ハルウララに転生したので、勝つために走ります   作:飯落ち剣士

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よろしくお願いします。


プロローグ
負け組の星


 ██という陸上選手がいた。いや、「元」陸上選手が、と言った方が正しいか。

 

 彼は幼い頃から走ることに全てを費やして、死に物狂いの努力を重ねて、そしてそのままプロとなった。

 

 ……ところで。彼とはなんの関係もない話だが。どの大会でも、「一位」は、一人しかいないことは皆さんご存知だろうか。何を当然のことを、と思っただろうか。

 

 じゃあこう言い換えてもいい。一人の勝者の裏には、いつだってその何百万倍の敗者がいる。それを、意識した事はあるだろうか。

 

 さて話を戻そう。彼は一勝も出来ぬまま、選手を引退する。誰にも注目されない彼の去り際。しかしこんなものはよくあることだ。負けて、負けて、最後には去る。

 

 だから彼は、いや、俺は引退の日にテレビに映った、ある「負け組の星」に。高知競馬のアイドル馬に、負けて尚走り続ける一頭の馬に、酷く嫉妬と羨望を抱いたのを、覚えている。

 

覚えて────いる。

 

「あ」

 

 自分の声帯から、女の子相応の高い声が漏れる。

 

 覚えて、いる。というか、思い出した。

 

 それが、わたしの前世。今世ではハルウララと呼ばれる一人の少女の、前世。

 

「……っ」

 

 次いでやってくる激しい頭痛に、か細い悲鳴を押し殺す。自室のベットに寝転がっていなかったら倒れ込んで怪我をしていたかもしれない。怪我したら走れなくなってしまうからそれは困る……という思考は、一体俺とハルウララどちらのものなのか。

 

 に、したって。この急な頭痛は不味い。立ち上がれもしない。

 

「ウララさん!?」

 

 遠ざかっていく意識の中で、俺はわたしを呼ぶ声を聞いた。

 

 

 保健室で目を覚ました。ぐちゃぐちゃだった頭は、ようやくまともに考えられるくらいには落ち着いたらしい。

 

 あたりを見回す。誰もいない。『ハルウララ』の記憶で、今日のこの時間帯は授業中だと気付く。ちょうどいい。ここらで一つ、自分の置かれた状況を把握しよう。

 

 まず、この世界はウマ娘、というのがいる。前世と違って馬がいない、その代わりにウマ娘がいる。詳しいところはわからない。前世では競馬なんて見なかったからな……。

 

 そして俺はあの「ハルウララ」と同じ名前のウマ娘。よくわからないがそういう事らしい。馬→ウマ娘だけでも頭がこんがらがるのに、そこに俺とハルウララの関係を混ぜたらもう何が何やら。

 

 はた、と思い至る。待てよ。そもそも今、俺の自意識は「どっち」だ?ハルウララか、██か。答えはすぐに出た。俺は俺だ。記憶は両方の物を持っているが、自意識は完全に自分を前世の俺と認識している。それはつまり、昨日までの「ハルウララ」を塗り潰した、ということで……いや。やめよう。ここら辺は泥沼の匂いがする。

 

 しかしそうなると今度は別の問題がある。俺はこれから、他のウマ娘たちにどう接していけばいい? 前世の記憶が蘇ったので〜なんで誰が信じるよ? それに……彼女たちに、いきなり友人が消えてしまったなんて言えるわけがない。ハルウララの記憶が、そう結論を付けた。

 

「あーあー、うん、よし。声も変わりない」

 

 記憶自体も昨日までのハルウララのものは持っているんだ。隠し通す事はできる。大丈夫。

 

 なら、最後の問題だ。俺はハルウララ。前世の史実通り、この世界でも、(デビュー前とはいえ)まだどうやら一勝もできていないウマ。

 

 それでも、走り続けるか? 俺は。前世で負けて、辞めた、俺は。

 

「ハルウララ……か」

 

 負けても走り続けた馬。わたしの記憶の中で、たしかに走りたいと言っているウマ娘。その本質はどちらも同じで、そしてどちらも負け組だ。

 

 ああ──その在り方は、かっこいいな。

 

 そう、思う。だから──と、その結論がノックで遮られる。

 

「失礼するわ……と、ウララさん。起きていたのね」

 

 と、ドアから入ってくる一人のウマ娘。同室の少女。(ハルウララ)より遥かに高い素質を持つ、お人好しのお嬢様。名前をキングヘイロー、というらしい。

 

 すー、と。息を吸う。同室の少女まで騙し切れるかはわからないけど、やるしかない。

 

「うん、ありがとうキングちゃん。キングちゃんがここまで運んでくれたんだよね?」

 

「え、ええ。あんなに苦しそうな顔を見たら……じゃなくて。キングの手を煩わせないように、次からは体調管理もしっかりしなさいな」

 

「ありがとう、気をつけるよ」

 

 ベッドから立ち上がる。キングヘイローの目をまっすぐ見る。今のところは……俺は、ちゃんとハルウララをやれていると思っていいだろうか。

 

 なら。

 

「ねえ、キングちゃん」

 

「……はい?」

 

「わたし、勝ちたい」

 

 そう、ハルウララと俺の本心を溢す。キングヘイローは目を丸くして、そう、とだけ言った。

 

 

 

 

 これは、負け組の星の物語だ。

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