ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

34 / 46
Part31 純白の少女⑪『覚悟と真実』

 

 

 

 

 

「んあ~、ようやく帰ってこれたぁ」

 

 ガタガタと揺れる座席からようやく解放されたと大きく伸びをしてとある少女が久方ぶりの硬く安定した大地を踏みしめる。

 獣魔術師(ビーストテイマー)による飛行便。獣魔術によって使役した翼竜(ワイバーン)などを用いての移動は言わば空を駆けるタクシーのようなもので、駅のような機関を関さずに済む関係上自由度が高く個人での利用には便利だが、快適度が如何せん獣魔術師(ビーストテイマー)の技量に大きく左右される。

 その点で言うと今回は揺れも少なくまだましな方ではあったが、どうしたって空での移動は苦手だ。他に使える移動機関がなかったため妥協したができれば二度と使いたくはない。無論その獣魔術師(ビーストテイマー)が傍にいるため思うだけだが。

 

 そう考えながら黒いコートを緩く羽織り長布で保護した狙撃銃(あいぼう)を持ったホワイトライオンの獣人───獅白ぼたんは獣魔術師にひとつ礼を言うと自宅に向かって歩き出す。

 

 GW(ゴールデンウィーク)中にこなした依頼の数々。

 どれもこれも時間こそかかってしまったが無事完了。むしろ掃討対象も数だけで手ごたえがなさ過ぎて途中から退屈してしまうレベルのものだった。

 比べる対象は当然というべきか自分に泥を塗った学友と先輩。あの時の高揚感と比べてしまえば今回の依頼はまったく震えなかったしテンションが上がることがなかった。まあ報酬はおいしかったしそれで宣言通り武器の新調もできた。

 

 次のバトロワでは、リベンジしてみせる。

 

 そうして見上げた空はいっそ清々しいほどの雲ひとつない快晴。日の光が眩しくぼたんは思わず空いた手で光から目を守る。

 何も変わらない日常。明日も明後日も陽は変わらず昇るのだろうとただただ当然のことを考えながらふと思い出したことを誰に言うわけでもなくぼたんは独り言を零す。

 

 

 

「そういや悠たちもそろそろ依頼終わった頃か…?」

 

 何気ないその言葉は、ぼたんが髪を抑えるほどの突風に流されて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わりはずれの森が変容して実に数時間、しかしそこは未だ暗き霧に包まれたままだった。

 世界の光を断絶したその一帯はまるで世界から切り離された別世界(アナザーワールド)。みなが何気ない日常を謳歌する中で、そこだけがひっそりと暗く、境界は歪み、すべてが曖昧となった辺境の地。

 その環境故に、その中で起こっている事象を世界は認知しない。

 

 その事件は世界の誰かに知られることはなく。

 その戦いは世界の誰かに称えられることはなく。

 その想いは世界の誰かに届くことはない。

 

 それでもなお、少年少女たちは戦い続ける。

 すべては己の意志を貫くため、己の誓いを果たすため、己が守りたいと願った誰かを守るために。

 

 得物に意思を宿して、魔法に誓いを乗せて、宵闇の戦いは今、激化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漆黒と瑠璃の刃が激突し、その衝撃によって散らされた焔が暗がりの森を仄かに照らす。

 本来最前線を張っていたノエルは先ほど空中に浮かされたところを叩かれて背後に飛ばされた。気にかかるのはやまやまだがノエルも防御(ガード)はしていたし異形の悪魔をこのまま放置はできないので悠が代わりに前線を張っているのが現状だ。

 

 もう幾度この交錯を繰り返しただろうか。

 10か?20か?

 いや、少なくとももう三桁を下ることはないだろう。

 

 飛行魔法である『アクセルフィン』の機動力を近距離での切り返しや重心移動に転用して、悠は前後左右、縦横無尽に加速を行って異形の悪魔へと剣撃を繰り出していた。

 異形の悪魔も生物であり人型だ。目は顔の正面にしかついていないし、その眼で捉えられるものにはどうしたって限界がある。故に異形の悪魔が悠を視界から一度でも外せばこの連撃のすべてを防ぐことなどできはしない。

 

 左右の切り返しから足の羽を羽ばたかせ、瞬間的に異形の悪魔の背後をついた悠が左足を踏み込んで右手に握ったストライクセイバーを袈裟斬りの要領で振り下ろす。

 異形の悪魔は悠を見ていない。死角を取った。この攻撃は必中だ。

 

 ()()()()()()()

 

 

 

 ギィィィン!!!

 

 

 

「っくそ…!」

 

 異形の悪魔のうなじを狙ったその一撃は、その寸前で漆黒の凶刃によって止められる。

 戦闘を開始してから同じことの繰り返しに悠はため息にも満たない声を漏らす。

 

 いくら背後をとろうとも、いくら剣速を上げようともその悉くが双刃に止められ、弾かれる。いや、剣だけじゃない。射撃魔法(ディバインシューター)砲撃魔法(クロススマッシャー)も、悠のいかなる攻撃もがここまで異形の悪魔へただの一度も直撃(クリーンヒット)になってはいない。

 まるでこちらの攻撃がすべて読み切られているかのような異形の悪魔の的確なガードに武器たちを握る両手に力が籠められわずかに汗で濡れる。

 

 

 

「悠くん飛んで!」

 

「っ!」

 

 突如耳を叩いた指示に悠は反射的に『アクセルフィン』に魔力を込めて中空へ舞う。

 その次の瞬間には、地上を見ていたはずの悠の視界は青銀の氷で埋め尽くされていた。

 

 

 

「最大出力、『大地氷結(アイスフロア)』!!」

 

 後から聞こえたその声に、悠はこらえきれない笑みを浮かべた。

 それは、頼もしさからくる安心感と、彼女たちの無事を確信できた嬉しさ。

 

 見ればそこには、2人の少女がいた。

 1人は先ほど悠に指示を出した声の主でもう1人の少女を守っていた白銀ノエル。

 そしてそのもう1人はもう言うまでもないだろう。地に両手をつけて吐く息は魔法の余波によって白く凍り、体全体に霜が張り付いている。ところどころが破けながらもその特徴的な寒冷地仕様の服装を身にまとった少女は雪花ラミィ。

 

 そんなラミィが己の魔力をありったけ込めて放った『大地氷結(アイスフロア)』は実物を見たことがある悠たちの想像を絶する威力だった。

 驚くべきはその規模だ。以前見たときはいいとこ足首までの厚さのものだったが、今目の前で展開されたソレはその厚さも範囲も以前の倍は優に超えているだろう。下手したら下半身が丸ごと埋まるほどの威力。加えてその範囲も学園のグラウンドくらいなら完全に包みこめるであろう。

 時間をかけ状況がかみ合えばここまで威力が跳ね上がるのかと驚愕していた悠だったが、ふっと顔をあげて異形の悪魔の姿を探す。

 

 あれだけの高威力、広範囲のラミィ渾身の魔法だ。さすがにと淡い期待を抱いて魔力反応を探ると、異形の悪魔はすぐに見つけ、よしとひとつ零す。

 見れば異形の悪魔はラミィの氷の波に囚われていた。自由に動くのは上半身のみ、どうにか脱出しようとしているのかグラグラと上半身を動かしている。

 

 間違いなく絶好のチャンス。

 ここを逃してしまえばまた一からやり直しだ。

 

 ラミィが魔力の放出を続けて氷をより強固に固めつつノエルとともに悠を見つめて頷く。

 いって、と声にしない後押しに悠はストライクハートを砲撃形態(バスターカノンモード)へ変えて構えるとともにその切先を異形の悪魔へ向けると、隣に頼もしい魔力反応を感じた。

 

 

 

「ボクのこと、まさか忘れてないよね?」

 

「…当然、待ってたよ」

 

 瞳に紫電を走らせ、宙を自由に駆ける星と雷がともに輝く。

 隣を見ればそこにいたのはすでに魔力を滾らせて勝気な笑顔を浮かべこちらを見やる天音かなたの姿。

 お互いに何を言うでもなく小さな共鳴音を響かせると二色の魔力光が仄暗い天空を淡く照らし出す。

 

 片や瑠璃、片や群青。

 

 内に眠っていた魔力が魔法陣を通じて外へ溢れ出す。

 それは木々を揺らす風となり、森を照らす光となり、天を轟かせる雷となる。

 

 

 

「ストライクハート、ロードカートリッジ」

 

「Load Cartridge.」

 

 悠の宣言、そしてストライクハートの冷徹に響く機械音声。

 それがトリガーとなり、ガシャガシャガシャン!と弾体が内側で弾け空薬莢が排出、風と光が、暴風と極光へと成り代わる。

 弾倉に残ったカートリッジをすべて吐き出して現界したのは他を圧倒する魔力の奔流、近くにいたかなたはビリビリと肌を叩くその力にさすがと思うと同時にやや空恐ろしさを感じた。

 

 バトロワの時も感じたことだが、これだけの魔力を齢15の人間の少年が一度にその身に宿すには少々過度だ。身に余る魔力は当然それ相応の負担がかかるはず。それが外部から無理矢理得たものならなおさらだ。しかし悠の横顔に苦の表情はない。まるでそれが当たり前とでもいうように涼しい顔をする。彼が今まで身に受けた痛みを顔に出したことは、果たしてあったのだろうか。

 

 かなたのそんな杞憂は、己と悠の魔力の充填とともに打ち消された。

 

 

 

「じゃあ、いこうか」

 

「…りょーかい!」

 

 かなたは頭を振って思考を切り替える。少なくとも今はそれを考えるべき時間じゃない。

 右手に持つ槍斧(ハルバード)を掲げ、魔法陣が群青を超えた青白い雷を放つ。それは、天使特有の聖なる魔力を帯びた雷。天より降り注ぐ悪を罰する神の雷。文句なしのかなたが持ちうる最大火力。

 

 

 

「悪しきを滅せよ!『天雷(ヘヴンズサンダ―)』!!!」

 

 

 

 そして悠もまた、放つのは己の限界を超えた一撃。それは星宮悠の代名詞にして、本来必要な魔力量を大きく超えた不安定でありながら一撃必倒の威力を秘める火力特化の砲撃魔法。

 

 

 

過充填(オーバーチャージ)臨界突破(リミットブレイク)!さあ、いくよ!!!」

 

 吹き荒れる魔力によって髪が逆立つ。内で暴れまわる魔力で肉体が悲鳴を上げる。

 だが悠は止まらない。照準は外さず、視線はそらさず、悠は、高らかにキーワードを唱えた。

 

 

 

「ディバイン…バスタァァァァァ!!!」

 

「Divine Buster Overcharge.」

 

 

 

 

 

 神の雷と一筋の極光が音すらも消し飛ばす威力を孕みながら異形の悪魔へ向けて撃ち出された。

 一度吞み込まれればチリすら残さないであろう魔力密度、いくら異形の悪魔が硬かろうといえどこれを受けてしまえばひとたまりもないのは確実。

 威力よし、照準よしの必中と言うべきふたつの魔法は、そのまま異形の悪魔へ迫り大地に到達し圧倒的な魔力の奔流とともに強烈な爆発音を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ―――!!!」

 

「よし…!」

 

 中空にいたかなたと悠は思い思いの反応をする。

 当たった。そのはずだ。

 今は土煙が上がって仔細を確認はできないが異形の悪魔があの場を最後まで動かなかったのはこの目で見た。もし仮に防御をしたとしても、あのふたつの魔法の直撃に加えてラミィの『大地氷結』を巻き込んでの魔力爆発。避けられない以上溜まったダメージは相当なもののはずだ。

 

 動けまい。動けたとしても戦闘続行はできない。

 自慢じゃない、誇張じゃない、これはあの魔法を撃った本人としての強い自負だ。

 しかし喜びと同時に、それでもあそこまで簡単に直撃したという事実に悠は少しばかり戸惑いを隠せずにいた。

 

 

 

「やったね悠くん!ラミィちゃんにノエル先輩も!」

 

「うん!倒せた…よね」

 

「さすがにあれを食らって動けるのは団長も想像できないかな~」

 

 かなたは地上に降りラミィやノエルとハイタッチを交わす。その微笑ましい光景を見て、悠は張りつめていた緊張をほぐすようにひとつ息を吐く。

 

 そうだ、直撃したのは見た。であれば問題はない。

 それよりも、未だ安全の確認がつかめていないマシロのところへ急がないと。

 

 そう判断して悠もまた3人に合流しようと『アクセルフィン』を稼働させる。あくまで視線は異形の悪魔がいたであろう場所からそらさず、しかしここまで動かないのであれば倒したのだろうとそう思いながら。

 

 

 

 悠が下降を始める、その寸前。

 悠は、巻き上がった土煙がわずかに揺れるのを見た。

 

 

 

「…!!?」

 

 悠は内心で嘘だろと零した。

 たしかに拭えない不安はあった。倒しきれたという確信を持っていたわけではなかった。だがそれでも、あの攻撃を受けてなお動くのかと悠は驚愕の表情を浮かべる。

 まだ終わっていない。あの悪魔は、まだ生きている。

 

 加減など知らないとでもいうように悠は全力で加速を始める。

 間に合え、間に合えとそう祈りながら『アクセルフィン』と『フラッシュムーブ』の同時使用で一陣の風と化した悠が3人の元へ駆ける。その3人が異変に気付く前に悠は警鐘を鳴らした。

 

 

 

「まだ終わってない!!!」

 

「「「…!?」」」

 

 悠の必要最低限の警告に3人が後ろを振り向く。

 悠が『ラウンドシールド』を展開する。

 そして、土煙の中から異形の悪魔が五指を揃えて作り出した凶刃が『ラウンドシールド』とぶつかるのは、すべて同時の出来事だった。

 

 

 

 つんざくような衝撃音が耳朶を叩く。

 ギリギリと金属が擦れるような音を鳴らして黒の刃と光の壁がせめぎ合う。

 

 

 

「コイツ…なんでまだ動けるの!?」

 

 かなたのその叫びはもっともだ。

 理解が及ばない、恐怖より先にその感情が頭を埋め尽くした。『天雷(ヘヴンズサンダ―)』と『ディバインバスター・オーバーチャージ』が直撃したのは確実だった。『大地氷結(アイスフロア)』の氷に囚われて回避することは不可能だったはずだ。

 しかし、目の前で黒の刃を攻め立てる異形の悪魔はダメージこそ負っているが明らかに自分たちの攻撃と釣り合っていない。焼け焦げ、土を被ってはいるが重症とは程遠い程度のダメージ。それは攻撃を受けて間もなく反撃を仕掛けたことからよく分かる。

 

 

 

「だけどダメージはある、このまま押し切るしかない!!悠くんなんとか抑えてて!かなたちゃんいくよ!」

 

「分かりました!」

 

「!は、はい!」

 

 真っ先に動き出したのはノエルだった。

 腰に戻していた鎚矛(メイス)を即座に引き抜き重心を低くして駆けだす。かなたもそれに続き槍斧(ハルバード)を引いて挟撃の構え。悠は今にも割られそうな魔法陣にありったけの魔力を流し、ラミィは悠の援護に回り『氷華盾(アイスシールド)』『ラウンドシールド』の上に重ねて展開する。

 最低限の言葉で行われた連携は想像以上の流麗さだった。時間にして一秒にも満たない連携速度。互いを信頼したからこそ実現したその動き。

 

 正面で漆黒の凶刃を受け止める悠の両サイドから駆けたノエルとかなたはそのシンクロした動きで異形の悪魔の腹部めがけてメイスとハルバードを振るう。異形の悪魔の両腕は攻撃に使われているならガードはできない。避けられるかもしれないがそれなら既に次の魔法の詠唱を始めているラミィと魔法陣を展開している悠の追撃を決められる。

 両択どちらでもいい。相手にこれ以上攻撃の隙を与えず攻め倒す。その選択は最善で、考えうる限りの最良。

 

 

 

 

 

 ギャリィン!!!

 

 

 

 

 

「っは…?」

 

「…なん、で……?」

 

 しかしそれは、異形の悪魔が発動した()()()()によって根本から破綻させられてしまった。

 漏れ出た声は、果たして誰のものだったのか。かなたとノエルか、それとも悠とラミィか。しかしその心境は、ここにいる全員が共通しているものだっただろう。

 

 知らないものを見たからではない、その逆だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが、悠たちの思考を否応なしに止めた。

 

 メイスとハルバード、それと異形の悪魔の間に展開されたもの。

 それは、まごうことなき魔法陣だった。

 円状で、幾何学模様と文字列が描かれた魔法陣。異形の悪魔と同じく漆黒の光によって映し出されたそれを、悠たちはよく知っていた。

 

 

 

「ラウンド、シールド…?」

 

「どうして、悠くんと同じ魔法を…」

 

 そう、それはまさしく今悠も展開している『ラウンドシールド』と同じものだった。魔力光を除けばまさしく鏡写しのように描かれている模様も文字列も、不気味なほどに一致してしまっている。

 違うと否定することができない。使っている悠だからこそ確信できる。

 あれは間違いなく『ラウンドシールド』であり、【ミッドチルダ魔導】に通じる魔法だ。おそらく悠とかなたの魔法もあれでダメージを軽減したのだろう。

 

 そう確信できたからこそ、悠は苦虫を噛み潰すように顔を歪める。

 

 なぜなら、今目の前にいる異形の悪魔、ひいては今回起こった騒動の元凶がミッドチルダの生き残りだと確信してしまったから。そしてミッドチルダの生き残りの奴らの目的は一貫して()()()()()、ひいては悠が持つ()()()()の奪取。つまりは、今回の事件は悠がここに来たから起こってしまったものだとも言えるのだ。

 

 それは違うとラミィたちは言ってくれるのだろう。

 このガルナ村に来たのはあくまで依頼が来たからだと、それを偶然ノエルが受けて、そして偶然悠たちが誘われたからだと。

 

 たしかに事実としてはそうだろう。

 だがそれを細かく紐解けば、その事実はただの偶然ではなくなってしまう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

(そうか…そういうことかよ…!)

 

 悠が歯ぎしりを鳴らす。

 しかし今この瞬間にも時間は動いている。

 目の前の敵は、決して止まってはくれない。

 

 異形の悪魔が2人の攻撃を『ラウンドシールド』で受け止めつつ、悠とラミィの防御を割らんとした双碗の内の片方をおもむろに地面に突き刺した。

 それに反応できたのはラミィとかなた。その身を以て、その異形の悪魔の行動が何を意味するのかを2人は知ってしまっていた。

 

 

 

「ッヤバイ!みんな逃げ…」

 

「!っアイスフロ…」

 

 2人がすぐさま行動に移る。

 かなたは一番近くにいたノエルの手をとり全速力で飛翔、ラミィは先ほどと同じように魔法で防御を行う。

 しかし、あと一瞬、刹那と呼ぶべき時間が足りなかった。

 

 

 

 

 

 異形の悪魔を中心に、大地が粉々に砕かれる音が響き渡った。

 

 

 

 

 

「がっ………!」

 

 瞬く間に巨大なクレーターが作り上げられる。

 もう、痛みで声を上げる余裕すら、今の悠たちには残されていなかった。掠れた声だけを上げて、悠たちは4人まとめて吹き飛ばされ力なく他に伏せる。

 2回目の攻撃で、異形の悪魔はラミィの防御方法に適応した。

 両腕ではなく片腕でのみの攻撃、当然ながら威力は落ちるだろうが、その分わずかながら発動速度は引き上げられる。そして異形の悪魔にはそのわずかな差がこの結果につながると視えていた。

 

 凄惨、そう呼ぶ他ない状況だった。

 大地は抉れ、木々はその悉くを薙ぎ倒され、4人の少年少女は血を流し倒れ伏す。

 そしてそれを見下ろすのは、この現状を引き起こした1匹の悪魔。それは死神か、あるいは冥府の使者か。

 

 心がへし折られるには十分だった。再び心が恐怖で埋め尽くされるに足る状況だった。それが自然だし、恐怖を抱いたのは紛れもない事実なのだろう。

 しかし、しかしそれでも。

 

 

 

 

 

「まだ、終わってない………!」

 

「負け、られんよね…!」

 

 それでもなお、立ち上がる者がいた。

 頭から血を流しながら、吐く息を荒くしながら、傷だらけで、ボロボロになりながら。

 それでも、心は折れず、誓いは歪まず、まっすぐに異形の悪魔の銀眼を睨み返す者がいた。

 

 

 

「…ノエル先輩、ラミィにかなたは…」

 

「…ラミィちゃんは気を失ってる。かなたちゃんは…どうにか意識はあるけど、魔法で回復しないと復帰はきつそう…」

 

 他でもない、悠とノエルだった。

 違いはひとえに体力と防御力の違いだろう。

 悠は常に防御魔法の一種である『バリアジャケット』を発動させているし、ノエルも身に着けている甲冑に加えて生命力はホロライブ学園の中でも群を抜いている。

 

 悠は2人の様子を聞いて得物を握る力が無意識に強くなる。

 敵は健在、対してこちらは全員が負傷しており万全とは言えない。

 状況は刻一刻と悪くなるばかり。加えてフブキとフレアが間引いてくれているが村にもわずかに魔獣が向かっている。結界が破られるのも時間の問題だ。

 

 それでも、やるんだ。

 必ずみんなを守って、こいつを打ち倒す。

 そして、マシロを救う。

 

 悠は空になっていたストライクハートの弾倉を素早く入れ替えると即座にカートリッジロード。もう悠が持っている最後の弾倉だが、時間をかけられない以上出し惜しみはしてられない。

 足元に魔法陣を展開し、周囲に浮かび上がるは計20個の淡い光の魔力球。

 

 

 

「援護します。信じて…くれますか?」

 

 それに対するノエルの返答なんて、当然のように決まっていて。

 

「…あったり前!!」

 

 それだけ残してノエルはまっすぐに駆けだす。今までの戦闘で奇策は通じない相手という判断か。あくまで正面を切って、真向勝負で打ち破るつもりだろう。

 であればと、悠も魔力球の軌道を設定、段階ごとに光の帯を残して撃ち出される。

 その最中、悠は相棒に問いかけた。

 

 

 

「…ストライクハート。アレ、いけると思う?」

 

「…!無茶ですマスター!万全の状態でさえ負担が大きいのに…!」

 

「だよね。分かってる」

 

 そう言う悠の顔はどことなく申し訳なさそうで、怒られるのを待つ子供のようだった。

 分かっていたのだろう、ストライクハートが反対するのも、その理由も。全て分かったうえで、それでも悠は問いかけた。

 

 それは、決して曲がることのない意志の表れ。ダメだと分かっていても通さなければいけない意地があるというエゴ。たとえその結果自分の命が文字通り削れるものだとしても、悠は止まるつもりなど微塵もありはしなかった。

 

 魔力球が異形の悪魔を取り囲むように動き、その足元を穿って土煙をあげさせる。その中を、ノエルがお構いなしに突撃していった。

 

 

 

「それでも、今はやらなきゃ。あの防御を確実に突破するには、多分これしかない」

 

「…ラミィさんやかなたさんを待ったら…」

 

「できればそれが一番だけど…2人が今戦えないことを、僕が()()()を使えない理由はしたくないんだ」

 

「………」

 

 それはあくまで悠の持論だ。でも持論であるがゆえに、意思が強い悠は止まらないことをストライクハートはよく知っている。

 

 使ってほしくはない。

 私が壊れる分にはどうだっていい。核さえ無事なら直せるし、また(マスター)と一緒にいられる。

 

 でも、これで削られるのは(マスター)の命だ。まだ改良も実戦もまともにできていないこの『新モード』は、『カートリッジシステム』と併用することで爆発的な能力が使えるがその分身体への負担は『カートリッジシステム』の比じゃない。

 既に脆くなった彼の命でそれを使うのはまさに自殺行為に等しい。故に、改良が済んでいない今までは使えても使ってこなかった。

 だが…

 

 

 

「頼むよ、ストライクハート」

 

 本当に…相棒にこんなに心配をかけるなんてとんでもないマスターだ。私じゃなければとっくに見限られてるに決まっている。

 すぐに無茶をして、それを悪びれもせず。周りを守ることに夢中で、自分のことなんて二の次で。それでも、みんなに優しい、出会った時から私が大好きなマスター。

 

 

 

「…3分。これが、私が出せるギリギリの譲歩です。それ以上は絶対に許しませんから」

 

「…ありがと、ストライクハート」

 

 だから、頷いた。

 頷きたくなかったけど、マスターには、したいと思ったことをさせてあげたかったから。

 

 

 

 

 

 刹那、暴風を巻き込んでノエルと相対していた異形の悪魔がこちらへ突っ込んできた。

 

 

 

「ッごめん悠くん、抜かれた!」

 

 その背後でノエルが全速で異形の悪魔の後ろを追いかける。

 つまりは相対しているノエルを無視してまでこちらを狙ってきたということだ。その意図は測れない。後衛を先に潰しにかかったのか、あるいは別の理由があるのか。だが、こちらもすでに覚悟は決まっている。

 右手に持ったストライクセイバーを亜空間にしまい、緩くストライクハートを眼前に突き出す。

 

 

 

「ガードの直後、始めるよ」

 

「…はい、マスター!」

 

 キィンという音とともに足元に魔法陣が展開される。

 願うは障壁、そして、己の新たな力。

 

 

 

「プロテクション・パワード!!」

 

 重い衝撃を伴って放たれた凶刃が光の壁にせき止められる。

 発動したのは物理防御に特化した『プロテクション・パワード』。いくらこちらの動きを読めようが全体を覆う防御であれば受けに関しては問題ない。交錯したふたつの力の境界線で、悠の星の瞳と異形の悪魔の不釣り合いな銀眼が交差する。

 さあ、ここからが本番だ。

 

 

 

「いくよストライクハート!!!」

 

「っはい!!!」

 

「ストライクハート、形態変化(モードチェンジ)!フルドライ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………オ……ニイ……チャ…」

 

 

 

 

 

「…………………はっ…?」

 

 

 

 突如として異形の悪魔が発したその声に、悠は、世界が止まる音を聞いた。




まあ、うん…はい。
大体の人は予想できたかと思いますが、次回をお楽しみにしていただけたら幸いです。

もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。