ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part14 追憶とその後

 

 

 

 悠の記憶は戦火の中から始まった。

 駆け巡るは銃撃と剣戟、動乱と混乱。

 

 近未来感を感じさせる中心都市はもう見る影もなく、すべては瓦礫の中に消えていた。

 そしてそこかしこに倒れ伏す人、人、人。

 人々が赤黒い液体を流しながらピクリとも動きはしないこの戦場はまさに屍山血河。

 

 

 

 そんなおぞましき光景を幼き悠は体を揺られながら見ていた。

 その表情に変化はない。まるでこの光景をなんとも思っていないように傍からは見えるだろう。しかし正確には未だに自我が覚醒しきっていない悠にとってこの光景が現実のものとは思えなかったのだ。

 建物が崩れ去る様子も、人が血を流す瞬間も、その時の悠には映画を見ているような、別世界の光景のように映っていた。

 

 急に視界がガクンと揺れる。

 その先に映ったのは一組のうら若い男女。

 焦燥を隠せていない二人は、男性がおぶっていた悠がこちらを見ているのに気づくと慈愛の笑顔を浮かべて語り掛ける。

 

 

 

「ああ、目を覚ましたか。良かった…」

 

「悠、私たちが分かる?」

 

「………だれ?」

 

 悠のその返事に2人は顔を見合わせ一瞬驚き、悲しげで、それでいて納得の表情。

 こうなることが分かっていたのかあくまで冷静に、駆ける足は決して止めずに続ける。

 

 

 

「…私たちは悠、キミの両親だ」

 

「星宮悠。それが、あなたの名前よ」

 

「ほしみや、ゆう」

 

 この時の悠は、ピンと来ていなかったのだろう。

 うわ言のように自分の名前を繰り返す。反芻するように、刻み込むように。

 

 すると近くで爆発音が響く。

 続いて聞こえてきたのは大量の怒号と足音。

 悠の両親は苦虫を噛み潰したような顔をして走るペースを上げた。

 

 

 

「地下の秘密口まではどのくらいだ?」

 

「もうすぐそこよ。私が開けるわ」

 

「よし、なら…「待てえぃ!!!」…ッチ!追いつかれたか」

 

 男性が舌打ちをしながら悠をおぶったまま女性を隠すように立ちふさがる。

 悠が男性の視線の先を追うとそこには杖、銃、剣と様々な武装をした大人と、最前列にいかにも研究者然とした初老の男がいた。

 男はイラついた様子を一切隠すことなく頭に血管を浮かばせながら叫ぶ。

 

 

 

「貴様らぁ!!!我が国が襲われているこんな時に我らを裏切るとはどういう了見だ!」

 

「ハッ笑わせてくれる!この事態に乗じて俺ら2人をまとめて始末しようとしてたこと、気づいてないとでも思ったか!」

 

「ッチィ、こんな時だけ勘の鋭い…!」

 

『裏切る』、『2人を始末』、『勘の鋭い』。

 

 人に対する知識はなくとも考える知能は年不相応に持ち合わせていた悠は、今の会話で怒鳴り散らかしている男の目的をある程度察してしまった。同時に、両親と名乗った2人が何をしようとしているのかも、間近で2人の所作を見たがゆえに理解する。

 男は悠に指をさしてまくしたてる。

 

 

 

「さっさとその成功体を渡せ!!!()()があればこの状況をひっくり返せる!我が国を守ることができるのだ!」

 

「誰が渡すかよ!俺たちの息子を戦争の道具になんかさせねえ!!いや、たとえ息子じゃなかったとしても、何も知らない子供を無理矢理戦場に駆り出そうとする国なんてクソくらえだ!!!」

 

 悠の予想は正しく、研究者の男の目的は悠の確保、そして父親たる男性の目的はこの国からの逃亡であった。

 

 そして初老の男が言っていた成功体…すなわち悠は実験体だということだ。

 2人の言葉をそのまま捉えるのであれば、男に連れていかれれば悠は戦争の道具として戦場に駆り出されるのだろう。守ると銘打ってはいるが、研究者の男の瞳に隠し切れない狂気が宿っていたことを悠は見透かしていた。

 そしてその時に悠が思ったのは、連れていかれればこの2人は悲しむのだろうかということだった。

 

 

 

 あぁ、それは…嫌だな。

 

 両親たる2人がその実験とやらに関わっていたのかは定かではないが、2人が悠を大切に思ってくれているのであろうことは幼き悠でもよく分かった。だからこそ、何も知らないこの世界で、必死に自分を守ろうとしてくれている人たちを、悠は信じたいと思った。

 なら、としがみついてた男の耳に口を寄せ、尋ねる。

 

 

 

「なにをすればいいの?」

 

「………!悠…」

 

「信じる。2人を…おとうさんと、おかあさんを。だから…」

 

「…ありがとう、悠」

 

 男性は嬉しかった。

 拒絶されなかったことが。

 また悠が自分のことを父と呼んでくれたことが。

 

「数秒後、合図をしたら目を耳を閉じるんだ。あとは任せろ!」

 

「…うん!」

 

 追っていた2人も部門こそ違うが優秀な工学研究者であった。条件次第では生かすことも考えて連れ戻すことを第一命題とされていたが、ここまできてようやく交渉の余地がないと判断したのか、研究者の男がおもむろに手をあげると後ろにいた大人たちが武器を向ける。

 

 

 

「ヤツは殺して構わん。ただし成功体には傷一つつけるなよ」

 

「はっ」

 

 じりじりと距離を詰められる。

 そんな中悠の父はアイコンタクトで母に合図を送る。

 そして詰め寄ってくる輩を一瞥すると不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

「その判断は一歩遅かったな!今だ悠!」

 

「…っ!」

 

 合図に応じて悠は目と耳を塞ぐ。

 その瞬間、塞いでもなお聞こえてくる爆発音とともに視界がフラッシュアウトを引き起こした。

 巻き起こる混乱、その間に母が開けていた地下への秘密口に入るとすかさず扉をロック。これでしばらくは奴らは入ってこれない。

 

 

 

「…なにをしたの?」

 

「特製のフラッシュバンさ。普通の攻撃はバリアジャケットで防がれちまうからな」

 

「バリア…?」

 

「あなた急いで!扉だって長くは持たない。急いで脱出するわよ!」

 

「ああ!いくぞ悠。…いいか?」

 

「………うん。行くよ」

 

 父の質問にはいろんな意味が含まれていたのだろう。

 それも全部ひっくるめて、悠は是の返事をした。

 母が立っていたのはポータルのようなもの。つまるところ人工的な転送魔法である。

 悠は父とともにポータルに立つとふと振り返り、先ほどまでの光景を思い出す。

 

 夥しい血の河と死体の山。

 それでもなおなりやまない銃撃と剣戟、そして雄叫びと悲鳴。

 悠はそれらをすべて見捨ててここを去る。

 知らない人だからなど関係ない。助けられる可能性のある人たちを、奴らの手から逃れるために、自分の身可愛さに自分の都合を優先させて切り捨てる。

 自分がやろうとしているのは、そういうことだと心に刻み込んだ。

 

 悠たちの輪郭がぶれる。

 その次の瞬間、眩い光とともにその3人は忽然と姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………朝、か」

 

 まだ朝日が昇りきっていない未明、悠は冷たい汗が流れるのを感じながら目を覚ます。

 心臓がうるさい。汗で服が張り付いて気持ち悪い。

 

 ノエルとフレアの元を逃げるように去って家に帰った後、それから今までの記憶はほとんどなかった。

 何も考えられず、事務的にやるべきことをやって、泥のように寝たのだろう。

 思い返すは夢の記憶。

 文字通り悠が覚えている一番初めの記憶。

 戦乱と混乱、一国の民全てを見捨てたあの日。

 

 

 

「…それだけだったら、アイツが出てきたりしないんだけどな…」

 

 それだけ呟くと、気持ち悪さを洗い流すためシャワー室へと向かった。

 日課の鍛錬は、する気にならなかった。

 

 

 

 

 

 ノエルとフレアの元を逃げるように去ったことを今になって激しく後悔していた悠は落ち込んだ気持ちのまま授業を消化していた。

 どうにかラミィたちに余計な心配させないようにとポーカーフェイスに勤しんでいたが、あえなくバレて心配される結果となった。全くポーカーフェイスできていなかったのが原因だが。

 

 時は流れ放課後。

 事情を聴いたラミィたちの「とりあえず会って話すこと!」という念を押されたアドバイスの元、2年の教室を目指す。そして校舎の階段を上って2年の教室が並ぶ2階に辿り着いた瞬間、人とぶつかった。

 手すりにつかまっていた悠は無事だったが、急いでいたのかぶつかってきた生徒はバランスを崩していたためその手を取って助ける。

 

 

 

「っと、大丈夫ですか……って…」

 

「うう、これは失敬…って悠くん!」

 

「白銀先輩、不知火先輩も…こんにちは」

 

「うん、こんにちは」

 

 そこにいたのは件の探し人であるノエルとフレアだった。

 どことなく気まずい空気が流れる。

 口を開いたのはほぼ同時であった。

 

 

 

「「あの!」」

 

 再び沈黙。

 黙りこくった悠とノエルを見かねてフレアが助け船を出す。

 

 

 

「はいはい2人とも落ち着いて。悠くん、私たちを探してた…ってことでいいのかな?」

 

「…はい」

 

「うん、ならちょうどよかった。私たちも同じだから、場所移そっか」

 

 フレアはそう言うと踵を返して歩き出す。

 昨日と違いストレートに伸ばされた煌びやかに揺れる長い金髪を見て、悠とノエルはお互いを見あう。

 そしてわずかに苦笑いを浮かべると、2人してフレアの後を追う。

 

 ノエルとぶつかった際に顔にとんでもなく柔らかい感触を感じたのは、勘違いだと信じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

 空き教室に着いて、開口一番の謝罪とともにノエルに頭を下げられる。

 悠はそれを見て慌てて止める。

 

 

 

「ちょ、謝らないでください!それは僕がするべきことであって…」

 

「ううん、団長は謝らなきゃいけない。不用意に悠くんの過去に踏み込んだこと。悠くんの言葉で触れるべきじゃないって察しておくべきだったのに…」

 

 ノエルは頑なに頭を上げない。

 自分に非があると譲らない。

 こうなれば梃子でも動かないだろう。白銀ノエルとは、そういう少女だから。

 悠もそれがなんとなく分かったから、視線をノエルと同じ高さまで下ろして話す。

 

 

 

「解離性同一性障害…って、知ってますか?」

 

「?ええと、二重人格、みたいな?」

 

 突然の質問にノエルはつい顔を悠に向け答える。

 しかしなんとなく聞いたことがあるといった程度の知識しかなかったため質問で返してしまうようなあやふやな回答になってしまった。

 それに対して悠は顔を上げたノエルに視線を合わせて続ける。

 

 

 

「まあ大体同じようなものですね。二重人格は一人の人間の中に全く別人の人格が共存している状態。それに対して解離性同一性障害はもともと一人の人間が何らかの要因で心の中に別の人格を生み出してしまう…僕の場合は切り離してしまうが正しいのですが」

 

「…???」

 

「ノエちゃん…」

 

 これがアニメであれば頭に大量のハテナマークが浮かんでいるであろうノエルの表情にフレアは頭を抱える。

 そんなやり取りに暗い顔で話していた悠の肩の力が抜ける。

 

 

 

「要するに、もともと僕という1人の人間の心がある日を境に2人に分かれたんです。今の僕と、そして、昨日2人を襲おうとしたもう1人の僕に」

 

「あー!そういうことか!」

 

「ノエちゃん………」

 

 以下略。

 悠は改めて2人を見ると深く頭を下げる。震える声で、謝罪を伝える。

 

 

 

「先輩の謝罪を受け取ります。そして、本当にごめんなさい。あの時の僕はたしかに今の僕ではなかったけど、僕がやったことには変わらない。いや、あの感情をもってあの行動をしたのも、たしかに自分自身なんです。だから…ごめんなさい」

 

 

 

 悠が話して、そして頭を下げるのを見て、ノエルとフレアは顔を見合わせる。

 そして先ほどと逆になるように2人は頭を下げた悠に視線を合わせて言った。

 

 

 

「…ありがとう。そこまで話してくれて」

 

「顔、上げて?」

 

「…え?」

 

 ポンポンと頭を撫でられる感触とその言葉に驚いて悠は弾かれたように顔を上げる。

 そこにはどこまでも優しい笑顔を浮かべる2人の姿。そして今だにノエルによって頭を撫でられ続ける現状にポカンとした顔をする。

 

 

 

「ふふ、悠くんでもそんな顔するんだ~」

 

「だね、少し意外だったかも」

 

「え、あの…え?」

 

「別に怒っとらんよ。話を聞いた時はちょっとビックリしたけど…あの時だって最終的に攻撃されたりはしてないし」

 

「それにこうやって謝りに来てくれたし。これで怒ろうものなら…ねえ?」

 

 意外過ぎる2人の言葉に悠は未だ言葉を続けられずにいた。

 ノエルは撫で心地のいい悠の頭から名残惜しそうに手を放し、逆の手をフレアとともに悠に伸ばす。

 

 

 

「だから、これは仲直りの握手!これから、団長たちの友達になってくれる?」

 

「…どうかな?」

 

 ノエルとフレアに悪感情は一切ない。

 本当に怒ってないし、あんなことをした自分にこうして手を伸ばしてくれる。

 それが嬉しくて、申し訳なくて。

 それでも、悠は意を決して2人の手を取った。

 ここで何もしないのは逃げでしかないから。

 2人もまた勇気を出してこう言ったのだと、そう思ったから。

 だから、こう言うことにした。

 

 

 

「…はい、()()()先輩、()()()先輩」

 

「「…!」」

 

「友達なら、こう呼んだ方がいいのかなと。あ!もちろん嫌ならすぐにでも…「「そんなことない!」」…!」

 

「そんなことないよ。むしろ言ってくれなきゃこっちからお願いするつもりだったんだから…」

 

「改めて先輩後輩として、そして1人の友達として。よろしくね、悠くん!」

 

「…はい!」

 

 

 

 3人は笑いあう。

 空き教室の窓から差し込む夕陽は昨日と同じで、そして全く違う温かさで3人を包み込んでいた。






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