我拳は銃なりて   作:秋華

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第二十一話:一時解散

タケルside

 

アリカ姫が船で護送されてから一日が経過した。

あの日俺は、どうやって今泊まっている宿に戻ったか覚えていない。

なにせ、気付いたらベットの上で寝転がっていたのだから。

そしてそれは、今隣で寝転がっている龍ちゃんもほとんど同じ感じだったみたいだ。

ただし龍ちゃん自身は、まだ少し冷静な部分が残っていたらしくある程度は覚えているらしい。

と言っても、あの後は皆俺と同じように焦点が合わないまま歩いてこの宿に辿り着くと、一言も喋らず部屋に篭ってしまっただけで、どうしても話さなくてはいけない事などは無かったと龍ちゃんは話してくれた。

それにしても、あのラカンでさえ黙って部屋に入ってしまうのだから、俺達が受けたショックは計り知れないものだろう。

それぐらいアリカ姫の言葉は、俺達にとってショックな言葉だった。

 

「…龍ちゃん。俺って役に立たないよな。」

 

天井を見上げながら、ボソリと俺が呟く。

 

「…それは皆いっしょやろ?タケやんだけやないわ。……言ってて泣けてくるけどな。」

 

隣に居た龍ちゃんは少しだけ体を起こして、俺にそう言ってくれた。

だけど、龍ちゃんはそう言ってくれているけど、違うんだよ。

そうじゃない。

俺が言いたい事はそういう事じゃないんだよ。

 

「違うんだよ。皆は悪くない。だっていきなりこんな急展開になったら誰も動けなくなって当然だと思うよ。あまりにも事態が大きすぎるから。…でも俺は違う。原作の知識でこうなる事は知ってたはずだった!!…なのに、それを防ぐ事が出来なかったんだよ俺は。…本当に役立たずだと思う。」

 

「そう言われれば確かにそうかもしれんな。…でも知っていると言っても、それはあくまで可能性の話やったんやろ?第一タケやんの話では、国王はこの戦争で既になくなっているはずやん。それが無かった時点で、もうその原作からはかけ離れてるやろ?」

 

「確かにそうかもしれないけどさ…。でもたとえ違っていたとしても、それに備える事ぐらいは出来たんじゃないかなぁって思うんだ。可能性はあったんだしさ…。」

 

本当に情けないと思う。

何がハッピーエンドを目指すだ。

実際はナギ達を傷つけ、アリカ姫を投獄されるのをただ呆然と見つめる事しか出来なかったじゃないか。

……本当に情けない。

 

気がついたら、俺の目からは涙が零れていた。

それは皆を傷つけたという後悔からなのか?

自分の力の無さを思い知った悲しみからなのか?

 

分からない…分からない……

 

けど…一つだけわかっている事はある。

 

 

俺は無力なんだと言う事だ……。

 

 

 

「……なぁちょっとワイとケンカしよか?それもマジでやろうや。」

 

俺が自分の力の無さに絶望していると、隣にいた龍ちゃんがいきなりそんな事を言い出した。

その発言にビックリして、すぐさま龍ちゃんの方へと顔を向けると、そこにはいつもぬいぐるみサイズの龍ちゃんじゃなく、戦闘時に見せる龍ちゃん本来の姿があった。

しかも、龍ちゃんからあふれ出てくるのは、初めてケンカした時以来、俺に向けて放つ事が無かった本気の殺気。

その殺気と姿に、思わず背中に嫌な汗を掻く。

そこにいるのは紛れも無く、人よりも上の存在の幻獣。その中でも高位とされる虎族の姿。

逆らう事を許さないと思わせるほどの重圧が、俺にこれでも向けられていた。

 

「…ちょっとまってくれよ。何でいきなり龍ちゃんとケンカしないといけないんだよ」

 

「なんで?…それはなぁ…ここにいる奴がニセモンやからや!」

 

そう言い放つと、さっきよりも更に濃密な殺気を俺に向けて来る。

 

「意味わからねーよ!ニセモンって何のことだよ!理由を教えてくれ!!」

 

俺がそう叫ぶと、龍ちゃんは殺気を俺に向けたまま静かに話しだした。

 

「ええかニセモンさんよ。たとえ未来の出来事を知ってたとしてもやな、本来それを変えるなんて事出来るはずないんやで?やって未来を変えるっちゅう事は、この世界に住む住人すべてを自分の思い通りに動かすと同じことなんや。そんなん神さんやないと無理や。…いや神さんでも出来んかもしれん。…やけどな。そんな無理な事をやってのけた者がおる。いつもワイのそばに居った男や。その男はどんなモノも撃ち破る拳で、その熱い意志で、幻獣、人間関係無しに大切に思える心で、それを可能にしたんや。それはワイが最も信頼して頼りにしとる相棒なんやで?」

 

「龍ちゃん…。」

 

「でも今ワイの目の前におるのは、その最高の相棒に姿形を似せたニセモンや。ホンモンやったらたとえ自分の無力さを痛感しても、その場であきらめて冷めてしまうことなく、むしろこの逆境を撃ち貫いたると目に炎を灯らすはずや。……なぁニセモンさん。ホンモンは……ワイが知っとるタケやんはどこにおるん?教えてや…。」

 

そう言って、こんどはすがるように俺の顔を見てくる龍ちゃん。

いつの間にか殺気や重圧を放っていた幻獣はいなくなっていて、そこにいるのはただ友を探す一匹の幻獣の姿があった。

それを見た俺は、自分がいかに思い上がっていたのか、そして弱気になっていた事を知った。

けど、そんな情けない男をまだ“最高の相棒”だと言ってくれている友人がそこに居る。

俺なら何とかできる。

それを心の底から信じて…。

そんな友人の心を裏切れる訳が無い。

俺はそっと龍ちゃんを抱きしめて話す。

 

「……悪かったよ。確かにさっきまでの俺は俺じゃ無かったよな。こんな事でめげていたらハッピーエンドなんて迎えることが出来ない。ショックだったけど、それに絶望してしまったら終わりだよね。」

 

そう言いながら、俺は更に強く龍ちゃんを抱きしめる。

すると、龍ちゃんは気持ちよさそうに肩に頭を乗せてスピスピと鼻を鳴らす。

 

「やっと戻ってくれたな。…おかえりやタケやん」

 

「おう…ただいま龍ちゃん。」

 

しばらく二人で抱きしめあっていると、龍ちゃんが優しく俺に語りかけてくる。

 

「別に悲しかったり、悔しかったりして泣いてもええ。そん時はワイも一緒になって泣いたるから。…でもな、もうあんな目せんといてや。あんなすべてに絶望してもう何も映さないようなあの瞳に。たとえ周りが諦めとったとしても、タケやんはその目に光を宿しといてや。…それが出来るとワイは思うし、出来ると信じとるから。」

 

そんな龍ちゃんの言葉に、改めて俺は最高の相棒を持っているんだと思う。

そしてそんな相棒の期待に応えられるように、改めて決意した。

 

もう、どんな事があっても、絶望し、あきらめる事はしないと。

 

「わかったよ。…龍ちゃんも今日みたいに俺がダメになりそうだったら怒って目を覚まさしてくれよ。」

 

「もちろんや♪なんて言ったって、ワイはタケやんの相棒なんやから。」

 

龍ちゃんはそう言うと、俺の頬を舐めてくれた。

 

そうだ。

 

何簡単に絶望していたんだろう。

 

俺にはまだ出来ることがあるし、こんな状況くらい簡単に打破する事ができるだろ?

 

なんていったって俺は”銃神”と呼ばれているんだ。

 

その拳は、敵を撃ち貫く事だけでなく、こんな悲しみや、困難も撃ち貫く事ができるはずだ。

 

それをやってこその”銃神”だろ?

 

さぁ…反撃開始だ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……(ムズムズ)ハ……ハ…ハックッションベランメェ!!」

 

「うるさ!!そしてなんやそのくしゃみ!ベランメェっておっさんか!?…けどまぁコレも本物のタケやんっていう証拠か…。最後までかっこよく決められん所とか。…タケやんにしかできんわ。」

 

「……流石に否定できないんだけどさ。でもコレで俺って断定するのはひどくないか?」

 

「…ひどない。言われたくなかったら最後まで緊張感もてって言うねん。」

 

 

 

三人称side

 

最後までシリアスに決めれなかった武だが、龍牙のお蔭でいつも通りの自分を取り戻す事が出来、この状況を打破するために行動を開始した。

まず最初やった事と言えば、他の”紅き翼”のメンバーの部屋へと行き、一人ずつ励ましにまわる事だった。

流石の”紅き翼”のメンバーも、武と同じように今回の事はかなりショックを受けていたようで、いつものような覇気はまったくといっていいほど無かったが、武と龍牙の励ましもあって、いつも通りという訳にはさすがにいかなかったが、現状を打破するために行動する事が出来るぐらいにまでは回復する事が出来た。

ただ、やっぱりと言うか、ナギは他のメンバー以上に深刻な状況であり、いくら武達が励ましたり、気持ちを持ち上げようと色々やってみたりはしたが、大した成果は得られなかった。

しかし、それでも根気良くナギを励まし続けた結果、何とか話したり外へ出かけるまでには回復する事に成功した。

 

でも、この状況を打破する為に動く事はまだ無理みたいで、他のメンバーが色々行動を開始している中、”赤き翼”のメンバーでただ一人動く事が出来なかった。

武達はそれを気にしてはいたものの、ナギの回復を待っていたら、本当に間に合わなくなってしまうかもしれない。

その為、順番にナギに付き添う事にして、それ以外のメンバーはまず事態を正確に把握する為に情報を集めるのだった。

 

そして、アリカ姫が投獄されてから一週間。

メンバーは、今まで拠点としていた宿屋に全員集合し、これからの事について話し合う事となった。

 

「さて。あの日から一週間が経過しました。そろそろここで、各自得てきた情報を統合してこれからどう行動して行くのか話し合いたいと思います。」

 

いつものようにアルが司会進行を勤め、話し合いが始まる。

まずは、この一週間で掴んできた情報を交換することとなった。

 

「じゃあ。まずは俺からだな。俺の伝と王国の中でも信用できる奴らからの情報なんだが…。まずことの発端のあの事件についてだ。今回の国王殺害事件なんだが、思った通り裏があるみたいだな。アリカ姫が国王のいる部屋へと入る前に、何者かが複数中に入っていくのを見かけたそうだ。結構長い時間その部屋にいたらしい。あの部屋はそこの扉以外入ることは出来ない作りになっているし、常に扉の前には護衛として兵士が常住していることから、それなりの身分を持った人物たちだろう。」

 

「ふむ。普通に考えればそいつらが犯人じゃろうな。あれからワシも色々考えてみたのじゃが、どう考えてもアリカ姫が国王を殺したとは考えられん。と言うより、もしアリカ姫が殺したのならその場に凶器が無いと話が通じん。それに、そもそもアリカ姫の部屋から凶器が出ること自体おかしいのじゃ。」

 

「ふむ。それについては同感だな。」

 

ガトウの報告に、ゼクトが自分の考えを述べ、それに詠春が賛同する。

他のメンバーも詠春と同じ考えなのか言葉には出さないが皆頷いていた。

 

「だったらそいつを捕まえて連れて行けば、アリカ姫を助ける事ができるんじゃねーのか?」

 

「いやラカン。それはちょっと難しいな。」

 

今までの話を聞いてラカンがそう意見を出すが、ガトウは難しい顔をしながらそれを否定する。

 

「どうしてだよガトウ。」

 

「まず捕まえるにしてもそいつが誰なのか?今現状は分かっていない。その場にいた兵士に聞いてみたんだが、人相については良く覚えていないと言っていた。本来ならそんな事あってはならないんだが、どうやらその人物達は元老院からの命で来たと言って、兵士達に元老院の命令が書かれた書類を見せたらしい。前にもこういった事があったらしく、それを見て護衛の兵士達は対して顔とかをしっかりと確認する事なく通したそうだ。それを聞いて思わず頭を抱えたくなったが、まぁ今はそんな事はどうでもいい。とりあえず、人相については絶対俺が突き止めて見せるつもりだ。それともう一つ。何とかしてその人物を捕まえたとしても、そいつが罪を認めなければ意味が無い。尋問という手もあるにはあるんだが、それにはどうしても時間がかかってしまうし、そのせいで先に刑が執行されてしまえば、それこそどうしようもなくなってしまう。」

 

「ちっ…結構簡単に終わると思ったのによ。」

 

頭を掻きながらラカンが舌打ちをする。

すると、今度は詠春がガトウに質問を投げかける。

 

「ガトウ。何か方法は無いのか?その…尋問以外でそいつに罪を認めさせる方法なんだが…。」

 

「簡単なことだ。ぐうの音も出せないくらいの決定的な証拠を掴めばいい。コレはあくまで俺の予想だが、アリカ姫の部屋に有ったとされる”完全なる世界”とのつながりを示した書類とかは、おそらく内容はそのままで、あて先や中にでてくる言葉などを変えたものだろうと俺は思っている。だからその原本を掴む事が出来れば、一気に決着をつけることが出来るはずだ。」

 

その言葉に、今度はアルが渋い顔をする。

 

「それは……かなり難しいですね。前偶然発見した元老院とのつながりを記した書類みたいに敵のアジトに有ればよいのですが、そう簡単に見つかるとは思えません。そもそも殆ど私達が潰してしまいましたから、潰してない拠点がどこにあるのか検討がつきません。おそらく今回も元老院達が何らかの形で関わっていると思いますから、あの人達が住んでいる場所ならかなりの確実で証拠になりそうなものが出て来ると思います。ですが…さすがに元老院達がいる場所に忍び込むわけにもいかないでしょうしね。………まぁ、やろうと思えば出来ると思いますけど、それは最後の手段としたい所です。」

 

アルの言葉を聞いたら、普通の人間なら絶句してしまう事だろう。

元老院といえば、ある意味国の王よりも権力を持っており、その力の大きさを考えれば、忍び込むこと以前に反抗しようとする言葉でさえ口に出すのを躊躇うぐらいなのだ。

それなのに、アルは表情を変えず極自然に反抗とも言える言葉を出した。

しかも恐ろしい事に、この”紅き翼”はそれを実行に移せてしまうのだ。今更言う事ではないかもしれないが、改めてここに集まっているメンバーは規格外と言わざるおえない。

 

「そうだな。…まぁアリカ姫が無実だという証拠は俺がなんとしても掴んで見せるさ。」

 

そうガトウが〆る。

 

「さて、他には何か情報を掴んだ人は居ますか?」

 

アルがそう投げ掛けると、今度は武と龍牙が少し前に出て話し出す。

 

「なら今度は俺達が掴んだ情報を話したいと思う。俺達はそもそも何でこんな事件が起こってしまったのかをまず調べてみる事にしたんだ。」

 

「まぁ…流石に全部分かったとは言えんけどな。でもその情報のお蔭で、いろんなことが分かったわ。ちゃんと調べなあかんとわかっとるけど、聞いてて何度暴れようかと思ったか…。」

 

武と怒りを隠そうともしない龍牙の言った言葉に皆思わず息を呑む。

それも当然の事なのかもしれない。おそらくここにいる全員が知りたかった情報だったのだから。皆武の方を見て静かにでてくる言葉を待っていた。

 

「まずは、ここにある人物を呼びたいと思う。俺達にこの情報をくれた一人でもあるんだが、丁度よかったから協力してもらおうと思ってここに呼んであるんだ。」

 

「む?このことはあまり他の人には知られたくないんだが…一体誰だ?」

 

「ガトウも知っている奴さ。…と言うより、皆知ってると思うけどな?まぁいいや。ちょっと呼んでくるわ。」

 

武がそう言うと、皆誰だろうと記憶を探るように考え込む。

その間に武は、今は自分の部屋で待ってもらっている人物を呼びに言った。

しばらくして、武がその人物を連れて部屋へと戻ってくると、つれてきた人物を見て、皆”なるほど”と何処か納得したような顔してその人物を眺めていた。

 

「それじゃ、紹介しようか。今回俺と龍ちゃんに協力してくれたクルトだ。」

 

「皆さんお久しぶりです。武さんに言われて自分も何かお手伝いがしたいと思ってここにつれて来てもらいました。自分が出来ることなんて殆どないと思いますが、それでも精一杯やりたいと思っているので、どうかよろしくお願いします。」

 

武に紹介されて、クルトは改めてメンバーに挨拶をして頭を下げた。

それを見て皆少し顔を綻ばせると、武に向かって次々と言葉を投げ掛ける。

 

「なるほど。確かにアリカ姫の側近をやっていた彼ならいろんなことを知っていそうですね。」

 

「そうだな。俺としたことが、まず真っ先にこちら側に引き込む人物を忘れていたな。」

 

そんな言葉を聞いて、クルトと武は何処か恥かしそうに皆から視線を外す。

しばらくそんな光景が続いた所で、武が一度咳払いをして掴んできた情報を話し出した。

 

「さて、それで俺達が掴んできた情報なんだが、どうやらアリカ姫はこちらに帰ってきてからかなり圧力って言うか、なんていうか…ようは嫌がらせみたいな事を言われてたみたいだな。」

 

「いやがらせ?…確かにそれも問題だと思うが、それと今回の事件とどういった関係があるんだ?」

 

ガトウがピクッと眉を動かし、皆が疑問に思っているであろう事を口に出す。

 

「それはその嫌がらせの内容に関わってくるのさ。」

 

「内容だと?」

 

「そこからは私が説明します。」

 

武の言葉を続けるように、それをそばで聞いてきたクルトが話し出した。

 

「アリカ姫様がこちらに帰ってきてから、殆どの人がその行動と結果に賞賛をあげました。ただ、その功績を妬む人達が居たのです。その人達は、元は国王に仕えている役人みたいな人達なのですが、はっきりと申し上げまして自分達の利益の為にどんな事もする人達なのです。現に黒い噂が絶えません。おそらくは、ガトウ殿も知っている人達ではないでしょうか?」

 

そうクルトが言い、その人達の名前を次々と上げていく。

それを聞いたガトウは、苦虫を噛み潰したかの様な顔をして”なるほど、良くその名前は知っている”と静かに答えた。

 

「その人達は、もともとアリカ姫様の事を良く思っていなかったので、前々からアリカ姫様の邪魔をするように色々ちょっかいを掛けてきました。もちろんアリカ姫も私も、それに対抗する為に、その人達がやったという証拠を集めて、解任させようとしていたのですが、なかなか証拠などは掴めず、たとえそれらしいものを掴めたとしても、トカゲの尻尾切りのように他の人を犠牲にしてそれを逃れていました。」

 

「あ゛~そういう奴俺様は一番嫌いなんだよ!」

 

クルトの言葉を聞いて、いらつきを隠せないラカン。

まぁ誰でもそんな人を好きになる人なんて居ないだろうが、ラカンは特にそうなのだろう。

隣にいた詠春がなだめても怒りが収まらないようだった。

 

「どういう人物かは分かっていただけたと思います。それで話は最初に戻る訳ですが、その人達は当然のように帰ってきたアリカ姫様に対して嫌がらせをしてきました。が、何故か戻ってきてからその嫌がらせがかなり強まってきたのです。そしてガトウ殿も参加した会議の前の日、アリカ姫様が会議の案件を纏める為に仕事をしていると、部屋に大人数で押しかけて文句を言いにきたのです。”一緒に連れてきた幻獣をどうするつもりだ!住処を与えるだと?何を言っているのだ、幻獣は我々人間にとって害でしかない、そんな生物対して住処を与えるなんて何を考えているんだ!!”そう言ってきました。」

 

「害しかならないじゃと…。話をした事も無いくせに、よくもまぁそんな事が言えるもんじゃ。確かに話すまではワシもそう思っていた節が確かにあった。しかし話してみればかなり良い奴ばかりじゃぞ?それを頭ごなしに否定するとは何を考えて居るんじゃ!!」

 

クルトの話に今度は、ゼクトが怒りをあらわにする。

ゼクトがこうして、感情を表に出す事自体が珍しいのだが、それも当然の事なのかもしれない。

武と龍牙の話を聞いた後から、ゼクトは頻繁に幻獣達と話すようになっていた。

そしたらウマがあうのか、かなり仲良くなったらしい。

それからというのもゼクトは、暇さえ見つければ幻獣の所に行ってその度に楽しそうな顔をしながら帰って来るのをここに居る全員が目撃している。

そんな彼だからこそ、この言い分にはかなりの怒りを感じるのだろう。

 

「ゼクト殿の言う通りですね。私も前にアリカ姫様と一緒に話しに行きましたが、その時話を聞いてそして会話してとても楽しい時間を過ごす事が出来ましたから。きっとアリカ姫様も同じ事を思っていたのでしょう。部屋に来た人達にゼクト殿と同じような事を言っておられました。それを言ったとたんその人達は一言二言嫌味を言って返っていきました。そしてその次の日あの事件が起こったのです。」

 

「なるほどな。そんな事があったのか。だがこう言ってはなんだが、そいつらが言っている事も正しい面はある。確かに頭ごなしに否定するのは良くないが、幻獣と話したことの無い人達は同じような感想を持つだろうからな。」

 

「確かにガトウ殿が言っている事も、アリカ姫様は考えておられました。それを解決する為にも、あの会議の時には国王様も交えて、これからどうやって幻獣達と付き合っていくか議論される予定でした。ただしその会議には国王様が来られず、結局話し合うことが出来なかったのですが…。ただその後聞いた噂なのですが、この意見にはあの人達の思惑があったみたいなのです。」

 

「!!!」

 

最後にクルトが付け加えた言葉で、皆の目が見開かれる。

その言葉を聞いて今度は、先ほどまで黙って聞いていた武が話を始める。

 

「そこからはまた俺達から話したいと思う。俺と龍ちゃんはクルトからこの話を聞いてその噂の真偽を確かめる事にしたんだが……結論から言ってその思惑とは、アリカ姫を政治の舞台から引きずり落し、国王を自分達の思い通りに操るつもりだったみたいだ。」

 

「なんだと…。」

 

武が言った結論に皆絶句する。

まさか自分達が想像していた事よりもかなり大きな事態にさすがのメンバーも驚きを隠せないようだった。

 

「ワイらが掴んだ情報によるとやな、そいつらは裏で元老院と繋がっていたらしく、前々から裏で国を操ろうと色々やってたらしいんや。アリカ姫に対するいやがらせもその一環っぽいわ。いやがらせをすることで、アリカ姫が活躍せんようにして国の中での発言権を無くそうと考えてたみたいや。ただ、アリカ姫やそれに仕える人達が優秀やったみたいで、全部失敗に終わったみたいやけどな。それにくわえ今回の功績や、そいつ等からしたらかなり面白くないやろうな。しかもクルトから聞いたけど、そいつら王国が崩壊するって分かってて、そこに居る人達を助けに行こうとするアリカ姫を最後まで邪魔してたみたいやからな。」

 

「ちっ…自分さえ良ければ他はどうでもいいって事かよ!!」

 

「ま、そうやろうな。正直言って苦しんで死んで欲しいと心から思うわ。ま、それはそれとしてや。それであせったそいつ等は、強引にでもアリカ姫を失脚させようと、一緒にここに避難してきた幻獣たちに目をつけた。ご大層にまるで自分達の意見が下の人達の意見の総意みたいなように話してな。だけどその意見にアリカ姫は賛同する事は無かった。当たり前やな。幻獣の実態を知っているアリカ姫にとって、その意見は到底賛成できるもんじゃないだろうし。他の人に言われたからと言って、簡単に意見を変えるほどひよってないからな。でも、その事はあいつ等も予想済みで、むしろそれを利用して国王自らアリカ姫を叱咤してもらい、そのまま追い込む算段やったみたいや。そいつ等と国王が言い合っているのを目撃した侍女さんがおったから、これは事実や。ただし、そん時そいつらにとって予想外の事が起こった。」

 

「なんだその予想外の事って?」

 

「国王がな、アリカ姫を擁護したんや。これもクルトから聞いたんやけどな。アリカ姫はこっちに帰ってきて、すぐに国王と面会して幻獣の事について色々語ったらしい。できる事なら、王と幻獣を会わせたかったんやろうけど、さすがにそれは難しいからな。アリカ姫が実際に幻獣に会って感じた事を伝える事しかできんかったらしいけど。ただ、アリカ姫がかなり熱く語ってくれたらしくて、”色々思うところがあるが、前向きに考えていこう”みたいな事を言ってくれたそうや。やから国王は、アリカ姫の意見をも一度ちゃんと聞いて、幻獣達とも話をしないと決めることは出来ないと言って、その場を後にしたらしいわ。これを聞くだけでもいい人なんやなってワイは思うわ。」

 

「なるほど。あとは大体予想できますね。自分達の意見が通らない国王などは要らないという事で、その人達は秘密裏に国王を殺害。しかもそれをアリカ姫に擦り付ける事で、自分達の思い通りに行かない人物を一気に無くそうとした訳ですか。」

 

おそらくだが、これが今回の事件の真相なのだろう。

アルが言った推理に皆納得がいったようだ。

 

「俺もそう思う。…がこれはあくまで集めた情報を下に考えた、俺達の予想でしかないんだ。くやしいけどそれを証明するモノは何も無い。」

 

「そうだな。証拠が無ければたとえこれが真実でもまったく意味がなくなってしまう。なんとも歯がゆいものだな。」

 

「だが、これで私達がこれからどうするか決まったな。その証拠を集めれば良い訳だ。」

 

詠春の言葉に皆頷く。

その詠春の言葉を皮切りに、各自自分がやろうとしていることを口にしていく。

ラカンなどは、そんなまどろっこしい事をせずにさっさとアリカ姫を助けてしまおうぜ?とか本気で言っているのか、冗談で言っているのか分からないような発言をしていた。

そんな中、ただ一人会話に参加しようとせず、ずっと何かを考えている男が居た。

その男の様子に気付いたアルは、”珍しいですね”と思いながら会話を振る事にする。

 

「それで?ナギはどうするのですか?先ほどから何か考えているようですけど…。」

 

アルがそう言うと、そこにいた全員が一旦会話をやめて、ナギの方へと顔を向ける。

そこにいる全員の視線を受けたナギは、何時もみたいな覇気はまったく無く、アルに話を振られても、反応らしい反応をする事は無かった。

あまりにもいつのも違う、ナギの状況に皆不思議がっていると、不意にナギが呟く。

 

「……なぁ皆。俺達は本当にアリカ姫を助けていいんだろうか?」

 

『はっ!?』

 

いきなりとも言えるナギの言葉に皆思わず聞き返してしまう。

 

「な…何を言っているのですかナギ殿。助けていいに決まっているじゃないですか!先ほどまでの話を聞いていたでしょ?どう考えてもアリカ姫に罪はありません。なら助けるのが当然じゃないですか!」

 

「それくらいは俺にもわかってるよ。姫さんがつかまる理由なんて無いって事はな。だけどよ…。」

 

クルトの言葉に淡々と答えるナギ。しかし、その言葉の最後は弱弱しくはっきりしていなかった。

そんなナギの姿に、どうしてそんな事を言い出したのか気になった武は、ナギに質問を投げかける。

 

「ナギ…。一体何を悩んでいるんだ?」

 

武にそう問い掛けられ、ナギは少しずつ自分が思っていることを口に出した。

 

「…姫さんが船に乗っちまったあの日からよ、ずっと考えていたんだ。何で姫さんは何も弁解せずおとなしくあの判決にしたがったんだろうって。だって何時もなら、あんな理不尽な状況黙って見ているはずが無いだろ?しかも急に俺達を騎士から除名したりしてよ。」

 

ナギの言葉に皆確かにと思う。

それは皆がどうしても知りたかったこと。

何故アリカ姫があんな行動を取ったのか?

一人一人考えてはいるものの、その答えはまだでていなかった。

 

「俺さ、さっき皆が掴んできてくれた情報を聞いて、なんとなくだが姫さんが取った行動が理解できた気がするんだ。もちろんこれはあくまで俺の想像でしかないし、本当の所は姫さんに直接聞かないと分からないけどな。…で俺が辿り着いた答えって奴なんだが、おそらく姫さんはこの状況が長引いて、その間避難してきた人達や、幻獣の問題などが後回しになってしまうのが嫌だったんじゃないかって。」

 

「それは…いえ。確かにアリカ姫ならそう考えてもおかしくないですね。」

 

ナギの考えに、アルがすぐさま否定しようとするが、あのアリカ姫ならそう考えてもおかしくないと思い、つらそうな顔をしながらナギの辿り着いた答えに賛同する。

 

「で…でも!確かに国の再建や、避難した人々のこれからの事、幻獣の新しい住処…色々問題は山済みで、一刻も早くその問題を解決しなくてはいけないのは理解できます。しかし!!それと今回のことは天秤にかけるものじゃありませんよ!!それにその問題はアリカ姫が先頭に立って行う事で初めて解決できるんじゃないんですか?」

 

「クルトに改めて言われなくてもそれは分かってるよ。だがよ姫さんはそれを天秤にかけた。そして自分の地位、名誉、命なんかよりもその問題を早く解決する方がいいって判断しちまったんだろ。おそらく俺達なら自分がいなくても、その問題を解決できると信じてな。」

 

辛そうに喋るナギの言葉に全員黙ってしまう。

普通誰だって自分の命が一番大切で、それが危険にさらされるなら、他の事など気にしている余裕などない。だが、まれにだが自分の命よりもほかの事を優先させる事が出来る人達がいる。そういう人物は得てして”英雄”などと呼ばれることが多いのだが、アリカ姫もその一人だったのだろう。

そして、人々から”英雄”と言われている”紅き翼”のメンバーも当たり前のようにそういうことが出来る人物達で、それゆえに今回アリカ姫が取った行動や、その時考えていた事まですべては無理でも分かってしまう。だからこそ普通の感覚なら馬鹿げていると思えてしまう行動でも、諸手をあげて賛同する事は出来ないが、だからと言って完璧に否定する事も出来なかった。

 

そんな誰もが口を開く事が出来ない状況化の中、いつの間にか瞳に涙を一杯溜めて体を震わせていたクルトが呟く。

 

「じゃぁ…ナギ殿は…ナギ殿はアリカ姫様が死んでもいいと思うのですか!?確かにアリカ姫様の想いはそうなのかもしれません。ですが!!…ですが…これじゃああまりにも…」

 

幼い頃からアリカ姫に仕えてきたクルトにとって、たとえそれがアリカ姫の考え抜いた結論だったとしても、それを認める事が出来なかった。

その気持ちはアリカ姫に忠誠を誓っているだけでの物ではなく、愛しい人を守りたいという気持ちも混ざっていた。

クルト自身も自分がアリカ姫にそんな気持ちを抱いていたなんて、今の今まで気付いていなかったのかもしれないが、そばから居なくなって初めてクルトはそれに気付いたのかもしれない。

それなら、なおの事アリカ姫を助け出したい。

そう思ってクルトは叫ぶ。

それを聞いたナギも体を震わせながら答えた。

 

「わかってる。わかってんだよ!そんな事分かってんだよ!俺だってコレに気付いてから、たりねー頭を使って何度も考えてんだよ!俺だって…俺だってな…姫さん助けたいと思う。だがよ…だけどよう…最後、涙を流しながら笑って言ったあの言葉が俺の頭から離れねーんだよ!!”これからも私の…私達の英雄であってくれ”って言葉が!姫さんが望んでいる”英雄”ってのは今一番困っている奴らを無視してでも姫さんを助ける人の事を言っているのか!?俺はどう考えてもそうは思えねぇんだよ!!」

 

それは初めて皆に見せるナギの弱さだった。

いつも、明るく、自信満々でどんな逆境でも負けないという強い意志を持っていたのに、今のナギはまるで子供。

いきなり知らない所に連れて行かれて、そこで迷子になり、親を探している子供のようだった。

 

「…なまじアリカ姫の気持ちがわかってしまうのがいかんな。クルトが言っている事も間違ってはおらんし、ナギが今悩んでいる事もくだらないとは言えん。…どうすればいいのかワシにも分からん。」

 

そこにいる皆の気持ちを代弁するかのようにゼクトが話す。

先ほどまでナギにくってかかっていたクルトも、ナギが抱えていた悩みを聞いて黙ってしまった。

 

「…皆には本当にすまねぇと思っているが、今の俺はアリカ姫を助けることができそうにねぇ。……時間もあまり無いって言うのに、これじゃいけないと分かっているのに、それでも…どうしても…手に力がはいんねぇんだ。」

 

ナギがそう言いながら震えている自分の手をうらむように見ていた。

その姿を見て、アルは意を決したように皆に問い掛ける。

 

「…分かりました。確かに時間は限られていますが、それでもまだ約二年あります。その間にナギ自身の答えを見つけてください。ギリギリまで私は待つことにします。…他の皆はどうですか?」

 

「ワシもアルと同じように待とう。…こればっかりはワシでも教えられん。それはお主自身が決めなくてはいけないこと。ワシはどんなナギがどんな答えを出したとしてもそれを否定することはせん。…だから時間が許す限り考えてみると良い。」

 

「俺はこの後もアリカ姫を助け出す為に色々準備していくだろうが、アリカ姫を助け出すその日にナギがいなくてもせめたりはしない。ナギが考えて考えて…考え抜いた答えの通り動いてくれ。ただできればそれが俺にとって望ましい答えになる事を祈っている。」

 

アル・ゼクト・ガトウの言葉を続いて、他の皆も同じように自分の言葉を交えながら、ナギが行動しない事を認めた。

クルトもナギの状況を見てどうやら納得できたようだ。皆と同じように今行動しないことを認めていた。

ただ、やっぱり何処か思う所があるのだろうが、その顔には少しだが不満が見て取れた。

しかし、それは仕方が無いことなのかもしれない。

だってそれほど、クルトはアリカ姫の事が心配で、すぐにでも助けたいと思っている証拠なのだから。

 

「皆…ありがとう。これから俺はしばらく一人でこれまでの事を踏まえて色々考えながら大陸を回ってみたいと思う。姫さんの願いの通りいろんな人を助けながらな。」

 

ここに居る全員にナギがそう伝えると、座っていた席から達扉へ向かって歩き出す。

そんなナギに武は声をかける。

 

「ナギ!…さっきナギが言ってた”英雄”の条件なんだけどよ。それはあくまで”英雄”って奴の一面でしかないと俺は思う。”英雄”って奴は多分いろんな形があると思うぜ?…まっ!俺が信じている”英雄”ってやつだけどよ。」

 

「一面…ははっ。俺にはまだその意味がわかりそうにねぇけどよ。…その言葉覚えておくぜ。じゃ、何とか俺の答えって奴を見つけてくる。」

 

武の言葉に、何か思うことがあったのかさっきまでの表情に少しだけ光が差し、今度こそナギはこの部屋から出て行った。

 

そしてナギが出て行った部屋ではナギを除いてこれからどう動いていくかが話し合われた。

 

「さて、ナギを待つと先ほど言いましたが、それまでにやれることはやっておきましょう。」

 

「そうだな。俺はさっき言ったみたいに、これからもアリカ姫の無実を証明するために証拠集めをしたいと思う。それと同時に、アリカ姫を嵌めた奴らの悪事も全部暴いてやる。」

 

「ワシは、幻獣について色々行動したいと思う。あの時アリカ姫が”幻獣については心配するな”とは言っていたが、状況が状況じゃ。どうなるかわからん。じゃからワシの方で最悪の状況にならないように手をうっておこう。」

 

「俺様は…そうだな。まぁ暴れられねぇなら仕方がねぇ。ゼクトと一緒に幻獣について行動するわ。それと傭兵時代に培った情報源を当たってみてやるよ。もしかしたら何かつかめるかもしれねぇからな。」

 

「私は…一度故郷へ帰りたいと思う。何も出来ないのは申し訳ないと思うが、この時間を使って俺もいろんなモノにケリをつけたいと思う。ナギが前に進もうとしているのと同じに、私も前に進む事にするよ。」

 

「お?とうとう覚悟を決めるって事か?確か故郷に許婚がいるんだっけな?結婚するのか?」

 

詠春の言葉にラカンがチャチャを入れるが、何時なら動揺してラカンに切りかかってもおかしくない詠春が、普通にその言葉を真摯に受け止めてラカンの問いに答える。

 

「ああ。式についてはこのことが終わった後にやりたいと思っているがな。…出来れば皆私の式に出て欲しい。……アリカ姫も含めてな。」

 

その詠春の変わりように、普段から一緒にいたメンバーは驚くが、フッっとどこか嬉しそうな顔を浮かべる。詠春にチャチャを入れたラカンは”そうか…”と嬉しそうに顔を緩ませながら呟いた。

 

「それは楽しそうですね。ぜひ参加させてもらいますよ。それで武と龍牙はどうしますか?」

 

アルも嬉しそうに式の参加を決めると、最後に残っていた武達に話を振る。

 

「俺は…どうしようか?」

 

「そうやなぁ…ワイはタケやんについていくつもりやけど。どないしよう?」

 

二人とも特に考えていなかったのか、お互いに顔を見合わせて考えるそぶりをする。

すると、ガトウがそんな武達を見て意見を出す。

 

「まだ何も決めていないのなら、俺からのお願い聞いてくれないか?」

 

「お願い?」

 

ガトウの言葉に武が聞き返す。

 

「ああ。タカミチを一緒に連れて行って修行を見てくれないか?」

 

ガトウの言葉にビックリしたタカミチは、勢いよくガトウの顔を見る。

 

「師匠!?僕も師匠と一緒に証拠を集めます!」

 

「タカミチ…そう言ってくれるのは嬉しいが、折角時間が取れるんだ。この時間は自分の為に使え。いつか自分の成したい事を成すために、どんな困難にも負けない力をつけるためにな。」

 

「…師匠。分かりました。武さんいいですか?」

 

ガトウがそうタカミチを諭し、タカミチ本人もガトウの言葉と目を見て何かを悟ったのか、それを了承し武に確認を取る。

 

「ああ。いいぜ?それに俺達もただ修行するだけじゃもったいないから、ナギと同じように大陸を回って色々見ていこう。修行しつつ情報やこの状況を打破するために動けばいい。龍ちゃんもそれでいいか?」

 

「ええで?ワイはタケやんについて行くだけや。」

 

「ありがとうございます。これからお願いします!!」

 

武と龍牙がタカミチの同行を認めた所で、改めてお礼とこれからお世話になる事も含めて頭を下げる。

その光景を見ていた武だったが、何かを思いついたのか、そばでそれを見ていたクルトにも声をかける。

 

「あ、そうだクルト。よかったらお前も一緒に俺達と来るか?」

 

「えっ?ですが…。」

 

「将来お前がどんな道に進むかわからないけど、自由に行動できる時にいろんなモン見といたほうがこれからのお前の為になると思うぞ?アリカ姫がつかまってしまったから、それなりに暇ができてるんだろ?」

 

「それはそうですが…流石に側近の私が仕事を放棄するのは…それにあの人達を止める必要がありますし…。」

 

そう言ってクルトが悩んでいると、ガトウも武の意見に賛成なのだろう。クルトの心配をなくすように声をかける。

 

「それなら心配するな。俺の方で何とかしておいてやる。それに、どうせあの馬鹿どもが好き勝手やるだろうから、クルトが何とかしようにも発言を封殺されて出来る事はほぼないだろう。なら一度いろんなものをほっぽりだして外の世界を見て回るといい。」

 

「ガトウ殿…分かりました。色々考えてみたい事もありますので、そうします。武殿よろしくお願いします。」

 

「お?…おう。よろしくな。」

 

ガトウにそう言われ、クルトも武達と一緒に行動する事を決めた。

武は、自分で誘っておいてなんなんだが、やけにあっさりと一緒に行くことを決めたクルトに驚いていたが、クルト自身も何か考えがあってのことだろうと思い、その事について触れない事にした。

 

武がそんな事を思っていると、ニヤニヤした表情で龍牙がクルトに話しかける。

 

「あれ?ワイには何もないんか?」

 

「えっ?い…いえいえそんなつもりは無かったんですが!!…えっとその…武殿が誘ってくれた訳ですし…その…あの…。」

 

いきなりの龍牙の言葉に、慌てて色々言い訳を言っていると、それを見ていたラカンが大声で笑い出す。

 

「HAHAHA!クルトがこんな慌てる姿なんて始めて見たぜ。歳も歳なんだからよ。少しは子供らしい事しな。」

 

そのラカンの言葉に皆一斉に笑う。

クルトは何で笑われているのか、いまいちよく分かっておらず更に混乱してアタフタしていた。

 

「そうですね。それが良いと思いますよ。それでは次この全員が揃うのは、ナギが答えを出した時ですね、それまで元気で。」

 

「ああ。皆個別に連絡取り合うだろうが、とりあえずは…皆元気でな!」

 

武が最後にそう〆ると、皆視線を合わせて頷く。

互いにこれからは個別に動く事になるためこうやって逢う事も殆どなくなるだろう。

でも皆また絶対に会う機会がやってくる。

そしてその時は、きっと俺達にも、ナギにも、そして今は幽閉されているアリカ姫にとっても良い事が起こるだろう。

 

そんな予感を感じながらそれぞれこの部屋から出て行き、行動を開始した。

 

武は龍牙達と一緒に行動しながら思う。

 

とうとうクライマックス。最初は自分の力の無さに絶望していたけど、俺には龍ちゃんが、皆がそばにいる。だったら俺は俺らしく、皆が前に進むために目の前に立ちふさがる壁をこれからも撃ちぬいて行こう。

 

そう新たに心に誓い、これからどうするか考えるのであった。

 

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