ハルウララに転生したので、勝つために走ります 作:飯落ち剣士
「模擬レース、ですか?」
「うん、ちょっとキングちゃんと走りたいなーって」
「……まあ、その時間はちょうど空いていましたし、いいですわよ」
「やった、ありがとうキングちゃん」
前世の記憶を思い出して、3日である。この3日間、俺は今までと同じように……いや、下手したら今まで以上にトレーニングをこなし続けた。
その結果。前世の陸上経験は大して役に立たないということがわかった。俺が知っているスポーツ理論は、日本トップクラスの設備を持つこの学園ではいくらでも手に入る。どうも前世の知識で好き放題、というわけにはいかないらしい。ままならないものだ。
そもそも、前世の俺は100mのスプリンターだった。1000mを超えて走るウマ娘とは体の使い方も違うし、ライバルとの駆け引きも大きく違う。また一から学び直し、というわけだ。
今までの知識が役に立たないのならあとはもうトライ&エラー、ひたすら試してみるしかない。そのうちの1つが模擬レースだ。勝負となれば普段以上に力が引き出されたりするし、何より──今の
夕日が、ターフをオレンジ色に染めている。俺は練習用ゲートの前で準備運動を念入りにして、キングが来るのを待つ。過去、"わたし"が深刻な怪我をしたという記憶はないが、前世からの癖のようなものだ。こうしておけば緊張も解れる。
予定時刻5分前にキングヘイローはやってきた。トレセン学園のトレーニングウェア姿は若干汚れていたので、彼女も自身のトレーニングを行った後なのだろう。
「芝の1200m、でいいのよね?」
確認として、キングヘイローが俺に聞く。うん、と頷いて、最後に大きく全身を伸ばす。
「それじゃ、よろしくねキングちゃん」
「……………ええ」
たっぷり5秒の沈黙をとって、キングヘイローは頷いた。そして、ゲートにつく。
短距離、1200m。その短さ故に、スタートダッシュの遅れすら命取り。アスリートとしての、あの頃の集中力を研ぎ澄ます。
ゲートが開く。一歩目は会心の出来。ウマ娘の脚力が推進力を生み、トップギアへと加速していく。人の身とは比べ物にならないほど、風を切る感覚を全身で浴びることができる快感。そう、走るのは楽しいのだ。
その景色の前に、自分より速いやつがいても。楽しい、はずなのに。
(キングヘイロー……!)
芝1200mを俺が選んだのは、
なのに。
200mで、既に10バ身差以上。
「レベ、ルが…違うっ」
なお恐ろしいのは、キングヘイローは逃げているわけではない、ということだ。彼女の脚質は差しを得意にする、つまりここから、まだ伸びてくるということで。
(落ち着け、ダメだ、焦るな)
そう思ってももう遅かった。キングヘイローの背を負うように、中盤。半ば無意識に早すぎるスパートをかけていることに気がつく。
それでも、差は。まだ8バ身は下らない。
息が切れる。序盤の楽しさはとっくに置き去られていた。胸が灼ける錯覚すら覚える。最終直線が、ぼんやりと見える。
「───ッ」
キングヘイローが、そこで駆け出した。振り切られる──いや、元から縋り付けもしなかった。彼女の豪脚が芝とわたしを千切る。
なんとか追い縋ろうと、力の入らない足に力を入れて……もつれる。
「あっ」
天地が逆さまになる。ウマ娘の速度で走って、そのまま、転ける。
衝撃。次いで、口の中に芝の味。
「……はぁ」
受け身を取ったけれど、立ち上がれそうもない。体のどこかを痛めたわけではなく、疲弊と、精神的なダメージで。
「……ウララさん」
キングヘイローが、気付いたら目の前に立っていた。既にゴールした後、自分がまだゴールしていないのに気がついて来てくれたのだろう。差し出してくれた手を取ろうと、お礼を言う。
「あ、キングちゃ──」
「あなた、本当にウララさん?」
心臓が、止まるかと思った。受け取ろうとした手を下ろし、ばっ、とキングヘイローの顔を見上げる。暮れた太陽の灯りでは、その表情は読み取れない。
「……いえ、ごめんなさい。変なことを聞いたわね。今日はここまでにしましょうか」
「どうして」
そのまま背を向けようとしたキングヘイローに、俺は問いかけずにはいられなかった。
「どうして、そう思ったの?」
キングヘイローは、こちらを振り向かなかった。振り向かないまま、答えた。
「ウララさんは……どれだけ前と差が空いても、最初から勝ち目がなさそうなレースでも、転んで膝を擦りむいても」
「それでも、最後まで走ると思っていたから」
そして、キングヘイローは去っていった。
俺は、門限まで芝に座り込んで、立てなかった。
転生ハルウララの現時点でのゲーム的能力を置いておきます。参考程度に。
【ステータス】
スピード:G 60
スタミナ:G 29
パワー :G 49
根性 :F 104
賢さ :G 42
【バ場適正】
芝 :D
ダート:B
【距離適正】
短距離:B
マイル:C
中距離:G
長距離:G
【脚質適正】
逃げ:G
先行:G
差し:A
追込:B
【スキル】
ペースキープ
集中力
【備考】
固有スキルは現在使用不可。