ハルウララに転生したので、勝つために走ります 作:飯落ち剣士
負け組の星と漆黒のステイヤー
前世の記憶を思い出した翌日のお昼。俺は食堂でトレーを持ってうろついていた。ハルウララの記憶ではいつも誰かとご飯を食べているのだが、彼女の動きは無軌道すぎてどうやって友人を見つけているのかまるでわからない。歩いていたらたまたま知ってる人がいるから声をかけた、と言った感じ。
なので俺もそれを真似て、食堂をうろついているわけだが。意外と混んでいるので誰かを見つけるというのもなかなか難しい。というか空いている席を見つけるのが難しい。仕方なく隅の方に歩いていくと、空いている席があった。ちょうどいい、今日はここでと席に着こうとして……その隣に、記憶にある顔。名前は確か……。
「ライスちゃん? 一緒に食べる?」
「……ウララちゃん」
ライスシャワー。不幸体質と自信の無さを持っているが、記憶では彼女もかなりの実力者だったはず。と、いうか。ここ──トレセン学園にいるウマ娘は、みんな実力者なんだけれど。
「隣、座るね」
「うん、ありがとう」
「ありがとう?」
一緒にご飯を食べるって、お礼を言われるようなことかな。まあ、いいか。味噌汁美味しいな……。
ライスシャワーも俺も、無言で食べ続ける。それが気まずかったのだろうか、彼女はこちらを向いて少し首を傾げた。
「どうしたの、ライスちゃん」
「あっ、ごめんね? いつもより喋らないな、と思って」
「………っ!?」
咽せる。そうか、たしかにその通りだ。俺の記憶の『ハルウララ』は、部屋の隅で、黙々とご飯なんか食べない。
「ウララちゃん?」
「う、うん! ちょっと昨日から調子が良くなくてボーッとしてるかも」
「そっか、大丈夫?」
「うん、心配してくれてありがとう」
半分、嘘ではない。実際昨日倒れているわけで、今日や昨日のらしく無さはまだ『体調不良』で誤魔化せる。ただこれが通じるのも明日くらいまでか。それまでに『ハルウララ』に慣れておかなければ。
俺の存在がバレるわけにはいかない。ハルウララは、ハルウララであり続けなきゃいけないんだ。
にこやかに笑う(少なくともそう努力する)俺に、ライスシャワーは不安そうに訊いてくる。
「ウララちゃん、選抜レースもうすぐだったよね。それまでには万全の体調になるといいね」
「選抜レース……? あっ」
忘れていた。
「本当だ、えっと、もう後1ヶ月?」
「うん、この前ウララちゃんが自分で言ってたし、他の子もみんな──ウララちゃん?」
言った、記憶がある。そうだ。後1ヶ月で選抜レースだ。デビューできるかどうかが決まるレース。担当トレーナーのスカウトの場。つまるところ最初の関門。そこで結果を出せなければ、トゥインクル・シリーズのターフすら踏むことができない。
「なんでもないよ、ちょっと忘れてた。でも、ありがとう。頑張るよ」
「忘れてたって……ウララちゃんらしいね」
その一言に、少しだけ安心した。そっか。俺はちゃんと、ハルウララらしいか。その時浮かんだ笑顔は、久々に本物だった。
「よーし。食べ終わったし、そうと決まればトレーニングしてくる」
「……うん、ウララちゃん、頑張ってね」
「ありがと、ライスちゃんもね。じゃあ、また」
トレーを戻して、食堂を後にする。トレーニング……ハルウララの記憶ではいつも誰かと併走するなどして外でやるのが主だが、今日は違うことも試してみたい。ランニングマシンとか。
1ヶ月。あまりにも短い。俺が焦るのは当然のことだったが、そのせいで気が付かないものもあった。
それは例えば、ライスシャワーの俺の背中を見る視線だったり。なぜ一勝もできていないわたしに、多くの友達がいるのかであったり。
そして──何故、ハルウララが。この『トレセン学園』に入学できているのか、だったり。