アルカナ~切り札の騎士~
第一話「入学」
異世界トリップという単語は、近年ネット上では割とおなじみになってきている。要は俺TUEEEEEE!! という類の奴だ。とはいえ、それはあくまで架空の物語だからこそ成り立つのであって、まさかそれが自分に振りかかるなんてのは夢にも……いや、夢として見ることはあってもそれはただの自分のイタイ妄想であると理解した上での夢だろう。ともかく、少なくとも俺は夢にも思っていなかったのである。
「で、遊戯王GXの世界にご招待、か」
とりあえず、自分の状況を確認。これから俺はあのデュエルアカデミアへの入学を控えた受験番号は112。十代の受験番号が確か110だった筈だから、それよりも二つ後。とはいえ、十代は確か遅刻してくるはずだから、特にこの順位に意味はなさそうだな。
「まあなんにせよ、まずは入学試験のデュエルに勝たなきゃ話にならないな」
とゆーわけでデッキを確認。俺が現実で使っていたのは終焉のカウントダウンを使った特殊勝利系や、デッキ破壊だのフルバーンだのといった鬼畜デッキばっかり組んでたんだよな。もしそんなんだったら孤立間違いなしじゃん。
「お……」
デッキを確認してみると、意外や意外。俺が作った数少ないビートデッキの一つじゃないか。しかも、この世界なら結構いい感じで目立てそうなタイプだ。俺も気に入っている奴だし、悪くない。
「それでは次、受験番号101番から110番」
む、丁度十代の番号だな。
「110番はいないのか?」
やはり、原作通り十代は遅刻してくるらしい。
「ふむ。なら仕方ない。順番繰り上げで111番、壇上へ」
「は、はい!」
ザワ……ッ
「ん、なんだ?」
唐突に、会場の雰囲気が変わった。熱に浮かされるような、強い好奇の視線。それは、今試験官に呼ばれ、壇上に上がった受験生に向けられているようだった。何の気なしに、そちらを見やる。
「っ……!」
思わず衝撃を受けた。ドクン……、と心臓が破裂したかのようにも感じる強い鼓動。
「受験番号111、天音アテナです。よろしくお願いします!」
現れただけで、場の雰囲気を掌握するような、圧倒的な存在感。ただ一言で美少女、と評するに余る、激烈なまでのオーラ。
待て……こんな娘、原作にいたか? いや、間違いなくいなかった筈だ。いたら、どう足掻いても目立つ。今のように。だとすれば……。
「俺と同じ、イレギュラーってことか?」
判断するには早いだろうが、あの存在感は確信を持つに余りある。
「うむ! 全力でかかってきなさい!」
「「デュエル!」」
試験官LP4000
アテナLP4000
俺(と、観客)が固まっている間に、アテナと名乗った少女と試験官のデュエルが始まっていた。
「行くぞ、先生のターン!」
……もしかして、先攻後攻って速い者勝ちか?
「先生は手札から『不意打ち又佐』を攻撃表示で召喚だ! そして装備カード『デーモンの斧』を装備する!」
『不意打ち又佐』ATK1300→2300
うわガチだ。又佐は二回攻撃でコントロールを奪えない1300の優秀モンスター。その低い攻撃力をデーモンの斧なら十分補える。つか、攻撃力2300を超えるモンスターはGXの環境じゃおいそれと出せるもんじゃないしな。さて、どうするイレギュラー?
「ターンエンドだ」
「私のターン。ドローします! 手札から魔法カード『トレード・イン』を発動します。手札のレベル8モンスター『
轟龍……天使族デッキか。いや、見た感じの雰囲気といい名前といい、まさにといったところか。
「さらに、手札から『ヘカテリス』の効果を使います」
お。
「『ヘカテリス』の効果で、デッキから『神の居城―ヴァルハラ』を手札に加え、そのまま発動します!」
ソリッドビジョンにより、フィールドに巨大な門が現れる。
「ヴァルハラ効果発動! 手札から、『アテナ』を攻撃表示で特殊召喚します」
『アテナ』ATK2600
フィールド上に、神々しい光を纏った戦女神が降臨する。攻撃力は2600。十分『不意打ち又佐』を倒せる! というか……。
「おぉ……」
「さらに、私は手札から『ジェルエンデュオ』を攻撃表示で召喚します!」
『ジェルエンデュオ』ATK1700
『ジェルエンデュオ』は、自壊効果と戦闘破壊耐性を持つ天使族専用のダブルコストモンスター。だが、今大事なのは攻撃力やその効果ではなく……。
「ぬぅ!」
「『アテナ』の特殊効果起動! 天使族モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚されるたびに、相手ライフに600ポイントのダメージを与えます!」
あのカードが、
「ぐぁ!?」
教師LP4000→3400
あーそういや、ライフって4000なんだよな。少ないなぁ。
「『アテナ』の効果起動!『ジェルエンデュオ』をリリースして墓地から『光神機―轟龍』を特殊召喚!『アテナ』の効果で600ポイントダメージ!」
教師LP3400→2800
『光神機―轟龍』ATK2900
出た!『アテナ』の連続バーン! こりゃライフ4000じゃ溜まったもんじゃないよな。その上『トレード・イン』で捨てた轟龍まで復活。これは決まったな。
「バトルフェイズ!『光神機―轟龍』で『不意打ち又佐』を攻撃!『ライトニング・バースト』!」
「おぉぉ!?」
教師LP2800→2200
「トドメです!『アテナ』でプレイヤーにダイレクトアタック!『ジャッジメント・レイ』!」
「うわあああああああ!?」
教師LP2200→0
……ますます確定。これだけ派手なワンキルをして、原作にもいたモブキャラだ、なんて到底思えない。とはいえ、俺と同じトリッパーにしては、現実離れした美少女だし、その正体はわからないままだな。
「よ、よし。もういいぞ。良いデュエルだった」
繊細で清純そうな見た目と裏腹に、凄まじいパワーとスピードを兼ねたビートバーンデッキであったためか、観客も含め試験官も若干戸惑い気味だな。
「は、はい。ありがとう、ございました……」
少女もなにやらビクついてるな。まあともかく、随分と目立ってくれちゃって。これじゃ俺が目立てやしない。
その後は特に波乱もなく、粛々と受験デュエルが行われていく。
「次に、受験番号112番から121番」
そして、他に行われていたデュエルも全て終了し、俺の番になる。
「次の私の相手は君か」
「イエス、ティーチャー。112番御堂切、よろしくお願いしまっす!」
気楽に答えて舞台に上がる。さっきの少女の相手だった試験官と同じ人みたいだな。こちらを見る観客の中に、先程の少女を見つける。あれだけの観客の中でも埋もれないどころか、若干浮いて見えるくらいの存在感だ。
「今年の新入生は粒ぞろいのようだな! 君にも期待しているよ」
「ども。期待を裏切らないよう精いっぱいやらせていただきますってね」
「「デュエル!」」
試験官LP4000
セツLP4000
ひゅ~わくわくしてきた。さーて手札は……。
「先生の先攻だ! ドロー!」
うお。またしても言ったもん勝ちの先攻。まあいいや。手札は揃いまくってるし。ぶっちゃけワンキルオーケーです。
「試験とは言え、最初から全開だ! 行くぞ!『重装武者―ベン・ケイ』を攻撃表示で召喚だ!」
『重装武者―ベン・ケイ』ATK500
おっと。今度はベン・ケイか。又佐といいベン・ケイといい、この人のデッキは典型的な装備ビートだな。
「ベン・ケイに『デーモンの斧』と『ビッグバン・シュート』、それに『魔導師の力』を装備! ターンエンドだ!」
『重装武者―ベン・ケイ』ATK500→1500→3000
おおう。これで3000の貫通能力持ち四回攻撃モンスターですかい。こりゃ圧巻。
観客席もザワついている。まあ一ターン目からあんなの出てきたら驚くわな。
「さあ! どうする?」
「すいませんセンセイ。ワンキル、行かせていただきますよ」
「なっ……」
観客席のザワめきが大きくなった。そりゃまああんなフィールドの相手にワンキル宣言とかどんだけ~? って気持ちもわかるけどな。
「俺のターン、ドロー! 手札から『融合賢者』を使わせてもらいます」
『融合賢者』で『融合』をサーチ。
「んでもって『融合』発動! 手札の『クィーンズ・ナイト』『キングス・ナイト』『ジャックス・ナイト』の三体を融合! さあて、いきなりだけどお出ましだ! 出てこい『アルカナ ナイトジョーカー』!」
『アルカナ ナイトジョーカー』ATK3800
そう、俺のデッキはいわゆる『絵札の三銃士』だ。『アルカナ ナイトジョーカー』があまりにもかっこよかったもんでデッキを組んでみたら案外強かった。以来お気に入りのデッキだ。
「攻撃力……3800!?」
「一ターン目からこんな……!」
おおー、目立ってる目立ってる。やりぃ。
「いっきまーす!『アルカナ ナイトジョーカー』で、ベン・ケイを攻撃!『ロイヤル・ストレート・スラッシュ』!」
名前は即興。まあなんでもいいし。
教師LP4000→3200
「ぐぅ! だが、それではワンターンキルはできないぞ!」
「けど、フィールドガラ空きですよね?」
「なに?」
「速攻魔法『融合解除』! 戻ってこい、三銃士!」
『クィーンズ・ナイト』ATK1500
『キングス・ナイト』ATK1600
『ジャックス・ナイト』ATK1900
アニメで遊戯さんが使ってたやつ、俺もぜひ一度やってみたかったんだよね~。
「そして『融合解除』で特殊召喚された絵札の三銃士には、まだバトルフェイズが残っている!」
キタ! キタコレ!
「絵札の三銃士でダイレクトアタック!『三位一体』!」
「ぐああああああああああ!?」
教師LP3200→1700→100→0
「っしゃ! 宣言通りワンキル達成! ありがとうございました~♪」
なにやらザワめくを通り越して沈黙してしまった観客席を尻目に、俺は意気揚々と壇上を後にする。そのまま観戦し、原作通り遅刻してきた十代が、クロノス先生相手に逆転勝利を決めるのを見学してから動きだす。
「おーい!」
むっ、あそこで手を振っているのは十代! それに翔と三沢じゃないか。
「なんだ、どした?」
無視すんのも感じ悪いので、とりあえず近寄ってみる。
「みんなから聞いたんだ。お前、すっげーワンターンキル決めたんだって?」
「ありゃ初手からあきれるくらいに手札が揃ってたからだっての。普通、あんなに上手行くもんかい」
事実だ。正直史上稀にみる揃い方だったと思う。俺の言葉に、三沢が苦笑しながらも称賛した。
「まあ、たとえそうだとしても華麗なワンターンキルだったと思うぞ。確かに、揃いすぎだった気もするが」
「ところで、えーと」
知ってるが、一応初対面設定なので名前を知らないふりをする。
「オレ、遊城十代! 十代でいいぜ!」
「僕は丸藤翔ッス。翔でいいッスよ!」
「俺は三沢。三沢大地だ」
「オッケ、把握。俺は御堂切。切でいいや」
「おう! セツだな。よろしく!」
「み、御堂さん!」
「お?」
自己紹介が終わったところで、イレギュラーの少女が声を掛けてきた。これから探しに行こうかどうしようか迷っていたのだが、まさか向こうから声をかけてくるとは思わなかった。
「その、ちょっとお話があるんですけど、お話し中ですか?」
恐る恐る、といった感じで声をかけてくる天音アテナ。少し低めの身長と相まって小動物チックにも見える。
「んにゃ、ちょっと話してただけだし、用があるなら聞くよ。悪い三人とも。またあとで」
「なんだ? いきなりラブコメか?」
「そんなんじゃねっての」
意地の悪そうな笑顔で聞いてくるのを一蹴し、少女の下へ。
「あいよお待たせ」
「すみません。お話し中だったのに」
「いいっての。で? 話ってのは?」
単刀直入に聞くと、少女は言おうかどうしようか迷っている様子でもじもじしていた。
「えと、笑わないで聞いて欲しいんですけど……」
「ういうい了解」
「その、わ、私と……」
うん?
「私とお付き合いしてください!」
……あるぇ~?
基本的な流れは改稿前と変わりませんが、デュエルの内容や会話、口調等に多少手を加えております。
それでは、レーネスでした!