なので許してください。
てか、リメイク前の流れはもう割愛したいので、日時関係なくぶち込んで行きます。
目に見えぬほどの凄まじい剣戟。
人の身では体現できないであろう、神業の応酬。
いくつもの斬撃といくつもの槍撃が打ち合ってはいなし、斬りつけては突き返しを繰り返していた。
黒のセイバーであるジークフリートは冷や汗を額に垂らしながら、先ほどから対峙している赤のランサーを見る。
涼しげな瞳。何もかもを見透かしているとすら錯覚してしまうその瞳に、ジークフリートは内心で唾棄した。ジークフリートの剣捌きは、赤のランサーの槍によってほぼ全ていなされている。決定打になる攻撃を一つも打ち込めていないのだ。
対して、赤のランサーの攻撃は、ジークフリートの悪竜の血鎧を超え、かすり傷とはいえ着々とダメージを与えている。Bランク以下の物理攻撃、魔術攻撃全てを無効化するジークフリートの宝具も、目の前にいる赤のランサーにとってはただの分厚い鎧でしかなかった。
このまま剣戟での勝負では、ジリ貧になると理解していたジークフリート。しかし、反面、ここで魔力解放をしてしまえば、後方にいるであろうマスターたちに、どのような影響を与えるのか分かったものではない。少し離れたところで見守っているジャンヌも、同じことを考えているらしく、ジークフリートとカルナの流れ弾から、承太郎たちを守るように立っていた。
「このままでは、お互い全力を出せず朝まで打ち合うことになるな」
突然、カルナが動きを止めてそのようなことを口走った。
カルナの言う通り、これ以上やっても全て延長線上の戦いになってしまう。この状態が続たとしても、三日三晩は勝負が動かないであろう。どちらも倒れることなく、無駄な魔力と時間をマスターたちに消費させるだけであった。
ジークフリートもそのことについては同じことを考えていたため、すぐさま首肯する。
「だが、お前は数キロ後ろにいるマスターへの被害を懸念しているのだろう?」
それについてもジークフリートは再度首肯で答えた。
本気を出していないのは、確かにマスターへの懸念が残っているからである。戦いの余波がどこまで届くか分からないが、宝具を開帳しようものなら、優にここら一体の道路を更地することは容易い。そのくらいの派手な戦闘を起こせば、流石に隠匿のしようもないだろう。
現代の魔術とは秘匿するもの。目撃者が出れば、サーヴァントとしてマスターのために狩らねばならないだろう。ジークフリートやカルナのような時代とは打って変わり、戦いの華々しさも、その鮮烈さも、今はただの足かせにしかならなかった。
「それは俺としても不本意でしかない。少し場所を外すとしよう」
カルナがそれを口にした直後、ジークフリートの体が浮いていた。なんてことはない。カルナの目にも留まらぬ槍撃が、ジークフリートの体を打ち払っていたのだ。
咄嗟に魔剣でガードしていたジークフリートも、驚きの目をするしかなかった。自身も全力を出していないとはいえ、カルナがここまで力を隠していたとは思わなかったのだ。
高速道から離れるよう飛ばされながら体勢を整えるジークフリートに、追いかけるように地面を走るカルナが追撃を図る。
「さて、場所を変える間も惜しいからな、攻撃はするぞ」
カルナはそう言って右目に大量の魔力を貯める。
発動するのは、最初の攻撃でも使用したカルナの宝具である。
「武具など不要。真の英雄は眼で殺す」
大きく空中へ飛び上がったカルナの赤眼からビームが放たれる。それは、ジークフリートの顔面を穿つため、一直線に空を切り裂きながら宙を走り去った。
放たれたビームを、首を横に逸らすことでなんとか躱すジークフリート。だが、その程度の動きはできるだろうと、カルナは確信を持っていたかのように、次の攻撃を瞬時に繰り出す。
「次は頭上だ。気をつけたほうがいいぞ」
「っ!?」
カルナの肩口から右手にかけてまで、夥しい赤雷が迸る。それをジークフリート目掛けて振り下ろすと、ジークフリートの頭上にいくつもの槍の形状をした魔力の塊が出現した。
これは流石にまずいと思ったジークフリートは剣でガードするために、その出現した槍に向かって突き出した。
着弾と同時、大きな爆発が起きる。誰もが目を眩んでしまいそうなほどの閃光に、カルナはなんでもないような顔でそれを見ながら地上に足をつけた。
ほんの数瞬の、時間にしたら10秒にも満たない攻防で、カルナは絶対的な力をジークフリートに見せつけた。
追いかけるように遅れて到着したジャンヌも、カルナのその力を見て言葉を失う。この聖杯大戦において、カルナの力はトップクラスと言っても過言ではなかった。いや、サーヴァント界という大きな括りをしても、彼と比肩するほどの英霊がどれくらい存在するのかわからない。並々ならぬ防御力に加えて、攻撃力も桁違い。それほどまでに強力な英雄がこの地に召喚されたのだ。
ジークフリートは察する。この英霊をなんとしてでも排除しなければ、この聖杯大戦は詰むと。
「さて、これで終わりではないだろう?」
カルナの挑発するような言葉に応えるよう、爆発によって木々の中に吹き飛ばされていたジークフリートが、闇に紛れて飛びかかる。
見たところ大きな傷はなく、さほどダメージは入っていないらしい。その事実だけでも、このカルナと対峙しているジークフリートの強さが垣間見える。
ジークフリートが大きく剣を斜め下へと切り捨てると、カルナはそれを身を屈めることで回避する。カルナが避けたことで、ジークフリートの剣圧が何本もの大木を切り倒すが、そんなことにかまっている余裕のない両者は、立ち所に己の得物を相手へと突き立てた。
「うぐっ」
「がぁっ」
お互いに防御を無視した攻撃に呻きを漏らす。
カルナの槍先はジークフリートの片目を切り裂き、ジークフリートの魔剣はカルナの耳を切り落とした。お互いに、人体の柔らかいところへの攻撃。これが相手の防具を超えられない宝具での攻撃だった場合、即座に無効化されていたが、生憎どちらも生半可な宝具は所有していない。それ故の結果であった。
目を切り裂いた槍を、カルナはそのまま自身の背後で右手から左手へと持ち変え、死角からジークフリートの胸を貫こうとする。ジークフリートも振り下ろしていた魔剣でカルナの首を断たんと、一心不乱に振り上げる。
首を狙うために振り上げられた魔剣と、胸を貫くために突き出された槍が途中で交わり衝突する。ぶつかり合った宝具は共鳴するかのように、金属音を打ち鳴らした。
「片目を潰されても動じないとは流石だな」
「そちらこそ、耳を切り落とされて平然としているとはな」
互いが互いを褒め称えるように称賛の声を掛け合うが、その実それは皮肉でしかない。裏を返せば、相手の持つ鎧は俺には無意味であると言い合っているだけなのだから。
「名を聞きたい、黒のセイバー」
「すまないが、それは言えない、赤のランサー。俺にも守らなければいけないものがあるのでな」
ジークフリートはそう言って、飛ばしてくれた時のお返しと言わんばかりに、カルナを鍔迫り合っていた槍ごと空中へと放りあげる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
カルナは力をいなすように空中で一回転。そのまま、ジークフリートへ自身の魔力で象った炎を幾つも射出させる。しかし、ジークフリートはその炎を意に返さず、作業のように切り落としながら、落下してくるカルナに向かって飛び上がった。
大気をも切り裂くような剣撃がカルナを襲う。
が、カルナはその剣撃を見た瞬間、それに合わせるように槍をジークフリートの剣に絡め空中で方向転換した。
「チッ」
「今のはいい斬撃だった」
カルナは違う場所に落下しながら、ジークフリートを見る。
カルナにとって、この聖杯大戦でジークフリートと戦えたこと、剣戟を交せたことは幸福だった。英霊として、己の力を十二分にふるえることが素直に嬉しいからだ。記憶の中に住む、一人の男とジークフリートを重ね合わせていたが、今はそれもない。
きちんとジークフリートを一人の英雄として、カルナは認識していた。
サーヴァントという第二の生で、これほどまでの男とうち合えることは中々ないであろう。もしかしたら、どこかの並行世界、どこかの時間軸であるのかもしれないが、それはまた今この場でサーヴァントとして現界しているカルナとは違う存在だ。この瞬間だけは、聖杯大戦に参戦したカルナのものであった。
だからこそ、カルナはこの一時をとても惜しむような感情に苛まれていた。この戦いが終わってしまえば、これ以上の戦いを実現できないかもしれないと思うと、惜しまずにはいられなかったのだ。
どんなものにも終わりは訪れる。誰がなんと言おうとそれだけは世界の真理だ。カルナがこの瞬間をどれだけ止めたいと願っても、どれだけ続けたいと祈っても、それは誰にも届くことはない。この戦いは終局へと移るのだから。
「黒のセイバー。お前は本当に惜しいな」
「その称賛素直に受け取らせてもらおう」
一切の迷いなく、一切の濁りなく魔剣を構えるジークフリート。
「お互いに決定打は宝具の開帳のみ。分かっていたが、これしか方法はないようだ」
カルナはそう言って、いまだ顔も見たことないマスターから魔力を吸い上げる。
狙うは宝具の開帳による相手の殲滅。甘美なこの時間への終止符。
ジークフリートもそれに呼応するかのように、大きく息を吐く。カルナの行おうとしていることを理解したため、それに合わせて自身も宝具を開帳しようとしたからだ。
「両者ともに宝具の開帳ですか……!」
ジャンヌはその二人の異変に察したのか、巻き込まれないようにすぐさま身を翻してその場を離れた。
地をめくり上げ、大気を穿つ、そんな力を持ったもの同士の宝具の撃ち合い。それを考えると、どれだけ離れなければ巻き添えを喰らってしまうのか予想は容易だった。
「いくぞ、黒のセイバー」
カルナが大きく飛び上がる。放つのは核兵器にも匹敵すると称されるほどの威力を内包した宝具。
「
光槍にスキル「魔力放出(炎)」を発動することで、最上の攻撃力を誇ったカルナの宝具が、ジークフリートへと投擲された。
ジークフリートはそれに臆することなく、中段の構えをしていた魔剣に自身の魔力を込める。
マスターへの遠慮はいらない。ジークフリートは事前に宝具の開帳許可をゴルドからもらっていたのだ。さらに、魔力についても問題視することはなかった。理由は聞かされていないが、ジークフリートがマスターからどれだけ魔力を吸い上げようと、マスターの魔力が枯渇するような感覚がしなかったからだ。そのため、全力全開の宝具を撃つことが出来る。
魔剣から天にも昇るような青白い光が解き放たれる。側からみれば龍が天へと翔ようにも見えた。
ジークフリートは充填した魔力をカルナの放った宝具へと放つため、その真名を口にする。
「
一直線に伸びた極大の青白い魔力の塊と、何もかもを飲み込むような爆炎を纏った光槍がぶつかり合う。
あまりにも大きすぎるその二つのエネルギーは周りの木々をなぎ倒すほどの衝撃波を産み出し、それを遠く離れた場所で観戦している二人のルーラーを圧巻させた。
ジークフリートは苦痛の声を漏らしながらも、なんとかカルナの宝具に打ち勝とうと、自身の魔剣へ力を込めるが、押し戻せない。単純に力負けしてしまっていた。
これに勝つためには令呪を使用してブーストしてもらわないといけない。そう考えたジークフリートはすぐさまゴルドへと連絡を取るために心話をつなげようと試みる。
だが、やはりつながらない。
ジークフリートは召喚された時から、なぜか心話だけはゴルドと繋がらなかった。その他にも、いくつかの違和感というものがあったが、それをゴルドは何も気にしていなかったため、最後までジークフリートから何かいうことはなかった。今となってはそれが悔やまれる。
初戦でここまで苦戦するとは思っていなかったジークフリートは、自身の考えの甘さを呪った。
(仕方ない、体への負担がかかるが連続で……)
幸にして、ジークフリートの宝具は連続で使用可能だ。
そのため、一発目の幻想大剣・天魔失墜を打ち終えた瞬間、即座に魔力を再度充填し連続で宝具を使用する。
「幻想大剣・天魔失墜!!」
一発目に比べて威力は劣るものの、それでも十分だったのか、カルナの宝具を見事打ち破った。
「宝具の連続使用か。見事だ。どうやらお前を仕留めるには今のままでも不足らしいな」
カルナはニヤリと笑いながら、自身の宝具が相殺されたことを喜ぶ。
この戦いがまだ続く。力を貸しているマスターにとっては嫌な気分であろうが、カルナにとってはこれ以上の喜ばしいことはなかった。
「幻想大剣・天魔失。その宝具を持つ者は二通りの名がある。お前の名はどちらだ?」
カルナの問いに、ジークフリートは真正面から目を合わせる。
もう隠す必要など無い。
ここまで全力で渡り合えた男に名前を告げず、何が英霊だろうか。
「ジークフリート。それが俺の名だ」
「ふん。ならば、俺もその誇りある名乗りに敬意を表し告げよう。我が真名はカルナ。太陽神スーリアの子。人は俺を
互いの真名を名乗り上げながら、気を緩めることはしない。
宝具を使用してしまった両者は、相手をここで必ず撃ち倒さなければいけない。
そのため、カルナは自身の切り札を出すために、ジークフリートは今度こそ己の宝具で相手を滅するために、魔力を滾らせる。
「ジークフリート、俺はお前を打ち倒すための絶対破壊の一撃が必要だ」
天高く昇っているカルナがそう告げる。
その瞬間、カルナが纏っていた黄金の鎧がかき消えた。
手には朱色の雷光でできた槍が一つ、絶対的な力を迸らせながら、敵であるジークフリートを射抜かんとしていた。
その姿はまさしく太陽。施しの英雄の名に恥じぬ、最上級のジークフリートへの
対して、ジークフリートはあまりにも強大なその魔力の奔流に口角が上がる。気がおかしくなってしまったとかではない。ただただ嬉しかったのだ。これほどの力を持つ英霊が自分を認めてくれたこと、そしてその力を十全に引き出せたことが、ジークフリートの誇りとなっていた。
「いくぞ、ジークフリート」
「こい、カルナ」
第二の生における好敵手の名前。それを告げた二人はどこか楽しそうに笑っていた。
(マスター、すまない。あなたの願いは叶えられないかもしれない。が、俺はここであなたの障壁となる者だけは潰しておこう)
ジークフリートは内心自分のマスターへ謝罪をし、決意を固める。
射ってくるのは先ほどの宝具とは比べ物にならないほどの威力を持った攻撃。自身の身が無事である保証はない。連続宝具を開帳したところで、あれを防ぎ切ることはできないかもしれない。
だが、それでもゴルドのために、ジークフリートは己の力を全て使い切るつもりで魔剣に力をいれる。
「さあ、こい。龍殺しの英雄」
「行くぞ、施しの英雄!」
全神経をカルナに向けたジークフリートは、本能によるけたたましい警告音を聴きながら己の魔力を魔剣へと送り込む。
対してカルナは落ち着いた面持ちで、ジークフリートを見た。
地面は、槍の輻射熱で岩石が溶解し、木々は燃えている。空は魔力の昇天により、一筋の明かりが煌めいている。そんな阿鼻叫喚な空間で、二人の男はニヤリと微笑みを浮かべた。
「神々の王の慈悲を知れ。絶滅とは是、この一刺っ!」
「邪悪なる竜は失墜し、世界は今、落陽に至る!!」
ジークフリートは充填された魔力の塊を、カルナへと解き放つ。それと同時にカルナも、あらゆる存在を焼き尽くす必滅の槍を、遥か上空より撃ち出した。
「焼き尽くせ、
「撃ち落とす!!
あたり周辺を飲み込むほどの熱量。落ちてきていものはまさしく太陽そのもの。
地面を焼き、空を割り、空気を震わせる。
呼吸する空気すら重苦しく、その場に立つことすら困難と思わせるほどの空間で、二人の英霊は自身の持つ全力を惜しみなく撃ち合う。その光景はもはや神代を彷彿とさせるほどの神秘。誰もいない森の奥だとしても、その被害は壮絶なものであった。
「くっ、届かない……」
ジークフリートは負けずと、先程と同じく宝具を連続使用する。
「幻想大剣・天魔失墜……!」
だが、先ほどと違って全く押し返せない。カルナの宝具は、こちらの方が威力として相当強力ということなのだろう。
ならば……。
「幻想大剣・天魔失墜!!」
二撃を放ってから、さらに三撃目。
それはジークフリートに一瞬のためらいを覚えさせたが、それでもゴルドが望むのであればと体を動かす。
だが、それでもカルナの宝具を打ち消すまでには至らなかった。押し返しそうにはなるものの、勝てるという気持ちが少しも湧かなかった。
そんな時だ。ジークフリートの体に力が漲ってくる。ゴルドからパスを強制的に繋がられたかのような感覚。自身の脳へ命令プログラムがインプットされ、膨大な魔力が体中を駆け巡るような、そんな不思議な感覚。
ジークフリートはすぐさまその現象を理解した。これは、マスターからの
「マスターッ!」
けれど、それは残酷な事も同時にジークフリートへ伝えてしまった。
己のマスターの悲痛な覚悟。令呪3画を利用した、魔力ブーストの本意を。
全ての令呪を下された命令は「赤のランサーに勝つこと」。ただそれだけを願われているだけなのに、ジークフリートの胸に寂しさと後悔が、駆け巡る。
だってそうだろう。
ジークフリートは令呪と共に、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ジークフリートは吠えた——悲しみをかき消すかのように。
ジークフリートは力んだ——マスターへの手向として届くように。
結果、全ての令呪を使い果たしたことによる宝具の威力は、どの世界線でも成し遂げられない破壊力を幻想大剣・天魔失墜に与えた。
ゴルドの最後の決断。それが決して間違いではなかったと証明するかのように。
あたり一面——半径にすればおよそ数キロに及ぶ爆発が空中で起こる。
その爆発は、宝具を放っていた二人を飲み込み、その円の中に入った一切合切の存在を焼却した。
後に残ったのは、大きなクレーターとものが焼ける匂いのみ。遠くで見守っていたジャンヌはルーラーの特権でもある感知能力で、その勝敗をいち早く知ることができた。
「龍殺しジークフリート。施しの英雄カルナ。見事です」
勝敗を見届けたジャンヌは、すぐさま踵を返し承太郎がいるはずの高速道へと舞い戻る。啓示通りになっていないことを望みながら、ジャンヌは闇夜に飲まれた森を駆け抜けた。
ジャンヌが去って少しして、クレータの真ん中に立つ影が現れる。
黄金の鎧も、赤いマントも全て焼き尽くしてしまったカルナだ。幻想大剣・天魔失墜と己の宝具の余波が届いてしまったせいで、彼もかなりのダメージを受けている。
そんなカルナは、既に退却したジークフリートの姿を思い出しながら、戦いの感傷に浸っていた。
「是非もなし。この俺の宝具が打ち破られるとはな……」
カルナは自身の持つ槍を握りながら、これからのことを考える。
黄金の鎧を失ったため、防御力は一段と落ちた。最早、ジークフリートと戦ったときのようなことはできるとは思ない。ただ、鎧を失ったことでマスターの魔力消費が楽になったことも確かだった。
カルナは失ったデメリットの方が大きいが、失って得るメリットもあるのであればと思うことにした。
「さて、ルーラーは既にいないか……追ってもいいが、この傷だと勝てるものも、勝てないな」
——ひとまず退却しよう。
カルナがそう考えた時だった。
霊体化しようとしたその刹那、カルナの壊れかけな耳に声が入る。
「
それは野太い男の声だった。
どこか嫌悪感を示してしまいそうなほどの、妖艶な声だった。
カルナは咄嗟に警戒心を高めるが、その時には既に遅かった。
「な、に……」
何と、自身の手で自身の霊核とも言える場所に槍を突き刺していたのだ。自覚なんてものはない、槍を突き刺す瞬間が見えていたわけでもない。気がついたら槍が自身の胸に突き刺さっていた。まるで、自刃をする侍のように。
「どういう……ことだ……」
催眠術だとか、超スピードだとかそんなチャチなものじゃない。もっと恐ろしいものの片鱗をカルナは味わっていた。
「くっ」
霊核を貫かれたことで、そろそろ体を維持することが難しくなってきたカルナ。見てみれば、足の先が光の粒子となって溶け始めている。
いまだ顔の見たことのないマスターに向けて、カルナは思った。
どうか無事でいてくれと、この聖杯大戦には何か危険な者がいると。
だが、それを口にしようにも受け取るものがいない。誰にも届くこのない警告はカルナの心の中で、虚しく留まるしかなかった。
「赤のランサー」「黒のセイバー」ともに脱落。
残りサーヴァント、両ルーラーを含め14体。