やっと私生活が落ち着いてきたので、会社にも復帰ができました。
これからもよろしくお願いします。
辺りはまだ暗く、少し肌寒い。
月の位置から考えると、夜が明けるまでまだまだ時間がかかるだろう。
なら話す時間は十分にある。
そう考えた俺は、自分が羽織っていた毛布をマナちゃんに懸けると、火を眺めながらマナちゃんの質問に答える事にした。
「何者か…。俺は人だよ。ちょっと他の人とは、毛色が違うと思うけど。」
「毛色?」
「そう。たとえば魔法…。えい!」
人差し指を立てて、そこに火を灯す。
魔法を覚えるすべての人が最初に唱えるであろう“火を灯れ(アールディスカット)”。
最も基本的で、魔法世界では何ら珍しくない魔法。
しかしマナちゃんは、その光景を見て驚いていた。
「驚いた?これが魔法だよ。見た事無いかな?」
「お話の世界でなら、聞いた事があるけど…見た事なんてない。どうやったの?」
「んーそれは秘密。それよりも、俺の正体の事だろ?」
俺がそう言うと、マナちゃんは教えてくれない事に納得がいかないのか、少しぷくっと頬を膨らませたが、魔法の事よりも俺の正体の方が気になっていたのだろう、頷いて答える。
「…わかった。じゃあ、あなたは特別な人なの?」
「特別ねぇ…。そう言われた事もあるけど、俺は俺。他の人と何ら変わりないと思うよ。」
「嘘。だって魔法使えるじゃない。」
マナちゃんにそう言われて、思わずなるほどと思ってしまった。
確かに、旧世界でしかも魔法の存在を知らない人から見れば、俺の事を特別と思っても仕方が無いだろう。
俺自身魔法なんて戦いの時にしか使わないし、最後に魔法を使ったのも魔法世界だったはず…忘れていた。
魔法の存在を知らない普通の人からしたら、この反応は当然なのだろう。
本当なら魔法の事を知らないままの方が良いのかもしれないけど、魔眼がある以上この子はそう遠くない内に魔法の世界に入る事になると思う。それが知っているだけで済むのか、それともどっぷりはまってしまうのかは分からないけど、それを考えると教えてあげても良いと思う。
知ると知らないじゃ、全く反応や考える事が違ってくるはずだから…。
そう考えた俺は、マナちゃんに魔法の事を教える事にした。
「マナちゃんが知らないだけで、この世界には魔法を使える人は、沢山いるよ。そして努力さえすれば、ほとんどの人が使える。それが魔法だよ。決して神の力とか、悪魔の力なんかじゃないんだ。」
「えっ…そんな訳無い。」
「そう思うのは仕方が無いと思うけど、これは本当の事なんだ。そして、君の眼もまた魔法なんだよ。」
「私の眼が魔法?」
「そうさ。もしかして、本当に悪魔の眼とでも思ってたのかい?まぁ、あんな事言われ続けたらそう思っていても仕方が無いと思う。けどそれは違うんだよ。さっきも言ったけど、魔法に悪魔も神も無いんだ。人ってのは、自分の知識に無いモノがあると恐れるんだよ。特にここら辺は紛争が良くあるから、勝手に“自分達がこんな目にあっているのは君のせいだ”って決めつけているんだ。自分より弱い子供だから抵抗されないと思ってね。…ほんと胸糞悪くなるよ。」
「そ、そんな…。」
俺の言葉にショックを隠せないマナちゃん。
それは当然かもしれない。悪魔と呼ばれ続けて、自分もそうだと思ってずっと我慢し続けてきたんだから、信じられない。と言うよりも信じたく無いのかもしれない。
俺の言葉は、言ってみれば心のどこかで悪魔の眼を持って生まれてきてしまったから仕方が無いと我慢し続けてきたマナちゃんの事を否定しているのだから。
でも、もうそう思い込むのはやめにしてほしい。
君は幸せになって良い。
むしろ今までつらい目にあってきた分幸せにならないといけないと俺は思うから…。
「だからもう我慢する必要なんてないんだ。その小さい体で今まで良く頑張ったね。もう泣き叫んでもいいんだよ。助けてって言って良いんだよ。」
俺はそう言って、マナちゃんの頭を撫ぜる。
しばらくマナちゃんを撫ぜていると、マナちゃんの体が震えだし、そして俺の胸に飛び込んできて大声を上げて泣き始めた。
まるで今まで我慢していた物をすべて吐き出すように。
「…う、うあぁぁん。何で…何で!!もっと早く私の前に来てくれなかったの!?私にそう言ってくれなかったの!?いつも悪魔の子って言われて、石を投げられて、泣いたって、やめてって言っても誰も助けてくれなくて。助けてって言ったらダメなのかなって思い始めてからは、誰も信じられなくて。だから、もう死ぬしかないのかなって…でも、でも、やっぱり死ぬのは怖くて、ううううう…。」
「そっか…そっか。御免ね。御免ね…。」
マナちゃんが何処に居るのか?
どんな目にあっているのか?
近くに居なかった俺に分かる訳が無い。
でも俺はマナちゃんを抱きしめながら、思わず謝っていた。
こんな小さい体で負った大きな心の傷を、少しでも癒せるようにそっとやさしく抱きしめてずっと謝っていた。
謝って済む問題じゃない。でも謝らずにはいられない。
俺はマナちゃんが泣き疲れて眠ってしまうまで、ずっと彼女を抱きしめていた。
マナちゃんが泣き疲れて眠ってしまった後、俺はそっと横に寝かせて毛布を掛けてあげる。
すると、龍ちゃんが起きてきてこちらにやって来た。
どうやら龍ちゃんも起きてマナちゃんの叫びを聞いていたらしく、表情は優れなかった。
「ずいぶん溜めこんどったんやなぁ…。」
「そうだね。魔眼について知識のある魔法世界、それもある程度平等な帝国領内だとしても、魔眼…魔族の血を引いている人は、良く思われていないのに、旧世界みたいな魔法の知識がない場所だったらなおさらだね。」
「やな。今回の事で、ワイとタケやんの夢。“幻獣と人との共存”それを達成するには、まず“人と人との共存”から始めんといかんって思い知らされたわ。そうやないとたとえ幻獣との共存が達成できても、ワイらの目指しとる世界とは違ってきてまう。…こんな悲しい子を増やさない為にもな。」
「そうだね。その為にもまずはこの子を助けないと、次時渡りする時間までもう何ヶ月も無いけど、その間に何とかしないとね。」
「連れて行く方法が無いからなぁ…難儀な事や。やけどそれ以上に注意せなあかん事は、ワイらに依存せん様にする事や。誰かを頼る事は必要な事やけど、それイコール依存とは全くの別物や。どうにかして人の世界でうまく生きてく術を覚えてもらわんといかんな。…タケやんどうするつもりなんや?」
龍ちゃんの言う通り、マナちゃんを連れていける訳じゃないし、俺達に依存させる訳にはいかない。もう何ヶ月もしない内にマナちゃんとは一時の間だけだけど、お別れをしなければいけないのだ。
どうにかしないとな。
「うーん。とりあえずは、魔眼の制御の仕方を教えないといけないと思う。効率よく使う所まではおそらくいけないけど、せめて自分の意志で、魔眼を発動したり、させなかったりぐらいは、できるようにするつもりだよ。後は…そうだな。明石夫妻にも相談して協力してもらうつもりだ。」
「明石さん所か?ガトウ達に協力してもらった方がええんと違うんか?」
「ガトウ達は、基本魔法世界で活動しているだろ?それよりは旧世界で魔法使いやっている明石夫妻の方が、魔法を使えない人と仲良くする術を知っていると思う。それに歳の近い裕奈ちゃんも居るし、なんといっても住んでいる所は麻帆良だ。そこに住んでいれば、何かと好都合だしね。」
どうせ俺達の目的地は麻帆良だ。あそこに住んでいれば、必ず逢える。本人が逢いたがるかどうかは疑問だけど、少なくとも幸せに生活できているかは確認ができる。心配事と言えば、あそこに居るMMの魔法使い達だけど、そこら辺は明石夫婦とあとから来るタカミチが何とかしてくれるだろう。正直他力本願で、いい気はしないけど、おそらくこの限られた状況下の中で最大限できる事は、これくらいしかないと思う。
「そっか…。ならまずはどうするん?」
「まずはマナちゃんにいろいろ聞かないと、住んでる所とか、家族の事とかね。」
「せやな。」
横で寝ているマナちゃんの頭を撫ぜながら、二人でこれからについて考えていくのだった。
その話し合いは夜が明けても続き、マナちゃんの目が覚めるまで続いていた。
マナちゃんは目が覚めると、どうやら昨日の事を覚えているらしくて、俺の顔を見ると顔を真っ赤にしていたけど、俺の質問にはちゃんと答えてくれた。
マナちゃんの話によれば、両親はもうすでに亡くなっているらしい。いつ亡くなったかは詳しく聞く事は無かったけど、マナちゃんの年齢から考えて、おそらく物心付くか付かないかぐらいだろう。その後は、街を一人で渡り歩いてきたらしく決まった寝床は無いと言う事だ。なので、これからは俺達と一緒に行動したいとまで俺達に言ってきた。
そう言われるのは正直嬉しいし、こちらとしても好都合なので、“よろしく”って言って頭を撫ぜると、顔を赤くしながら照れていた。
それから、改めて龍ちゃんを紹介したんだけど、俺の想像通り龍ちゃんに懐いた。ちょっと大人びた所があるマナちゃんは、さすがにアスナちゃんや裕奈ちゃんみたいに、全力で甘えるみたいな事はしなかったけど、大きくなっている龍ちゃんの背に乗っては嬉しそうにしてたし、ぬいぐるみサイズの時は、目を輝かせて抱きしめていた。
さすが龍ちゃん。皆のアイドルだ!
「アイドルて…。ワイ好きでやっとる訳やないんやで?」
そう龍ちゃんは愚痴ってたけど、表情から本当に嫌って訳じゃないみたいだ。
まぁそれも当然だろう。誰だって好かれて悪い気する奴なんていないだろうから…。
それから俺達は、マナちゃんと言う新しい旅仲間を迎えてまた旅を再開した。
その道中に、マナちゃんに魔眼の制御を教えていたのだが、そこで問題が発生した。
本来なら魔眼の制御だけにする予定だったのだが、それをちゃんと制御するには、どうしても魔力の使い方を身に着けないと無理だと分かったのだ。
その為、あくまで基礎的な事だが、魔力の使い方と、体の動かし方。それと護身程度に戦闘技術を教える事となった。
まぁ、別に無駄になる物でも無いし、マナちゃん自身も嫌がる所か楽しそうにそれに取り組んでいたので、俺達の思惑とは外れてしまったが、結果オーライというやつだろう。
それに、そのお蔭で新たな発見もあった。
それは、何故原作では魔法を使うシーンなんか無かったのか?その理由が判明したのだ。
マナちゃんの魔力の殆どは、魔眼を制御しているのに使っている為、消費できる魔力が少ないのだ。原作で見た“ラカンの強さ表”で表すなら、おそらく鍛えてAぐらいの魔力量にしかならないと思う。それはつまり、麻帆良学園教員の平均ぐらいしか魔力を使う事は出来ないと言う事だ。原作では魔力量を上げる修行もしていたかもしれないが、おそらくもっと低い魔力しか使えなかったと思う。だから、その魔力すべてを体の強化にあてて、攻撃はすべて銃火器でやっていたのだ。
それに気付いた時、俺は思わず“なるほど”と思ってしまった。
だからと言って俺は、今マナちゃんに銃の使い方などは教える事はしないつもりだ。
そもそも、俺が銃火器の使い方を教えれるかどうかという心配もある。
知識だけなら、何故かあるのだが、実際に銃を扱った事など無い。おそらく銃闘技の知識の一つとして銃火器の知識があると推測はしている。
原作でも銃は銃火器扱い慣れてたし、教え込まれたと言ってたから。
それと、もう一つ。
俺達と別れた後のマナちゃんについても、いろいろ進展した。
立ち寄った街で、国際電話を使い明石さんに連絡を取って事情を説明した所、快く協力してくれた。ただ、明石さんの家で一緒に暮らすのは、厳しいという事だった。教員である明石教授は、何かとMMの魔法使い達と接する機会が多いらしく、マナちゃんの魔眼が知れたら、その魔法使い達がどんな行動に出るか分からない。私自身だけなら平気だし、夕子さんも大丈夫なのだろうが、まだ小さい裕奈ちゃんの事を考えると、裕奈ちゃんの為にもなるべく危険は回避したいと言っていた。もちろんかなり申し訳なさそうだったけど、それは仕方が無い事だ。やはり自分の子供は大切だからな。だけど、知り合いの人で明石さんと仲が良い人の協力を取り付けてくれた。
その人は、MMの魔法使いとも関わりが少ないし、両方とも魔法使いで、息子も同じく魔法使いなのでそこら辺は心配いらないらしい。しかも、マナちゃんの事情をしっかりと話した上で、了承を得られたので魔眼についても大丈夫だそうだ。人柄についても、明石教授と夕子さんが太鼓判を押してくれて、俺が前話した夢についても賛同してくれる人だとか。
実際に会って確かめる心算だけど、二人が太鼓判を押してくれるならおそらく大丈夫だと思う。それに、その人達は老夫婦で、神社をやっていると言っていたから、おそらく原作の龍宮真名の義理の両親なのだろう。それなら大丈夫だ。
一応保険の為に、ガトウ達にも連絡を入れる心算だけど、ガトウ達の出番は無いと思う。
だから、マナちゃんと別れるその日まで、俺と龍ちゃんは他の人が与えられなかった愛情と、教えられるだけの技術と知識を教えて、別れる日までずっと一緒に過ごすのだった。
…そして、マナちゃんと別れる日。
俺達が二度目の時渡りする日がとうとうやって来たのだった。
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