アルカナ~切り札の騎士~
第十話「タッグデュエル 災悪の少女」
あの俺が原作に介入した廃寮の一件の翌日、寮で爆睡していたところを倫理委員会の人に叩き起こされ、廃寮への不法侵入を咎められた。そして原作通り十代と翔の制裁タッグデュエルが決定し、今回は俺とアテナにも同じくタッグデュエルが命じられた。
「誰が先導したのかはもうバレバレなノ~ネ」
とのことで。まあ確かに一番ノリノリで突入したのは俺だが。
「シニョ~ルには相手の方から逆指名が来ているノ~ネ。スンバラシ~イほどに強いデュエリストでア~ルから、せいぜい覚悟しておくノ~ネ」
……逆指名?
俺には特に心当たりがなかったのでアテナの方を見ても、やはり何も知りません、といった顔をするのみである。
首をかしげながら、とりあえずは寝なおすためにアテナと別れ、レッド寮に戻ったのだった。
……その俺がぐっすりと眠っている間に、翔の脱走事件が起こることはすっかり忘れていたわけだがな。
俺の寝ている間にすべて丸く収まったらしく、翔は帰ってきて十代はカイザー亮さんとのデュエルがどれだけ熱かったかを語ってくれた。……ぬう。俺も見たかったかもしれん。
その後の隼人父乱入事件も無事原作通りに進み、とうとう十代と翔、俺とアテナの制裁タッグデュエルの日が明日に迫っていた。
「セツ、私のデッキはこんな感じで問題ないでしょうか?」
「んー、そうだな。タッグ、ってことならそんなもんか」
俺とアテナは明日のタッグデュエルに向けて互いのデッキをいじりまわしていた。ちなみに、場所は思い切りアテナの部屋。例によってナチュラルに通された。流石俺。
「タッグだと、セツのモンスターがいたらヴァルハラは使えないんでしたっけ?」
「いや、たしか結構変則的で、互いのモンスターは別個のフィールド扱い。例えば、アテナのフィールドにモンスターがいても、俺のフィールドにモンスターがいなければ俺はダイレクトアタックを受ける、みたいな」
現実だとそんなルールではないが、なんでかこのアカデミアだとそんなタッグルールだった。まあヴァルハラが使えないとアテナのデッキは速攻性が落ちるからな。
「で、ライフは共有で8000ですか」
「『アテナ』のバーンでも簡単には倒しきれないな」
「……できれば、私もあんまりバーンで勝利は好きじゃないんですけどね」
「そうか? あれだって戦術の一つだ。そう気にすることじゃないよ」
むしろ俺は現実じゃそういったデッキばっかりだったんだ。そういう意味じゃ、アテナのことを悪く言えるはずもない。
「……ありがとうございます。やっぱり、セツは優しいです」
「優しいとか、そういうんじゃねえよ」
アテナは無邪気だ。まったく、調子が狂う。まあ、今まで傍にいた年頃の異性が
「おっとそうだ、ここにこいつを入れてみるといいかもしれん。で、こっちを抜く」
「え、でも……」
「いいか。こいつは……」
「ふわ……な、なるほど。すごいかもしれません!」
経過は順調。アテナとのタッグデュエルは初めてだが、俺もアテナも使うモンスターは光属性と少数の地属性で共通してる。どちらかと言えば種族統一ならテテュスやアテナが最大限に生きるんだが……。
「まあ、ないものねだりしても仕方なし。それに俺の相棒はお前らだもんな」
『無論ですわ。そう簡単に見限らぬよう』
「お、珍しく機嫌悪くないな。アテナもいるのに」
『……妙に引っかかる言い分ですが。ともかく、わたくしは騎士です。騎士として、共闘は望むところ。個人的な好悪なぞ、連携時の妨げにしかなりません』
つまり嫌いは嫌いだが、共闘するとなれば話は別、ということか。
『こうは言っておるが、最初は暴風雨のごとく荒れておったぞぃ。ジャックが苦心の末に説得したのじゃ』
「さすがジャック。……で、そのジャックは?」
『体調不良で寝込んでおるわ……主に胃』
「ジャーック!?」
精霊でも体調不良になるんだ!? しかも胃。
「っく! お前の犠牲は無駄にはしない! クィーンを決死の想いで宥めてくれたお前の偉業、この俺が必ず役立てて見せる!」
『……随分な言われようですわね。まるでわたくしが聞き分けのない頑固者ではありませんか』
『まーさしくそうじゃろがぃ』
「ん。じゃあそろそろ戻るわ。また明日な」
「はい。おやすみなさいセツ」
そうして、その日は女子寮を後にした。
「……っは!? よ、よく考えたらまたセツが女子寮にいました!」
パジャマ着用さあ寝るぞ、と布団に入ったところで、アテナはようやく気付いたそうな。
翌朝、俺たちはタッグデュエルの行われるデュエル会場へと赴いていた。
「ではこれより、タッグデュエルを始めるノ~ネ!」
クロノス先生の言葉で、俺たちの制裁を賭けたタッグデュエルが始まった。
原作通り、十代たちの相手は迷宮兄妹。俺たちは……。
「それでは、入ってくるノ~ネ」
クロノス先生の視線の先には一人の女性。その姿は……。
『あ、あいつは……』
シャルナが戦慄している。それもそうだろう。なぜならそこにいたのは紛れもなく……。
『ルイン……!』
『破滅の女神ルイン』疑いようもなくそいつは『終焉の王デミス』と対をなす、レベル8の儀式モンスター。その精霊。
「おい……あれってルインじゃないか?」
「ああ……そう見えるけど」
周囲も戸惑っている。その様子をぐるりと一瞥したルインは、
「コスプレ」
などとのたまった。
「なるほど、コスプレか」
「見れば見るほどそっくりだ」
「いい出来をしている」
うおいっ!? お前ら簡単に納得しすぎだろ!? もうちょっと疑えよ! 大体……。
「あの……クロノス先生、もう一人は……」
俺がそう問いかけた時、首筋にゾクリとした感覚が。
「ひっ!」
「さだめなら、ここだよ。おに~ちゃん♪」
いつの間に背後まで近付いてきたのか、一人の少女が俺に後ろから抱きつき、首筋を舐め上げた。そのままその手がおれの懐に……って!
「
全力でそいつを振り払い、跳び退る。
「あん。どうして逃げちゃうの? おに~ちゃん」
そこで妖艶に唇を舐めるその女は、紛れもなく俺の妹の御堂運命。その俺を見る恍惚とした表情は、どうしたって見間違えようがない。
「ん……あぁ、はふ。久しぶりのお兄ちゃん分補給。……ちょっとさだめは控室に戻るね? だいじょうぶ。この感じなら五分で済むよ」
「何がだ!?」
「ナニが。お兄ちゃんも来る? 大歓迎!」
「少し黙れ変態」
「聞いたのはお兄ちゃんなのに」
「もっと常識的な答えを期待したんだ」
「これ以上ない程に常識的だったよ?」
「お前の常識は世間一般の非常識だ」
不本意ながら、この類の会話が懐かしい。
「あぁ……この容赦ないツッコミ、イイわぁ……」
「ゾクゾクするな。ましてビクビクするな」
「ごめん。ちょっと下が大変なことになったから戻って着替えてくるね」
「少しは恥じらえ性的倒錯者」
「お兄ちゃんからの罵倒は麻薬のよう。なんだかまたきそう」
「もういいから控室に戻って賢者モードになって来い。じゃなきゃロクに話せもしない」
「うん……想像以上に昂っちゃったから、十分は頂戴ね?」
「できればそのまま帰ってくれれば尚良し」
「それはだ~め」
やりたい放題やって、さだめは控室に一時退室して行った。
『…………』
む、無言だ。近くにいたアテナは元より、クロノス先生たちすらも無言。い、いたたまれない。
「あ、あの……セツ?」
結局、一番早く復活したのはアテナだった。一番近かった分、衝撃もでかかっただろうに、大分早い復活だ。
「い、今のは……」
「……不肖の……本当に不肖ながら、俺の妹だ。あんま認めたくないがな」
探そう、と思ってた矢先にこれだ。全く、相変わらず予想を裏切る奴だ。
「さだめも認めたくない。残酷だよね? さだめたちが決して結ばれないなんて。おんなじ気持ちでいたなんて、さだめ感激!」
「うおあっ!?」
気付けばまたもさだめが俺に背後から抱きついていた。
「控室に戻るんじゃなかったのか!?」
「さだめもびっくり。まさか五分で八回なんて……流石に、お兄ちゃん断ちが数カ月も続いただけはあったよ」
早い! ではなく!
「何度も言うが唐突に後ろから抱き締めるな気配を消すな息を荒げるな!」
「ああ……だめ。お兄ちゃん断ちが長すぎて、賢者モードが長続きしないよぅ……」
「俺の股間に手を伸ばすなぁぁぁぁぁぁっ!!」
渾身の力で振り払う。が、一体どんな吸着力かさだめは俺に絡みついたまま離れない。
「こうして後ろから組みついていると……お兄ちゃんを犯してるみたいで……あぁ、ェェェエクスタシィィィィー!!」
「離れろ常時モラルハザード女!」
「ふぅ~」
「ひあぁっ! 息を吹きかけるな!」
「お兄ちゃんの弱点は開発済み。後は乳首で腰砕け」
「ぎゃあああああああ!?」
「せ、セツから離れてください!」
「あ?」
ガラ悪ぃ! それまでのみっともなく垂れ下がった眼は瞬時にギリギリと吊り上がり、邪気すらも伴ってアテナを直撃した。
「ひぅっ!?」
一瞬でアテナが涙目に。……腰を抜かさないだけ根性あるよ。こいつは睨みだけで本職のヤーさんの頭失禁させた女だからな。
「お兄ちゃんとの前戯を邪魔するとか……何なの? 死ぬの?」
前戯言うなリアルシスター。
『な、何こいつ……禍々しさが尋常じゃないんだけど……』
シャルナまで引いてるし。
「相変わらずプレッシャーは地獄の閻魔以上だな」
「あぁんそんなこと言わないで。お兄ちゃんの前では常に天使でいたいのに」
「俺の前だと淫魔だよ!」
「そんな……それほどにお兄ちゃんがさだめに欲情してたなんて……このさだめ、一生の不覚! こんなことならもっと早くヤッとけば……」
「都合のいい解釈をするな! そして指をわきわきさせるな首筋に添えるな懐に手を突っ込むなぁぁぁ!!」
「カリッ」
「痛っ!?」
首筋にかみつかれ、血が流れる。それを運命は一心不乱に吸い続ける。
「あぁぁ……甘露」
「吸血鬼か!?」
「お兄ちゃん限定で」
「ぎゃあああああああっ!?」
こ、これだから! これだから会いたくなかったのに! こっちの世界に来てまでなんでこいつに苦しめられなきゃ……ちょっと待て。
「……さだめ、ちょっと離れろ」
「ヤ」
一文字で拒絶された。
「……特別にそのままでいい。質問に答えろ」
「今日は安全日」
「黙れ腐れシスター。そうじゃない。お前は……お前か? この世界の」
「んふふ~。今晩約束してくれたら答えてあげるぅ~」
「……その言葉で確信した。お前、元の世界の運命だな」
「当り前でしょ。別世界のお兄ちゃんなら別人も同じ。体は疼かないし欲情もしない。こんなに体が熱くなるのはさだめのお兄ちゃんただ一人」
理由は全くあれだが……こいつは、こいつも異世界トリップしてきた俺の妹なのか。なるほど甚だ不合理だが、こいつなら別世界の俺かどうか一目で判断付けても違和感がない。
「アニメの世界に現実からトリップしてきた兄妹二人。張りぼての世界で唯一人間の肉親との情事に溺れる……すてき」
「……ツッコミどころが多々あるどころかツッコミどころだけで構成されたセリフだが……これだけは許せん。ここにいる人たちは張りぼてなんかじゃない。皆生きてる人間だ」
俺の声に怒りが篭る。それを感じたのか、さだめもまた平坦な声と表情になってぼそぼそと俺の耳元で呟く。
「興味ない。元々さだめにとって兄さん以外はカメムシ以下の存在意義しかもたないから。いるだけで世界が臭くなる。兄さんとさだめの楽園(エデン)に湧いてる汚らしい蛆よ。踏みつぶしても踏みつぶしても湧いてくる。そこの女みたいに楽園の主(にいさん)に擦り寄ってくるのはもっと最悪。踏みつぶして焼きつくして滅ぼしつくす。それでもまだ湧いてくる。どうして蛆って絶滅しないの? 世界には、さだめと兄さんだけでいいのに」
さだめは、やっぱり全然変わっていなかった。気分がハイなら所構わず俺に欲情し、ローなら全てを呪い蔑み罵倒する。ニュートラルじゃないだけまだマシか。
「聞いてるよ? あの蛆、兄さんに告白したんだって? 蛆の分際でよくもまあ。ちょっと目を離したらこれだもの。まるで兄さんって誘蛾灯ね。それも周りからは清楚で可憐とか言われてるのばっかり引き寄せる。最悪」
俺はその言葉を聞いてピンと来た。俺は現実で一度も告白されたことがない。モテないからだとずっと思っていたが、今のこいつの言葉から察するに……。
「お前、まさか……」
「でもその分楽ではあったな。そんな箱入りお嬢様みたいなの、ちょっと脅かしてやればすぐ折れちゃうし。ああ別にヘンな男に売りとばしたりはしてないよ。面倒だったし、適当に心折ってやれば勝手に潰れる雑魚ばっかだもん。その後どうなったのかは知ったこっちゃないけど」
こいつが俺に近づく前に潰してたのか。こいつのことだ。きっと自分の正体を悟らせるなんてことしていない。だがもちろん、そういう問題じゃない。
「おまえ、どこまで……」
「言ったでしょ? 兄さん以外は蛆同然。兄さん、蛆を見たら気持ち悪いって思うでしょ? 蚊やゴキブリを見たら潰すでしょ? 同じだよ」
「どこが……!」
「さだめにとっては同じも同じ。見るのも聞くのもおぞましい害悪そのもの。見てたって生理的嫌悪しか及ぼさない不浄な害虫」
こいつが今も放つ
「どうして……お前は……」
そこまで歪んでいるのか。
「どうして? 知らないよそんなの。さだめは最初からこうだった。兄さんも覚えているでしょ? さだめはまだ言葉もほとんど話せなかった二歳の頃に、兄さんを殺そうとしたのよ」
……そうだ。覚えている。忘れようにも忘れられない。あれは俺の
「物心つく前だったけど、あれだけははっきり覚えてる。この人が愛しい。この人が欲しい。この人が憎い。この人をコワシたい。そんな衝動。心が震えて、自分がナニカから解放されて昇華するような快楽。おもちゃのブロックで兄さんの頭を何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて!! まだ二歳だったから、力もなくて兄さんが気絶するまでとっても時間がかかった。その間の泣き叫ぶ兄さんの声が今でも脳裏に蘇る! 血に染まっていく幼い兄さんの顔が、今思えばどんな宝石よりも輝いてた!……物心ついてからようやく理解したの。これが私の恋なんだって。愛だって。兄さんだけが特別で兄さんだけが普通なの。両親だってさだめには異形の怪物にしか思えない」
まずい……一人称が『私』になった。ニュートラルだ。ハイでもローでもない。愛欲に狂っても破滅に囚われてもいない。でもその両方に囚われ狂った最悪のモード!
「ねぇ兄さぁん……私、また我慢できなくなりそうなのぉ……腕、腕一本でいいから……私にちょうだい……」
「ざけんな。だれが進んで腕折られるかよ」
ガリィッ!!
「がっ!?」
「は、ぁぁ……兄さんの血。私が……兄さんをキレイにデコレーションして上げるから……」
っ! もうやばい。限界ラインを突破した! 俺は無駄と思いつつも腕を振り回して振り払おうとする。
「動くな!!」
「ぐあっ!」
それまでしがみついていたさだめの四肢がまるで万力のように俺を締め付けてくる。
「さ、だめ……やめろ……」
どんな力が加わっているのか、抵抗できず、悲鳴を上げる体に苦悶の表情を浮かべる俺を見て恍惚と上気した頬を見せるさだめ。ゆっくりと俺の体の拘束を緩めていく。
「くふふふっ! あっははははははははっ! うん。物足りないけど許してあげるね。これからデュエルだもんね。さだめは負けないよ! おにーちゃん!」
さだめは纏っていた
俺は深く深く息を吐き、全身から脂汗を流してへたり込んだ。ハンカチで汗をふき、首筋に流れている血を拭き取る。
「セ……ツ。こ、これ、ば、ばんそう……」
目に涙をためてガクガクと震えながらも必死で俺に絆創膏を手渡してくれるアテナ。……正直、あれでまともに動けるとは思わなかったが助かった。
「……よく動けたな。大分根性いるぞ」
「……ぁぅ」
とはいえ、顔色は蒼白で今にも吐きそうなくらいだ。……一番近くであのオーラを受けていたのに。観客席の奴らですら吐いたり気絶したりしている中、アテナは危ういとはいえ意識を保っている。
会場の空気はいまだかつてないほどのローテンション。それでもそんな中、早々に気絶したクロノス先生の代わりに鮫島校長先生が十代と翔VS迷宮兄弟のデュエル開始を宣言したのだった。
こんにちは。
うん。一応以前よりはマイルドにしました。気持ち、ですが。少なくともこどもの日に投稿する内容じゃないよなぁ……我ながら。
それでは、悠でした!