ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part26 純白の少女⑥『少女は星に願う』

 

 

 

 

 

 マシロの心を知って決意を新たにした夜から日が明けて、珍しくかけておいた定刻のアラームによって悠は目を覚ました。

 

 

 

「…知らない天井だ」

 

〈寝ぼけてますマスター?〉

 

 普段とは違う木製の天井をぼーっと見つめていると、耳元から聞こえてきたすでにスリープから覚めて待機形態(スタンバイモード)になっていたストライクハートからの辛辣なコメントに「うっ」と唸り声を上げると悠は頭だけを起こして首を振ったり目を擦ったりして未だ覚め切らない意識をどうにか覚醒させる。

 ストライクハートの指摘通り、悠がしっかりと眠れなかったのは事実である。というかこの状況で熟睡できる人がいたらぜひともその方法を教えてほしい。

 

 右にも左にも映るのはあどけない寝顔を浮かべる美少女たちの姿。極力見ないようにと瞼を閉じても否応なしにその存在は意識してしまうし、右にいたマシロはともかく左にいたノエルの無防備な寝息が聞こえるたびに悠は声にならない唸り声をあげてしまう羽目になった。

 

 そんなことを考えながらようやく覚醒した頭を左右に振って周りを見渡してみると悠以外の全員は未だ夢の中のようで、布団から体がはみ出していたり逆に頭まで布団をかぶっていたりとそれぞれ違っていたりしたが総じて当分起きる様子は見られない。ストライクハートに表示させた内蔵の時計を確認してみると示されていたのはちょうど午前6時ジャスト。悠にとってはいつも起きている時間ではあるが他のみんなはそうではないのだろう。

 みんなを起こさないように慎重に音を立てずに布団から抜け出すと首に下げたストライクハートとともに玄関から庭へと赴いた。

 

 

 

 季節にそぐわないやや冷えた空気だった。

 まあ超常が闊歩するこの世界で”季節外れ”なんて言葉は日常的に起こりうるものではあるのだが、先ほどまで温かい布団の中にいただけにその寒暖差にわずかに体を震わせる。

 悠はある程度広いスペースまで歩を進めると首に下げていたストライクハートを自身の目の前に軽く放る。備え付けられた魔力によってストライクハートがその場に浮遊したのを確認すると軽く腕を振って自身の魔力で構成されたいくつものモニターとキーボードを眼前に出現させた。

 

 

 

「今日は設備がないしソフト面の簡易メンテナンスだけだね。ただカートリッジの補充ができないのは痛いな…」

 

「仕方ないですよマスター。その代わり帰ったらバッチリお願いしますね!」

 

「分かってるよ、任せて」

 

 悠が行っているのは先ほどの会話から察する通りストライクハートのメンテナンスである。これは2人にとって日課でありルーティーン、たとえ場所や状況が変わろうともやるべきことは変わらない。

 軽い会話を繰り広げながらもその手はよどみなくキーボードを叩き続け、モニターが増えては消える。瞬く間に切り替わる情報に悠はいたっていつも通りと言うように涼しい顔で目と手を忙しなく動かしていく。

 数えて約10分ほど、タンッとキーボードを勢い良く叩くと映し出されていたモニターが音を立てて消えていった。

 

 

 

「…よし、今日も異常なし。完璧だね」

 

「ありがとうございますー!朝の鍛錬はどうします?」

 

「ん、今日は探索もあるし魔力をあまり使うわけにはいかないからね。射撃訓練はナシの空中機動トレーニングだけにしようかな」

 

「了解です!ターゲット表示します」

 

 ストライクハートがそう言うと自身をわずかに発光させる。

 魔力放出による特有のライトエフェクト。

 悠がそれを見て視線を上にあげるとそこに映ったのはやや曇りがかった空に、自身を象徴する瑠璃色の光を帯びたいくつもの魔力球。

 

 

 

「…『バリアジャケット』、『アクセルフィン』、『ストライクセイバー』、展開」

 

 悠は視線を動かさずストライクハートを眼前に突き出して小さく呟く。

 すると悠の体が光に包まれ、まばたきひとつする間にその光が弾け、装いを新たにしていた。

 

 白を基調に青のラインが入ったロングコートとボトムスに、局所的に硬質装甲で構成されたパーツや宝石が取り付けられており絢爛でありながらやや重厚感を感じさせる戦闘装束(バリアジャケット)

 その脚部には青白い2対の魔力羽(アクセルフィン)

 さらに両手に握るのは杖形態(アクセルモード)となった自身の相棒と、細くも重々しい印象を抱かせる片手長剣(ストライクセイバー)

 

 今の悠の完全武装(フルカスタム)

 ()()()自体はまだ持ち合わせてはいるが、主力兵装という意味ならこれが現在の完成系となるだろう。

 ストライクセイバーの魔力刃を細めた目で見つめひとつ深呼吸、その小さな動作がトリガーとなり悠は魔力羽を羽ばたかせて大地を蹴り上げ瞬く間に天空に舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んん」

 

 ところ変わって家の中、もぞもぞと布団が動くとともに小さな声が漏れる。

 そのまま10秒ほど布団の中でうずくまったかと思うと「んばっ!」という効果音でも聞こえてきそうなほど勢いよく体を跳ね上げ1人の少女が目を覚ました。

 

 

 

「…いただきます!?」

 

 まだ少々寝ぼけているようである。

 

 「うえぁ~」となんとも間の抜けた声をあげながらふらふらと頭を揺らす少女───誉ある白銀聖騎士団団長の白銀ノエルその人である。

 先程まで布団でくるまっていた影響か肩で切り揃えられていた艶やかな銀の髪はところどころ跳ねており、エメラルドの瞳も意識が覚めきってないためかその半分ほどが閉じられている。わずかにはだけたパジャマも相まってそのあまりにも無防備な姿は悠がその場にいれば即座に顔を逸らして立ち去ったことだろう。

 今の彼女はどこからどう見てもただの1人の少女であり団長としての威厳などはカケラも見受けられない。だがそのマイペースさもまた彼女の魅力であり長所でもある。

 

 そんなノエルの「いただきます」発言が思いの外声量が出ていたのか同様に布団を被って夢の世界に旅立っていた他の面々───雪花ラミィに天音かなたものそのそと緩やかな動きで体を起こしていた。

 

 

 

「おはよう…ございましゅ…」

 

「ふわぁ…おはよーございまーす」

 

 ラミィは朝に弱かったのかしぱしぱとまばたきをして目を擦りながら未だに意識が半ば夢の中で、対するかなたはひとつ大あくびをするも起き上がった後ははきはきとした様子で今すぐにでも二度寝を敢行しそうなラミィを起こしにかかっていた。

 

 

 

「おはよー2人とも。みんな早起き太郎だ~」

 

 そんな2人の様子を見てすっかり目が覚めたのかノエルはそう返し、あることに気付くとキョロキョロを周囲を見渡す。

 ここで寝ていたのは自分たちを含めて5人、しかして今現在ここにいるのは3人のみ。

 

 

 

「あれ、悠くんにマシロちゃんは?」

 

「へ…?布団にはいないですね…」

 

「悠くんは分からないですけどマシロちゃんなら、ホラ」

 

 ラミィの肩を揺さぶっていたかなたが向けた視線の先をノエルとラミィも同じように見てみると、そこには家の窓からじっと空を眺める白髪の少女。

 空に映る何かに余程夢中になっているのかノエルたちに気付いた様子は一切ない。視線は不動でありながらその小さな体は何かに合わせるようにゆらゆらと揺れており、それに伴い絹のような純白の長髪が踊る。

 一体なんだろうかと顔を見合わせた3人はマシロの元へ歩み寄り声をかけた。

 

 

 

「おはよう、マシロちゃん。何見てるの?」

 

「!…おは、よう…。あれ……」

 

 マシロは一瞬だけ視線をノエルたちに移すもすぐに空を仰ぎ指をさす。

 3人もそれに倣い空を見上げて、その視界の中で一際際立つものを見つけた。空模様自体はあいにくの曇りがかったものだったが、それ故にマシロが夢中になっているものがより鮮明に映えていた。

 

 

 

 それは、縦横無尽に空を駆ける青い星。

 

 その星は空に点在している光の玉(魔力球)に衝突するたびにパンッと小さな破裂音を鳴らして光の粒子と煙を撒き散らす。

 右に、左に、上に、下に、光の軌跡を残しながら飛翔するそれはさながら流星の如く。

 それが一体なんなのか、ノエルたちはすぐにその正体に気づいた。

 

 

 

「悠くんだ。自主練…かな?」

 

「相変わらずエッグい機動力だよね〜。ココと一緒ならともかく一対一じゃあ捉えられる気がしないや」

 

「うん、でも悠くんは決して速いわけじゃない。加速魔法(フラッシュムーブ)を使わない通常時の速度ならかなたちゃんの方が圧倒的に速い。ただ、最高速(マックススピード)から速度を一切落とさない切り返しの連続行使が悠くんの空中機動の強さのひとつなんだと思うよ」

 

 簡単に言うと0から100、100から0という停止状態からの急加速、最高速度からの急停止を悠は一切のリスクなしで行なっているということである。

 物体が動く以上そこには必ず慣性が生じる。故に人は急には止まれないし、無理に別方向に動こうとすればその分体に相応の負荷がかかってしまう。

 無論魔力で肉体を強化したり、せずともその負荷を前提で動けば同じことはできるだろう。加速で言えばフブキが使用していた一瞬の超加速もそれに該当するし、停止で言えばかなたも同じようなことをした記憶がある。

 

 しかしそれは出来てもせいぜいが2〜3回といったところ。

 インターバルを挟むならともかく、短時間での連続行使は当然ながらその回数に比例して体への負担は劇的に大きくなるし、継続的な魔力での肉体強化はいかんせん燃費が悪いの一言に尽きる。それ故にフブキも仮想戦闘訓練室での対決では加速歩法の連続使用はしていなかった。

 

 

 

「『バリアジャケット』…だっけ?悠くんが着てるのって」

 

「はい。バトロワの時に聞いたことなんですけど、あの服そのものが一種の防御魔法らしいんです。サブマシンガンの銃弾を弾くくらいの性能だったし、あの服で体への負担を減らしてるってことなのかな…?」

 

「多分そうだと思うよー。ボクも飛んでる身だから分かるけどあれだけの急速転換を生身でやってたらすぐに移動のGで飛行酔いからの全身筋肉痛を起こす自信があるもん」

 

 そんな酔い方があるのかと飛べないノエルとラミィは人知れず同じことを思った。

 3人がそんな会話をしているうちに悠が最後のターゲットを破壊した音が空に響く。3人が会話を止めて空を仰ぎ見ると空を駆けていた星───悠が杖と剣をその手にゆっくりと庭まで下りてきていた。

 

 

 

「あれ、みんなもう起きてたんだ」

 

「みたいですね」

 

「おーい!悠くんおっはよー!」

 

 いの一番に気付いたかなたが真っ先に悠に向かって手を振る。昨日のマシロにあてられたのか快活でエネルギー溢れるその笑顔は周りの面々も不意に笑顔をこぼしてしまうほど眩しく、悠もまた同様に鍛錬の疲れが吹っ飛んだかのように軽やかに地面に降り立った。

 

 

 

「おはよう、かなた。ラミィにノエル先輩、それにマシロちゃんもおはよう」

 

「うん、おはよう悠くん」

 

「悠くんおはよー」

 

「えと、おは、よう…」

 

「起こしちゃったならごめん。すぐ朝ご飯の用意するから」

 

「あ、手伝うよ!」

 

「お皿運ぶのは任せて~!あと団長は牛丼がいいな~」

 

「朝から!?」

 

 悠が光を纏ったかと思うとその次の瞬間には両手に持っていた武器は淡い光とともに消え、優美なバリアジャケットは簡素な部屋着に変化していた。

 鍛錬でわずかにかいた汗を袖口で拭いながら手伝いを申し出てくれたラミィに感謝しつつキッチンに向かおうとする最中、シャツの裾を引っ張られて思わず足を止める。

 

 

 

「…マシロちゃん?」

 

 裾を引っ張った正体はマシロだった。

 言葉は発さず、シャツを握りながら悠を見上げるその銀の瞳には興奮と興味、そして期待が入り混じっているように感じた。

 

 悠は腰を落とすとマシロと同じ視線までもっていき、目線を合わせるとマシロの空いている手を優しく握る。催促はせず、マシロの言葉(願い)を静かに待つ。

 ノエルが道中に言っていた、苦境に、不運に見舞われた子どもに自分ができること。普段通りに、そしてその子(マシロ)がしたいと思えることがすぐにできる環境作り。催促してしまえばきっと、マシロはその言葉(願い)を己の内に押し留めてしまうだろうから。

 

 待ったのは10秒か20秒か。マシロを見つめる星の瞳に少女は一瞬顔を俯かせるも、意を決して面を上げると唇を揺らして訊ねた。

 

 

 

「…そらをとぶのって、どんなきもち?」

 

 それは、未知への興味だった。

 辺境の隔絶した村という閉鎖環境。そこに突如として舞い降りてきた神秘(魔法)。少女が持ち合わせる好奇心に対してその神秘の存在はとても大きく、それと同時にその好奇心を持つ少女にとってこの閉鎖空間はあまりにも小さなものでしかなかった。

 故に、少女はそう訊ねた。言葉にしない願いとともに。鳥籠に捕らわれた鳥が閉ざされた大空へと続く扉が開くことを願うように、その翼で自由に無限に広がる空を駆けまわることを(こいねが)うように。

 

 

 

「…とっても気持ちがいいよ。風が心地よくて、空気が澄んでて。縛られるものが何もない、何にも囚われない無限の空を駆けることは、ね」

 

「そう…なんだ……!」

 

「特に夜に満天の星空を飛ぶのは格別かな。まるで自分自身が星のひとつになったみたいに思えるから。…よかったら今日の夜にでも一緒に飛んでみる?」

 

「!…うん、うん………!」

 

 悠の誘いを聞いたマシロは目を輝かせてブンブンと首を必死に縦に振る。感情の起伏が表にあまり出ないマシロにしては珍しい喜色にあふれた表情。それほどまでに悠の誘いは魅力的であり、マシロが言葉にしなかった願いそのものだったのだろう。

 悠はそれを見ると顔をほころばせてマシロの頭に手を置きゆっくりと撫でた。

 

 か細くも輝かしい存在を慈しむように。そして、この子のためにも頑張らないとという、誓いにも似た強い意志とともに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからはいたっていつも通りというべきか、さしてトラブルやイベントがあったわけでもなく時が進んだ。使わせてもらった布団を戻して、ラミィの手伝いのもと作られた朝食を後から合流したジェイルとともに食べた。ちなみに牛丼はさすがに時間と材料の問題もあって作ることはなかった。

 

 そして全員の準備が終わり場所は先日マシロやかなたが遊んでいた庭、すなわちはずれの森の入り口。4人はすでにそれぞれ服を部屋着から戦闘用のものに着替えていた。

 

 悠はもはや恒例となったバリアジャケットに杖形態(アクセルモード)のストライクハート。

 ノエルは特注の騎士甲冑に腰に据えた鈍色に煌めく一振りの鎚矛(メイス)

 ラミィは故郷(ユニーリア)で作られた寒冷地仕様の専用衣装。

 かなたは唯一昨日に引き続きホロライブ学園の制服に身の丈を大きく超える槍斧(ハルバード)

 

 あとはさあ森に出発となるだけなのだが、ここで問題なのがこのはずれの森の広大さである。

 当然ながら探索員はここにいる4人だけ。索敵魔法が使える悠がいるとはいえさすがに森一つを丸々カバーするのは土台無理な話である。固まって動けばその分安全なのだろうが必然的に効率は落ちるし、加速度的に脅威度が増していってると推測されるこの森で悠長に時間はかけられないというのはここにいる全員の共通認識である。

 だが同様の理由で一人一人で行動するのはどうしても身の危険を孕む。

 それ故の折衷案。それ故の

 

 

 

「じゃあ組み合わせは団長と悠くん。そしてラミィちゃんとかなたちゃんってことで!」

 

「分かりました。よろしくお願いしますノエル先輩」

 

「よろしくね、かなたちゃん」

 

「うん!絶対手掛かりを見つけてやる!」

 

 ペアで別れての広域探索である。

 ちなみにペア決めはそれぞれの得意な戦闘距離を考慮してのもの。

 

 近距離メインのノエルとかなた。

 中・遠距離メインの悠とラミィ。

 

 それぞれを分けて配置した結果が先ほどのペア。まあ個人の感情として納得いっていない者もいたが、ジャンケンなどの運ではなくそうするべきという理論で決まった手前その感情を表に出すことはなかった。

 ペア決めも終わり、経過連絡の手段や集合時間も決定済み。4人はいざ出発ということで見送りに来てくれていたマシロとジェイルに振り返る。

 

 

 

「じゃあ、いってまいります!」

 

「ええ、待つことしかできぬのは歯がゆいですが。どうかお気をつけて」

 

「任せといてください!バッチリ解決してみせますから!」

 

「お気遣いありがとうございます。いい報告ができるよう尽力します!」

 

 それぞれが言葉を交わす中、マシロと悠は朝と同じように目線を合わせて手を握る。

 

 

 

「…いって、らっしゃい…ぶじでかえってきてね」

 

「うん、いってきます。帰ったら例の約束、果たさなきゃいけないからね。みんなでちゃんと帰ってくるよ」

 

 その言葉を聞いてマシロは僅かに目を細めて口角を上げる。

 まだ2日とない付き合いだが、最初の時よりも随分と表情が柔らかくなったなと悠は嬉しくなった。自分たちがいたことは、やったことはたしかにこの子のためになったんだなと、そう思えたから。

 そしてその表情の変化を見たノエルたちも同じように嬉しくなりマシロを抱きしめた。

 

 

 

「待っててねマシロちゃん。もう怖い思いはさせないから」

 

「帰ってきたらまた遊ぼうね!」

 

「わ…!う、うん……!」

 

 こんなあたたかな光景はずっと見ていたいものではあるが時間は有限。触れた温もりを惜しむようにゆっくりと離れると悠たちは立ち上がり、森に向かって歩を進める。

 

 

 

 ───絶対に、解決してみせる。

 

 こんなふうに強く思ってしまうのは、きっと既視感があったからなのだろう。

 依頼だということもある。でもそれ以上に、親を失い、同郷から恨まれて、自身が持つには過分な力によってありったけの悪感情をぶつけられて。

 そんなマシロの姿が、かつての自分と被っていたから。

 いるはずもない、妹のような存在だと感じてしまったから。

 

 だから、幸せになってほしいと思った。

 したいと思ったことはさせてあげたいと思った。

 美味しいご飯を食べて、元気いっぱいに外で遊んで、恐怖なんて何もない明日を楽しみにしながら眠って。

 

 そして、今日の夜はマシロの願いに応えて空を飛ぶ感動を目いっぱい覚えてもらおうと。

 

 

 

 

 

 そのくらいの時間は残っているはずだと、悠は信じて疑わなかった。







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