攻撃魔法の威力であたりに煙が巻き起こりガトウの姿を隠してしまう。
俺は目の前の光景が信じられなくて思わずその場で立ち止まってしまった。
ガトウに突き飛ばされた明石夫人も、俺と同じ様に黙ってその光景を眺めている。
おそらく俺と同じ気持ちなのかもしれない。
「師匠ーーーー!!!!!」
そんな中、タカミチだけが声を上げてガトウが居た場所へと走って行った。
その声を聞いてハッ!っとなった俺は、とりあえず攻撃を仕掛けてきた小太りの男を殴り飛ばして、念入りに動けないようにした後、タカミチに続いてガトウの元へと向かう。
するとそこには、倒れているガトウと、その胸で涙を流しているタカミチが居た。
「うっ…うっ…し…師匠…。」
泣いているタカミチに、俺も明石夫人も声をかけることが出来なかった。
あの時もっとまわりに注意していれば…!!!
後悔と共にそんな声が頭に響く。
きっと、明石夫人も同じなんじゃないだろうか?
だが、ここで泣いてばかりもいられない。とりあえずここから移動する為に、タカミチに声をかけようとした時、俺はふと違和感を覚えた。
(ずいぶん綺麗な顔してんな。…ん?ちょっと待てよ?何でガトウは、モロ攻撃魔法に当たったのにこんなに汚れてないんだ?)
「……あっ!」
そこで俺は自分がどれだけ馬鹿だったかに気付いた。
「う…う~ん。ん!?どうしたタカミチ?」
「へ?あ…あれ?し…しょう?」
「ええっ!?何で…?まともに攻撃を受けたはずなのに…」
タカミチと明石夫人は、何事も無かったかのように起き上がるガトウに驚いていた。
ガトウもガトウで、何で自分が無事なのか分からず手を見ながら首を傾げていた。
「えっとガトウさん、私が見た限りだと攻撃をまともに喰らいましたよね?…何で無傷なんでしょうか?」
「いや…俺にも何がなんだか。確かあの時は防御も間に合わないと思って、死ぬ覚悟を決めたんだが……そういえば、あの瞬間目の前が光ったんだ。てっきり敵の攻撃魔法だと思ったんだが…。タケル?お前が何かしたのか?」
「ははは…。あの時は、流石の俺も何も出来なかったさ。…ただ、間接的には俺が何かした事になるのかなぁ…。」
ガトウの問い掛けに、苦笑いを浮かべながら答える。
「間接的?どういうことだ?」
「あ~実は、ガトウに渡したリングなんだけど…。あれって念話が出来るだけじゃなくて、いざという時の為に瞬間的に魔法障壁が展開するように作ってあったんだよね。」
『………それを早く言え!!(なさい!)(ってください!)』
しばらくの沈黙があった後、俺は一斉に皆から突っ込まれる。
いや、本当にすみません!はっきり言ってつくった俺も忘れてました!
「悪かったよ。今の今まで俺も忘れていたんだ。そのリング色々機能つけようと頑張った奴だからさ、俺自身、何を言って何を言ってないか忘れてたんだよ。」
「はぁ~。まぁコレに助けられた手前、強くは言えないが…。それでも先に言っておいてくれ。それで?他に言い忘れとかないだろうな?」
「あーたぶん。あ、でもその障壁だけど、それがあるから過信しないでほしい。それは日常ずっとつけていることで、少しずつリングに魔力を溜めていくようになっているだけど、障壁は、その魔力を使って発動するから、一回使ったらすぐには使えない。それに障壁と言っても、精々そこら辺に居る魔法使いが張る障壁と変わらないぐらいのしか張れないから、強い敵の魔法だと簡単に突き抜けてしまう。あくまで保険として考えてほしい。」
ガトウが無傷なのは、アレが撃った魔法が大した事無かったおかげでもあるんだ。
もしあれが、前の大戦で戦っていた相手なら意味をなさなかっただろう。
「なるほど、わかったよ。…だが、とりあえずはありがとう。タケルのお蔭で命を救われたようだ。」
「うん。まぁ…そんなお礼言われるほどの事じゃないよ。ハハハ…」
障壁の事をすっかりと忘れてしまっていた手前、素直に喜べなくて思わず乾いた笑い声しか出ない。だけど、まぁこれでフラグはキチンと折れたと思う。
多分この場に、龍ちゃんがいればこう言うだろう。
”こんなんやから、二枚目やのうて三枚目っていうんや”
何時もは、違うって反論していたけど、流石にこの時ばかりは自分でもそうかもしれないと思ってしまった。
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その後、俺達はそこら辺に倒れている組織の人間を縛り上げて、本部へと連絡した。
しばらくして本部の連中がやってきてそいつらを連行。
事件は一応解決と言う事になった。
ただ、こいつ等が本当にあの“完全なる世界”と繋がっていたのか?とか、いったい何を企んでいたのか?などは、これから尋問して、詳しく話を聞くことになっている。
なので、真に事件が解決するのはまだ先の話になりそうだ。
ともあれ、今は何とか皆無事にこの事件を終わらす事が出来た事を喜ぶとしようか…。
その後、本部の連中と一緒にやって来た龍ちゃん・アスナちゃんと合流し、適当に話をしていると、先ほど助けた女性がお礼を言ってきた。
やはりその女性は、俺の想像通り明石裕奈の母親で、名前を夕子というらしい。
そして夕子さんと話をしていると、今回の事で、彼女は今やっている事を引退して専業主婦として暮らして行くことに決めたみたいだ。
理由を聞いてみたら、今までも家族の事を愛していたけど、自分が死ぬ寸前になって、こんな仕事よりも、旦那と娘の方と一緒に居たいと強く感じたそうだ。もともと旦那からは、やめて欲しいと言われていたらしいのだが、いざやめるとなると、どうしてもやめる自分に納得がいかなくて、今の今まで“ごめんなさい”と思いながらも、仕事を続けていたそうだ。
だけど、今回の事で自分の中で、何か区切りができたらしく、もう仕事を続ける必要無くなったと言っていた。
その旨を、上司に言ったら、上司からは、すこし寂しそうな顔をしながらやめる事を認めてくれたそうだ。
と言う事は、これで予想外な事が無い限り、あの明石一家は家族全員で仲良く暮らしていく事になる。
また一つ、未来を良い方に変える事が出来て俺も嬉しくなった。
「そうですか。ならこれからは、今まで寂しい思いをしていた娘さんや、心配してくれている旦那さんの為に、専業主婦として精一杯尽くしてあげてくださいね。」
「やな。やっぱり子供にとって、母親ってのは、特別な存在なんや。大事にしたり。」
「そうするわ。…それで貴方達はこれからどうするの?もし時間があるなら、お礼もかねて私の家族を紹介したいんだけど。」
夕子さんにそう言われて、ちょっと考えてみる。
時渡りにはまだ時間があるし、次どこに行くかなんて決めていない。
それにせっかくのご厚意を、断るのは忍びない。
と、俺の中で結論付けて俺は、夕子さんの申し出を受ける事にした。
と、そこで、一つ疑問に思った事があった。
今明石夫婦ってどこに住んでるんだろう?
最初は麻帆良かなぁと思っていたんだけど、よくよく考えると、幼い頃裕奈は魔法を使ってたし、もしかしたら魔法世界なのかもしれない。
一応原作では、旦那さんの仕事は麻帆良大学教授だったけど、今そうだとは限らないからな。
気になった俺は、夕子さんに聞いてみる事にした。
「あ、そう言えば、夕子さんの家ってどこにあるんですか?」
「えっ?私の家は旧世界の麻帆良よ。私の旦那がそこの大学の教授やっているの。そこで家族と一緒に暮らしているわ。」
「あ、そうなんですか~。」
どうやら、もしかしたら麻帆良に行かなくてもいいかもと言う願いは脆くも崩れ去ったようだ。
エヴァとの約束にはまだ時間があるし、正直今学園長にあうと何かと面倒な事になりそうだから、正直まだ麻帆良には行きたくなかったんだけど、今さら行かないとも言えないしなぁ…。どうしようか。
俺は、麻帆良に向かった時に、どう行動すればいいか考えながら、宿へと向かうのであった。
事件から一夜明け、俺は結局何もいい案が思い浮かばないまま、夕子さんと一緒に夕子さんの家族が住んでいる所へ向かう事にした。
ただ、やっぱりと言うか、予想通りと言うか、出発直前になってアスナちゃんが“一緒に着いて行く”と言い、俺の服をつかんで離そうとしなかった。
「ねぇ、アスナちゃん?俺はまだどこかに定住する気は無いし、ブラブラとその日暮らしをしながら、旅を続けるつもりなんだ。だからアスナちゃんを連れて行く訳事はできないよ。」
「……やっ!」
プィっと音が聞こえてきそうな感じで、顔をそむけるアスナちゃん。
そのしぐさはかわいいし、とても感情豊かになってきたのは嬉しいんだけど、でもねぇ…。
さすがにコレは困った。
「アスナちゃん。聞き分けてーな。ほら、タカミチもガトウも、あっちでまっとるで?」
「……やっ!」
『はぁ~…』
もうため息しか出ない。
すると、それを見かねたガトウがこっちにやって来て、アスナちゃんの目を見ながら話しだす。
「アスナ良く聞きなさい。アスナがタケル達と“離れたくない、いつも一緒に居たい”と言う気持ちは良く分かった。だが、タケル達も言っている通り、アスナがタケル達と旅をするのはまだ早いんだ。それは、体力的なモノでもあるし、何より外の知識…。とりわけ今回なら旧世界、つまり魔法が一般的に存在していない世界へ行くんだ。アスナにはその常識が欠けている。それじゃダメなんだ。もし突発的に魔法を使えると言う事がばれてしまうと、大変な事…命を狙われる危険性だってあるんだ。アスナはそんな世界の中、タケル達に迷惑をかけないと言えるかい?」
「……言えない。」
「そうだな。だったら、今は我慢しよう。もう少し大きくなれば、体力も付くし、その頃にはいろんな事を知って、タケルと一緒に旅をしても、大丈夫なようになる。俺も、タケルの旅に着いて行けるようにいろいろ教えてやるから。な?だから今回は此処でお別れをしよう。」
ガトウがそう、アスナちゃんに諭すと、アスナちゃんは俯きながらも、掴んでいた服を離してくれた。
…目にいっぱいの涙を溜めながらだけど。
「…でも、また離れ離れになっちゃうの?また、何年もタケルと逢えないの?そんなの……いやだよ。せっかくまた逢えたのに…。もしかしたらもう二度と……。」
「アスナ!そんな事は絶対無い!タケルを誰だと思っているんだ?あの“銃神”“炎帝”の名を持ち、俺達“紅き翼”の中でも最高の男なんだぞ?どんな困難な状況でもあきらめず、その拳で撃ち貫いてきた男だ。それはアスナも知ってるだろ?…アスナは、タケル達を信用できないのか?」
「そんなことない!!!」
「そうだろ?それに、タカミチから聞いたけど、アスナとタケルは小指に見えない赤い糸が結ばれているんだろ?だったら、絶対にまた逢えるさ。…どんなに離れていてもその糸で繋がっているんだからな。」
あーガトウさん。いくら貴方がダンディだとしても、さすがにそのセリフはくさいよ。
あと、タカミチ後で説教な?
もしこれが他のメンバーに…。いや、ラカンとアルに知られたらどんだけ、いじられると思っているんだ!!
“ギン”と音が出るくらいに、俺はタカミチを睨み付けると、タカミチはサーと顔から血の気が引いていき、俺の視界から逃げるようにガトウの背中に隠れた。
ガトウはそれを見て、頭に疑問符が浮いていたが、俺の顔を見て、何となく事情を察して苦笑いを浮かべていた。
そんな中、ガトウの言葉を聞いて、何かを考えていたアスナが、涙を拭いて、かわいい笑顔を俺に向けながら話す。
「タケル。私待ってるから、ずっと…ずっと待ってるから!!でも早く迎えに来てくれないと、私はタケルを捕まえる為に、行動起こすからね!!その時はもう絶対に離れない…。ううん。離さないから!!」
「あ、ああ。えーっとはははっ…。なるべく早く逢いに行くようにするよ。」
アスナちゃんのあまりの剣幕に、俺はしどろもどろになりながら答える。
すると、そんな様子を見ていた他の皆が呟く。
「愛ね。」
「愛やなぁ~。」
「愛だな。」
「愛ですね。」
夕子さん・龍ちゃん・ガトウ・タカミチの順番でそんな事を呟いている。
いや、愛て…。
色々反論したい所だけど、なまじ当たってる気がするから、反論できない。
もし俺が、皆の立場だったら、同じ事言っただろうからなぁ…。
と、そんな事はどうでも良くないけど、今はアスナちゃんの事だな。
あ、そうだ。
「アスナちゃん。小指出してくれる?」
「??」
俺の言葉に、“何で?”言いたそうな目をしながらも、アスナちゃんは、素直に小指を出してくれる。
その小指に、俺の小指を絡ませて、上下に振りながら、俺は歌う。
幼い頃の約束を守るための歌を。
「ゆ~びきりげんまん。嘘ついたら、針千本の~ます。指きった!」
「えっ?」
「これはね。旧世界の約束を守るためのおまじないなんだよ。だからこのおまじないに懸けて、俺はちゃんと約束を守るから、また逢う日まで元気でね?」
「う…うん!」
指切りした小指を、大事そうに胸に抱えながら笑顔でうなずくアスナちゃん。
それを見て、俺も笑顔を返す。
「やっぱり愛よ!かわいいわ~。アスナちゃんも、タケルくんも!」
「タケやんいつの間にそんなテクを…。やるやないか。」
「ふふっ。約束を守るためのおまじないか…。粋な事知っているな。」
「勉強になります!!」
「あ゛~うっさい!!余計恥ずかしくなるからやめろ!!ほら行くぞ龍ちゃん!じゃ、ガトウ、タカミチ、アスナちゃん元気でな!」
顔に熱を感じながら、俺は三人に手を挙げて挨拶し、その場を立ち去る。
きっと俺の顔は、真っ赤になってることだろう。
「あ、まってや。ほな三人とも元気でな~!」
「ふふ…。若いわね~。それではまた、どこかで逢える日を楽しみにしています。」
こうして俺達は、ガトウ達から分かれて、明石家族の住む家へと向かう事になった。
その道中、二人にからかわれながらの道のりだったので、いつもの数倍疲れてしまったのは言うまでもないだろう。
あのおまじないは、封印しようと心に決めた俺だった…。