ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート 作:468(ヨルハ)
「ふーん、つまり悠くんとフブキ先輩は幼馴染で、6年ぶりの再会ってことなんだ」
「そうなるね。すっかり見違えてすぐには思い出せなかったよ。まあ思い出せた理由が
「いやーははは、お見苦しいところをお見せしました…」
翌日に『白上フブキ、入学2日目の新入生にチャージタックル事件』とソッコーで新聞部に取り上げられてしまう出来事から5分後、どうにか落ち着いたフブキとともに悠はみんなに2人の関係を説明していた。
悠とフブキは幼馴染である。
悠は8年前から約2年間この町に住んでいる時期があり、その時に知り合ったのが幼き白上フブキである。現在悠たちが過ごしている世界である
一言で言うとフブキが現世に迷い込んだのである。
現世と幽世に限らず、世界を隔てる境界線は今現在ではひどく曖昧になっている。古来より力を持つ者が長い時間を経て世界を繰り返し渡ることで、『世界を隔てる』という概念そのものが徐々に曖昧になってゆき、今ではふとした拍子に別の世界に行きついてしまう『世界渡り』と呼ばれる事象も決して珍しいことではなくなってしまっていた。
フブキはまさにその事象に巻き込まれてしまった1人である。
外に出てからの帰り道、近道として普段は通らない小道を通り、気がついたら現世のとある公園に辿り着いていた。周りには誰もいない、ここがどこだか分からない、そもそも現世であることすら当時のフブキには判別ができていなかった。
混乱のあまりうずくまって泣き出してしまい、そこに偶然巡り合わせたのが幼き悠とその母親であった。
当時から既に世界渡りの事象は話題になっており、幼きフブキの姿と様子から事情を大方理解した悠の母親がフブキを保護、フブキの故郷が見つかるまでの間悠の家に住むことになった。一緒に住んだ期間は1週間程度であったが、その間に悠とフブキが
そして無事にフブキの故郷が見つかってからもフブキと悠の交流は続いた。
フブキの家は幽世の中でも十指に入る名家の「白上家」だったからこそではあるが、現世と幽世の行き来もその権限で自由にできるようになった。無論白上家としても将来的にフブキを現世にあるホロライブ学園に入学させる予定ではあったため現世での生活に慣れてもらうという打算はあったのだが、本人たちにとってはそんなことは些末な問題でしかなかった。
しかしその交流も2年後に悠たちの引っ越しというものであっさりと終わりを迎える。
そのときのフブキは恥も外聞も捨てて悠に泣きついたものである。そして悠もまた目尻に涙を溜めながらフブキを抱きしめて宥めていた。これはフブキに限らず悠にも当てはまることだが、お互いの存在はお互いにとって掛け値なしの初めての友人であり家族のようなものだった。片や家柄によって、片や出生によって普通の人のような交流など皆無だったから。故に悲しむ気持ちは当然あるが、だからこそ悠は涙をこぼすフブキの頭を撫でて1つ約束をする。
「いつになるか分からないけど、絶対また会おう。約束!」
「………うん、うん!」
確約ではない。幼いからこそできるその場しのぎの約束事かもしれない。
でもそれでもいいとその時の2人は思った。
お互いがまた会いたいと強く思っている。その事実こそが大きな縁となり、再び出会う運命を結んでくれると信じているから。
そうして、2人は笑顔でひと時の別れを告げた。
「そうだゆうくん、おじさんとおばさんは元気にしてますか?今度ご挨拶にでも行こうと思うんですけど」
「あ…えと………」
話が終わったタイミングで思い出したといった表情で言うフブキのその言葉に悠は歯切れの悪い返事を返す。
その反応にある程度察したものが数名、しかしあくまで憶測の域を出ないため静かに悠の言葉を待つ。
一瞬苦虫を嚙み潰したような顔をした悠だったが、意を決して言の葉を紡ぐ。
「父さんと母さんは亡くなったよ、3年前」
「あっ…ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ、これでもちゃんと折り合いはつけてるから。よかったら今度祈りに来てあげて」
「…はい、必ず!」
悠の様子は悲しんではいても引きずっている様子はなかった。
それならばこれ以上触れるのは野暮というものだろう。
と、一区切りした瞬間に昼休憩終了5分前を告げるチャイムが鳴る。最初から教室にいた悠たちはともかく学年が違うフブキはそろそろ移動しなければならないだろうと彼女の方を見ると、いかにも話したりませんといった様相で恨めし気にスピーカーを睨んでいた。
すると本日2度目の思いっきりドアが開かれる音が響く。いよいよ壊れそうである。
この学園ではドアは全力で開かなければならないという暗黙のルールでもあるのだろうかといよいよ勘違いしそうになってしまう。
ドアの向こうにいたのは腰に手を当てて呆れた表情の人間の女生徒だった。
ネクタイの色が青色ということなので3年生なのだろう。サイドに1つにまとめられたライトブラウンの髪とクリクリと大きなプレナイトの瞳が快活な印象を与える。しかしその大きな瞳は今現在ジト目によって半分ほど閉じられており、彼女の心情を露にさせていた。
「フーブーキー?」
「ま、まつりちゃん…」
フブキはそれを見て「YABE」みたいな顔になる。
まつりと呼ばれた彼女はそれを見るとおもむろに目を爛々とさせて手をワキワキとさせフブキに近づいていく。何事だと困惑する周りの空気など関係ないかのように彼女はフブキに跳びかかった。
「予鈴のチャイムまでには戻るって言ったでしょー!」
「ひゃあぁ!?」
悠は咄嗟にフブキたちから目を逸らし、それは見事に功を奏した。
もし目の前の光景を見続けていればラミィやかなたによって物理的に無理矢理この場から排除されていただろう。それくらいの
まつりが満足したように離れるとそこにいたのは羞恥のあまり耳までトマトのように真っ赤にしてうずくまるフブキの姿。むせび泣く声がわずかに聞こえてくるあたり本気でやられたらしい。そんなフブキを置いておいてまつりは悠たちの方を覗き込む。
「ほほー、キミたちがねー。なるほどなるほど…」
「あの…?」
「あぁごめんごめん!1年のバトロワ優勝者と上位入賞者っていうからどんな人か気になっちゃってつい。私は3年の夏色まつり、フブキの親友だよ!『まつり先輩』と呼ぶように!よろしく、新入生!!」
「1年の星宮悠です。よろしくおねがいします、まつり先輩」
ほかの面々もそれそれ挨拶を交わす。
まつりはそれにうんうんとうなずくと未だにうずくまったままのフブキをどうにか立たせて移動を開始する。しかし教室を出る直前に悠たちの方を振り返ると満面の笑顔を見せて
「みんな強そうだね、2ケ月後が楽しみだよ!」
それだけ言い放って今度こそフブキとともに教室を出ていった。
残された悠たちは顔を見合わせて同じ疑問を抱く。
「2ケ月後って、どういうこと?」
「さあ…?」
その疑問に対する答えが出ることはついぞなかった。
午後の授業はお昼の衝撃的な出来事のおかげで眠気に襲われることなく切り抜け、現在悠はラミィとともに下校中。校舎を出る際にフブキに呼び止められたが先約があったらしいまつりと他の先輩方に問答無用で連れていかれていた。南無三。
登校時と同じように他愛のない話をしながら歩いていたが、ピクリと悠が何かに反応したかのように反応して歩みを止め、同じタイミングでストライクハートから念話が入る。
〈マスター〉
〈分かってる。授業中じゃないのが幸いしたかな〉
悠がわずかに顔を曇らせる。
しかしそれも一瞬のこと、すぐにかぶりを振ると急に止まった悠に疑問符を浮かべていたラミィに話しかける。
「ごめんラミィ。ちょっと行かなきゃいけないところがあるの思い出したから今日はここで!」
「え?う、うん。それはいいんだけど…一緒に行こうか?」
「ごめん。気持ちは嬉しいけど個人的な用事だし時間もかかりそうだから先に帰ってて。また明日だね」
「…うん、また明日」
自分の事情にラミィを巻き込むわけにはいかないと嘘こそ言っていないが内容をぼかして断る。少し寂しそうにするラミィに罪悪感が湧くも、悠は踵を返して来た道を駆け足で戻る。周囲に人がいない路地に入ると首に下げていた待機形態のストライクハートを握りしめ、掲げる。
「場所はまたエルフの森近くのはずれの森だ。被害が出る前に急ごう。ストライクハート、セットアップ!!!」
「Stand by ready. Set up!」
光が悠を包み込み制服をバリアジャケットへと換装する。
右手に握られた
「フレア」
「うん」
暁が空を染めあげる夕暮れ時、はずれの森の中で2人の少女が空を睨む。
肩ほどまで届く光を跳ね返す銀髪にエメラルドの瞳、機動性を求めつつも重厚感を感じさせる騎士甲冑を身にまとう人間の少女は
リボンで1つにまとめられた煌びやかな金髪にガーネットの瞳、手にした弓も相まって狩人を彷彿とさせる衣装を身に着けているハーフエルフの少女は
2人がこの場を訪れていたのは偶然に近いものだった。
本来であればホロライブ学園所属の2人は学園内の施設である仮想戦闘室で訓練をする予定だったが、抽選が外れたことによりこれを断念。ならば人のいない場所で訓練すればいいということでフレアの提案でエルフの森のすぐ近くのこの森まで足を運んでいた。
そこに現れたのがいま2人が警戒している生命体。
その体躯は優に5メートルを超えており、外皮は赤黒い硬質の鱗で覆われている。
何より特徴的なのは雄大に空を駆け、一振りで突風を生み出す一対の大翼。
こんな場所に生息していい生物ではない───
ノエルを前衛に、後衛のフレアが翼竜の様子をうかがう。
手に弓を持ってはいるが矢をつがえはしない。その行為はすなわち相手に対して交戦の意思を示すことになり戦闘突入は必至。2人からすれば空を飛ぶ翼竜の存在は厄介極まりないものであり、交戦せずに去ってくれるのであればそれが一番であった。無論、攻撃してくれば即座に対応する態勢は整えているが。
翼竜は1周2周とその場を旋回、そして竜の相貌が2人を射止めると静止。その瞬間、フレアの狩人たる圧倒的な視力は翼竜の口からわずかに炎が漏れ出すのを見逃さなかった。
「ッ!!
コンマ数秒という驚異的な速度で弓を構えて矢をつがえ詠唱。身に秘めた魔力が矢に流れ、業火を宿す。
翼竜が火球を放つと同時にフレアも火矢を撃つ。直線状で結ばれた2つの攻撃は予定調和のようにぶつかり爆発音とともに炎を振りまいて弾ける。
威力は互角、しかし状況はまったく芳しくなかった。2つの攻撃の衝突によって生じた残火が雨のように地上に降り注ぐ。このままでは森に火が付き大炎上、下手すれば隣接するフレアの故郷たるエルフの森にも火の脅威が迫る。
「ハアァ!!!」
そしてそれを阻止したのはノエルだった。
声に覇気を乗せ、己の得物たるメイスに魔力を乗せ全力をもって振るう。人間の少女にあるまじき膂力から繰り出されたその一撃は大気を唸らせ烈風を作り出し、降り注いだ残火をまとめて吹き飛ばした。
さらにそこで終わらないのが2人のコンビネーション。
ノエルがメイスを振りかぶった瞬間にフレアはすでに第二射を構えていた。
狙うは火球を放ったことにより開かれた顎、その奥の喉元。外殻は見るからに硬い鱗に覆われているため却下。外殻の中で唯一急所といえるであろう眼もさすがにここまで離れた距離で動く対象に狙うのは現実的ではない。文字通り面と点を狙うくらい難易度に違いが出てくる。
矢に魔力を込める。エンチャント無しの純粋な威力を引き上げと確実に当てるための誘導制御。火を扱う相手に火で対抗するのは愚策。フレアの専売特許はなにも属性付与だけではないのだ。
つがえた矢の数は3本。
「ナイスノエちゃん!いっけぇ!!!」
ヒュヒュンッとかすかな風切り音を鳴らしフレアの指から離れた矢が翼竜を襲う。2つは牽制兼ブラインドとして眉間に、そしてわずかに遅れて隠された本命の一矢が無防備に開かれた喉元に。
2人に油断はなかった。
警戒も決して解いてはいなかった。
しかしカウンターの一矢を放った瞬間にフレアは「とった」と確信して反撃のイメージがわずかに薄れ、ノエルもまたフレアの実力を信じたがゆえに同様の思考を持ってしまった。
反撃の矢が迫ってきてなお、攻撃が終わってなお翼竜が口を閉じなかった理由を二人は追いきることができなかった。
「─────!!!!!」
「グゥッ!?」
「なに、この音…!?」
なににも形容しがたい
幾重にも重ねられた音が共振波を生み出し、矢をまとめて弾き飛ばす。それに驚愕したのは耳を抑えながら膝をつくフレアだった。
「そんなッ、魔力が掻き消された…!?」
フレアの放った矢は魔力によってフレアの制御下にあった。そして翼竜のあの音を聞いた瞬間に矢がフレアの制御下を離れるのを感じ、即座に原因を理解する。
あの攻撃は魔力そのものを抹消する。
ふざけるなと言いたかった。
直接的な攻撃性能はほとんどないにしても破格すぎる。そもそもそんな能力を持った翼竜など昨今聞いたことすらない。
翼竜が再びタメの動作に入る。
気づいたフレアがいまだに耳に残る残響を無理矢理振り払い弓を構える。しかし次の光景に再び驚愕することになった。
(多…いっ!!)
翼竜から炎弾が放たれる。それだけなら何も驚きはしなかったが問題はその数であった。
ゆうに20を超える炎弾、その1つ1つは小さいが決して無視できるものではない。1つでも取りこぼせばアウト、しかも先ほどのようにノエルの攻撃の余波で振り払えるようなものではない。
フレアはあきらめずに矢を放ち続け相殺、ノエルも余波で振り払えないならと木々をジャンプして駆けあがって直接炎弾を打ち落とす。
しかしそれでも圧倒的に足りない。
手数が、時間が。
2人は翼竜を睨みつける。
そんな翼竜は、2人をどこまでも冷たく見下ろしていて。
その次の瞬間、炎舞い落ちる暁の空に数多の流星が駆け抜けた。