我拳は銃なりて   作:秋華

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今日はお休みということで、こんな時間に投稿しました。

そろそろザックリ書いた原案がなくなりそうなので、またコツコツ書いていかないと…。
お休みは有効に使いたいです。

それではどうぞ~。


第三十二話:二度目の時渡り

マナちゃんと別れる日。

俺は麻帆良から遠く離れた場所で、明石教授とマナちゃんの家族となるお爺さんと会っていた。

“この人はマナちゃんの家族に相応しいのか?”

それを確かめる為にしばらくこのお爺さんと話をする事にした。

もちろん明石教授の推薦なので、大丈夫だとは思っているのだが、それでも確かめる事は必要だと思う。

そして、話していての感想だが…この人なら大丈夫だろうと思う。

人柄も良く、豪快だけどちゃんと自分の考えを持っている人だという印象だった。

何より目がMMの魔法使いとは違う。

MMの魔法使いの様に与えられた“正義”じゃなくて、自分だけの“正義”を持って居る人しかできない目。

そう、あの大戦でも時々見かけた事のある目だ。

こんな目をした人達は、皆手ごわく、たとえ敵だったとしても尊敬できる人が多かった。

尊敬という意味とは違うが、俺と戦ったあのフェイトもこんな目をしていた。

何でもその昔、魔法世界のあの大戦に傭兵として参加していたらしく、おそらくその経験もあって、自分の“正義”…自分が正しい事だと思う事をする決意ができているのだろう。因みに、俺の事や俺達がやってきた事もある程度知っているみたいだ。

幻獣についても、一緒になって俺と話していた龍ちゃんが居たお蔭と、大戦が終了してから一度幻獣に助けられた経験もあって、“幻獣との共存”には大賛成みたいだ。

そんな考えと経験があってか、マナちゃんが魔眼を持って居た所で別に何も感じないらしい。

“ふーん。そうなのか。じゃが、それのどこに問題があるんじゃ?”

つまりこんな感じらしい。

ともかく、この人は信用して良いと思うし、マナちゃんの新しい家族としても最高の人だろう。

だから俺は、この人にマナちゃんを預けて、これから養女として育ててもらう事を了承するのだった。

 

「では、マナちゃんの事よろしくお願いします。」

 

「任せてくれ。儂らはもう魔法の世界から足を洗った老いぼれじゃが、まだまだ若い者には負けん。特に最近の奴らは力を過信し過ぎておるからのう。マナちゃん一人守るのは訳ないわ。それに、儂の息子にもこの事を伝えたら、妹ができると喜んでおったし、“絶対に俺が守ってやるんだ!”って言っておったからの。大丈夫じゃて。」

 

「私もできる限りの事はするから心配しないでくれ。しかし…本当に裕奈に逢って行かないのか?また逢うのを楽しみにしていたのだが…。」

 

「そう言われるのは嬉しいんですが、俺達はこれからやる事がありますので、もうすぐ出発しないといけないんですよ。心配しなくても、必ずまた逢いに行きますから。」

 

「やな。“また逢う”って約束は必ず守るから心配しんといてや。これからやる事は、ワイら二人や無いとあかん。だからマナちゃんは連れていけんし、何よりマナちゃんにはこちら側に深入りして欲しくない。…ワイらのわがままかもしれんけどな。」

 

わがままと言うよりは、願いなのかもしれない。

もしかしたら、原作通りマナちゃんは傭兵としてこちらの世界に関わってくるかもしれない。

けど、ほんの少しの間でもいいから、普通の子供としての生活を味わってほしい。

今まで悲しい思いをした分、幸せになってほしいから。

 

「…また、逢えるよね?」

 

マナちゃんが目を潤ませながらそう言う。

自惚れかもしれないけど、マナちゃんからしたら、おそらく両親以外で初めて心を許した俺達と別れるのはかなりつらい事なのだろう。

この日を迎える前に、マナちゃんにはちゃんと説明し、何とか納得してもらう事が出来たけど、それでもいざ別れるとなると、頭で理解できていても納得ができないのかもしれない。だから俺は、そっとマナちゃんの頭を撫ぜながら言う。

 

「もちろんだよ。またきっとマナちゃんに逢いに麻帆良に行くから。それまで新しい家族と一緒に待ってて。」

 

「…うん。待ってる。でもその前に一つだけお願いがある。」

 

「お願い?何かな?」

 

この状況でお願いと言われて、一瞬指切りの事なのかと思ってしまったが、マナちゃんにはその事を話していないはずなので、その考えを頭から無くす。

 

「…写真。一緒に撮ってほしい。」

 

「写真?別にいいよ?」

 

正直指切り以外なら何でも良いと思ってしまった俺は、マナちゃんと一緒に写真を撮る事を快く受けた。

しかしそこで、思いもよらない事が起こった。

 

「むー。武兄さんちょっと屈んでほしい。」

 

「へ?何で?」

 

「いいから。お願い。」

 

二人で写真を撮る事になって、マナちゃんがそう俺に言ってきた。

何で屈まないといけないのか、疑問に思ったが、とりあえず言う通りに屈むと、満足そうな顔してマナちゃんが笑う。

それを見た明石教授は、掛け声を掛けてくる。

そして、それは起こった。

 

「じゃ、撮るよ。はい、チーズ!」

 

チュッ!

 

「!!へっ!?」

 

一瞬何が起こったか分からなかったけど、どうやらマナちゃんは俺の頬にキスをしたみたいだ。その事に驚いて、ガバッっと顔をマナちゃんに向けると、そこには顔を真っ赤にしながら、それでも嬉しそうな表情をしたマナちゃんが、はにかんでいた。

それを見てしまったら、俺はもう何も言えず渇いた笑いしかできなかった。

 

「おお!マナちゃんやるやないか!」

 

「ふむ。裕奈にもライバルができたって事かな?全く罪作りだよ、武君は…。」

 

「ほっほ。若いの~。じゃが、武殿よ。マナと恋人になるには、儂を倒してから付き合ってもらうぞ?儂のかわいいマナは誰にも渡さんからな!」

 

いつの間にか呼び捨てにして、もう親馬鹿ぶりを発揮しているお爺さんの事についてはツッコミを入れるかどうかで悩むが、とにかくこれでお別れだ。

また逢う日まで元気でねマナちゃん。

 

 

「…今日の写真は一生の宝物。私の初めてのキス。大好きな武兄さんにあげる事が出来て良かった。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

マナちゃん達と別れた後、俺達は旧世界の人が居ない所を選びながら行動していた。

最初は、魔法世界に行かないとダメなのでは?とも思ったが、よくよく考えると、確か最初に時渡りした時も旧世界だったので、それについては心配いらないだろうと旧世界に居る事にした。人が居ない所については、いつでもクロノスが来て良い様にだ。

そして今日も、人の住んでいる場所から離れた川の畔で野営の準備をしていると、傍で寝転んでいた龍ちゃんが、徐(おもむろ)に立ち上がって言う。

 

「どうやら来たみたいやな。」

 

そんな龍ちゃんの言葉に、俺は龍ちゃんが視線を向けていた所へ視線を向けると、そこには前と変わらない姿のクロノスがいつの間にか立っていた。

 

「お久ぶりなの~。元気してた?」

 

相変わらずののほほんとした口調に、少しイラッとしながらも俺は返事をした。

 

「いろいろあったけど、元気はしてたよ。それより今日は一人なのか?てっきり神様も一緒に来ると思ってたんだが…。」

 

俺がそう言うと、クロノスは困った表情をしながらその質問に答えてくれた。

 

「あの時は特別なの。あの時は、貴方にこれからの事を説明する必要があったし、私の事も説明しないといけなかったからなの。たとえば急に私が貴方達の前に現れても、信用する事ができた?」

 

クロノスにそう言われて、なるほどと思う。

確かに、あの時急にクロノスが現れても信用する事は難しかっただろう。龍ちゃんがいるおかげで、精霊だと言う事は分かるだろうけど、それが本当に神様の使いで来てるかどうかなんて分からないからな。

 

「それに、そもそも神様が地上に降り立つ事自体ありえないの。神様はいろいろやる事があって忙しいし、私以上に周りに影響を与えてしまうから、自ら地上に降り立つのを禁じているの。ただ、あの時だけは貴方を転生さて、さらに頼み事までしていたからそれを破っただけなの。」

 

「なるほどなぁ。神様って奴も大変なんや。」

 

「当たり前なの!神様を甘く見るなだの!」

 

「いや、甘くは見てないからな?」

 

クロノスの言葉に思わず突っ込んでしまう。

しかし神様は此処に来ないのか…。少し聞きたい事があったんだが、クロノスも知っているのかな?

 

「なぁクロノス。少し聞きたい事があるんだが…。」

 

「なんなの?」

 

「確か次は、原作開始の一年前に飛ぶ事になるんだよな?それはつまり、その間に起こるイベントには手出しできないって事で間違いないか?」

 

「それはそうなの。時渡りしている間は、貴方と龍ちゃん、そして私はこの世界に存在して無い事になっているの。だから手出しなんてできる訳が無いの。」

 

やっぱりそうか…。だとしたら原作にある、ナギとアリカ姫の行方不明と、その息子ネギが住んでいる村が襲われるイベントには手出しができないって事になるのか。

しかし、それに関与していたと思われる“完全なる世界”の親玉は俺達が潰したし、イベントが起こらない可能性だってあるのか?どうなんだろうか…。

 

「クロノス。原作の事は知っているのか?」

 

「神様からある程度は聞いているの。ある程度と言うのは、すでにこの世界は原作とは別の道を進んでいるから、詳細は神様にも分からないからなの。」

 

「なるほど。…なら教えてほしい。ナギとアリカ姫が行方不明になるイベントと、その息子ネギの村が襲われるイベントは起こるのか?」

 

「なんやて!?ナギ達が行方不明やて!?」

 

隣で黙って聞いていた龍ちゃんが、俺の発言に驚いて声を上げる。

すると、クロノスは申し訳なさそうな顔をして俺の質問に答える。

 

「…ごめんなさい。それは言えない事になっているの。」

 

「何でや!?」

 

龍ちゃんは、思わず声を荒げてクロノスに食って掛かるが俺は手でそれを留めると、クロノスの話の続きを聞く事にする。

 

「原則私達は、たとえそれがつらい未来だったとしても、直接手を出したり、助言したりする事はやってはいけないの。理由は、私達がこの世界を見守る側であって、創る側じゃないからなの。」

 

「見守る側?創る側?」

 

クロノスの言った意味が分からない俺と龍ちゃんは、思わず聞き返してしまう。

 

「私達の力は、それこそ、この世界を簡単に変えてしまえるぐらいの力なの。それは実際に私の力を使って時渡りをしている貴方達が、一番良く分かっていると思うの。だからこそ、私達が自分の感情だけで直接手を出してしまえば、その世界は死んでしまう。世界の死とは、その世界に住まう生物すべてが、自分を無くしてしまう事。“私達に頼めばなんでもしてくれる”そう考えて成長する事や、考える事をやめてしまう者であふれ、結果ただ私達の指示に従って動き、生きていく事になる。それはもう命の無いロボットと同じ事なの。そんな世界は、死んでいる世界なの。世界とは日々自分で考え、成長していくからこそ、尊くて愛しいの。だから私達は、そんな世界がずっと続くように見守る側になって、私達の力の一部を貸す事で、貴方達がより成長して行ってくれるように、幸せな未来が創れるように願いを込めて貸しているの。」

 

「それがたとえ滅びの道を歩んでいたとしてもか?」

 

思わず俺はそう聞いてしまった。いや、聞かざるを得なかった。

転生する前も、転生した後も理不尽な事があった時、思わず神に祈った事がある。

誰だって、一度は考えたはずだ。

“あの時どうにかできたら…”って。

すると、クロノスは悲しそうな表情をしながら俺の質問に答えた。

 

「割り切る事は出来ないし、悲しい事だけど、そこに住んでいる生物達がそれを選択したなら、私達はそれをすべて受け入れる。…それが力を貸している私達の、せめてもの責任の取り方なの。」

 

今にも泣き出しそうな顔でそう言うクロノス。

きっと彼女達は、これまで何度も滅んできた未来を見てきたのかもしれない。

もしかしたら、我慢ができず、直接手を出して滅んでしまった世界もあったのかもしれない。

その度に何度も泣いて、自分の力が滅びに加担してしまったら、自分の力を呪ってきただろう。

でも…それでも、彼女たちはこれまでも、そしてこれからも世界を見守り続けるのだ。

世界が幸せになるように…と。

 

「…すまん。なんも知らんで、あんな態度とってまって。」

 

「…俺もごめん。」

 

辛い役目を担っているクロノスに、顔を暗くしながら謝る龍ちゃんと俺。

直接言われて改めて分かる。ただ見ているだけと言うのは、とても辛くて歯がゆいものなんだと。

神様なんて楽だよな~なんて少しでも思った俺は、自分が恥ずかしかった。

そんな俺達の気持ちを察するように、クロノスは優しく微笑んで首を振る。

 

「別にいいの。貴方達からしたら、そう思われても仕方が無いと思うから。…そういう訳だからごめんなさいなの。私には何も言えないの。」

 

「そっか…。別に気にしなくていいよ。クロノスのお蔭で、こうやって若いままで原作へ行けるんだし、本来ならコレもダメなはずなんだろ?」

 

「…お礼は神様に言ってくださいなの。“武にはつらい思いをさせている。だからせめてこれくらいは…”って言って、無理をしたのは神様だから。」

 

そっか…。

俺は心の中でお礼を言う。

届くかどうか分からないけど、神様に向かって“ありがとうございました”と…。

 

「そっか…。でも、力を貸してくれているのは、クロノスも一緒だろ?だからありがとう。」

 

「へへ…。直接お礼を言われるのは初めてだから照れるのだの。あ、そうそう。神様からの伝言があるの!」

 

自分が照れているのを隠すように、クロノスが急に話題を変える。

 

「伝言?」

 

「“もし、時渡りで連絡が取れなかった事を誰かに聞かれたら、私の事と時渡りについて話して良いって。武が転生者って事については、話すのは任せる。お主の好きに進み、幸せな未来を創ってくれ”以上なの!」

 

「私って…クロノスの事か?でも話しても信じてもらえるのか?」

 

「それは大丈夫なの。こう見えて私は有名人なの!」

 

「あ、そうなんや。意外やな…。エヴァはんとかは、知らんかったけど…。」

 

「おそらくそれは、文献とか読んでないせいだと思うの。魔法世界にしかない文献だし、知ってても、忘れている可能性だって高いの。」

 

「へぇ…。まぁ聞かれたらそう答えるよ。それで?いつ時渡りするんだ?もう聞きたい事も無いし、準備は出来てるんだけど…。」

 

「時渡りは月が真上に来た時やるの。まだ少しだけ時間があるから、ゆっくりしていると良いの。」

 

「分かった。なら龍ちゃん。ご飯でも食べるか。…クロノスも食べるか?」

 

「飯や~。」

 

「私もお呼ばれするの!」

 

それから俺達は、ご飯を食べながら他愛のないお喋りをして時間を潰す。

クロノスと話すのはとても新鮮で、楽しかった。

そして、話していたらいつの間にか月が真上に上り、最後の時渡りの時がやってきた。

 

「それじゃ。そろそろ行くの!」

 

「おう。さっ、こっからが本番だ!」

 

「わくわくしてきたわ。」

 

「それじゃ…。時渡り開始!」

 

そうして俺達は、この世界から消えた。

次俺達が現れるのは、原作の一年前。

期待と不安を胸に秘めて俺達は旅経つのだった。

 




いかがでしたか?
クロノスと武達の会話については、きちんと書こうと最初から思っていました。
私自身何度も思った事だったので、その回答みたいなものですね。この回答にたどり着いた時、納得できるけど、できないっていうのが私の正直な感想ですけど…。

あと、指切りを期待していた人。
マナちゃんはそんな事じゃ満足できなかったみたいです。(笑)

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