我拳は銃なりて   作:秋華

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すみませんがかなり長くなってしまいました。
分けようか考えたのですが、途中で切るのも微妙なので一気に投稿しました。

量の多さに疲れてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。


第十八話:護れたモノ

ウェスペルタティア王国の崩落を”紅き翼”が知ってから数日が経とうとしていた。

その間俺達は、順番に休みを取りながら簡易魔法球を製作し、俺が想像していたよりも多くの量産に成功していた。

龍ちゃんはといえば、俺が用事を頼んでからこちらには帰っていない。

他のメンバーが心配して俺にいろいろ訊いてきたが、”もしものために手をうってもらっている”と説明して、作業に戻ってもらう事にした。

皆、納得は出来てない感じだったけど、どうやら俺の事を信じてくれるらしい。

それはとてもありがたい事だった。

本来なら、龍ちゃんがやっている事を話しても良いのかもしれないけど、こればっかりはうまくいく保証なんて無いし、変な希望を持たせると今やっている作業にも支障が出るかも知れない。

だから今は黙っている。それに、反対される可能性もあるしね…。

そう言えば、街が俄に活気付いている事から、そろそろ記念式典が開催されるみたいだけど、正直俺達には出ている暇なんて無い。“少しでも多くの魔法球を…”今考えている事はそれだけだった。

 

そして今日も準備で一日が終わろうとしていた時、ガトウから緊急の念話が届いた。

 

どうやら、とうとうその時がやってきたようだ。

 

[タケル聞こえるか?]

 

[ん?ガトウか?聞こえているよ?どうしたの?]

 

[とうとうアリカ姫が動き出したぞ。今オスティアが出せるすべての戦艦を用意して大陸に向かうみたいだ。事情を知らない人には、復興のためと偽って行動している。……俺もそう言われた。どうやらごく一部で解決させようと本気で思っているみたいだ。…まったくなんて姫様だ。]

 

[了解。ならこっちも行動を開始する。転移魔法で近くまで行けばおそらく艦隊が着く前にはこっちの作戦を実行に移せると思う。ガトウはどうするんだ?]

 

[俺はこのまま隠れて戦艦に潜り込む。さすがにタカミチには荷が重いからこっちに残すつもりだ。]

 

[わかった。じゃ王都オスティアで逢おう。]

 

[ああ。]

 

ガトウとの念話を切り、近くに居るメンバーの顔を見る。

どうやら俺がガトウと念話している顔を見て、大体の事は把握したみたいだ。

 

「皆。とうとうアリカ姫が動き出したよ。ガトウは隠れてアリカ姫について行くみたいだ。」

 

「そうか。…でも何でアイツはガトウとかに相談しないんだ?相談した方がいいだろうによ…。」

 

「大体の予測はついてるけど、時間が勿体無い。とにかくこっちも行動を開始しよう。」

 

「そうですね。それで作戦ですが、簡易魔法球にどうやって人を入れるつもりですか?」

 

「それだけど、さすがに正直に話しても入ってくれないだろうから、アリカ姫の名前を使って見るのはどうかな?」

 

「というと?」

 

「”最終決戦の場になり、巻き込まれたウェスペルタティアの民にせめてもの償いとしてアリアドネーに招待したい”とアリカ姫が言っていたが、他の島々にも人がいて開会式に間に合うようにするには時間が足りない。なので効率を良くするためにこの魔法球に入って欲しい。…って感じはどうだろうか?」

 

「ふーむ。きわどい所じゃな。確かにウェスペルタティアの民達はアリカ姫に信望しておるからうまくいくかもしれんが、それをワシ達がやっている理由にはならんのではないか?」

 

「そこはアレだよ。”紅き翼”はアリカ姫の騎士って言うのは皆知っているだろうから、無理やり手伝わされたとでも言っておけばいいんじゃないかな?”お主等が手伝った方が早いじゃろ?”とかいいそうじゃない?」

 

俺がそう話すと、皆なんとも言えない顔をする。

多分簡単にその光景が想像できたのであろう…。

あの人ナギが騎士宣言してから、俺達を自分の手のようにコキつかっていたからな。

 

「……私達は簡単に想像できますが、ウェスペルタティアの民達がどう思うかは正直な所言ってみなければ分かりませんね。でもその案以外は思いつきそうにありません。それでいきましょう。」

 

「よし。後はあっちで臨機応変に対処するって事で何とかするか。それじゃ俺達も行くとするか。……ウェスペルタティアの民を助けによ!」

 

ナギがそう意見をまとめ、俺達は転移魔法でウェスペタティア王国の近くまで飛ぶ事にした。

時間はもう無い。

とにかく今は最善が尽くせるように頑張るだけだ!

 

 

【アリカside】

 

「姫様。今の所予定通りに進んでおります。我々が計算した所によると崩壊まで後三日。あちらにいる者からの報告によれば、予兆として小規模の地震が島々で起きているそうです。このまま行けばあと数時間で到着できると思います。」

 

「うむ。もっと速度を出せるなら出すように言っておいてくのじゃ。三日後と言うのはあくまで私達の予想でしかない。予定よりはやくなるかも知れない事を忘れるな!」

 

「はっ!……アリカ姫様。このような状況下の中、訊くのは間違っているかもしれませんが……なぜ”紅き翼”にも協力を要請しなかったのですか?あの者たちがいればもっとうまく事が運ぶのでは?」

 

「っ…!!それはならぬ。ならぬのじゃ。これは私達の問題じゃ。あの者達は関係ない。……もうよい下がれ!」

 

「はっ…。」

 

”紅き翼”に伝えるか……もう何度同じ事を聞かれたであろうか。

だが、決して教えるわけにはいかん。特にナギにはな…。

あやつがこの事を知ってしまえば、己の身も省みず助けようとするに違いない。

そしてナギに連れ添うように他の”紅き翼”のメンバーも無理をするだろう。

それは…つまりまたナギ達を危険に晒してしまうと言う事だ。

そう思って、長年仕えてくれたガトウにもこの事を伝えなかったのじゃ。

あやつはきっとナギ達に伝えてしまうだろうからの。

 

大体、ただでさえ”紅き翼”には圧倒的に戦力が足りない中、親玉を倒せと無理を言ったのだ。

その間私達は何をしていた?

身の危険が及ばない所で、頭の固い連中と話し合いをしていただけではないか!

体中に傷を負い、血を流し、常に死と隣り合わせの戦場で戦っていたあやつらにまた助けを請うのか?

”英雄”…”英雄”と周りは囃し立てるがナギ達も同じ人なのだぞ!?

私達と同じく血が流れ、私達と同じように泣き、私達と同じように………キズつくのだ。

もう良い…もう良いのだ。

彼らはもう十分この悲惨な戦争で心に体にキズを負ってきた。

それでも、いつも皆の先頭に立って戦い、他の人の気持ちを奮い立たせてきたのだ…。

 

今度は私の番だ。

今まで何もできなかった私が、今度はやらなければいけないのだ。

 

それに…………どうせ民をすべて助ける事は出来ない。

 

何度も考えたが、戦艦の脱出も考えた時間を入れたら、どうしてもまわりきれない島が出てきてしまう。

それでも何とかしようと、無理を通してアリアドネーで記念式典を行う事にして、少しでも民達をオスティアから遠ざけるようにした。だが、状況は思わしくなかった。

それならとすぐにでも戦艦で救出へ行こうとしたが、今度は議員どもが渋って今の今まで時間がかかってしまった。

 

私はなんて無力なのだ…。

 

だが、私に出来ることはまだある。

そう、民を助けられなかった愚か者として皆の非難を受ける事だ。

 

だがそこにナギ達がおれば、一緒になって非難を受ける事になる。

 

それはなんとしてでも避けたい。

 

あやつらは……”紅き翼”は真の英雄じゃ。

 

今まで何も恩返しが出来なかったあやつらに、私から送れる数少ない恩返し。

 

皆に崇められ、讃えられるようにし、これからをせめて幸せに過ごして欲しい。

 

あのとの事はすべて私が引き受ける。

 

だから”ナギよ…我騎士よ…

 

どうか気付いてもこちらにはこないでくれ。

 

私に出来ることはもうこれぐらいしか出来ないのだから………

 

 

 

「アリカ姫様!!」

 

「なんじゃ?」

 

「あの…本国から連絡が入りまして……それが…その…。」

 

「どうしたのじゃ?はっきり申さんか!」

 

「……オスティアに”紅き翼”のメンバーが現れたと言っております。」

 

「!!!!なんじゃと!!」

 

 

【ナギside】

 

「アル!そっちはどうだ?」

 

「あまり芳しくないですね。信じてくれる人がいるにはいるんですが、さすがに急だと準備に手間取っていますよ」

 

「そうか……まじいな。予定の半分も出来てねぇじゃねえか。」

 

そう言って俺は目の前に広がる光景に目をやる。

タケルが案を出してくれた作戦はひとまずは成功した。

姫さんの奴には、すこし申し訳ないことをしたかもしれねぇが…、どうやら俺達が思っている以上に姫さんの性格はウェスペルタティアの民に知れ渡っていたようだ。

……すこしは隠そうとしろよ。……姫なんだからよ。

 

それはともかく、簡易魔法球には不信がりながらも皆入ってくれてるみたいだ。

それもこれも、ここにいたオスティアのお偉いさんが、俺達の言葉を肯定してくれたからだ。

その時に、”ご協力感謝します。…ですがいつの間にここに来る事が決まったのですか?”

そう言われたが、とりあえずは適当にごまかしておいた。

……やっぱり俺達には伝える事無く、自分一人で何とかしようとしていたみたいだな。

まったく……何のために俺はお前の騎士をやっていると思っているんだ!

 

ザザ……ザザ……

 

ん?タケルに持たしてもらった通信機が鳴っているな。

最初はこんなものいらねぇとか思っていたが、貰っといて正解だった。

ここに来たとたん念話がうまく使えない。

話すことは出来そうだったが、いつもみたいに気軽に使えず、結構気を使わないと無理だ。

どうやらこれも大気に魔力が無い弊害って奴だな。

 

…とりあえず通信にでねーとな。

 

「こちらナギだ。どうした?」

 

「あーこちら詠春だ。こちらも兵士達が誘導を手伝ってはくれているが芳しくない。そっちはどうだ?」

 

「こっちも同じだ。今すぐ魔法球に入ってくれるやつは殆どいない。戦艦が着いたら少しは変わるかもしれねぇが……それだと間に合いそうにねぇかもな。やばいぜ?」

 

「……そうか。先ほどゼクトから訊いたんだが、予想以上に魔力の減りが早いみたいだ。さすがに民達に魔法を使うなともいえないから仕方が無いのかも知れないが…このままだと、ガトウが知らせてくれた予定よりはやく崩落が始まるみたいだ。…現にさっきから地震が頻発して起こっている。」

 

「っ…!!そうか。こっちは島が大きいせいか、まだそこまで地震は起こっていねぇ。とにかく、なるべく急ぐぞ。」

 

「了解。」

 

詠春からの通信が切れ、俺は考える。

 

このままだとさすがにやばい。

もう後、数時間もすれば戦艦が到着するだろうが、時間が足りなさ過ぎる。

今の所、民達の混乱はないみたいだが、いつ混乱が起こるかわからねぇ…。

 

どうする…どうすればいいんだ!

 

考えろナギ!

 

あきらめるなんて俺の辞書にはねぇ!!

 

だから考えろ!!

 

 

「ーーーぁ」

 

ん?なんだよ今俺は忙しいんだよ!

 

「ーーがぁ」

 

だからなんだよ?うるせぇな

 

「この馬鹿者がぁ!!!!!」

 

ゴチーーン!!!

 

「へぶっ!!!」

 

「ってえな!!なにしや……が…る。」

 

「それはこっちの台詞じゃーー!!!!!」

 

オイオイもう着いちまったのかよ。姫さんよう…。

 

【Another side】

 

「き…貴様という奴は何故ここにおるのじゃ!!」

 

「何故って…俺はお前の騎士になると誓ったはずだぜ?ならいるのは当然だろう。」

 

「お主は…ここがどれ…ムグゥ」

 

アリカ姫が、これから起こることを口にする前に、ナギが慌てて口をふさぐ。

 

(おい!お前こんな所で何を言い出すんだ!!パニックになっちまうだろうが!!)

 

ナギがアリカ姫だけに聞こえるように叫ぶ。

周りから見たらナギがアリカ姫を襲っているように見えなくも無いのだが、どうやら周りにいた民達は、じゃれているだけど勘違いしたのか、生暖かい目でそれを眺めていた。

ちなみに、なぜそう見られたかと言うと、ことあるごとにアリカ姫がナギを連れまわし、わがままを言っていたのを目撃されたからである。

 

「ムグームグー!!」

 

口を塞がれている為、何を言っているのか分からないが、どうやら文句をまだ言っているらしい。

言葉は分からないが、アリカ姫の目がそんな目をしていた。

 

(ったく。わかった。あっちで話し訊くからよ。今はとりあえず黙ってついて来てくれ。…たのむから黙ってだぞ。)

 

「……ムグ」(コクコク)

 

とりあえず頷く事で異論が無い事を伝えるアリカ姫。

それを確認したナギは、アルにしばらくここを離れると話して、アリカ姫を人気が無い場所へと連れて行った。

 

 

「……よし。ここなら誰もこねーだろう。」

 

そうナギがあたりを見渡しながら呟く。

 

「ムグームグームグー!!!」

 

「お?ワリィ…口ふさいだまんまだったな。」

 

ナギが今更気付いたように、アリカ姫の口から手を離す。

自由になったアリカ姫はよっぽど苦しかったのか、ゼーゼー息を荒げながらナギを睨みつける。

 

「お主という奴は……もっと早くに気付かぬか!!この馬鹿者!!」

 

「だから悪かったって言ってるだろ?…それより話はいいのかよ?」

 

あきらかに悪びれて無い表情をしながら、とりあえずアリカ姫を落ち着かせる。

そして、表情を真剣なものに変えアリカ姫を促す。

 

「そうじゃった…何故お主等がここにおるのじゃ?」

 

「なぜって……姫さんが一人で抱え込もうとしているもんを分けてもらいにだよ。」

 

「!!!……何のことじゃ?」

 

ナギの一言で表情が変わるアリカ姫。

だがそれも一瞬の事…すぐに普段通りの表情に戻しシラをきる。

 

「まだシラをきるつもりか?ウェスペルタティア王国が崩落する前に、少しでも民を避難させようっていう姫さんを助けにきたって言ってんだよ!」

 

「……何故その事を知っておるのじゃ!それはごく一部の者しか知らないはず…。」

 

「タケルのおかげだよ。…アイツが気付いてくれた。あいつがいなきゃ…今頃俺達は何にも知らないで騒いでいただろうさ。」

 

「…あやつがか……余計な事を…。」

 

チッっと舌打ちしながら呟く。

 

「…なぁ姫さん。何で一人でやろうとしたんだ?どう考えたって一人でやるのは無理があるだろうが?」

 

そんな表情を見ながら、ナギは今まで疑問に思っていたことを聞いてみる。

ナギ自身、一人で突っ走ってしまう事が多々あるのだが、この戦争を通じて仲間を信頼し、相談することを覚えたナギから見れば、アリカ姫の今の行動は昔の自分を思い出させた。

 

「…うるさい。そんなものわたしの勝手ではないか!」

 

その一言にナギは思わずカッとなる。

今言った一言はとても許せる一言ではない。

明日を生きたくても生きられなかった人達がこの戦争では多く出てしまったというのに、せっかく生きている人達を、事もあろうにアリカ姫は自分の感情だけで死なせようとしているのだから。

 

「……ふざけるなよ。お前の勝手って奴で死ぬ奴が増えるかもしれねーんだぞ?何をそんなに意地はってやがるんだ!!馬鹿かお前は!!」

 

「…………」

 

「っち!だんまりかよ。まぁいい…でもこれだけは言っておくぜ?俺はお前がどんな気持ちでいるかなんてわからねぇ…。だけどな、姫さんが守りたいって思っているもんはな、俺も守りたいってもんなんだよ!……俺だって一人で何でも出来ねぇ、現に他の奴らに助けてもらってばっかだからな。……だからせめて俺ぐらいには本心曝け出してくれよ。俺はあんたの騎士なんだからな!」

 

「/////////!!」

 

ナギがそう言って笑顔を見せると、思わずアリカ姫はそれに見惚れてしまう。

初めて会った時から、ある感情を抱いていたが、それがアリカ姫の心で更に大きくなるのを感じる。

もちろんその感情の意味する所は分かっているのだが、素直になれない性格と変なプライドが邪魔をして、ナギに伝える事は今までなかった。

無論このような事態になってしまってからは、もうアリカ姫から言うつもりはないのだが、それでもやっぱり自覚してしまう。

この人は自分にとって”特別な人”なのだと…

 

「そんじゃ俺は俺のやるべきことに戻るぜ?姫さんも、姫さんが出来ることをやればいいからよ!」

 

そんな事を思っているとも知らず、ナギはいそいそとその場を後にする。

そして一人その場に残されたアリカ姫といえば、走っていく後ろ姿を見ながら呟く。

 

「………馬鹿者が。私の気持ちも知らないで……ほんと馬鹿者が………じゃが………ありがとう。」

 

それはアリカ姫が自分の心のうちを始めて言葉にした瞬間でもあった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・

 

ナギとアリカ姫との会話が終了してから、一日が過ぎようとしていた。

ナギ達の読み通り、アリカ姫と連れてきた戦艦を見てから、ウェスペルタティアの民達は次々と簡易魔法球に入っていった。

それを見たナギ達は少しだけほっとすると、作戦を次の段階に以降した。

それは、要領がいっぱいになり、それがある程度溜まってきたら、小型の戦艦を使い、とりあえず近くの町まで輸送する。

というものだった。

当初それは秘密裏にガトウが用意していた船でおこなうつもりだったのだが、アリカ姫を交えて相談した所、アリカ姫達も協力することになったのだ。

ちなみにガトウの姿を見たアリカ姫が驚き、叱ろうとした所をナギが必死になって止めていた。

民達には”全員そろってから再度出発する”とアリカ姫が言い、今の所変な不信感は持たれていない。

だが、効率が上がったとしても、状況は芳しくなかった。

なぜなら思った以上に難民がおり、しかもここに留まると言い、その場から出ようとしないものがいるからだ。

そういった輩にはアリカ姫やナギ達自ら説得にあたり、何とか連れ出そうとしている。

さすがに”姫”と”紅き翼”に説得されればと…その場を離れようとするのだが、準備も何もしていなかったため更に時間がたった。

 

もうすぐそこまで崩壊が迫っているというのに…どうすれば!!

 

事情を知っている人達の心の中は全員一緒だった。

だが、こうする以外方法が思いつかず、内心焦りながらもとにかく行動をするのだった。

 

そしてその時はやってきた。

 

 

「姫様!民の移動ですが、今魔法球に入っているものも含めて、8割を超えました!」

 

「まだ8割しか出来てないのか…。」

 

船から出て自ら指揮を執っているアリカ姫に、側近からの報告が入る。

その報告を聞き、アリカ姫は目を細める。

今民達の前にいるため、露骨に表情を出さないが、内心かなり焦っていた。

 

思った以上に人の移動が遅い。

予定ではもうすべて移動できてもいいぐらいなのに…

やはり予想以上に人が多かったせいか…。

 

そんなアリカ姫の気持ちを察するように、側近は言葉を続ける。

 

「はっ!…ですが、予測の日まで後一日はあります。このままいけば問題ないと思いますが…。」

 

「それはそうじゃが……。」

 

側近の言葉に、心の焦りが少し治まったその時!

 

大きな音を立てて地面が大きく揺れだした。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

「!!!!これは…今まで起こっていた地震の比じゃない。」

 

「姫様大変です!!」

 

「なんじゃ!!」

 

「周囲を警戒していた戦艦からの報告ですが、ウェスペルタティア王国にある小さな島々が崩壊を始めたとのこと。ただし既にそこの住民は避難が完了しおり、人に被害は無いということです」

 

そう報告され、アリカ姫は瞬時に察知する。

ウェスペルタティア王国の崩壊が始まったと…

 

「姫様!」

 

「今度は何じゃ!!」

 

「たった今近くにいた戦艦から報告が来ました。この島のあちこちに罅が入り危険な状況とのこと!」

 

『!!!!!』

 

「民達の収容を急がせよ!魔法球にまだ入っていないものは遠くにおる者を除き、直接戦艦に誘導し収容する事。発進準備もするのじゃ!」

 

「はっ!!」

 

アリカ姫に連絡をしに来た兵はすぐさま、この命令を伝えにいく。

 

「…姫様。もうここは危険です。小型船に乗り民達とこの場からの脱出を…」

 

「ならぬ!私はギリギリまでここで指揮をとる!」

 

「ですが!!!」

 

「くどい!二度は言わぬ。それとこの事態をナギ達にも知らせよ。おそらくナギ達も、もう気付いておるじゃろうが、詳しい状況は知らぬはず…。そしてそのままナギ達を援護。急げ!時間は待ってくれぬぞ!!」

 

「…はっ!」

 

アリカ姫の剣幕に圧倒されながら、すぐさまナギ達がいるであろう場所へ走っていく。

そしてそこに残ったアリカ姫は、大きな音と揺れの中、毅然とした態度で指示を出す。

 

「皆の者落ち着くのじゃ。大丈夫、何も心配せずともよい。落ち着いて私達の誘導に従ってくれ。」

 

その姿にその場にいた民は、不安そうな表情をしながらも、特に大きな騒ぎもせず誘導に従うのだった。

 

アリカ姫が毅然とした態度をとって指示を出していた頃、いまだ多くの難民たちがいる場所で、誘導をしていたナギ達もまた異変に気付きながらも、自分達が慌ててしまったら余計混乱するだけだと思い、きわめて冷静に対処していた。

 

「皆落ち着いてくれ。確かにちょっと大きな地震だけどよ。なんてことはねぇ…こっちの指示にしたがってくれれば大丈夫だからよ。」

 

「そうですよ皆さん。せっかく姫様が終戦記念式典に招待してくれると言っているのです。たかが地震ごときで慌てて怪我をしてしまったら楽しめませんよ?」

 

その言葉を聞いた民達の顔に少し笑みがこぼれるのを確認したナギ達は、心の中でガッツポーズをする。

 

(よし。ここで暴れられたら間に合うものも間に合わねぇ。おそらく崩壊が始まったんだろう。ゼクト達が言っていたように予定よりかなり早いな。…でも後はここに残っている奴等だけだ。他の連中はもう移動し終わって、今頃姫さんの所で順番待ちをしているはずだ。ここさえしのげば大丈夫だ。)

 

するとそこへ、先ほどアリカ姫の所にいた側近が小型船に乗ってやってきた。

側近はナギの姿を確認すると、収容を他の人に任せて、ナギ達の下へ向かう。

 

「ナギ殿!」

 

「ん?オメーは確か姫さんの…。」

 

「はっ!側近のクルト・ゲーデルと言います。アリカ姫の命によりこちらを手伝うように言われました。それと……ちょっと耳を…。」

 

クルトにそう言われて、ナギは耳を貸す。

 

(この近くにいた戦艦からの報告で、周りの小さな島から崩壊が始まっております。そしてこの島にも多数の罅がはいており崩壊するのも時間の問題です。)

 

(なるほど。了解した。この辺に居る奴等は、全部ここに集まっている。今詠春とお師匠が見落としてないか確認に向かっている。)

 

(分かりました。ではこれより私も貴方の指揮下に入ります。)

 

「よろしく頼むぜ。じゃあっちの魔法球で誘導を手伝ってくれ。」

 

「わかりました。」

 

ナギにそう言われ指示通り動く。

それを確認すると、ナギはふと空を見上げる。

 

(後はこの島がどれだけ持つかが勝負だな。……そう言えばタケルどこ行ったんだ?最後の手をうってくるって言ってラカンを連れてこの場から居なくなったけどよ…。そろそろやばいぜ?…ま、信じているけどな)

 

そう思いながらナギは少し前のことを思い出していた。

それは地震が起こる前、この場にメンバー全員が集まった時突然タケルが言い出した事だった。

 

 

…………大地震が起こる数時間前。

 

 

「…悪いけど、今から俺はここをちょっと離れる。」

 

「はっ?いきなりどうしたんだ?お前にかぎって怖くなったとかじゃねーのは分かるけどよ。」

 

タケルがいきなり言い出した事に皆困惑する。

それを承知の上だったのか、タケルは大して弁解もせず話を続ける。

 

「皆結構前から龍ちゃんがいないのは知っているよね?」

 

「もちろんじゃ。ワシらがそれを訊いたらお主がもしもの時の為に動いてもらっていると説明していたではないか。」

 

「実はその事で、さっき龍ちゃんから報告があったんだ。その報告で、後もう少しでうまくいきそうなんだけど、自分ではこれ以上無理だと言われてね。応援に行きたいんだ。」

 

「…なるほど。でもそれはこっちをほっといてまで、行かなくてはいけないものなのですか?無理なら無理で龍ちゃんをこっちに呼び戻せは良いことじゃないですか?」

 

タケルが言っている事は皆理解できるし、今の状況じゃなかったら、二つ返事で了解した事だろう。

しかし、今はウェスペルタィア王国が崩壊するまでもう時間が無い状態。

流石の皆でも、そう簡単に了承する訳にはいかなかった。

 

「確かにそれを言われると困るんだけど、これがうまくいけば決定的な決め手になると思うんだ。ゼクトが言ったと思うけど、確実に俺達が予想しているより早く崩壊が始まると俺は思うんだ。」

 

「理由は?」

 

「地震の頻度とその強さ。そして予想以上に人が多い事…これが理由だよ。」

 

「地震とかについては納得できるけど、人が多いというのは何故なんだい?」

 

タケルが話した理由で引っかかる事があったのか、詠春が訊ねる。

 

「常日頃から皆魔法を多用しているからだよ。人が多ければ多いほど魔法を使う人が増え、その分大気中にある魔力を消費してしまう。火を熾したりするだけで大気の魔力を消費するんだ。特に難民たちは家が無いから、火を熾して夜を過ごしたはずだ。だったら予想以上に魔力が少なくなっているに違いない。」

 

「なるほど。そう言われれば納得できる。」

 

タケルの言い分はもっともであった。

そしてそれが本当に正しいのなら、大変な事だ。

なおの事、今タケルにここを離れる事を良しとする訳にはいかなかった。

 

そんな中、黙ってタケルの説明を聞いていたナギが、意を決したように呟く。

 

「…わかった。」

 

「ナギ!?」

 

「アル…。タケルが今まで俺達の期待を裏切った事があるか?タケルが言うんだからそれは必ず俺達の力になってくれる。だったら俺達は俺達が心底信頼する仲間を信じればいいだけじゃねーか?」

 

ナギがいった言葉によって、皆の表情に少し笑みがこぼれる。

今までいろんなピンチを迎えてきたけど、そのたびに自分達は仲間を信じてこれまでやってこれた。

しかも、ピンチにおいて一番頼りになるタケルがそういうのだ。

今更信じないという選択肢などありえない。

 

「…そうですね。分かりました。期待させてもらいますよ。」

 

「ありがとう。それと…ラカン?」

 

自分を信じてくれる皆に感謝しながらタケルは頭を下げた。

頭を上げた所で近くにいたラカンに声をかける。

 

「どうした?」

 

「ラカンも手伝ってくれねーか?多分ラカンの力が必要になるだろうからな。」

 

「お?いいぜ?どんな事やるかわからねーが俺様に任せな!」

 

ラカンまでいなくなる事に、少しこれからの事で不安を覚えた他の面々だったが、すぐに気持ちを入れ替え、タケル達を送り出す。

 

「よし。じゃいってこい!こっちのことは心配するな。そっちに集中して成功させろよ!」

 

「おう!」

 

元気よく返事をしたタケル達はすぐさま行動を開始して、その場を去っていくのだった。

 

 

………そして時間は再び現在へと戻る。

 

 

「ナギ!」

 

別の所で指揮を執っていたアルが、焦った表情でこちらに向かってくる。

 

「どうしたアル!」

 

その表情を見て緊急の要件だと察したナギは、ここの指揮を他の人に任せ、アルがここに来る時間さえおしいとばかりに、自ら向かっていく。

 

「大変です。魔法球が足りなくなりました。私達が予想していたよりも人が多すぎました。残りの魔表球の数を考えても、とてもすべて収容出来るとは思えません。」

 

「ちっ…マジか。」

 

「たとえ知っていたとしてもこれ以上は時間が足りなくて無理だったと思いますが…ナギの方はどうですか?」

 

悔しそうな顔をしながら話すアル。

その言葉にナギも悔しそうな顔をして答える。

 

「俺の方は今出ているので全部だ。こっちも全員収容する事はできねーが、後は小型船にギリギリまで入ればいけると思っていたんだが……クルト!!」

 

ナギがそう叫ぶと、同じく近くで作業をしていたクルトが、こっちに走ってやってくる。

 

「どうしましたナギ殿!」

 

「クルト、今から小型船…もしくは戦艦をこっちに向かわすことは出来るか?」

 

「えっ……無理です。小型船は今ここにあるので全部です。他はもう非難させるために発進してしまいました。先に到着したものも急いで下ろしているでしょうが、たとえ今から連絡を取ってきてもらうとしても、どう考えても間に合いません。戦艦はこちらよりも大勢を現在収容しているため、こちらに向かう余裕なんてないと思います。」

 

ナギがそう尋ねるとクルトは最初うろたえたが、気を取り直して報告する。

それを聞いてナギは更に顔を歪ませる。

 

「そうか……アル何か手はあるか?」

 

「残念ながら思い浮かびません。今私達が出来ることといえば、魔法球に収容できなかった人をギリギリまで小型船に押し込んで発進させる事だけかと。」

 

アルも悲痛な気持ちでナギに告げる。

そんな中、詳しい事情を知らないクルトがナギ達に尋ねる。

 

「あの…どうしたのですか?」

 

「良いか?良く聞きなクルト。俺達が用意した魔法球だが、数が足りなくなった。まぁ、予想を遥かに超えた人数だったせいなんだが…それは今更どうでもいい。それよりもだ!お前は今ある魔法球が一杯になったらすぐさま小型船に乗せ、そのままお前も乗ってこの場から脱出しろ。その際小型船に乗れる人はすべて乗せてだ。」

 

「!!!…分かりました。ナギ殿はどうするのですか?」

 

「俺達はこの場に残って、収容できなかった人達とギリギリまで救援を待つ!」

 

「そ…そんな。だったら僕も残ります!!」

 

クルトがそう俺に詰め寄るが、ナギの隣にいたアルがクルトの肩に手を乗せて目を合わせて諭すように話し出す。

 

「それはダメですよクルト君。貴方はまだ若い。こんな所で無理をする必要なんてありません。それにその歳でアリカ姫の側近をやっているのですから、優秀なのでしょ?ならなおの事無事にこの場から脱出しなくてはいけません。」

 

「そんな事ありません。それよりも貴方達こそこの場から早く脱出してください。もう救援なんて来る訳が無いじゃないですか!!貴方達は”英雄”なのですよ!?こんな場所で死んでいいはずが…」

 

「”英雄”か…いいかクルト?俺達は別に”英雄”なんて呼ばれたくて頑張ったわけじゃねぇ。もちろん言われるのは嬉しいけどな。…俺達は俺達がやりたいと思ったから…間違っていると思ったから行動しただけだ。それは今も変わっちゃいねぇ、だからここに残るのも俺達がやりたいと思ったからだ。…それに何を勘違いしているのか分からないが、死ぬなんてこれっぽちも思ってねーぞ?俺達にはまだ最後の手段って奴が残っているからな!」

 

「最後の……手段ですか?」

 

「おっと。それは教えられねぇな。なんせ取って置きだからよ。どうするか楽しみにしてな。……ほら涙を拭いてさっさと行動しな。時間は待ってくれねーぞ。……姫さんの事たのむな」

 

「ぐす……はい。絶対ですよ!楽しみにしてますからね!」

 

涙を乱暴に拭いて、クルトは今出来る精一杯の笑顔をナギ達に向け、その場を後にした。

それを見届けた後、アルはクスクス笑いながら俺に聞く。

 

「とっておきって…そんなものどこにあるんですか?」

 

「ん?あるじゃねーか。タケル達っていうとっておきがな!」

 

「そうでしたね。…ならそのとっておきを私達も楽しみにしておきましょうか。」

 

「だな。」

 

そう言って二人で笑い出す。

まるでピンチをピンチじゃないと感じるほど楽しそうな笑い声だった。

 

 

その頃アリカ姫が作業している所では、予定以上の人数に内心焦りながらも、なんとか近くに居る人すべてを収容する事が出来ていた。

 

「姫様!」

 

アリカ姫の近くで作業をしていた兵士が、報告に来る。

 

「なんじゃ?」

 

「ここにいるすべての人収容完了しました。念のため乗り遅れがいないか確認しましたが、漏れはいないそうです。」

 

「ナギ達がいる場所はどうなのじゃ?」

 

「そちらも先ほど避難所に向けて小型船が移動しているとの報告が入りました。通信する事はできませんでしたが、向かった小型船の数と一致したと言う事です。」

 

「そうか……何とか間に合ったか。…よし!私達もここから脱出するぞ!!」

 

『はっ!!』

 

アリカ姫の言葉で戦艦が浮上を始める。

周りにいた戦艦もそれを見て同じく浮上を開始した。

前もってすぐに移動できるよう準備をしていた為、遅れる戦艦はおらず、アリカ姫もそれを確認してほっと一安心した。

 

(良かった。何とか全員を助ける事が出来た。…これもナギ達のお蔭じゃな。まったく本当にたいした奴らじゃ。落ち着いたらこの功績も含め、改めて謝儀をしなくてはな…。ナギ達はいらないと言うかもしれんが、今回ばかりは、何が何でも受け取って貰うぞ?…お主達はそれほどの事をしでかしたのだからな。)

 

そう心の中で誓う。

その際、ナギ達が困惑しながら断っている姿を想像し思わず笑みがこぼれる。

他の皆も無事に助ける事が出来て笑顔だ。

 

そう……誰もが全員無事だと信じて疑わなかった。

 

ナギ達と収容できなかった人がまだ崩壊しかかっている島に残っている事も知らずに…。

 

 

アリカ姫が避難所に到着したのと時を同じくして、クルト達を乗せた小型船もまた避難所へと到着した。

それを確認したアリカ姫は、民の移動を他のものに任せて、自分はすぐさまその小型船へと向かう。

アリカ姫が小型船の前に到着すると、そこには自分の側近であるクルトが、兵士達に必死になって指示を出していた。

だが、普通ならその場所にいそうなナギ達の姿は見当たらない。

別の小型船に乗っているのかと思い、別の場所へと向かうがその場所にもナギ達の姿は見付けられなかった。

流石におかしいと感じたアリカ姫は、先ほど指示を出していたクルトの場所まで戻り、訊ねる。

 

「クルトよ。ナギ達の姿が見当たらんのじゃが、どこにおるのじゃ?」

 

「………」

 

アリカ姫に訊かれたクルトは、思わず視線を外して俯く。

その姿に最悪の事態が頭を過る。

まるでそんな事態を信じたく無いとばかりに、アリカ姫は再度訊ねる。

 

「黙っていては何もわからんではないか!答えよ!!」

 

「………ナギ殿達は収容しきれなかった民達と一緒にまだあの場所にいます。」

 

「…なんじゃと?…うそ…じゃよな?クルト嘘じゃと言うのじゃ!!」

 

クルトのいった言葉が信じられないとばかりに、肩をゆすって訊ねる。

その様子をおかしく感じた他の兵達も近寄ってくる。

 

「…本当の事です。最後の手段があると僕に伝え、その場に残りました。」

 

搾り出すように話すクルト。

それを訊いたアリカ姫はすぐさまその場から駆け出し、戦艦があるほうへ走り出す。

それを見たクルトは、アリカ姫が何をしようかすぐに分かり追いかける。

そしてアリカ姫に追いつくと、後ろから羽交い絞めにしその場にとどめる。

 

「どこに行こうというのですか!」

 

「決まっておるであろう!ナギ達を助けに向かうのじゃ!」

 

「ダメです。いくら戦艦だからといっても戻って来れません!」

 

「うるさい!離すのじゃ!やってみなくてはそんなものわからんではないか!離せー!!」

 

クルトを引きずりながらも戦艦へと向かうアリカ姫。

事情を知った兵士達もアリカ姫を押さえ戦艦へ向かわせないようにする。

 

「アリカ姫様どうかおやめください。」

 

「姫様を危険な場所へ向かわせるわけにはいきません。」

 

兵士達も口々にそう話すが、聞き入れることなく暴れて拘束を外そうとするアリカ姫。

そんな中、また一人の兵士が話す。

 

「大丈夫ですよ。あの人達は”英雄”ですよ?きっと…」

 

兵士に悪気はなく、少しでも安心してもらおうと思っていった一言だったのだろう。

しかし、その一言がアリカ姫を激怒させた。

 

「ふ…ふざけるなー!!!!!」

 

普段見せた事の無いアリカ姫の叫びに、思わずその場にいた全員の動きが止まる。

 

「確かにナギ達は私達が想像もできないほど強く、そしてどんな困難も乗り越えるほどの機転をもっておるじゃろう。だが!!私達と同じ人間なんじゃぞ!!”英雄”…確かにそう呼ばれるに相応しい人物じゃと私も思っておる。じゃが、ナギ達も攻撃を受ければ、血を流す。どんなに強くても死ぬ時は同じように死ぬのじゃ!”英雄”だから死なない?”英雄”だからどんな事があっても大丈夫?ふざけるな!何故ナギ達が”英雄”と呼ばれるか…それは困難にぶち当たり、死に掛けても、そこから気力を振り絞って立ち向かう…同じ”人間”だからそう呼ばれておるのじゃ!!お前達はそれが分からんのか!!!」

 

アリカ姫の叫びに全員が黙り込む。

アリカ姫を羽交い絞めにしていたクルトもまた同じだった。

 

「よいか!二度と”英雄だから大丈夫”などと思うな!」

 

そう言い切った後、アリカ姫は動く事の出来ないクルト達をその場に置いて、戦艦へと再び走り出す。

そんな時一人の若者が大声を上げてこちらにやってきた。

 

「大変だーー!!!大陸が……ウェスペルタティア王国が……崩れだしたぞーー!!!!」

 

『!!!!!!!』

 

それを聞いたアリカ姫は、戦艦の方からウェスペルタティア王国が一望できる場所へと向かう方向を変え、一目散に走り出す。

その場にいた人達も一斉に走り出し、その場所へと向かった。

 

そして目の前に広がる惨劇に言葉がでず、ただただ呆然とその光景を眺めていた。

 

 

「まに……あわなかった…。」

 

アリカ姫がその場に膝を付き、呟く。

 

「なぜ…じゃ…なぜなんじゃ!!!」

 

「何故ナギ達が死なねばならぬ!何故これまで命を懸けてまで戦った”英雄”が死なねばならぬ!」

 

その叫びに答えるものはいない。

 

「彼らがいたからこそ世界は救われた。彼らがいたからこそ、ここまで多くの民達を、この惨劇から逃す事が出来た!!」

 

「その彼らが何故!!!!」

 

その叫びは皆の心の叫びをまるで代弁しているようだった。

そんな中…膝を付いて泣き叫ぶアリカ姫の下に、近くにいたクルトは声をかける。

 

「アリカ姫様。お気持ちはわかります。…ですが、いまだ魔法球の中には外に出してもらうのを待っている民達がいます。そして今この光景を見て不安に駆られている民達を静めねばなりません。……つらいでしょうが、立って指揮を執って下さい。」

 

「……無理じゃ」

 

「姫様!!!」

 

クルトを見ずそう答えるアリカ姫。

それを見たクルトは思わず声を荒げた。

するとゆっくりと顔を上げてクルトを見るアリカ姫。

その顔は涙でぐちゃぐちゃになり、顔色も真っ青に、いつもそばで見ていたアリカ姫とは別人のようだった。

 

「無理なんじゃ!どんな顔で説明すればいいと言うのじゃ…私には分からん!私達はいち早くこの事を知っていたのに、ギリギリまで何もできなかった役立たずじゃ。それに比べてナギ達はこの事に自ら気付き、すべての民達を助けるために最善といっていい行動をとった。しかもギリギリまでその場で前頭指揮を執り、最後まで民達を思いこの事態と真正面から戦った。…そんなナギ達を助けられなかった愚か者に何が喋れるというのじゃ!!!」

 

そう泣きながらアリカ姫に言われ、かける言葉を失うクルト。

 

(くそっ!!!僕はナギ殿にアリカ姫を頼まれたんだぞ!!なのにこのざまはなんだ!何の為にここへ戻ってきたというのだ!自分はアリカ姫の側近…支える事が仕事なのに……僕は託された事も出来ないのか!?情けない…情けないぞクルト・ゲーデル!!!!)

 

悔しさのあまり握っていた手から血が滴り落ちる。

その瞳には涙を一杯浮かべていた。

そんな時……崩壊している島の方から何かの叫び声が聞こえる。

 

グオオォォォ……

 

ハッとなって、目を凝らして島の方を見ると、そこには小さな影が見える。

しかも最初は舞っていた土煙で一つしか見えなかったが、それが段々を数が増えていき、どんどんこちらに近づいてくる。

 

まさか幻獣が襲いに来たのか!?

 

そう思い、思わず身構えるが、次聞こえてきた声によってその想像は裏切られる事になる。

 

「おーーい!皆無事かーーー?」

 

お…おい…あれ……

 

お前にも聞こえるのなら俺の聞き間違いじゃねーよな…

 

ま…まさか……

 

その声に聞き覚えがあるのか、皆ざわざわと騒ぎ出す。

 

「あ…アリカ姫様……あれをご覧ください。」

 

震えるような声でクルトが喋ると、アリカ姫もクルトが向けている所に視線を移す。

 

 

するとそこには………

 

 

大きな籠らしきものを持ったドラゴン達と、その首辺りに乗っているナギ達の姿が目に入ってきた。

 

 

「お?皆流石に驚いているみたいだな。へへ…気持ちがいいぜ」

 

「まったく暢気ですね。…しかし私も気分は悪くないです。」

 

「にしてもまさか幻獣の背に乗れるとは…長生きはするもんじゃのう。」

 

「振動が腰に来て後が怖いな。…まぁ流石にそれは贅沢か…」

 

「流石タケルだな。まさかこんな体験をさせてもらうなんて夢にも思わなかったよ」

 

「HAHAHA!見ろよ人がごみのようだ!!」

 

「うわーラカン。この状況でそのボケはひくわー…めっちゃひくわー」

 

「って言うか何でそのボケをラカンが知っている!?なら俺も言わざるおえまい。あの呪文を…”バルs”」

 

バチーーン!!!

 

「言わせるかーい!!ていうか今の状況やとマジでそれっぽいやろーが!!!」

 

「いいツッコミだ龍ちゃん…だが何故お主がそれを知っている!!!」

 

まるで何てこと無かったかの様にドラゴンの上で騒いでいるナギ達。

籠からは乗り遅れた人達が顔を出してこちらに手を振っていた。

それを見てこちらの民達も手を振りながら歓声を上げる。

 

ワァァァァ…………

 

先ほどまで絶望の表情をしていたとは思えないぐらいの笑顔。

もちろんクルトも同じように歓声を上げて手を振っていたが、近くからすごい怒気を感じ、恐る恐る隣を見る。

するとそこには黒い瘴気を纏ったアリカ姫がいた。

 

「フフフ……」

 

「あ…アリカ姫様?」

 

「あの…馬鹿は……私が心配していたのも知らないで………」

 

その表情は笑顔のはずなのに目が笑ってはおらず、思わずその場から離れてしまう。

そしてナギ達に心の中で必死に叫び声を上げる。

 

(逃げてー!!ナギ殿逃げてーー!!…でもこれをなだめるの僕では無理だからやっぱり早く降りて来てーーー!!!!)

 

そんなクルトの叫びが聞こえたのか、ナギ達を乗せたドラゴンが近くの広い所に降り立った。

ドラゴンの背からナギ達は降りると、アリカ姫のいる場所へと向かう。

 

「へへ…姫さん。無事かよ。戻ってきたぜ?」

 

ナギが笑いながらアリカ姫に話しかけると、ビクッとアリカ姫の体が反応し、無言でナギの肩を掴む。

 

「姫さん?」

 

「無事でなによりじゃナギよ。…心配したんじゃぞ?」

 

「お…おう。ありがとな。」

 

普段見せないアリカ姫のしおらしさに、思わずナギは顔を真っ赤にしてうろたえる。

それを眺めていたメンバーは、ニヤニヤしながら事の成り行きを見守る。

だが次にアリカ姫がとった行動で皆ニヤニヤしていた顔が一気に引きつる。

 

ばちーーーーーーん!!!!

 

「へぶろはっ!!!!」

 

アリカ姫から繰り出される必殺の右張り手によって、ナギはぶっ飛ばされる。

 

それはまさに神速!

”紅き翼”のメンバーにもその軌道は見えなかった。

 

アリカ姫はぶっ飛ばされたナギに走って近寄ると、馬乗りになりながら、ナギの胸倉を掴みガクガクゆらす。

 

「…なんて私が言うとでも思うたかこの馬鹿者が!!大体なんじゃ!へらへら笑いながら帰ってきおって、私が流した涙を返せ!!心配した心を返せ!!!そもそも幻獣に助けてもらえるなら何故私にそういわんのじゃ!!!」

 

ガクガクガクガク………

 

「ちょ…姫さん…やめ……しゃべれ…………うっぷ」

 

「早く喋らんかーーーー!!!!!」

 

その光景を見て引きつった人達から、次第に笑い声が聞こえ始めあっという間に大爆笑の渦になった。クルトは必死になってアリカ姫を引き離そうとするが、ラカンによって羽交い絞めされ、もがいていた。

 

そんな事お構い無しにアリカ姫はナギをゆすり、ナギはゆすられて気持ち悪くなったのか、真っ青な顔をして口を押さえる。

 

その光景が更に、大きな笑いを呼ぶ事となり、アリカ姫の気が済むまで笑い声は治まる事は無かった。

なんともしまらない終わり方であったが、これも”紅き翼”らしいのだろうとタケルは思った。

 

 

こうしてウェスペルタティア王国崩壊と言う大惨事は、一人の犠牲者……いや真っ青になった一人の犠牲者を出しただけで、終りを告げた。

 

 

 

まさに奇跡と言うほかは無い。

 

 

 

 

この功績により、更に”紅き翼”の名声は広まるのであった。

 

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