「はい。到着なの~」
クロノスの間延びした言葉で、俺達は目を開けた。
すると、そこは先ほどいた場所とは全然違う所で、回りには木が生い茂っている。
おそらく森とか林に今俺達は居るのだろう。
「へぇ…確かにさっきいた場所と、全然違うけど、ここは何処だ?」
「ん~なんや幻獣達の、匂いもするから、少なくとも魔法世界やと思うけど…」
二人してあたりを見渡しながらそう喋っていると、クロノスが話し出す。
「正解~!ここは確かに貴方たちが言う、魔法世界です。たしかこの近くに町があって、そこに貴方と同じリングを持った人がいます。」
「それって誰?」
「誰と言われても…名前を知らないので、誰とは言えないの。う~ん…ぱっと見た感じ、結構歳いっていたと思うな。渋めのかっこいいオジ様って感じ。」
『ガトウだな(やな)』
クロノスの言葉から想像できる人物について、俺には一人しか思いつかなかった。
時点で、詠春さんとかありえそうだったけど、ここは魔法世界だからその可能性は低いだろう。
「それで、俺達はどれくらい未来に来たんだ?」
「約8年なの。」
「約半分って事か…。次は、何時時渡りするんだ?」
「今日を入れて、丁度一年後にまた私が来るの。」
「一年後?なんでそんなに時間がかかるんや?」
龍ちゃんがそうクロノスに聞くと、クロノスはピン!っと指を立てて説明しだした。
「もともと私達精霊が、この世界に姿を現す為には、色々やることがあるの。さっきは神様が呼んでくれたお蔭で、すぐに姿を現すことが出来たけど、次からは正式に手続きをしないとダメなの。」
「手続きって…役所じゃないんだから。」
その説明を聞いて、俺は思わず顔に手を当ててそう突っ込んでしまった。
「大して変わらないの。だいたい私達精霊がこの世界に実体となって現れると、それだけでまわりに影響を与えてしまうの。それは別に人とか、幻獣とかの話だけじゃなくて、今ここにある木々も同じ事なの。精霊が居るだけで、その近くの魔力濃度が上がってしまって、最悪異常進化してしまう可能性だってあるの。だから、他の精霊達に協力してもらって、そうならないようにしないといけないの。」
他の漫画とかを知っている俺からしたら、その説明で何となく納得が出来た。
確かに巨大な魔力を持つ精霊が、この場に実体となって出現したら、周りにも影響を与えてしまうという理由は納得ができる。これは別に魔力に限った事じゃ無いし、現に俺が生きていた世界でも強大な科学の力で街並みが一気に変わっていったはずだ。
それと一緒にしていいのか分からないけど、おそらくそう言う事なのだろう。
「ふーん。そうなんだ。事情は分かったけど、それって一年もかかることなのか?」
「もちろんそれだけじゃないの。時渡りを行うには、私の魔力だけじゃなくて、この世界に満ちている魔力も必要としているの。そして、一度世界の魔力を借りたら、最低でも一年は借りたらいけない決まりになっているの。じゃないと、この世界の魔力が急激に少なくなって、あちこちにその弊害が起こってしまうの。」
つまり時渡りを連続で使ってしまえば、最悪あのオスフィア大陸の様になってしまうと言う事だ。
確かにそれは危険すぎる。
「なるほど…だから一年必要なのか。分かった。じゃぁまた一年後にたのむよ。」
「まかせてなの!」
俺がそう言ってクロノスに別れを言うと、クロノスは胸を拳でタタキながらその場から姿を消した。
そして残ったのは、龍ちゃんと、俺の二人だけ。
「ん~それでどうする?一年時間があるみたいやけど…」
二人になった所で、龍ちゃんがこれからどうするかを尋ねてくる。
「とりあえずは、町に向かおうよ。俺今結構ギリギリだから、まず魔力の回復をしたいし…。それにガトウにも逢いたいしね。」
「せやな。…っていうかガトウだけなんか?アスナちゃんとかと逢いたないんか?」
「まぁ…そりゃもちろん逢うつもりだよ。ってかそのニヤニヤした顔やめろよ。」
ニヤニヤしながら俺にそう聞いてくる龍ちゃんに、無駄だと思うけどツッコミを入れて、俺達は近くにあると言っていた町を目指すのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・
「へ~結構でかい町やな。」
「そうだね。活気も溢れているみたいだし、いろんなお店があるね。一日で全部まわるのは無理そうだな。」
早速町に着いた俺達は、口々に町の感想を話す。
近くにあった町は、かなりの賑わいを見せていた。
戦争が終わってからもうずいぶんと時間が経った。
人の心にはまだ戦争で負った心の傷は癒えていないだろうけど、街の復興は終わって、今は心の傷を癒すかのように平和な時間を皆過ごしているみたいだ。
「それに…幻獣がたくさんいる。…見るに結構馴染んでいるみたいだから、”幻獣との共存”も巧くいっているみたいだね。」
「そうやな…。それが一番うれしいわ。」
そう言ってちょっと二人で感傷に浸った。
まだまだ本当の意味で、幻獣との共存はできていないだろうが、それでも今ここでは、人と幻獣が仲良く作業している姿が、あちらこちらにある。
それは俺達が望んでいた姿でもあり、これからもずっと続いて欲しい姿だった。
「……さて。何時までも感傷に浸ってる場合じゃないな。とりあえずガトウを探そうよ。」
「……やな。でもこの町結構広いからな…何処をどうやって探すん?」
「ん~宿屋か、酒場?」
「それがええな。ほんならまずは宿屋からいこか?」
しばらくして、宿屋が集まっている場所についた俺達は、宿屋の人に話を聞きながらガトウ達を探していた。何時もの俺なら、途中で飽きそうなものなのだが、宿屋の多くが幻獣と一緒に泊まれるように色々工夫しているので、それを見るのが楽しくなり、別に急ぐ必要なんか無いのに、次々と宿屋を回っていった。
「ん~なんや嬉しいな。こうして幻獣が、宿に泊まれるようになっとんの見るのは。」
「そうだな。…でもそろそろガトウ達を見つけないとな。」
確かに嬉しいのだが、そろそろガトウ達の情報が欲しい。
別に今日一日で見つからなければ明日また探せばいいことなのだが、早めに逢えるならそれに越した事はない。
そんな事を考えていると、後ろから何かにぶつかったような衝撃を受ける。
ぶつかったというよりも、抱きつかれたといった方が正しいだろう。
だって腰の周りに手が巻きついているんだから。
ドンッ!
「ん?何だ…?」
「……逢いたかった。」
「…そうだね。俺も逢えて嬉しいよ。久しぶりだなアスナちゃん。」
俺に抱きついていたのは、ちょぴり身長が高くなって、いつの間にかたどたどしい言葉もしっかりとしていたアスナちゃんだった。
「アスナちゃ~ん。急に走り出すなんてどうした……タケルさん!?それに龍ちゃん!!」
「お、タカミチもいっしょやったんかい。久しぶりやなぁ…元気しとったか?」
「はい!タケルさんと、龍ちゃんも元気そうですね。」
「おう。…大きくなったな」
アスナちゃんを探しに後から来たのは、昔見たときよりも一回り大きくなって、子供から大人になりかけているタカミチだった。
俺達を見たタカミチは、かなり驚いていたがすぐに嬉しそうな顔になると感極まって俺と龍ちゃんに抱きついてきた。
いつもなら男に抱き着かれても嬉しくないのだが、こういう時は別だ。
大きくなり逞しくなったタカミチの頭をポンポンと叩きながら再会を喜び合った。
それから俺達は、タカミチにつれられて、タカミチ達が泊まっているホテルへと向かう事になった。
途中、姿が見えないガトウの事を聞いたら、どうやら仕事の話し合いでどっかに行っていると言う事らしい。
おそらく夕方になったら帰ってくるだろうということだった。
その間タカミチは、アスナちゃんのお守りとしてこの町を一緒に散策していたらしいのだが、急にアスナちゃんが走り出して、それを追い駆けてきたらどうやら俺達の姿が見えたそうだ。
にしても、アスナちゃんったらどうして俺達がここにいるって分かったんだろうか?
気になって試しに聞いてみると…
「…タケルと私は赤い糸で繋がってる。前に本で見た事がある。運命の二人は小指に見えない赤い糸で繋がっているって…。だからどんなに離れていても私にはタケルの居場所が分かるの。」
とまぁ顔を赤くしながら、俺に言ってくれた。
真面目にこんな事を言われると、こっちも照れてしまう。
それにそれはあくまでお話の中だけのはずなんだけど…こうしてアスナちゃんが俺を見つけたとなると、否定できない自分がいた。
アリカ姫もちょっとそんな気があったけど、それはどうやらアスナちゃんも同じなようだ。
「へえー?ならタケやんの小指には、何本赤い糸があるんやろうな~。」
「ばっ…!!お前何言ってやがんだ!」
「………むー」
「ははは…。相変わらずですね。……僕にもそんな糸あるのかなぁ。」
タカミチにもきっとあるさ。
…………保証できないけど。
あと龍ちゃん人の事言えないからな?絶対お前にはゼロ以外に糸持ってるはずだから。
テオとかテオとかテオとか……
いや…ゼロに関しては、糸と言うより鎖だろうけど。
真っ赤でぶっとい鎖。
もう絶対逃げられない。…むしろ逃がさないって感じだよ。
……がんばれ龍ちゃん。
しばらくしてアスナちゃん達が泊まっている宿に着くと、丁度そこにガトウが帰ってきた。
最初ガトウは、俺達の姿を見て驚いていたがすぐさま嬉しそうな顔になって、”久しぶりに酒でも飲もう!!”と言うことになった。
もちろん。俺と龍ちゃんも賛同して一緒に酒場へ行く事にした。
アスナちゃんとタカミチも当然のごとく俺達に着いて来たが、未成年なのに酒場に入れるのだろうか?……そういえば俺も未成年だったっけ?
そんなアホな事を考えながら、酒場で一緒にお酒を注文すると、そろそろなんでガトウ達がここにいるのか質問する事にした。
「それでガトウ?何でここにいるんだ?…旅行って訳じゃないんだろ?」
「ふっ…その通りだ。実は俺に依頼が入ってな。何でもこの近くで、”完全なる世界”に関与していた組織が暗躍し始めたと言う情報が入ったらしくて、その真偽とそれが事実だった場合、潰して欲しいって頼まれたんだ。」
「へぇ…そういう系は、俺達でだいぶ潰したと思ってたんだが、まだいたんだ。」
「俺もそれについては驚いているさ。だが、たぶんそれぐらい広範囲で活動していたって事なんだろ?それでさっきまで俺は、今回一緒に行動する人達と依頼主を交えて、これからについて話し合っていたという訳さ。」
「ふ~ん。なんや、色々大変みたいやな。そんで?もう明日にでもそこに踏み込むんか?」
店員さんが持ってきたお酒を飲みながら龍ちゃんがガトウにそう質問をする。
「あぁそれなんだが、俺達がここに着く前に色々情報を集めたお蔭で場所や人数などは大体分かっているらしい。だが、今一つ”完全なる世界”に関与していたという証拠がつかめてなくてな。調べた情報によると、限りなくクロに近いんだが…。」
龍ちゃんの質問に対して歯切れの悪い答えを出す。
確かにちゃんとした確証が無いと、踏み込むのも二の足を踏んでしまうのだろう。
ナギとかなら“かまわねぇからぶっ潰そうぜ?”とか言いそうだけど、さすがに今の平和なこのご時世でそれは出来ない。
「そうか。…なら明日も情報収集なのか?」
「いや…。今日の話し合いで、明日は直接そいつ等が根城にしている場所に踏み込む予定だ。そいつ等はもともと、色々犯罪を犯しているらしくてな。踏み込むには十分な理由がある。」
「なるほど。…なら俺も付き合うぜ。久しぶりにガトウと仕事するのも楽しそうだしな。」
「ワイも付き合うで~。ガトウなら、どんな状況になっても対処出来るやろうが、それでもワイらが居った方が、もしもの時にもっと楽に対処ができるやろ。」
少し考えて俺と龍ちゃんがガトウの仕事を手伝う旨を伝えると、ガトウはとても嬉しそうな顔をする。
「本当か?それは助かる!…今回はタカミチも連れて行く予定だったし、それに俺達と一緒に担当する事になっている人も、小さな子供がいるらしいんだ。話を聞いた限りだと、学校に入れば、おそらくアスナと一緒の学年になるぐらいのな。」
そんなガトウの言葉に、軽く返事をしながら俺はある事を考えていた。
実はガトウに着いて行くのにはもう一つ大事な理由があって、俺はこの事件に最初から関わると決めていた。
その理由はズバリ、ガトウ死亡のフラグを無くすことだ。
正直時渡りをすると言われた時に、ガトウのことはとても気がかりだった。
なにせ原作で、ガトウが死んでしまうことになったあの事件が何時起こったとか描かれていなかったから、もしかしたらそれを潰すことが出来ないかもしれないと思っていたぐらいだ。
だけどこうして事件に関わる事が出来た。
つまりそれは、俺にそのフラグを圧し折れって誰かが言っているんだろう。
多分神様だと思うが…。
ともかく、ガトウ死亡フラグは何としても防いでみせる。
未来にガトウが居ないなんて寂しいからな。
それに、今ガトウが言った言葉の中で、一つ引っかかる言葉があった。
それはこの事件を一緒に担当する人の事だった。
名前はガトウの話に出てきてないけど、もしかしたらという人物が一人浮かび上がっていた。
俺の予想では、その人物はおそらく明石教授の奥さんだと思う。
もうよく思い出せないけど、確かあの人は仕事中に亡くなったはずだ。
それがどんな仕事なのかは分からないけど、この世界ではもしかしたら、このガトウと一緒の仕事なのかもしれない。
となると、この事件はガトウの死亡フラグとともに、明石教授の妻の死亡フラグでもあるってことだ。
それを考えると、なおさらやる気が出てきた。
俺は明石教授の奥さんがどんな人物なのか知らない。
けど、明石教授とその子供、裕奈のことは大体知っている。
原作では二人仲良く暮らしていたけど、やっぱり三人家族で仲良く暮らして欲しい。
俺の勝手な考えかもしれないけど、それでも助けれる命はちゃんと助けたい。
そんな事を思いながら、俺はガトウと龍ちゃんを交えて明日の事について話し合うのだった。
・・・・・・・・・・・
・・・
・・
次の日。
俺は龍ちゃん・ガトウ・タカミチ・アスナちゃんを連れて宿を出た。
最初、アスナちゃんは宿に置いて行こうと言う話になっていたのだが、どうしてもついて行くと言い、このままだと無理やりにでも俺達に着いて来るだろうと判断し、ならせめて本部に居てもらうという事で、一緒に行動する事になった。
アスナちゃんの護衛には、龍ちゃんにしてもらう事になった。
龍ちゃんも、アスナちゃんを連れて行くと決まった時点で、なんとなく想像できていたらしく、苦笑いをしながら”了解や”と言ってくれた。
これでよっぽどの事が無い限り、アスナちゃんは安全だろう。
それからしばらくして、俺達は本部に着き、もう一度だけ段取りの説明を受けて行動を開始する事になっていたのだが、ここで、予想外な事が起こった。
それは一緒に行動する予定だった人が、この場に居なかった事だ。
どうやら、標的の組織が今朝になって妙な行動をとっているらしくて、状況を確認するために先に行動したと言う事らしいのだが、何でそんな無茶をしたんだ!
と言うか、本部の人も止めろよ!
それを聞いた俺達は、すぐさま行動を開始し、その人が居るであろう場所へと向かった。
「タケル。どうしたんだ?何か焦っているみたいだが…。」
俺の表情を見ながら、ガトウが話しかけてくる。
どうやら、俺のあせりが顔に出ていたらしい。
「何か嫌な予感がするんだよ。もちろん俺の杞憂って事ならそれで構わないんだけどさ…。」
「嫌な予感ですか…。でも一体どうして?」
嫌な予感と言う俺の言葉に、ガトウとタカミチが顔をしかめるながらタカミチはその理由を聞いてきた。
「俺は今回の組織の事を話だけでしか聞いてないけど、ここ数日間何も無かったのに、行き成り変な行動するとか怪しすぎるだろ?」
「確かにそうだな。つまりタケルは今回の妙な行動とやらは罠だって思っているのか?しかし、先に向かった人も、かなりの実戦経験を積んでいる。それぐらい予想は出来ていたと思うのだが…。」
そうガトウが答えても俺の嫌な予感は小さくならない。むしろ現場に向かうにつれて徐々に大きくなっていく感じがする。
「だったらいいんだけどさ…。けどどうしてもこう…嫌な予感が小さくならないんだよ。」
「…なら急ぎましょう!もし罠なら先に行動している人達が危ないです!」
「分かった。だがタカミチ。焦るんじゃないぞ!もしタケルの予想が当たっているなら、着いたとたんに戦闘になるだろう。そんな状況で焦っていると危険だ。」
「はい!」
そう話しながら、俺達は更に走る速度を上げるのだった。
???side
「…くっ!ちょっとこれはまずいかもしれないわね。」
思わず私は、そう愚痴ってしまう。
本当なら、今ここに居るのは私だけじゃなく、あの”紅き翼”のメンバーガトウさんも一緒に居るはずだったのだけど、少し早めに本部に行ったら、今日突入する予定だった組織が妙な行動をしていると、報告があったので、私は少しでも不安要素を無くす為に、こうして先行してきた訳なんだけど…どうやらそれは間違いだったようだ。
「まさか私達を釣るための罠だったなんてね。無くは無いと思っていたけど、いくらなんでもタイミングが良すぎる気がするわ。…何処かで情報が漏れたのかしら?」
もちろん。相手が思ったよりも優秀で、こっちの動きを察知していた…と言う考え方もあるでしょうが、もしそうなら、もうとっくに私は始末されていると思う。
でも、まだ私は生きている。
敵の罠にかかったのにも関わらず、こうしてまだ生きているという訳は、私の悪運が強いという理由以上に、相手の行動が余りにもお粗末なのだ。
それを踏まえて考えると、やっぱり私達の情報がどこかで相手に渡ってしまっているというのが、一番確率が高いだろう。
何処に逃げたんだ!?
探せ!!まだ近くに居るはずだ!
相手は一人だ!もしここで始末しておかないと、後々面倒になるぞ!
…っと!そんな事を考えていたら、どうやらここら辺にも人がやってきたようだ。
「参ったなぁ…。さっき罠から逃げる為に無茶しちゃったから、もうあまり動けないんだけどな~。」
そう呟いて、私は怪我をした腕を見る。
そこには、赤い血で染まった私の腕があった。
痛みはまだあるし、手の感覚もなんとなくあるから、神経はつながっているっぽい。
でも、さっきから血が止まらないから、もしこのまま治療が出来なかったらかなりピンチになるだろう。
まぁ…敵の罠に綺麗にはまって、被害が腕一本なら、儲けモノなんだろうけど…。
「貴方…裕奈。もしかしたら、貴方達にはもう逢えなかもしれないわ。…ごめんなさいね。こんな母親で…。」
タッタッタッタッタ…
どうやら敵さんが、此方に気付いたみたいね。
私もここまでかな?
そんな事を思いながら私は、覚悟を決める。
そんな時、大きな音があたりに響き空から誰かが降ってくる。
ドゴォォォン!!
「な…何!?」
驚いて、おもわず私は隠れている場所から顔を出してしまう。
するとそこには、一緒に行動する予定だったガトウさんと、その弟子のタカミチくん。…そしてもう一人。
背中しか見えないけど、それだけで誰だとすぐ分かった。
こんな背中を見せる人は他に居ない。
”紅き翼”のメンバーの中で最強にして、最高と呼ばれている3人の内の一人。
“銃神”タケル・ダテ…。
「お?どうやら間に合ったみたいだ。大丈夫ですか?」
何故貴方がここに居るの?
ダテさんの背中を見た瞬間、腕の痛みも忘れて私はその背中に見入ってしまった。
タケルside
「…どうやらタケルの嫌な予感というのが、あたってしまったみたいだな。」
走りながらガトウがそう話す。
「はぁ…嬉しくないな。」
思わずそう呟いてしまった。
今俺達の目の前には、かなりの人数で何かを探している人影が見えていた。
注意深くそのあたりを見てみると、そのすぐ近くに、物陰に隠れている人影も見える。
どうやら、あの隠れている人が先行した人みたいだ。
「…ん?どうやら怪我をしているみたいだな。これはちょっとまずい。あのままだとつかまるのも時間の問題だ。」
「だな。…好。ここはいっちょ派手にやりますか?」
「えっ!?あの…派手にって何をするつもりなんですか!?」
「ん?何って…こうするんだよ!」
タカミチの疑問に笑顔で答えながら、俺は気を拳に込めて、丁度物陰に隠れている人と、それを探している人の中間地点に向けて突っ込む。
「おらぁ!!皆様お待たせしました!久々のマグナムだぜぇぇ!!!」
ドコォォォォン!!
俺がマグナムを打ち込むと、その衝撃で、丁度近くに居た奴らがぶっ飛ぶ。
別にマグナムが当たった訳じゃないから、そこまでのダメージにはなってないだろうけど、まぁそれでも相手を驚かすぐらいにはなったかな?
すると、俺に続いて、ガトウとタカミチも俺の近くに降りてくる。
「本当に派手にやったな。いや…まぁ別にいいんだが。これ、後始末が大変そうだ。」
「って言うか、皆様って誰の事なんですか?」
タカミチ…それは秘密だ!と言うよりもその場のノリって奴だから、理由を聞かれても俺には何も言えん。
それよりも、後ろの方からなにやら視線を感じるが、どうやら無事みたいだな。
「お?どうやら間に合ったみたいだ。大丈夫ですか?」
「…え!ええ少し怪我しているけど、命は無事よ。…それよりも貴方はもしかして…。」
「まぁそれについては後で話しましょうよ。今は目の前に居るお客さんの相手をしないといけないので…。」
後ろに居た人に声をかけながら、視線をそちらに向けると、そこには原作で覚えている裕奈の顔を、もっとこう…大人っぽくした感じの女性がそこにいた。
どうやら、俺の予想は間違っていなかったらしい。
なら、俺がやる事はもう決まった。
この人を助けて、ガトウ達も助ける。
ただそれだけだ!
「さてと…。ガトウ?確かこいつ等潰していいんだよな?」
「もちろんだ。でもやりすぎるなよ。こいつらには色々聞きたいことがあるんだからな。」
「りょーかい。…さて久しぶりの実戦。肩慣らしぐらいにはなるかな?」
お…お前はまさか…銃神!!
ば…ばかやろう!びびるんじゃねぇ。いくらあの英雄だからって、こっちにはこれだけの人数が居るんだ。負けるはずねーだろうが!!
「……訂正するわ。多分肩慣らしにもならねーと思う。」
「かも知れないな。相手の力量も分からない奴らがいくら居ても、話にならない。第一アイツは分かってないのか?俺達は、それこそ何万という敵の中でも、誰一人かけることなく蹂躙したからこそ英雄なんて呼ばれてしまっていることを。」
「まったく…。こっちは英雄なんて肩書き要らないのにな…。」
“英雄”と言う言葉自分で口に出した後、思わず二人でため息をついてしまう。
「その通りだな。…タカミチ!お前は後ろに居る人を守れ!修行の成果をタケルに見せるいい機会だぞ!」
「はい!」
「んじゃ…ま!そろそろ始めますか!!」
そう俺の掛け声と同時に、敵さんが俺達に突っ込んできた。
さて、戦闘開始〈オープンコンバット〉だ!
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・
それから数時間も経たないうちに、全員を倒しきる事が出来た。
タカミチや、ガトウ、明石夫人なんかは、それを見てちょっと気の抜けた顔をしていたけど、俺はどうしても納得できない事があった。
(う~ん。いくらなんでも簡単すぎる気がするな。確か原作では、タカミチの攻撃をガトウがかばって、それが致命傷になって死んだんだよな…。それにしては、ここに居た馬鹿共は弱すぎる気がする。攻撃魔法に関しても、そこまで威力が篭っていた感じはしなかったし…。俺の気にしすぎなのか?)
「ん?どうしたんですかタケルさん。何か気になる事でも?」
「あーいや別に大したことじゃ…」
俺が難しい顔をしていた事を疑問に思ったのか、近くにいたタカミチが声をかけてくる。
その返事をしようと、タカミチの方へ顔を向けたとたん、目に入ってきた光景に思わず声が止まってしまった。
視線の先には、かなり追い詰められた顔をした小太りの男が、何かブツブツ言いながら手に魔力を溜めていたのだ。
それを見た俺は、すぐさまタカミチをかばう様に前に出たが、その時俺はその男を良く見ていなかった事を後悔した。
その男から発せられた攻撃魔法は、タカミチを狙った訳じゃなくて、少し離れた場所にいた明石夫人に向かっていったからだ。
「チィ…!!」
俺はそれに気付くと、すぐさま明石夫人へと駆け寄る。
だけど、最初の行動が遅かった為、間に合いそうにない!!
「にげろーーーー!!!!」
思わず俺は叫んだが、明石夫人は急な事で、体が動かないのか、その場に立ったままだった。
手を伸ばして駆け寄るが、どうしても間に合わない!
そう思ったとき、誰かが明石夫人を突き飛ばした。
……ガトウだった。
当たる瞬間、ガトウはこっちを向いて、笑った。
じゃあな……
そう聞こえた気がした。
俺は、走りながらそれを見つめる事しか出来なかった……。
「ガトウーーーーーーー!!!!!!!」