ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part39 現出する才覚

 

 

 

 ずっと、あいつの存在が癪だった。

 勝手に目の上のたんこぶのように見ていた。

 目障りで、見てるとくだらない嫉妬の念に駆られそうで、でも少しだけその強さに惹かれていて。

 

 だから、これはチャンスなのだと思った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 悠たちが理事長室に呼び出された同時刻、バトルロワイヤルに向けて教室に待機していた生徒たちには担任の教師から彼らと同様の内容が告げられていた。

 

 

 

「今回バウンティプレイヤーに選ばれたのはこの6人」

 

 指示棒を片手にホログラムで映し出された画像を見ながらそう説明するのは1-A担任教師の鷹嶺ルイ。スーツを身に纏いメガネをかけてクールに立ち回るその姿はまさに仕事の出来るキャリアウーマンのようで、男子だけでなく女子までもが見惚れてしまっている始末だ。

 

 ルイはそんな生徒たちの様子を見て僅かに嘆息するとパンパンと手を叩いて仕切り直す。

 

 

 

「バウンティプレイヤーの中でも先月のバトルロワイヤルの順位に応じて撃破ボーナスが異なります。今回で言えば星宮悠くんと雪花ラミィさんが先月度の1位だったためボーナスも高いということですね」

 

 ルイが指を振ると画面が切り替わり、先月のバトルロワイヤルの順位表が分かりやすく表示される。これがイコール実力順というわけではないが、ある程度の指標にはなることだろう。

 

 バウンティプレイヤーに選ばれたのは幻想種に獣人種、そして妖精族に人間種。普通であれば身体スペック的に幻想種に軍配が上がりそうなものだが、種族だけで優劣がつくものではないというのがこの学園のバトルロワイヤルの難しさなのだと感じさせられる。

 

 ここにいる生徒たちが考えるべきことはまず戦いにいくか否か、そして次に戦うとして誰を選ぶかとなる。

 

 積極的にボーナスを狙いにいくか、あるいはそのリスクを避けて生き残ることを考えるか。どれが正解でどれが間違っているなんて決まっているわけではない、人によって正解は異なるし、それを考えること自体がひとつの課題と言える。

 

 しかし結局のところ、最初の転送位置によって決まる部分が大きいのだろう。

 

 スタートがランダム転送である以上、初手で誰の近くになるかなんて分からない。複数人のバウンティプレイヤーとかち合うかもしれないし、逆に誰からも遠い位置に転送される可能性もある。

 可能性の考慮は大事だが、決め打ちができないことを考えると居合わせた生徒だけでの急造のチームアップだって容易ではなく、むしろ動きがガタついてまとめてやられるリスクが跳ね上がる。

 

 ざわざわと話し合う大方の生徒がそういう結論になったところで、ルイがそうなるだろうと分かっていたかのようにかすかに口角を上げる。

 

 

 

「……ここからは、バウンティプレイヤーには伏せられた内容ですが」

 

 ルイがそう言いながら人差し指を口元に持ってきて微笑みかける。

 どこか妖艶で蠱惑的なその顔に喋っていたクラス一同が揃って開いていた口を強制的に閉じさせられた。抑え込むような圧ではなく、迂闊に踏み込んではいけないと思わせられるような空間。

 一瞬で静寂が訪れた教室内に、ルイの声だけが静かに響く。

 

 

 

「今回に限り皆さんにはスタート位置の選択ができます。誰の近くにするか、あるいは誰とも接敵しない位置にするか。皆さんで話し合ってから決めてください」

 

 その言葉を聞いた瞬間に教室が先ほど以上に騒がしくなる。隠しきれずに出てくる生徒の話し合いに滲み出る感情は困惑と疑惑。

 

 そうなるのも当然だろう。

 捉え方によってはそのルールは「自由にチームを組んで、好きなバウンティプレイヤーを狙ってください」と言ってるようなものなのだから。生徒側が自主的に行うならともかく、他でもない学園側がそういうルールにしたのが生徒たちにとってはあまりにも衝撃だった。

 

 さすがに扱いの差がありすぎる。同じ学園生、同じ学年でありながら、あまりにもこちら側のアドバンテージが大きすぎる。

 あの6人に勝たせる気がないのか、そこまでしなくても、などなど声が聞こえてくる中、ルイはいっそ挑発的といえる表情を覗かせて言い放つ。目の前の生徒たちを焚きつけるように一言。

 

 

 

「──そうしなければ対等じゃない、というのが上の判断です」

 

「……!!!」

 

 瞬間、クラス中の生徒たちが立ち上がった。

 秘める感情は様々なれど、そこにはひとつだけ共通点があった。

 

 ───舐められてたまるか。という奮起の情。

 

 

 

「事実として、選ばれた彼らは私の目から見ても全員が相当な実力者です。これを聞いてやる気は出ましたか?その評価を覆したいなら、上に上がってみせなさい。どんな方法でも構わない、正面から戦うか、避けて誘導して罠にかけるか、チームアップを組むのか。いかなる方法でも、強敵を打ち倒す結果を出せばそれは立派な評価になる」

 

 これ以上、言葉は必要なかった。

 やることは決まった。

 認めさせる、絶対に負けない。

 あいつらを倒して、証明する。

 

 目的を一致させた同級生たちは、言われるまでもなく勝利のために動き始めた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 相手は決めた。

 同志も募った。

 連携も考えた。

 対策だって練った。

 

 それでも、それだからこそ、今目の前で起こってる現実を心のどこかで認めたくなかった。

 

 

 

(ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!)

 

 そんな悪態をついている間に、()()()に懐にまで潜り込まれた仲間が青い閃光に飲み込まれて吹き飛ばされ退場する。

 これでまた数は減り、最初に10人以上いた仲間たちはもうすでに自分1人だけになってしまっていた。

 

 

 

 最初はよかったはずなんだ。

 あの後すぐに友人───というか悪友と一緒に仲間を集めた。幸いアイツはこのクラスの中ではいつも美少女と一緒にいることから悪目立ちしており、ここらで1回ぶちのめしておきたいと考えているクラスメイトは存外多かったのか人は思ったよりすんなり集まった。

 

 内訳だって前衛後衛とバランスよく揃っており即席のチームにしてはかなりの高配分、まるで神から「勝て」と言われているようにすら思えた。

 魔法使いだというとこは分かっていたから覚えている中でアイツの使う魔法を洗い出して、みんなで頭に叩き込んで、万全の状態で戦いに臨んだ。

 

 転送場所は第二体育館。

 すぐにメンバー全員で集合してアイツを見てみれば状況を把握するように周囲を見渡し、こちらを見ると戦わずに集まっているのが予想外だったのかわずかに眉を顰め、バトロワで使用していた杖は持っておらず服も学園制服のまま。

 

 しめたとばかりに前衛が何人か速攻を仕掛ける。

 

 

 

「杖を使わせなきゃこっちのもんだ!」

 

 一般的な話をすれば、魔法陣を起動式(トリガー)として魔法を行使する魔術師や魔導師に分類される存在は必ず魔法を扱う際には杖を媒体として使用する。

 

 まあ他にも箒や本などを使う者も存在するため必ずしも杖である必要性はないが、少なくとも何らかの魔道具を媒体として魔法の威力や速度を引き上げて戦うというのが魔術師や魔導師の定石(セオリー)だ。

 逆に言えば、それがなければ魔法を扱うための実力はその半分も発揮されないということになる。

 

 そしてそれは決してアイツとて例外ではなかった。

 

 突っ込んでいった仲間たちの猛攻をその身ひとつでいなし躱し、ただのひとつの直撃もなく捌いたのは予想外ではあったが、杖は攻撃を捌くので手一杯なのか取り出す様子はなく、反撃の魔法も使う兆しは見られない。魔法使いとしての実力はもはや封殺したも同然。

 このまま魔法を使わせず攻め続ければいつか捌ききれずに押し切れる。完封できる。

 

 

 

「撃破ボーナスは貰った……!」

 

 口を大きく歪ませて勝利を確信する。

 

 体は動かしつつも頭ではすでに()の動きをシミュレートしており、バウンティプレイヤーの位置情報は共有されているから別のやつを狙うか、はたまた最低限は取れたのだから混戦は避けて順位を上げていくか、なんてことを考える。

 

 そうしてる間にアイツは直撃は避けつつも体育館の隅に追い込まれ、後衛部隊の総攻撃を受けた。回避はされてない、直撃だ。俺たちは、勝ったのだ。

 退場するときに見られる転送魔法の光を確認しようともせず、仲間たちと勝利を喜び合った。

 

 油断は、してしまっていたのだろう。

 

 

 

 不意に飛来した数多の光弾が瞬く間に後衛部隊をまとめて貫いたのを見るまでは。

 

 彼らは総じて、何が起こったのか分からないといった顔で転送魔法の光に包まれて退場していく。訳が分からないのはこっちも同じだった。

 見ようとして見たわけではない。頭が状況の理解を拒んで、なんの気なしに光弾が飛んできた方向に顔を向けてみれば、アイツが無傷のままこちらを見て笑っていた。

 

 

 

 一転攻勢。

 アイツが杖を展開して反撃を始めた瞬間から状況は180°入れ替わってしまった。

 

 後衛部隊がやられたとこで乱れた統制を見逃さず続けざまに放たれた瑠璃色の砲撃がいまだに状況を把握しきれていなかった3人をまとめて屠った。

 

 その後に焦って突っ込んだ2人は迎撃の光弾で1人を穿ち、それに気をとられたもう1人を接近すると同時に青い閃光で吞み込んだ。

 

 少しずつ、しかし確実に人数を削られていく。

 それはまるで詰将棋のようで、人数ではまだ勝っているはずなのにここから勝てるビジョンが全く思い浮かばない。

 

 

 

(……ふざけんな)

 

 理不尽だと、そう思った。

 先に理不尽をアイツに押し付けた自分たちのことなど棚に上げて、片手長剣(ロングソード)を握る手に力が籠る。

 

 人数は有利だった。

 状況だって有利だった。

 すべてを自分たちのために整えられたあのシチュエーションで、負けていいはずがなかった。

 

 そのはずなのに、そのすべてを根底からひっくり返された。

 アイツはたった1人で、戦場全てを見通すかのような戦術眼とふざけた性能の魔法で状況の不利を覆し、今まさに人数の不利を書き換えようとしている。

 こちらの攻撃はかすりもせず、返しの魔法で確実に戦力を削ってくる。これを理不尽と呼ばず何と呼ぶ。

 

 

 

(ふざけんな)

 

 ここまでくればさすがに理解してしまう。

 

 俺とアイツとでは、見ている場所がまるで違うのだと。

 同じステージに立つことすらできていないのだと。

 

 アイツにあって俺に足りないものなんて今ここでは分からない。きっと、足りないものなんて数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらい多いのだろう。でなければこんな状況になどなっていない。

 そしてそれを一度自覚してしまうと、悔しいし、ムカつく。

 

 

 

(───ふざけんな!!)

 

 ()()()()()()

 

 そうだ、今はそんなことどうだっていい。

 認めるしかない。もう負けだ、徒党を組んだ上で完膚なきまでの負けだ。

 

 でも、まだ退場はしていない。

 せめてあのスカした野郎に一矢報わなければ、一発叩き込まなければこのまま終われるわけがない。

 理由なんでそれで十分すぎる。

 だったら、今すぐにでも動け。

 

 奴の喉笛に、嚙みついてみせろ。

 

 

 

「うおおおおぉ!!!」

 

「!」

 

 背後で吼える声がした。

 ストライクハートの起動から数分、奇襲によって乱れた相手の連携を見逃さず確実に人数を削っていってあと1人となったタイミングでその最後の1人が剣を振りかぶってまっすぐ突っ込んでくる。

 

 しかしその軌道は直線的だ。剣も大振り、対処は決して難しくない。

 躱してカウンターの近接高速砲撃(クロススマッシャー)、それでここにいる敵は一掃できる。

 

 上段から剣が振り下ろされる。それをしっかりと目で捉えて体を剣の軌道上から逸らし、すかさず左手をガラ空きの腹部へ向けて魔力をチャージ。

 かすかな違和感。

 

 

 

(遅い……?)

 

 彼は途中斧持ちと一緒に攻撃してきた生徒のはずだ。その時の攻撃で剣速は把握している。しかし今の攻撃は明らかに……というほどではないが、しかし確実にさっきと比べて剣速が遅い。

 無意識に思考できたのはそこまで。

 そこからの行動は、反射だった。

 

 

 

「ッ!!」

 

 甲高い金属音が響き、火花が散った。

 身体がわずかにグラつく。

 

 

 

「ッチ、これも防ぐのかよ……!」

 

「……いや、正直危なかったよ」

 

 目の前の生徒から隠す気のない舌打ちが聞こえてきた。

 キリキリと金属が削れるような音が2人の間で木霊する。

 

 見れば、上段から振り下ろされたはずの剣の軌道が横一文字に切り替わっており、右手のストライクハートの柄とぶつかっている。

 無理矢理途中で軌道を曲げたのだ。言葉にすれば簡単そうだが下手をすれば剣がブレてまともな剣筋にならない、そのはずなのにここまで鋭い攻撃だったのはひとえに彼の実力だ。

 

 咄嗟に術式を破棄して後ろに跳んでいなければ、柄でのガードが間に合わず一撃もらっていたことだろう。

 まあ、なんの強化もされていない一閃では『バリアジャケット』の防御術式を切り裂くことはできなかっただろうが、ジャケットそのものを斬られていた可能性は否定できない。

 

 改めて悠は腹部へ向けた掌に魔法陣を展開、魔力が集積していく。

 

 

 

「クッソが、次は潰す!!」

 

「……うん、こっちだって、次も負けない」

 

 まっすぐこちらの目を睨み返してくる小さな火を宿した獰猛とも言える瞳を見て、悠はかすかに笑ってそう言い返す。まるでぶつかってきてくれることを喜ぶように。

 直後、撃ち出された砲撃が体育館に残った最後の1人を無慈悲に退場させた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 悠が生徒たちを一掃したのと同時刻、他のエリアでもほぼ戦闘が終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 グラウンドでは──

 

「のみこめ、『氷渦波(アイスウェイブ)』!!」

 

 ガキィンッ!と氷同士が擦れぶつかり合う音と共に瞬きの間にグラウンドの約半分が円形の巨大な氷の渦にのまれた。その影響で大気中の水分が氷点下を下回り氷の粒を断続的に作り上げる。

 

 吐く息が白い。

 まるでそこだけ季節が冬に逆行したかのような光景、そしてその氷の渦の中心地には、アイスブルーの髪を靡かせた氷の令嬢が優美に佇んでいた。

 

 

 

「この……全方位攻撃なんて、聞いてねえぞ……!」

 

「……まあ、言ったことありませんからね」

 

 氷の令嬢───バウンティプレイヤーのひとりである雪花ラミィはガチガチと寒さに耐えるようなその声にサラリと答えつつ周囲を見渡す。

 

 視界に映ったのは見渡す限りの氷塊、そしてその中に閉じ込められた同級生の姿。ざっと10人くらいはいるだろうか、完全に全身が凍りついた者もいれば、さっき恨み言を吐いていた生徒のように顔だけは死守した者もいる。

 しかしまあどの道脱出はできなさそうなのでこのままにしておけば体力が切れて自然と全員退場になることだろう。

 

 

 

 開幕と同時に四方を敵に囲まれてのスタートとなったラミィ。

 囲ってくる同級生たちはみんな近接用の武器を手にしており、まずは遠距離攻撃を持ってるラミィを取りにきたのかな、と自分なりに考察していたのは記憶に新しい。

 

 牽制用に『氷飛礫(アイスバレット)』を撃ったりもしたが、いかんせん相手が常に的を絞らせないように動き回ってなかなか有効打にならないのと、向こう側にいる遠距離持ちがちょっかいをかけてきているのもあってあまり攻撃に魔力を割けず動きにくい状況が続いていた。

 

 

 

(……大丈夫、あの時と比べたら、このくらい!)

 

 しかしラミィの瞳には一点の曇りもなかった。

 

 思い出す。

 暗い森の中、今の状況とは比較にもならないほどの数の魔獣を相手に戦い続けたあの日のことを。

 

 怖かったし、息苦しかった。

 かなたと一緒だったとはいえ、あの場で行われていたのは安全なんて一切保証されていない正真正銘命のやり取り。ひとつの判断ミスが命に直結しかねない極限の戦場。

 

 でも、ここはそうじゃない。

 命のやり取りじゃなくて力のぶつけ合い、奪うためじゃなく競い合うための戦い。心臓の鼓動がゆっくり聞こえてくるようで、落ち着けているのが自分でも分かる。

 あの戦いで成長したのは、なにも悠だけじゃない。

 

 

 

(試したいこと、今ならやれるかも)

 

 ラミィがそう意気込んだ瞬間、距離を縮めて囲んでいた生徒たちが一斉に飛びかかってきた。

 

 魔力を練って、魔法を行使する。瞬く間にラミィの後方に展開された『大地氷結(アイスフロア)』が数人の生徒の足に絡まり動きを封じる。

 しかしそれで終わりじゃないことはわかっている。横からの攻撃に対しては『氷華盾(アイスシールド)』で動きを制限しつつ『氷飛礫(アイスバレット)』で牽制。

 

 これでひとまず見るべきは目の前の相手だけ。

 

 

 

「ここまで近づけば魔法は使えねえだろ!!」

 

 特大剣(グレートソード)を振りかぶった大柄の男子生徒がニヤリと顔を歪めて、手を伸ばせば届く距離でそう吠える。

 

 間違いない。

 ラミィは今まで十全に魔法を使う時はいつも誰かに前を守ってもらっている時だけだった。

 それは悠であり、かなたであり、ノエルであり。

 守ってもらっていた事実が嬉しくもあり、同時に悔しかった。

 

 だから考えたんだ。1人でも戦える方法を。

 少しでもみんなに追いつくために。

 胸を張って、これからもみんなの隣に立って歩いていけるように。

 

 守られるだけじゃないって、証明するんだ。

 

 

 

 キィンッ!と、響く音が鼓膜を叩く。

 相対する男子生徒の顔が驚愕で染まる。

 その理由は攻撃を防がれたこと、それもある。

 

 しかしそれ以上に最たる理由が──

 

 

 

「氷の剣と盾……だと!?」

 

「これが、ラミィの新しいチカラ!」

 

 グレートソードを受け止めていたのは、宙に浮かぶ流麗にして絢爛な氷の剣と盾。ラミィの手を離れて、ラミィの意思のもとに自在に宙を舞うそれらが鋭い刃を持つ鉄塊と正面からぶつかり激しく火花を散らす。

 それを見たラミィの瞳が喜の感情を纏い爛々と輝く。

 

 その剣と盾は、ラミィにとって一種の憧憬の表れだった。

 いつも見ていた頼もしい背中、いつかこうなりたいと願った姿。誰かを守るために、勇ましく己の意志と願いを剣と盾に込めて戦うその姿はラミィの脳裏に強く焼き付いていた。

 

 グレイシャーブルーの氷で形作られた剣は緻密な装飾で細くもどこか芯のある重さを感じさせ、盾はまるで複数の六花の障壁を重ね合わせたかのような丸盾。

 それは図らずとも、ラミィが知り合ってからずっと一緒に戦ってきた、最も信頼して、いつの間にか絆されてしまった、1人の少年が持つ(ストライクセイバー)(エクセリオンシールド)によく似ていて。

 

 だからそれを見ると、不思議と安心できる。

 まるで彼がすぐ隣にいてくれているようで、どうしようもなくやる気に満ち溢れて、頑張ろうって思わせてくれる。

 勇気が、湧いてくる。

 

 名を、『氷星剣盾(クリス=アステル)

 

 

 

 一瞬その剣と盾に目を奪われ、しかし我に返った男子生徒は所詮は氷と無理矢理砕こうと両手に持つグレートソードにあらんばかりの力を込める。

 しかしその瞬間───

 

 

 

「やぁ!」

 

 気合を入れたにしては少々可愛らしすぎる声とともに手元のグレートソードが己の力と全く逆のベクトルを描いて後方に弾き飛ばされた。

 わが身に訪れた状況を理解できずに男子生徒が呆けた顔で視界を眼前に移せば、片手を振り上げているラミィと、上空に打ち上げられた傷ひとつついていない氷の剣と盾。そして返す刃で剣と盾を操作し、生徒たちの付近に突き刺した。

 

 

 

「なにを……」

 

「凍てつけ、『大地氷結(アイスフロア)』!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは一呼吸もしない間に放射状に広がり、まったく無警戒だった生徒たちの足をまとめて絡めとりその動きを封じる。

 

 『氷星剣盾(クリス=アステル)』の最も注目するべき点はラミィの意思によって操作が可能な点である。これは言ってしまえば手が増えたようなもので、剣と盾を媒体とすることで、実質的に遠隔での魔法の発動を可能にした。

 まったくもって凶悪極まりない魔法である。剣と盾そのものがグレートソードをも容易に押し返す強力な武器でありながら魔力媒体にもなるともなればそれはまさに攻防一体の魔法。だが同時に、その操作の複雑性はとんでもないものだろう。事実、現状のラミィでは決められた軌道で剣を振る、盾を固定するといった単純な動作しかできない。

 

 しかし裏を返せば、これを十全に扱えるようになった時、ラミィは一体どこまで高みに昇ってしまうのか。想像するだけで末恐ろしい。

 

 

 

「この……!」

 

「これで、終わりです」

 

 ラミィは周囲の生徒が全員動けないのを確認すると両手を前に、魔力を収束させる。

 

 青銀の風が吹き荒れる。

 

 周囲の気温が急速に低下し、発生したダイヤモンドダストがキラキラとラミィを彩る。

 

 光が収束する。眩く、煌びやかな、美しいとさえ言える力の奔流。

 

 

 

「のみこめ───」

 

 それは、戦いの終わりを告げる氷の大輪となって生徒たちをのみこんだ。

 

 

 

 ラミィの完勝と同様に他のエリアでも、かなた、ココ、ぼたんは順当にチームを組んで襲ってきた生徒たちを単騎で殲滅してのけた。

 

 そして最後、トワが転送された『第一体育館』は、

 

 

 

 ───開始直後に鳴り響いた轟音とともに巨大なクレーターを残して跡形もなく消滅していた。

 

 

 

 

 




<TIPS>
『雪花ラミィ』
 憧憬、恋心、親愛とあらゆる感情を一心に悠に向けた結果新たな魔法がどう考えても愛が重い方向へ向かった。
 多分本人に自覚はない。


『常闇トワ』
 なんかエグイ魔法で10人以上を瞬殺。
 そのついでで体育館が消滅した。





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