからだ。

 

 口角が上がるのが止められない。

 頭の中がぐちゃぐちゃになって何も考えられない。

 絶対に今だらしない顔をしていると本能が告げている。

 

 普段は来るって分かっているから耐えられるのだ。

 こんな唐突に、こんなにまっすぐに目を見て褒めてくるなんて不意打ちもいいところだ。

 

 

 

 あぁ、でも、嬉しすぎる。

 嬉しくないわけがない。

 ぐちゃぐちゃになった頭がとめどなく湧き出る愛情で一色に塗りつぶされてふわふわと思考がまとまらない。

 

 悠の目を塞いでいた両手を離すと、ラミィはすぐさまそれを悠の背中に回す。

 顔はいまだ伏せたまま。それでいて強く強く、決して離さないと言わんばかりに腕に力をこめる。

 

 悠がまたもや困惑した声で呼びかけてくるが知らない。

 もともとそっちが原因なんだ。今はおとなしく抱きしめられていればいいんだ。

 

 そんなことを思いながら、ラミィは注文が届くまでグリグリと頭を悠に押し付けながら抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさま悠くん。今日もご飯美味しかったよ!」

 

「お粗末さまでした。ラミィも手伝ってくれてありがとう。助かったよ」

 

「ううん。ラミィも楽しかったし」

 

 

 

 デートも無事に終わり、時は夜。

 風呂、食事とすませた悠とラミィの二人はソファで並んで座っている…というわけではなかった。

 では何をしているのかというと

 

 

 

「ふっふっふ、気持ちいいですか~?痒いところはありませんか~?」

 

「あはは、気持ちいいよ」

 

「うん、それじゃあ反対向いて、反対のお耳も綺麗にしちゃうからね~」

 

 

 

 別にやましいことでもなんでもなくいたって普通の耳かきであった。

 悠の頭ををラミィの膝の上にのせてラミィは満足げな笑顔。綿棒や梵天を使って丁寧に悠の耳を綺麗して、気持ちよくしていく。

 

 

 

 カシュカシュと綿棒で擦る。

 フワフワとした梵天で耳の中をかき回す。

 時折ささやくように耳元で声をかける。

 

 

 

 まごうことなきASMR。

 耳から伝わってくる快感に悠は徐々に意識を微睡の中に落としていく。

 瞼が重くなり「ふわぁ…」と気の抜けたあくびをする。

 

 

 

「…あ、そろそろ眠くなってきちゃった?」

 

>「……ん」

 

 悠の寝ぼけた生返事を聞いてラミィはクスッと声を漏らす。

 そろそろ終わりかな、と考えながら持っていた梵天耳かきを悠の耳から外す。

 太ももに感じる悠の重さと温かさを感じながら悠の頭を撫でる。女性の髪とは違う、でもどこか癖になる悠の夜空を体現したかのような濡れ羽色の髪に優しく触れる。

 「んん」と再び悠が生返事をして

 

 

 

 

 

>「ラミィ、好きだよ………」

 

 

 

 悠が小声でこぼしたその言葉を聞いて、ラミィはその動きをピタッと止めた。

 意識が半分落ちた状態で放たれた今の言葉、すなわち無意識、深層で抱いている感情の発露だということを理解するのにさほど時間はかからなかった。

 

 

 

 あ、これ限界だ。

 ラミィは自身の中のストッパーが壊され…いや、消滅するのを自覚した。

 

 

 

 

 

「…ねえ、悠くん。こっち向いて?」

 

「…ん?ラミィ、どうした…んん!?」

 

「ん…」

 

 

 

 軽く寝ぼけたままラミィの方を向くと、視界がラミィの顔で埋まっていた。

 そして、唇に感じる柔らかい感触。

 

 眠気が一瞬で吹き飛んでしまった悠は星の輝きを持つ瑠璃色の瞳を目いっぱい開く。

 唇が軽く触れあうだけのライトキス。

 しかし悠の意識を覚醒させてしまうにはあまりにも十分すぎるものだった。

 

 わずかな硬直の後、チュッと小さなリップ音を鳴らし触れていた二人の唇が離れる。

 そして悠は見た。

 閉じていた瞳を開き、吸い込まれるような黄金色の瞳を悠に向けて妖しく微笑むラミィの姿。

 

 

 

 それは、朝に見た向日葵のような可憐な笑顔ではない。

 

 それは、とても美しく、それでいて妖艶な、薔薇のような魔性の微笑み。

 

 

 

「ねえ、悠くん」

 

「な、なに…?」

 

 ラミィはまたも微笑む。

 視線を決して逸らさず、逆に恥ずかしさから背けようとした悠の顔を両手で挟み込むように固定する。

 

 逃げちゃだめだと言うように。

 今のキミはラミィの為すがままなんだよと言い聞かせるように。

 

 この時点で悠は完全に抵抗するのを諦めていた。

 ラミィが手を離した後も赤くなった顔のままぼーっとラミィを見つめている。

 それを見てラミィは再び顔を悠に近づける。しかし触れ合うことはなく、触れ合う直前のギリギリの距離。

 妖しい光を放つ瞳の魔力にでもかかったかのように二人の視線は交差し、固定される。

 

 

 

「ラミィも悠くんのことが好き、大好きだよ、愛してる」

 

 

 

 とめどなく愛情があふれ出す。

 ダムが決壊したかのように際限なく、とどまることを知らず、まるで爆発したかのように。

 今のラミィに他の感情なんてひとかけらも存在しない。

 すべてを飛び越えた感情の暴走。

 

 

 

「悠くんを見てるだけでこんなに胸がドキドキする。ときめいてる。ラミィはもう悠くん以外見えないよ」

 

 

 

 

 

「だから、悠くんもラミィのことだけ見ててね」

 

 

 

 ラミィは再び悠とキスを交わした。

 先程より深く、深く、愛情を余すことなく伝えるように。

 

 二人の影が、ひとつに重なった。




ご読了ありがとうございました!
こういったテイストの小説は書いたことがなかったのでかなりの難産でしたが、楽しんでいただけたら幸いです。
今後もこういった番外編はちょくちょく投稿していこうと思います。



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