ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part34 純白の少女⑭『2人の魔導師』

 

 

 

 

 

「ほお」

 

 しわがれた声でジェイルがそう零す。浮かべる顔にはわずかな驚嘆があった。

 

 視線の先には痛みから逃れるように頭を押さえ、呪いを吐き出すかのように叫び声を上げている1人の少年。ジェイル主導で行われたミッドチルダの極秘プロジェクトの最初の成功体であり、ジェイルから言わせれば与えられた力を自身のものだと過信し幼稚にそれを振りまく『旧世代の罪人』。名を星宮悠。

 

 そんな悠は自身の魔力を暴走させ現界した瑠璃色の風が嵐となって森の木々を軋ませている。その風はジェイルたちの元まで届き、しかしジェイルは聞こえる叫び声と肌を撫でる風に心底うざったそうに鼻を鳴らす。

 

 

 

「今のうちに殺しますか?」

 

 ふと、隣から声。凛と響いたその少女の声は良く言えば静謐で、悪く言ってしまえば無機質さが感じられた。

 

 ジェイルが流し目に横を見てみればそこには金と黒で彩られた人形のような少女。太陽のように明るい赤の中に潜む黒点を思わせる暗い闇が同居した瞳がジェイルを静かに見つめている。それはまさに命令を待つ機械のようで、ジェイルが一言イエスと言えばその少女は即座にその手に持った金色に輝く漆黒の大鎌で悠の首もろともその命を刈り取るだろう。

 

 

 

「いや、少し面白いことになりそうだ。殺すのは、ヤツの底を見てからだ」

 

「イエス、マスター」

 

 少女が持ち上げていた鎌を降ろし、同時にその瞳が眼前の悠に向けられる。

 

 肯定の意を示しはしたが少女としては理解不能だった。

 少女が…ひいてはジェイルがこんな辺鄙な村に半年もの間腰を据えたのは偏に悠をこの村におびき出し、大量に用意した魔獣と『未来視』の少女、そして己自身という幾重もの力を以って悠を殺すこと。そして、悠の体に眠るミッドチルダの至宝を奪うことだ。それなのに何故わざわざ悠に時間を与えるのか。

 

 それだけの価値が、彼に存在するのか。

 

 

 

「今のヤツはこの私の想像の埒外の現象を引き起こしている。それを分析し、解析することができれば、お前もより強力になれる。…そら、()()()

 

 

 

 一瞬の煌めき。

 

 音を置き去りにした瑠璃色の光は森を包み、そして淡く消えていく。

 あまりの眩さに少女は目を瞑る。訪れた静寂の中、再び目を開いた少女の瞳にはゆらりと立ち上がる悠の姿。そして

 

 

 

 先程までの瑠璃に光る星の瞳ではない、全てを焼き尽くすような緋色の灼眼と目が合った。

 

 

 

「!」

 

 

 

 ガキィィィン!!!

 

 

 

 衝撃。

 

 咄嗟にジェイルを守るように展開した金色の『ラウンドシールド』と、突きの要領で繰り出された敵対者(星宮悠)片手長剣(ストライクセイバー)が火花を散らして激突した。ギリギリと金属が擦れるような音が響き、それを聞いたジェイルが実に不快そうに眉を顰める。

 

 

 

「…それが、貴様が『皇玉(レガリア)*1に願った力か」

 

「知らねえよ。黙って殺されろ」

 

 普段の悠からは想像もつかないような怒気の籠った声をあげて悠は体を一ひねり。軸を固定し、遠心力を乗せた一閃が少女の『ラウンドシールド』をわずかな抵抗の後に切り裂いた。流れる動作で左手に握ったストライクハートをジェイルへ向ける。その先端に光が収束、解き放たれたのは、刹那のタイムラグの後の出来事だった。

 

 

 

「クロススマッシャー」

 

 近接砲撃魔法『クロススマッシャー』。射程距離に難はあるが発射速度と威力を両立したその一撃はたしかに少女もろともジェイルを呑み込んだ。砲撃の余波で大地が抉れ、一本の木がその中ほどから消失し、自重によって倒れる。それを悠は目を細めて見ていると、瞳に走った鋭い痛みに片手でその灼眼を抑える。

 

 

 

「…ッチ、為すべきことの前に気を失ってんじゃねえよ。バカが」

 

「あなたは…」

 

「オレは(オレ)だ。分かったらキリキリ働けよこのポンコツ」

 

「な、誰がポンコツですか!?この超絶有能AIの私に向かって!」

 

「だったらさっさと索敵ぐらいしねえか。アレくらいでヤツが死んでるわけねえだろうが」

 

「あーもう!マスターだったらもっと優しく言ってくれますよ!」

 

 ぶつくさ言いながらストライクハートが自身の魔力を波にして放つ。悠はその間に乱雑に髪をかき上げ血を拭う。痛みはある、未だに腹部の傷は塞がっておらず今もなお血が流れ出している。だが、動けるのならなんら問題はない。

 脚部に二対の魔力羽『アクセルフィン』を展開し、体を脱力させる。

 

 

 

「…!10時方向、30メートル先、反応2!」

 

 悠はストライクハートの言葉を聞いた瞬間に『アクセルフィン』で加速。緋色に燃える瞳の先に映った影に向かって一直線に突き進む悠は上段にストライクセイバーを構えて呟く。

 

 

 

「ストライクセイバー、魔力励起」

 

 光が揺らめき、鮮やかな瑠璃色の刀身がさらに深い、瑠璃を超えた大海のような濃青色へと変化する。その濃さは魔力密度の証明。秘められた威力は先ほどまでとは比べるまでもない。

 

 

 

「死ね、簒奪者(さんだつしゃ)が!!!」

 

「…させません」

 

 再びの衝突音。悠が怨嗟を込めて上段からジェイルめがけて振り下ろされた青の剣はその間に滑り込んだ影がそのとても力があるとは思えない細腕で持つ金色の鎌によって止められる。一瞬目を見開いた悠は、そのまま切り伏せると言わんばかりに力を込める。それによって金色と黒の少女が片膝をつくが、最終的には魔力刃同士の衝突で光が弾けるのみで少女を切り伏せるには届かなかった。

 

 ストライクセイバーに込めた力はそのままに悠は少女に問いかけた。

 

 

 

「テメエ、何者だ。何故()()()()()()()()()()()()?」

 

「…貴方と同じ実験の被験体であり成功体だからですよ。古代遺失物(ロストロギア)*2である皇玉(レガリア)を体内に埋め込んで後天的に強力な魔導師を作り上げるミッドチルダの極秘計画、『プロジェクト・レガリア』。

 私はその実験の被験体番号(コードナンバー):X、エリクシア。初めまして、被験体番号(コードナンバー):U、悠()()

 

「…!?」

 

 聞かされた言葉に悠は驚愕する。しかし、それを反芻させる暇を目の前の少女───エリクシアは与えてくれなかった。

 

 キィンと共鳴音が響き、悠の周囲に魔法陣が展開される。その数全部で8個、金色に輝く魔法陣には雷が宿り、その中央には同色の鋭さを感じさせる針のような弾体が生成されている。その魔法陣による砲門はひとつ残らず悠を取り囲むように向けられており、エリクシアが紡ぐ声とともにその弾体が淡い光を放った。

 

 

 

「プラズマランサー…ファイア!!」

 

「ッチィ!」

 

 魔法陣から弾体が槍となりて雷を伴って撃ち出され悠を穿ちにかかる。その寸前で悠はさすがの反応速度で後退しつつ『ラウンドシールド』を発動するが、全方位からの攻撃はシールドひとつで防ぎきれるものではなく、背後から撃たれた雷の槍が悠を貫いた。雷が弾けて炸裂し、衝撃で数メートルほど吹き飛ばされる。

 

 どうにか地に伏せる寸前でストライクセイバーを地面に突き刺してそれを支えに身を起こすが、体に走った雷の影響で視界が歪み、思考がショートする。その視界の端で再び金色の雷が迸った。

 

 

 

「ガッ…!」

 

 避ける暇などなく…いや、そもそも攻撃が来たという認識すらないままエリクシアの下段からの蹴りによって腹部に衝撃が走り、その勢いで上空に撃ちあげられる。未だに戻らない視界と体中に走る痛みに苦悶の表情を浮かべるが、悠は撃ちあげられた体勢のまま左手のストライクハートを振り上げて魔法陣を構築した。

 

 

 

「っ舐めんな…!ディバインシューター…シュート!!!」

 

 視界が定まらないのなら視界以外の情報で捕捉すればいい。『ディバインシューター』と同時並行で発動させた『魔力感知』での位置情報を頼りに瑠璃色の魔力球を発射した。8個の光球が複雑怪奇な軌道を描いて追撃を仕掛けようとしたエリクシアへと正確に撃ち込まれる。

 

 対してエリクシアは空を駆ける速度はそのままに自身の周囲に魔法陣を展開。驚異的な速度で構築された『プラズマランサー』が腕を振ると同時に放たれ、吸い込まれるように魔力球とぶつかり対消滅を引き起こした。

 

 ふたつの射撃魔法の衝突によって光と煙が2人の間に立ち込める。悠は即座に『アクセルフィン』を再展開しチカチカと光る視界に溜息にもならない声を上げ目を細める。刹那、煙の中心を突き抜けて雷を纏った少女が音をも超える速度で悠に向かって最短距離で強襲を仕掛けてくる。それを

 

 

 

「同じ手が通じると思うなよ…!」

 

「…!」

 

 悠の全周を覆うシールドが突撃をせき止めた。速度で悠がエリクシアに勝てないのは織り込み済み、そして一度成功した連携に無意識に頼りたくなるのは人の性。視界を封じられれば再びあの驚異的な速度での突撃が来るであろうと読んだ悠は『ディバインシューター』を放ったその直後にはすでに防御魔法の『プロテクション』の構築を開始していた。

 

 結果はご覧の通り。そしてここまで悠の想定通りであればその先の展開も当然用意してある。

 

 ストライクハートをエリクシアへ向けて魔力をチャージ。防御魔法の上から直接発動ができる唯一の魔法。砲撃、射撃魔法を主とする魔導師の近接戦における逆転の一撃。

 

 

 

「クロススマッシャー!!!」

 

 瑠璃色の閃光が空を衝く。しかし、悠の表情は晴れなかった。砲撃魔法によって生じた風、それが周囲の霧をまばらに吹き飛ばし、わずかにクリアになった視界の先で少女の姿を射止める。

 

 無傷であった。機動性を重視しているであろうエリクシアの『バリアジャケット』は間違いなく脆弱。悠のそれのように内側にアーマープレートを仕込んでいるわけでもなく、硬質装甲も腕部と脚部のみの最低限。一度でもまともに当たれば間違いなくそれでノックアウトできると確信できるほどの装甲の薄さ。

 

 しかしそれは裏を返せばそれをするだけの圧倒的な機動力を誇るということだ。「当たらなければどうということはない」という名言を体現しているかのようなエリクシアの動きはものの見事に悠の攻撃の悉くを躱してみせた。

 

 

 

「ハッ…厭味ったらしいまでの速度だな」

 

「誉め言葉として受け取っておきましょう」

 

 空という開けた空間。10メートルほどの間をあけて2人の空戦魔導師が静かに対峙する。片や白と青、片や黒と赤で彩られたバリアジャケットを身に纏い、己の武器、相棒を相手に向け、緋色の灼眼と闇を秘めた紅の瞳をぶつけ合う。

 

 

 

「…なあ、なんでテメエはヤツに付き従う。人を人とも思わない実験、その果てに生まれた数多の屍。その元凶に対して、なぜ忠誠を誓う」

 

「………」

 

 今の悠の目的はあくまですべての元凶であるジェイルだけだ。無論自分が負の感情(怒りと殺意)を強く反映した一側面であり、それが結局のところただの私怨と復讐心にまみれた存在であることは自覚している。決して褒められたものではないし、ジェイルのやってきたことを理由に自身の存在と行動を正当化するつもりもない。

 

 自身もまた、誰かの命を奪おうとしている簒奪者であることは変わらないのだから。

 

 だが、かといって無作為に殺しをしたいかと言われればそれは否だ。たしかに必要であれば厭わない。しかしそうでないならしたくないというのが本音だ。悠は、決して殺人に快楽を見出す人間ではない。

 

 だからこそ、問いかけた。もしその理由が、彼女の意思を無視した強制的なものであれば、戦わずに済むかもしれないと、()であればそう考えるだろうと思ったから。しかし、彼女が自分の意志でこの場に立っているのなら、そのときは…

 

 

 

「…私は、マスターの道具であり、武器であり、兵器です」

 

「…」

 

「道具にその持ち主を疑う必要がありますか?武器に自らを判断する必要がありますか?兵器に…意思は必要ですか?」

 

 そう語るエリクシアの瞳はどこまでも暗く、どこまでも冷たかった。それはまるで人形のようで、機械のようで、すべてが空っぽの空虚の瞳。吹いた風が陽だまりを思わせる白金の髪を揺らしその瞳をかすかに覆い隠す。

 

 それを見て、悠は諦めとともに息を吐く。もう考える必要はない、疑う必要はない。確信した。

 

 

 

「そうかよ。じゃあ…さっさと終わらせるぞ」

 

 

 

 彼女(エリクシア)は、どうしようもないほどの敵だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディバインシューター…シュート!!!」

 

「プラズマランサー…ファイア!!!」

 

 青と金の軌跡が暗い空を駆け、音と光を上げてぶつかり合う。その直後、風を切る音とともに飛来した閃撃が展開された魔法陣に衝突し甲高い金属音を鳴らした。

 

 正面から突撃を仕掛けたのはエリクシア、彼女は唯一無二の武器である大鎌を止められたのを見ると即座に軌道転換。上段からの斬り下ろしは止められた、であればと流れる動作で手元でクルンと逆回転させた鎌を今度は下段からすくい上げるように振り抜く。

 

 上段からの攻撃を止めるため発動した悠の『ラウンドシールド』、それ故にあまりにもシームレスに下段から繰り出された二撃目をそれで止めることはできない。

 

 

 

「──フラッシュムーブ」

 

 刹那、悠の輪郭がブレる。エリクシアがそれを知覚した次の瞬間には、悠はエリクシアの10メートルほど後方にまで距離を離していた。そして、響き渡る撃鉄がカートリッジを叩く音と魔力の収束音。いつの間にかストライクハートを砲撃形態(バスターカノンモード)に変形させていた悠がその砲口を真っすぐにエリクシアへ向けている。

 

 ここに来て初めて、明確にエリクシアの表情が驚愕で歪んだ。

 

 

 

「…!」

 

「ディバインバスター!!!」

 

「Divine Buster.」

 

 空に響く詠唱、それと同時に撃ち出された一条の光はまるで流れ星のように暗き空を駆け抜けた。正確無比な一撃、間違いなく直撃すればそのまま昏倒させられる威力を秘めたそれは寸分の狂いもなくエリクシアに向けて直進し、そして

 

 

 

「っくう!」

 

 全力で稼働させた飛行魔法によって、身に纏うマントの一部を消し飛ばすにとどまった。

 

 

 

「…そんな距離で砲撃魔法を使いますか…」

 

「生憎さま、オレとアイツ()を一緒にしないでもらえるか?」

 

 多少のリスクなら一向に厭わないと言わんばかりの攻撃にギリギリでの回避にひとつ息を吐くエリクシアに今度は悠が追撃をかける。再びのロードカートリッジ、足元に展開される魔法陣に周囲には先ほどの『ディバインシューター』とは比較にならないほどの大量の魔力球。

 

 

 

「アクセルシューター…シュー「ライトニングムーブ」…!?」

 

 体勢の整いきっていないエリクシアへ向けた射撃魔法。しかしそれを放とうとした相手は、瞬きひとつする間もなく悠の視界から掻き消えた。驚きで一瞬硬直した悠だが、すぐに発射しようとした魔力球をその場に留めて冷静に状況を俯瞰して見る。

 

 チリッと、かすかに雷走の音が聞こえたのはその直後だった。

 

 

 

「くっ…プロテクション・パワード!」

 

 駆け抜けた悪寒に悠は反射で『マルチタスク』を行使し魔法を同時に並行処理、防御魔法である『プロテクション・パワード』で全体を覆うように障壁を張る。

 

 

 

「先輩、あなたのことは魔獣との戦闘の際に随分と研究させていただきました。そして弱点も」

 

「へえ、言ってくれるじゃねえか。で、その弱点って?」

 

「ひとつ、あなたの魔法はその特性上発動の際に足を止めなければいけないものが多い。今の『アクセルシューター』もその内のひとつ」

 

 ギャン!とガードの上からお構いなしに斬撃が叩き込まれる。しかしソレが分かっていても悠は未だにエリクシアの姿が捉えられていない。音を超え雷速へと至った少女は肉眼はおろか『魔力感知』を用いてもその残像を捉えるのみで終わる。

 

 だが、その速度もずっと持続できるわけではないはずだ。それができるなら初めからやっておけば今よりもずっとエリクシアが優位に立てていただろう。敗けていた、と言わないのは僅かな意地であり、またそうはならないという自信もあったから。

 

 仮に今の速度が維持できたとしてもエリクシアの攻撃は悠に比べて()()。ここまで発動した攻撃魔法は直射型射撃魔法*3の『プラズマランサー』のみ。それなら余程の密度での多重射撃でなければ割られることはないし、それほどの規模の攻撃なら発動前に必ず気付ける。

 

 

 

「ふたつ、全方位ガードの『プロテクション』系統の魔法は物理攻撃より魔力攻撃への耐性が低い。意図的に呼び込んでの一点突破ならば破壊は容易い」

 

 聞こえた声は、悠の直上からだった。

 

 

 

「バルディッシュ、ロードカートリッジ」

 

「Yes sir.」

 

「なっ…!?」

 

「カートリッジシステム!?私たち以外に…!?」

 

 エリクシアから聞こえてきた宣言、そしてそれに反応したデバイスの声に、悠とストライクハートはともに隠し切れない動揺の色が見えた。

 

 

 

 『カートリッジシステム』。

 

 それは魔法演算補助デバイスに「CVK-792」と呼ばれる特殊パーツを搭載した機構。

 圧縮魔力を積んだカートリッジと呼ばれる弾体をデバイス内で炸裂させることで瞬間的に爆発的な魔力を得ることができ、一見すれば魅力的だがその反面取り扱いも非常に難しく、デバイスと術者本人に大きな負荷がかかり、一手間違えればデバイスの自壊すら引き起こしかねない危険なシステムでもある。

 

 その危険性は悠もよく知っているところ。だからこそ驚愕した。そのシステムをエリクシアが使っていることに。そしてそれを使わせたであろうジェイルに対して怒りがこみ上げる。

 

 

 

 ギャラララッ、と擦過音をかき鳴らして悠の弾倉タイプのものとは違う鎌の付け根部分に取り付けられているリボルバータイプのカートリッジが回転し、その後にガシャンガシャンと特有の撃鉄音が鳴り響く。

 

 瞬間、金色の風が吹き荒れる。

 

 

 

「そしてみっつ、あなたは論理で戦術を組み立てるタイプ。故に、想定外の展開にめっぽう弱い」

 

 エリクシアが持つ金色の魔力刃を持った漆黒の大鎌───デバイス名『バルディッシュ』がひときわ強く輝く。エリクシアが右手を前に、『プラズマランサー』を放った時より二回りほど大きくなった魔法陣が現れる。バチバチと魔法陣に雷光が走り、金色の魔力が集積していく。紛れもなく、大出力の砲撃魔法の前兆。

 

 それを見ても悠は動かなかった。いや、動けなかったというのが正確だ。

 悠が現在『マルチタスク』を用いて『プロテクション・パワード』と『アクセルシューター』を同時に発動したままであり、その魔法はいずれも今の悠の技量では発動中に自身の移動が封じられる。本来であればエリクシアがカートリッジロードを行った時点で魔法を破棄して回避か防御に回るべきだったが、そのカートリッジロードが悠の動きを縛った。

 

 『カートリッジシステム』でチャージ時間が短縮された以上今からではもう遅い。そう自覚したときには、既にエリクシアから魔力の奔流が悠を襲っていた。

 

 

 

「全てマスターの計算通りでしたよ。プラズマ…スマッシャー!!!」

 

「Plasma smasher.」

 

 エリクシアから放たれた砲撃魔法『プラズマスマッシャー』が雷撃音を轟かせて『プロテクション・パワード』と衝突する。

 

 拮抗は、ほんの一瞬だった。

 バキンッとガラスが砕かれるような音とともに光の障壁は消滅し、黄金の雷は悠を呑み込んで大地まで一瞬で突き抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が、あ…!」

 

───…おい!しっかりしろ、おい!!

 

 雷撃をまともに食らって大地に叩き落された悠。全身傷だらけの満身創痍と言わざるを得ない状態の悠の脳内に、焦りと心配を孕んだ声が響いた。

 

 

 

「…んだよ、今更…起きたのか、()…」

 

───少し前から起きてはいたさ!今は(オレ)の方がいいと思ったから黙ってただけ…って、そんなことより代われ!今の状態で(オレ)が戦っても…

 

「黙れ、これは…オレの戦い…だ……!」

 

「もう貴様の戦いなど終わっているんだよ、この愚鈍が」

 

「ぐあッ…!!?」

 

 2人(悠と悠)の会話に割り込むひとつの影、先ほどまでエリクシアと悠の戦闘を眺めていたジェイルが悠の腹部を踏みつけ悠が苦痛の声を漏らす。踏みつけられた部位は異形の悪魔(マシロ)によって貫かれた箇所、血が噴き出し地面を殊更に赤く染める。

 

 それに対してジェイルは実に愉快そうに、そして実につまらなそうに言葉を吐き捨てた。

 

 

 

「『精神の二分化』、まさかそんなものを皇玉(レガリア)に望んだとはな。いや、意図的なものではなかったのか?どちらにせよ、元より手負いの状態だったとはいえエリクシアに遠く及ばなかった時点ですでに興味もないことだが」

 

「お、まえ…!」

 

「もう貴様に対する興味はその体に眠る皇玉(レガリア)だけだ。…あぁ、安心しろ。()()()も、あの未来視の小娘にすぐ殺される。仲良く天国で会えるだろうさ。まあ、国を見捨てた貴様が行きつく先が天国かは知らんがな」

 

「…!」

 

 体が、震えた。

 それは、死に対する恐怖だったのかもしれないし、仲間を侮辱された怒りなのかもしれない。ただ、ひとつ確信して言えることは

 

 

 

 これは、僕とオレが初めて同時に思った感情だ。

 

 

 

「だま、れよ…!」

 

「…なに?」

 

「お前が、オレをどこまで知っているかは…知らねえが…」

 

 空いていた右手を動かし、悠を踏みつけていた脚を掴む。

 力は入っていない、本当にただ掴むだけ。それでジェイルの脚をどかせるわけではないし、その行動が何かを変えたわけではない。

 

 しかしそれでも、悠は左の燃え盛るような灼眼を、そして右の瞳に宿った瑠璃に輝く星の瞳を、まっすぐジェイルに向けて言い放つ。

 

 

 

 

 

「オレを…僕の仲間を…バカにするんじゃねえ…!!!」

 

 

 

 

 

「…ふん、くだらん」

 

「がはっ…」

 

 ジェイルが踏みつけていたその脚で悠の顔を蹴り抜く。悠はもう声にならない声をあげて呻くだけ。ジェイルはそれを見て鼻を鳴らすと隣に降り立っていたエリクシアに向けて命令する。

 

 

 

「さっさと殺せ。もう用済みだ」

 

「イエス、マスター」

 

 ザッと大地を踏みしめる音を上げてエリクシアが悠の元まで歩み寄る。悠を静かに見下ろすそのルビーの瞳はやはりどこまでも無機質で、感情のない暗さを伝えてくる。

 

 ヒュンッと軽い動作で左手に握ったバルディッシュを振り上げる。

 

 

 

「…さようなら、先輩」

 

「エリクシア、キミは…そんな生き方でいいのか…?」

 

 ふたつの眼が星の輝きに戻った悠から告げられた疑問。

 それに対して、エリクシアはほんの僅かに動きが止まり、そして

 

 

 

「私は、ただの道具ですから」

 

 変わらぬ表情のまま、バルディッシュを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───悠くんっ!!!」

 

 

 

 群青の星が、瞬く間に悠とエリクシアの間を駆け抜けた。

 

 

 

「…!?」

 

「…なんだと?」

 

 突然の事態にさしものジェイルとエリクシアも瞠目する。星が残した軌跡、その先を見てみると、そこにいたのは天使の羽と輪を持った銀髪の少女。余程急いだのか息は絶え絶えで悠を見つめる瞳はどうしようもないほど涙で濡れていた。

 

 もしかしてという期待をしていなかったのかを言われればそれは確かに嘘だろう。だが同時に、己の戦いに来てほしくもないとも思ってしまっていたがゆえに助けられた悠が浮かべる表情は複雑だった。

 

 そんな悠の心情などつゆ知らずといった迫真の顔で天使の少女が詰め寄る。

 

 

 

「…かなた」

 

「生きてる…生きてるよね悠くん…!!」

 

「…うん、なんとか…って痛い、割と本気で痛いから力強めないで…ごふっ」

 

「えあ、ご、ごめん!?大丈夫!?」

 

 存在を確かめるように全力で抱きしめるかなただが、今の悠はどう考えても重傷。メキメキと音が聞こえそうなほどの力で抱きしめられた悠は苦悶の表情でかなたをタップした。かなたは慌てて悠を抱きしめる力を緩めると残った魔力で悠に『ハイヒール』を施す。

 

 みるみるうちに傷が癒えていく悠を見てジェイルは苛立ちを隠そうともせずエリクシアを怒鳴りつけた。

 

 

 

「何をやっているエリクシア!さっさと殺せ!」

 

「…!イエス、マスター」

 

「悠くんを殺す…?そんなことさせるかって…の!」

 

「…手伝うよ、かなた」

 

 バルディッシュを構えて突貫するエリクシア、それに対してかなたと悠はその行く手を阻むため同時に魔法を発動する。

 

 

 

「『雷の雨(サンダーレイン)』!」

 

「ラウンドシールド、多重展開!」

 

「!これは…」

 

 悠とかなた、2人を取り囲むようにふたつの魔法が光を放つ。落雷と障壁、断続的に降り注ぐ雷と行く手を阻む障壁にエリクシアは思わず足を止められる。見境なしの範囲攻撃は間違いなくエリクシアの苦手とするところ。元々悠を殺すことを想定して組まれた作戦だったため、それ以外の事態を考慮していなかったエリクシアは助けを求めるようにジェイルを見やった。

 

 そして悠は、それを見逃さずに魔法を組み上げる。

 

 

 

「かなた、あっちを狙って!ディバインシューター!」

 

「!りょーかい、いっけえ!!」

 

「マスター!」

 

「ぐ、きさまらぁ…!!」

 

 ジェイルを狙って撃ち出された光の弾と青の雷、それを見てエリクシアは即座に悠たちから反転、『ラウンドシールド』を展開して防御に入った。響く衝撃音。2人のタイミングをずらした連撃は絶えることなくジェイルへ襲い掛かり、そのガードにかられたエリクシアは攻めに転じることができない。

 

 

 

「マスター、どうすれば…」

 

「………チィ!退くぞ、ヤツの底は見た。殺すチャンスなどいくらでもある。それに、うまくいけばアレがそのまま殺すだろうさ…!」

 

 心の底から忌々し気に悠とかなたを睨みつけるとジェイルは懐から魔石を取り出し地面に叩きつける。すると、ジェイルとエリクシアを包むように魔法陣が展開された。悠はそれにひとつ心当たりが浮かぶ。

 

 

 

「転送魔法陣…」

 

「許さんぞ星宮悠、そしてそこの天使も!私の計画のひとつを潰したこと、地獄の底で後悔させてくれる…!」

 

「うっわあ逃げる立場であんなこと言うんだ…」

 

 相手が退くということでどこか安心したかなたが小声でそう零す。幸いジェイルには聞こえなかったようで問答はそこで打ち切り。ジェイルとエリクシアを包む光が強くなる。光によって2人の輪郭がブレて転移するその直前、悠はエリクシアに向けて叫んだ。

 

 

 

「エリクシア!また…会おう」

 

「…それは、私が決めることではありませんので」

 

 

 

 キンッと、一際まばゆい光が放たれると、その次の瞬間には2人の姿は忽然と消えていた。

 

 …なんで去り際の彼女にあんなことを言ったのか、明確な理由は自分でも分からなかった。ただ、なんとなく放っておけなくて。紅の瞳に、どこか寂しさを感じた気がして。

 

 自分と同じ存在でも、生き方次第でここまで違ってしまうものなのかと、知ってしまったから。

 

 

 

 解放された極限状態に、悠は大きく息を吐いて呼吸を整える。その間にも『ハイヒール』をかけ続けていたかなたが、どこか伺うように問いかけてきた。

 

 

 

「悠くん、結局今のふたりは一体…?」

 

「…一言で言えば老人の方はジェイルさんであり今回の事件の黒幕、女の子の方はあの男が作り出した人造魔導師…ってとこかな」

 

「…え、え!?ちょ、ちょっと待って!いろいろ情報が多すぎて…!」

 

 かなたが頭を抱えて軽くパニックを引き起こす。まあそれはそうだろう。そもそもかなたはあの男がジェイルであることすら知らなかったはずだ。それがいきなりその知らない老人がジェイルで、しかもそれが今回の事件の黒幕だと言われればパニックにもなる。

 

 そう言っている間にひとまず最低限の治癒が終わったようで、まだまだ重いが出血は止まって動けるようになった体を軽く動かして悠はかなたに礼を告げる。

 

 

 

「治癒、ありがとうかなた」

 

「う、うん…あ、そうだ悠くん急がないと、ノエル先輩にラミィちゃんが!」

 

「…うん、分かってる」

 

 当然忘れているわけがない。2人だけじゃない。悠たちを前に進ませるために今もなお大量の魔獣と戦っているであろうフブキとフレアのためにも、一刻でも早く事件を解決しなければならない。

 

 しかしそのためには、ひとつ大きな事案が残っている。

 

 …だが、覚悟はもう決まってる。

 罵られようとも、恨まれようとも、それでも、みんなを守るために。

 

 

 

 たとえ守りたいと思った、幸せになってほしいと願った子の未来を、この手で摘むことになったとしても。

 

 

 

「かなた、移動しながらでいい、聞いて」

 

「え、う、うん」

 

 移動を開始した2人は森の中を低空飛行で飛翔する。その最中、悠が重い顔持ちでかなたへ話しかける。それはちょっとした話では済まないとすぐに分かる、覚悟を決めた顔と声。故に、かなたは戸惑った声を漏らしてしまう。

 

 

 

「…時間がないから率直に言うよ」

 

 静謐で、しかし激情を必死に抑え込んだような声で、それでも悠は告げた。

 

 

 

 

 

「あの異形の悪魔の正体は…マシロだ」

 

「っえ………」

*1
ミッドチルダが所有していた『古代遺失物(ロストロギア)』(後述)の一つ。虹色の結晶体の形をしており膨大な魔力を溜め込む性質を持ち、所有者の望むものを魔力で生み出す願望機でもある。

*2
古き時代にかつて存在した超高度文明より流出した、現代では再現しえない技術や魔法の総称。通常は白銀聖騎士団をはじめとするそれぞれの世界の治安維持機関が管理・保管を行っている。

*3
『ディバインシューター』のような術者による誘導制御ができないタイプの射撃魔法。しかしその分速度や威力が高くその優位性は比べられるものではない。





ここまでご読了ありがとうございました!
はい、バルディッシュです。知ってる人は知ってますけどそのまま使わせていただきました。
一応バルディッシュという武器自体は実在するポールウェポンなので気になった方は検索してみてくださいね。


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