我拳は銃なりて   作:秋華

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武と龍ちゃんの戦い前篇です。

まずは、武からどうぞ!


第六話:銃と刀

詠春さんと俺は、皆がいた場所から十分に離れた場所で足を止めた。

遠くからは、爆発音などが聞こえてくるが、これだけ離れていればこちらに影響は来ないだろう。

それを確認した俺は、詠春さんから少し離れて、すぐにでも戦闘が開始できるよーにグローブを装着する。

詠春さんもさっきとはまるで別人のような顔つきになり、静かにそこでたたずんでいた。

 

「詠春さん。先ほどは申し訳ありませんでした。」

 

「何のことだい?」

 

「いえ先ほどの挑発で怒らせてしまったかと思いまして…」

 

「ああ、その事か気にしなくていいよ。むしろこちらこそ、武君の決意を不意にしそうになって申し訳なかったね。」

 

「いえ…」

 

「しかしなんだな…。君は見た所ずいぶん若いようだが、落ち着いているね。」

 

「そんな事無いですよ?さっきの挑発にしても、心臓がバクバク言ってましたから」

 

「ハハハッ…そんな緊張しなくてもいいのに。」

 

「緊張もしますよ。先ほどは剣と銃のどちらが上か確かめたいとか言いましたけど、いつもはそんな事言うキャラじゃないですし、それにこうして剣の達人と戦うのは初めてですから…」

 

「そう言ってもらえるのはうれしいね。でもだったら何故戦うといったんだい?」

 

「…そうですね。しいてあげるなら”憧れ”でしょうか?」

 

「憧れ?」

 

「はい。小さな頃からの憧れです。話で聞いていた”侍”それに強い憧れを持っているんです。正義でもなく悪でもなく…ただ自分が正しいと思うことを”刀”に乗せて戦う。そんな生き様に俺は憧れたんです。」

 

「…君は日本人なのか?」

 

「ええ。どういう訳かこうして魔法の世界で生きてますけど、生粋の日本人です。だからこそ貴方と戦いたい。今こうして憧れの侍が目の前にいる。俺も刀は使いませんけど志は同じ、ならそれが本物かどうか貴方と戦う事で確かめてみたいと思っています」

 

実際は理由も知ってるし、もう今更なんだけど、それでもこの気持ちは本当だ。

TVや小説、演劇で見ていた侍。俺はそれに強い憧れを持っている。もちろん刀で戦う事に憧れた事もあったけど、歳を重ねるにつれて、刀よりもその生き方に強い憧れを持つようになってきた。

自分もこんな生き方がしてみたい。

そんな事を思うようになっていたけど、思うだけで、元いた世界ではそんな生き方できていなかった。けど、何の因果か、この世界で生きていけるようになったので、ここでは、その生き方をこの鍛えた拳と共に貫いてきたい。

コレは、俺がこの世界に来て最初に決めた事だった。

そんな思いを胸に秘めて詠春さんにその旨を伝えると、詠春さんは目を大きく見開いてこちらを見た後、急に真剣な顔つきをして頭を下げてきた。

 

「………失礼した。」

 

「えっ?いきなりなんですか?」

 

「武…いや武殿がそこまでの思いをもっていたとは正直見抜けなかった。だからこそもう一度あの言葉を放った事謝罪したいと思います。」

 

「そ、そんな…。頭を上げてください。あと、年下の私にそんな敬語を使われたり、頭を下げられたりしても、こちらが困りますよ」

 

そう言って、詠春さんの行動に慌てていると、それを見た詠春さんがまた目を見開いて驚き、そして大声で笑った。

 

「ハハハッ…!君は本当に面白い子だな。…だが、その気持ちは本物だ。そしてその実力も…。改めて名乗らせてもらう。神鳴流免許皆伝、近衛詠春。貴殿の思いに答える為にも、全力で相手をしよう!!!」

 

そう名乗りを上げた瞬間、そこには小さい頃から憧れた侍がそのまんまの姿で、そこにいた。

すると、俺の体に微かな変化が生じた。

それは、体の震えだった。

恐怖…?いや違う。これはきっと“武者震い”と言うものだろう。

日本人特有の現象とは聞いていたが、まさか自分がそれを体験する事になるなんて、思いもしなかった。

まるで体が、あこがれの人と戦える事を歓喜しているようなそれは、最初から戦いたいと思っていた心に更に熱を与えて、もう爆発してしまいそうだった。

そんなはやる気持ちを、どうにか抑えながら、詠春さんの名乗りに応えるように俺も声を張り上げて、自分の名を名乗る。

 

「銃闘技タケル・ダテ…いや、伊達武。よろしくお願いします。」

 

普通に考えれば、素手と真剣。一歩間違えれば、死んでしまうかもしれないというのに…嬉しさが止まらない。

さぁいこうか俺の拳《相棒》よ。

俺のすべてをぶつけて、この素晴らしい好敵手を超えよう。

 

~全体視点~

 

武と詠春。お互いに名乗りを上げた後、最初から離れていた距離を保ったまま、二人は動かない。

詠春は、鞘から刀を抜いて、かまえる事もせず、だらんと下げ、武の方は、肩幅に足を開いて拳を下に下げていた。

詠春の方はそれが構えなのか分からないが、武の方は、ただ下に拳を下げているだけではなく、いつでも拳を撃ち出せるように準備…。そうつまり『ガンマンポジション』で待ち構えている状態だ。

奇しくもその構えはどこか似ており、おそらく両方の構えの事をこう言うのだろう。

自然体。

数ある武の構えの中で最も難しく、そして最良の構えである。

つまり、この状態からどんな風にも動けるし、攻撃できるというわけだ。

 

その構えを保ったまま、武は詠春の構えで気になった事を聞く。

 

「詠春さん。峰を返しているのは、俺相手では本気になる必要はないということでしょうか?」

 

「いや違うよ。これはあくまで仕合い。殺し合いじゃない。だから刃を向ける必要が無いだけさ…。それに神鳴流は獲物を選ばず…。峰を返していても、斬ろうと思えば人は切れるし、気を込めればそんじょそこらの真剣よりも切れるよ。それよりも君は何もしなくていいのかい?まさか気を纏わないで刀と戦うなんて思ってないよね。」

 

「…そうですね。では失礼して…”右手に気、左手に魔力…合成”」

 

詠春のもっともな返答に、少し笑みをこぼした武は、そう呟いて胸の所で手を合わせる。

すると、武の体の気が爆発的に上がる。

 

「…気の増加?いや…それにしては感覚が違うな。」

 

「感卦法ってやつです。今の俺じゃ詠春さんの気の量、質には敵いませんから」

 

感卦法。

この世界では、究極闘法の一つとして名を連ねている技である。

自分を無にして、己の気と魔力を合成させる技。

そうする事で、強力な力を得る事ができる闘法なのだが、これを習得するのは容易では無い。

気と魔力を正確に同じ量に調節するのもかなり難しいのだが、何よりこの闘法を習得するのに一番の難関と言われているのは、己を無にする事である。

人間、いや生物にとって、何もしない、何も考えないというのが一番難しい。

しかしこの闘法を成功させる為には、それをしなくてはいけないのである。

それゆえ、これを習得できるものは少なく、戦闘でコレを仕様する人は、もうほとんどいないのである。

武は、神様にそれが使えるように頼んだので、簡単に使えているが、本来はそんな簡単にできる事ではない。

もちろん、武の修練した努力があったからこそなのであるが…。

 

「なるほど…。これは面白くなりそうだね。」

 

強力な力を得た武を見た詠春は、ニヤリと笑いそう言った。

詠春も今武がどれだけ強いのか、わかっている。

しかし、彼もまた生粋の戦士。

自分と同等、それ以上の相手と戦うのは、思わず笑みがこぼれてしまうほど楽しい事なのだ。

 

「…それでは行きます!!」

 

武は“ふぅ”と短く息を吐いた後、そう詠春に言い放ち、『ガンマンポジション』から『スナイパーポジション』に構えを変えて、“ガンブレット”を撃つ。

 

「む!」

 

まさか射撃武器があるとは思わなかったのか、詠春はガンブレットを見て、少々驚いたような顔をするが、すぐさま刀を振り、ガンブレットを斬る。

 

「なるほど。銃を模した武術…その名に偽りなしか。しかし神鳴流には飛び道具など無意味だ!!」

 

「そうかも知れませんが…一発ではなく複数ならどうでしょうか?」

 

詠春の叫びに、極めて冷静に答えた武は、先程は一発だった、ガンブレットを連射する。

ただし、その連射はほとんどタイムラグの無い連射で、いうなれば…マシンガンの連射能力を持ったスナイパーライフル?それよりも、スナイパーライフルの様な遠距離射撃ができる、マシンガンと言った方が正しいのかもしれない。

そんな通常不可能なモノを可能にした、この技の名前は、“クレイジー・ホース”。

感卦法の様に、自分自身の能力をUPしてないと使えない技で、狙撃銃の様な、射程の長さと、マシンガンの様な連射力を併せ持った技となっており、武がこの世界に来て、編み出した彼オリジナルの銃闘技の技の一つだった。

 

「クッ…。確かにこれは骨が折れるが、そんなものでは私に当てる事などできん」

 

武から放たれる“クレイジー・ホース”の攻撃の多さに、さすがの詠春も顔をしかめるが、表情が少し変わっただけで、さも当然と言った感じで打ち出された、ガンブレットを切り落としていく。

そんな光景に、武は驚いて一瞬攻撃が止まり掛けたが、すぐに持ち直し、休む事無くどんどん撃ち込んでいく。

しかし、その攻撃もすべて詠春に切り落とされ、さすがに限界が来たのか、少し肩で息をしながら武が呟く。

 

「うわぁ…。これはさすがに、ショックを隠せないんですけど。せめて一発ぐらい当たってもいいじゃないですか。」

 

「フッ…。確かに、これの速度と量はたいした者だが、速度については私が追いつける範囲だし、量で言えばナギなどが撃ってくる”魔法の矢”に比べればたいしたことは無い。…まぁ威力はまったく別物だがな。」

 

律儀に武の呟きに答える詠春。その顔は、先程とまったく変わっておらず、疲れなど内容だった。

その反面、武は“クレイジー・ホース”を撃ち続けていた事で、スタミナを消費していたが、感卦法で自分の力をUPさせているおかげで、これ以降の戦闘には支障は無かった。

それに、正直を言えば、武自身も実際は当たると思ってはいなかった。

原作でも、神鳴流の飛び道具対策は万全で、しかも今、目の前に居るのは、圧倒的な技量を持った詠春である。正直、一発でも当たったらお慰みモノだろう。

しかし、当たらないと分かっていても、おそらくスタミナや気力は削れるだろうと思っていた武にとって、さすがにこの結果は予想外だった。

 

「さて、なかなか面白いものを見せてくれたんだ。こちらもそれ相応の技をお見せしよう。行くぞ?」

 

そんな武の驚きを知ってか知らずか、詠春は武にそう言うと、その場から一気に加速して武へ迫る。それを見た武も、何とか撃墜しようと、詠春に向かって攻撃を繰り出すが、その攻撃を流れるような動きで、詠春は回避していき、そして自分の射程範囲に入った所で剣を振り上げた。

 

「斬岩剣!!」

 

そう詠春は叫んだ。

 

“斬岩剣”

神鳴流の基本的な奥義にして、もっとも使う頻度が多いとされる技である。

その名の通り、岩をも切り裂く剛剣。

そんな技が武に向かって放たれた。

それを見た武は、最初迎え撃とうと考えたが、すぐさまその技の威力を感じ取り、迎え撃つ事をあきらめて、すぐさまその場から退避する。

 

ドコォォン!!

 

すると、先程武が居た場所から、大きな音が鳴り響き、その場所が土煙に覆われる。

土煙が消えると、そこには、大きなクレーターが出来ており、更にはクレーターの中心から真っ直ぐ大地に切れ込みができていた。

それを見た武は、背筋に嫌な汗が流れていくのを感じた。

 

「いい判断だね。もし受け止めようとしていたら、その体は今頃半分に分かれていたと思うよ?」

 

「…みたいですね。良かったです。勘が働いて…」

 

「でも、何時までよけられるかな?」

 

そう軽口を叩くが、武の顔はすぐれない。

しかし、それも仕方がないだろう。何せ、その威力をまざまざと見せつけられて、しかもそれが自分を襲ってくるのだから。

だけど、あきらめたわけじゃない。

これから詠春が、その技を俺に向かって放ってくるのなら、俺はこうすればいい。

おそらく、俺にしかできないだろう行動。

簡単な事だ…。

 

「…いいえ。もう避けませんよ?」

 

武がそう言うと、詠春の顔に少々落胆の色が見える。

だが、次の言葉が武から放たれると、楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「詠春さんがその技を出せる暇を与えないほど、圧倒的に撃ちぬかせてもらいます。」

 

「……おもしろい!!出来るものならやって見せてもらおうか!!!」

 

そう二人は叫び、再び激突する。

武は詠春の懐に潜り込むと、すぐさま『ガンマンポジション』の構えになり連撃を浴びせる。

詠春も、当然の様に武の連撃を受け流しながら、刀を振るっていく。

 

ガガガガガガガガガガガ!!!

 

「クッ…さすがにつらくなってきたな。なるほど。こちらが本来の速さか…」

 

武から繰り出される攻撃の速さに、さすがの詠春も捌くのが難しくなってきた。

しかし、詠春は勘違いをしていた。

 

“これが本来の速さ?”

 

それは、甘い幻想でしかないのだ。

 

「甘いですよ、詠春さん。」

 

「なんだと?」

 

「今のは、ただの様子見ですよ。…ここからが俺の本気の速さです。さぁ…耐えられますか?すべてを飲み込む拳の弾幕に…。”ダブルガトリングショット!!!”」

 

武がそう叫ぶと、先ほどの2倍~3倍に膨れ上がった拳の弾幕が詠春に向かって放たれる。

抗う事を許さない。移動する事も許さない。この技を目の前にした人にできるのは、ただこの攻撃が収まるのを待つ事のみ。

まさに拳の大津波であった。

 

”ダブルガトリングショット”

 

これも武自身が望み作り上げた。オリジナルで、武が今繰り出せる最高の技だった。

”ガトリングガン”

銃の中でも、圧倒的な連射速度と量を誇る銃であり、それこそが、この技の名前の由来でもある。

この技の目的はただ一つ。

自分の目の前に居る敵を、殲滅する事だけ。

牽制や、正確性などを忘れたような技なのだが、それ故に恐ろしい技である。

ちなみに、一発一発はそこまでの威力はもっていない。だが、塵も積もれば…ということわざがあるように、数を当てれば、いくらタフな相手でも倒れるしか…いや、この連打では倒れる事も許しはしないので、相手が動かなくなる事だろう。

ラカンにも、これはもう二度と味わいたくないと言わしめた技でもあった。

 

「クッ……」

 

さすがの詠春でも、この量は捌ききれないのか、次々と被弾していき、顔が苦痛にゆがむ。

そして、ある一発の拳が詠春に当たる。

その一発は、運良くいい所に当たったのか、その一発で、詠春の体が浮き上がり、一瞬だけ無防備になる。

その瞬間、先ほどまでの拳の大津波は止む。

詠春がどうしたのか?と思った瞬間、詠春の全身に一斉に鳥肌が立つ。

 

「コイツで止めだ!!44マグナム!!」

 

「なっ、間に合え!!真・雷鳴剣!!」

 

ズカァァァァン!!!

 

武の44マグナムと詠春の真・雷鳴剣。

互いの技の中でも最高の威力を持つであろう技が激突した瞬間、あたりは真っ白に包まれ、その後、爆発音といっていい音が響き渡る。

あまりにもすさまじい威力によって、地面に生えていた草花は一瞬にして消え去り、荒野のようになってしまっていた。

 

そしてその荒野に佇む二人の姿。

もちろん、武と詠春であるが、二人は互いに位置が変わり、背中合わせでその場に佇んでいた。

すると、一人が膝を付く。

 

それは詠春だった。

 

だが、詠春が膝を付くのとほぼ同時に、武の体から血が噴出し、武も膝を付く。

 

ブシュゥゥゥ

 

「ぐっ…完全に撃ち勝ったと思ったんだけどな。」

 

武は、右肩を左手で抑えながらそう呟く。そこには、おそらくあの瞬間、詠春の刀によって斬られたと思われる傷があった。

 

「くっ…何とか急所からは外せたが、それでもこの威力か。」

 

無論、詠春の方も無傷と言うわけでは無く、体の中心から少し外れた所に、しっかりと、マグナムが撃ち込まれた後が出来ており、そこを手で押さえていた。

 

「詠春さん。さすがですね。まさか俺のマグナムを逸らし、さらに斬り付けるなんて普通できませんよ。」

 

「そういう武君だって、急所から外れているはずなのに、この威力なんて…まさに銃弾の拳だな。」

 

二人とも傷口を手で押さえながら、互いの強さを褒め合う。

その顔は苦痛でゆがんでいながらも、どこか楽しそうで、相手の実力とその技が本物だった事を喜んでいる様だった。

そんな光景を、もし龍牙がこの場に居て見ていたら、ほぼ間違いなくこう言っただろう。…ラカンとのケンカをもう一度見ているかのようやと…。

 

「さっきの技、ガトリングだったか?あれはかなり効いたよ。…だが弱点も分かってしまったがね。」

 

(ピクッ)

 

二人はしばらく、そこで蹲っていたが、不意に詠春がそんな事を言い出す。

その言葉に、武は反応し、詠春の方を見た。

 

「銃と一緒で、玉数制限があると言った所か。…実際は拳を撃っているだけだから、拳を繰り出すための体力だろう。まぁ普通なら、あの速度と量を打ち出すこと自体無理な事なのだが、それを武君は修練によって可能にした。それだけでも尊敬に値する。しかし、そのためには膨大な体力を必要とし、感卦法によって強化されてもそれは変わらない。違うかな?」

 

詠春の問いかけに黙ってしまう武。

なぜなら、詠春が言った事は事実であり、弱点のすべてを見透かされたわけではないが、見事看破しているからである。

 

ダブルガトリングショット

その弱点とは、体力消費、酸欠、筋肉の酷使、そして心臓の負担が大きいことである。

体力についてはそのままの意味であの連射をおこなうために膨大な体力が消費される。

そして酸欠については、速度が問題となってくる。速度を極めるにあたり、行き着いたのが無呼吸運動である。実際は持たないため呼吸をしているが、ほぼ無呼吸運動なため、撃ち続ければ酸欠になってしまう。

筋肉の酷使についても同様で、あの連射と速度を保ち続けるために相当筋肉を酷使している。

そのため、技を限界まで続ければその後はしばらく腕が上がらなくなってしまう。

そして最後の弱点。心臓の負担である。

銃闘技のキモである血液の流れ、それをコントロールしているのが心臓であるが、激しい運動に加え酸素不足によってマグナムよりも数倍の不可がかかり、最悪心臓が止まってしまう場合もあるのだ。

無論その事は武も重々承知でこの技を使っており、感卦法を使用しなくても、一応は使えるのだが、なるべく感卦法を使用する事で、負担をできる限り少なくし、ギリギリの所を見極めている。

 

「…どこで気がつきましたか?」

 

「強烈な一撃を放とうとした所からかな?あのまま続けていれば、私は何も出来ないまま負けていただろう。だけど君は、あのまま攻撃していれば勝てるのに、それをやめて、止めをさそうとした。そこで気がついたのさ。」

 

“全くさすが詠春さんと言う事か…。観察眼迄一流なんだな。”

武は、そう心の中で呟く。

 

「さすがですね。まさかこうも簡単に、気付かれるとは思いませんでした。」

 

「簡単じゃないさ。おかげでかなりギリギリの所まで追い詰められているからね。でも武君もその傷じゃ同じ事は出来ないだろうし、やれる事も限られてくるだろ?」

 

さらなる詠春の問いかけに、もう武は苦笑いしかできなくなっていた。

 

「お見通しですか…。やりにくいなぁもう。」

 

「ハハハッ、君よりは長く生きてるからね。それぐらいは見抜けないと。」

 

「それでどうします?このままじゃお互いに収まりつかないと思いますけど?」

 

「そうだね…。武君も分かってるだろうけど、もうお互いできることは限られているからね。ここはやっぱりお互いすべてを込めた一撃を放つって言うのが常道だろう。」

 

詠春の提案に、武は思わず笑ってしまった。

 

「どうしたんだい?何かおかしいことでも言ったかな?」

 

「クククッ…いえ。実はラカン…あの今ナギさんと戦っている男と、マジケンカしたことがあるんですが、その時もお互いギリギリの勝負になって、最後は同じ展開になったものですから。…こうも同じだと、何故か笑えてきてしまって…。」

 

武がそう言ってまだ笑っていると、納得がいったのか詠春も同じように笑い出す。

 

「あっはっはっは。なるほど。武君が笑ってしまう気持ち分かる気がするよ。えてして、強者との戦いというものは、こうなるようになっているのかもしれないね。私も覚えがあるからね。」

 

そう言って笑い合う。

そして、お互いにある程度笑い合ったところで、二人は真剣な顔つきになり、構える。

詠春は刀を正眼に構え、武は右肩が斬られて右腕が使えないので、左腕を構えハンマーコックする。

 

「利き腕じゃなくても、さっきのような強烈な一撃を撃てるのかな?」

 

「ご心配なく。確かにマグナムは撃てませんけど、それに変わる必殺の技が左には備わっていますから。」

 

「そうか…それは安心した。」

 

その言葉を最後に二人は、ぴたりと会話をやめて、お互いがお互い全力を出せるように、神経を集中させる。

そして、二人が集中してからしばらくして、まるで照らし合わせたかのように、二人は言葉を発した。

 

「詠春さん。貴方と戦えて本当に良かった。貴方は、やっぱり俺が憧れた侍そのものでした。」

 

「武君。君と戦えて本当に良かったよ。久しぶりにいい勝負が出来た。それだけでも嬉しいよ。」

 

「でも」「だが」

 

『この勝負、勝つのは俺(私)だ!!!』

 

そう叫んだ後、二人は怪我をしているのが、嘘のように先程と変わらない…。いや、先程よりもさらに鋭く、相手に向かって、飛び出した。

詠春の刀に気が集まり光を出せば、武のハンマーコックした左腕が、鉛色から青銅色《ガンブルー》に変わる。

 

そして、今できる最高の一撃の名を叫ぶ。

 

「これが俺のラストショット!イビジブル・デリンジャー!!」

 

「新鳴流最終奥義!神鳴!!」

 

その瞬間、大きな雷が轟音を響かせてあたりを包み、銃声と聞き間違えるほどの低く鈍い音が突き抜ける。

そして、辺りが静けさを取り戻した時、そこには寝そべっている二人の姿があった。

 

「ハハハッ…まいったよ。初めてあんな事をされたよ。私も修行が足りないな。」

 

そう言ったのは詠春。彼の心臓とみぞおちの辺りには、武によって撃ちぬかれた証の銃痕が残っており、どうやら、そのせいで、体が動かないようだ。

 

「かなりの賭けでしたよ。でも詠春さんの技の威力がでかすぎて、俺もまったく動けないんですけどね。」

 

そう言うのは武。体のあちこちから黒い煙が漂っていて、少し焦げたにおいがする。

ただ、どこも斬られていない所をみると、直撃は避けられたようだったが、しかし詠春の繰り出した攻撃のすさまじさによって、ダメージをかなり受けてしまい、こちらも動くことはできないみたいだった。

 

あの時何があったのか?

 

説明するとこう言う事だ。

あの瞬間、武は詠春から放たれた刀の側面に、動かないはずの右拳を撃ちつけ斬撃を逸らし、そのまま懐にもぐりこみ、必殺の左腕を解放。急所に向かって、超高速の二連撃を食らわせたのだ。

しかし、逸らしたと言っても、ただでさえ、斬られてまともに動かす事が出来ない右腕でやったのだ。逸らす事に成功したのは、ほんの少しだけ。詠春が放った“神鳴”は、気を電撃に変化させ、しかも突きの攻撃なのにも関わらず、攻撃範囲が通常の突きよりもかなり増えていた為、刀に纏わせていた電撃の攻撃は、まともに食らっていたのである。

 

以上が、あの時あった事のすべてだが、正直一歩間違えば武は詠春によって、体を貫かれてしまったのは、間違いなく。まさに運が良かったとしか思えない攻防であった。

 

「この勝負私の負けかな?」

 

さっきの事を思い出し、詠春がそう口にするが、武はそれを否定する。

 

「いえ、引き分けでしょう。俺も動けませんから」

 

「そうか。にしも私は剣をそれなりに極めたつもりだったんだが、まだまだだなぁ…。ありがとう。己の未熟さを思い知ったよ」

 

「まさか、お礼を言われるとは思わなかったです。」

 

「ハハハッ。そうだ!またしばらくたったら仕合いしてくれるかな?」

 

「えーと……出来れば拒否したいかな~って」

 

「それは出来ない相談だね。私を武術で引き分ける相手なんてまずいないからね。互いによきライバルでいようじゃないか。」

 

「いや、それは嬉しいんですけど基本的に戦うのは好きじゃないので…」

 

「それはうそじゃないかな。戦っている時はあんなに楽しそうだったじゃないか。大丈夫、無理にでも戦ってもらうからね」

 

「何が大丈夫か分かりません!!!だから俺は…」

 

「鍋料理を食べさせてあげるとしても?」

 

「………考えさせてください。」

 

「ふむ。日本料理でつればいいのか。良く分かったよ」

 

「……そんな簡単に篭絡できると思わないでくださいね。…でも鍋は食べさせてください。」

 

「わかったよ。でも今は…」

 

「そうですね。どうやってあっちに戻りましょうか?」

 

そう言って、考え込む二人であった。

 

剣と銃どちらが強いのか?

 

その答えはこの戦いで出ることは無かった。

 

もしかしたらその答えは、永久に出ないのかもしれない。

 

なぜなら互いに高めあって限界を無くしていくのだから。

 

武がこの世界に来て約4ヶ月。

 

ようやく英雄の力に追いついた瞬間であった。

 

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