空条承太郎「聖杯大戦だと?」   作:よきき

10 / 21
この話で1日目終わりー
今回のはリメイク前と同じなので、知ってる人は読まなくても良い話です。


EP09

 ——承太郎が少女ホムンクルスと移動を開始して3時間後

 

 

 目を開ければそこは暗闇だった。

 上を見ても、下を見ても、左右を見ても、眼前に広がる光景は漆黒の一色のみ。光は一切なく、視覚情報による場所の特定をすることは出来なかった。

 落ちていた意識をゆっくりと取り戻すように、ゴルドは自身の体を動かそうと試みる。日常生活で親しんだ、手の開閉や、指を動かす命令を脳から体へと伝達してみた。

 しかし、それが実行されることは無かった。まるで体が石像のように固まってしまっているのか、いくら動かそうとしても動かない。というよりかは、動いたのか動いていないのかという感触すら分からない。

 ゴルドは己の体がまるで我がモノでもなくなったかのような感覚に恐怖して、つい声を上げてしまう。

 

「こ、ここは何処だ! わ、私は一体……なにをして」

「目が覚めたか、黒のセイバーのマスター。いや、元を頭に付けなくてはいけないな」

 

 それはゆったりと落ち着いた声だった。妙に肝を冷やすような、そんな人を不安にさせる声だった。

 バリトンの声域からして、ゴルドの言葉に呼応したのは男だという事が分かる。だが逆にいうとそれくらいしか分からない。ゴルドは脳にある海馬の中から、今し方した声と一緒の声帯を持つ人間を検索しみたが、一向に結果は現れなかった。

 ゴルドは額に冷や汗を垂らしながら、その者の正体を掴むため問いかける。

 

「き、貴様は誰だ! 私になにをした!?」

 

 声の男はゴルドの問いかけが気に食わなかったのか、何かを蹴飛ばすような音がした。

 それと同時にゴルドの頭が揺れる。決して大きい衝撃では無いが、少し気分が悪くなるような振動だ。どうやらゴルドは何か箱のような入れ物に収納されており、声の男はそれを蹴ったのだという事が分かった。

 音からしてそこまで厚みは無い。厚みはあっても2〜4センチであり、素材も金属類の類では無いだろうと推測する。きっと木製の箱か何かだ。

 そんな風に、少しの情報から自身の置かれている状況を呑み込むために必死に思考を巡らせるゴルドだが、声の男はそんな様子を知らず悪態をつく。

 

「騒ぐな、癪に障る。余も貴様のようなものとは話したくないのだ」

 

 男の言っていることは正しく本心だった。顔は見えないし、風体も見えないゴルドからしても、声を発している男から嫌悪されているのが感じ取れるくらい、男はゴルドの事を忌避していた。

 それが何故なのかは分からない。マイナスの感情を向けられてはいるが、その種類までは特定できない。怒りなのか、悲しみなのか、蔑みなのか、無関心なのか、はたまたそれら全てなのか。ゴルドには感じ取ることができなかった。

 頭上よりどかっと座り込む音がした。どうやら、ゴルドが収納されている箱らしきものの上に男が座り込んだようだ。

 このままどのような事をされるのか、ゴルドには想像できなかった。体が動け無い現状、声の男に攻撃されても、それに反抗する手立てがない。ただ成されるがまま、その陵辱を受け入れる選択しか用意されていないのである。

 瞬間、自身の身の危険と、己に向けられた感情によりゴルドの冷静さは失われた。このやるせない状況に、堪忍袋の緒が切れてしまったと言った方が表現として正しいのかもしれない。ゴルドは敷地内で不審者を見かけた番犬の様に、目を血走らせながら口を大にして吠える。

 

「癪に障るだと? 私は、私は錬金術の大家であるムジーク家の男だぞ!」

 

 ゴルドの遠吠えを聞いて呆れたのか、声の男は再び箱のような入れ物を蹴る。

 

「だからなんだ?それを告げ知らせて何になる? まさか、戦時中に貴族や王族の人間だから私を助けてくれ、等という駄弁と一緒のことをしているのか?」

「だ、駄弁だと?」

「そうだ、駄弁だ。『Remember that time is money』だったか? かの有名なアメリカ建国の父、フランクリンが記した言葉だ。貴様は余の貴重な時間を空費させている。分かるな?」

 

 男の苛立ちまじりのような声がゴルドから言葉を奪い取った。男の言葉にはそれだけの圧がある。恫喝や殺意とは違う、もっと人を震撼させるような、そんな力が秘められている。

 自然とゴルドは呼吸するのを忘れていた。己が相手にしている者の強大さを理解してしまったからだ。これは人の身で勝てる存在ではない。初めてサーヴァントを見た時よりも、もっと恐ろしい感情がゴルドの心の中で吹き荒む。

 サーヴァントは令呪で縛れていた。黒のセイバーには己に叛逆しないであろう、誠実さがあった。それは安全装置やトリガーが付いている拳銃のような感覚に似ている。拳銃も人を簡単に殺せる道具ではあるが、安全装置をはずし、トリガーを引かない限り使用することは出来ないからこそ安心して使える。

 対してこの男はどうだ。まるでニトロのような男だ。声の男には安全装置もトリガーも全くない。少しでも刺激を与えれば癇癪を起こし真っ先にゴルドを殺そうとするくらいにはたかが外れているように思える。

 頬筋を伝う汗が妙に気持ち悪い。ゴルドは生きていて初めて死の危険を間近に感じた。

 

「分かったなら、ここからは喋るんじゃあない。余の言葉を聞き、余の問い掛けに頷くだけでいい」

 

 男の言葉にゴルドは沈黙で返す。男はそれに満足したのか、褒めるように入れ物の上部分を小突いた。

 

「ひとまず、貴様に起きた出来事を端的に言おう。貴様は黒のセイバーを使い、赤のランサーを見事討伐した。令呪は全て使い切ってしまったが、まあ結果としては上々だと言えるだろう、よくやった」

 

 そんな一切記憶にない事を褒め称えられてもゴルドは困惑するしかなかった。

 当然だ。あの時のゴルドは肉の芽で体を弄られ、その後爆散させられたのだから、記憶がある方がおかしい。

 だが、そんな事本人が知っているはずもなく、ゴルドは必死に思い出す努力をする。いくら頑張って掘り返しても出てくるはずも無いのに、記憶の糸を辿ろうとする。

 

「しかし貴様自身はある男に敗れた」

 

 その言葉を聞いた刹那、ゴルドは一人の男が脳裏に浮かんだ。

 それまで掘り下げていた記憶の渦より、鮮明に、鮮烈に、一人の男が再生されたのだ。

 黒の学生服を羽織り、金の装飾をいくつも付けた帽子を目深く被る長身の男。

 名は——

 

「名は空条承太郎。敗れた貴様は相討ちを覚悟で魔術を発動させた。結果、貴様が勝った。空条承太郎の体は木っ端微塵にでもなったのか、貴様らの戦場跡からは何も出てこなかったぞ」

 

 それを聞いた事により、承太郎と戦った事をゴルドは思い出した。魔術の魔の字も知らなさそうな男が使った、あの奇怪な力を克明に思い出す事ができた。

 思い出せば苛立ちが募る。自身を追い詰め、どんなことでも飄々とやってのける男。どれだけ追い詰めても、決して屈しない男。自身をコケにした男。自分とは真逆なほどに力強く、一人で支えもなしに立っていたあの男。

 その男が結果的に相打ち覚悟の自分に敗れたのだそうだ。

 正直に言って、その部分の記憶はない。赤のランサーと黒のセイバーの戦いで令呪を使った記憶がないのと一緒で、その部分だけ綺麗に抜け落ちてしまっている。

 それでも、湧き立つ感情があった。思わず、喉の奥より吹き出しそうなくらいの強い感情があった。

 それは歓喜。あの男に勝ったと言う実感。それがゴルドの乾いた心を充足させていく。

 

「空条承太郎は“あの方“にとって最大の敵だった。それを排除した貴様の功績は実に華々しい。よって貴様にはさらに働いてもらう事にした」

 

 男の声はゴルドにもう聞こえない。

 トチ狂った頭の中でゴルドは一人狂喜乱舞している最中だからだ。自分が置かれている現状も、入れ物の外にいる男の存在も、今後どうなるかの不安も、全部かなぐり捨てて、ゴルドは一人、己のやった事への満足感を堪能していた。

 声の男はそれを分かっているのか、くつくつと笑う。人間とは愚かな者だと、達観した視点から笑い捨てる。それはゴルドという個人を弄んで楽しんでいるのか、はたまた、人間という種族自体を馬鹿にしているのかは分からない。

 ただ言える事があるとするならば、声の男は手放しで人を喜ばせるほど好事家では無いという事だ。

現に、声の男は歓喜に打ち拉がられているゴルドを絶望の淵へ戻すため、彼の現状を事細かに話してみせた。

 

「くく、嬉しいか。それは良かったではないか。“首だけになってしまったが”、まだ貴様の体は肉の芽より排出された吸血鬼のエキスで屍生人化し、生き永らえている。頭さえあれば何とでもなる。脳というのはそれだけ人間にとっても、化け物にとっても重要と言う事だな」

 

 男の声に再びゴルドは現実へと意識を戻らされた。

 男は『首だけになってしまったが』と言った。ゴルドはその言葉の意味を何度も咀嚼する。

 確かに、目が覚めてから体が動かない。というよりも、体の感覚がないし、触覚も働いていない。気温を感じるのは首より上の部分だけだし、動かせるのも、眼球や口と言った顔のパーツだけだった。

 試しに、魔術回路を起動させてみる。が、何も起こらない。まるで最初から存在しなかったかのように、魔術行使するための神経が、すっぽりと体から抜け落ちていた。

 やがてゴルドはその言葉の意味を理解できたのか、震えるように口を開いた。

 

「首だけだと……私が……? 何を言って……」

「信じられないか? まあ、無理もない。記憶は無いとあの方が言っていたからな。ならば、見せてやろう」

 

 目に入る僅かな光量。今まで暗闇にいたゴルドの目には刺激が強すぎるせいか、思わず目を閉じてしまう。

 数秒して目の痛みも引きゴルドは恐る恐る目を開けてみた。なんてことは無い、朝に目を覚ます時のような気持ちで、うっすらと瞼を上げるのだ。

 目の前にいたのは、漆黒のコートを羽織った白い絹のような短い髪の男。その男がゴルドを見下げながら、気持ちの悪い笑みを浮かべている。

 次にゴルドは下を見てみた。そこには木目が広がっている。他にあるとすれば白い髪の男の影だけだ。

 そう、それしかない。木目と男の影しか無いのだ。

 手も、足も、腹も、胸も、なにも無い。いつも見下げればそこにあったものが、一つ残らず消え失せていた。

 

「か、体がない!! 本当に私の体が無いだと!! どう言う事だ!! どうなっている!! 何故私は生きているんだ!!?」

「喋るなと言っただろう? 虫唾が走る」

 

 泣き叫ぶゴルドに、それを一蹴する男。そこに慈悲はなく、あるのは妙に楽しんでいる男の顔だけだった。

 

「さて、復活の時間だ。貴様は今からこの石仮面を使って吸血鬼となる事で、体もくっつき元に戻る。喜べ。貴様はまだあの方の役に立てるぞ」

 

 漆黒のコートの中から見覚えのある聖遺物を男は取り出した。それは、ダーニックがヴラド3世を召喚するための触媒として、ナチス軍から大聖杯と共に盗んだもの。

 男はそれをゴルドの顔面に力強く押し付ける。当然ながら、首から上しかない男はそれを嫌がろうとも、剥がすことは出来なかった。

 

「な、何をする!?や、やめろ! 私に近づくな!!」

「ふん。血を与えてやろう、存分に働け」

 

 男はそう言って己の左手を掻き切る。皮膚は裂け、肉も割れ、赤黒く光る液体が石仮面へと浴びせられる。

 すると石仮面は血に呼応するかのようにカタカタと音をたて始めた。

 もう止めることはできない。石仮面は最初から組み込まれているプログラム通りに、その縁部分から何本かのトゲをゴルドの頭に突き刺した。

 

「ぐ、ぐああああああああああああああ!!!」

「下種でもいい啼き方をするものだな」

 

 皮膚が、肉が、骨が、全てが貫かれる音が聞こえる。鉄臭い匂いが充満し、脳を直接いじられている感覚はひどく気持ちが悪い。妙にこめかみの部分は熱く、生温かい液体がそこから垂れているのが分かった。

 目の前を見上げてみれば、仮面越しに男と目が合う。ゴルドは許しを乞うような目で見つめるが、男はそれを笑い飛ばすと、近くに置いてあったソファへと座り込んだ。

 少しして、先ほどまで木に接していた首の断面から肉の塊が吹き出す。それが、男の横に倒れていたひしゃげた体へと突き刺さり、段々と人間の形を整え、胴体から手や足、爪や体毛に至るまである程度再生してみせた。

 けたたましい叫び声が一頻り発せられた後、ゴルドはゆっくりと立ち上がる。

 痛みは無い。それどころか、高揚感すら覚えているほどに気分がいい。湧き上がる力が、破壊衝動が、人間をやめてしまったことを自覚させる。

 だが、そんなことは問題ではなかった。人間を辞すことへの辟易など、高揚感の前では塵芥のように消え失せている。ただ一つ問題点があるとするならば、ゴルドは無性に“渇いていた”。

 

「渇く、喉が、喉がひどく渇く!?」

「再生に大きく力がいるからな、……食事はそこにある、適当に食らえ」

 

 一瞬顔を歪ませた男が指し示す方向を見てみれば、見覚えのある者たちが何十体も転がっていた。

 どれも、自分が技術提供し作り上げたホムンクルスたちである。それが、手足をもがれ、腹を破られ、悲痛な表情を浮かべながら死んでいるのだ。

 そこでゴルドは確信を得た。ダーニックが持っていた石仮面といい、己が鋳造したホムンクルスの死骸といい、それを見て分からない程、ゴルドは馬鹿ではない。

 だが、一つだけ、一つだけ分からないことはあった。

 

「これはホムンクルスか!! ということは、やはりここはユグドラシルの城……、ならお前は一体何者だ!」

 

 そう、ここが黒の陣営の拠点だというのに、ゴルドは目の前の男を、全く見た事がないのだ。

 男は問われた事について、何も考える事なく、適当に答える。

 さも当然のように、己の名を誇示することもなく告げる。

 

「下らないことを口走るな、答えなど当に分かっているだろう? 余はヴラド3世。ランサーのサーヴァントだ」

 

 ミレニア城塞 地下部分。ゴルドと自分をヴラド3世と名乗る謎のサーヴァントらしき者がそこにいた。

 

 

 

 同時刻 ミレニア城塞一階の広間で三体のサーヴァントと三人のマスターが手持ち無沙汰に顔を突き合わせていた。

 別にお茶会をしているとか、談笑しているとか、そういったお気楽な会合を行っているわけではない。彼ら彼女らは歴とした聖杯大戦のための作戦会議を行うために集まっていた。

 数時間前に行われた聖杯大戦の初戦。結果は赤のランサーと黒のセイバーの引き分けであったが、黒の陣営はその結果に危機感を孕ませた。ただでさえ、アサシンのサーヴァントが謀反を起こした可能性がある状況下で、最高戦力を落とすというのは非常な痛手だったのだ。今回、こんな夜更けに作戦会議を行う理由としては、これが一番大きな理由だろう。予定では明日の夕方頃に行うはずだった。

 加えて現在ミレニア城塞に向けて赤のバーサーカーが真っ直ぐと歩いてきている。遠見の魔術で見る限り、バーサーカーだけが歩いてきているが、もちろん、単騎のみで攻め込んでくる訳もないだろう。戦術的にどのように闘うか重要になってくるし、バーサーカーの通った場所の魔術の隠匿についても頭を抱えるものがあった。

 セイバー脱落によるこれからの方針とバーサーカーに対する処置について話し合い。それを3時間前、キャスターが全マスター及びサーヴァントに呼びかけたのだが、集めた張本人であるファシリテーターがまだこの広場に顔を出していない。そのマスターも来ていないところから、何か工房でトラブルが起きているのかもしれないが、それでも所定の時間を2時間もオーバーしていた。

 

「キャスターの奴はまだこないのー?」

 

 最初に痺れを切らしていたのはライダー アストルフォ。今日の朝方、たまたま助けたホムンクルスの少年とどうやってここから抜け出すか話し合っている最中に、作戦会議に呼ばれたのである。それなのに呼び出した当の本人が来ていないのは、アストルフォからすれば迷惑な話だった。

 やる気というものが出ないのか、アストルフォは装飾として設置されているテーブルに、だらけた体を預けながら手をバタつかせる。妙にひんやりとした机が気持ちいいと、どうでもいいことを考えながら、ぶら下がっているシャンデリアを見上げた。

 そんなだらしないと言っても差し支えのないアストルフォを見て、セレニケは他のサーヴァントやマスターへの貫禄も考えてため息混じりに注意する。

 

「ライダー、駄々を捏ねないでもらえる?」

「だってマスター、あっちから呼び出しておいてこれは酷いんじゃあない? それに、ここの当主も当主だよ。ランサーとそのマスターは一体全体なにをしているのさ」

 

 アストルフォの言う通り、ユグドミレニアの当主であり、黒の陣営の要でもあるダーニックとそのサーヴァントは、召喚されてから一度も彼ら彼女らに顔を出していない。普通ならば、我先にと先立って指示や方針を決める立場のはずの者達だ。それが一度も新規サーヴァント達の目の前に出てこないのは流石におかしかった。

 それに関して不信感を募らせているサーヴァントはアストルフォだけでないらしく、その言及にアーチャーやバーサーカーの二体も反応した。セイバーを失った今こそ、ダーニックたちは姿を現し、黒の陣営を建て直さなければいけないはずなのだ。

 だがそれを弁護する者がこの場にいた。

 当主代理役であるフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。降霊術と人体工学に特化した魔術師であり、ダーニックの後継者と名高い人物である。

 彼女はアーチャーに車椅子を操ってもらいながら、アストルフォがだらけている方へ体を向けると、凛とした声をあげる。

 

「おじ様は現在聖杯大戦を優位に進めるため独断行動を取っています。現在の当主は仮初ですが私です。ライダー、あまり良く思われないかもしれませんが、そこは承知してください」

 

 流石にフィオレの言葉に気まずくなったのか、それとも背後に使えているアーチャーの冷たい視線に耐えられなくなったのか、アストルフォはあたふたとした態度で言い訳をする。

 

「いや別に、フィオレに文句があるって訳じゃ無いんだけどね。そのダーニックという人、僕たちになんの説明もなく独断行動しているからさー」

「おじ様にはおじ様の考えがあるのでしょう。いの一番にサーヴァントを召喚していますし、私たちには見えない戦局が見えているのかもしれません」

「んー、そう言うものかなー、僕にはもう少し違った“ナニカ“があると思うんだけどなー」

 

 顎に指を当てながら、可愛らしい言葉でさらりと無神経な事を言い放つアストルフォ。アーチャーはそれを見て、ため息をつきそうになったが、そこを長年生きた経験で堪える。

 アストルフォが感じていることは、正直に言うとサーヴァント全員が勘ぐっていることであった。

『ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアは何かを隠している』

 それがなんなのかは分からない。サーヴァント達もミレニア城塞内に不穏な空気が蔓延っているのを、召喚当初から把握していたが、誰もそれをマスター達に言わなかった。

 何故なら、この目の前にいるマスター達でさえどこかおかしいのだから。

 パスを繋いだ瞬間、その違和感に全員気がついていた。心話は使えないし、魔力供給の際に何か違和感を覚える。今回倒れたセイバーだってそうだ。ゴルドがおかしいことは重々承知していたが、それを見ないフリしていた。気がつかないフリをしていた。

 何故なら、彼は優しいから。優しさゆえに、マスターが隠しているならばと言及しなかったのである。それが結果的に不幸な事に繋がろうとも。

 

 だが、そんなサーヴァント達の胸中を知らない者がアストルフォの言葉に追い討ちをかけた。セレニケである。

 

「ライダー、何が言いたいの?」

「ごめんごめん、マスター。特に他意は無いよ、あはは」

 

 流石にライダー自身も口を滑らせたと理解できたのか、誤魔化すように笑うと、丁度良いタイミングにキャスターが現れた。

 キャスターは既に集まっているマスターとサーヴァント達の顔が、いつもより厳かになっている事に気がつく。

 

「すまない。遅れてしまった」

 

 自身が遅れたせいでそうなっていると思ったキャスターは、すぐさまみんなに謝るように軽く頭を下げた。

 先ほどまで、そんなキャスターの事を愚痴っていたアストルフォはと言うと、セレニケからの追求を免れる糸口を見つけたと思い、嬉々としてキャスターに話しかけた。

 

「あ、やっと来た! 本当だよ。そっちから招集させておいてさ、なんだって2時間も待たされなきゃいけないのさ」

 

 そんな見え透いている逃げ方ではごまかせはしないのだが、それでもアストルフォは内心、必死だった。

 アーチャーはそんな彼の姿に腑甲斐なさを感じながらも、助け舟を出すためにその会話に混じる事にする。

 

「はあ、ライダー落ち着いて。彼も工房での役割があります。責めるのは理由を聞いてからもでも遅くありません」

「アーチャーはこいつの肩を持つの?」

「そう言う訳では無いですが、遅れてきた理由くらいは聞きたいでしょう?」

 

 アーチャーの切長い目つきがキャスターを射抜く。

 一応はアストルフォへ助け舟を出すのが目的ではあるアーチャーだが、それを差し引いても、キャスターの遅刻原因は言明させなければいけない事だとも感じていた。

 それが堪えたのか、キャスターは一回肩を竦ませると、弁解のための言葉を言い連ねる。

 

「……ゴーレムの生成中に少し不備が発覚してね、それの修正作業さ。今はマスターに代わってもらっている。報告できなかったのは謝らせてもらうよ」

「そうですか、分かりました。ですが、今後はこういった事の無いよう連絡を怠らないでください。私たちはいいですが、作戦会議には他のマスター達も参加するのですから」

 

 アーチャーがそう言って見やるのは、己のマスターであるフィオレだった。彼女は女ということもあるし、まだ若い。睡眠時間を削らせてまで作戦会議をすることも反対ではあるのだが、状況が状況のため渋々参加している。

 それなのに二時間も報告なしに待たすのはフィオレのサーヴァントとして許し難い行為でもあった。

 まあだからと言って、アストルフォみたいにはしたなくだらけたりはしないのだが。それでも彼の中には確かな怒りが芽生えていた。

 厳粛するのは本人が来たその時に。

 まさに教師のような立ち振る舞いである。

 

「アーチャー、私は別に構いませんよ」

「俺もそこまで怒ってはいない、かな。退屈はしていたけど」

「私も何だっていいわよ。別にキャスターが遅刻してこようが、ね。だって……」

 

 フィオレはアーチャーの怒りを理解しているのか、静かにそう告げる。

 それに乗っかるようにカウレスやセレニケも同じく自身の意見を述べた。

 カウレスは自分で入れたコーヒーを飲みながら、セレニケは己のサーヴァントを妖艶な目つきで見ながら。

 マスター達の意見が出揃ったところで、今まで喋らなかったバーサーカー、フランケンシュタインの怪物が唸り声を上げた。

 彼女も自身のマスターを待たせたことは怒っているらしい。

 

「うぅ、ああ!」

「……マスター達はこう言っていますが、サーヴァントとして、いや人としても約束された時間を超過するのは良く無い事。重々ご理解していただきたい」

「ああ、すまなかった」

 

 この謝罪をもってこの話を終わらすということで、キャスターは発言し、アーチャーたちはそれを受け取った。

 

「それでは、遅れてきた私が言うのも何だが、早速、作戦会議を始めるとしよう。まずは、軽い現状把握から——」

 

 そう言って、魔術で映し出されたのは赤のランサーと黒のセイバーの戦闘風景であった。

 妙に霞みがかった映像は途切れ途切れながらも二人の剣戟を捉えており、サーヴァントやマスターに関わらず見ている者、全員を釘付けにするほど素晴らしいものだった。その証拠にカウレスやセレニケといった人間達から、思わず「うおー……」という歓声が上がっている。

 しかし、その中でも一体だけその剣戟を見ていない者がいた。その者は二人の打ち合いを見るのではなく、その奥に映る茂みの方をじっと眺めている。そこに何が潜んでいるのか、誰も気がつかないし、多分、その一体の視線に気づいたところで何も見えることは無いであろう。

 だが確かにそこにいるのだ。茂みの中に立つ金色の色をした何かが……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。