むさ苦しい夏のある日。
シンジは冷房にかかりながら、ふとリツコから小遣いをもらい買ってみたノートパソコンを開いていた。
「シンジぃ~……」
アスカの声だ。
またアイスクリームがほしいから買ってきてとでもいいたいのだろうか。
「もうアイスは買いに行かないよ、アスカ。残念だったね」
「そうじゃなくてさァ……」
アスカはにっこりと笑っていた。
その手にはチラシが貼ってあった。
浴衣を着た女性。
ゴシック体のフォントで書かれていた。
『夏祭り』
はぁ・・・。
「行きたいの?」
「アンタバカァ?あたしが行きたいんじゃなくて・・・アンタがいくのよ。ミサトと!」
また、この話か。
アスカは最近ずっとこうだ。
何かあるたびに「ミサトとデートにいけ」と連呼する。
もうウンザリだ。
確かにミサトさんのことは好きだけど、コイツに茶々入れられる筋合いはない。
「嫌だよ暑いし」
「でも、もうミサトには待ってるって教えちゃったよ」
「は!?」
アスカ、またボクの断りも無しに勝手なことをやって。
なんなんだよ!こいつは・・・。
「浴衣着てくるってさ。はやくいってあげなよ。ホラホラ」
「なんでそんな勝手なことを!!!」
「アタシからの善意ってやつよ!ありがたくおもいなっての!ホラホラ~!!!」
でも、浴衣姿のミサトさん・・・。
想像するだけでちょっと興奮してきた。
あの温泉の時もすごくきれいだった。
着物となると・・・。
ごくり。
固唾をのむシンジをみてアスカは微笑んだ。
「でさ、シンジ、アンタ用の浴衣も用意してるんだけど着る?」
そういうと、アスカは着物を手渡した。
「ああああああ、あああ・・・アスカさん?????」
「碇司令がエヴァ初号機のパイロット賃金代わりだって!そのお金で買ってくれたそうだよ。こんなことないんだから。しかも京都の呉服屋ですわよ」
「と、と父さんまで!?」
また、父さんまで。
二人の方がノリノリじゃないか。
そういえば、この前の温泉旅行でも父さんが相部屋にすることを許可したって。
勘弁してほしいよ。
シンジはそう思いながら冷や汗をかいた。
「で、行くの?行かないの?」
「え!!??」
「あっそういえば加持さんも近くにいるって聞いたんだけど……どうなんだろう。これってヤバいんじゃないかなー。あーやばいやばい。ヤバイヨヤバイヨ!」
アスカはテレビの芸人のマネをしながら言った。
シンジの顔色は青くなっていた。
加持さん。
ミサトさんの元カレ。
でもイケメンだし、体格も大きい。
敵は強い。
いかないと、ミサトさんは加持さんに・・・・?!??
まさか、やるもんか。
絶対にやらせない。
シンジは首を縦に振った。
「いきます」
「え?」
「ボクがいきます!エヴァ初号機パイロット、碇シンジです!」
アスカはにやにやするとシンジに着物を手渡した。
だが、二人は着物の着方などわからなかった。
「うわーどうしよう。全然わかんないよ!!」
「えー!?どうするの、アスカがわからないのってボクもわかんないんだけど!」
「といっても、わかんないもんはわかんないもん」
二人が困惑していると、ドアがガシャンと開く音が聞こえた。
そして、次にミサトの声が聞こえた。
「もうー、アスカ……シンちゃんこないじゃん!」
ミサトは頬を膨らませると、二人を探した。
「ミサトさん帰ってきたじゃん!」
「ちょうどいいじゃん」
「何がいいんだよ!」
ミサトは二人の声を聴くと、シンジの部屋までたどり着いた。
着物をどのよう着ていいか迷っている二人の姿をみてミサトは微笑んだ。
そうか、二人はまだ子供、着物の着方などわからないのだ。
そんなミサトは紺色の着物を着ていた。
黒い髪に紺色の着物はあっていた。
シンジはそんな彼女をみると少し頬を染めた。
「バカシンジ、どったの?顔なんかあかーくなってるけど?」
アスカはジト目でシンジをからかったが、無視した。
そんなアスカをみてミサトは一瞬でわかった。
本当は自分もつれてってほしいんだ。
「本当はアスカもいきたいんでしょ」
ミサトはそう言った。
アスカは顔を染めるとウンとつぶやいた。
ミサトはアスカとシンジにそれぞれ着物の着方を教えた。
シンジはすぐに順応したが、アスカはわからないようだった。
ミサトはため息をつくと、アスカの部屋に入りアスカに着物の着方を伝授した。
「ヒカリがさ、サクラちゃんといってるといってたから。」
「あ、サクラちゃんって鈴原君の妹?」
「本当は鈴原が行く予定だったんだけど、無理だから妹がって…。まあサクラちゃんがいきたいっていってゴネたんだろうけど。それ聞くと、アタシも行きたくなって…ごめんね。」
「いいのよ。」
アスカは赤い着物をつけた。
ミサトはアスカの部屋から出ると、シンジをみつめた。
シンジは青色の着物をきていた。
その姿は女の子のようだった。
「シンちゃん、すっごくかわいい。」
「かわ??いい????」
アスカはシンジの耳にこっそり耳打ちした。
「かわいいは誉め言葉だよ。アンタはどうあがいてもかっこいい系は無理だから。かわいい系で狙いなさい。」
「わかったよ。」
アスカはペンペン用の抱っこ紐をまくとペンペンを乗せた。
一行はその後、タクシーを呼ぶと会場に向かっていった。
あたりはすっかり夕方になっていた。
「おや、坊や羨ましいね!両手に華じゃないか!」
運転手はシンジを茶化した。
「あらぁおじさん、私はこいつのお姉さんなの。そんで横にいるこの大人の女がこいつのカノ…。」
ミサトはアスカの口を覆った。
「アタシたち家族なんです、今から祭りにいくんですよ。私が長女、この娘は次女。男の子は末子なんです。」
「そうなのかーてっきり、俺は二人ともその子の彼女にみえたけどね!」
3人はそろって顔を赤くした。
ふと、シンジは外を見つめた。
そこには多くの人が集まるのがみえた。
彼らは縁日用の屋台にそれぞれ集まると品物を買っていった。
3人は外に出た、ミサトはタクシー代金を払った。
「じゃあお姉さん若い娘に負けんなよ。」
運転手はジョークを言った。
多分あの人、わかってる???
まあいい。
「あ、アスカ!おそいじゃん!」
洞木さんの声だ。
そのわきには10歳ぐらいの大人しそうな少女がいる。
あれがサクラちゃんか。
二人とも奇麗な着物をきている。
「ごめんごめん!待たせた?ごめんね、サクラちゃん!ペンペンもいるよ!」
「これがペンペン?うちはじめてみました!」
「じゃあ、いこうか!」
3人の美少女+1匹はそれぞれ並ぶと歩いていった。
「おい、シンジがんばれよ!」
アスカはそう言うと、手を振った。
シンジはその光景をみると照れ臭そうにかえした。
「じゃあ、行きますか。」
「はい。」
その時だった。
ミサトの手がシンジに触れるを感じた。
ミサトの手の温かさがシンジに伝わった。
「行こっ、シンジ君。」
「は、はいっ!」
二人は手をつなぐと人ごみをかきわけながら屋台を探した。
ふと、射的の屋台をシンジはみつけた。
「ミサトさん、射的だよ。」
「なるほど、シンちゃん。あたしに腕試ししたいなんていうんじゃないでしょうね。」
「いや、勝負だよ。ボクとミサトさん、どっちが商品を手に入れるか。」
「あら?面白いじゃない。じゃあ訓練の成果みせてもらうわよ。」
二人は並ぶと射的の屋台の元へと向かった。
商品は並んでいる、真ん中の奥にはレトロなゲーム機があった。
「じゃあ、あれをかけて勝負します?」
「いいわよ、先行はあなたからで。」
シンジは銃を構えた。
そして、息を整えた。
大丈夫、できる。
僕は初号機パイロット。
戦いは男の仕事。
「目標をセンターに入れて…スイッチ。」
シンジは銃を構えると引き金を押した。
だが、外れてしまった。
「あっ!!!そんな・・・・。」
「じゃあ、次は私の番ね。」
ミサトは玩具の銃を渡された。
すると、ミサトは両手でしっかりと空気銃を支えて持っていた。
その時だった、目の色が変わった。
いつものずぼらなミサトじゃなかった。
その場にいる物全てが凍り付いた。
シンジも…。
「ミサトさん・・・。」
そして、素早く引き金を引いた。
パァン。
ゲーム機にコツンと弾が当たった。
「あたりだ・・・。」
店主はうわごとのようにつぶやいた。
シンジはミサトをみた。
すると、少し悲しそうな顔をミサトはしていた。
シンジはわかった、この人はやはり戦場で何か経験した。
だから、辛いんだ。
シンジは店主から渡された荷物を持った。
「ミサトさん、ボクはあなたがなにを経験したか詳しくは聞きません。ですがこれだけはいわせてください。ボクはあなたの影を含めて愛します。」
ミサトの胸がドクンと音を立てた。
「シンジ君…。」
「あなたのお腹の傷も含めて、あなただと思っています。軍人としてのあなたも、ずぼらなあなたも含めて全部全部あなたです。」
だけど、せめて僕の観ている前で人は殺さないでほしい。
できれば・・・。
きっと加持さんだったらもっと気の利いたシャレを言えただろう。
僕はそんなことできない。
できるわけがない。
だからこうするしかないんだ。
「僕はそれを受け止めます。」
「シンジ君…。」
ミサトはそばにいる14歳の男の子が本気だとわかった。
彼を抱きしめキスしたい欲望にかられたが、抑えた。
その代わり手を強く握った。
「ありがとう、シンジ君。その言葉だけで生きてきてよかったと思う。」
だから、せめて私は彼を守るために生きていこう。
二人の手はその中に流れる絆以上に強くしっかりと握りしめ合った。
数時間後、二人は屋台で様々なものを食べた。
気が付くとミサトはビールを飲み始めていた。
「ごめん、シンちゃん。私ちょっち休むわ。」
そういうとミサトはベンチに寝転んだ。
そんなミサトをみて、シンジはやっぱり鋭い目つきで男を殺していくミサトよりもこういうずぼらなミサトが大好きだなと感じた。
ふと、前方から着物姿のシンジと同年代の少女たちが近づいてきた。
「あの、今暇ですか?」
「え?」
「あのよかったら、一緒に遊びに行きませんか。」
「え?!」
シンジは頬を染めた。
ミサトは薄目でその様子をみた。
逆ナンパか。
シンジ君はかわいい顔をしている、モテて当然。
同世代の女の子か。
そのほうがいい。
シンジ君にはやはり同年代の娘があってる。
私じゃおばさん過ぎるしね。
だが、そんなミサトの予想を超えた答えをシンジはした。
「ごめんなさい、ボク大好きな彼女ときてるんで…すいません。」
「え?そうなの?」
「残念、次いこ!」
少女たちはシンジに手を振ると去っていった。
ミサトはシンジの言葉を聞いて顔を真っ赤に染め上げた。
シンジはそんなミサトに気が付くと、頬を染めて聞いた。
「もしかして、聞いてたの?」
ミサトは無言でうなづいた。
シンジとミサトはお互いに頬を染め合った。
そして、ミサトは起き上がるとシンジの手を取った。
そんな時だった、打ち上げ花火があがった。
「奇麗。」
「本当だ。」
花火は二人を包み込んだ。
火薬の臭いが二人の鼻孔にさしこんだ。
火薬の臭い、戦場の臭い。
「シンジ君。」
「何。」
「この世界、絶対に守るわよ。あなたならエヴァの力を正しいことに使える。私はそう信じてる。」
「わかった、守るよ。」
シンジとミサトの決意は固まった。
自分たちが生きる世界を守るために、二人は戦う。
やがて、二人は祭りの終わりを見届けるとアスカたちと合流して電車で家へと帰っていったのだった。
次の海に行く話で終わりにします。