ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート 作:468(ヨルハ)
「ねえ、悠くんってラミィちゃんやかなたちゃんのこと好き?」
「ブフッ!!!?」
思いっきりむせた。
ラミィとかなたとは別れてノエルと2人での探索を始めてから約1時間ほどが経った。といってもこの広大な森の中を一切の手掛かりなしであてもなく探し回ったところでそんなすぐに成果が得られるわけもなく現状は空振り状態。
ずっと気を張っているのもあれということで休憩がてら持ち込んでいたドリンクに口をつけているところに、雑談に興じようとしたノエルから振られたのが先ほどの話題である。
無警戒なところに放り込まれた爆弾は悠は口の中に含んだ液体を全て吹き出す結果となった。ちなみに一部気道に入り込んだことによって現在えずいてる最中である。
「えほっ…な、なんですか急に…?」
唐突に振られたデリケートな話題。
予想だにしていなかった、そして自分の内心を見透かされたかのような質問に悠は心臓を跳ねさせながらその意図を探る。
「いや~、
当人がいないからこそできる話題。ノエルのニヘラとした笑顔に浮かぶのはただただ年頃の少女特有の恋愛がらみの好奇心。
それに安堵するべきかどうかはさておき悠は何とも複雑な表情でお茶を濁す。
(好き…か………)
その質問に対する答え自体なら既に持ち合わせていた。そうでなければこんなに動揺したりしない。
2人だけじゃない。フブキも、いろはも、フレア先輩に目の前にいるノエル先輩も。みんながみんなとても強くて、個性的で、そんな個性が魅力的で、自分みたいな存在にもとても優しくて。
そしてみんなが自分に対して多少なりとも好意的に接してくれていることがこれ以上ないくらい嬉しくて。
だからこそ、自分の口から
自分のような存在がそんな感情を持つことは間違っているから。
ひとつ目を伏せる。
そうするだけで彼女たちとの思い出が鮮明に浮かび上がってくる。
迷子になっているところを助けたり、味方や敵として戦ったり。はたまたご飯を一緒に食べたり、実りのない雑談に花を咲かせたり。
色鮮やかな
そしてその影は訴えかけてくる。
いつまでこんなことを続けるつもりか、と。
オレたちの為すべきことを為せ、と。
その度にうるさい、と僕はその影を払いのけた。
分かっている。僕はオレであり、過去に縛られたオレの願いと為すべきことは僕が為すべきことでもある。溢れ出る感情を抑えることなんて僕にはできないし、するつもりもない。もし奴らが目の前に現れたその時には、
でも、それは今じゃない。
僕がオレであるように、オレもまた僕だ。
誰かを守りたいと思う僕のこの気持ちは、大切にしたいという僕のこの願いは、オレにも絶対に裏切らせはしない。
たとえこの想いが間違っていたとしても、認められなかったとしても。
せめて、今を生きる大切な人たちと過ごすこの日常を希うくらいは許されるはずだと、そう信じているから。
どうにかこうにかノエルからの追及を免れた悠は申し訳なさそうに乾いた笑いを浮かべながら探索を続ける。ノエルはどうしても諦めきれないのかブーブーと不満顔。しかし悠がそこまでして言いたくないことならば強制はできないかとひとつ嘆息をつくとキョロキョロと悠と同様に探索を始めた。
しかし目で見えるものに気にかかるものは見当たらない。
いたって静かで、響くのは森のざわめきと2人の足音のみ。
とても脅威が迫っているようには思えない…と、そこまで考えてハッとした表情を浮かべる。
「…静かすぎる?」
「…やっぱり悠くんも気付いた?」
悠とノエルは顔を見合わせる。
あまりにも静かすぎる。探索を開始してから2時間強、悠の『エリアサーチ』も駆使して探索したエリアはそれなりに広い。それにも関わらず今に至るまで獰猛化した獣どころか熊や鳥などの生物とすら一向に出会う気配がない。
昨日出会ったアサルトボアたちに狩られたかとも考えたが、奴らが暴れた跡はこのあたりには見受けられないしそもそも遭遇地点が違うかとその考えを排除。それと同時に昨日と今日とでひとつの相違点が思い浮かんだ。その正体を確かめるべく、悠はすぐさま魔法を発動する。
「魔力感知。エリア、感度ともに最大」
目を閉じ、意識を集中させる。
放たれた小さな魔力の波、過去に見ない広範囲故にその微細な変化も見逃さないように。
「悠くん、なにか思いついたの?」
「はい、昨日アサルトボアと遭遇した際、『魔力感知』で妙な魔力を感知したんです。まるで何かの拍子で閉じ込められた魔力が弾けて広がっていくような、そんな妙な魔力の流れが…」
もしあの魔力が獣の獰猛化を引き起こした原因なのだとしたら。
チリッと、悠の意識、魔力の波に引っかかる何かを見つけた。そして一つ見つければその後は伝播していくようにドンドンとその反応が増えていく。それは10や20は下らない、ガルナ村を中心にはずれの森全域を覆い隠すように張られた魔力の痕跡。注意深く意識を向けなければ見落としてしまうであろう明らかに人為的に仕掛けられたナニカ。
「ノエル先輩、こっちです!」
「!わ、分かった!」
悠は『魔力感知』を発動し続けながら一番近くに反応があった場所へ駆け出す。ようやく掴んだ手掛かりを無駄にはしないように、はやくはやくと『アクセルフィン』も併用して速度を上げる。
その地点へは1分もかからず到着した。
何の変哲もない森の一角。何か特別なモニュメントがあるわけでもなく、何か意味のある座標でもない。まあ優に50を超える反応だったからある意味では当然なのかもしれないが。
悠は追いついてきたノエルを確認すると『魔力感知』のエリアを縮小。その代わりにより精度の高いものへ切り替わる。
「…ここか」
「いったい何を見つけたの悠くん」
「…これですよ。ノエル先輩」
掘り起こした地面から取り出したものをノエルに渡し、掌に乗せられたものをノエルはまじまじと見つける。
地面に埋められていたせいで泥を被っているが、それが何なのかはすぐに分かった。というより、つい最近同じものを見たから思い出したが正確かもしれない。
「これ、魔石…?」
「…この魔石に込められた魔力、先ほど話していた妙な魔力とパターンが全く同じなんです」
いわば魔力の固有パターンというべきか、人や物体が持つ魔力にはそれぞれ固有に持ちうる魔力の波がある。
これは魔法を使う使わない、あるいは魔力を放つ放たないにかかわらずそこに存在するだけで誰もが持ちうるものであり、ある一定の例外を除きその魔力の波形パターンはひとつとして同じものは存在しない。
この特徴は世界が定めた摂理であり法則であるがこれを認識できるものは限られており、分野としての開拓もさして進んでいないのが現状である。
悠たちの中でもこの認識ができるのは悠と、そして精霊と契約し魔力そのものを認識する能力が高いラミィくらいなものだろう。
現にノエルはそれを言われても「???」と首を傾げるのみで、かなたもおそらく似たような反応をするだろう。
埋め込まれた魔石と、不自然なまでに遭遇しない動物たち。
ここに関連性があるとするならばきっと…
「多分この魔石の中の魔力が、昨日のアサルトボアのような獰猛化した獣を生み出したんじゃないかと思います」
「でも魔石ってことは…」
「…考えたくはありませんが、外部犯を除くのであればおそらく…」
悠とノエルは2人して複雑な、そして焦りを含んだ表情を浮かべる。
巧妙に隠されて配置された魔石、これが原因なのだとしたら今回の騒動は明らかに人為的によって引き起こされたものということになるだろう。
しかしここは辺境の、外部との交流などほとんどない閉鎖的な村。さして特色もないし、言ってしまうと悠たちもガルナ村という名前も依頼書で初めて知ったくらいだ。
つまりは外部の人間が狙う理由がない。
無論自分たちも村の人たちも知らない何かがある可能性も否定はできないがそこは考えるだけ時間の無駄でしかないだろう。そも外部の人間が村の人間に一切気付かれずにこの量の魔石を仕掛けられるとも思えない。
そうなるとこれを仕掛けた存在は内部の人間ということになるが、村の人たちは魔法そのものを知らなかった。
知っていたとすればそれは村長である相良クロナと…
「ジェイルさん…か」
「で、でもそうする理由は?それに村長さんが学園に依頼したのだって元々はジェイルさんの報告があったからだよね?」
「はい、これじゃあ自分で騒動を起こして自分で解決策を講じるマッチポンプです。それで得られるものなんてせいぜいが村からの信用くらい。でも…」
もし、本当にそうすることが目的だったら?
ここまで起きたこと全てが彼の予定の内だったとしたら?
そうして疑えば疑ってしまうほど、不審な点が浮き上がってしまう。
もともとこの依頼は、ノエルを指名した依頼だったはずだ。
じゃあ誰が指名を出した?
普通に考えれば直接の依頼人である
村長たちに素性を語らなかった理由は?
本人は「魔法を知らず、『魔眼』を忌避するあの村で魔石なんてものは見せられるものではない」と言っていたが、そもそもなぜ村の現状を把握していた?
ガルナ村は外との交流がない以上情報が出ることはないし、ジェイルは遭難してガルナ村に辿り着いたと言っていたはずだ。であれば村の現状なんて知れるわけがない。それを初見で把握して素性を隠すなんて以ての外だ。
加えてこの地面に埋め込まれた魔石。
偶然で片づけるにはあまりにもジェイルに見せてもらった魔石と形が似通いすぎている。
魔石の形は千差万別、三角錐に四角柱、はたまた無秩序な鉱石型など様々だ。それがこんなに似ていることなんてあるのか。
あまりにも多い不明点。
考えれば考えるほど浮き上がるジェイルへの不審点。
確かめなければいけないことが多く、やるべきことも多い。
その中でも最も最優先事項が何なのか、言葉を交わさずとも悠とノエルの間で結論はすでに出ていた。
「まずは何よりマシロちゃん…だよね!」
「はい!信号弾を上げます。ラミィやかなたたちとも合流を急ぎましょう!」
悠はストライクハートを天に掲げると魔法陣を構築。ストライクハートに収束した魔力は悠の意思のまま解き放たれ、天空で大きな破裂音とともに瑠璃色の大輪を咲かせる。
出発前に決めていた各種信号弾、その中でも今回の信号弾の意味は『緊急集合』である。
「よし、それじゃあマシロちゃんのところへ…」
「待って悠くん!魔石が…!」
「え…!?」
駆けだそうとした悠を焦燥を孕んだノエルの声が呼び止める。
悠が振り返りノエルが持っていた魔石を見ると、そこには中に閉じ込められた力が溢れ出さんと脈動を打つ魔石の姿。しかしそう見えたのも束の間、ビキッと亀裂が入るとその隙間から怪しい光が漏れ出す。それと同時に、呼応するかのように『魔力感知』によって捉えていた他の魔石の反応が一気に増幅した。
悠は顔を青ざめて叫ぶ。
「ノエル先輩投げ捨てて!早く!!!」
「うん!!!」
ノエルが魔石を持った手を大きく振りかぶると己が持つ膂力に身を任せて全力で空に向かって投擲した。
魔石はものの一瞬で悠たちの視界から消えキランと小さな星屑と化す。
なんとか無力化はできたが、それはあくまで50を超える反応の一つでしかない。
───パキィィィン
呪いの蓋が開き、絶望が溢れ出す。
魔石の封印が解け、尋常じゃない魔力がはずれの森を覆う。
その瞬間。不穏を告げる足音が、悠たちの鼓膜を容赦なく叩いた。