ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part33 純白の少女⑬『ふたつの戦い、その前哨』

 

 

 

 

 

 暗い森に一陣の風が吹く。

 木々を揺らし、木の葉を乗せたその風は葉擦れの音を届けながら2人の間を通り抜ける。それは、まるで少年の心を代弁しているかのようだった。

 

 冷えた心の中にざわついた怒りが燻っている、深く強い憤怒の情。

 

 

 

「…ど、どうしましたかな。そんな物騒なものを向けて…」

 

「………」

 

 どこか困惑した顔で一歩後ずさるジェイル。

 その物言いを聞いて、悠は反吐が出そうになった。十中八九分かってやっているだけに余計に(はらわた)が煮えくり返る思いだ。ギリッと歯軋りをしてどうにか今すぐにでも殴りたくなる気持ちを抑え込むと向けたストライクセイバーをそのままに問いかけた。

 

 

 

「…何故ここに?」

 

「…食料を摂りにですよ。ここらには食用のものが多く…」

 

「手ぶらの状態で?」

 

「い、今さっき出たところで…」

 

「村の周りは1時間以上前に結界で塞いでいる。外から内はおろか、その逆もできはしない。もう誤魔化すのはなしにしようぜ」

 

 ストライクセイバーの切先をジェイルの喉元まで近づけて悠はそう言葉を切り捨てた。

 

 だめだ、意識が()()()に引っ張られかけてる。

 

 語気が強まってるのがいい証拠だ。

 溢れそうになる感情を押し殺すように深呼吸をする。

 原因は分かってる。悠を分かつ原因になったふたつの感情、その均衡があっち側(怒りと殺意)に傾いている。このままでは完全に切り替わってしまう。

 

 

 

 ───落ち着け。なにもこの感情をなくす必要はない。怒り(これ)をぶつけるのは、全てが終わってからだ。

 

 

 

 悠はこの感情を否定しない。なぜならこの感情は間違いなく悠自身が正しく持ち合わせているもので、それを否定することは自己の否定でありもう1人の自分に対する拒絶だ。そして、悠は己を否定してまで目の前の男を案ずるほど聖人君子ではない。

 

 

 

「最初に疑問に思ったのは、ノエル先輩に『指名』で依頼が来たという点だった」

 

「…なにを」

 

 突然の発言にジェイルが口を挟もうとするが悠はそれを無視して続ける。

 

 

 

「村長さんとノエル先輩は初対面だった。無論学外にも有名な白銀聖騎士団の団長を頼ったという線も考えたけど、ノエル先輩が団長に就任したのは一年前。既にマシロの両親が亡くなって村長さんがその立場に縛られている状況でノエル先輩を知っているとは思えない」

 

 加えて直前に聞いた「指名依頼」を知らないという事実。曲がりなりにも現状村の危機を食い止めている悠に嘘をつけるわけはないし、仮に嘘をついたとしてそれに何のメリットがある?

 せいぜいがその場逃れでしかなく、村の中で依頼書を…ならびに文字を書ける人間が彼以外にいない以上事態の収束後に精査すればすぐバレることだ。

 つまりは

 

 

 

「アンタが学園に出す依頼内容をいじくった。違うか?」

 

「………」

 

「大方村から出られない村長さんに代わりに依頼書を出すとか言って勝手に追記したんだろう。まさか森の異常を真っ先に報告してくれた人がそんなことをするわけがないって思うだろうからな」

 

「…もしそうならなぜ私がそんなことを?私がそうする理由なんて…」

 

(オレ)をここに呼びたかったんだろ?」

 

「………」

 

 ジェイルが押し黙る。

 沈黙は肯定だ。いきなり突っ込まれた核心にジェイルの優しそうにしていた面の皮が剥がれる。

 

 

 

「あの異形の悪魔が発動した『ラウンドシールド』、あの魔法陣は間違いなくミッドチルダのものだ。元凶がミッドチルダのものと分かればそこからは早い」

 

 今現在でミッドチルダ魔導を理解できる存在なんてほとんどいないと悠は断言できる。それは過去の事件が雄弁に物語っている。もしできる存在がいるとすればそれは悠本人と、そして今なお悠を狙う『ミッドチルダ戦争』の生き残りだけ。

 そして奴らが何らかの行動を起こすときは大抵悠を狙ってのことだ。

 

 だからこのために餌を撒いたのだろう。

 

 再三にわたってこのはずれの森近辺で魔獣を作り出し、襲わせ、悠の意識に植え付けた。

 森に異常があれば悠は必ず食いつく。それが魔獣を相手にともに戦ったノエルからの情報となればなおさらだ。今更だが再三送り付けてきた魔獣も、今回のための実験体でしかなかったのかもしれない。その推測が、余計に悠を苛立たせる。

 

 

 

「ノエル先輩である必要はなかった。(オレ)がここに来るのであれば誰でもよかったんだ。ノエル先輩は、ただ都合の良い当て馬にされただけ」

 

 それのなんと歯がゆいことか。

 ノエルはただ利用されただけだ。底なしの善性で謎の指名依頼にも疑うことなく受け、そして予定調和とばかりに悠を誘った。その善性が白銀ノエルという少女のいいところであり、同時に付け込まれやすい弱所でもある。

 全ては、星宮悠(僕という存在)がいたせいで。

 

 

 

「そして疑問はもうひとつ」

 

 だがそれに気づいても悠は止まらない。止まるわけにはいかない。

 責任があるならまずはそれを果たせ。謝罪も、贖罪も、そのあとですればいい。

 

 

 

「…なんですかな?」

 

「アンタ、遭難して偶然ガルナ村に辿り着いたと言っていたな」

 

「…ええ」

 

「嘘だろう?」

 

「…」

 

「もっと言うなら、最初からこの村のことも、マシロが魔眼持ちであることも全部知っていたんじゃないか?」

 

 そうでなければわざわざこんな辺境の村に、それも内輪主義が横行している場所に来る理由などない。

 大前提としてジェイルが遭難してこの村に辿り着いたというのは頭から否定できる。偶然にしては魔石を用いた改装など村の外に住まいを決められてからの準備が周到すぎるし、偶然辿り着いた村でこんな大掛かりな事件なんて計画できるわけがない。少なくともジェイルは初めからこの村の存在を知っていたし、この計画もおそらくはこの村に辿り着く前から構想していたもののはずだ。

 

 目的は言うまでもなくマシロの魔眼『未来視』だろう。

 珍しい魔眼の中でも破格の性能。ごくごく限られた存在にしか見ることができない『未来』を視界に入れるだけで視ることができるという唯一無二、前代未聞と称するべき超能力。そんな能力(チカラ)が辺境の村に眠っているとなれば利用するに越したことはない。

 それは、悠を殺すための都合の良い道具として。

 

 

 

 そして問題なのは、どうやってマシロの魔眼を利用したかである。

 

 相良マシロという少女は純粋で優しい。悪意にさらされ、迫害を受けてもなお揺らがなかったその強い精神は知り合った時間が短い悠たちでも十分に理解している。

 そんな少女が自ら負に堕ちるとは考えられない。

 

 

 

 ───いや、原因なんて、分かりきっている。

 

 

 

「…ひとつだけ、答えろ」

 

「…どうぞ?」

 

 悠の絞り出すような言葉にジェイルがもう隠す気のないどこか高圧的な声で答える。

 手に握った得物をあらん限りの力で握りこむ。そうでもしないと、今にでも全霊を以って振るいそうになっている腕を抑えられそうにないから。

 

 マシロが変えられた理由なんて分かってる。

 それでも、その口から聞かないと納得なんてできるわけがない。

 

 

 

 

 

「マシロに…マシロの体に何を埋め込んだ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの想像通りのものですよ」

 

「ッ!!!?」

 

 

 

 ギャリィィィン!!!

 

 

 

 背後から聞こえてきたその少女のような声に、悠は殆ど反射で右手の片手長剣(ストライクセイバー)を背後に向かって振るう。

 瑠璃色の魔力刃を纏ったそれは、甲高い衝突音とともにその動きをなにかに止められた。

 

 

 

 ───奇襲!誰が…っ!

 

 未だに耳にわんわんと響く音に顔を顰めながらその正体を暴くべく後ろへ振り替える。

 その瞳に捉えた1人の少女を見て、悠は瞠目した。

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

 最初に目に入ったのは、陽の光を凝縮したかのような淡い白金色の髪だった。ふたつの得物の衝突によって生じた風が後ろでふたつに束ねられた髪を揺らし、薄暗い森の中でも仄かに光を放つ。悠の星の瞳と交差したやや切れ長の瞳は太陽のように明るい赤が揺らめき、しかしその中にどこか空虚のような暗さを感じさせた。

 

 身にまとった衣装は悠のバリアジャケットとは対照的に黒を基調に赤のラインが入った軽装。一目で機動力を重視していると分かる体のラインが浮き出た服装は彼女のスタイルの良さを強調し、その上からオーバーコートの役割を果たす白いマントで覆われている。そして現在悠のストライクセイバーと鍔迫り合いを繰り広げているのは、金色の魔力刃で覆われた漆黒の大鎌。

 

 

 

 初めて出会った、それでも初めての気がしない。

 理屈じゃない、本能が告げている。

 

 

 

 彼女は、()()()()だ。

 

 

 

「…キミは………」

 

「………ククク」

 

 悠が茫然と目の前の魔導少女を見つめると、そんな抑えきれない笑い声が聞こえた。視線を少女から外し声の元凶を見てみると、ジェイルが顔を抑えて俯き、肩を震わせている。

 見るだけで、聞くだけで理解できる狂気の嘲笑。

 

 

 

「──ハハハハハハハハ!!!」

 

「っなにを…!」

 

 ジェイルに気をとられたその一瞬、大鎌を持った少女の姿がブレる。そう知覚した次の瞬間には、悠はガードの上から繰り出された少女の足蹴りによって吹き飛ばされていた。

 ガード越しにも響いた衝撃で苦悶の顔を浮かべつつも、浮き上がった体を悠は『アクセルフィン』で制御、距離は離されながらも危なげなく着地する。その間に少女もまた飛行魔法を用いてジェイルの隣へ降り立った。

 

 

 

「ハハハ…!まさかまだ理解していなかったとは思わなかったよ。そこまで愚鈍だったとはな」

 

「…何が言いたい」

 

「貴様の推理は見事だったよ星宮悠。依頼書の偽装、この村を利用した経緯、全てその通りだったとも」

 

 未だに喉を鳴らすジェイルを見て悠は眉間に皺を寄せる。

 対してジェイルはひとつ息を吐くとさぞつまらないといったように見下した目で悠を捉えた。

 

 

 

「だがそれだけか?」

 

「…どういう…」

 

「それしか分からなかったのかと言った。ヒントは今もなお目の前に転がっている。この実験における…いや、貴様の根幹に関わる真実を、貴様は未だに掴めていない。だから愚鈍だと言ったのだ」

 

 

 

 再びジェイルが手で顔を覆うと「まあこの顔なのだから仕方あるまいか」と小さく呟き、そしてその体が濃い紫の光で包まれる。紛れもなく魔力によるライトエフェクト、今まさに進行している事態に、しかし悠は動けなかった。

 あくまで推測に過ぎない。しかしそれでも頭をよぎったその結論に、感情がぐちゃぐちゃにかき回される。

 

 

 

「相良マシロ…あの小娘に埋め込んだのは、貴様が『魔鉱石』と呼ぶものだ。今のヤツは貴様が葬ってきた魔獣と同じ存在だということだよ」

 

 グラついた頭にジェイルの声が響き渡る。

 不定周期の波によって作り出された音のように不快感をもたらすその声に悠はやはりと理解しつつ頭を抑える。

 

 

 

「それくらいは分かっていたのだろう?いくら愚鈍ではあってもそれすら理解できぬ間抜けではあるまい。なにせ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は、この私が作り出した存在なのだからな」

 

「─────」

 

 

 

 その言葉が、悠のぐちゃぐちゃになった思考をたった一色に塗りつぶした。

 

 ジェイルを包んでいた光が音もなく消える。顔を覆っていた手を降ろし、造形が変わったその顔が露になる。

 

 それを見て、悠は表情を失った。

 見覚えがある、なんて話ではない。忘れられるわけがなかった。絶対に、何があっても忘れてはいけない顔だった。10年前、そして3年前、直接見たのはその二度だけだが、それでも克明に覚えている。

 国に抗争を呼び、そして、他でもない悠の両親の命を奪った、生涯相容れぬことのない仇。

 

 

 

「久しぶりと言っておこうか、星宮悠」

 

 超魔導国家ミッドチルダにおける主任研究者。

 悠を実験体として生み出し、そして使おうとした張本人。

 

 

 

「いや………成功体よ」

 

「あ、ああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 悠の瞳に宿るその星のような輝きが、光を呑み込む怨嗟の炎で包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠、くん…!!!」

 

「く…攻撃の密度が高すぎる…!反撃に出られんっ!」

 

 時間は僅かに遡り、ノエルは悠が投げ飛ばされた直後に見境なく暴れ出した異形の悪魔の猛攻からラミィとかなたを守りつつ防衛戦の様相を呈していた。

 

 内にくすぶる感情は不安と焦り。

 間違いなく瀕死の状態から亜音速かと見間違える速度で投げ飛ばされたのだ。一刻も早く治療しなければいけないし、もしかしたらと最悪の状況が脳裏をよぎる。

 

 袈裟斬りの要領で振られた漆黒の刃をノエルの鎚矛(メイス)が受け止める。激しい火花が散り、衝突した箇所がわずかに削れるのを見てノエルは「やばっ」と咄嗟にその刃を掴んで思いっきりぶん投げた。飛ばされた異形の悪魔は近くの木に鋭い五指を引っ掛けると慣性の勢いのまま一回転し突撃を敢行した。

 

 

 

「こ…のお!!!」

 

 威勢のいい掛け声とともに青い稲妻がノエルと異形の悪魔の間を駆け抜け雷撃音が木霊する。

 ノエルはそれによって生じた隙に反射的に一歩後退、異形の悪魔は来ることが初めから分かっていたかのように直撃ルートから外れるように横に避けると再びノエルに向かって駆け出す。

 

 これが一瞬でも早ければノエルは投げとばした体勢から戻りきれず反撃をもらっていただろうが、先ほどの雷がその一瞬の隙を埋めた。

 

 

 

轟天衝波(グランドインパルス)!!!」

 

 異形の悪魔がノエルに辿り着く寸前、薙ぎ払われたメイスによって繰り出された暴風と衝撃波が扇状にすべてを薙ぎ払う。直前で『ラウンドシールド』を張った異形の悪魔だったが生じた勢いまでは消すことができず足が宙に浮きそのまま風に乗って吹き飛ばされていった。

 訪れたわずかな膠着、ノエルは後ろへ振り替えるとそこにはどうにかこうにかといった様子で立ち上がる1人の少女を見た。

 

 

 

「かなたちゃん!大丈夫なの!?」

 

「あはは、まあ傷はこの通り塞ぎました。体力までは戻ってないですけど、これ以上魔力は使いたくなかったので…」

 

「…!」

 

 ノエルはすぐにかなたの意図を察した。

 万全で挑むなら全開になるまで回復に努めるべきだ。これだけギリギリの状況、わずかな差がそのまま勝敗を決めかねない。それでもそれをしなかったということはつまり

 

 

 

(悠くんのためにとっているってこと…)

 

 かなたは信じている。

 悠が今もなお生きていること。生きて、まだ戦おうとしていること。絶体絶命に瀕してなお誰かのために己が身を賭そうとしていること。

 そして、彼がいないと勝利が厳しいものであるということを正しく理解している。

 

 異形の悪魔が用いた魔法『ラウンドシールド』。他でもない悠と同じ魔法。これを打倒するには、間違いなく悠の知識が必要になる。

 であれば、ノエルが今やるべきことは…

 

 

 

「…うん。いってかなたちゃん」

 

「ノエル先輩…」

 

「きっと、かなたちゃんの思ってる通り勝つためには悠くんの力が絶対に必要になる。あんな怪我を負った悠くんに戦わせるのは、先輩としてすごく恥ずかしいんやけど…」

 

 グッと、メイスを強く握る。

 きっと、不甲斐なさを感じているのだろう。もともとこの依頼はノエルが受けて、そして悠たちを誘って成立したもの。だからこそ、ノエルはみんなを危険に晒したことに責任を感じている。自分が守らなければいけなかったのにと、自責の念に囚われている。

 

 それでも

 

 

 

「でも、()()()で勝つには、悠くんがここにいなきゃいけない!だから…!」

 

 凛としたエメラルドの瞳がかなたを見つめる。

 苦しくても、自分を責めたくても。それでも、みんなを守るために選択した気高き騎士の心。

 

 

 

「…はい!すぐに、連れて帰ってきます!」

 

 かなたは地面に落としていた槍斧(ハルバート)を担ぐと背中の羽を羽ばたかせ己が出せる全速力で悠の元へ飛び立った。

 

 

 

(…お願い、どうか、無事でいて…!)

 

 ノエルは心の中でそう祈り、ラミィを守るように立ちふさがりひとつ深呼吸をする。

 耐える。耐えてみせる。

 

 ここから先は耐久戦であり消耗戦。

 悔しいけど今の自分じゃ1人であの悪魔は倒せない。あまり頭を回すのが得意じゃない自分じゃきっと倒せる策は思いつかない。

 でも、絶対にラミィちゃんには手を出させない。何が何でも守ってみせる。

 

 そうしてメイスを構えた瞬間、爆音と暴風を伴って黒い影がまっすぐにノエルに向かって直進する。

 ノエルが捉えたのは小柄な体格に先鋭的なシルエット。それを見てノエルは「フッ」と小さく息を吐き、右手に握るメイスに魔力が集中していく。

 

 

 

「ハァ!!!」

 

 覇気を乗せた声とともに放たれた一撃が飛来したシルエット───異形の悪魔へと吸い込まれる。

 完璧なタイミング。相手の突撃に合わせた反撃(カウンター)。ノエルもここまでただやられていたわけではない。速度とタイミングを体に叩きこんだこの一撃は、このままいけば必中と呼ぶべきものだった。

 

 しかし忘れてはならない。

 悠たちの悉くの攻撃を躱し続けてきた異形の悪魔(相良マシロ)。その存在だけが持ち合わせている唯一無二にして対人において無類の強さを誇るであろう魔眼『未来視』。

 

 

 

「………」

 

「っく、そお!!」

 

 ノエルの渾身の一撃が叩き込まれるその直前、異形の悪魔の急ブレーキによって土煙が舞い、視界が封じられる。ノエルは吼えながら構わずメイスを振り抜くが、それに当たってくれるほど容易い相手ではない。立ち込めた土煙が風圧でさらに巻き上げられ、局所的な砂塵の竜巻(サンドストーム)が作り上げられる。

 

 その中を異形の悪魔がお構いなしに最短距離で突っ込み、そして

 

 

 

 

 

「…氷魔槍(アイスランス)!!!」

 

 ノエルの眼前で作り上げられた氷の槍が、異形の悪魔を穿ち遥か後方へ押しやった。肌を撫でる冷気が否応なしにノエルの意識を覚醒させる。

 ノエルは思わず後ろを振り向き、倒れながらもその手だけをこちらに向けた一人の少女を見た。

 

 

 

「ラミィ、ちゃん」

 

「気を失ってて、ごめんなさい」

 

 そう言いながら少女───雪花ラミィはその手に清廉な癒しの光をともしながら立ち上がる。

 その金色の瞳に絶望はない。ただまっすぐに、自分の信じたものを待ち、前へ進もうとする希望の光が宿っていた。

 

 

 

「ラミィちゃん、まさか」

 

「…はい、少し前から、起きてはいました。だから、今の状況も、多少は把握しています」

 

 瞳を閉じ、魔力を練る。

 清廉なる光がラミィと、そしてノエルを包み込み、瞬く間にその傷を癒していく。それは紛れもなく今までラミィが扱うことができなかった高位の回復魔法『ハイヒール』。

 二人の傷を全開させ、目を開いたラミィがノエルを見る。

 

 

 

「ラミィも、まだ戦えます!」

 

「…参ったなあ。本当はこっちから言わなきゃいけなかったのに…」

 

 言うまでもなく、ラミィはノエルの想いに応えていた。

 ともに戦うと。みんなで勝つために、立ち上がるのだと。

 

 ガラガラと音を立てて、異形の悪魔が自身を押しつぶしていた氷の塊を吹き飛ばし吼える。ビリビリとそれだけで空気が震えノエルとラミィの耳朶を叩く。

 グオンとメイスを一振り、ノエルがラミィの前に立つ。

 

 恐怖はある。でも、それ以上に引けない理由がある。

 みんなを信じて、みんなで勝つために。

 

 

 

「援護、頼んだよラミィちゃん!」

 

「全力で、サポートします!」

 

 ノエルが果敢に駆けだし、ラミィが冷気をその身に携える。

 希望()を待つ戦いの、第二幕が切って落とされた。







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