我拳は銃なりて   作:秋華

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第二十二話:大逆転

三人称side

 

アリカ姫逮捕という大事件から早二年。

ここケルベラス渓谷では、その重戦犯罪人であるアリカ姫の処刑が決行されようとしていた。

なお、この事は撮影され後で民達に公表する事になっており、その為今ここには元老院議員達によって選ばれた兵士達以外は、ここに近寄る事すら禁じられていた。

 

「魔獣うごめくケルベラス渓谷。魔法を一切使えぬ谷底は魔法使いにとってまさに『死の谷』」

 

淡々と刑の内容を話す議員。

その顔は、一見無表情に見えるのだが、少し注意してみると、所々下種な笑いを浮かべていた。

その議員にとって、アリカ姫を始末する事がよほど嬉しいらしい。

まぁそれは当然の事なのかもしれない。

彼…いや、この処刑に賛同した彼らにとってアリカ姫は、己の欲望を達成するためには邪魔存在。

むしろ邪魔所ではなく、生きていてはいけないくらいの人物であった。

その彼女が今から処刑される。

彼らにとって欲望が実現しようとしている瞬間なのである。

それを考えると、どうしてもにやけてしまうのだろう。

 

一方処刑されるアリカ姫と言えば、そんな議員達の表情を見て、おそらく今彼らがどんな気持ちでいるのか想像がついていたが、そんな事はもうどうでも良いとばかりに、その事に反応を示すことなく、整然とした表情で刑の内容を聞いていた。

 

そして、刑の内容がいい終わり、いよいよ執行される時が来た。

 

「これより刑を執行する。…歩け!」

 

「触れるな下郎!言われずとも歩く!」

 

アリカ姫はそう言って、崖へと歩を進める。

すると、先ほどまで刑の内容を話していた議員が、何を思ったかアリカ姫に近寄ってコソコソと話をし始めた。

 

(いい事を教えてやろう。国王を殺したのはこの私だ。そしてお前が素直に逮捕される代わりに願った事があったが…くだらん。大体そんな願いをこの私が叶えると本気で思ったのか?幻獣と共存?笑わせてくれるわ!これが終わり次第根絶やしにしてくれるわ。…あぁついでにあの”紅き翼”とやらも同じようにしてやるとするか。…あいつ等は私達にとって邪魔でしかないのでな。)

 

(!!!!)

 

「き…キサマァ!!」

 

議員の言葉に激昂して食い掛かろうとすると、議員はその光景が凄く楽しそうな笑顔をしながら、すぐにアリカ姫から離れる。

そしてアリカ姫は近くに居た兵士達に掴み取り押さえられてしまった。

 

「ククク…おお怖い怖い。…何をしている。早くこの犯罪人を谷に落すのだ!!」

 

『はっ!!』

 

議員の命令に兵士達が無理やりアリカ姫を立たせると、崖の手前まで移動させる。

 

「くっ…。すまぬ。…すまぬナギよ。幻獣達よ!…私は…私は…」

 

「何をしている!早くしろ!それとも落とされたいのか!?」

 

「ぐっ!分かっておるわ!!……さらばじゃナギよ」

 

兵士達にせかされ、アリカ姫は最後に議員達を睨みつけた後、深呼吸をして、自ら谷へと落ちていった。

 

直後

 

谷底にいる魔獣達の咆哮が辺り一面に広がり、刑が滞りなく執行した事を告げる。

 

「アハハハッ!良しこれで!これで…!!」

 

刑が完了した事に喜びを隠せないように笑う議員達。

しかし、その笑い声は次の瞬間驚きと悲鳴に変わる。

 

「あぁ…これで何もかもうまくいくな。あーもうめんどくさかったぜ!!」

 

そう言って一人の兵士が、肩を回しながら列より前に歩く。

 

「何をやっている!!貴様一体何者だ!!」

 

「あ?何者ってそりゃ……お前たちにとっての”災い”って奴じゃね?」

 

心底楽しそうな声をしながら、その兵士は話し、近くに居てこの様子を撮影していた兵士のカメラを取り上げる。

 

「さて録画はここら辺でおしまいだ。これから先は”無かった事になる”。この意味分かるよな?」

 

兜をかぶっている為、顔は見えないがその体から漂う殺気におされ思わずコクコクと何度も首を縦に振る。

 

その兵士からかもし出される殺気に、周りにいた兵士達も思わず後ずさり、何時しかそこにはぽっかりと人で出来た穴があった。

兵士達でこれなのだ。

そこにいた議員達は最初呆気に取られたものの、身の危険を感じたのかすぐさまこの場から離れようと船へと向かって走り出す。

が、そんな議員達の前に一人の兵士が立ちふさがり、その進行を止める。

 

「じゃ…邪魔だ!!どけぇ!!」

 

本来ここに居た兵士達は、皆議員達の息がかかった者達なので、邪魔する事自体ありえない。つまりその兵士もまた、先程殺気を出した兵士の仲間だと言う事にすぐ気が付くはずなのだが、我を忘れている議員達にはどうやらそんな事も思いつかなかったらしい。その兵士向かって叫びどかそうと、手をふりかざすが、次の瞬間その議員は顔を殴られてその場に倒れた。

 

「邪魔って…ひどいなぁ。大体これから始まるパーティーに主役さんが居ないと始まらないだろ?なぁ…議員さん?いや…国王殺害及び、戦争を引き起こした張本人さん?」

 

「ひっ…ひぃぃぃ…」

 

殴られた顔を手で押さえながら声にならない悲鳴を上げる議員。殴られなかった議員もその場で腰を抜かしてしまい動く事が出来なかった。

ここにきて、議員達はようやくこの瞬間何が起こったかをすべて察した。

 

「ま…まさか…お前達は…!!!」

 

「ぬんっ!」

 

議員達が叫ぶと同時に、先ほどすさまじい殺気を出していた兵士の鎧が弾け飛び、中からラカンの姿が現れる。

 

「オイオイ…。鎧を内側から破るとか、どんだけだよ…。」

 

ラカンの行動に呆れながらも、議員をぶっ飛ばした兵士は鎧を脱ぎだす。

その姿があらわになるにつれて、議員の顔からどんどん血の気が引いていき、真っ青になっていった。

 

「ふう。これあっちーよな。…さてどうも議員さん。」

 

そう言って、姿を現したのは、本来ここに居ないはずの、いや居てはいけない人物。“紅き翼”のメンバーで“銃神”と呼ばれている“英雄”…伊達武その人だった。

 

タケルside

 

うむ。どうやら作戦は成功したみたいだな。

いやー痛快だね。こうしてこの議員の絶望に彩られた顔を見るのは。

俺の顔を見て真っ青になっている議員を見ながらそんな事を考えていると、近場の岩場に姿を隠していた龍ちゃんが、元の姿のままゆっくりと俺の隣やって来る。

 

「いやいや…タケやん。なんでそんな邪悪な笑みしとるん?おもいっきりワルモンやんか。」

 

「え?そんな表情してた?」

 

「もうバッチリな。…でもまぁ気持ちは分かるわ。」

 

そう言って龍ちゃんがニヤッっと笑うと、それにつられて俺もニヤッっと笑う。

すると、さっきまで呆けていた議員が叫びだす。

 

「お、お前達は”赤き翼”だな!貴様等今一体何しでかしているのか分かっているのか?」

 

「え?そりゃもちろんアレだろ?この茶番をぶち壊して犯人を捕まえてる?」

 

「いやそれはちゃうでタケやん。ワイらは捕まえるんやなくてボコボコにして生まれてきた事を後悔させるんやろ?」

 

「おおそうか!」

 

「ふざけるな!!」

 

俺と龍ちゃんが喋っていると、また議員が叫ぶ。

 

「別にふざけてねぇだろ?それにもうネタは上がってんだよ。」

 

「そや。結構簡単やったらしいで?あんた等の悪事暴くの。ずさんやなぁ…大体安心しすぎやろ部屋の机の引き出しの中、二重底の下に書類隠すなんて、思春期の男がエロ本隠すのと一緒やん。」

 

「うわーそれは初めて聞いたわ。いい年こいたおっさんがそれかよ。」

 

「う…うるさい!だ…だが!もうおそいアリカ姫はもう死んだ!すべての罪を背負ってな!今更そんな証拠意味はあるまい!」

 

「いや意味はあるからな?ていうか何威張ってんの?」

 

この状況でまだ俺達に向かって威張り散らしている議員達に呆れながら俺がそう言うと、龍ちゃんが議員達に向かって話し出す。

 

「ある意味関心するわ。それにまわりみてみぃ誰かたらんと思わんか?」

 

龍ちゃんにそう言われ議員が回りを見渡す。

すると、やっと気付いたのかさっきまで青かった顔が白くなっていく。

 

「そう。ここに居るのはガトウ・ラカン・ゼクト・詠春さん・そして俺と龍ちゃんだけなんだよ。肝心の奴がいねーだろ?」

 

そうここに居るのは、兵士として潜入していた俺とラカン。そして、龍ちゃんと同じく岩場に隠れて時機を伺っていたガトウ・ゼクト・詠春さんだけなのだ。

そのラカン達は、兵士達を睨み付けながらすぐにでも戦闘ができるように構えているが、本来ならもう一人いなくてはいけない人が居るのだが、その姿は何処にも無かった。

その事に気付いた議員達は、皆“まさか…”と口に出しながら谷の方へと視線を向けるが、その中の一人がぼそっと話す。

 

「まさか…いやそれでもあの谷底は、魔法が使えないはず…」

 

「魔法ねぇ…確かに使えないだろうが、それは前崩壊の時に体験してるからそれぐらい対処してるっつーの。それによ…」

 

俺の言葉に議員達が反応して、俺に視線を向け、そんな議員達に俺は自信たっぷりにこう言い放つのだった。

 

「姫を助けるのは騎士の役目だろ?そんなおいしい場面を逃すなんて事、うちのリーダーは絶対しないさ。」

 

そう言って俺は、谷へと視線を移すのだった。

 

アリカ姫side

 

あぁ…私はなんて愚かなんだろうか?

 

自分が死ねば後は上手くいくなんて、勝手に考えてその結果がこれか。

 

くやしいなぁ…

 

親の敵もとれず、民達の幸せの為に生きていけず、手を貸してくれた幻獣達の為にもなれず…

 

これほど無意味な死など他には無いだろうな。

 

戦争で死んでいった者達になんとわびれば良いのか私には分からない。

 

そして…

 

こんな愚かな私の騎士となったナギ…

 

いや騎士だったナギを守ってやる事も出来なかった。

 

…ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

もう後は魔獣に食われるか、下に落ちて死ぬしかないが、もし許されるのならその名前を呼ばせて欲しい。

助けてほしい。

 

都合のいい女だと笑われても、蔑まれても良い。

けれどまだ私は死にたくない!

 

「ナギーーーーーーーーー!!!!!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・

・・

 

はいよ。姫さん!

 

・・・・・・・・・・・・

・・・

・

 

 

ん?

 

ナギの声が聞こえた気がするが、幻聴か?

 

それになにやら、誰かに抱き抱えられている感じがする。

 

……なるほど。これは夢か。

 

なんとも粋な夢を最後に見せてもらえるものだ。

 

私の最後を騎士が助けてくれる。

 

ハッピーエンドには欠かせない結末じゃ。

 

「……おい。姫さん?大丈夫なのか?」

 

ほら、こうしてナギの声が聞こえておる。

夢のはずなのに、その呼吸まで近くに感じれるとは…私の夢も大したものなのだな。

 

「…あーあのよ。目を瞑って夢とか何か言いながらすげーニヤついている所悪いんだけどよ。いい加減目をあけてくれよ。」

 

なんじゃと?

そこは、やっぱりく…く…口付けをして目を開けさせるのが普通じゃろうが!

気が聞かない奴め。私の夢なのだから、それぐらいは気をきかせるべきじゃろうが!!

 

「えっ!?……ったく参ったなぁ。そう言われちゃぁ仕方がねーか。でもアルとかがこういうのは、むーど?が大切とか言ってたんだけどな…」

 

…チム…

 

!!!!!!!

 

「って本当にやる奴がおるかー!!!」

 

そう言って私が目を開けるとそこには、最後に私が逢いたいと願ったナギの顔があった。

 

ただ、ちょっと顔が赤いのは何故だろうか…?

 

ナギside

 

「よ!起きたか姫さん。」

 

「な…な…ナギ…か?」

 

「他に誰に見えるって言うんだよ。」

 

俺がそう言うと、姫さんは震えながら手を俺の顔に近づけて、まるで存在を確認するように何度も顔を撫ぜる。

 

「…夢ではないのか?」

 

「夢じゃねーよ。」

 

「そ…そうか。……っ!!な、ならもしかして私にく…口付けをしたのも?」

 

「…っ!!!あ、ああ俺だよ。姫さんがして欲しいって言うからさ…恥かしいけどよ。」

 

その瞬間、姫さんの顔が真っ赤になり、思わず顔を俺の胸に押し当てて隠してしまう。

しかも体は小刻みに震えている。

 

(やべぇ…すげーかわいいじゃねーか)

 

あまりの姫さんの行動のかわいさに、思わず顔が熱を持ってしまい、しばらくこのままでいたいと思ってしまったが、流石に今の状況でそれはまずいと思い、とりあえず声をかける事にする。

 

「ひ…姫さん?」

 

思わずどもってしまった声出してしまったが、とにかく姫に声をかける事は出来た。

するとビクッ!と姫さんの体が反応する。

そして姫さんは勢いよく顔を上げると、真っ赤な顔と目じりに涙を溜めてキッ!っと俺を睨みつけると、いつか何処かで見たことがある黄金の右手を振り上げた。

 

「こ…こ…この馬鹿者がーーー!!!!!」

 

バシーーーーン!!!

 

「り…りふびん!!」

 

ここで吹っ飛ばされず、姫さんを抱えたまま耐えた俺を誰かほめて欲しい…。

 

・・・・・・・・・・・・

・・・

・

 

俺に平手を浴びせた姫さんは、しばらく興奮が収まらないのか色々早口でわめいていたが、次第に落ち着いてきたのか、状況を確認するかのように俺に質問を投げかけてきた。

 

「ふー、ふー、ふー…」

 

「はぁ~やっと落ち着いたかよ姫さん。」

 

「う…うむ。取り乱してすまなかったな。…でじゃ何故お主がここに居るのじゃ?」

 

「何故って…そりゃ俺は姫さんの騎士だからな。」

 

「戯けが!私は言ったはずじゃぞ?お主を騎士から除名すると。」

 

「ああ…確かに言ったな。だけど俺はそれを受け入れた訳じゃねー。だからまだ俺は姫さんの騎士だ。」

 

「なっ…!!そんなへりくつを…」

 

「屁理屈でもなんでもいいさ。…俺は姫さんの騎士で、英雄で、そばでずっと守ってやるって決めたんだよ。…ずっと、それこそ一生な。」

 

「はっ…?………いや…いやいやいや!ちょっと待てなんだそれは!それではまるで…」

 

「ん?告白したつもりなんだが?分かりにくかったかな?…アルがこういえばイチコロとか言ってたのによう。…まぁいいや。じゃあこう言えば良いか?」

 

アルにちょっとだけ文句を言ってから、俺は姫さんの顔に顔を近づけると姫さんにしか聞こえないようにそっと呟く。

 

「俺は姫さんが好きだ。この気持ちは誰にも負けねぇ…。この二年色々考えてやっとこの気持ちに気付けた。これからいろんな事が起こっていくと思うけどよ。姫さんを傷つけるモノすべてから俺が守ってやる。一生姫さんの隣でな。……愛しているぜアリカ。」

 

「★■※@▼∀っ!?」

 

おい姫さんそれは他の世界の人の言葉だろ?

……まぁ真っ赤になって驚いているって事は分かるけどよ。

さすがの俺でも恥かしいからな。まっ!後悔はしてないがな。

 

「…でなんだが。出来れば返事が欲しいな。」

 

「……お主は」

 

「ん?」

 

「お主はそれがどういう事か分かって言っておるのか!?大体自ら”英雄”と言うなら私にかまわず他の困っている者達を助けるのが普通じゃろうが!!」

 

「そうかもな。…だが、それは“英雄”の一面でしかねーよ。」

 

「はっ?」

 

「俺も最初“英雄”ってのはそういうもんだと思い込んでいたがよ。それだけじゃないと思うぜ?“英雄”ってのは、それこそ人の数だけその答えがあると俺は思う。そして俺にとっての“英雄”ってのは”大切な人を一生守りきる奴”の事なんだよ。あぁ、けど勘違いするなよ?俺は別に困っている人を助けないと言ってる訳じゃねぇ。俺が力になれる事があるなら、喜んで手を貸すさ。だけど、もし俺の知らない誰かと姫さんどっちかしか助けられないとなったら、俺は迷わず姫さんを助けるぜ?もちろんそんな事態になる前に何とかするけどな。えーとつまりだな…それくらい俺は、誰よりも姫さんを…いやアリカと言う一人の女を助けてーんだよ。俺の一生を使ってな。」

 

「…っ!」

 

「だからこれで良いのさ。アリカを一生愛し、守る事こそ俺がなるべき”英雄”なんだよ。」

 

「……この馬鹿者が。後悔してもしらんぞ?」

 

「はっ…俺の頭に後悔なんて言葉はねーんだよ。どんな事があっても、俺が何とかしてやるさ。…アリカ聞かせてくれ。お前は俺の事どう思ってn…」

 

…チュッ

 

「!!!!」

 

アレ?アリカの顔が近い…じゃなくて、もしかして俺キスされているのか?

いや…まっ…うれしいけど、え?…いやいや…ちょっ…答えは?

 

「…ぷは。これが私の答えじゃ。」

 

「………あーえっと。つまりは…その…なんだ。」

 

「ふふふっ…。そんな顔を見るのは初めてじゃな。…ナギよ。私も愛しておるぞ。」

 

あー最後やられたな。…あ゛~やられた!

 

そんなかわいい顔されたら反則だってーの。

でもまぁいいか。

アリカを助ける事でやっと俺が望む“英雄”って奴にやっとなれたんだからな!

 

 

龍牙side

 

「あー遅いから心配になって覗いて見れば…なんやアレ。ナギを乗せとる幻獣が何かむっちゃかわいそうになってくるわ。」

 

ナギがアリカ姫を助けてこっちに戻ってくる前に、ワイらはここに居た奴らをあらかたぶっ飛ばす。

これがワイらが考えた作戦やったんやけど、思いのほかすぐに終わった。

あらかたっちゅーんは、やっぱり黒幕さん達には最後のお楽しみとして残すことに決めていたからや。アリカ姫もボコボコにしたいやろうからな。

それにしても、魔法が使えんと分かった後、幻獣に助けを求めたんやけど、そん時のナギはかっこよかったなぁ。

まさか”どーしても助けたい奴が居るんだ、だから頼む!俺達に力を貸してくれ!”って言って幻獣達の前で土下座するとは思わんかった。あのプライドの高いナギがな…。

なんや、成長した子供を見た気分やわ。

…ま、ワイには子供おらんけどな。

おそらく他の奴らもわいと同じような気持ちなんやろ。

何か生暖かい目で見とるやつもおれば、呆れた顔をしとる奴もおる。

けど皆わらっとる。

やっぱ、こうでないといかんな。

ワイはそんな事を思いながら、あたりを観察していると、その中で一人他の連中とは違った表情をしとる人を見つけた。

あれは…哀しいんか?

 

「どーしたん?タケやん。」

 

ワイは、皆とは少し離れた場所でナギ達を見ていたタケやんに声を掛ける。

ワイの声に気付いてタケやんがこっちに顔を向けてくれるけど、その顔を見てやっぱりどこかいつものタケやんと違って見えた。

 

「ん?龍ちゃん別に何でも無いよ。ただ、ナギとアリカ姫を見てたら何かこう…なんだろ。上手く説明できないや」

 

そう言ったタケやんの目から急に涙がこぼれだした。

 

「あ…あれ?おかしいな。何で俺泣いてんだろ?ははっ…すべてまるく納まってよかったはずなのにな…」

 

そう言って涙を拭おうと目を擦るタケやん。

だけど、拭っても、拭っても涙は止まらなかった。

それを見てワイの心がズキリと痛む。

そして心の中で小さく呟いた。

…そっか。やっぱりそうやったんか。

……しゃーないな。こればっかりわ。

 

「タケやんそれは嬉し涙やで?」

 

ワイは笑顔を作りながらタケやんにそう言って、何時もワイがおるタケやんの肩へ体を預けた。

 

「嬉し…涙?」

 

「そうや。ナギもアリカ姫も助かって、しかも二人とも幸せそうにしとるのを見てタケやんは嬉しいんや。やからこうして涙がでとるんや。そこもワイら幻獣と一緒やなぁ…」

 

「ははっ…そうか。そうだよな。これは嬉し涙だよな。」

 

タケやんはそう言ってワイを正面に置くとギュッと抱きしめる。

その顔は笑っとるけど、ワイには分る。

きっとこの笑顔は表面だけで、心から笑ってない。

そしてその理由もワイは分っとる。…分っとるけど、その答えはタケやんには言えへん。

…ほんまかんにんや。タケやん。

タケやんに抱きしめられながらそう思っていると、いつの間にかラカンがタケやんのそばに近づいて来ていた。ラカンはタケやんが泣いているのを見て、一瞬悲しそうな顔になったが、すぐさまいつも通りの表情に戻ってタケやんの肩をたたいた。

それを見て、ワイだけじゃなく、おそらくラカンもタケやんの気持ちに気づいていた事を知った。

 

「おっ?なんだタケル嬉しくて泣いてんのか?涙もろい奴だなまったく。」

 

「う…うるせーよ。バカン」

 

「あ゛ぁ!?誰がバカンだコラ!?ケンカ売ってんのか!?」

 

「テメーが売ってきたんだろうが!!」

 

そう言って、ラカンとタケやんが二人で取っ組み合いを始めた。

それを見た他のメンバーは笑いながらそれを見ている。

しかしワイだけは、その騒ぎから少し離れてその光景を見ていた。

 

ふふ…ラカン流石やな。

……すまんなタケやん。

ワイ嘘言ったわ。その涙はおそらくアリカ姫とナギがくっついたせいやと思うで。

前々から薄々気付いとったけど、タケやんはおそらくアリカ姫のことが好きやったんやなぁ。

それも、タケやん自体殆ど気付かんくらいの。

それくらい小さく淡い感情やったんや。

こんな事思いたくないけど、正直最初からこうなる事は分かっとった。

やって、アリカ姫は最初からナギしか見とらんかったからなぁ。

その証拠に、あきらかにナギに見せる顔と、ワイらに見せる顔は違とったから。

やからこの結果は簡単に予想できた。おそらくラカンもそう考えとったはずや。

でも、本人が自覚してないのに、ワイらがどうこう言える訳が無い。

ほんと…歯がゆいわ。

人の言葉でこんな言葉があるらしいな。

 

”初恋は実らない”

 

まさにその通りになってもうたな。

タケやんがその事に気付くのは、まだ先の事やろうけど、そん時タケやんはなんて思うんやろうか?

…いや。そんな事考えんでも良いか。

そん時なったら、ワイもタケやんの傍におって話しを聞いてやれば良いだけや。

哀しかったら慰めたったらええ、うそ教えたって怒られたってええわ。

気が済むまでワイは付き合うで?

 

 

……さて、そろそろワイもあの騒ぎに参加しなな。

 

タケやん…。

 

これからもっといろんな経験をしてくやろうけど、ワイは何時までも相棒としてタケやんと一緒におるで?苦しい事も、悲しい事も全部一緒に考えたるわ。

前にも言ったと思うけど、タケやんはワイの相棒で…

 

ワイの一番の親友やからな。

 

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