ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part16 先輩の教え

 

 

 

 

 

 刻は夕暮れ。

 無機質で真っ白な空間にひとつ銀閃が煌めく。

 空を裂き一切のブレなく弧を描く一閃は美しさとともに恐ろしさを感じさせる冷たい刃。

 触れたわけではない。近くで見ただけにすぎないそれに、対面している少年と少女は首筋に鋭い刃物を添えられたような錯覚を覚えた。

 

 それは肉体(からだ)ではなく精神(こころ)、理性ではなく本能に刻み込む見えない刃。

 無駄という無駄を削ぎ落とされた一振り。

 軽く振るところを見ただけで理解してしまうほどに洗練に洗練を重ねられた一閃。

 

 それはまるで彼女の歩んできた軌跡を体現するかのようで。

 そうしなければならないほどの壮絶な修羅場をくぐり抜けてきたという経験の差を、否応なしに突きつけられているかのようで。

 

 

 

 そんな少年少女の心情などまるで気づいていないかのように、件の元凶である白狐の少女は抜き身の刀を鞘に戻し柔らかく微笑んだ。

 

 

 

「…よし。それじゃあそろそろ始めましょうか!準備はいいですか、ゆうくん、ラミィちゃん?」

 

 笑顔で言われたそんな問いかけに、2人の少年少女───星宮悠と雪花ラミィは顔を見合わせ、添えられた見えない刃の恐怖を振り払うように勝気に言の葉を結ぶ。

 

 

 

「…いつでも!」

 

「…いけます!」

 

「………ふーん」

 

 

 

 

 息ピッタリな2人のその返事に、白狐の少女───白上フブキの瞳にわずかな嫉妬の炎が渦巻いたのは、ココだけの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮想戦闘訓練室?」

 

 事の発端は同日のお昼時。

 いつものクラスのメンバーに加えて時たま合流するようになったフブキから不意に発せられたのはそんな単語だった。

 それに対して反応したのはもはやここ最近でいつも通りとなってしまったみんなへのおかずの分け与えをしていていた悠である。

 

 

 

「そう。みんなも知っても通りこの学園は武を磨き、競い合う。だからこそこの学園にはそのための施設も数多くあるんです。今言った仮想戦闘訓練室もその1つ」

 

 フブキはそこまで口にして隣にいた悠に向けて口を大きく開けて言葉にしない催促。そんな今まで離れていた時間を取り戻すかのような大胆な行動をとるフブキに、周囲の視線がある手前あまり積極的になれず「ぐぬっ!」と唸ったのが若干名。そして当たり前のようにそれに全く気付いていない悠はフブキの動作を見て昔を思い出すかのように何も言わず自身のお弁当にあったミニハンバーグを彼女の口に放り込んだ。

 「ん~!」と美味しさに打ち震えて尻尾をブンブンと振るフブキを尻目に話は続く。

 

 

 

「それで、フブキ先輩はなんで急にその話を?」

 

「~~~っと、そうでした!これ、一緒に行ってみませんか?」

 

 ミニハンバーグによって飛んでいた意識を無事に取り戻したフブキが懐から取り出したのは1枚のチケット。

 『仮想戦闘訓練室1号室利用券ー白上フブキ他5名』と書かれたそれがなんなのかはもう見たままだろう。先ほどフブキが言っていた仮想戦闘訓練室、それを利用するためのチケットだろう。

 フブキは件のチケットをピラピラとさせながら身を乗り出す。

 

 

 

「この利用券のチケット、実はほかの施設も含めてすべて抽選式でですね。午前中に応募してお昼に抽選発表があるんですけど、仮想戦闘訓練室はより実践的な施設ということで他の施設より人気みたいで倍率がかなり高いんですよ」

 

「へー、知らなかったです」

 

「仕方ないですよ。新入生たちにはまず学園生活に慣れてもらうというのを優先しているのか本来施設の説明があるのと抽選に応募できるようになるのは来月からですから。

 まあ入学初日にバトルロワイヤルをさせてるのに何を言ってるのか感はありますけど」

 

「確かに」

 

 まったくもって同感であった。

 それと同時にひとつの疑問。

 

 

 

「あれ、新入生たちが使えるのが来月からなんだよね?それなら僕たちが参加するのは無理なんじゃ…」

 

「あぁ、そこは大丈夫!新入生ができないのはあくまで応募だけ。上級生が手に入れたチケットに同伴する形で入る分には問題なしなんだ!まあ誘う人に自身と比肩する実力があってかつ誘えるだけの交流がある人じゃないとこういった実戦形式の訓練において上級生が新入生を誘う理由というのがないからそういうことをする人は殆どいないんだけどね…」

 

 「アハハ…」と申し訳なさそうに乾いた笑いをこぼすフブキ。

 別にフブキに一切の非などないのだが、そういう性格故か新入生が学べる機会が減っている現状に少々思うところがあるようである。

 だからこその今回のお誘いなのだろう。無論悠がいるからというのが大きな理由であろうことは悠以外の全員が察しているのだが。

 

 

 

「それで、どうしますか?同伴の人数は5人なのでここにいる皆さんが来てくれるならありがたいですけど…」

 

 遠慮がちに訊ねてくるフブキに対して5人の心情は一致していた。顔を見合わせ、わずかに笑い、そして答えた。

 

 

 

「「「「「是非!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、いつでもどうぞ」

 

 そして話は冒頭に遡る。

 悠のバリアジャケットへの換装を終えて、現状は互いに適度な距離を保って無手のラミィ以外の2人は己が得物に手をかけている状態。

 

 悠はいつも通り機械的な印象を持つ杖形態(アクセルモード)のインテリジェントデバイス『ストライクハート』。

 対するフブキは白い柄巻を巻いた白銀の刀身を持つ刀『ムラサメマル』。

 

 高鳴る鼓動を落ち着かせるように静かに深く呼吸をする悠だが、体はそんな心情と相反するように鼓動を早めストライクハートを持つ手に無意識に力が入る。

 先程のフブキの一閃を見てしまったが故か、人数的には2対1と有利なはずなのに明確に勝利するビジョンが思い浮かばない。いかなる術もあの美しくも恐ろしい一刀のもとに切り伏せられるイメージが脳裏にこびりつく。

 

 だが、退くわけにはいかない。まだ何もしていない相手に逃げ腰なんて、絶対にゴメンだ。

 高鳴る鼓動はそのままに、悠は瞳に意思を宿しフブキと向かい合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、どっちが勝つと思う?」

 

 そんな悠たちを部屋の外から見ているのはかなた、ココ、ぼたんの3人。悠たちの一挙手一投足を見逃すまいと視線は外さず興味本位でかなたは2人に質問する。

 

 

 

「悠たちには悪いけどフブキ先輩かな。まだ始まってないから何とも言えないけど、傍目で見てもフブキ先輩にスキが全く見当たらない」

 

「同感ダナ。あの人は強いゾ」

 

「そう………!動いたよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなたが言うと同時に展開は加速した。

 武器を見る限り近接型のフブキが遠距離型の悠とラミィにいまだに距離を取り続ける理由は誘いか、あるいはこちらの初手を見てみたいのか。しかしどちらにせよ動かなければ事態は変わらないと意思を固めた悠はラミィと一瞬のアイコンタクト。

 ストライクハートに取り付けられた弾倉から炸裂音が鳴り響き、内に秘めた魔力が瑠璃色の光となり魔法陣を形作る。同時にラミィも詠唱を開始。

 2人の周囲に浮かび上がった魔力球と氷の飛礫は、キーワードとともに撃ち出された。

 

 

 

「アクセルシューター…シュート!」

 

氷飛礫(アイスバレット)!」

 

 

 

 ダメージを与えるためではなく動きの観察のため。しかし一切の手加減なく撃ち出されたそれは並の人なら一撃で昏倒させられる威力を秘めている。

 上下左右から様々な軌道を描いて迫る2人の攻撃に対して、フブキは微動だにせず、鞘に納めたムラサメマルを緩く握るのみ。

 軌道が直線故に速度の速い『氷飛礫』が先行してフブキに辿り着く。

 氷弾が直撃するその直前。

 

 

 

 鯉口を切るかすかな音とともに氷弾がひとつ残らず粉々に切り裂かれた。

 

 

 

「えっ……!」

 

 ラミィの驚愕の声をよそにフブキは止まらない。

 わずかに遅れてやってきた悠の誘導弾、複雑な軌道で迫るそれも鋭い剣閃でもってそのすべてを両断した。

 はじけた魔力の残滓が光の欠片となって漂う中でフブキに損傷はなく完全に無傷。ただの1歩も動かず数多の飛来物すべてを一振りの刀のみで迎撃しきった技量に悠とラミィに加えて見物人のかなたたちも顔色を変える。

 

 経験したからこそかなたたちも分かる。1歩も動かずそれをこなすことがどれだけ難しいか。

 ラミィの『氷飛礫』はその物量の多さ、悠の『アクセルシューター』は悠の意思で軌道を変えられる複雑性がある。

 フブキは同時に迫るそれらを完璧に捌ききってみせた。

 回避ならまだ理解できる、迎撃ならぼたんもこなしていた。

 しかしそれは1()()()()()()という条件が加わっただけで一気に難易度が跳ねあがるのだ。

 

 

 

「うん。じゃあ、次はこちらからいきますよ!」

 

 そしてそれをこなしたとは思えない緩やかな表情を浮かべるフブキはムラサメマルを手に構える。

 体は半身に、刀の切先を悠たちに向けた霞の構え。

 悠はそれに対して『アクセルフィン』を起動、空には浮かばずラミィを庇うように前面に立つ。

 ひとつフブキから短い呼吸音。

 

 

 

「…ッな!!??」

 

 

 

 フブキの体がブレたと感じたその次の瞬間には、10メートルは離れていたフブキが眼前に立っていた。

 悠は反射的に魔法を発動。展開速度に優れ、安定した防御力がある『ラウンドシールド』。円形の魔力盾が2人の間に瞬く間に形成される。

 それを見てもフブキは構わずムラサメマルを振り下ろす。刀を扱う者にとって最も基本的な技である袈裟斬り。

 

 

 

(これを防いで、カウンターの『高速近接砲撃(クロススマッシャー)』。防がれても距離はとれる!)

 

 瞬間移動かと錯覚する速度で接近されたのには驚いたが、その後の展開を予想した悠はさらに魔法を同時展開し、左手に魔力を集中させる。

 つい見惚れるほどの剣筋、受ければ悠の頭と体がお別れすること請け合いなブレなき白銀の剣閃が迫り『ラウンドシールド』と衝突する、その直前。

 

 

 

 

 

 ムラサメマルを見た悠の体を得も言われぬ悪寒が駆け抜けた。

 

 

 

(ッ!これ、ヤバ…い!!!)

 

 一切の抵抗なくムラサメマルがきれいな弧を描き振り抜かれる。

 空を切る音すら聞こえない一閃。その一刀によって『ラウンドシールド』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 フブキはムラサメマルを振り抜いた状態のまま目線だけを2人に合わせて語り掛ける。

 

 

 

「…それごと切り裂いたつもりだったんだけど。よく気づいたね、ゆうくん?」

 

「あっっっぶなかった…!刀身から冷気が漏れていたのに気づかなかったらアウトだったよ…」

 

 悠とラミィはフブキから5メートルほど離れた地点にいた。ラミィは突然の事態に言葉が出ず悠の腕の中。悠はバリアジャケットを袈裟斬りの軌道通りに切り裂かれながらもいまだ健在、そしてバリアジャケットにつけられた傷はその切断面が凍り付いていた。

 『アクセルフィン』と『フラッシュムーブ』の併用による悠が出せる最大加速、それをもってしてもギリギリの回避。『ラウンドシールド』は刀の一振り程度では破られないと信じてしまっていたが故の反応の遅れ。いや、その認識は決して間違いではなく、フブキが繰り出したものがただの剣閃であれば間違いなく悠が予想した通りの展開になっていたはず。

 

 問題があるとすれば悠が『フブキは魔法(妖術)が使えない』と誤認したこと。

 その結果、フブキの刀であるムラサメマルに属性付与(エンチャント)───それもバリアジャケットと『ラウンドシールド』を同時に切り裂くほど高練度のもの───が施されていることに気づくのが遅れた。

 

 自身の誤認を責めたくなるも今はその時間ではない。

 悠は腕に抱きかかえていたラミィを降ろし、問いかける。

 

 

 

「ラミィ、大丈夫?」

 

「…うん、ごめん悠くん。でも、大丈夫!」

 

 ラミィの瞳に光が宿る。

 それを見た悠はかすかに笑い、『アクセルフィン』を稼働させ上空をとる。

 

 

 

「いいんですかゆうくん?」

 

 なにが、とは問わない。

 だが悠にはそれがなにかは分かっていたし、その答えも持ち合わせていた。

 

 

 

「フブキの属性付与が氷ならラミィの『氷華盾(アイスシールド)』とは相性が悪く突破は難しいし、それでもなおラミィを狙うつもりならまた割り込ませてもらうだけだよ。それに、()()()()()()()()()()()()

 

「…!」

 

「凍れ、大地氷結(アイスフロア)!」

 

 氷同士がぶつかるような独特の音を響かせラミィを起点に放射状に地面が凍り付く。しかしフブキは1年のバトロワを見てその魔法も、そして射程範囲も知っているため射程外に逃げようとする。が

 

 

 

(…!やられた、ラミィちゃんがいるのは部屋の隅。つまり、射程範囲はこの部屋全域!)

 

 フブキはそれを察すると即座に進路を変える。後方から、側方───壁に向かって駆け出す。

 

 そしてそのまま、氷に足を取られる前に地面を蹴り壁に足をつけ全力で()()()を走り出した。

 

 

 

「う……っそぉ」

 

 そんな声が漏れたのは悠か、ラミィか、あるいは他の3人か。

 そのあまりにも常識はずれな行動に思考が止まるが、いち早く復帰した悠はラミィに向かって駆け出しているフブキを止めるべくストライクハートを向ける。

 

 

 

「させない。モードチェンジ!バスターカノンモード!」

 

 変形を終えると同時に即座に行われるカートリッジロード、そして魔法陣の展開。

 渦巻く魔力がストライクハートの砲口に集積し、膨大な魔力の塊が星のように輝く。

 フブキの移動経路、撃つタイミング、速度。そのすべてが完璧に計算されたソレは正確無比、回避不能の一撃にして悠が絶対の信頼を置く主砲。

 

 

 

 

 

「これで決めるよ!ディバイン…バスター!!!」

 

「Divine Buster.」

 

 ゴッ!と空気を消し飛ばす音とともに魔力砲撃がフブキめがけて撃ち出される。

 高速で迫りくる砲撃に気づいたフブキが視線を合わせるが、さすがに壁面上で軌道変更はできないのか避けるそぶりはない。

 

 しかし砲撃を、そしてその奥にいる悠を見る瞳には焦りも恐怖もなく、ただ静かに目の前の事象を見据えていた。

 

 おもむろに抜き身の刀を鞘に戻す。

 抜刀の構えから脱力し無駄な力が一切入っていない自然体の姿。

 砲撃がフブキに直撃するその直前に、悠とラミィは、フブキの声を聴いた。

 

 

 

 

 

「白狐一刀流抜刀術………」

 

 

 

 

 

「『月閃』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音は、しなかった。

 

 

 

 刀の軌道は、見えなかった。

 

 

 

 ただ、結果として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フブキを中心に、瑠璃色の光が綺麗に2つに分かたれていた。

 

 

 

「……………そん、な…!」

 

 ココのときのような相殺ではない。翼竜(ワイバーン)のときのような対魔力特化のような対策をされたわけでもない。ただの一振りの得物とその技量だけをもってして主砲を完膚なきまでに打ち砕かれ茫然とする悠をよそに、悠の砲撃の余波が地を揺るがし、『大地氷結』によって形成された氷の床が粉々に砕かれる。

 それを見たフブキは壁を蹴って地面に降り立ち、その勢いを落とさないままラミィに迫る。

 

 

 

「ッ氷華盾!」

 

 ラミィとフブキの間に氷の花弁の盾が現れる。

 力業での突破もできるが、()()()()()()()()()

 足に妖力を集中させ、序盤でも見せた一瞬の超加速。足に負担がかかるため連続で使えないのがネックだが、今回に関しては特に気にする必要もない。

 

 ラミィからしたら目の前からフブキが突然消えたかのように見えただろう。

 運よくジャリッと氷の破片を踏み抜く音で気付き後ろを振り向くが時すでに遅し、眼前に迫ったムラサメマルによって切り裂かれダメージ超過によってステージ外へ転送されていった。

 

 

 

「くっ…ラミィ!」

 

「嘆いてる暇はないよゆうくん!」

 

 フブキは再び壁走りで高度を稼ぎ、いまだ反撃の準備が整っていない悠に向かって跳ぶ。

 その勢いのまま悠に向かってムラサメマルを斬りつけ…いや、叩きつけた。

 反撃は論外だがどうにかギリギリでムラサメマルの軌道上にストライクハートを滑り込ませた悠だったが、衝撃を殺しきることはできずに地上まで叩き落される。

 

 

 

「グッ…ああぁ!!」

 

 墜落した衝撃でほんの一瞬意識が飛んだ悠だったが、見上げた天井から落ちてくる人影を視認するとすぐさま『アクセルフィン』で無理矢理その場から離脱。かなり不格好だったが直後に悠がいた場所に白銀の刀が突き刺さったのを見ると英断だったと言えるだろう。

 

 フブキが突き刺さったムラサメマルを引き抜く間に態勢を整える。

 再びフブキは霞の構え、そして三度の超加速で悠の眼前に迫り氷の属性付与を施したムラサメマルで高速の突きを繰り出す。

 

 

 

(っまたか!)

 

 息つく暇を与えない連続攻撃。半ばカンで首をひねることで悠はどうにかその攻撃を避けると『アクセルフィン』で離脱を図る。

 しかし当然フブキがそれを許すわけがない。

 『アクセルフィン』で地上から上空まで飛翔するには、水平移動と違ってどうしても一瞬の()()が必要になる。平時であれば枷と呼ぶまでもない些細なことではあるが、その一瞬を狙うことができる相手であれば話は変わる。

 

 下段からすくい上げるような逆袈裟斬りを上体を反らすことで回避。しかしそれによって『アクセルフィン』を起動することができず、フブキの猛攻はとどまることを知らない。最後のラッシュと言わんばかりに効率度外視で永続的に属性付与をかけたムラサメマルを振るい続ける。

 

 防御不可のラッシュ。であればこのままいけば確実に悠が競り負ける。よって悠の勝機があるとすればもうここしかない。

 この2人の間で属性付与をかけたムラサメマルの攻撃は『ラウンドシールド』を無効化するというのは共通認識だ。

 

 故に()()()()()()()()()()()()()()

 この思考をフブキが持っていることに賭けて、悠は動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストライクハート!」

 

「Load Cartridge.」

 

 アクセルモードに戻したストライクハートの内部でカートリッジが炸裂し、膨大な魔力が溢れるとともに開いた排出口から空薬莢が排出される。

 悠の状況は完全に劣勢。回避も偶然に偶然を重ねたもので態勢もすでに崩れ切っている。

 そんな中での反撃などまともな効果を発揮しない。

 フブキは余裕をもってこちらに向けてきた悠の左手の軌道上から離れて首筋めがけてムラサメマルを振り抜く。

 

 その瞬間、悠の瞳の奥にある星のような光が輝きを増した。

 

 

 

「エクセリオンシールド!!!」

 

 発動したのはまさかの防御魔法。しかしその防御魔法は『ラウンドシールド』とは一線を画す堅牢さを誇る多層障壁の『エクセリオンシールド』だった。

 これこそ悠の逆転の一打。格上の相手に勝つには正攻法では不可能、であれば奇策しかない。

 

 相手にとっての意識の埒外の行動。それはすなわち『属性付与状態のムラサメマルに対してのガード』である。

 

 『エクセリオンシールド』の堅牢さは他の防御魔法とは比較にもならない。少なくとも、属性付与状態のムラサメマルであっても一刀では絶対に突破できないと確信できるほど。

 これによってフブキの攻撃を防ぎ、一瞬でもフブキの動きが止まればゼロ距離からの『レストリクトロック』で拘束、砲撃でとどめという悠の黄金パターンに入れることができる。

 

 

 

 展開された魔法障壁はしっかりとムラサメマルの軌道上に入っている。ムラサメマルはそのまま吸い込まれるように『エクセリオンシールド』まで進み

 

 

 

 

 

「…ゆうくんなら、無謀な反撃はしないと思ったよ!」

 

「ッ消え…!?」

 

 目の前からフブキの姿が跡形もなく消え去った。

 その直後、魔力感知によって背後に反応があり左手に発動させた『エクセリオンシールド』を咄嗟に背後に向ける。

 しかし背後に視線を向けてもフブキの姿は見当たらず、ドスッという生々しい音と同時に悠の胸から白銀の刀身が生えてきた。

 

 

 

「…あ………」

 

「えへへ、白上の勝ち、だよ!」

 

 背後からそんな声が聞こえてくる。

 顔を見ることはできなかったが、それはそれは満足そうな笑顔を浮かべていたのだろうと、悠は確信をもちながら転送魔法の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ということで、2人の課題は行動の素直さ、そして単純に近接戦に対する対処ですね」

 

 全員が転送されて戻ってきた後、悠とラミィはフブキからダメ出しをもらっていた。

 こういう言い方は語弊があるので言い換えると反省会、あるいは総評のようなものである。

 

 

 

「2人ともおそらく対人戦というのをほとんど経験してこなかったんでしょう。遠距離戦においても近接戦においてもフェイントなどの相手との駆け引きというのをほとんどしていませんでした。あくまでその場その場での最適解を出す。まあそれができるだけでも十分すごいんですが、それだけではいつか限界が来ます。上級生との戦いになったら嫌でも痛感することになると思うんですが」

 

 今現在絶賛痛感していますとは言えない雰囲気だろうなー。

 悠とラミィは顔を見合わせて同時にそう思った。

 

 

 

「近接戦についてはまあ言葉の通りです。2人の基本戦術は遠距離戦ではありますが戦況が目まぐるしく入れ替わるバトルロワイヤルにおいて近接戦への対処というのは必須項目。今回で言えばラミィちゃんは最後の場面で粘ることができればゆうくんの援護が間に合ったかもしれませんし、ゆうくんも白上のラッシュを捌けるようになればカウンター以外の選択肢も取れて結果は逆になっていたかもしれません」

 

「「なるほど…」」

 

 そう話しながらいったいどこから取り出したのか、フブキはいつの間にか伊達メガネをつけて知的な雰囲気を醸し出していた。あくまで雰囲気だが。

 

 

 

「例えばゆうくんは知ってると思いますけど、2年生の不知火フレア。彼女の得意は弓と炎属性の魔法による遠距離戦。ですが彼女の近接戦における評価は近接戦を得意とする並の学生のそれをはるかに凌駕しています。その秘密は…本人がいないので詳しくは語れませんが、一言でいうなら自身の能力の応用ですね」

 

 能力…ということはおそらくはフレアが得意としている炎属性の魔法を近接用に転用したといったところだろうか。今の言葉だけではどうしても憶測の域を出ないが、フブキが言っていた評価だけでそれがどれほどの有用性を示しているのかは想像に難くない。

 しかし逆説的にいってしまえばそれをしなければならないほどの魔境だということなのだろう。ホロライブ学園におけるバトルロワイヤルというものは。

 それを不意に察してしまい、無意識に息を呑んでしまう。

 

 

 

「まあフレアの話は一例ということで、現状での手っ取り早い解決法は武器を持つことですかね?たとえ今まで使ったことがなくても持つだけで動きは変わります。ラミィちゃんは氷を自在に操りますからそれを応用して作ってみてもいいですし、ゆうくんは杖を持っていましたがそれを無理に使って壊されたら困るでしょうし近接戦をする上ではリーチも威力もハッキリ言ってあまり怖くありませんでしたから、何か別で持つのもいいかもしれませんね」

 

 「まあこれもあくまで一つの意見ですので」と言葉を切るフブキ。話の途中でストライクハートが憤慨しそうになっていたが念話でどうにか抑えていた悠であった。

 

 

 

(しかし武器か…設備はあるし、材料もこの前あの露店で買ったのがある。…試してみるか)

 

 悠は顎に手を当てて思案顔。

 そんな悠を尻目にフブキはかけていたメガネをはずすと先ほどまで見学していたかなたたちに振り返る。

 

 

 

「それじゃあ次いきましょうか!かなたちゃん、ココちゃん、いきますよ?」

 

「は、はい!悠くん、ラミィちゃん、代わりにリベンジしてくるね!」

 

「ヨーシ、パイセン!ヨロシクたのみます!」

 

 かなたとココはそれぞれ気合を入れて、そうして3人は戦闘室へ転送し第二戦が始まった。それからは時間いっぱいまでひたすらメンバーを入れ替えて模擬戦を繰り返すこととなり、最終的にフブキに勝てた人は、ただの1人としていなかった。






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