ホロライブラバーズ『数多の星を照らす者』獲得ルート 作:468(ヨルハ)
戦場に黒い雨が降る。
『
それはトワが扱う魔弾の一種で、その実態はわずかな追尾性能を有した弾丸を大量に撃ち放つ広域魔法。
闇の魔力を圧縮させている構造のためひとつひとつの魔弾の威力も決してバカにはできず、それがまさに雨のように降り注ぐこの魔法は容易に校舎を穿ち大地を砕く破壊の嵐を巻き起こす。
何やら『
「物量はさっきよりも多い、ルーナに回してた分も集中させてんのに……よく避けるなあ」
星宮悠。
直接会ったのは今日が初めてだったが名前はその前から知っていた。
先月度バトルロワイヤルの優勝者にして自分と同じ遠距離を得意とするタイプの魔法使い。後日その戦いを録画で見て空を自在に駆けてそれこそ星のように輝くさまにほんの少しだけ羨ましがったのを思い出す。
とは言っても直接の面識はなかったし個人的に目下の目標は
そして今日、理事長に呼び出されて行ってみればそこにいたのがあの5人。かなたと小競り合いもありつつ初対面のみんなと挨拶を交わして、いろいろと話し合った。悠に関しては優勝者であることをひけらかそうとするようなしょーもない輩だったらぶっ飛ばしてやろう、とか考えてた気がする。
(まあ実際には、なんとも毒気を抜かれちゃうくらいお人好しだったわけなんだけど)
実際に話してみて、あんな風に考えていたトワ自身をぶっ飛ばしたくなるほどだった。
無理に詰めて来たりしないし、でもトワだけ別のクラスだからか孤立はしないように適度に話を振ってくれたり、かなたとのことについても種族間のいざこざを察してくれたのかあーだこーだ指摘したりしない。
なんというか、一緒にいて苦じゃないというか、いい意味で気にならない感じ。
これがいざ戦う相手として相対してみればあんなにまっすぐトワを見て挑んでくるんだから、ビックリしたというかなんというか。
だからこそ、遠慮はしない。
逃げずにぶつかってきてくれるんなら、こっちも本気でやらないと悠に対して失礼というやつである。
遠慮という概念を取っ払ったその魔弾はまさに命を刈り取らんとばかりの勢いで悠を追従する。
無論これは致命的な損傷を魔力ダメージに置換する学園の
相殺し、躱し、弾き、切り裂く。
でも、
「啖呵切っといて防いでばかりじゃつまんないんじゃない!?」
「くっ!」
迎撃し損ねた魔弾のひとつが悠の頬を掠る。
誤解のないように言っておけばたった1人で『
防いでも生半可なものは叩き壊される、躱すのもその密度と追尾性能から現実的じゃない、トワ本体を狙おうにも近づくまでに蜂の巣にされるか三叉槍で迎撃されるだけという3点セット。事実として悠も防ぐ躱すに加えて射撃魔法と剣による迎撃を総動員させてようやくといったレベルなのだ。
防御に全リソースを割いてるから反撃に移れない。
悠は苦悶の表情を浮かべながら飛来した魔弾を切り払った。
(このままだとジリ貧だ、余裕もない。だが、ここで焦っちゃダメだ……!)
しかしその瑠璃の瞳だけは、今なお強い輝きを秘めていた。
しかしそれをやるには条件があった。
ひとつ、トワの警戒が薄れたタイミングを狙うこと。これは当然だ、いくら近づけてもトワの意表を付けなければそれは決定打にはならない。近づければ勝てるとは言えない以上確実に初撃で有利をとる必要がある。
そしてもうひとつが、
「いつまでもつかな?もう一発いくよ!」
トワが三度魔力を開放、現界した魔力が至極色の嵐となって吹き荒れる。
(っ今だ……!!)
ほんの一瞬だが、弾幕が止んだ。
魔法から魔法へと移るその一瞬の意識のスキマ、それを知覚した瞬間に悠が魔弾を迎撃する最中に作って背後に隠していたひとつの魔力球が弾かれたようにトワへ撃ち出された。
「うおい!?」
さすがに魔法の発動兆候のない攻撃が来るとは思っていなかったのかトワは驚きを隠せなかった。
しかし飛んできたのはたった1発。焦ることなく手に持っていた三叉槍で貫いて魔力球を壊すと、迎撃のために止めていた魔力操作を再開して魔弾を生成していく。
結果として、今の悠の反撃はせいぜいトワが魔法を使う時間を数秒遅らせた程度。それが戦況を変える一撃とはならない。
だが、
さっき言っていた近接戦に持ち込むための条件。
そのもうひとつは、ある魔法を使うための時間を確保することだったのだから。
「ストライクハート、ロードカートリッジ!!」
「Load Cartridge.」
ストライクハートから響く撃鉄音。カートリッジによって生み出された魔力があふれ出す。
「遅いよ!『
至極色の闇の魔力が凝縮し生まれた黒い弾丸が撃ち出され、悠の退路を塞ぐように視界いっぱいに映し出される。
悠はそれを見て、ストライクハートを握る左手を前に突き出してあふれる魔力を制御していく。
こういった広域魔法にありがちなひとつの弱点がある。
それは、攻撃範囲が広いほど使用魔力に対しての威力が下がるという点だ。
分かりやすく言うと使用魔力を「威力」「射程」「範囲」といった魔法を構成する要素にどれだけ割り振るかという話であり、当然ながら射程や範囲に振ればそれだけ一発の威力が下がるということ。
トワはそれを使用魔力を増やすとともに『
つまりは追尾に引っかかる前に弾幕を突破できれば受ける火力は最低限に抑えられる。
故に、最短距離を真正面から突っ切る。
「エクセリオンシールド、そして──フラッシュムーブ!!」
「!!?」
刹那、悠が前面に己が誇る最高硬度の盾を構え弾丸さながらの己の最高速度で突っ込んだ。
トワの表情が先ほど以上の驚愕で染まり目を見開く。
放たれた魔弾たちが『エクセリオンシールド』に衝突し、光が弾けて消えていく。しかしその数は明らかに先ほどより少なく、悠の最高速度に魔弾の追尾性能が追い付かずその大部分が悠の横を通り過ぎる。
追尾に対しての最適解に加えて悠が誇る最高硬度の盾、天秤がどちらに傾くかなんて明らかであった。
───ガキィィンッ!!!
「さあ、この距離ならどっちが優勢かな!!」
「ニャロォ……!!」
勢いそのままに『エクセリオンシールド』でのシールドバッシュを敢行した悠にトワは三叉槍を軌道上に滑り込ませてガードし、甲高い衝撃音が響く。
そのまま数秒ほどの硬直、その直後にトワが幻想種としての膂力を開放して力任せに悠を弾き飛ばした。
距離を離されたら仕切り直しになる。悠もトワもそれが分かっていたからこそ互いの動きは読めていた。
悠は距離を詰め、トワはバックステップで距離をとる。結果として2人の距離感は変わらず、風切り音とともに悠が首筋めがけての上段斬り、トワもしゃがんで躱すが続く第二の刃を防ぎきれずに制服の端が切り裂かれる。
一呼吸。
武器が届くかどうか絶妙な距離を保って、2人が足を止める。互いに見合い、武器を構え、呼吸がシンクロする。
「「ッ!!」」
動き出しは完全に同時だった。悠は飛行魔法の『アクセルフィン』を、トワは悪魔の翼で烈風を残して天空に舞い上がった。
視界に移る景色が一瞬で切り替わる。地面が遠くなり、もはや瓦礫の山と化した校舎が視界の端から外れる。ただ目に映るのは、冴えわたる青空と、乗り越えるべき
瑠璃と至極の軌跡が天空を縦横無尽に駆け抜け、そのふたつが交錯するたびに衝撃が走り、火花が散り、光が弾ける。
「あはは、楽しくなってきた!悠もそうでしょ!!」
「……かもね!!」
あえて、否定はしなかった。
戦いを楽しむという感情は、正直に言うと理解はできても共感まではできなかった。少なくとも今までの自分にとって戦いとは、あくまで目的を叶えるための手段でしかなかったから。
でも、今は、どうだろうか。
今なお高鳴り続けるこの鼓動は、「楽しい」という感情の発露なのだろうか。
自分の中での結論はまだ出ていない。
でも、こうして互いの力を全力でぶつけ合うこの時間は、決して悪いものではないと思ったのはたしかだった。
「ディバインシューター……シュート!」
トワへと肉薄するその最中に悠は魔法陣を展開、瑠璃色の魔力球を生み出して射出しそれに自分自身が追従する。先行した魔力球をトワは三叉槍を高速で振るって華麗に迎撃してみせた。
あえて今までの魔弾ではなく三叉槍を選択したのは、おそらく視界確保のためだろう。
ただでさえ
故にトワは三叉槍という選択をとった。
先ほどのように2人の間の距離が離れていれば魔弾も選択肢ではあったが、ここまで接近されてしまえば対応する側のトワがより不利になりかねない。
魔弾と違って三叉槍は実体を持つ武器での攻撃、魔力攻撃じゃない分影響は半減するし、薙ぎ払うようにしてやれば発生した煙も同時に払える。
そうして払われた視界の先を見てみれば、すでにすぐ目の前で悠がストライクハートをトワへ向けていた。
「んな!?」
「クロススマッシャー!!」
トワが青の閃光にのみこまれる……その寸前で翼を前面に広げてガードする。しかしさすがに全ての威力を殺しきることはできなかったのか吹き飛ばされ、悠はすかさず追撃をかけるために『アクセルフィン』を稼働させる。
戦況は徐々に悠の有利に傾き始めていた。
空中での速度自体はトワに分があるが、悠はそれを持ち味の複雑な空中軌道でカバーすることでトワは悠から距離を離しきれずにいる。トワとしてはさっさと引き離して遠距離での魔弾で牽制しながら有利を取りたいのにそれができていない状況。
加えて言えば問題の近接戦では完全に悠に軍配が上がっている。
槍と剣という互いの武器の性質上近づかれるだけ長物である槍が不利になるし、悠は剣だけでなく空いた手で近接用の砲撃魔法や瞬間的な加速魔法でトワを翻弄しつつ常に攻勢。
トワの魔弾の性能はハッキリ言って破格も破格、今までは雑にそれを撃っていればそれだけで勝ちを拾えてきた。それ故に遠距離においての攻防戦において拮抗してしまうと、圧倒的に近距離での戦闘経験が劣っているトワが押されてしまうのは明白だった。
防ぎきれなかった魔力球がトワに着弾し体勢が崩される。
当然ながらその隙を悠が見逃すはずもない。『フラッシュムーブ』による加速でトワへ肉薄し勢いそのままに突きの要領で突貫する。
「───舐めんなッ!!」
「!?」
悠の突きが
さしもの悠も動揺を隠せずに目を見開く。どうにか平静を取り戻して突きの勢いを殺して足を止め、振り返ってみれば20メートルほど先でトワが勝気な笑顔を浮かべていた。
「避けられる体勢じゃなかったはずだけど……何したの、トワ?」
「悪魔としての権能のひとつ、闇との同化。今回に関していえば影になるかな。まあ今のトワじゃあ1秒もてばいい方だけどね」
「影……あぁ、なるほどね」
言われて納得した。
『ディバインシューター』が着弾した際に発生する光と煙、それによって生じた影を利用したということだろう。トワをよく見てみれば体の端から黒い靄のようなものがかかっている。あれが発動兆候か、あるいは副作用のようなものだろうか。
しかしまあ、よく咄嗟の判断でできたものだと思う。
直前に『ディバインシューター』の直撃を受けておいてそれによって発生した影を即座に利用しようと誰が考えるだろうか。普通なら直撃を受けた影響でそのまま突きを食らうか、そうでなくとも全力の飛行で避けようと考えられればその場の状況判断としては十分だろう。
しかしトワはやってのけた。結果的にまんまと引っかかってこうして距離を離された。おそらくトワとしても賭けであったのだろうが、それは見事に成功したと言える。
不意に、トワが三叉槍を亜空間にしまって右手の指をこちらへ向ける。親指を天空に、人差し指をまっすぐ
攻撃を───魔弾を撃つ気なのはすぐに分かった。
だが狙いが分かりやすすぎる。指先にしか魔力が集まっていないところを見ると『
つまりは火力の高い単発射撃。ガードは叩き割られる可能性がある。直射型なら射線は見えてるから避けてからカウンター。追尾型なら
油断はない。
トワは悠のその瞳を見て、嬉しくなった。
決して自分の描いた展開になったからではない。
最後の最後まで、悠がトワを超えるために全力を出してくれたから。
ここまで全力を出してついてきてくれた人間は、悠が初めてだったから。
だからこそ、こちらも出し惜しみはもうしない。
トワは、
「───『
刹那、鼓膜を撃ち抜くほどの轟音とともに悠の体が『く』の字に折れ曲がった。
「ガッ……!?」
魔弾を撃たれたと知覚することすらできなかった。驚くことすらできなかった。
トワが唱えたその瞬間には、すでに黒い雷光が一直線に悠の体を貫いていた。その後に響く雷撃音。つまりこれは、音速すらも超えた、雷速の魔弾。
思考がスパークする。
身体が痺れている。
それでも、意識だけは手放さずに悠は苦悶の表情を浮かべながらトワを睨みつけた。
「とんだ……隠し玉持ってたねッ……!」
「マジ、これ耐えんの?」
トワがあり得ないものを見るような目で悠を見る。
『
単発という縛りの上で成り立つそれは弾速はもとよりその威力だって『
無論悠とて生身であれば耐えられなかっただろうが、そこは防御術式を織り込んだ『バリアジャケット』様々といったところか。
しかしそれは決して無事で済むということにはならない。
眼下の悠は息を荒げ、胸を押さえ、ストライクハートを握る手はわずかに震えている。ダメージが溜まっているのは確実だ。
(かと言って、1回見せた以上馬鹿正直に2発目を食らってくれるほど簡単じゃないだろ。だったら……!)
トワはひとつ深呼吸をし、意識を集中させる。
悠はまだダメージと雷撃による痺れで満足に動けない、だが魔法による抵抗はしてくるだろう。
悠の防御魔法の練度は間違いなく学年随一だ。『ラウンドシールド』ならともかく、多重装甲型の『エクセリオンシールド』を出されれば『
だったら、どんな防御も、どんな反撃も意味をなさないほどの攻撃魔法で押しつぶせばいい話だ。
「悠、これ以上時間をかけるのはお互い得策じゃないでしょ?」
「……つまり?」
「次がトワの最後の一撃。受ける気はある?」
「……上等!!」
トワのそれは、おそらく逃げさせないための挑発だったのだろう。それを分かっていてなお、悠は毅然とそう応えてみせた。
互いに笑いあい、そして、解放された魔力が渦巻く波動となって激しく大気を揺らした。
トワは掌を天空に掲げ、悠はストライクハートを
瞬間、解放された膨大な魔力が凝縮し、ふたつの巨大な魔力塊となって形を成していく。
互いの魔力が反発し、共鳴し、それによって発生した衝撃波が校舎の瓦礫を情け容赦なく吹き飛ばす。
考えることは同じだった。
逃げるでもなく、防ぐでもなく、己が持ちうる最大火力を以って、目の前の強敵を正面から乗り越える。
「……サンキュ、悠。のってきてくれて」
少しだけ穏やかになった表情でそう零す。小声だったからかその言葉は悠に届くことはなかったけど、それで良かった。
だって、戦ってる相手にお礼なんて、悪魔らしくないもんね。
「さあ、これで終わりだ!『
「撃ち抜け一閃!ディバイン……バスター!!!」
キーワードとともに放たれた闇の球体と瑠璃の砲撃がとてつもない衝撃を轟音と伴ってぶつかり合った。2人のちょうど中間地点で、ふたつの巨大なエネルギーがぶつかり、せめぎあい、光をまき散らす。
しかして拮抗したのは10秒ほど。ギシッと空間が歪むような音を鳴らしながらかすかに闇の球体が瑠璃の砲撃を押しはじめる。
「ぐっ……!」
「トワの最大火力、受けられると思うな!」
第三の魔弾、『
その内容はいたってシンプルなもので、膨大な魔力を極限まで圧縮して球体状にして撃ち出すというもの。
『
わずかに、しかし今もなお押し込まれ続けるその中で、悠は静かにストライクハートに問いかける。
「ストライクハート、率直に聞くよ。何発耐えられる?」
「マスター……!」
無茶を言っているのは分かっている。性懲りもなくストライクハートに負荷をかけようとして、自分自身も無茶をしようとしている。
全くもって学習していないと後でお説教を食らってしまうのだろう。それでも、このまま負けられない理由があるのだ。
もう一度競い合おうと約束したんだ。
その場限りの口約束と言われればその通りだ。だとしても、他でもない自分自身がそれを望んでいるんだ。約束を果たしたい、それ以上に、今はみんなと全力でぶつかってみたい。
トワと戦う中で感じた、高鳴る鼓動。
あの気持ちを、他のみんなとも感じてみたいって、そう思ったから。
それを聞いたストライクハートは、いかにもやれやれといった声で、
「まったく……3発、それがこのバトロワの中でのリミットだと思ってくださいね」
「……十分すぎる!!」
サブグリップを強く握りなおす。
星のような瑠璃の瞳が、燦然とした輝きを宿した。
「ロードカートリッジ!!」
「Load Cartridge.」
追加カートリッジによる火力補助。
ストライクハートから響いた撃鉄音がトリガーとなり、砲撃の威力が一息に引き上げられる。それはたしかな変化となって、『
「マッジか!?」
「負けて、たまるかぁ!!」
トワも負けじと魔力を込めて応戦し、状況は再び拮抗する。
2人がともに顔を歪め、ただ己の勝利を信じて魔力を吐き出す。
結果を分かつ要因があるとすれば、それはおそらくふたつの魔法の特性にあったのだろう。
トワの『
そのふたつが拮抗した状態でぶつかり合えばどうなるか、答えはある意味必然であっただろう。
『
それは徐々に広がっていき、何かが割れるような破砕音が聞こえてくる。
それを見て、それを聞いて、トワは静かに、悔しげに唇を揺らした。
「ちっくしょう、勝ちたかったなぁ……!」
「撃ち、抜けえええぇ!!!」
瑠璃の極光が至極の球体を貫き、その奥のトワまでのみこみ一直線に駆け抜けていった。
星宮悠VS常闇トワ
───勝者、星宮悠。