ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part18 強襲、(つるぎ)は交叉して

 

 

 

 

 

 風が吹き森がざわめく。

 朝日を遮る深い森の中で魔力によって作り出された淡く光る光球だけが緑の世界を仄かに彩る。

 

 

 

「トレーニング開始します。カウントダウン…3…」

 

(…もう、敗けるわけにはいかない)

 

 そんな中で、白と青で構成された戦闘装束(バリアジャケット)を身にまとう少年が1人静かに佇んでいた。

 思い出すのは、仮想戦闘訓練室でのこと。

 2対1でありながら決定的な敗北を喫した。相手が年上だとか、学園有数の実力者だとか、そんなのは関係ない。

 ただ1人の少女に負けたという事実が少年の心に重くのしかかった。

 

 どうしようもなく悔しくて、たまらなく無力感に苛まれて。

 そしてそれ以上にその強さにひたすら純粋に焦がれて。

 心の奥底で闇すら焦がす熱く燃え滾る気持ちを凪がせるように目を閉じ静かに深呼吸をする。日が差さない場所かつ時間帯の影響か季節にそぐわぬかすかに冷えた空気が肺を刺激する。

 

 集中、集中、集中。

 意識がひとつ切り替わる。

 目を開き、先ほどより広くなった視界から余計なものを排除し、映るのは障害物の樹々とターゲットたる光球のみ。

 

 

 

「2…」

 

(いや、そうじゃないか…)

 

 その手に持つのは2()()の得物。

 普段と逆である左手に握るのは杖形態(アクセルモード)にしたインテリジェントデバイスであるストライクハート。

 そして右手に握るのは少年にとっての新しい兵装(武器)

 

 刀身1メートル弱、バリアジャケットにも使用されている白と金の硬質装甲によって形成されたそれは一般に”片手長剣(ロングソード)”と呼ばれる武器である。

 ひとつ違う部分を上げるとするならば、刃の部分が他の硬質装甲ではなく周囲に浮かぶ光球と同じ瑠璃色の光で形作られているという点。一度二度と少年が剣を振るう度にその光の軌跡が薄暗い森の中に舞う。

 

 

 

「1…」

 

(僕は、ただ…)

 

 足に魔力を込める。既に展開されていた2対の魔力の羽が震え、一つ大きく羽ばたく。

 

 好調だ、と少年は確信した。

 頭の中がクリアになり、神経の一つ一つに意識を張り巡らせ、自分の体を余すことなく自在に操作できるような、そんな感覚。

 わずかに口角が上がり、右手の剣を構える。

 

 

 

「0!」

 

(もう、誰にも負けたくないんだ!)

 

 

 

 瞬間、地面が爆ぜるような音と衝撃を伴って少年───星宮悠が軌跡を残して飛び出した。

 超低空で飛翔する悠は一番近くのターゲットまで一直線に接近すると、通り過ぎ様に右の剣の薙ぎ払いで光球を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

「次!」

 

 切り裂かれた光球は弾けて魔力の残滓をまき散らす。

 しかし悠はそれには目もくれず軌道を修正、急激な方向転換を行うとそのスピードを一切緩めることなく次のターゲットに意識を向け猛追。その途中で視界を狭め進行を邪魔する樹々を最低限の軌道変更で避け続ける。

 やっていること自体は単純だがその難易度は想像を絶する。

 

 悠の飛翔スピードはただの走行とは一線を画す。

 目まぐるしく切り替わる景色に加えて生い茂る樹々は閑散としているわけでもなく不規則に並び立っている。それらを『エリアサーチ』と肉眼の視覚情報のみで知覚し、ルート構築を行う必要があるのだ。

 常に位置情報を更新しリアルタイムで軌道修正とルート構築を行うのは並列思考と情報処理能力に負荷をかける。

 これができなければみっともなく樹木に正面衝突して怪我は避けられまい。

 

 悠は迫りくる気樹々の幹や枝をどうにか避け続け覇気の乗った声とともに辿り着いた次のターゲットを2個同時に切断してのけた。

 

 そこからは同じことの繰り返しである。

 ひたすらに森の中を縦横無尽に駆け抜け、樹々を避けながらターゲットを撃破していく。

 繰り出される斬撃の一つ一つが振るわれる度に光が舞い霧散していく。

 

 

 

「これで…最後!」

 

 全速力の突進に乗せたまさに神速の突きが最後のターゲットを寸分の狂いもなく貫いた。

 ひと際大きい爆発音とともに光が弾ける。

「ふぅ」とひとつ息を吐いた悠は左手に携えた相棒に向かって話しかける。

 

 

 

「ストライクハート、タイムは?」

 

「24秒63。記録更新ですね、マスター!」

 

「ありがとう。ようやくコレにも慣れてきたよ」

 

 悠は手元の剣を見やりそう呟く。

 この剣は悠がフブキに敗北したすぐその夜に製作に着手したシロモノである。

 バリアジャケットにも使われている硬質装甲をベースにいつぞやの露店で購入したパーツを組み込むことでいくつかの機構の搭載を実現した悠にとって初めての近接兵装、そのプロトタイプ。

 

 その名を、刀剣型近接兵装『ストライクセイバー』。

 

 

 

 これが成長への足掛かり、その最初の一歩。

 悠はストライクセイバーを強く握りしめると顔を上げる。

 そこに憂いの表情はない。敗北を糧とし、ただ上を向き、前を見据え、高みへと駆け上がらんとする挑戦者の瞳。

 

 

 

「…さて!そろそろ帰ろうか!」

 

「はい、マスター」

 

 悠が今いる場所はノエルとフレアから教えてもらったはずれの森にある練習場。といっても整備も何もされておらず人の手が入った形跡はないただの森の一角。故に多少暴れてもお咎めはないし、緑の聖地たるエルフの森と隣接しているせいか、樹々をいくつか切り倒そうが1週間もすれば元の状態に戻っているのだという。

 

 んーっと体をIの字に伸ばしながら帰路につく。

 休日とはいえ帰ってからもやることは多い。

 家の掃除に学園から出された座学の課題、昼になれば昼食の準備もある。幸いというべきか昨日大量にもらったコロッケはあの後とある子に譲ったことで無事に消化し終えていたりする。

 何から手を付けようかなと考えながら歩いていると

 

 

 

 

 

「っマスター!」

 

「!くっ」

 

 悠とストライクハートが反応したのはほとんど同時だった。

 まだ『バリアジャケット』と『アクセルフィン』を発動したままだったのが幸いしたか、魔力の羽を全力稼働させて悠は横っ飛び。その直後、背後から悠がいた地点を人の顔くらいの大きさはあろう鉄球が唸りを上げて通り過ぎた。

 鉄球はそのまま木に衝突すると木片をまき散らし沈黙。数秒してメキメキと音を立ててそれなりの年数を持つであろう立派な大木がへし折れた。

 

 冗談だろうと悠は息をのむ。

 あんなものが当たってしまえば間違いなくただでは済まない。いくら『バリアジャケット』の上からであろうがよくて骨折、当たりどころが悪ければ最悪の場合そのまま死である。

 嫌な想像をしてしまったと言わんばかりに悠は顔をしかめる。

 だがそんなことをしても状況は変わらない。

 

 悠は正体を見極めんと振り返る。

 

 

 

 

 

 そしてそこに、悠のよく知る魔法陣から魔鉱石の反応を持つ魔獣が這い出してきていた。

 悠が驚愕の表情を浮かべる。

 

 魔獣の特徴を一言でまとめるのであれば、「黒いアリゲーター」といったところだろう。当然その全長は動物としてのアリゲーターを優に凌駕しており全長は7~8メートル程度といったところか。こちらに向かって大きく口を開いており、十中八九そこから先ほどの鉄球を発射したのだろうと容易に想像がつく。

 だが悠が驚愕したのは魔獣に対してではない。

 

 

 

「あの魔法陣…ミッドチルダ式!」

 

 分かってはいた。

 ストライクハートの分析もあったし、そもそも出所(でどころ)()()でなければ何度も悠をしつこく付け狙う必要性はない。

 分かっていたし、覚悟だってしていたつもりだった。

 だが、実際にこうして見てしまうとどうしても考えてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 ───ああ、奴らはどうあがいても自分を殺したかったのか、と。

    僕をもう一度殺してでも、アレを手に入れたかったのか、と。

 

 

 

 

 

 別に悲しみはない。

 同郷とはいえ悠だって奴らにはいい感情を持ってはいない。むしろ憎んでる、恨んでると言ってもいいだろう。奴らはそれだけのことをしたし、逆に悠だって奴らの仲間に手をかけた。

 憎み憎まれ、己が目的のために手段は選ばない。そうした負の連鎖はどちらかが事切れるまで途切れることはない。

 

 故に、悠は戦うための武器をその手に取った。

 己が目的のため、過去への清算のため。

 そして、逃れられないその負の連鎖に悠の大事な人たちを巻き込まないために。

 

 

 

 

 

 殺す感情はあくまでオレのもの。

 

 それと同時に、守る感情は僕のものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディバインシューター!!」

 

 魔力球が生み出され、撃ち出される。

 先程まで淡く森を照らしていた道標が敵を刈り取る獰猛な牙となり替わって魔獣へ殺到する。

 危険を察知したアリゲーターは見た目にそぐわぬ俊敏さで回避を試みるが、悠からすればその動きはあまりにも鈍重。

 

 

 

「フブキの方が、もっとずっと速かったよ!」

 

 悠はアリゲーターの動きを見ると『ディバインシューター』を誘導制御。鋭く軌道を変えた魔力球が逃げ場のないように全方位を取り囲み、悠が掌を握りこむと同時にその全てがアリゲーターを穿った。

 直撃した魔力球は光と煙を放ち薄れていく。その直後にその光の中から黒光りする鉄球が一直線に悠の頭めがけて飛来した。

 

 

 

「っと!」

 

 

 

 ギャリィィン!

 

 

 

 咄嗟に発動した『ラウンドシールド』に角度をつけて鉄球を受け止め、力の方向がずれた鉄球は甲高い音を響かせて悠の横を通り過ぎていった。通り過ぎた際の風圧で悠の髪が激しく揺れる。

 それを見届けた悠がアリゲーターの方を振り返ると、光がはれてそこにいたのは一切の傷が見えず敵意を剝き出しにしてこちらを睨みつけているアリゲーターの姿。

 

 

 

「硬いな」

 

「マスター、報告します。あの魔獣の外皮、以前戦った翼竜(ワイバーン)と同等の硬度と推測。加えて敵全体を覆うように『AMF(Anti Magilink Field(アンチマギリンクフィールド))』が展開されています。完全に魔法を無効化するほどの濃度ではありませんが、射撃・砲撃魔法ともに相応の威力弱体が予想されます」

 

「そうか…」

 

 

 

 実に面倒なことになった。

 『AMF』とは、ミッドチルダ式魔導における上位の防御魔法のひとつである。

 範囲内の魔力結合や魔法の発生効果を無効化する特性を持つ魔法防御。攻撃魔法はもちろんだが、範囲内に入ってしまえばこちらの防御魔法や補助魔法もその効果対象内になってしまう。反面物理に対する防御性能は持ち合わせてはいないが、対魔法に特化した分その効果は折り紙付きだ。

 

 つまるところ、近づかれてしまえば悠は戦闘面において機能不全に陥ってしまうといってもいい。

 であれば威力弱体があっても遠距離から攻めるというのが定石と言いたくなるがそうは問屋が卸さないのがつらいところ。先程ストライクハートの報告にあったもう一つの情報、これが悠の遠距離戦の可能性を潰しにかかっている。

 

 それが魔獣の外皮の硬さである。

 以前戦った翼竜と同等の硬度、つまりは『AMF』を張られていない状態の砲撃魔法であっても一撃では倒しきれないということの証左になってしまう。

 であれば『AMF』ありでは与えられるダメージなどたかが知れている。

 

 まさに八方ふさがり。

 少なくとも、悠が持つ魔法ではあのアリゲーターに対して決定打は与えられないだろう。

 ノエルでもいてくれれば楽に終わるのだが、こんな深い森の中では援軍など呼べるわけもないし、そもそも自分の戦いに自分から他の誰かを巻き込むつもりなど毛頭ない。

 

 

 

(まあ、それならそれで、ここにあるものを使うしかないってね)

 

 

 

 無いなら見つけ出せ。

 

 足りないなら捻り出せ。

 

 諦めるという選択肢など、自分の中にはとうに存在しないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右手に持っていたストライクハートを左手に持ち替える。

 すると無手になった右手に瑠璃色の光が集う。転送魔法特有のエフェクト。亜空間から呼び出したるは、悠の新たな兵装(チカラ)

 

 

 

「来い、ストライクセイバー!」

 

 光が弾け、その姿が露になる。

 白と金、そして瑠璃色で構成された細くも重々しい印象を持つロングソード。

 

 

 

「アクセル…シューター!!」

 

 続けて左手のストライクハートでカートリッジロード、空薬莢を吐き出し渦巻く魔力を魔法陣と20の魔力球へと変える。

 流れるような動作で軌道を決めた悠はすかさず魔法を撃ち出した。

 8つの魔力球ですら避けることがかなわなかったアリゲーターが、倍以上の弾数とより精密な誘導制御を得たものを避けられる道理などなく直撃。いや、もとより同系統の攻撃だと本能で判断したのか避けるそぶりすら見せなかった。

 

 先程より大きな光と煙がアリゲーターを覆い隠す。

 悠はそれを見ると移動を開始。相手は煙で状況を把握できない。無論視覚以外の感覚器を持つ可能性があるので警戒は解かないが、煙が晴れるのを待つにしても煙がない場所へ移動するにしても多少の時間稼ぎにはなる。

 そして辿り着いたのは程よい太さの樹。

 悠はストライクセイバーを何の躊躇いもなく振りかぶると、「ふっ!」と根元に向かって振り抜き樹を切り離した。

 

 支えを失って倒れる木を『レストリクトロック』で固定。

 【魔力感知】にて敵の位置を補足する。実際には『AMF』の影響でアリゲーターの魔力自体は感知できないが、逆に()()()()()()()()()()()()()が敵のいる場所ということだ。

 

 最後に立ち位置を調整。

 持ち前の空間把握能力をフルに用いて敵との距離、必要な威力を計算する。

 ようやく煙が晴れ、アリゲーターは苛立ちを隠すことなく凶悪な顎を開いて大気を震わせる咆哮をあげた。

 

 

 

「一手、こっちが速い!」

 

 ストライクハートを樹に向け、魔力を収束させる。

 周囲を見回したアリゲーターがようやくこちらを視認する。

 だがすでに遅い。

 

 

 

 悠は強力な物理攻撃は持っていない。

 ならば、すでにある大質量のものをぶつければいいだけの話だ。

 

 

 

「クロススマッシャー!!」

 

 青い閃光がストライクハートから迸る。

 それは『レストリクトロック』によって固定されていた木を吹き飛ばし、その木は大気を唸らせ旋風を伴いながら開かれていたアリゲーターの顎門へキレイに吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 ゴキャッ!!!

 

 

 

「んなっ…!」

 

 しかしその大木は、顎門へ吸い込まれた瞬間に小枝でも砕くかのようにいとも容易く嚙み砕かれた。

 続けてアリゲーターは閉じた顎を再び開くと口の中をわずかに発光させる。

 そう認識したときには、悠に向かって3度目の鉄球が放たれていた。

 

 近づくにつれ感じる圧の大きさに、しかしなお悠は動かない。

 空気を吹き飛ばし周囲の樹々をしならせる圧倒的な脅威に対して、悠は僅かに驚きつつもあくまで平静だった。

 まさに直撃する、その直前にストライクハートを握った左手をゆるりと鉄球に向け、唇を揺らした。

 

 

 

「エクセリオンシールド」

 

 

 

 ガキィィィン!!!

 

 

 

 甲高い衝撃音と火花を撒き散らし、悠を砕かんとした鉄球は完全にその動きを止める。

 バチバチと未だに標的に向かってその脅威を振りまくが、悠が持ちうる最強の盾を突破するには能わず。

 

 

 

「元から大木程度で倒せるとは思ってなかったよ。まああそこまで簡単に噛み砕かれるとも思ってなかったけどね」

 

 悠はそう言いながら展開している『エクセリオンシールド』に魔力を集中させる。

 大木で倒せると思っていなかったのならば、悠の本命とは一体なにか。

 

 それは、悠を殺そうとした今目の前にある質量体に他ならない。

 

 

 

「バリアバースト!」

 

 攻性防御魔法『バリアバースト』。

 防御魔法に接触している対象を魔力爆発によって吹き飛ばす魔法である。

 

 魔力爆発によって進行方向を180°反転させた鉄球は飛んできた勢いそのままアリゲーターへと直進し脳天に直撃した。

 外皮が砕かれその内部が露出する。衝撃で脳を揺らされたアリゲーターはフラフラとおぼつかない脚でどうにか逃走を図る。

 そしてその隙を逃すほど、悠は情け容赦をかける性格ではなかった。

 

 

 

「ストライクセイバー、魔力励起!」

 

 右手の剣に魔力を込め駆けだす。

『アクセルフィン』、『フラッシュムーブ』を併用しての超加速。

 その間にストライクセイバーの魔力刃が煌々と輝き森を照らし、その刀身を伸ばした。

 

 これが『ストライクセイバー』に搭載した機構のひとつ。

 使用者によって刀身に込められた魔力を励起、強化することで自在に威力、射程を伸ばす特殊構造。

 

 

 

 最大加速によって一陣の風となった悠は一瞬でアリゲーターまで追いつく。

 アリゲーターも必死に速度を上げようとするが、それを行うにはあまりにも遅く、そして相手が悪かった。

 

 

 

「くら…えええぇ!!!」

 

 大いなる大海のような深い青の輝きを秘めた剣が狂いなく砕かれた外皮の中央を突き刺した。

 その瞬間に魔獣が動きを止め、全身を黒く染色させる。

 悠がストライクセイバーを引き抜くと黒が端から崩れ落ち、紫に輝く魔鉱石だけが残った。

 

 悠はそれを拾うと、ストライクハートに問いかける。

 

 

 

「…ねえ、ストライクハート。僕、少しは強くなれたかな」

 

 誰かを守れるくらいに、なれたのだろうか。

 

 

 

「っはい!マスターは、いつだって最強です!」

 

 ストライクハートからの答えは悠が求めていたものとは、ちょっとだけ違ったのだろうけど。

 でもその心は、ちょっとだけ晴れやかになって、悠はひとつ笑みを浮かべた。

 

 

 

(はずれの森で3回連続の襲撃。この森には、きっと何かある。また調べないとね)

 

 新たに発生した疑問は頭の中にしっかりと留めて、悠は歩き出す。

 

 

 

「じゃあ、改めて帰ろう…!?」

 

 

 

 キィン!っと、草木の中から魔鉱石を持つ左手を狙って突き出された短剣をギリギリで展開した『ラウンドシールド』で防ぐ。

 

 

 

(強襲!まさか…っ!)

 

 ミッドチルダの手の者かと襲撃者を見ると、本日何度目かの驚愕に見舞われた。

 

 

 

 

 

「きみは…」

 

「ごめんねー、これも掃除屋としての仕事だから」

 

 見知った顔だった。

 といっても知り合いというほどでもない。昨日ぶつかって手をとっただけの関係。マスクを着けていて宵闇のような深紅の瞳は隠れているがきめ細やかなシルバーグレイの髪と動物を模したような黒いフードは見間違えようもない。

 キリキリと『ラウンドシールド』を押し返そうと短剣(ダガー)を両手で押し付けてくる。

 

 

 

(このまま『バリアバースト』で吹き飛ばすのは簡単。でも…)

 

 敵かどうか断定できない以上、その手をとるのは憚られる。

 いや、武器をこちらに向けている以上敵だと言われればその通りである。

 だが…

 

 

 

(彼女から明確な()()()()()を感じない)

 

 故に、判断に悩んでしまう。

 ひとまず無力化する方向に舵を取るべきかと考えて。

 

 

 

 発動していた【エリアサーチ】で背後から近づくもう1人の反応を感じ取った。

 直後、木の背後から煌めく鈍色の刀身が悠めがけて振り下ろされた。

 

 

 

「ぐっ!」

 

 

 

 キィィン!

 

 

 

 悠は右手の『ストライクセイバー』を振って刀身同士がぶつかり鍔迫り合いとなる。

 新手の出現に顔をしかめる。

 どうする、どう切り抜けると頭をフル回転させて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして………」

 

 

 

 そんな枯草のような震える声を聞いて思考が止まってしまった。

 

 

 

「え…!」

 

 だって、その震えた声にどうしようもなく聞き覚えがあって。

 

 

 

 

 

「どうして……」

 

 

 

 

 

 震える声に込められた感情は、どうしようもなく悲壮感に満ちていて。

 

 

 

 

 

「どうして…!」

 

 

 

 

 

 振り下ろされた刀に込められた力は、どうしようもなく弱々しくて。

 

 

 

 

 

「どうして、悠殿なのでござるか…!」

 

「いろ、は…」

 

 

 

 

 

 こちらに向けられる水晶のような浅葱色の瞳はいっそ綺麗だと言ってしまえるほどに涙に濡れていた。






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