ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part23 純白の少女③『ガルナ村』

 

 

 

 

 

 草むらから出てきたのは1人の少女だった。

 

 見た目の年齢は5,6歳といったところでラプラスよりも幼い出で立ち。

 着古したような白いワンピース1枚に森の中を歩いてきたからなのか至る所に葉っぱや泥がついておりハッキリ言ってしまうとみすぼらしいと言う他ない服装。しかし、それでもなお『無垢』だと感じさせてしまう穢れなき長い白髪と少女特有のクリっとした眼。

 そんなどこかアンバランスな純白の少女(イノセントガール)

 

 少女に宿るこの世のものとは思えない淡い虹色に縁取られた銀の瞳は、まるで己を写し取る鏡のようで。その瞳と目が合った悠は、その瞳を通じて己のすべてを見透かされたかのような錯覚に陥った。

 

 

 

 ドクンと心臓が脈打つ。

 恐怖ではない、畏怖でもない。

 それでも、こちらをじっと見つめてくる目の前の少女から感じる()()()に、悠は言葉を発せずにいた。

 

 

 

 葉擦れの音だけが響く静寂の中、最初に口を開いたのは少女の目線まで体を下げたノエルだった。

 

 

 

「お嬢ちゃん、1人?迷子かな?」

 

「………」

 

 ふるふる、と少女は首を横に振る。

 そのやり取りにようやく我に返った悠は隣にいたラミィとかなたにアイコンタクト、コクリと頷いた2人とともに少女とノエルの元に近づく。

 

 

 

「こんにちは!お名前言えるかな?」

 

「なまえ……マシロ」

 

「マシロちゃんか~、ボクは天音かなただよ、よろしくね!」

 

 満面の笑みで差し出されたかなたの手を少女───マシロはおっかなびっくりといった様子で握る。このかなたの社交性は見習わないとなとそれを見た3人はふっと笑みをこぼした。

 

 

 

「こんにちは。マシロちゃんはどこから来たのかな?」

 

「えっと…ガルナ村…から……」

 

「!」

 

 ラミィからの質問に対して少女から出てきた思わぬ単語に4人は顔を見合わせる。

 ガルナ村とは先の依頼(クエスト)の依頼先であり、悠たちが目指している村の名前だ。ついでに言ってしまうと悠たちはアサルトボアたちに追いかけられた影響で今現在迷子中。不幸中の幸いというべきかなんというべきか、渡りに船を得た一行は首をかしげているマシロに訊ねる。

 

 

 

「マシロちゃん、僕たちも今ガルナ村を目指してたんだ。だけどトラブルでちょっと迷子になっちゃって…。もしよかったら村まで案内してもらえないかな?」

 

「………」

 

 コクリ、とマシロが頷く。

 

 悠の言葉の中に隠されたのはふたつの意図。

 たしかに悠たちは迷子だったのは事実だが、それでもはずれの森の地理に詳しいノエルに加えて『エリアサーチ』で周囲の状況を先読みできる悠がいれば時間さえかければ特に問題なく村までは辿り着ける。

 それでもなおマシロに案内を求めたのは当然理由がある。

 

 ひとつはマシロの護衛だ。

 当のマシロがどうやってこの森の中を獣たちに一切襲われずに来れたのかは謎だが、こんな幼い少女が1人で歩くのはこの森は物騒が過ぎる。ただでさえ予期せぬアサルトボアの出現があり今後どういうイレギュラーが起きるかなんて予想できない現状で、悠たちは幼き少女(マシロ)を放っておくという選択肢などとれるわけがなかった。

 

 もうひとつは村に入るまでの情報収集だ。

 ガルナ村からの依頼は『村周辺で出現するようになった獰猛な獣たちの駆除』。

()()()()()()()()()()という文言から察するに最近になってそういう状況になったのだろう。環境の変化か、生態系の変化か、あるいは人為的なものなのか。現状で原因が分からない以上どんな小さなことでも手に入れられる情報は耳に入れておきたい。ガルナ村の出身であり森を闊歩していたマシロならあるいはそういった情報を持っているかもしれないという理由である。

 

 

 

「それじゃあ改めてガルナ村に向けて、しゅっぱーつ!!!」

 

「おー!!!」

 

「お、おー!」

 

「おー!」

 

「……おー?」

 

 絶妙な息の揃わなさだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、なんでこうなってるんだろう…」

 

「…重い?」

 

「ああいや、そんなことないよ。大丈夫」

 

「一番なつかれちゃったね~悠くん?」

 

 それぞれの自己紹介もほどほどにマシロもいるということで獣道ではなく最低限の舗装がなされた森の道を一行は歩くその最中で、悠は肩にマシロを乗せながら…いわゆる肩車の状態でなんとも微妙な表情で歩みを進めていた。歩き出そうとした際にマシロに服を掴まれた結果である。

 

 その表情から浮かび上がるものはただひたすらの疑問。

 とても初対面とは思えないマシロのなつきように「どこかで知り合ってたっけ?」と頭に乗せられたマシロの手の温かさを感じながらグルグルと思考するが思い当たる節はなく。

 

 まあ目が合った時の不思議な感覚は未だに気にかかるところではあるが子どもは決して嫌いじゃない。真っ先になついてきたのも子ども特有の感性ゆえなのだろうと結論付けた悠はマシロを落とさないようにしっかりと固定しながらかなたとともに会話を広げる。

 

 

 

「そういえば、マシロちゃんはどうして森の中にいたの?」

 

「…探しもの、してた…」

 

「探し物か~、もう見つかった?まだならボクたちも手伝うよ!」

 

「ううん、もう…見つかったから…」

 

 キュッとマシロは悠の頭に乗せていた手に力を込める。

 「?」と悠が上を見上げてマシロを見るがマシロの表情は変わらず悠をじっと見つめ返すのみ。つかみづらい印象の子、といった感じである。

 

 

 

「…みんな、は…?」

 

「僕たちはガルナ村からお願いされてこの森の調査に来ていたんだ。最近急に危険な獣たちが出てきたからってね。マシロちゃんは何か知らない?」

 

「……知ら、ない…」

 

「そっか…ありがとうねマシロちゃん」

 

 まあ予想はしていたことだと悠たちは特に落胆した様子は見せない。

 なんにせよ今するべきことは第一にマシロを安全に村まで送り届けること、そして次に依頼(クエスト)の達成だ。

 

 道の誘導はノエルとマシロに任せて悠は索敵魔法の『エリアサーチ』と『魔力感知』に集中する。

 マシロたちを危険には晒させない。守ってみせる。

 それが自分の為すべきことだと誓いを胸に秘めつつ『エリアサーチ』の視点を変え、『魔力感知』の範囲を広げる。いつ何が来てもいいように、ストライクハートに魔力を込める。

 

 

 

「…あ、おねえちゃん、危ない」

 

「へ?…うわっきゃあ!!?」

 

 

 

 そう考えている間にマシロがかなたに声をかけた瞬間、そんな素っ頓狂な悲鳴を上げて悠の隣からかなたの姿が掻き消えた。

 

 

 

「…は?」

 

「「…え?」」

 

 突然の事態に悠も、そして前を歩いていたノエルとラミィも時間が止まったかのように立ち止まり言葉をなくす。

 

 

 

(…ッ!敵か!?守るって誓ったそばから…くそ!)

 

 悠は思わず歯ぎしりを立てながら右手のストライクハートを強く握りしめる。

 あんなことを誓っておいてなんてざまだと己の非力さを嘆くが、歯をかみしめてすぐさま行動に移る。連れ去られたのかどうかは分からないが、まずなにより最優先なのはかなたの居場所の捕捉。今ならまだ間に合うかもしれないと索敵魔法に意識を向けつつ呼びかける。

 

 

 

「かなた!!!どこに…って……」

 

 見つけた。

 それはもう思いの外ずっと早く。

 『エリアサーチ』によって悠を中心に展開されていた索敵機(サーチャー)のすぐそばで。

 それすなわち

 

 

 

「も~、なんなのこれぇ…!」

 

 悠たちの頭上である。

 なんとも弱々しいかなたの声が悠たちの頭上から聞こえてくる。

 悠たちが上を見上げてみると案の定かなたがそこにいた。

 

 体を上下逆にした状態で突然のことで天使の羽を使う暇もなかったのか脱力した状態。そんなかなたの足には地面の保護色になっていた茶色のロープが絡まっており、それがこの状態になってしまった原因だと察した。

 

 なんとも古典的なロープトラップである。

 村人が食料を確保するため仕掛けたものだったのかは定かではないがひとまず命の危険などがなかったことに安堵した悠だったが、ふと()()()()に気づいてしまい即座に索敵魔法を消してかなたから視線を背けた。

 

 

 

「?どうしたのさ悠くん、急にそっぽ向いて。助けてほしいんだけど~」

 

 そんな行動を疑問に思ったのかかなたから質問が飛んでくる。

 バタバタと手足を動かしながら暢気に懇願する。頼むからやめてほしい、無防備にもほどがある。すでに手遅れ感は否めないが気付かず見続けていれば間違いなく(悠が)大惨事だったところだ。

 

 ホロライブ学園の女性用の制服は当然ながらスカートである。

 そしてかなたは現在体が上下逆の宙ぶらりん状態。そんな体勢で足をバタつかせてしまえばどうなるかなんて明らかだろう。なんなら上も捲れてへそまで丸見えである。

 

 

 

「ちょ、ちょっとかなたちゃん!足、足閉じて!!!」

 

「へ?………~~~!?!?」

 

 事態にようやく気付いたラミィが急いで警鐘を鳴らす。

 かなたはそれを聞いて自分の状況を確認すると、一瞬で顔を真っ赤にして片手でスカートを押さえた。

 

 

 

「こ、こっち見るなバカァ!!!」

 

「理不尽な!?」

 

 かなたが呼び出した己の身の丈を大きく超える槍斧(ハルバード)を滅茶苦茶に振り回す。幸いというべきかかなたは結構な高さまで吊り上げられていたのでその凶刃が悠に届くことはなかったが、かなたが落ち着きを取り戻すまでに結構な時間をかけてしまうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…着いた」

 

「お~、案内ありがとうね、マシロちゃん」

 

 トラブルこそあれどそこからは会敵もなく一行は無事に『ガルナ村』まで到着した。

 第一印象としては「思ったより古い」といったところだろうか。

 

 現世の中でもホロライブ学園を擁するこの都市は控えめに言っても時代の一つどころか二つも三つも先を行ってると言ってもいいだろう。近代化に加えて幽世、天界、魔界につながる歪みを集中させたこの都市はあらゆる世界のあらゆるものが集まってくる。

 それは人材であり、技術であり、物質であったりと様々だ。

 そしてそれゆえにこの都市は発展し、大きくなり、今のような形を成している。

 

 そしてこのガルナ村は言ってしまうとそのようなものの影響を受けなかった地区なのだろう。村を囲う柵は傷つき幾度もの修繕の跡があり、建てられている家もその全てが木造でこじんまりとしており、機械の類は殆ど見受けられない。よく言えば「歴史を感じる」、悪く言ってしまえば「時代に取り残された」村のようであった。

 

 

 

 ひとまず門番のような者もいなかったので悠たちはガルナ村へ足を踏み入れる。

 瞬間、数多もの村人たちの視線が遠慮なく悠たちに集まった。当然と言えば当然なのだろう。見る限りガルナ村は他との交流をほとんど行っていないのだろう。完全に自給自足での生活なのであろうことは村を見れば大体の予想はできる。

 こういった村は村人たちの結束が強い反面外部の人間に対しては排他的な印象を持ちがちである。現に悠も両親と幾度の引っ越しをしてきた中でそういったことを経験してきた。

 だが…

 

 

 

(なんだ、この視線…排他というよりも…畏怖…?)

 

 村人たちの視線に宿る感情がなんとも不可解である。

 排他的な視線もあるにはある。だが、それよりもより強く感じるのは畏怖や恐怖…すなわち()()だ。

 

 

 

「ねえ、どうしてアレが…」

 

「なんで村に入ってきてるんだ…」

 

 村人から聞こえてくる声は知らないことを恐れるものではなく()()()()()()()を恐れている類のものだ。

 しかもその視線が

 

 

 

(マシロに向いてる…?)

 

 その視線の行き先は今現在悠の肩から降りて手をつなぎながら隣を歩いているマシロである。どう考えても同じ村の人間に、それもこんなに幼い少女に向けるべき目線ではない。

 そして当のマシロは顔を俯かせてぎゅっと悠の手を強く握りしめていた。まるで離れないでというように、仲間はずれにしてほしくないというように。悠はそれを見ると痛くならない程度にマシロの手を握り返した。少しでも安心できるようにと、そう願いながら。

 

 

 

「…ねえ、なんなの、この雰囲気」

 

「あんまり、気分はよくならないですね…」

 

 かなたとラミィは揃って顔を顰める。

 村の外から来た以上自分たちは部外者だ。依頼とはいえ決して村人たちから好意的な目を向けられるわけではないと理解はしていたが、ここまであからさまに、それも自分たちだけではなく年端もいかない少女であるマシロにまでこんな感情を向けられていることに心がざわついてしまう。

 

 

 

「うん…気にはなるけどまずは村長のところに話を聞きに行こう。マシロちゃんは…」

 

「………」

 

 マシロは悠の手を握る力をさらに強くしながら離れようとしない。

 そしてそれが何を意味するかが分からない人は、この中にはいなかった。

 

 

 

「一緒に連れていきましょう。村長なら何か知ってるはずですし、何かあったらマシロを連れて村の入り口で待ちますから」

 

「…そうだね、それでいこう」

 

 ノエルはそこで言葉を切るとマシロの目線まで体を下げてその白く穢れのない髪を優しく梳きながら微笑む。

 

 

 

「大丈夫だよ、マシロちゃん。何があっても、お姉ちゃんたちが守るからね」

 

 マシロはその言葉にゆっくりと顔を上げて、不安で顔を歪ませながらもひとつ頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、ようこそお越しくださいましたホロライブ学園の皆様方。どうぞおかけになってください」

 

「………どうも」

 

 村人たちからの視線を耐えつつ出迎えられたのは村の中でもひときわ大きな家だった。一目見て村長の家なんだなと分かってしまう程度には大きく、そして年代を感じさせられた。

 おそらく護衛なのであろう革の装備で武装した人たちの案内の元、そんな皺がれた声を発したのは1人の老人。椅子に腰かけこちらを見据えるその姿はひとつの村を束ねる長に相応しい貫禄があった。

 

 対して悠たちの表情は硬いままだった。

 緊張…というものなくはないがやはり一番の原因は護衛たちのその不躾な視線だった。先程の人たちよりも露骨な、もはや人としてすら見ていないような圧倒的な畏怖と嫌悪。しかもそれを隠すつもりもない様子に悠たちは気分がどんどん悪くなってしまう。

 しかし依頼は依頼だと割り切ってここまで来たんだ。いざ話を聞こうと席につこうとして、しかしそこで待ったがかけられた。

 

 

 

「ああ、依頼の話の前にひとつよろしいですかな?」

 

「…なんでしょうか?」

 

「なぜ、()()を連れているのでしょうか?」

 

「……!?」

 

 ビクッと、マシロの体が跳ねる。

 途端、場の空気が一気に冷え込んだかのような静寂に包まれた。

 悠たちを…マシロを見る村長の瞳はどこまでも冷たく、そこには一切の感情が宿っていないかのようだった。

 

 そして決定的だったのは村長が放った「()()」という呼び方。

 マシロと村人たちとの間に何があったのかなんて悠たちは知らないし、想像もできない。だけれども、人と人とも思わないような。いや、実際に思っていないとも言いたげなその物言いに、心優しき彼女たちが我慢できるはずもなかった。

 

 

 

「…っなんですかその言い方は!?マシロちゃんがどんな…!」

 

「待ってかなたちゃん」

 

「ノエル先輩、でも…!」

 

 ノエルに肩を掴まれるがかなたは止まろうとしなかった。肩に乗せられた手を払いのけて村長に掴みかかろうとして、そして、ノエルの手が震えていることに気づいた。

 

 表情に変化はない。

 でも、その震える手はノエルの心情を雄弁に語っていて。

 それが分かってしまったから、かなたはやるせない気持ちのまま伸ばした手が止まってしまう。

 

 

 

「お願いだから。分かってるから…!」

 

「かなたちゃん…」

 

 そんな悲痛なノエルの声とともに隣にいたラミィがかなたの伸ばされた手を優しく包んで下ろした。

 ここで掴みかかってしまえばこれまでのすべてが台無しだ。

 ここまでの道のりも、先ほどの戦闘も。そして何より、こうなることが分かっていたであろうにも関わらず自分たちをここまで案内してくれたマシロの勇気と頑張りが。

 

 マシロは分かっていたはずなのだ。

 恐れられることも、嫌悪されることも、残された唯一の肉親にすら突き放されることも。

 決してそれが怖くないわけじゃない。怖いはずなのだ。体は震え、幼い顔には影が差し、その綺麗な銀の瞳は防衛本能のように外界の情報をシャットアウトせんと強く瞑られている。

 

 ガルナ村という隔絶された狭い世界の中でのそのような扱いは本人からすれば世界そのものから拒絶されたようなものだ。そんな世界に再び自分から足を踏み入れるということがどんなに勇気がいることか。出会ったばかりの悠たちのためにありったけに勇気を振り絞ってくれたマシロのそんな姿を見て、悠はマシロを抱きしめた。

 

 

 

 ここにいるよと伝えるように、1人じゃないんだと訴えかけるように。

 

 

 

 マシロの震えが少しずつ収まっていく。

 全身を包み込むように伝わってくる温かさが恐怖を溶かしていく。

 まるでゆりかごの中にいるかのような安心感に包まれて、マシロはそのまま意識を夢の中に落としていった。

 

 わずかな寝息が腕の中で聞こえてくる。

 悠はマシロをしっかりと抱きかかえると踵を返す。

 

 

 

「ノエル先輩、僕はマシロちゃんと一緒に入口で待ってます。かなた、一緒に来てもらっていい?」

 

「…うん、分かった」

 

「よろしくね。悠くん、かなたちゃん」

 

 悠はかなたが付いてきたのを確認すると歩き出す。

 部屋を出る際に護衛の2人と目が合う。その瞳には畏怖や嫌悪の他にわずかな困惑の感情。「なぜソレを庇うのか」という心情がありありと表れており、悠はそれに対して目を細めて睨みをきかす。

 護衛の1人がかすかに動揺したのを見ると、視線を外してかなたとともに村の入り口まで歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 やけに静かに感じる村の中を2人分の足音だけが鼓膜を揺らす。

 かなたは自分がやろうとした行動の浅はかさに意気消沈しながら僅かに目を伏せて先に歩き出した悠を追従していた。

 

 

 

「…ありがとう、かなた」

 

「…?」

 

 突如として言われた悠の言葉の意図が理解できなかった。

 罵倒されるならともかく、お礼を言われることなんてなかったはずだ。感情に任せて依頼人に掴みかかろうとして、迷惑をかけて。仮にも学園の代表としてきているにもかかわらずその信頼を損ねようとした。

 後悔したかと言われればそれはないと自分は返すのだろうが、それにしたってもっとやり方があったはずなのだ。

 

 なのに、どうして悠くんはお礼なんて…

 そんな感情が顔にでも出ていたのか、かなたの顔を見た悠はどこか張り詰めていた表情を緩めて二の句を継いだ。

 

 

 

「かなたが動いてなきゃ、多分僕も同じことをしてただろうからね。だから、こう言っちゃいけないんだけど…嬉しかったんだ。同じように思ってくれていたことが」

 

 だから、ね。

 そう言って悠はあははと空いた片手で軽く頬を掻く。恥ずかしいことを言ったとでもいうように視線をかなたに合わせようとせず背中に背負ったマシロや周囲に向ける。

 

 それがなんだかおかしくて、嬉しくて。

 

 悠の隣まで歩を進めたかなたに先ほどまでの意気消沈した暗い顔はなく、喜色を抑えきれない笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「…こっちこそありがと、悠くん!」

 

「どういたしまして、でいいのかな?」

 

 そうして軽く話し合いながら歩き続けること数分、気づけば2人は来た道を歩ききりガルナ村の入り口まで戻ってきていた。

 今頃ノエルとラミィの2人は村長から話を聞いてる頃かなとかなたが考えていると、隣にいた悠がマシロを背中に抱えながら器用にネックレスにしていた待機形態(スタンバイモード)のストライクハートを杖形態(アクセルモード)にしていた。

 ストライクハートを正中に構えて固定している悠の瞳はどこか遠くを見ているようで、かなたは咄嗟に声をかける。

 

 

 

「悠くん?何やってんの?」

 

「え、ああ。ちょっとした仕込みの成果の確認。かなたにも見れるようにするよ」

 

 キィンと瑠璃色の魔力が2人の前で発光したかと思うと、そこにはそこには半透明のスクリーンが現れていた。

 そこに映っていたのは木製の家具で構成された一室。和洋折衷というよりかは使えるものをとりあえずかき集めたような不統一感のある作り。というより、かなたはこの光景に見覚えがあった。昔とかそんな話ではなく、ついさっき同じものを見ていたはずだ。

 

 

 

「これって、村長さんの部屋?」

 

「そ。部屋を出る前に護衛の人たちにばれないようにこっそり『エリアサーチ』を仕掛けておいたんだ。ノエル先輩に先に話をしておいて、先方が大丈夫そうだったら遠隔で発動するって予定でね」

 

 そうしなきゃやってることただの盗撮だしね、とわずかに苦笑しながら悠は見やすいようにスクリーンの位置とサイズを調整する。

 これが見れているということはつまり先方(村長)の許可がとれたということだ。正直現時点であの老人に対してよくないイメージが先行しすぎていてこの許可がとれたことも不思議でならないのだが、依頼の詳細は聞かねばならないだろうと切り替えて2人はスクリーンに注目する。

 そして2人が目にしたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に申し訳なかった!!!』

 

『ちょ、ちょっと落ち着いてください…!』

 

『え、ええと、ええっと………!』

 

 

 

「「…はい?」」

 

 まるでお手本のような綺麗な土下座で謝罪をする老人とそれをどうにか諫めているノエルとラミィの姿だった。

 





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