ハルウララに転生したので、勝つために走ります 作:飯落ち剣士
トレセン学園のウマ娘がデビューするには、共に歩むトレーナーと契約する必要がある。その登竜門となるのが「選抜レース」と「入団テスト」だ。
入団テストは複数のウマ娘が在籍する"チーム"が開いているもの。チームを率いることができるのは、『それができる』と学園から認められた、経験豊富なトレーナーだけ。有名所だとチームリギルの東条トレーナーなどが、5人以上のウマ娘のトレーニングを受け持ち、かつその全員が年代最高峰の実力と実績を誇る。
チームに入るメリットは大きい。他のウマ娘との練習がしやすくなること、実力のあるトレーナーと組みやすいこと。ただ、入団テストは基本1人か2人しか受からない。そのくせ、チームに入るメリットからテストを受ける人数も多い。結果として競争率は非常に、ひっじょーに高い。……つまり、学園最弱クラスたる
だから必然的に俺が頼るのは、2つ目の選択肢である「選抜レース」ということになる。こちらは未だチームに在籍していないウマ娘を対象に、年に何度かトレセン学園が開催しているものだ。
選抜レース仕組みは単純だ。ウマ娘は距離を選んで、走る。それを見たトレーナーが、気に入ったウマ娘をスカウトする。それだけ。基本的に選抜レースでスカウトするトレーナーはチームを持たない中堅トレーナーか、あるいは担当も持たない新人トレーナー。ただ、ここでチームを持つ強豪トレーナーがスカウトする例もある。
要するに……行きたいチームのレースに応募する、能動的なデビューが入団テスト。それに対し、多くのトレーナーに見てもらい相手からのスカウトを待つ、受動的なデビューが選抜レース、ということだ。
まあ長々と語ったが、結局俺に選択の余地はない。これは入団テストの門の狭さもそうだが、1番の理由としては
だからその意志を継ぐ意味でも、俺は3週間後に迫った選抜レースに向かって練習する必要がある。そう、実はもう3週間後に迫っている。ウマ娘が一朝一夕で早くならないことは百も承知だが、諦めずに走り続けないとハルウララに申し訳が立たない。
本日最後の授業の終わりを、チャイムが告げる。ばたばたと教室全体から教科書を片付ける音。トレーニングの時間だ。昨日はキングに併走を付き合ってもらったが、流石に連日でやってもらうのは申し訳ない。今日は一人でやるかなーなんて考えていたところで、声をかけられる。
「ウララちゃん、この後予定ってある?」
スペシャルウィーク。確か田舎から編入してきた、ハルウララの友人の一人。
「特にないよ」
そう答えると、スペシャルウィークはよかった、と胸を撫で下ろす。
「今から商店街に買い物行くんだけど、ウララちゃんも一緒にどうかなって」
商店街……?
「あっ」
*
「しかしびっくりしたよ。ウララちゃんここ1週間全く顔出してくれないんだもの」
「ごめんなさい……」
トレセン学園近辺の商店街。ハルウララが親身にしている場所、らしい。ここ1週間は来る余裕が全くなかったので、その記憶に気が付けなかった。
「ウララちゃん、最近体調崩して休んでたんです。だからあんまり来れてなかったのかな?」
「うん、そんな感じ」
スペシャルウィークが図らずも助け舟を出してくれたので、ありがたく乗っかる。あながち間違いでもないし。
そのままスペシャルウィークや商店街の人々と、他愛もない話を続ける。今日の授業はどうだった、調子はこうだったと、本当に他愛もない話。しかしそれでも実感するのは──ハルウララというのは、本当に
道行く人みんなが
商店街での買い物──トレーニング用品が主だ──を終え、スペシャルウィークとトレセン学園への帰路につく。
「思ったよりいっぱい買っちゃったね」
「そうだね、貰ったのもあるし今度何かお返ししないと」
「おじちゃんは『レースで勝つまでの出世払いで』なんて言ってたもんね」
春の日差しが落ちかけ、夕景が大通りを照らす。都会の春も綺麗だな、と、満開は過ぎた桜を見て思う。それを背景にするスペシャルウィークの姿もまた、綺麗だった。
「そういえば、ウララちゃんは次の模擬レース出るんだっけ」
「え? ああ、うん」
一瞬、その風景に見惚れて反応が遅れた。それを誤魔化すように、質問を返す。
「スペちゃんは?」
「私は……『リギル』の入団テスト受けてみようかなって」
「リギル! すごいね」
「凄くはないよ、受けるだけだもん」
チームリギル。それは、トレセン学園で最強と目されるチーム。東条トレーナー率いるそのメンバーは生徒会長のシンボリルドルフを始め、どれもその世代を牽引する最強格揃い。
「受かるといいね、リギル」
「うん、頑張る。日本一のウマ娘になるためだもん」
夢の大きい友人は、ぐっ、と腕に気合いを入れた。その勢いでビニールが少し揺れ、卵を落としかける。しまらないなぁ、と彼女は苦笑いした。
しかし……日本一のウマ娘、かぁ。本当に、
負けたくないな、とは思える。
「スペちゃん」
「へ?」
慌てて卵をしまい直す友人に、俺は屈託のない笑みを浮かべられているだろうか。
「帰ったら、一緒にトレーニングしよ?」
「……! うん!」
お互い、少し歩みが速くなる。桜は散り始めていたけれど、それでも春は始まりの季節だ。