ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part20 秘密結社holoX②

 

 

 

 

 

 

「どうして、悠殿なのでござるか…!」

 

「いろ、は…」

 

 鈍色の刀身と瑠璃色の魔力刃がチリチリと火花を散らす。

 いろはの切なる慟哭に悠は激しく心を揺さぶられる。

 

 どうすればいいとまとまらない思考の中で必死に考えを巡らせる。彼女たちを不用意に傷つけるわけにはいかないし、自分だってやられるわけにはいかない。

 しかし、その想いに反して体は動いてくれない。

 いろはの涙が、その震えた声が、見えない鎖となって悠を縛りつける。

 

 

 

「昨日は優しいんだと思ってたけど、いろはちゃんを泣かせるなら…」

 

「ッ!」

 

「さっさと消えろ!!!」

 

「っさかまた!」

 

 刹那、無からあふれ出した膨大な殺気とともに悠の視界が反転する。

 その視界の端でとらえたのは僅かに差し込んだ朝陽に反射した細長い糸のような何か。

 それが悠の足に絡みついてすくい上げていた。

 

 

 

(仕込みワイヤーか!)

 

 気づいた時にはもう遅い。

 背中を思いっきり地面に叩きつけられて肺にたまった空気が一息に吐き出される。

 衝撃で視界が歪み、次の攻撃への対応が一手遅れた。

 

 

 

「シールドピアッシング!」

 

 短剣(ダガー)の切っ先、ただその一点に魔力を集中させ、クロヱは悠の喉元めがけて狂気の刃を振り下ろす。

 回避は間に合わない。悠はそれだけどうにか判断を下すと目の前に魔法陣を展開した。

 

 

 

「ラウンドシールド!」

 

 ギィンッと先程より鈍い音が響く。

 クロヱがあらん限りの力をこめて放った一撃は重く、そして鋭かった。マスクが外されて露になった瞳に浮かぶ深紅の光が恨みの炎へと昇華する。その形相はまさに命を狙った怨敵に向けるそれで、しかしその中にはほんの僅かな躊躇いの色があった。

 

 魔力同士のぶつかり合いで光が弾け、消えていく。

 しかしそれも束の間、防御貫通に特化した一撃は悠が展開した『ラウンドシールド』にヒビを入れ、伝播していく。

 魔法陣が割られるその直前、悠はどうにかクリアになった思考をフル回転させ行動を開始した。

 

 

 

「く…ああぁぁ!!!」

 

「!こんのぉ…」

 

 悠は割られかけの『ラウンドシールド』を『パリィ』の要領で振りあげてダガーをクロヱの手から弾き飛ばす。

 その隙に体を起こし、返す刃でフリーになっていた右手のストライクセイバーを一閃して足を捕らえていた仕込みワイヤーを切り裂いた。

 

 

 

「アクセルフィン!」

 

「Axel fin.」

 

 ストライクハートの機械音声とともに悠の両足に2対の魔力羽が展開、即座にそれを激しく羽ばたかせると後方へ急激な水平移動で2人から距離をとった。土煙が舞い、お互いに視界が制限される。

 ようやく解放された極限状態に悠はひとつ息を吐く。

 だが当然これで終わりなわけがない。濃密な殺気が纏わりつくように悠を取り囲む。

 

 

 

「いろはちゃん!」

 

「さかまた…でも…!」

 

「でもじゃない!失敗すれば、次のあのジジイの矛先が沙花叉たちに向くかもしれないんだよ!」

 

「ッ…!」

 

 クロヱは声を荒げる。

 いろはに向けたはずのその言葉は、まるで自分に言い聞かせているかのように。

 ほんの僅かでもためらってしまった自分自身に戒めるかのように。

 

 それを見て、いろはは愛刀を握りしめると踏み出した一歩で悠へと肉薄した。

 

 

 

「いろは!話を…くぅっ」

 

「聞けないでござる!!」

 

 

 

 チャキ丸を振り上げ、悠の首筋めがけて振り下ろす。

 先程の弱々しさなど皆無の岩や鉄すらも両断せんとする一閃。悠はそれをストライクセイバーを軌道に滑り込ませることで受け止めた。

 

 

 

 ギィィン!!!

 

 

 

「かざまは、悠殿の友達である前に、『秘密結社holoX』の用心棒!みなに危険が及ぶのなら、かざまはたとえ悠殿でも………斬る!!!」

 

 いろはの怒涛の連撃が悠を襲う。

 高い身体操作能力と人間の中ではまさにトップクラスのフィジカルから繰り出されるそれは生身で受ければすべてが必殺の一撃となりうる死神の鎌。

 斬撃から斬撃への移行がこれ以上ないくらいシームレスで繋ぎの隙というのがほとんど存在しない。

 

 悠はそれを右手のストライクセイバーと左手に展開した『エクセリオンシールド』を器用に使い分け防御に徹することでどうにかその刃を致命傷から避け続けていた。

 

 

 

 

 

 ギィンギィンギィンッ!と連撃は途切れない。

 袈裟斬り、返しの斬り払い、そして突き。

 弾き逃した一閃が悠の足を切り裂き鮮血が舞う。

 

 

 

 

 

───あの、誰か探しているんですか?

 

 

 

 

 

「かざまは、たとえ悠殿でも………!」

 

 初めて訪れた場所でぽこべぇとはぐれて、独りで不安になっていた自分にかけてくれた彼の心配そうな声が脳裏にこびりつく。

 

 ずっと一緒に過ごした仲間と、少し前に出会って一度助けられただけの少年。

 どちらかしか選べないなら、どちらを選ぶべきかなんて火を見るより明らかなはずなのに。

 

 ギィンギィンッ!と、いろはは愛刀を振るうのをやめない。

 逆袈裟、下段からの斬り上げの高速コンビネーション。

 鈍色の刀身が頬をかすめる。

 

 

 

 

 

───悠。星宮悠です。これで、見知らぬ人ではないですよね?

 

 

 

 

 

「悠、殿でも………」

 

 まっすぐこちらを見つめてくる星の瞳が、目を閉じるだけでいつも克明に思い出される。

 

 自分は『秘密結社holoX』の用心棒で、holoXのみんなを守ることが仕事で、そのために私情は捨てなきゃいけなくて。

 分かっているし、理解もしているはずなのに…

 

 ギィン…ギィン……!と、ブレた剣先が魔力刃とぶつかる。

 右から、左から、もはや剣撃とすら呼べない攻撃。

 振るわれる刃には、もう力は宿っていなかった。

 

 

 

 

 

───あ、ええと……じゃあ、いろは。

 

 

 

 

 

「ゆう、どのぉ………」

 

 手に触れた彼の体温と感じた心は、不安と疑心を一瞬で溶かしてしまうくらい暖かくて。

 

 感情を押し殺そうとすればするほど枷が外れたかのようにとめどなく溢れ出す。

 親愛が、友愛が、恋愛が。

 こんな状況でも、得物を向けてきた相手であっても”敵”として見ず、自身も相手の命も切り捨てようとしない強くも優しい彼を想う感情が溢れて止まらない。

 

 助けてもらって気になってしまったなんてチープだと言われるだろう。一目惚れなのかと言われてしまえば自分はきっと否定できないのだろう。

 でも、たとえどう言われようとも、自分はもうこの気持ちに嘘はつけない。今こうやって対面して、刃を交えて尚更強く自覚してしまった。

 もう心の奥底に閉じ込めておけないほど、彼への想いは強く、大きくなってしまったんだと。

 

 

 

 ギィン…!と、振り上げられたチャキ丸はストライクセイバーとぶつかり、握る力を失った手から零れ落ちる。

 いろははそのまま握りしめた拳を悠の胸にぶつけ、頭を押し付ける。

 

 かすれるような嗚咽が、聞こえてきた。

 

 

 

「どうして、反撃してこないでござるか…!」

 

「いろは…」

 

「かざまは、悠殿を…殺そうとしたでござるよ!?斬られたって文句は言えない!それなのに…どうして……!」

 

 

 

 反撃してくれれば、自分も刀を握ることができたのに。

 holoXの敵であると認識できれば、対立するだけの大義名分があれば、自分を殺してでもholoXのために戦えたのに。

 たとえその末に、自身が絶望する未来が待っていようとも。

 

 それでも彼は最後の最後までその刃をいろはとクロヱに向けてはくれなくて。

 それがどうしようもなく悔しくて。

 

 そして、どうしようもなく嬉しかった。

 

 

 

 ドンドンと力の入っていない震えた拳で悠の胸を叩き続ける。

 顔を上げられない。悠の顔を見ることができない。

 

 いろはは選んだ。

 その刃を悠に向けた。

 holoXを選び、そしてたとえ一瞬でも悠を()()()()()()()()()

 その事実が、強烈なまでの罪悪感となって重く重くいろはにのしかかった。

 

 

 

 嫌われるのが怖くて。

 自分のしたことで記憶に残るあの優しげな表情に、あの輝かんばかりの星の瞳に影が差すことが斬られることよりもずっと怖くて。

 

 

 

 

 

 

「…えっと、いろはは僕にとってもう、『守りたい人』になったから…かな」

 

「へ…?」

 

 だからこそ、あまりにも予想外の言葉にとっさにいろはは顔を上げ、悠の顔を視界におさめる。

 そこに映っていた悠の表情は、どこまでもいろはの記憶に残ってる表情そのままで。

 悠は泣き腫らしてどこか幼く見えるいろはの頭に手を置いた。

 

 

 

「2人が僕を襲った理由は、想像はできても断定はできない。依頼されたか、脅迫されたか。でもたとえどんな理由があったとしても僕は死ぬわけにはいかなかったし、かといって『守りたい人』であるいろはにも、いろはの仲間であろう彼女にも刃を向ける覚悟もできなかった」

 

 

 

「ただそれだけだよ。死にたくなかったから剣を手に取った、守りたかったから盾を手に取った。どちらかを切り捨てることができなかった、ただの臆病者だ」

 

 

 

 そう言った悠の表情は、なんだか申し訳なさそうで。

 そしていろはは、そんな悠を見てズルいって思ってしまった。

 

 だっていろはだってどちらかを選ぶことなんてしたくなかったのに。

 holoXのみんなに死んでなんてほしくなくて。

 そして同じくらい悠を殺したくなんてなかった。

 

 ホロライブ学園で教員として働いてるルイから悠がいることを聞いて、ずっと楽しみだったのだから。

 

 一緒に授業を受けたりして。

 一緒にお弁当を食べたりして。

 一緒にとりとめのない話をしながら帰ったりして。

 

 そんな想像をすることすら楽しくて楽しくて仕方がなかったのだから。

 

 

 

「どうにかできないか、一緒に考えてみない?」

 

「それって…?」

 

「これ以上戦わずに済む方法を。自分勝手なのは、分かっているんだけど…」

 

「あるわけないでしょそんなの」

 

「!!!」

 

 

 

 ギャリィィィン!!!

 

 

 

 咄嗟にいろはを突き飛ばした直後、魔力を纏った短剣とストライクセイバーが軋みを上げてぶつかり合う。

 悠に向かって突貫してきたのは短剣を握りしめて射殺さんばかりに悠を睨みつけるクロヱ。

 

 

 

「お前の言う通り、沙花叉たち秘密結社holoXはお前の始末を依頼された!お前は至宝を盗んで人を殺した大罪人だって言われて!回線をハックしてきたジジイから、ご立派な脅し付きでね!」

 

「脅し…!」

 

「沙花叉たちに選択する時間なんてなかった!依頼報告は今日の夜!達成できてなければこよちゃんのセキュリティを簡単に突破できるあの男に何されるか分からない!だったらイヤでもやるしかないじゃん!!」

 

 

 

 ギャン!と華奢な腕からは考えられない強烈な一撃がぶつかり合った悠のストライクセイバーを弾き飛ばした。

 先程までいろはの剣撃も受け止めていたためか悠の右腕はすでに限界だった。

 生まれた決定的な隙。クロヱは本能に従い全力で悠に向かって跳び出し短剣の切っ先を喉元へ向けた。

 

 

 

 そう、本能的だった。

 そしてそれゆえに、2人の間に飛び込んできたひとつの影にクロヱは気づくのが遅れてしまった。

 

 

 

 

 

「さかまた、止まるでござる!」

 

「いろはちゃん!?」

 

「いろは、なにを!?」

 

 マズイ、とクロヱは戦慄した。

 クロヱはすでに悠に向かって跳び出し地に足はついていない。これではブレーキをかけることができない。

 そして突き出した短剣もしまいこむにはあまりにも遅く、そして勢いをつけすぎた。

 

 そして悠もまた同様の見解に辿り着くとともに視界の奥にあるものを見た。

 

 

 

(ミッドチルダの転送魔法陣!?なぜこのタイミングで…!)

 

 その瞬間、悠の頭の中で散りばめられていたパーツが、ひとつにつながった。

 

 秘密結社holoXへの依頼人。

 あまりにも短い依頼の制限時間。

 なぜわざわざholoXに依頼を出したのか。

 そして、3人がもつれ合ったこのタイミングでのミッドチルダの転送魔法陣。

 

 そこから導き出される答えは…

 

 

 

(最初から僕が殺せない2人ごと巻き込んで僕を殺すつもりだったのか!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠の思考が加速し、即座に行動に移りだす。

 

 クロヱによって弾かれた右腕を無理矢理引き戻す。無理に動かしたおかげで筋肉が断裂したかのような痛みに襲われるが知ったことかと強行。

 伸ばした右腕で眼前に立ついろはの肩を掴むと思いっきり自分の後ろへと引っ張った。

 

 これで自分の前にいるのはクロヱのみ。

 だが魔法陣からはすでに丸い体を持つ機械兵器(ガジェット)が現れており、その目の部分に光が収束していっている。敵の攻撃まで時間がないのは明らかだった。

 安全策で行くのはもう不可能。であれば、

 

 

 

「片腕くらい、くれてやる!!!」

 

 悠は全速力で前方に向かって加速。その最中、ストライクハートの弾体(カートリッジ)炸裂(ロード)、膨大な魔力が瑠璃色の風となり吹き荒れる。

 背後からの異様な光にクロヱも異変に気付くが、今更どうこうできる状態ではない。

 

 突き出された短剣は、バリアジャケットを切り裂いて悠の右肩を容易く刺し貫いた。

 

 

 

「ぐあ…!」

 

「悠殿!!」

 

「なんで…!?」

 

 鮮血が舞い、白いバリアジャケットを紅く染め上げる。

 いろはが叫び、クロヱも驚愕の表情を隠せずにいるが、今は説明している時間はない。

 悠は痛みでまともに感覚がない右腕をどうにか動かして眼前のクロヱを抱き寄せる。

 

 

 

「ちょ!いきなりなにやってんの!?」

 

「文句ならあとで聞く!!エクセリオンシールド!!!」

 

 

 

 直後、光の収束を終えた目から赤白い熱線が照射され、間一髪展開が間に合った『エクセリオンシールド』と正面からぶつかり合った。

 逸れた熱線が角度を変え周囲を焦がす。

 直撃していないというのに押し寄せる熱波だけで思わず目を細める。

 

 

 

(コイツ…!こっちが熱でやられるまで続けるつもりか!)

 

 悠はバリアジャケットによって影響を限りなく軽減できるが、他の2人はそうはいかない。

 現にクロヱはすでに息を荒くし滴る汗が止まっていない。

 いろはは2人より離れていたため現状被害はほとんどないが、それも時間の問題だ。

 

 

 

(加えてご丁寧にアイツも『AMF』持ち!外殻が硬質装甲できているなら射撃魔法で壊せないし、片腕が使えない以上砲撃魔法は威力も精度も安定しない…)

 

 であれば、悠が持ちうる案など、もうたったひとつしか残されていなかった。

 

 

 

 

 

「…いろは!!!!!」

 

「は、はい!!!」

 

 悠は後ろを振り向き、いろはと目を合わせる。

 状況が状況とは言え、戦いに巻き込むことには抵抗は当然ある。

 だが、これはもう自分だけで済む問題ではなくなってしまった。

 

 だからこそ、悠は初めて自分の戦いに『守りたい人』を()()()()()

 

 

 

「今の僕じゃアイツは壊せない!だから!…頼ってもいい?」

 

「…!!」

 

 瞬間、心臓に熱が宿った。

 

 崩れていた両足を踏みしめ、立ち上がる。

 

 弾かれて落ちていた愛刀をしっかりと握りしめる。

 

 顔を上げ、一末の不安を宿した悠の瞳をまっすぐに見据える。

 

 

 

(あぁ…悠殿とともに戦えるのは、こんなに心が昂ってしまうものなんだ…!)

 

 やっぱり敵より味方がいい。

 

 向かい合うより、隣に立っていたい。

 

 高鳴る心臓がこれ以上ないくらいに速いビートを刻んだ。

 

 

 

「当然!holoXの用心棒に、友達に任せるでござるよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラウンドシールド、多重展開!!!」

 

 大地は熱線と倒れた木々によってまともな通り道はない。

 それならば、道を新しく作る他ない。

 そんな発想で空中に大量に展開された『ラウンドシールド』が宙に浮かぶ浮島となる。

 

 

 

「アレをつたっていって!アイツもまだ違う攻撃手段を隠してるかもしれないから近づいたら注意を!」

 

「了解でござる!」

 

 抜刀した愛刀チャキ丸を手にいろはは空中に駆け出した。

 ガジェットが接近してくるいろはを知覚すると、現在照射している目の上に設置してある2つの複眼に光を収束、その直後に光の弾丸をいろはめがけて発射してきた。

 

 

 

「っと!は!とう!」

 

 視認することすら難しい小さな光の弾丸をいろはは危なげなく回避、さらに接近する。

 ガジェットも近づけさせまいと発射間隔(レート)を上げてより多くの弾丸を飛ばすが、結果は変わらず。着地の瞬間を狙おうとも抜き身の刀で切り払われる。

 

 

 

「辿り着いたで…ござるよ!!」

 

 最後の『ラウンドシールド』に着地するといろはは体を深く沈める。

 直後、さながらいろは本人が弾丸になったかのようにガジェットに向かって突貫を仕掛けた。

 ガジェットはそれを確認すると最優先排除対象をいろはに設定、照射した熱線を収め、左右からベルト状の太い腕を展開し、それぞれ違う角度からいろはを打ち落としにかかる。

 

 

 

「…遅いでござる」

 

 

 

 キンッ

 

 

 

 とても小さな金属音。

 いろはが天に向かってチャキ丸を振り抜いており、ガジェットの横を通り過ぎる。

 瞬間、金属で作られたベルト状の両腕がバラバラに切り裂かれて崩れ落ちた。

 その切断面に一切の淀みはなく、すさまじい切れ味と技量を容易に想像させる。

 

 

 

「っと、本体まで切ったつもりであったが、さすがに硬いでござるな」

 

 いろははそう言うと一歩下がり、脚を踏みしめ、体をねじる。

 

 

 

「なら、これで終わらせるでござる!風真流…!?」

 

 いろはが大技を出すために隙をさらしたその瞬間、ガジェットの体から大量の砲門が飛び出してきた。

 肉薄された際の最後の反撃(カウンター)、超至近距離での全門斉射(フルバースト)。これを避けることなど物理的に不可能で、事実いろはも避ける動作まで移行できなかった。

 

 しかし、忘れてはならない。

 いろはは決して1人で戦っているわけではないということを。

 彼女を守りたい人だと言った少年が、この場にはいたということを。

 

 

 

「エクセリオンシールド!」

 

 

 

 ガガガガガッ!!!

 

 

 

 いろはの眼前に展開された瑠璃色の魔法陣が、いろはの命を刈り取らんとした弾丸を完璧に塞き止める。いくら『AMF』の影響下であろうとサブとして取り付けられた副砲程度に破られるほど悠の最強の防御魔法は脆くはない。

 クロヱを近くの木に休ませていろはの隣まで駆け付けた悠は痛みで苦悶の表情を浮かべながらもいろはに笑いかけた。

 

 

 

「守るって決めたからね。さあ、今だよ!」

 

「悠殿…あとは任せるでござるよ!!」

 

 悠はガジェットが弾を撃ち尽くしたことを確認すると『エクセリオンシールド』を解除。

 そしていろはは、身体中に溜めた力を一気に解放し叫んだ。

 

 

 

「風真流剣術『嵐穿牙(らんせんが)』!!」

 

 全身のねじりを剣の切っ先ただその一点に集約させた神速の突きがガジェットの目に吸い込まれる。

 高度な身体操作能力を持ついろはだからこそ出来る絶大な破壊力と貫通力を秘めた突きはまるで豆腐のようにガジェットの体を貫いた。

 

 ガジェットは小さな駆動音を最後に響かせると光が止み完全に沈黙する。

 悠はそれを見届けると緊張の糸が切れたようにその場に倒れこんだ。

 

 

 

「わ、悠殿!大丈夫でござるか!?」

 

「アハハ…ちょっと大丈夫じゃないかも」

 

「悠殿ぉ!?」

 

 戦闘が終わって気が抜けたのもあるし、止血もなしに戦闘を続けたものだからさすがに血を流しすぎた。

 いっそこのまま寝てしまおうかと体の力を抜くと、不意に首筋に冷たい刃が押し付けられた。

 

 

 

「…沙花叉さん、だっけ」

 

「ちょっと!さかまた何をやって!?」

 

「いろはちゃんはちょっと黙ってて。別に今すぐ殺すつもりはないから」

 

 その犯人は沙花叉クロヱ、冷たい深紅の瞳を悠に向け、首筋に刃を固定する。

 これで殺すつもりはないと言われても納得できないのは当然だが、首以外はどこも拘束すらされておらず、悠がその気になれば抜け出すこと自体はさほど難しくない。

 

 

 

「改めて、私の名前は沙花叉クロヱ。いろはちゃんと同じ『秘密結社holoX』の構成員で掃除屋」

 

「ホロックスっていうんだ。僕はホロライブ学園1年の星宮悠だよ」

 

「えっと、ちなみにかざまは用心棒としてholoXに雇われているでござる」

 

 2人の自己紹介に風真も控えめに参加する。

 

 

 

「まずお礼は言っておかなきゃね。…助けてくれてありがとう。あなたが助けてくれなきゃ、沙花叉は多分死んでた」

 

「…どういたしまして。お礼ついでに殺さないでくれると助かるんだけど」

 

「それとこれとは別の話。殺したい、殺したくないで言ったら沙花叉だって殺したくない。でも沙花叉たちに危険がある以上、あなたを生かしていくにはぁぁぁーーーーー…!」

 

 ドッカーーーン!となにかの衝突音が鳴り響いた瞬間、何故かクロヱが吹っ飛んでいった。

 

 

 

 

 

「…え?」

 

「…はえ?」

 

 悠といろはは2人して意味が分からないと呆けた顔。

 すると、悠の真上から第三者の声が聞こえてきた。

 

 

 

「よーしみんな生きてるね!?」

 

「…約1名おそらくあなたに吹っ飛ばされて死にかけてますけど」

 

「よし、生きてる。やっぱこよは天才!」

 

 どうしよう、会話が成立しない。

 そこにいたのはふわふわとしたピンクの髪を腰まで流した獣人の少女。

 いかにもドヤァといった顔をしており、割と重傷の悠としてはどう反応したものかと少ない体力で考えてしまう始末である。

 

 

 

「こらこよ」

 

「あいた!」

 

「ケガ人いるんだからさっさと手当てに入る!」

 

 そんな少女は背後から近づいていたもう1人の女性にはたかれて頭をさすりながらも悠の治療に入る。

 そして悠はその人物に覚えがあった。

 

 

 

「え、鷹嶺先生…?」

 

「や、星宮くん待ったかね~。あなたの担任教師、鷹嶺ルイ先生で~す。ちなみに『秘密結社holoX』の女幹部も兼任してるよ」

 

 そう言って悠にウインクを決める女性の名前は鷹嶺ルイ。ホロライブ学園の教師で悠のクラスの担任を務めている人物である。

 ルイは悠の頭を一撫ですると、ほっと胸をなでおろす。

 

 

 

「…生きててくれて、本当に良かった。ありがとう」

 

「あ……はい。ありがとう、ございます」

 

 心から安堵したような声に悠はたじろぐ。

 こんな僕でも生きてることを喜んでくれている人がいるということがなんとも現実感がなくて。

 それでもどうにか笑顔を浮かべてお礼を言う。

 そういうふうに思ってくれて、ありがとうと。

 

 

 

「はい、応急処置終わり!あとはこの薬飲んで1日しっかり休めばばっちり治ってるはずだよ!」

 

「あ、ありがとうございます。えっと…」

 

「あ、ぼくはコヨーテの獣人にして『秘密結社holoX』のずのー!博衣こよりだよー!よろしくね助手くん!」

 

「よろしくお願いします…って、助手くん?」

 

「あ、いっけないつい口が滑っちゃった。今のは忘れてね!えっと…悠くん!」

 

「…?はあ、分かりました」

 

 止血と包帯巻きを手際よく終わらせた少女が悠に試験管に入った液状のなにかを渡す。

 おどろおどろしい緑色の液体を見ていったい何が入っているんだという疑問は尽きないが、治療してもらった手前そういう質問は憚られる。

 その後に出た謎の「助手くん」発言も本人が忘れてというなら深く突っ込むこともないだろうと右から左へ受け流した。

 

 

 

「フッフッフ、主役は遅れて登場するというやつだな」

 

 そうして落ち着いたところへ聞こえてくる3人目の謎の声。

 森の奥からザッザッと草木をかき分けてこちらへ近づいてくる音が聞こえてくる。

 

 

 

(あれ?この声どこかで…)

 

 悠がどこか聞き覚えのある声に首をかしげていると、声の正体が満を持して姿を現した。

 

 

 

「刮目せよ!吾輩こそいずれエデンの星を統べる者にして『秘密結社holoX』の偉大なる総帥、ラプラス・ダークネスだ!!!」

 

「あ、ラプラスちゃん」

 

「吾輩を気安くちゃん付けで呼ぶんじゃない!!!」

 

 ポーズと口上を完璧に決めて現れたのは外見的な年齢は10にも満たすか怪しいであろうあどけなさが残る少女だった。

 先程のこよりにも負けないドヤ顔を決めて「決まった…!」といった表情であったが、悠が発したその一言に一瞬で瓦解。悠に詰め寄ってポカポカと殴り掛かっていた。

 

 

 

「あれ、星宮くんラプと知り合いだったの?」

 

「あー、知り合いというか、昨日公園でコロッケを食べてたら物欲しそうにしてましたので譲ったんです。そのくらいの仲ですね」

 

「あ、あれ星宮くんのだったんだ…」

 

 まさかの事実にルイは微妙な表情を浮かべる。

 その胸の内は「つまり生徒に奢られたってコト…?」と教師としての尊厳の一部が粉々に砕かれそうになっているのだが、そこはまあ知らぬが仏というやつである。

 

 

 

「………ちょっとこよちゃん!!!なんなのいきなりーーー!!!」

 

 今の今までこよりに吹っ飛ばされて気を失っていたクロヱがようやく復活し全速力でこよりに詰め寄る。

 それに対してこよりはあくまで冷静に状況を説明する。

 

 

 

「だってクロちゃんじょ…悠くんを殺そうとしちゃってたでしょ?もうそんなことする必要がなくなったんだから無用な殺生はしっかり止めないとね!」

 

 再び何か口走りそうになったのを慌てて修正。

 しかしそんなことより気になる情報が出てきてクロヱが聞き出そうとしたが、横やりが意外なところから入ってきた。

 

 

 

「もう必要ないって本当でござるか!?」

 

 今までずっと悠に寄り添っていたいろはである。

 その顔に浮かぶ感情は驚愕と期待。

 

 それを見たこよりはブイブイとピースサインを作って満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

「ホントのホントだよ!こよたちがあの依頼にのらなきゃいけなかったのは矛先がこちらに向く可能性があったから。秘密がいっぱいなアジト全体をハッキングされればいくらこよたちでもどうなるか分かんないからね!だったらそれができないようにすればいいってわけだよね。そして…」

 

「ちょ!いきなりなにやってるでござるか!?悠殿も!見ちゃだめでござるよ!?」

 

「うん、見えてない。何も見えてないからあんまり力強めないで?目ががが…」

 

 こよりはそこで言葉を切ると自身の豊満な胸の間に手を突っ込み、とあるメモリを取り出した。

 それを見た瞬間いろはは顔を赤くして悠の顔を両手を使って全力で塞ぎにかかる。

 悠は正直何かが起こる前にいろはによって視界を塞がれたからなにがなんだか分からないのだが、いろはが手の力を徐々に強めてくるのでその解除に四苦八苦していた。

 

 

 

「そしてこれがあの依頼人(クライアント)が再びハッキングしてきたときに自動で発動するカウンタープログラム!徹夜で作るの苦労したよ~!」

 

 そういったこよりはふわぁ…と伸びをしながらひとつあくびをする。

 四苦八苦の末にようやく解放された瞳でよく見ると薄紫の瞳の下にはわずかに隈ができており寝不足であろうことがよく分かる。しかしセキュリティウォールを突破された立場にも関わらず1日もたたずにそのカウンタープログラムを作り出すとは尋常じゃないと悠はこよりに対してその卓越した頭脳に驚嘆の念を送っていた。

 

 

 

「……よかったぁ…!よかったよ悠殿ぉ…!」

 

 ふと横からいろはの心から安堵したかのような声が漏れる。

 見てみるといろはは泣き腫らしてもなお溢れてくる涙を拭くこともせず悠を見つめていた。

 その瞳には、表情には、ただひたすらの歓喜と安堵。

 それを見て悠もようやく笑顔を浮かべることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ吾輩たちは夜に備えて先にアジトに戻ってるから、いろははソイツのことちゃんと見とけよー」

 

「星宮くん、また明日。あ、でも無理はしないようにね」

 

「じゃあね悠くん!また会おうねー!」

 

「改めて今日はゴメン。そしてありがとう。でも、いろはちゃんに手を出しちゃぜーったいだめだからね!」

 

 さすがにここで固まり続ければ人が少ない場所とはいえいつか依頼人の監視の目に引っかかる可能性があるということで、未だにダメージと疲労から回復しきれていない悠と護衛という建前のもと一緒にいることを希望したいろはを残しholoXのメンバーはアジトへ帰宅していった。

 

 騒がしかった森に静寂が訪れ、聞こえてくるのは乾いた春風にのって響く葉擦れの音。

 緑の聖地(エルフの森)の影響で戦いによって荒れ果てた木々もすっかり新しく芽生え始め、深緑の森に香る匂いを感じながら悠といろははひとつの大木に背中を預けて肩を寄せ合っていた。

 

 

 

「えっと、いろは…?」

 

「んー?どうしたでござるか?」

 

「あの、ちょっと距離が近い…というか…」

 

「嫌だった?」

 

「いや、決してそういうわけじゃないんだけど…」

 

「じゃあ問題ないでござるな!」

 

 えへへと満面の笑みを向けられて悠は返す言葉を無くし、肩越しに感じる温もりを意識して視線を逸らす。

 初めて会ったときは顔を赤くして俯いていたというのにどういった心境の変化だろうかと考えていると、戦闘の際はおそらく避難していたのであろういろはのお供で狸のぽこべぇがいろはから見えないように悠に向かってグッとサムズアップしていた。

 

 申し訳ないが「どういうことだ?」という感想しか出てこなかった。

 

 しかしいつまでもこうしているのは時間的にも心境的にもあまりよろしくない。

 家に帰ってからやらなければいけないことも多いし、なによりいろはと寄り添いあってるこの状況はなんともこそばゆくて落ち着かない。

 覗く横顔が、草木とともに春風にのった香りが、悠の心を揺さぶってくる。

 

 

 

「…も、もう大丈夫!あとは飛んで帰れば家で休めるから…っと……」

 

「ちょ、悠殿危ない!」

 

 これ以上このままなのはまずいと悠は足に力を入れて立ち上がろうとするが、わずかに意識が遠のいて体がふらつく。肉体的なダメージや疲労自体はこよりの薬と休んだことでマシにはなったが、失った血だけはどうしようもない。

 いろははふらついた悠を支えると、子供を叱る親のような顔をする。

 

 

 

「もう、まだ万全じゃないんだから動いちゃダメでござるよ!……………ほら、こっちに横になって」

 

「え、うわ…!」

 

 なぜか正座で座りなおしたいろはに腕を引っ張られ、体を横に倒される。

 結構な勢いだったためか地面との衝突に備えていた悠だったが、訪れた感触は想像したものとは相反する柔らかく、そして温かいものだった。

 

 

 

「…どうでござるか?かざまの膝枕は…?」

 

「えっ…~~~~~!!!」

 

 上から声が聞こえてくる。目を開けてそこに映ったのは、上から覗き込むように顔をわずかに赤らめて恥ずかしそうにこちらを見ているいろはの姿。顔を赤くしながらも武人のように力強く、それでいて女性ならではのしなやかで柔らかい手は悠に頭に乗せられておりくしゃっと軽く悠の濡れ羽色の髪を梳いている。

 

 いろはに膝枕をされている。

 その事実にようやく気付いた悠は赤面しながらもすぐさま起き上がろうとするがいろはに止められた。

 

 

 

「もう、こっちだって恥ずかしいんだから…ちょっとくらい察してほしいでござる」

 

「………ごめん」

 

 これ以上恥ずかしくさせないでという言葉にしない言葉に悠はおとなしく頭をいろはの太腿に戻す。再び訪れた感触に今度は気恥ずかしさとともに心地よさを感じはじめた。疲労を回復せんと体が眠気を発し始め瞼が落ち始める。

 いやいやさすがに眠ってしまうのはダメだと残った意識でどうにか覚醒しようと試みるが、意思に反して体は正直なのか眠気は増していくばかり。

 そんな眠気と必死に格闘している悠に気づいたのか、いろははポンポンと頭を撫でながら慈母のような微笑みを浮かべる。

 

 

 

「眠っちゃっていいでござるよ。少ししたら起こしてあげるから」

 

「あ……ごめん、ありが…と………」

 

 すでに限界が来ていたのか、いろはのその言葉を聞いた悠はなんとかお礼を伝えながらその次の瞬間には意識を落としていった。

 ざわめく森の中でかすかに聞こえる悠の寝息にいろはは再び微笑みを浮かべた。

 

 先程までの強い意志を宿した男の子の顔とは違う、どこかあどけなさを残した少年の寝顔を見てこんな顔もするんだなあとまじまじと見つめてしまう。

 

 

 

 

 

「…悠殿は、気づいているのかな」

 

 そう言いながら頭を撫でていた手で悠の髪を軽くかき分ける。

 なんともクセになる触り心地に二度三度と同じことを繰り返す。

 

 

 

 

 

「かざま、誰にだってこういうことをするわけじゃないでござるよ?」

 

 いろはの頬はさっきよりもより赤くなっていて。

 言葉にすることが恥ずかしく、それでも口を止めることはなかった。

 

 

 

 

 

「他の男の子には、絶対こんなのしないんだから」

 

 キミだけは特別なんだよ。

 

 最後に呟いたその言葉は、森のざわめきの中に溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、報告を聞こうか」

 

 同日の夜、再びハッキングによる停電(ブラックアウト)からモニターに映し出されたシルエットと老人の声にholoXの面々はピリッと張りつめた空気を醸し出す。

 ラプラスたち5人が立ち並び、シルエットを睨みつける。

 口を開いたのは他でもない総帥のラプラスだった。

 

 

 

「失敗だよ」

 

「………ほう」

 

「戦って分かったよ。吾輩たちじゃアイツは殺せない」

 

 そこに嘘はない。

 戦って勝てないわけではない。いろはが全力を出せれば1対1でもいけるし、全員で囲い込めば勝算は決して低くない。

 けれど、自分たちは悠と友誼を結びすぎた。心根に触れすぎた。

 要は、心情的な問題だ。

 

 

 

「アイツを…悠を、殺させるわけにはいかない」

 

「…残念だよ。こんな結末を下してしまうことに」

 

 シルエットのみの老人はカタカタとキーボードを操作する。

 それを見てラプラスはニヤリと口角を上げた。

 

 

 

「ああ、そういえば実働隊の2人から聞いた話なんだが、どうやら依頼遂行中にトラブルがあったらしくてな」

 

「………」

 

「なんでも私たちの他に悠を殺そうとした第三勢力が現れたらしい。吾輩の仲間たちも巻き込んで殺そうとしたんだとか」

 

 老人は答えず、キーボードの操作を続ける。

 どうせ答えるつもりはないのだろうと分かっていたラプラスは構わず続ける。

 

 

 

「まあトラブルなんていかなる時も付き物だ。それ自体はもう解決してるし、件の敵も排除済み」

 

「…それが?」

 

「ん?いや、何というわけじゃないさ。ただ、吾輩が言いたいのはただひとつ…」

 

 ラプラスはそこで言葉を区切ると、黄金の瞳をつり上げてモニター越しに老人を睨みつけた。

 

 

 

 

 

「吾輩の仲間を殺そうとして、ただで済むと思うなよ?」

 

 

 

 

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!と、けたたましい警報音がモニターの奥で鳴り響く。

 老人がわずかに驚いたように後ろを振り向く動作を見せる。

 直後、ダンッ!と机に手を叩きつけた音を響かせて忌々し気な声を漏らした。

 

 

 

「やってくれたな」

 

「フン、一度やった手法を馬鹿正直に繰り返す貴様の失態だ。そら、早く動かないと中のデータが全部パアだぞ?」

 

「なめるなよ、この程度造作もない。それに、我らを敵に回したことをすぐにでも後悔させてやろう」

 

 直後、ダダダッとアジトの階段を駆け上がる音が聞こえてくる。その足音から軽く10人は越えているだろう。

 分かっていたことだ。

 ヤツは依頼の段階でこちらを始末する算段をすでに立てていた。それが失敗した以上次の策は張ってて然るべきである。

 

 いろはがチャキ丸を手に取り、クロヱもワイヤーが仕込まれた黒のグローブと短剣を身に着ける。

 しかしラプラスはそんな2人を片手を上げて制するとゆらりと立ち上がる。

 もう片方の手には、悠に渡された紫に光るひとつの鉱石。

 

 

 

「貴様こそ吾輩たちをあまりなめるなよ」

 

 

 

 ガチンッ

 

 

 

 鉱石が光輝いたかと思うと何かが外れたような金属音がなり、その瞬間、言葉にするのも烏滸がましいほどの圧倒的で暴力的な魔力の渦が吹き荒れた。

 ラプラスを中心に紫の荒ぶる波濤となったそれはそこにいるだけで重苦しく、敵と認識したものすべてを無慈悲に呑み込む力の権化と化す。

 

 

 

「また吾輩たちや悠に手を出してみろ。その時は吾輩が持てる全てを以て…」

 

 ラプラスが手を高く振り上げ、そして振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様らを叩き潰す」

 

 

 

 ドンッ!という衝撃音とともに大地が揺れる。

 その瞬間、こよりのカウンタープログラムとラプラスの魔力によってつながれた回線が強制的に焼き切られ、モニターの映像が切断された。

 

 

 

「…っぐ!はあ…はあ…」

 

「ラプ!」

 

 再びガチンッと音が響くとラプラスが息を荒げながら力なく椅子に座りこんだ。

 一番近くにいたルイが寄り添い、こよりたちもそれに続く。

 左手に握る鉱石は、その輝きを失い真っ二つに割られていた。

 

 

 

「フン、悠から貰った魔鉱石を使ってもひとつ解除しただけで10秒が限界か…」

 

「ラプ、無理はしないで。その封印は強い、無理に外せば反動が来るんだから」

 

「分かってるっての。おいしんじん」

 

「なにー?」

 

「ドアの向こうに固まってる。掃除頼むぞ」

 

「はーい、任せて」

 

 もしもの護衛としていろはとともにクロヱはドアを開けて奥を確認する。

 そこにいたのは倒れ伏す大人の山。軽く10は超えるその山にすでに生命は宿っておらず、ただの屍となっていた。

 クロヱはそれを見て瞳を細めると内なる魔力を解放、屍が固まってる部分の床が黒く染まる。さらにその外縁部には対照的に白の三角模様が規則的に並んでいる。

 

 

 

「ばっくばっく…」

 

 クロヱがそう呟くと、三角模様が黒とともに動き出し屍たちを包みだす。

 これは、()であり、()であった。

 まるで口が閉じるように、遍くすべてを葬り去るように。

 開かれた顎はどんどんと閉じていき、そして

 

 

 

「ばくーん」

 

 余すことなくすべてを呑み込んだ。




ここまで読了ありがとうございます!
一つ区切りがつきましたがこれからもゆっくり更新していきますので気長にお待ちいただければ幸いです。



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