空条承太郎「聖杯大戦だと?」   作:よきき

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こちらに関してはほぼリメイク前と同じですね。
読み返しても、かなり完成度が高いなと自惚れました。
まあ、無理やり今のに直したから、質が下がったのは仕方ない。


幕間01

 タンデムツーリングを始めて2時間。

 その間、承太郎と少女は色々なことを話した。と言っても、本当は少女の方から暇つぶしにと承太郎へ話しかけているのだが。

 例えば、少女の名前が「レティシア」だということ……

 次に、熱心なクリスチャンであるということを教えられた。

 バイクの運転中に、そんなに話していいのか疑問ではあるが、レティシアからしたらバイクの後ろは実に暇なものである。常に揺れを警戒しなければいけないため、どこかには捕まっていないといけない。景色を楽しむにも、途中から街並みはすっかり消え、代わり映えしない風景だけが巡っていた。

 そんな時、承太郎が一軒の飲食店を見つける。ポツリと建てられた店からは、微かに光が漏れ出ていた。看板には大きな文字で「Restaurant」と書かれている。なんと率直で分かりやすい店名だろうか。

 

「おい。ちょっと停まるぞ」

 

 ここまでずっと飛ばしていた承太郎も、少し休憩を挟みたかったのか、そう提案した。

 レティシアからすれば、別に休憩は不要なのだが、己のために先を急がせるわけにもいかない。そのため、レティシアは素直に承太郎の厚意を受け取ることにした。

 

「ええ、そうしましょう! ジョジョも疲れてるでしょうし!」

 

 承太郎とレティシアは店の前にバイクを停め、入店する。からんからんとベルの音が響き、そこに一人の店主と思わしき人間が出迎えた。

 二人は適当に店主に挨拶し、空いているテーブル席へと座る。彼女ら以外にお客さんはいないらしい。店主もそんな店内の状況を憂いている様子はなかった。これがここの平常運転なのだろう。

 

「先に決めな」

 

 承太郎は一つしかないメニュー表を差し出して言った。レティシアはそれを受け取り、メニュー表を開けると同時に、唸り声をあげる。

 どの料理も写真では華々しい彩りを散らばせ、食欲をそそられる。2時間も夜の道路でタンデムツーリングをしていた彼女からすれば、尚更それが強い。空腹を知らせる腹の虫が、自分にしか聞こえない大きさで自己主張を繰り返している。

 メニューの1ページを上から下へ流し読みしたジャンヌは「カルボナーラパスタ」の欄を指差した。理由は簡単で、一番量が多そうだったからだ。

 

「えっと、じゃあこれを」

 

 承太郎はそれを見て確認すると、アイコンタクトをして店主に声を掛ける。

 

「15番と41番を頼む……あと紅茶を食事前に二つくれ」

 

 手短にそれだけ告げられると、店主は後ろのキッチンへと向かって行った。

 手慣れた様子でタバコを吸い始める承太郎。レティシアは荷物から暇つぶしにと出し的た教科書を一旦置き、そちらを一瞥する。どうやら依代となっている女の子が、彼との距離感に落ち着かないらしい。

 場を和ませるために何か話すべきだろうか。レティシアは内心首を傾げ考えてみた。話すとしても、今日会ったばかりの男の子と盛り上がる話題が見当たらない。それに目の前タバコを吸う彼が、お喋りな人間とは到底思えなかった。

 空条承太郎という人間はレティシアから見て物静かな男である。ワイルドで迫力があるのに対し、知的な面を持ち合わせている不思議な男だ。感情というものをあまり表に出さず、こちらには無関心なのかと疑ってしまいそうになる。

 生前に出会った殿方には彼のような男はいなかった。みな、獰猛な戦士か、野卑な農兵、清廉な騎士ばかりである。

 依代の彼女も彼のような男の人と接する機会がなかったせいか、若干通常よりも強く彼を警戒していた。

 ほどなくして、承太郎がポケットから何かメモ帳のようなものを取り出す。そこにはレティシアはもちろん、依代の女学生も見慣れない文字が綴られていた。きっと承太郎の母国語なのだろう。

 ふと、レティシアが承太郎への話題を思いつく。

 

「あの、ジョジョは日本……という国から来たのですよね。かなり外国での過ごし方にも慣れていますし、やはりどこかの貴族だったりするのですか?」

 

 日本の事情については疎いため、そんな風なことを聞いてみる。

 レティシアが現在もつ日本の知識は、第二次世界大戦の敗戦国であり、そこから様々な問題を乗り越えて、高度経済成長を起こしたという事くらいだ。これは暗に依代の女学生がその程度の知識しか持っていないことに直結している。

 故に、彼の財力は貴族特有のものと思った。

 承太郎はメモ帳から目を離すと、首を振ってこう答えた。

 「いいや」と。

 

「高祖父の時代まではジョースターというイギリスの名門貴族だったらしいが、その時代については俺も詳しくは知らん。今ではイギリスに縁も無い」

 

 イギリスという言葉が一瞬引っかかるも、すぐにイングランド王国が合併した後の国名だと気づく。となれば、彼の家が貴族だったのは1800年代以降の話なのだろう。

 

「そうなのですね。貴族じゃなくても望む国へ渡航できる。いい時代です」

 

 それを聞いて承太郎は訝しげな顔をした。

 

「そう言うあんたも貴族には見えんが?」

 

 尋ねられたレティシアの服装は、どこかの制服と言われてもおかしく無い格好である。承太郎と合わされば、二人の学生が辺鄙なレストランにいるように見えるくらいだ。

 どこからどう見ても、金持ちには見えない。

 

「はい、私も貴族では無い、何処にでもいる学生ですね。ただ、昔はそうはいかなかったのだなと思うと少し思うところがあるのです。教育だって満足に受けられない時代でした」

 

 レティシアは適当な嘘を織り交ぜながらそんなことを言った。

 彼女は承太郎に黙ってはいるが、少し特殊なサーヴァントである。この世に本来存在するはずのない魂であり、肉体を保有している亡霊。だからこそ、こうして昔のことを真剣に憂いてみせられる。

 だが、自分が過去の亡霊だと、外国の一般人に対し、仰々しく名乗るほど()()()()()()()()()()()()()()()()()は馬鹿では無かった。承太郎という人間には聖杯大戦について隠す配慮が、ルーラーとして必要である。

 当然、そんな憂慮にも気づくことなく、承太郎はソファの上で上体をわずかに傾けた。

 

「教育、か。確かに、識字率という点であれば、ヨーロッパは中世あたりまでそこまで高くなかった。増え出したのは中世後期にかけて。爆発的上昇は産業革命のあとだったか」

 

 承太郎の言うとおり、昔は文字の重要性があまり高くなかった。騎士や貴族であれば秘書官をつければ良いだけの話だし、農民たちからすれば口頭だけで全てが片付いた。

 文字の重要性が示唆されだしたのは、中世後期あたりに開発された活版印刷のおかげである。書物の生産が簡単になり、文字を読み書きする機会が増えたことが第一の要因となった。

 

「ええ。中世初期の頃まで文字の読み書きで必要とされたのは現地語ではなくラテン語です。多くの聖書がそれで書かれていたためですね。活版印刷もなかった時代ですし、逆に言えばそのくらいでしか文字というものの使い道がありませんでした。上流階級や知識層であれば、数少ない書物を読んだりしていたのですが」

 

 そんなことを言いながらジャンヌが思い出すのは、自分が書けた文字についてだった。

 最後まで自分の名前を書ける程度しか教養が身につかなかったが、結局はそれで人生の幕を閉じたのだったなと感慨深くなる。

 ジャンヌは店主が持ってきてくれていた紅茶に、砂糖を入れ終えると、ゆっくりそれを啜った。甘く仕上がった紅茶。まるで彼女の人生とは大違いだ。

 

「だとすれば、一般人に聖書は読めなかった事になるぜ」

 

 承太郎が至極当然の疑問を口にする。

 

「仰るとおり、文字での宣教ができないのであれば、出てくるのが絵や彫刻といった偶像です。言葉の通じない外国人に布教するときも、この方法が用いられました。それが起因でカトリックやプロテスタントが誕生したくらいですし」

 

 プロテスタント、などと彼女は言っているが、本当の意味でジャンヌはプロテスタントというもの知らない。プロテスタントが台頭してきたのは16世紀の宗教改革時。ジャンヌが生きたのは15世紀のこと。所詮、レティシアから借用した知識をひけらかしているだけに過ぎない。

 それでも彼女には思うところもあるらしく、宗教改革について知ったときはいくつかの考えが巡ったりはした。

 

「キリスト教と言っても信仰者がみんな同じ考えを持っているわけではありません。多くの人が集まれば、それだけ多くの考え方があるということです。一致団結ではなく烏合の衆。人の世は必然的にそうできている」

 

 まとめあげるというのがいかに難しいことなのか、戦争に出たジャンヌは知っている。シャルル7世という王もそれについては頭を悩ませていた。

 一つの大きなカテゴリーが存在しても、結局その中にはいくつもの勢力がある。集団というのは円ではなく、樹木なのだ。大きな一本の幹があり、そこから枝葉となっていくつも分かれている。栄養分を多く摂取するためには、同じ木の仲間であっても枝葉を減らさなければならない。

 宗教、政治団体、民族。国によってその枝葉のあり方は違えど必ず存在している。

 

「随分と知的な話だ。学校ではそういうのを勉強するのか?」

 

 承太郎がジャンヌの持っている教科書を指差しながら言った。残念ながら、指をさされたのは一問も解けていない数学の教科書である。

 

「い、いや、まあ、自国の歴史について学ぶのは当然のことですよ」

 

 歴史については語るのに、数学における自分の学の無さに気づかれたのかと思い、咄嗟に開いていた教科書を閉じる。この行動を起こさせた主人は一体どちらの少女なのか。それは誰も分からない。

「あはは」と乾いた笑みをジャンヌが漏らしていると、店主が次に料理を持ってきた。

 

「どうぞ、ごゆっくり」

 

 それだけ告げると店主はカウンターに戻る。ジャンヌは酷い羞恥心から解放されたおかげか、どうしようもなく深いため息を吐いた。

 目の前にはジャンヌの頼んだ、カルボナーラパスタと付属のポタージュスープとサラダが丁寧に置いてある。承太郎の目の前にも、彼が頼んだのだろうグリルチキンとパン、サラダが並んでいる。

 

「美味しそうですね……」

 

 鼻腔をくすぐるように、カルボナーラのクリミーな香りが匂い立つ。15世紀に生きたジャンヌにとって、パスタという麺類の食べ物は心底新鮮な食べ物であった。

 というよりも、外国の伝統料理を食すこと自体が新鮮と言っても良い。聖杯大戦に呼ばれ、初めて彼女は心より第二の生を喜べそうになった。

 

「冷めるぞ」

 

 承太郎はそう言って、さっさと自分が頼んだグリルチキンにナイフとフォークを差し込む。

 ジャンヌもその言葉に従い「では、いただきます」と祈りの言葉を捧げ、フォークと“ナイフ“に手を伸ばした。

 フランスではパスタをナイフで切り、フォークに乗せて食べる人がいるらしい。レティシアはどうやらフォークを使う派だったようだ。イタリア人が見れば、瞠目してしまうほどの食べ方だが、日本人が箸を使ってパスタを食べるのと同じである。

 湯気が立ち上るカルボナーラをナイフで切り分けて、口にする。

 途端、濃厚なクリームともちもちとした生麺の感触が口で弾けた。これは堪らないと、つかさず分厚切りにされたベーコンを頬張ってみる。閉じ込められた肉汁と、塩っけがクリームの甘さにマッチし、舌に直撃した。

 カルボナーラを半分ほど食した頃、中央に乗っている黄身が目に入る。これはどうやって食べるのか一瞬迷ったが、レティシアの知識がすぐに回答を出した。

 黄身を潰してみれば、黄色の液体が麺へと浸透し始める。黄身とベーコンと麺をナイフで小さく切り、フォークに乗せて口に運ぶ。先ほどまでとはガラリと変わった味。黄身特有の濃さが、よりカルボナーラのコクを引き立たせる。

 1400年代に食べた食べ物と、このレストランで出された食べ物とは、根底から何かが違った。口にすればするほど、食事という快楽に没入するのが分かる。

 ものの数分でカルボナーラを平らげてしまいそうなジャンヌを見ながら、承太郎は上野動物園にいるパンダを思い出した。彼ら彼女らも四六時中笹を食っている。しかも、幸せそうな顔で、だ。今のジャンヌとパンダは同種族である。

 

「……やれやれ。千代の富士を見ている気分だぜ。おいレティシア。追加で何か食うか?」

 

 既に片付けていたメニュー表を引っ張ってきながら、ジャンヌにそれを差し出す。

「良いのですか?」と、言葉では遠慮しているものの、態度が遠慮できていないジャンヌは、忙しくメニュー表を吟味する。

 

「そんな飢えた子犬みたいな目をしている奴に我慢させるほうが酷だぜ。さっさと選びな」

「では、これを」

 

 迷わずにトマトパスタの欄を指差す。

 承太郎はあまりの早さに、少しばかり思案し、再度問いかける。

 

「……他には」

「すみません、じゃあこれも」

「少し待ってろ」

 

 結局、ジャンヌのためにトマトパスタとボロネーゼを追加注文してやることになる。この光景を生前の彼女を知る者が見れば、実にジャンヌらしいと微笑んでくれるのだろう。

 しかしこの場にいるのはかつての戦友では無い。一人の日本男児である。

 承太郎は切り分けたグリルチキンを一口食べると、店主に声をかけた。

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