ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート   作:468(ヨルハ)

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Part40 悪魔と姫君①

 

 

 

「ふーん、思ったよりみんなやるじゃん」

 

「そうだよ~、自慢の後輩なんだから!」

 

「うん、不利状況にも焦らず対処。みんな落ち着けてるね」

 

「これでひとつ下かあ、うかうかしてられないね」

 

 ホロライブ学園のとある一室。今まさに1年生によるバトルロワイヤルが開催されている中、映写機で映し出されたリアルタイムのバトルロワイヤルの映像を見ながら少女たちが言葉を交わす。

 各所に設置された映像ドローンを教職員たちが操作し、戦闘を行っている場所を重点的に映してくれる。ちなみに蛇足ではあるがこの映像はここの少女たちだけでなく全校生徒が鑑賞可能で、後日複写して希望者には販売もされている。

 

 視線を切り替わった画面に移してみれば戦闘装束(バリアジャケット)を身に纏った少年が第二体育館に残った最後の1人を倒したところだった。

 

 

 

「あの魔法陣……魔術師?いや、これは……」

 

「さっすが悠くん!やるう!」

 

「ノエル、分かってると思うけど贔屓禁止だからね?」

 

「分かってますって!」

 

「うーん絶対分かってない、私には分かる」

 

「あの時の子かあ、大きくなったなあ」

 

「あれ、ミオちゃんって悠くんの知り合い?」

 

「うん、フブキと一緒に昔ね」

 

 画面を食い入るように少年───悠を観察しながら小さく独り言を呟いてる白髪に魔女帽子をかぶった少女───学園最高評議会『十傑』第七席の『紫咲シオン』を尻目に会話をするのは同じく『十傑』第八席と九席の『白銀ノエル』と『不知火フレア』の2人。最後にどこか懐かしいといった風にあたたかな視線を向ける獣人の少女は第十席の『大神ミオ』である。

 

 学園最高評議会『十傑』。

 学園全体の生徒の中でも特に優秀と判断された上位10名に与えられる称号にして学園内の事実上の決定機関。

 第一席から第十席までの10人が上限とされ、その称号を与えられたものは閲覧禁止の書物の閲覧許可や物資の援助、はたまた卒業時の優待など様々な特典が得られ、この座に就くのが生徒たちの中でひとつの大きな目標とされている。

 無論、同時にそれ相応の責任も伴うことになるが、それを差し引いてもメリットは大いにあると言っていい。

 

 現在の『十傑』構成メンバーは3年生が5名、2年生が5名という状況。そして生徒会長にして第一席の招集によってここに集められたのはその中の2年生5名。

 しかし今ここにいるのは4人だけ。といったところで

 

 

 

「───お~、もうみんな揃ってた~」

 

 なんとも呑気を体現したかのような伸びやかな声が聞こえてきた。

 キィ、とかすかに扉を開く音とともに入室してきたのは額についたふたつの角が特徴的な鬼の少女、『十傑』2年生最後の人物にして学園ナンバーツーである第二席『百鬼あやめ』その人であった。

 

 浮かべる表情は声の通りにどこかのんびりとしており、極限まで磨かれたルビーのような鮮やかな紅眼はわずかに下ろされた瞼の奥からでも燦々とした輝きを宿している。

 彼女が歩を進めるたびに腰ほどまである毛先にかけてわずかに赤みを帯びている絹のような白髪が揺れて美しいグラデーションを彩り、髪飾りの鈴がシャンッと涼やかな音を奏でる。

 学園制服の着こなしはいたってスタンダードで、それ故に背中に差した二振りの日本刀が彼女のはんなりと柔らかな少女の印象と致命的に合致しない。

 

 「ふあ~」とあくびを噛み殺そうともせず大口を開ける鬼の少女に対して真っ先に動いたのは黒髪の獣人の少女だった。

 

 

 

「もうあやめー、時間ギリギリだよ!」

 

「ごめん余ミオちゃん、寝とった~」

 

 両手を合わせて反省しているのかなんとも判断がつかない謝罪をするあやめに対してミオはいかにも「仕方がないなあ」といった様子で諦めたように息をこぼすとちょいちょいと手招き。

 

 

 

「ほらこっち座って、これ食べてシャキッとする!」

 

「えへへ、ありがと~」

 

「まあ、タイミング自体はよかったんじゃない?ちょうど面白そうなカードが始まりそうだよ」

 

「バウンティプレイヤー同士の激突、残り人数的にこの戦いが終わったら()()になりそうだね」

 

()1()()()()()()()()()()()、今月からって珍しいよね。せっかくのご指名だしみんな頑張ろう!」

 

 もっもっと差し出された梅のおにぎりを食べながらあやめは会話は聞きつつ意識はモニターへ。その視線はどこか楽しみというよりかは同情のようなもの。

 事前に聞かされた新システム、それに加えて上級生(じぶんたち)の参入。しかも自分たちの代でもトップクラス、『十傑』入りを果たしたメンバー勢揃いとなれば1年生……特にバウンティプレイヤーに選ばれた6人の置かれた状況はだいぶ逆境と言えるだろう。

 

 まあ余は特に気にすることじゃないし、学園側が決めたのなら相応の理由はあるはず。

 だったら余は言われたことをするだけ。そして、あわよくば見つけたい。()()()()()

 

 モニター越しに見える景色はまるで絵の具をぶちまけたかのような快晴の青。

 そんな青空の下で本日注目のカード、バウンティプレイヤー同士の対決が始まろうとしていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 体育館を出て空を見上げるとあまりにも自己主張の激しい太陽がこんにちはしてきた。

 思わず目を細めて手で日差しを防ぐ。なんか久しぶりに外に出た引きこもりみたいだなと呑気に考えられる程度には余裕があり、そのまま今後の動きを頭の中で考える。

 

 

 

 (位置情報はまだ共有されてるってことはまだチームアップはできない。撃破数はそれなりに取れたし今は少し様子を見て……ん?)

 

 マップを見ていた視線がふと固定される。

 立体映像(ホログラム)のマップに映し出された位置情報を示す光点、そのうちのひとつが高速で空中を移動している。まだサテライトスキャンは行われていないからこれはバウンティプレイヤーの誰かのはず、光点をタップして名前を確認しようとして───

 

 

 

「行くのらよルーナイト!」

 

「っ!!」

 

 そんな少女の声が聞こえた瞬間に反射でその場を飛び退いた。

 瞬間、彼方より飛来したいくつもの矢が先ほどまで自分のいた場所を情け容赦なく貫く。

 

 索敵用の『エリアサーチ』は発動していた。つまりこれは、100メートル外からの遠距離射撃。そんなことを考えている間に着地した悠が視線を上げると、そこにはすでに剣を振りかぶったピンクの騎士甲冑を身に纏った誰かがいた。

 

 

 

「っぶね!?」

 

 咄嗟に展開した魔法陣による防御魔法『ラウンドシールド』で振り下ろされた直剣を防ぐ。ギャリンッと金属音が鳴り2人の間で火花が散る。

 

 さらには畳み掛けるようにその後方からボウガンの射出音とともに風を切り裂く音。

 

 

 

「よっと……!」

 

 射出元は20メートルほど先、接近してきた騎士と同じ甲冑を着た()()が2体。これに関してはしっかり『エリアサーチ』で確認できていたから余裕を持って回避、ついでにバックステップで距離を取り、お返しの魔力球を同時に目の前の騎士に叩き込む。

 耐久の限界を迎えたのか騎士は光の粒子となって消えた。

 

 悠はそれを確認すると、視線を正中に、先ほどボウガンを撃ってきた騎士のそのさらに奥にいる学園制服を着た少女を見た。

 

 

 

「なかなかやるのらね」

 

「まあ、選ばれた以上はこれくらいできないとね」

 

 可愛らしいといったイメージの少女だった。

 

 身長は小柄なかなたよりもさらに低く、ふわふわとしたピンクの長髪がその可愛らしさをさらに助長している。

 紫と薄緑の特徴的なオッドアイがどこか神秘的なイメージとも掛け合わさり、ともすれば異国の姫君のような印象を受けてしまう。

 しかしそんな彼女の瞳は瞼を半分ほど落としてジト目だった。いかにも「今のでダメなのか〜」と不服そうで、あまりにも分かりやすい表情に思わず苦笑いが出てしまった。

 

 

 

「1-B所属の『姫森ルーナ』。よろしく〜」

 

「1-Aの星宮悠、よろしくね姫森さん」

 

 そうしている間にも少女───姫森さんは次々と何もない空間から先ほどと同じピンクの騎士を呼び出していく。

 

 

 

「『式神召喚』……珍しい能力だね」

 

「ルーナイトはんなたんの忠実な(しもべ)なのらよ〜」

 

 パッと見、彼女の言う『ルーナイト』なる騎士は3種類ほどいるようだ。剣を持った騎士、ボウガンを持った騎士、そして今まさに召喚されている大盾を持った騎士。

 

 召喚上限はいまだに召喚され続けているので想像はつかないが、ゆうに20を超える騎士が召喚されてなお彼女の表情は涼しいまま。きっと今の倍はいけるのだろう。

 

 ふと、目の前の姫森さんが盾騎士(シールダー)を前面に展開させて身を隠す。

 もはや完全に姿が隠れてしまった彼女からしれっと一言。

 

 

 

「後ろ、気をつけた方がいいのらよ〜?」

 

「?……っ!?」

 

 突如、『エリアサーチ』の範囲内をこちら目掛けて高速で飛翔する影を捉えた。

 悠はほとんど無意識で『ラウンドシールド』を展開、魔法陣が顕現するのと同時にけたたましい音が響き渡る。それと一緒に訪れたあまりの衝撃に悠は踏ん張りがきかずに押し切られ、転倒を回避するために即座に脚部に飛行魔法の『アクセルフィン』を発動、空中で姿勢を正して地上を見る。

 

 悪魔が、そこにいた。

 

 

 

「おもしろそーじゃん、トワも混ぜてよ」

 

「……ずいぶん喧嘩っ早いこと」

 

「お〜、トワトワ〜!」

 

 言うまでもなくトワだった。

 

 ニヤリと笑みを浮かべて八重歯が覗く。余裕綽々といった表情で、ここにくるまでに戦闘はあっただろうに疲れた様子は一切ない。

 

 よく見れば朝会ったときにはなかった黒いコウモリのような悪魔特有の羽が背中から見える。おそらくあれでここまでひとっ飛びしてきたのだろう。

 そして手に持つのはこれまた漆黒の三叉槍、確かに悪魔といえばな武器と言える。無駄な装飾を省いた機能性重視の見た目、洗練されたそのフォルムと先ほどシールドが受けた衝撃からその性能は推して知るべしだろう。直撃はマズイ。

 

 想定外の三つ巴、先に動き出したのはやはりと言うべきかトワだった。

 

 

 

「まずは小手調べ、これで落ちてくれないでよ!」

 

 トワが魔力を解放、至極色の輝きを身に纏って悪魔特有の闇の魔力が凝縮していく。それはやがて空中に浮かぶ小さな球体へと変貌し、トワがこちらを見た瞬間、それらは空気を切り裂く魔弾となって強襲してきた。

 

 

 

「ラウンドシールド!」

 

「ッルーナイト!!」

 

 悠とルーナはそれぞれ防御態勢、悠は眼前に防御魔法陣を展開し、ルーナは先ほどと同様に盾騎士(シールダー)を複数配置する。

 

 トワが言っていた小手調べ、これを文字通りに受け取るのはあまりにも危険だ。

 彼女はかなたやココと肩を並べる幻想種の一角、人の常識で測れない非常識(かいぶつ)なのだから。

 

 

 

「っ、ルーナイトが!?」

 

「物量が、多すぎる……!!」

 

 バキンッと何かが砕ける音と共に盾騎士(シールダー)が大盾もろとも魔弾に貫かれ、後ろのルーナに被弾して吹き飛ばされる。

 かく言う悠も数えるのも億劫になるほどの魔弾を叩きこまれて1枚目の『ラウンドシールド』が貫かれ、2枚目を即時展開しつつ旋回飛行で回避を試みるがその圧倒的な弾幕密度を前に防御は意味をなさずいくつか被弾して地面に叩き落とされる。

 

 威力は1発1発で見れば悠の『ディバインシューター』と同程度、しかし弾幕密度がまさに桁違い。塵も積もれば山となるとはいうが、トワの場合は岩を積み上げて山脈にしてるようなものだ。

 

 幸い2人とも致命的な直撃だけは避けてみせたためすぐに戦線復帰する。悠はすかさずカートリッジロードから弾体を生成し射出、ルーナも呼び出していた弓騎士(アーチャー)を総動員してトワ目掛けて総攻撃をかけた。

 

 

 

「アクセルシューター、シュート!!」

 

「トワトワ、こっちまで狙ってきてふざけんじゃねえぞぉ〜!」

 

「おぉ、生き残った上に即反撃。アツいじゃん!」

 

 トワはギラリと目を輝かせると羽を羽ばたかせて中空を舞う。直線軌道の矢は旋回飛行で回避して、追従してくる瑠璃の魔力球は魔弾をぶつけて相殺する。

 2人の攻撃をやり過ごして「フゥ」と一息ついて視線を戻した瞬間、すぐ間近まで飛翔してきていた悠と視線が交錯した。

 

 

 

「スマッシャー!!」

 

「ッ!!」

 

 射程を犠牲に威力とチャージ速度を両立させた近接高速砲撃(クロススマッシャー)が青き閃光となってトワをのみこみ吹き飛ばす。しかし勢いそのまま校舎に激突する寸前で羽を広げて空中制御を取り戻すと、滞空を続けて頭を振りながら一言。

 

 

 

「いっってぇ〜……!」

 

「痛いで済むかな普通……?」

 

「そりゃ悪魔だし?」

 

 さいですか。

 

 ギュッと手に持つストライクハートに力を込めると決して2人に対して警戒を解かずに思考、2人の戦闘スタイルはある程度掴めてきた。

 

 まずはルーナ(姫森さん)だが、戦闘の全てを『式神召喚』で呼び出した騎士に依存している完全な後衛スタイル。

 

 本人にはおそらく戦闘能力は皆無だろうが後衛で騎士たちを動かす戦術眼は確かなもので、適材適所に異なる種類の騎士たちを配置して動かして戦う様はまさに小さな君主と呼べるものだろう。

 ただまだ呼び出す騎士は3種類しか確認できておらず、遠距離に徹すれば攻撃手段は弓騎士(アーチャー)の射撃のみ、脅威度は現状高くない。

 

 

 

 問題なのがトワの方だ。

 

 先の弾幕で分かる通りの圧倒的な射撃性能、そして三叉槍による接近戦もこなせる幻想種ならではの万能型。

 

 しかし同じ幻想種であるかなたと比べたらその戦い方は若干異なる。

 例えばさっきトワが魔弾を用いて相殺した『アクセルシューター』、仮にかなたが同じシチュエーションだった場合はおそらく魔法ではなく高い機動力を活かして軌道を制限しつつ槍斧(ハルバード)で迎撃を選んだだろう。

 どっちが正解とかではなくこれはお互いの持ち味の違い。一言で言ってしまえばかなたは前衛寄り、トワが後衛寄りの万能型と言える。まあどちらにしても厄介な相手であることには変わらないのだが。

 

 射撃の性能は完全にこちらが劣っている。そんな相手に勝つためには───

 

 

 

 (現実を受け入れろ!そして、()()()()()で勝負するしかないんだ……!)

 

 

 

 悠は首を素早く動かして周囲の状況を把握すると再びのカートリッジロード、デバイス内で弾体が炸裂し空薬莢となって排出口から吐き出される。それによって溢れ出した魔力がストライクハートを通して制御され、数多の魔力球となって悠の周囲を漂う。

 

 

 

「アクセルシューター、シュート!」

 

 キーワードと共に撃ち出された光の弾丸は軌跡を描いて2人目掛けて殺到する。トワはサラリと高速旋回で回避しつつ先ほどと同じように魔弾で相殺、そしてルーナは、

 

 

 

「げ、ヤバっ」

 

 複雑怪奇な軌道を描いた魔力球によって3体の剣騎士(セイバー)がまとめて葬られた。ルーナが動揺した声を漏らす。

 

 悠は即座に加速してルーナに肉薄、背後を取る。

 

 

 

「こんのぉ!」

 

 しかし当然ルーナも黙ったままではない。負けじと騎士たち(ルーナイト)に指示を出して迎撃に当たる。

 剣騎士(セイバー)を前に、弓騎士(アーチャー)を横に、そして盾騎士(シールダー)を動かそうとして、露骨にその可愛らしい顔を歪めた。

 

 

 

「いない……!」

 

「さっきトワにやられてた分、呼び出すのを忘れてたね!」

 

 ルーナのような召喚者の類は、得てして痛みに慣れていない傾向がある。

 

 原因は単純にその戦闘方法にあり、式神に戦闘を依存しているため自分自身が戦うことがまずない。つまりは戦闘の決着が相手が式神をできなければ完封勝利、式神を突破して本人に一撃加えられれば敗北と非常に両極端になりやすい。

 

 その結果、我が身で戦うタイプの人たちと比べて怪我をしてなお戦い続けるという経験が圧倒的に不足しやすいのだ。

 

 先ほど、ルーナはトワの弾幕によって盾騎士(シールダー)ごと押し切られた際にそのうちいくつかの魔弾に掠ってしまっている。

 その後すぐに反撃には出ていたものの、倒された盾騎士(シールダー)を補填しなかったあたり動揺があった可能性は否めない。

 

 悠は俯瞰視点でそれを把握するとひとまずの狙いをルーナに固定していた。盾騎士(シールダー)さえいなければ、悠の()()()()は持ち前の空間認識能力と合わさってまさに必中の一撃となり得る。

 

 

 

「ディバイン……」

 

 ストライクハートを砲撃形態(バスターカノンモード)に移行、その切先をまっすぐルーナへ向けて魔法陣を展開。足元にひとつ、ストライクハートを囲うように円環状のものが4つ現れ、大量の魔力が瞬く間に集積していく。

 

 ルーナはそれを見て顔を青くすると剣騎士(セイバー)で悠からの視界を防いで回避を試みる。が、その選択を取るにはあまりにもタイミングが遅いと言わざるを得ない。

 

 

 

「──バスター!!!」

 

「Divine Buster.」

 

 機械音声が響くと同時に撃ち出された瑠璃色の砲撃が剣騎士(セイバー)もろともルーナを貫き、魔力ダメージ過多によって転送させられた。それに伴ってルーナが召喚していたルーナイトも全員がその動きを止め、サラサラと光の粒子となって消えていく。

 

 

 

 風が吹き、濡れ羽色の髪が揺れる。

 その後ろで地面を踏む音が聞こえ、振り返ってみればトワが三叉槍を肩に担ぎながら大地に降り立ちこちらに歩み寄ってきていた。

 

 

 

「凄いじゃん悠、ルーナってクラスでもかなりの上位層だよ。ま、こっちに向かって来なかったのは少し癪だけど」

 

「三つ巴は厄介だからね。万全なトワと盾持ちを削られて動揺していた姫森さん、取りやすいほうは明白だった。それに理由はもうひとつ……」

 

「……?」

 

 トワがなんとも不思議そうな顔をする。要領を得ないというか、もうひとつの理由が全くもって予想できない。

 対して悠はストライクハートを杖形態(アクセルモード)に戻し、かすかに挑発的に笑ってみせた。

 

 

 

「2人はクラスメイトなんでしょ?タイマンならともかく、組まれたらさすがに勝機はないからね」

 

「…………へえ?」

 

 トワはしばらくポカンとした表情で悠を見つめて──やがて狂気的とさえ言える凶暴な笑みを浮かべた。

 つまり悠はこう言っているのだ。

 

 ───タイマンなら勝てるのだと。

 

 震えたと、トワは自覚する。

 まだ見習いの域を出ないとはいえ自分は立派な幻想種、それに対して多少なりとも自信はあったし誇りも持っていた。今まで同じ幻想種にしか負けたことはなかったし、他の種族、それも同年代となればそれはより顕著になる。

 

 そんなトワにここまでハッキリと言ってのけた人間(ヤツ)は悠が初めてだ。

 

 抑えきれない感情の発露が闇の魔力となってあふれ出す。それはやがて凝縮し、先ほど以上の数の黒点が瞬く間に空を覆い隠す。

 

 悠はそれを見てピクリと眉を動かすと、右手に持っていたストライクハートを左手に持ち替える。すると開いた右手に光が宿り、それが弾けた次の瞬間には無手だった右手には細くも重々しい片手長剣(ロングソード)が握られていた。

 

 視線が交錯する。

 

 

 

「……やれるもんならやってみな、悠!!!」

 

「勝つよ。今、ここで!!!」

 

 魔弾が撃ち放たれ、光の羽が軌跡を残して天空へ飛び立つ。

 戦いが、加速する。

 

 

 

 

 




<TIPS>
『百鬼あやめ』
 ホロライブ学園2年生にして学園最高評議会『十傑』第二席の鬼の少女。
 他の追随を許さないほどの圧倒的な武の才覚を持つが、彼女本人は非常にのんびり屋な一面がある。
 


『姫森ルーナ』
 1-B所属の人間種でトワとはクラスメイト。
 可愛らしい見た目に反して中身はやんちゃというかアグレッシブ。ちなみにれっきとした異国の姫君である。





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