ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート 作:468(ヨルハ)
今回はホロライブオルタナティブのとあるシーンを参考にした場面がありますのでよければ探してみてくださいね。
それでは本編へどうぞ。
朝にかかっていた曇り空はすっかり晴れ、太陽が惜しげもなくその身を晒している。全てを照らす日輪が世界を光で包み込む。
にも関わらず、エルフの森に隣接するはずれの森一帯はいっそ不自然なまでに暗い霧によって影が差していた。
それは、まるで世界そのものを拒絶しているかのように。
それは、まるで地獄からの門が開いたかのように。
そして森の中の様子はまさしく地獄と呼ぶに相応しい様相を呈していた。
大地から這い出すように現れる魔獣の数々。
もう数えることすら億劫になるほどのそれらは例えるなら百鬼夜行、あるいは地獄より責め苦を与えにやってきた獄卒。1人の人間の知識と技術、そして際限ない悪意によって生み出された意思なき
その魔獣たちはみな一様に瞳に怪しい光を宿し、雄叫びを上げる。
しかしそこに生物としての感情はなく、意思はなく、本能も理性も存在しない。あるのはただ人為的に組み込まれたただひとつの命令。
「すべてを破壊せよ」という単純明快な標が、森へ入った4人の少年少女たちの命を刈り取らんと獰猛な牙を剝いた。
「ああもう数が多すぎるんやけど!?マシロちゃんのとこに急がんといかんのに!」
「気持ちは分かりますけど今は目の前の敵に集中しましょう!やられたら元も子もありません!」
魔獣への怒りとマシロへの焦燥で語気が強まるノエルをどうにか諫めつつ悠もまた脳内で軽く舌打ちを零す。
魔石の封印が壊され魔獣の群れが溢れ出してからどれくらい時間がたっただろうか。
1時間?2時間?
空を見上げてもそこには暗い霧が見えるのみで一切の変化が見られない。時間の経過すら認識できない森の中で悠とノエルはひたすらに現れ続ける魔獣たちを倒し続けていた。
襲いくる魔獣も多種多様種々雑多だ。昨日交戦したアサルトボアを筆頭に強靭な爪が特徴の「クロウベアー」、なんとも毒々しい色の糸を放つ蜘蛛形の「ブラッドスパイダー」、その他にもモグラやカラスなど枚挙にいとまがない。
倒しても倒してもその奥から魔獣が湧き出しマシロへの道筋を塞ぐ壁となって立ち塞がる。
「もー!一気に叩くよ、『
痺れを切らしたノエルが魔力を解放。一見怒りに任せて放ったように見えるかもしれないが、ノエルの頭はいたって冷静だった。一度のリスクで最大のリターンを。魔獣たちが無作為に詰め寄ってくる中、魔獣が一番固まる瞬間を的確にとらえた一撃。
振り下ろされたメイスが大地に衝突した瞬間に込められた魔力が爆ぜ、魔獣たちを薙ぎ払う。
そのまま倒しきれたのはそのうちの半分くらいか。衝撃波の中心点付近にいたのは倒しきれただろうが、当然そこから距離が離れれば衝撃波は威力減衰を引き起こす。吹き飛ばされて命を削られ態勢を崩されてもなおその痛みも感じていないかのように魔獣はその牙を、その爪をノエルの喉元へ突き立てんと突撃を開始する。
だがそれを見て…いや、見ずとももう1人の勇士はすでに動き出していた。
「アクセルシューター…シュート!!!」
瑠璃色の光が駆ける。
カランッと金属製の何かが地面に落ちたとともにノエルのすぐ背後から放たれたソレは空を切る音を響かせながら的確に魔獣たちの急所を穿った。ブラフなし、全弾必中の超精密射撃。
訪れたわずかな静寂時間、ノエルは先の魔法の主に賞賛を送る。
「ナイス悠くん!」
「これが役目ですから。ストライクハート、ラミィにかなたは?」
「あちらも交戦が続いています。ですが魔力反応は健在ですし、彼女たちも少しずつ村に近づいています。心配は不要かと」
「了解。ノエル先輩、このまま進みましょう!フォローは任せて暴れてください!」
当然ながら先の魔法を放った正体は悠。
近距離型と遠距離型のペアにおける戦い方は大きく分けてふたつ、近距離型が
悠は今の攻撃で空になった
昨日から使用した分を除いてこれで残りは12発。戦闘時間の割には温存できてはいるが余裕があるかと言われればそれは否だ。
こうしている間にも視界の奥からは魔獣たちが詰め寄り始めその行先を塞いでいく。
「村に張った結界魔法はあとどれくらいもちそう?」
「幸いと言うべきか村への進行は思ったほどじゃありません。だけど…おそらく良くて2時間、下手したら1時間もつかどうか…」
「よーし、じゃあ1時間以内に終わらせるよ!」
「了解です!」
悠が彼方を見やるとそこに映ったのは円柱状に伸びた光の柱。時折その柱がわずかに歪み、衝撃とともに瑠璃色の光を放つ。
言わずもがなそれは悠が出立前に仕込んでおいた遅効性の結界魔法。悠たちが探索に出る以上村の防備は周辺に張ってあった古い柵と少数の警備隊のみ。昨日のアサルトボアがもし村に現れてしまえばその被害は甚大なものになる。
それ故の保険。まあこんな状況になるとは結界を張った本人も予想だにしていなかったが結果として功を奏したといえるだろう。
時間制限こそあれど一先ず村のことを気にする必要はなくなった。
憂いの解消は迷いをなくす。そして迷いのない戦い方ができる人は、強い。
悠は視線を戻す。
そこには変わらず大量の魔獣の姿。しかしやるべきことは変わらない。
こいつらを突破して、マシロの元へ辿り着く。
そうして悠が新たに魔法陣を展開しようとした瞬間、不意に感じた悪寒とともにこちらを振り向いたノエルから警鐘が鳴らされた。
「悠くん後ろ!!!」
「…っ!」
その警鐘に従って本能的に体を伏せる。
悠が体を伏せたのと、轟音を鳴らしうねりを上げる何かが悠の頭上を通り過ぎたのは同時の出来事だった。
ジッ、と濡れ羽色の髪をわずかに掠めその組織が消し飛ぶ。
あまりにも紙一重な回避に息を呑む。しかしそれも束の間、追撃をかけるように頭上から繰り出された2撃目を視認すると悠は歯を食いしばって即時展開した『アクセルフィン』を全力で羽ばたかせてその場から飛び退いた。
ドン!!!
衝撃音とともに大地が揺れる。
直撃こそ避けたが直前まで悠がいた地点には巨大なクレーターが出来上がっておりその威力を如実に示していた。そしてそれを引き起こした正体を見て悠とノエルは揃って同じ感想を漏らす。
「「でっか…!」」
見上げなければ頭上をとらえきれないほどの巨体。森の木々を優に越えるその体長は最低でも10メートルは下るまい。
しかし一番驚くべき箇所はそこではなかった。
頭は獅子を思わせる雄々しい鬣があり、胴体は熊のような筋骨隆々とした黒色、二足で大地を踏みしめる鉤爪は一番近いもので言うと猛禽類のもの。そして悠を屠らんとクレーターを作り出した正体は紛れもなく
あまりにもちぐはぐな造形の怪物。悠はこれを知っていた。故に苦虫を嚙み潰したような顔で小さく呟く。
「
それは自然に創造されることは決してない生物。知能を持つ生命体によって非人道的に造られ、ただ創造主の目的を果たすことでのみ存在を許される悲しき遺産。
そんな合成獣は他の魔獣のように瞳に怪しい光を宿すと大気を震わせる咆哮を放つ。それは開戦の狼煙であり魂に組み込まれた命令を遂行するための意志なき意思となる。
合成獣はその双眸を悠とノエルに定めるとおもむろに右腕を振り上げる。
2人は一瞬のアイコンタクトを交わし即座に行動を開始、生身で受ければ一撃で絶命は必至であろう凶爪をバックステップで躱す。
再び大地が揺れ、魔獣が何体か合成獣の爪に貫かれるが2人は止まらない。流れるように
「ノエル先輩、背中は預けます!ストライクハート、ロードカートリッジ!」
「Load Cartridge.」
「さあ、キミには団長の相手をしてもらうよー!」
あれだけの巨体、さしもの悠とノエルも単独で攻略するには少々時間がかかるが、現状でそんな時間をかけている暇はない。しかし2人がかりでその合成獣を相手にすれば当然その他の魔獣を止めることができない。
そこで2人が選んだ手段は役割の分担、そして作戦の一時変更である。
先程までは悠がフォローに回ってノエルが暴れまわるという作戦だったが、それはあくまで小型の魔獣に対する多数戦闘を念頭に置いたものだった。しかしその作戦はその魔獣たちをはるかに超える脅威度を誇る大型の合成獣が現れたことによって瓦解しかねない。
故に、
ノエルが悠の護衛に回り、悠の大火力の魔法で一気に押し切る。前者の作戦のようなリスクを減らすような守勢のスタイルじゃない、一点突破のカウンタースタイル。
リスクは高い諸刃の剣であることは間違いない。しかし絶対に負けない、この2人なら出来るという意志と信頼の上で2人は笑みを浮かべて役割を果たすために動き出す。
「やぁ!!」
硬い。そして強い。
振り下ろされた双腕を長年の戦友たるメイスで弾き飛ばすとノエルは腕にきた衝撃に心の中でそうこぼした。己の膂力をなまじ理解している分、たとえ僅かにでも押し込まれたという事実に合成獣への警戒度をひとつ引き上げる。
脳裏を掠める最悪の未来。
ひとつでも合成獣の攻撃を後ろへ通してしまえば、そんな想像が脳裏をチラつく。
だけど、絶対に負けはしない。負けるわけにはいかない。
悠くんは自分を信じて背中を預けてくれた。
ここで押し負けてしまうのは、彼への裏切りであり、そして1人の騎士としての誇りを汚すことになる。
そんなことは認められない。
騎士として、そして友達として、悠くんのことは絶対に守ってみせる。
これこそが自分の今の存在理由。
「安心して。絶対に守ってみせるから!」
白銀聖騎士団団長としての、誓いだ。
ノエルは意識に切り替えて合成獣と向かい合い繰り出される攻撃をメイス1本のみで捌き続ける。凶爪を弾き、いなし、己が
対して悠は瞳を閉じ意識を集中、『
これは殲滅戦。求められるのは防御ではなくただひたすら攻撃の火力と密度。
「アクセルシューター、そして…ディバインバスター…魔法陣構築…展開完了!」
防御を完全に捨てた魔法構成。今の悠は『ラウンドシールド』も『プロテクション』も、常時展開されている『バリアジャケット』を除く一切の防御魔法は発動できない。
信頼するからこそ、信頼されているからこそ悠は己の身を無防備に晒す。
荒れ狂う魔力が砂を巻き上げ、バリアジャケットをはためかせ、瑠璃色の風が悠を包み込む。
それと同時に、悠の周囲に浮かぶ魔力球が障害を射抜く魔弾となって一足先に撃ち出された。
「アクセルシューター…シュート!!!」
悠のキーワードとともに魔力球が弾かれたように動き出した。
それは角度を変え、速度を変え、縦横無尽に、変幻自在に跳ね回る光の
その魔力球に振り回された魔獣たちは足を止めてしまう。しかしそれをしたが最後、翻弄から駆逐へと目的を変えた魔力球が魔獣の急所を一撃で穿ち地に堕とす。
魔獣たちが変色し、霧となって霧散していく様子を悠は静かに見届ける。
よし、と悠は心の中でひとつ息を吐く。
まずは第一段階、片側の脅威は排除完了。あとは後続が来るまでにもうひとつを処理するのみ。
砲撃の準備完了までもう間もなく。
そうして合成獣を見やると、悠は思わず目を見開いた。
「っ!?」
視界いっぱいが黒で覆われる。これが何かはすぐに気が付いた。
最初に見せた竜の尻尾による薙ぎ払い。あの巨体を器用に回転させ、遠心力を加えたその一撃の威力は先に生み出されたクレーターが雄弁と物語っている。
今砲撃を止めることはできない。否、したところで回避は間に合わないだろう。
ならば防御。これも間に合うかは刹那の差だろう。『アクセルシューター』からの
だが、悠の顔に浮かぶのは僅かな笑み。
忘れているわけがない。信頼されているのにこちらが信頼していないわけがない。
「悠くんには尻尾一本も触れさせんよー!」
ドン!っと再びの衝撃音。
しかしてその結果は先ほどとはまるで違うものになっていた。
悠の眼前で煌めくは白銀。
受けた風圧によって靡くそれはどこまでも美しく、見惚れるほどの衝撃だった。まるでそれは泥を被ってもなお輝く宝石のように、決して色褪せない煌めき。
その正体───白銀ノエルは相棒たるメイスを投げ捨て圧倒的な膂力を秘めているとは思えないしなやかな両の腕で合成獣の竜の尻尾を完璧に受け止めていた。
足元の地面は抉れ、悠の居る場所やその周囲まで大地には大きな亀裂が走っておりその威力は決して衰えていないのは分かる。しかしそれでも受け止められてもなお薙ぎ払おうともがく合成獣の尻尾をノエルは涼しい顔で掴み離さない。
悠のことは守ると、その誓いはたしかにノエルの力の原動力となる。
「ふっ!」
ノエルは今一度尻尾を掴みなおすと足を一歩大きく踏みしめる。
そして遠心力を利用して尻尾ごと合成獣を振り回し始める。合成獣ほどの重量を持つ存在を振り回せばどうなるかなど察して余りあるだろう。
周囲の木々は吹き飛ばされ、後続の魔獣ともども薙ぎ払われる。合成獣を『怪物』と称していたがこれではどちらがそうなのか悠は分からなくなっていた。
十分速度が溜まったと判断したのかノエルは左足を大きく踏み込むと覇気を乗せた声とともに合成獣をはるか天空へ投げ上げた。
「悠くん、今だよ!!」
「っ!はい!!」
魔力の収束はすでに終えている。
ストライクハートの砲口に集う魔力は煌々と輝きその周囲には円環状の魔法陣が四つ。
これで終わりだと、悠は強く相棒を握りしめて光を解放した。
「撃ち抜け一閃!ディバイン…バスター!!!」
「Divine Buster.」
指向性をもって放たれた魔力の奔流は瑠璃色の軌跡を残して合成獣を貫いた。
天に向かって撃ち上げられた砲撃はまさに天に昇る流れ星。影を切り裂き、暗い霧を晴らす一筋の光。
砲撃に貫かれた合成獣は空中で静止するとその端から崩れ落ち、魔力の残滓を残して霧と消えた。
確かな勝利、そして後続こそまだまだいるがひとつの大きな山を越えたとようやく実感した2人は大きく息を吐いて体の力を抜いた。
「ふう…やったね悠くん!」
「はい…!でも、まだ終わってません」
「うん!この調子でマシロちゃんのところまで一直線に…「マスター!ノエルさん!」…へ?」
「ストライクハート、何があった?」
2人の会話に割って入ったストライクハートの声には言い知れぬ焦りが含まれているのがよく分かった。
普段はどこか快活で奔放なイメージのストライクハートであるが、戦闘時の彼女は冷静で的確、こうして感情を乗せて会話に入ってくるのは悠としても初めての事態だった。
つまりはそれほどのことが起こったのだろう。悠とノエルは続きを促した。
「…たった今ラミィさんとかなたさんの魔力反応が急激に減退。そして2人の付近に強大な魔力反応を検知しました。2人が…危険です」
「「!!!?」」
そんなストライクハートの報告に、悠とノエルは目を大きく見開いて驚愕することしかできなかった。
「……っう、くぅ…」
「なに、この…怪物は……」
森の木々は徹底的にまで荒らされ、大地は抉れている。
見境なく周囲を破壊しつくされたかのような惨状の中、2人の少女がボロボロの状態で地に伏していた。
1人はアイスブルーの髪をしたハーフエルフ、雪花ラミィ。
もう1人は銀の短髪に天使の羽と輪を持つ少女、天音かなた。
2人はもはや動くことすらかなわないというように体を小さく震わせる。
そこに宿る感情は恐怖か、あるいは無力感か。
どうにか動かせる手をあらん限りの力で握りしめ、伏せていた顔をずらして
「……………」
そこには、膨大な魔力を宿した異形の悪魔が、2人を静かに見下ろしていた。