空条承太郎「聖杯大戦だと?」   作:よきき

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みなさま、感想ありがとう
ちょっと忙しくて返信できてませんが、ちゃんと見ておりますとも


EP15

 朝が来た。夜が明けて太陽がのぼる。文字で表せばそれだけのことなのに獅子劫の気持ちは晴れずにいた。その理由は明白で、彼が見た夢に起因している。生々しいブリテンの夢。ある騎士がある王へ叛逆した経緯を彼は実体験として垣間見た。

 

「まったく、変な夢見せんじゃねぇよ」

 

 彼は寝起きの声で不機嫌そうに開口一番、隣のベッドでくつろぐ己の相棒へと告げた。

 

「……よく分からんが、それオレのせいか?」

 

 理不尽な文句に、さしもの赤のセイバーも目を丸くしていた。

 

 二人が目覚めたのはシギショアラの小さなホテルの一室だ。念のため、借り受けた部屋ではなく別の人間が借りた部屋を暗示で占領している。

 魔術協会から連絡を受けた獅子劫は、トゥリファスへは向かわず、そのままシギショアラに滞在していた。歴史的な建築物で有名なこの都市は、突如種具現した連続殺人鬼による恐怖に支配されている、らしい。

 

「セイバー、ホムンクルスの嬢ちゃんから連絡は?」

「なーんにも……どっかで死んでんのかもな」

 

 赤のセイバーがそう言って疑わしい目で携帯を見ると、そのまま獅子劫へ放り投げる。

 トゥールがきちんと予定時刻にミレニア城塞へ帰還できているならば、赤のバーサーカー襲来には間に合っているはずだ。それなのに連絡を寄越していないとなると、獅子劫たちを裏切って元の主人たち側についたのか、それともセイバーの言う通り連絡をする前に消されたのか……。

 そこまで考えた獅子劫は深いため息をついた。どちらにせよ美味しい情報を手に入れる予定が狂ってしまったことに変わりはない。あの胡散臭い神父すら出し抜けるチャンスと思ったが、人生はそこまで甘くないようだった。

 

「そう言えば承太郎はどこに行った」

 

 ふと部屋を見渡せば、あの図体のでかい男がどこにもいないことに獅子劫は気がつく。

 

「あー、デク野郎なら着る物を仕立てに出かけた。随分とボロボロだったしな」

「はあ……随分とお気楽で。一応、この街にはサーヴァントがのさばっている危険性があるんだがな。しかも、あいつと縁があるかもしれないサーヴァントときた」

 

 獅子劫はそう言うと目頭を揉み解しながら、昨日の会話を思い出した。

 

 

 

 

 

 

『あー、少し狩りをしにいかなければならなくなったから、とりあえずシギショアラに滞在だな』

『はァ? 滞在だ? おい、トゥリファスでの物見はどうなるんだよ』

『悪いが、延期。少し黒い情報が入ってきてるからな。なんでも、バックアップとして用意された魔術師が、何人も殺されているらしい』

 

 獅子劫はメッセージをセイバーに押し付け、ホテルで提供されている新聞を広げた。ぱらぱらと捲っていくと、気になる記事を見つけたのかそれに目を通す。

 一通り全て目を通し終わったのか、承太郎とモードレッド、トゥールにそれを差し出した。承太郎がそれを受け取ると、当然、ルーマニア語が読めるわけもないので、文字などみずに掲載されている写真だけを見た。

 新聞紙には何名かの顔写真が乗っていた。男と女、あまり共通点という共通点は見受けられないが、どれもある程度の年齢を重ねている人たちである。

 

『ロード・エルメロイからある連絡があってな、独自に調べてみたがどうやらシギショアラで猟奇連続殺人が起きているらしい。そこに載っている顔写真は全員魔術師だ』

 

 話に興味を持ったのか、立ち上がったセイバーは承太郎の背中に体重をかけると、身を乗り出し獅子劫に問いかけた。

 

『つまりどういうことだよ、マスター?』

『猟奇連続殺人で被害者は魔術師。こんなことができるなんてサーヴァントしかいねーよ。しかも、その魔術師たちは魔術協会がシギショアラに配備した魔術師ときた』

『それってつまり、黒の陣営のサーヴァントが暴れているってことだな!』

 

 獅子劫のまとめにそう笑顔で答えるモードレッド。しかし、獅子劫はそれだけじゃ足りないと言わんばかりに「チッチッチッ」と指を左右に振りながら話をつづける。

 

『問題はなぜ殺すのかだ。トゥリファスに拠点を置くユグドミレニアのマスターたちがわざわざサーヴァントを連れて、こんなド派手はことをするのは考えにくい。シギショアラで奴らを殺す必要性も低いしな』

『そんなもん、数を減らすためとかじゃねーのか? オレも生前数多の戦をしてきたが、物量というものは中々に厄介な要素だぞ』

『最初は俺もそう考えた。だが、トゥールを見て違うと思ったね。相手はこいつみたいなホムンクルスを何百と抱えているはずだ。物量に関してはそれほど問題がないはず。つまり、この程度の魔術師を殺して俺たちの戦力を削ぐよりも、城に篭って待ち構えていた方がユグドミレニアの連中も危険が少ないってもんだ』

 

 獅子劫の言葉にトゥールも頷きで返す。この中で一番、黒の陣営について詳しい情報を持ち得ている彼女も、獅子劫と同意見だった。

 聞き耳を立てていた承太郎は新聞を見終わったのか、背中に体重をかけていたモードレッドにそれを押し付けると、鬱陶しそうな目で獅子劫を見る。

 

『つまり、何か他に殺さなければいけない理由があって、そいつは魔術師を殺しまわっているということか?』

『ああ、そういうことだ。サーヴァントが魔術師を殺して回る理由、すぐに思いつくものとしては魂食いだろうなー』

 

 それを聞いた承太郎とモードレッドが同時に顔を歪ませる。魂食いの意味があまり分かっていない承太郎はその唾棄すべき単語自体に不快感を感じ、モードレッドは英霊らしからぬその行為自体に不快感を感じた。

 

『ジョジョにもわかるように説明するが、サーヴァントといえど使い魔だ。その膨大な魔力は確固たる供給源を必要とする。魂食いは、その供給源を確保するための行いだ。この推理を証拠づけるように、ほら、死体からは皆心臓が抉り取られているらしい。心臓はサーヴァントにとって霊核のある場所であり、人間にとっては生命の源だ。それを食らうことで魔力をつけているんだろう』

 

 獅子劫はそう言って、モードレッドが見ていた新聞の一文を指差す。モードレッドはその文章を注視して、軽い舌打ちを繰り出した。

 しかし、そんな気に食わないものを見たモードレッドとは違う反応を承太郎がする。

 

『心臓を抉り取るだと?』

『気づいたかジョジョ。そうこの殺し方は、数日前まで日本で起きていた殺人事件に酷似しているものだ。日本での犯人はお前を襲ったサーヴァント。シギショアラでの殺人事件もこいつが関与しているとみて間違い無いだろう』

『ヤロー……』

 

 承太郎の拳を握る力が自然と入る。あそこであいつを仕留めておけば、死ななくてよかった命があるかもしれない。そう思うと、苛立たずにはいられなかった。

 

『問題がこれだけなら楽だったんだがな、魂食いを行っているということで一つ問題がある。これは前から考えていた問題なんだが』

 

 獅子劫は困ったように頭を掻きながらそうボソリと話す。

 あれだけ豪胆な獅子劫がこんな風に頭を抱えながら話すということは、あまりにも珍しい。戦場でも慣れた手つきでその場その場での最適解を導き出すような人間だ。それが、今目の前で困っているというのはどこか新鮮に感じるし、不安を感じてしまいそうにもなる。

 

『魔力供給が確保できてないっていうことは、つまり、マスターは若輩魔術師か偶然召喚してしまったど素人かに二分されるってことだ。ユグドミレニアも魔術協会も、中途半端な魔術師は介入させないはずだろう。となれば、必然的に後者の線が濃くなる。その場合、素人マスターはこのサーヴァントに操られているか、脅されている可能性がある。聖杯について知って、共犯している可能性もあるが、日本は平和な国だ。そう易々とこんないかれた所業に手を貸す人間は現ないだろうしな』

 

 日本は平和な国だから、という言葉に首を傾げるモードレッドとトゥール。

 それもそのはず。モードレッドやトゥールの目の前には、魔術師の心臓を兵器として改造し、今ではヒュドラの幼体で武器を作っている獅子劫と、隣には日本では禁止されているはずの未成年飲酒喫煙を無視し、ビールの缶でショットガン飲みしている承太郎がいる。こんな奴らが日本人なんだから、殺人を平然とやってのける日本人がいても驚かない。逆にそれに対して驚くなら、今、目の前で繰り広げられている惨状に腰を抜かすレベルである。

 

『いずれにせよ、これは神秘の隠匿という魔術協会の主義に真っ向から反している。これは俺の仕事でもあるってわけだ。マスターについてはとりあえず保護することを目標としよう。共犯の場合は手加減しなくていいだろ。なんせ殺人鬼に手を貸すような奴だからな』

 

 獅子劫がそう締めくくるように言うと、モードレッドは何か気づいたのか飲み終わったビール缶を握り潰している承太郎に向かって問いかける。

 

『そういや真名とか分からねーのか、デク野郎。一度、戦ってんだろ』

『……確かジャック・ザ・リッパーと名乗っていた、はずだ』

 

 そう言ってジャック・ザ・リッパーとの戦闘を思い出そうとする承太郎だったが、何故か名前以外は何も出てこなかった。霧がかかったようにそこだけ記憶が曖昧で、すっぽりと何かが抜けた落ちた感覚がするのだ。戦った承太郎本人ですら本当に自分はジャック・ザ・リッパーというサーヴァントと争ったのか疑問に感じるくらい、何一つ思い出せない。戦い方から相手の容姿まで何もかもだ。

 黙る承太郎を不思議に思ったのか、獅子劫は承太郎に声をかける。

 

『どうした?』

『いや、どうも記憶が曖昧でな。名前以外思い出せん』

 

 それを聞いて目を丸くする二人。モードレッドは承太郎を責め立てるように詰め寄り、獅子劫は何かその現象に理由がないのか考察を始めた。

 

『はあ? 何とぼけたこと言ってんだよデク野郎!』

『自分の情報を抹消するスキルか何かか。厄介だなこいつは……』

 

 何事かを決めたのか獅子劫はその場を立つと、荷物を漁り始める。急に慌ただしく動き出した獅子劫にモードレッドはついていけないのか、困惑しているようだった。

 

『今日は準備期間にする。ジャック・ザ・リッパーは、明日、確実に叩くとしよう』

『おいおい、マスター。一人で会話を進めるなよ。オレ達にも分かるように説明しろ』

 

 モードレッドの要望に応えるため、獅子劫はなるべく早口で自身が行動に至った理由を説明する。

 

『黒のアサシンが自身の情報を抹消できるということは、一度逃せばまた振り出しに戻っちまうってことだ。そんないたちごっこに付き合うつもりはない。まだ戦局が大きく動いていないうちに一気に叩いた方が良いと判断した。O K?』

『なるほどO Kだ……つまり、今日は暇だってことだな!』

『『『……』』』

 

 何も理解していなさそうなその返答に呆れ返る三人。だが、それに突っ込んだところで意味もないだろうと思い、ジョジョと獅子劫、トゥールは自分にできることを成すため、それぞれ準備を始めた。

 

 

 

 

 

 そして、時は戻り現在。

 獅子劫は思い出した記憶を整理しながら、ため息を一つこぼした。今日がとうとう、ジャック・ザ・リッパーを討伐する日である。昨日、一日かけて作り上げた虎の子も、今では獅子劫のポケットに仕舞われていた。

 セイバーの試運転も終えていない現状、不安要素は確かに多い。どこまでやれるのか、連携はきちんと取れるのか、考え出したらキリがないくらいだ。それでも、やれることはある。相手がどのようなサーヴァントだったとしても、最低限、負けないだけの準備はしてきたつもりだ。

 後は、承太郎のスタンドがどこまで有効に働くか。そこが肝になってくる。

 

「はぁ……スタンドねえ……」

 

 獅子劫は髪の毛を掻いて、天井を仰ぎ見た。

 セイバーはその呟きを聞いて、眉をピクリと動かす。

 

「マスター、そのスタンドって本当に使えるのか? オレはあいつから膨大な生命のエネルギーが出てること以外、別に特筆する点が見つからん」

 

 そう聞かれ、スタンドを魔術的観点から一時期研究していた獅子劫は唸る。

 スタンドというものは非常に稀有な能力であり、有益な力と言えるだろう。存在そのものが封印指定をくらってもおかしくないものである。魔術師の中でも、その存在を知り得る存在は一派を率いる君主か、はたまた魔術師の中でも相当な物好きくらいだ。

 獅子劫が知っていたのは、たまたまアブドゥルというスタンド使いと知り合いになれたからであり、それはとても幸運なことでしかなかった。普通の魔術師であればその存在すら勘付けず死んでいっている。何せスタンドはスタンド使いにしか見えないのだから、その存在を立証することが他者にはできないのだ。

 まさに超能力を具現化した存在。あるいは超能力そのもの。魔術とは別系統の神秘である。

 

「セイバー。俺はな、意外とジョジョを買ってたりするんだ。いや……どちらかと言えば、ジョースター家というものに固執してるのかもしれん」

「あ? それはどういう意味だよ」

 

 セイバーは意味がわからないと言った様子で首をかしげた。

 けれど、獅子劫がそれについて説明することはない。寝ていたソファから立ち上がり、水の入ったボトルを冷蔵庫から取り出すと、それを開ける。

 そして飲み終えてから、獅子劫は今日のスケジュールについて話し始めた。

 

「とりあえず、俺は昼間、死体安置所で魔術師の死体を見ておくつもりだ。死体の痕跡から何か分かるかもしれん」

「つまり夜までフリーか」

「行動を共にしてくれた方がありがたいがね。昼間だし、強制はしない。もったいないが危険だと判断したら令呪でも使う」

 

 とはいえ、獅子劫は令呪を使うことはないと踏んでいた。ざっと昨夜のうちに魔術師殺しの事件を調べたが、いずれも夜間に起こっている。昼間に活動しないのが犯人の心理なのか、はたまた昼間に行動できない理由でもあるのか。いずれにせよ、昼間に襲撃される可能性は低い。まあ、そんな状況でもなければ、獅子劫が承太郎の身勝手な外出を許可するはずもないのだが。

 

「それじゃ、オレはデク野郎でも探すかなぁ。暇だし観光案内でもさせる」

 

 セイバーは承太郎を連れて街へぶらつくことにしたそうだ。ベッドから飛び上がったセイバーは、そのまま承太郎を探すべく外へと飛び出して行った。

 何気に彼女も承太郎を気に入っている節がある。生命エネルギーがサーヴァントとの関係に何か影響しているのだろうか。魔術師として生まれてきた獅子劫には一生わかることのない感覚だった。

 

「けど、この街でアイツが目移りするようなものはないんだけどな」

 

 部屋を出て行ったセイバーの姿を思い出しながら、獅子劫は窓から見える中世の街並みを呆然と眺めるのだった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 すらりと縦に伸びる青黒く丈の長い外套。それに合わせて作られた帽子とパンツ。それらを着込んだ承太郎は全身鏡の前に立ち服装の仕立て具合を確かめる。

 先々日のゴルドとの戦闘により台無しとなった学生服を、シギショアラの服飾店で新しく仕立ててもらったのだ。朝一番で店に服を持ってきたが、流石はプロ。ものの数時間程度で全く同じような服を作ってしまった。

 

「んまぁ〜、よくお似合いで。私も長いことこの店で働いていますけど、こんな変わった服の注文は初めてでしたぁ〜!」

 

 妙に甘い声をあげる女性店員は、全身鏡の前にたたずむ承太郎に向けて賞賛の言葉を投げかけた。女性店員からすれば、これだけガタイが良い男性の服装を仕立てることなどあまり無い経験だったのだろう。その表情には自身が作り上げた服装への賞賛も含まれていように思える。

 

「いい腕だ。また何かあったら頼む」

 

 承太郎も女性店員の腕は確かなものとして認めたのか、ポケットから時計などを打って浮かせた金を出して渡した。チップが少々多い気もするが、かなり無茶な注文を聞いてくれたお礼と思えば安いもの。ひとしきり満足いく仕上がりだったのだからこれくらいの成果は与えて当然とも言える。

 

「毎度ありがとうございます」

 

 女性店員がそうやって頭を深々と下げるのを一瞥した後、承太郎はその店を後にした。

 思ったより服装の仕立てに時間が掛からなかった承太郎はそのまま手持ち無沙汰となる。聖杯戦争について何か調べようにも、承太郎が目指す黒の陣営はトゥリファスにいるため、この街でできることはほとんどないし、さらに先ほど携帯で「昼の間はフリー」と獅子劫から連絡がきたため承太郎のすることは無くなった。

 祖父ジョセフさえいれば、色々とできたかもしれないが、今は母ホリィの看病でつきっきり。諜報活動をしようにも承太郎にはツテと方法に限界があった。

 かといってこのまま何もしないのでは話にならない。今回ここシギショアラに来た理由である魔術師殺しの事件を解決するためにも、土地勘が必要になってくるであろうことは明白であった。そのため適当に徘徊しつつも、戦闘時に使えそうな場所や逃げ込みやすい場所などを承太郎はくまなくチェックしていく。特に人目のつきそうなところであれば、もしかしたら魔術の秘匿の関係で戦闘を回避できるかもしれないため、そういう場所は入念に頭へ叩き込んでいくことにした。

 

「おっ、デク野郎、探したぜ」

 

 街を散策していると、そんな言葉が掛けられる。

 振り返れば、そこにはラフな格好で身を包んだセイバーが、ミカンが入った紙袋を片手に歩いていた。

 

「よお。何か用か」

「用って言うか、暇つぶしだな。マスターから聞いてるだろ、夜までフリーだ」

 

 セイバーがそう言うと、承太郎の横に並び立つ。

 承太郎はふとミカンの入っている紙袋を見て、

 

「ミカンか。ちょうど喉が渇いてたところだ、一つ貰うぜ」

「オウ。持ってけ、持ってけ。思ったより甘くないから、オレの好みじゃねーしな」

 

 そう言ってセイバーから紙袋を押し付けられる。正直に言えば、承太郎はみかん一つ貰えるだけで良かったため、これはありがた迷惑だ。そのため、どこかに物乞いでも居れば、分けてやろうと心の中で決めた。

 

「ていうかよォ、またその格好か、デク野郎? どうせなら、もう少し動きやすい服を仕立てもらえよなァ」

「フン。学生は学生服って相場が決まってんでな。悪いが服装をとやかく言われるつもりはない」

 

 承太郎は花京院のセリフを思い出しながら言った。

 あのクソ暑い海上を、二人で日光浴していたのは懐かしい。妙にそう言ったファッションセンスで彼と意気投合したのは、今でも懐かしく感じられた。

 

「ふーん……訳わかんねーけど、それが武士道ってやつ? 時々、マスターも意味分かんねーところで硬いし、日本人ってのはみんなそういう奴なのかね」

 

 セイバーは承太郎の服装に興味が失せたのか、そう言って街をぐるっと見渡す。承太郎に出会うまで、少しばかり見て歩いたが、やはりこの街にセイバーが目新しく思うものは何一つなかった。強いて言うなら、美味しそうなレストランが、軒並み揃っているくらいだろう。現代人から見たら心惹かれる古臭い街並みも、セイバーからすれば「馬鹿じゃねーの」の一言で終わらせられる。

 だからセイバーは「よし」と一言入れて、承太郎に向けて言い放った。

 

「ステーキ食いにいくぞ」

 

 だが、当然そんな突拍子もない提案を承太郎は拒否する。

 

「嫌だね。腹が減ってねえ」

「んじゃー、なんなら腹に入るんだよ」

「やれやれ。飯を食うことしか頭にねーのか、お前は」

「んだとう! オレの趣味をバカにすんのか!」

 

 セイバーががるっと吠えた。

 承太郎からしてみれば、別に食事じゃなければ付き合ってもいいのだが、セイバーはどうしても何かを食べたいらしい。娯楽の少なかった過去の英霊からすれば、それでしか時間を潰す方法を思いつけないのだろう。昔の人間は、エロか、食事かで娯楽の大半を占めていたと聞いたことがある。いや、流石にそれは言い過ぎだが——。

 

「分かった、分かった。めんどくせーから、それでいい。せめて胃に優しいもんにしてくれ」

 

 承太郎は仕方がないと言う形で、とりあえずセイバーの要望を飲んだ。ただでさえ、承太郎の偉丈夫に周囲の視線が集まっているのだ。これ以上騒がれでもしたら、街の目が一斉に集まってしまう。セイバーはそんな承太郎の心労など気がつかないのか、「よっしゃ」とガッツポーズした。

 

「じゃあ、ステーキで決まりだな!」

「おい、人の話聞いてたか? 胃に優しいものにしろと」

「レッツゴーだ! 遅れたら、テメーの奢りにするからな、デク野郎!」

 

 そう言って駆け出してしまうセイバー。この街のステーキ屋なんぞ知るはずもないのに、一人で行ってしまった。

 そんな後ろ姿を眺めながら承太郎は、いつものようにこう呟く。

 

「……やれやれだぜ」

 

 いや、この「やれやれだぜ」は本当に、共感せざるを得なかった。

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