ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート 作:468(ヨルハ)
ストックあるうちは定期更新します。
それでは本編へどうぞ。
そこは、大地なき星の空間。
右も、左も、上も、下も、見渡す限りの煌めく星々。黒の宇宙の中で星自身の輝きと、収縮と膨張を繰り返して寿命を迎えた星が見せる白色矮星や超新星爆発の光が淡く、激しく、色鮮やかに宇宙を彩る。
そんな幻想的かつ神聖的な空間の一角に4人の少女がいた。
広大な宇宙空間に放り出された円卓、相対位置を固定されたかのように等間隔に並べられた5個の席。宇宙に見守られながら存在するそれに、ただひとつの空席を残して鎮座する彼女たちは星と神の代弁者。それぞれの『概念』を司る人ならざる超常の存在。
「あれ、あの子は?」
「遅刻ね、どこでなにやってるのやら…」
「まあいつも通りと言いますか、もう驚きませんね」
「どーせフラフラと放浪してんでしょ?探すだけ無駄だって!」
そうして会話を締めくくった大きなネズミ耳が目立つ赤髪の少女は背もたれに身を委ねながら円卓に足を乗せるとニヤリと笑ってその特徴的な白いギザ歯をのぞかせる。
あまりにも不遜な態度。しかしそうするだけの自信と尊厳、そして実力と権能を彼女は確かに持ち合わせており、それと同時に態度とは裏腹に彼女の言葉には今ここにはいない『文明の守護者』に対してのある種の信頼があった。
ひとえに「アイツなら大丈夫」だという信頼。それが分かっているからこそ、他の3人も彼女に対してそれ以上の追及はしなかった。
「それで?なーんでボクたちは呼び出されたワケ、新議長サマ?」
「たしかに、定期じゃない緊急の招集。何があったの?」
「何十年ぶりでしょうか。いや、貴方が就任してからは初めてですかね、『希望の化身』
3人6つの瞳に見つめられた少女───天使と悪魔の両側面を併せ持つ
「…『
IRySはそこで一度言葉を切ると右手を天にかざし、魔力を用いてあるものを顕現させる。
映し出されたのはホログラムで作られたひとつの惑星、緑と青で構成されたそれを見た3人はそれが何なのかすぐに検討がついた。
「ホロアース…ファウナがよく見てたっけ」
「はい、あの星は緑、つまり自然が多いので…って、ベー?」
開口一番その惑星の名前を言い当てた少女───正確無比な時の支配者、『時間の典獄』たるオーロ・クロニーに対してそう答えて慈愛の表情を浮かべる少女───ウェーブのかかった若葉色の髪を持つドルイドの麒麟、『自然の番人』であるセレス・ファウナは、IRySが映し出したホロアースを見て表情を一変させた赤髪の少女の表情を覗き見ると眉をひそめた。
言うなればまさに混沌。口を弧の形に歪めて歓喜と共に一種の狂気を孕んだその顔は、頼もしさとともにどこか恐ろしさを感じさせてしまう。
「
「ッ、…ええ、その通りよ」
あまりの豹変具合、『
クロニーとファウナはすぐにはその意味に気付けなかった。
星と神によって創生期から定められた理。
それはすなわち世界の法則と言っても差し支えない決して触れることの許されない神秘。命あるものであれば誰もが一度は夢想し手を伸ばしてしまいかねない禁忌。それが小さな歪みを生み、今もなお渦巻き続けている。
「──死者蘇生」
ベールズから発せられたその単語に対して、息を呑む音だけが静かに鼓膜を揺らした。
死者は生き返らない。
数ある理の中でもそれはもっとも強固なものであり、それを侵すのはまさに禁忌中の禁忌。
何故ならそれは全てに平等な『時』を冒涜する行為であり、全てに与えられた『命』を汚す行為であり、全てを呑み込む『混沌』を生む呼び水となってしまうから。
「…誰が!?」
「落ち着きなさいクロニー。結果から言うと誰かは不明、蘇生された存在が不安定なのか生じた歪みは非常に小さく特定は難しい。現段階で分かるのは『
「つまり今回招集された理由は現状の共有と、情報の収集依頼ってところですか」
「えー別に良くない?面白そうだし───」
ベールズの続くはずだった言葉は、不意に止まった。いや、止められた。
華奢な首筋に添えられた白銀と黄金で構成された刀身。鋭利なんてレベルではない、業物という言葉すら生ぬるいと如実に感じさせる美しくも恐ろしいそれは、間違っても人の手で造ることが出来ない代物。
紛れもなく神の手によって生み出された二刀一対の『神器』、時を支配する能力を有するその剣の名は『
「…なんのつもり?」
「そのセリフ、そっくりそのまま返すわ」
「「……」」
当然ながらベールズに剣を差し向けた正体はクロニー。
ベールズに向ける紺碧の瞳はどこか冷たく、宿る感情はただただ怒りと、そして諦観。そんなクロニーに剣を差し向けられたベールズは目をわずかに細めて見つめ返し、IRySとファウナは特に焦ることもなく2人を見守る。
静寂は僅か数秒。
音もなくベールズの首にかけられた刃が離れる。流れる動作で
「──まあ、そういう在り方が
「そういうこと。ついでにこの空間では
「残念、これが私という存在だもの」
「知ってた」
2人して挑発的な笑みを浮かべると席に戻り目を閉じる。既に話すことはなくなったとでも言いたげなその様子にファウナは大丈夫だと分かってはいても不安ではあったのかひとつ押し出すように息を漏らし、IRySもまた呆れたようにひとつ嘆息をついた。
まあたしかに伝えるべきことは伝え終わったし、議題も現状急ぐものは何もない。
『文明の守護者』が最後まで現れなかったのは気がかりだが、険悪とは言わずともどこかヒリついたこの空気感ではこれ以上何か話してもロクに話も進まないだろうと判断したIRySは
「先の件の対応は各々に任せます。ただしいたずらに議会同士での諍いは起こさないように。以上、解散」
最後にIRySにジト目で睨まれたベールズとクロニーが少しバツの悪そうな表情を浮かべて足早に消える。続いてIRySもファウナに手を振ってその場を立ち去り、1人残されたファウナはこの場では視認できないホロアースを方角を見据えて憂う。
「こうなることは避けられなかった…ということなのね」
彼女の言葉には、どこか「そうならなければ良かったのに」という感情が浮かんでいた。
秘めていたのは、僅かな後悔と贖罪。
彼女だけが知り得る過去の一幕。
自身の罪と知りながら、それでも湧いてしまったその感情によって把握していたその歪みを今の今まで放置してきた。
「ごめんなさい。やっぱり私は、貴方の味方はできないみたい」
ポツリとつぶやいたその言葉は、静かに星々の彼方へ消えていった。
◇
「失礼します」
ノックの後に開かれた豪勢な扉、そう声を上げて視線を真っすぐに部屋の主に向けた1人の少女が入室する。対して出迎えるは豪勢だった扉とは対照的に利便性を追求した簡素にも見える大型デスクに肘をつき大量の書類を抱えた壮年の男性。
男性が少女の姿に気が付くと広げていた書類を裏返して視界の情報をシャットアウトするとともに目線を少女に合わせる。
「
「いえ、理事長のお呼びとあらば。それで、用件をうかがっても?」
姿勢を正して直立不動を貫く少女───ホロライブ学園3年にして生徒会長、栗色の長髪に星の髪飾りが特徴の『ときのそら』がそう問いかける。
壮年の男性───ホロライブ学園理事長、柔和な笑顔を浮かべつつどこか底の知れない雰囲気を持つ『谷郷元昭』はそれを聞いてひとつ頷くと、手元の書類から1枚を引き抜いてそらに無言で手渡す。「見れば分かる」と言わんばかりのその所作にそらはやや疑問を持ちつつも一言断って渡された紙に目を通す。
まず目に映った単語に思わず声が出た。
「次の第1学年バトルロワイヤル…本気、なんですか?」
「無論だとも」
「こんなこと、今までただの一度も前例がありません!本人たちだけじゃない、他にも一体どんな反感を買うか…」
「前例とは、覆すためにあるものさ。それに、それ相応の理由もある」
そう神妙に言葉を切ると谷郷は懐に手を入れて何かを探る様子を見せ…「あれ?」と素っ頓狂な声とともにとやや焦りの表情を浮かべながらガサゴソと周囲の荷物をひっくり返し始める。
なんとも締まらないというか、さっきまでの悠然とした態度から一変して彼本来の柔和な雰囲気に切り替わったことでそらも毒気が抜かれたように表情を柔らかくしてひとつ小さく息を吐く。
やや間が空いて机の引き出しからようやくお目当ての物を見つけたのか谷郷は安堵の声を漏らして手に握ったそれをそらにも見えるように机の上に置いた。
それは、1枚のカード。
「タロットカード…
「あの子本人は『いつ来るかもわからない大雑把な
そらから返されたタロットカードを受け取って大事そうに懐へ仕舞う。そこに覗く感情は、未来に起こる事象へのかすかな不安と、生徒たちなら乗り越えられるという信頼、そして
無論、ホロライブ学園の大人───つまりは教員たちは武力行使の必要性と危険性を子どもたちに伝えるという性質上、そのほとんどが過去に治安機関などに所属した経験がある、多少なりとも武力に自信を持つ者たちだ。そこいらの犯罪者や愉快犯に負けるほど弱くはない。
しかし此度の未来予想図で見えたものは、はっきり言って一個人でどうこうなる範疇を超えるほどの事態。厄災や災害と呼べるレベルのもの。
そしてそれを解決するためには教員や上級生はもちろんだが…
「
「『大いなる災いを祓うは、ふたつの新星』…
全ては、みなを守るための選択を。
杞憂であればそれでいい。起こり得る批判は大人たちで引き受ければいい。
だが、もしそれが本当に起こるのならば。その厄災に生徒たちが巻き込まれるのが避けられないなら。
たとえそれが彼らにとっての苦難であったとしても、自分たちがその苦難を乗り越えるための
「これに関してはすでに決定事項だ。キミを呼んだ理由は、生徒会長として真っ先に知るべきだったというのと、『十傑』への通達をお願いしようと思ってね」
「…分かりました。明日にはもうバトルロワイヤルが始まりますからね。すぐに動きます」
「あぁ、よろしく頼むよ」
失礼しました、と丁寧にお辞儀をしてそらが理事長室を去っていく。その凜としながらもどこか影を感じる後ろ姿を見て、硬く握られた華奢な拳を見て、谷郷はかすかに目を細めてひとつ行き場のないため息をついた。
(…やるせなかったのだろうな)
それが、自分ではなかったという自分自身への憤り。
そらは、この学園のことが好きだ。
才能の原石たちが夢を夢見て切磋琢磨し合い、協力し、時にはぶつかり、みなが思い思いの表現を示してより強い輝きを放ち成長していく。
そんな生徒たちが、それを導く教員たちが、そしてそんなみんなが共に生きるこの学園が、この世界が、そらはどうしようもなく愛おしく感じる。
だからこそ、自分が守らなきゃと強い責任に駆られている。好きだから。自分が生徒会長だから。
そらは贔屓なしで学園最強格といって差し支えない実力者である。たとえ教員が束になってかかったところで能力すら使わず基礎的な身体技能だけで軽くいなしてしまうことだろう。仮に能力を使えば教員たちを掃討するまで1分もかかるまい。それほどまでに規格外、それほどまでに彼女の実力はホロライブ学園の中でも群を抜いていると言える。
それでもなお、此度起こるであろう厄災において彼女は重要な役割にはなり得ない。
『
谷郷は目を閉じてひとつ息を吐き、座っていた椅子を回転させて立ち上がると大窓から空を見上げる。視界には透き通るほどの青、雲ひとつすらない思わず目を細めてしまうほどの陽の光が照りつける快晴。
今の自分たちに対する皮肉かと言いたくなる晴れ渡った青空を見て、谷郷は内に秘める感情を抑え込むように備え付けられたカーテンを閉めた。
<TIPS>
『星間議会』
創世期より星々を見守る役割を担った『概念』を司る超常存在の集まり。
現在のメンバーは『希望の化身』『混沌の化身』『時間の典獄』『自然の番人』『文明の守護者』で構成されており、議長は『希望の化身』IRySが務めている。
ちなみにIRySは2代目議長、初代は『空間の代弁者』が務めていた。
『
タロットカードを用いた魔法とは異なる能力体系。個人由来の特異性が強く、近い表現としては異能が当てはまる。
その内容は未来予想。最大1年先までの未来に起きうる事象をランダムに観測できる。
また、応用として戦闘中では対象と時間を制限しての未来予知が可能。
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