アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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第四期第二十九話「記憶を取り戻せ! 目指すは敗北!?」

アルカナ~切り札の騎士~

第四期第二十九話「記憶を取り戻せ! 目指すは敗北!?」

 

 

 

 

「……やはり、来たか」

 見渡す限りの闇、闇、闇……。終焉の影響か、一面を闇に包まれた空間に、セツは一人佇んでいた。

「お兄ちゃん……エンヴィーは?」

「ここにはいない」

 さだめの問いに、セツは端的にそう答える。

「友紀と連絡がつかなくなった時点で、この場所が突きとめられることはわかっていた。敵が来るとわかっている所に、態々庇護対象を放置するような間抜けはしない」

 それも当然だろう。普通でもそうするだろうし、用心深いセツのこと、尚更用心して隠している筈だ。

「お前たちに負ける気は微塵もないが、一度に相手できる人数は限られている。何処の誰とは言わんが、俺と誰かを戦わせている間に、エンヴィーを狙う……等と言う狡い戦略を立ててくるとも限らんからな」

「……あの、さだめを見ながら言わないでくれる? さだめ、そこまで小悪党じゃないよ?」

「よく言いますね。実際それを提案してた癖に」

「ぐむっ……」

 友紀の“勝たない”という言葉から真っ先にさだめが連想したのがそれだった。別にセツに勝たなくても元凶であるエンヴィーを倒してしまえば解決じゃないか? と。

「しかし……お前がそちら側に着くとはな……友紀」

「セツくん……」

 言葉を向けられた友紀は、僅かに顔を俯かせ、しかしすぐに顔を上げた。

「……ゴメンね。セツくん。でも、わたし「言い訳は良い」っ……!」

 友紀の言葉は、セツに届く前に封殺される。

「……残念だよ。俺が何者か教え、導いてくれた君が、まさか俺の敵に回るとは」

 一瞬だけ悲しげに顔を歪め、すぐに目つきを鋭いものに戻す。

「わたしは……!」

「黙れ! 最早、誰であろうと関係ない! 俺がエンヴィーを守る障害になるのなら……俺はっ!……全て、排除するだけだ」

 元々は一般人だったとは思えないほどに濃密な殺気が周囲を満たす。思わず、全員の頬を冷汗が流れ落ちる。

「コイツ……オレたちと戦った時より更に冷酷さを増してないか?」

「……多分、余裕がないんだよ。水原さんが最後に見せた抵抗とか……自惚れかもしれないけど、わたしがこっちについたことで」

 自分が本当に正しいのか。いや、正しくないことくらい、セツはわかっているだろう。それでも、考えてしまうのだろう。困難にぶつかっても尚、乗り越えて見せる凛たちの姿に。自分から離れ、彼らについた友紀に。セツの心は揺れていた。

「もうやめてくださいセツ! 私たちを排除して、エンヴィーの敵を排除し続けて……その先に何が待っているのか、セツはわかっている筈でしょう!?」

 それなら、とアテナが大きく声を張り上げて、説得を試みる。しかし、そんなアテナの悲痛な叫びも、セツには届かない。

「わかっている。ああ、わかっているとも。俺がエンヴィーを守り続けて、そして辿りつく未来。それは……全ての、終わりだ」

 終焉。セツにはわかっていた。否、誰にでもわかることだ。終焉たるエンヴィーを庇い続ければ、いつか全てが終焉の闇に沈む。わかっている筈だった。

「じゃあどうして!? 全てを終わらせて……終焉に導いて、それでどうなるんですか!?」

「始まりだ」

「え……?」

 アテナの問いに、セツは静かにそう答えた。

「始まりに終わりがあるように、終わりの後には必ず始まりが待っている。終焉が、逃れ得ぬものならば、俺はその先の始まりをこそ渇望する! 例え世界と共に滅びても、新たに始まる世界で、俺は必ずエンヴィーを探し出す。そして……今度こそ守るんだ。本当の意味で、共に歩む未来を」

 絶望の先に、セツは希望を見据えている。いや、未来に絶望しかないからこそ、その更に先に希望を繋ぐしか、彼には残されていないのだろう。

「それは……ただの自暴自棄」

 ルインが冷静に指摘するが、セツは聞く耳を持たない。

「理想と現実。俺はそのどちらも等しく見据えているだけだ。俺は、俺の理想(みらい)のために、現実(いま)を切り捨てた……それだけだ」

「……らしく、ない」

 これ以上答えることはない、とばかりに目線を切るセツに対し、小さく呻くように、さだめが呟いた。

「なに?」

「そんなの、お兄ちゃんらしくない!」

 過去のセツを、誰よりも深く知っているが故に。今のセツは、さだめには許せない。

「お兄ちゃんは、確かに何時も理想(みらい)を追ってた。でも、それは現実(いま)を諦めて追うものじゃなかった! お兄ちゃんなら、現実(いま)を変えることで、理想(みらい)を掴む。現実(いま)を捨てて理想(みらい)を掴む? そんな、妄想でしかないことを叫ぶお兄ちゃんは……らしくないよ」

「黙れっ!」

 ドスッ! と音を立ててセツの持つ騎士剣が床にめり込む。

「今更、そんな言葉で何が変わる!? 相容れぬ俺たちがわかりあうことなんて出来やしない! それでももし、わかりあうことがあるとすれば……」

 ジャキン、と剣が変形し、デュエルディスクとなってセツの腕に装着される。

「コイツで語れ。決闘者(デュエリスト)」

 言葉は届かない。最初からわかっていたこととはいえ、一同は落胆を隠せない。しかし、そんなことで落ち込んでいる暇はなかった。

「さあ! 誰が戦う!? お前たちの意志・覚悟・決意・理想……その全てを砕いて見せよう!」

 セツの求めに、一歩進み出る者がいた。

「……私が」

 アテナだった。

「私が、貴方の相手です。セツ」

 話し合って決まったことだった。セツの相手はアテナがやる。そして、それは……。

「……やはりな」

 セツの、予想通り。

「……お前しかいないと思っていた。最早、残っているのはお前だけだ」

 エース、さだめ、剣士、凛とは既に戦い、ルインにはセツと戦える程の実力はなく、友紀はセツと戦うには心情的に厳しい。故に、アテナしかいなかった。そうでない可能性も考えられただろうが、それでも可能性としてはアテナが一番高かっただろう。

「ええ。そうですね。ですから……」

 アテナは決意を秘めた目で、セツを見つめる。

「私とのデュエルに、私たちの命を賭けます」

 それは、決着をつけようという宣言だった。このデュエルで負けたら、命を差し出す。その言葉を受け、セツは満足気に笑みを浮かべた。

「それはいい。いい加減、俺も一々削ることが億劫になってきたところだ。このデュエルで……全てが終わる」

 そんなセツの言葉に、しかしアテナは首を振る。

「終わりません。終わらせませんよ……絶対に」

 それが、アテナの……いや、全員共通の意志だ。

「私たちは殺されることも、セツを殺すことも絶対にしません。必ず、生きて……貴方を」

 取り戻す。最後まで語るまでもなく、アテナの目はそう言っていた。

「面白い。なら、見せて貰おうか。お前たちの……最期の悪足掻きを!」

「行きますっ!」

 アテナが構えると同時、周囲に闇の炎が巻き起こる。闇のデュエル、そのリングの中心で、アテナとセツ。二人の声が響き渡った。

「「デュエル!!」」

 アテナLP4000

 セツLP4000

 デュエルが開始されても、セツは動きを見せない。先攻は譲る、という意思表示なのだろう。

「私のターン、ドロー!」

 勢い良くデッキからカードをドローするアテナを見つつ、さだめたちは小声で話し合う。

「……始まったね」

「うん。もう後は、アテナちゃんに任せるだけだよ~」

「上手く行きゃいいけどな……」

 若干不安気に眉を顰める剣士に、凛がまあまあと宥める。

「アテナを信じましょう。剣士さんだって、信じてないわけじゃないんでしょ?」

「そりゃ、な。けど、事が事だけに慎重にならざるを得ないのも事実だろ」

 何しろ、全員の命が懸かっているのだ。安易に楽観視など、出来ようはずもない。

 そんな剣士たちの見ている前で、早速アテナは動きを見せた。

「私は……『サイクロイド』を守備表示で召喚します!」

 『サイクロイド』DEF1000

『いやっほぉぉおうぅっ! 行くぜ行くぜえぇぇえええっ!』

「な、ん……だと?」

 のっけからフルスロットルのハイテンションで召喚されたサイクロイドは、いつも通り変わらぬ様子でセツに語りかける。

『よう兄さん! 元気かい? おれっちは何時でもフルスロットルだぜ!』

「貴様……」

 しかし、セツはそんなサイクロイドには目も向けず、怒りに燃えた目をアテナに向ける。

「貴様、これは……これは、どういうつもりだ!?」

「どういうもなにも……」

 アテナは陽気にデュエルフィールドを走り回るサイクロイドを見やり、当然のように言う。

「命を懸けたデュエル、ですよ?」

「ふざけるなっ!」

 アテナの言葉に、間髪いれずに激昂するセツ。

「天使族、それも重量級効果モンスター主軸のビートバーンデッキを使っていたお前が、機械族通常モンスター、それも超軽量級の雑魚を呼び出してどうするつもりだと聞いている!?」

「そんなこと、言うと思いますか?」

「っ……く!」

 そう。言う筈がない。例え、アテナにどんな思惑があったとしても、対戦相手であるセツに、その思惑を話す筈もない。だが……。

「だが、これは……!」

 セツの顔が怒りに歪む。

「戯(ざ)れている……!」

 ギリリ、と憎らしげに歯軋りをする。

「こんな、こんな奴らに、俺は……! こんなふざけた奴らに、本気を出せと……? こんな、奴らに……っ!」

 そんなセツを見て、さだめたちは見えないように頷き合う。

「お兄ちゃん、怒ってるね」

「そりゃ、そうだろうな。文字通り、命を懸けた大一番で、単体じゃ役に立たない雑魚を突きつけられりゃ……」

「プライドに傷がつく、でしたっけ? ユーキさん」

「うん」

 今回のデュエルで何をするか、それをほぼ全て一人で立案した友紀が頷く。

「これが、第一段階だよ~」

 デュエルをする二人を真剣に見詰めつつ、友紀はそう言った。

 

 

 

 

 

「勝たない?」

 ユーキさんの言った思いがけない言葉に、さだめたちは一様に怪訝な顔をする。

「それって、どういうことですか?」

「う~んと……ねぇアテナちゃん。デュエルの決着がつくのって、どんなとき?」

「え?」

 突然ユーキさんはそんな極々初歩的なことを尋ねてきた。

「どうして、そんなことを?」

「いいから~。煮詰まった時は、一度基本に戻って考えてみるのも大事だよ~」

 確かに、それはわかる。どうやらユーキさんは、一言で正解を口に出す気はないらしく、とりあえずユーキさんの言ったことを考えてみる。

「えっと、片方若しくは互いのライフポイントがゼロになるか、デッキが尽きてドローが出来なくなるか……」

「後は『終焉のカウントダウン』みたいな、特殊勝利条件をどちらかが満たすことでも決着はつくよね?」

 さだめは自分も使ったことのあるカード名をだして追加する。

「他には?」

「え、えっと……デュエル続行不可能、とかですか?」

 ついさっきそうなりかけたからか、恐る恐ると言った感じで凛が聞く。ユーキさんはそれにも頷いて、けど首を振る。

「そうだね~。でも、それはかなり特殊だから、今は置いとこっか~。もっと基本的なことだよ~」

 基本的……? ライフゼロ、ドロー不可、特殊勝利……。

「あ」

 その時、ふとさだめの中に一本の線が繋がった。

「あ、あああ。ああああああああああああああっ!?」

「さ、さだめさん?」

「気付いた~?」

「も、もしかしてユーキさん、勝たないって……」

「うん。そういうことだよ~」

「ちょ、ちょっと待ってください。二人だけで納得されても……」

 アテナ抗議を無視して、さだめは一人思考の海へと沈んでいく。ユーキさんは代わりに、アテナに最初から解説をし始めた。

「アテナちゃん。まず前提として、わたしたちじゃセツくんに勝てない。勝てるとしても、限りなく確立が低い。いいよね?」

「はい」

 そこには文句なく、アテナは頷く。

「じゃあどうする? もう一度言うよ。“わたしたち”じゃ勝てないんだよ?」

「私たち……?」

「……つまり、今のアイツに勝てる奴は誰か、ってことか?」

 剣士さんの言葉に、ユーキさんは満足げに頷いた。

「そう。わたしたちじゃ勝てない。なら、誰なら今のセツくんに勝てる?」

「誰、って……」

 まだピンと来ないらしいアテナに、先に気付いたルインが助け船を出す。

「……貴女は、誰より大事な仲間を忘れている」

「誰より、大事な……ぁ」

 そこでようやく、アテナは気付いた。

「セツ……」

 お兄ちゃんに勝てるのは、お兄ちゃん。目には目を、歯には歯を。つまり……。

「さだめたちの目的は、お兄ちゃんを闇のデュエルで倒すことじゃない。あくまでも目的は、お兄ちゃんの記憶を取り戻してこちら側に戻って来て貰うこと」

「つまり、倒す必要なんてない……」

「デュエルをしながら、セツ様の記憶に語りかけ、記憶を戻すことが出来れば……」

「セツは、自らデュエルを終わらせてくれる……つまり」

 全員の視線を受け、ユーキさんはもう一つ大きく頷いた。

「そう。わたしたちが目指すべきは、セツくんの敗北(サレンダー)。そのために、皆のフェイバリットカードに想いを込めて、セツくんにぶつけるの」

 勝敗は度外視。フェイバリットに込められた絆で、お兄ちゃんの記憶に呼びかけて、記憶の扉を紐解くこと。

「それが、セツくん攻略の唯一の方法だよ」

 

 

 

 

 

 作戦は決まった。けれど、勿論そう簡単なことじゃない。いくら勝ちを度外視するといっても、記憶を取り戻す前に瞬殺されては意味がない。

「それで、私……ですか?」

 お兄ちゃんとデュエルする役に選ばれたのはアテナだった。

「うん。実際にデュエルしてみてわかったよ~。アテナちゃんには、持って生まれた天運みたいなものがある。それは、元精霊のデュエリストっていうのも関係があるかもしれないけど、兎に角カードの精霊との親和性が高くて、良いカードをドローしやすい」

「そ、そうでしょうか……?」

「さだめ的には、ご都合主義とかディスティニードローとか補正とか言うんだけど、まあ確かにそんな感じはあるね」

 さっきの目には目を、って話じゃないけど、色んな補正かかってるっぽいお兄ちゃんを相手取るには、こっちも多少の補正は考慮しておいた方が良さそう。そりゃ、さだめだって自分の手でお兄ちゃんを取り戻したいって思うけど……。失敗は出来ないんだから、ここは引いておく。

「それに、みんなのフェイバリットを集めてデッキを作ることには、もう一つ意味があるよ」

「もう一つの、意味?」

「うん。それは……」

 

 

 

 

 

「それは、お兄ちゃんを怒らせること」

「記憶を取り戻すって言っても、簡単じゃない。ただカードを突きつけるだけじゃ、今のセツくんは小揺るぎもしない。だけど……」

 怒らせて動揺させることで、心に隙が出来る。その隙は記憶を取り戻すために必要なだけじゃなく、上手くいけばプレイングミスも誘発させて、プライド自ら高みから転がり落ちてきてくれる。

「要するに、ハッタリかますってことだよね? 上回ることが出来そうにないから、向こうから落ちてきてくれるようにさ」

「そうだね~。まあ、いつものセツくんならそんなのすぐにお見通しだろうし、プライドのセツくんでも平常時なら効かないと思うよ? だけど……」

 今のプライドは、心に余裕がない。

「それなら、嵌めるのは簡単。プライドを刺激してあげればいい。これは、エースさんの方が良くわかると思うけど~」

「……ああ。我もそうだが、プライドとは高潔さであり潔癖さでもある。本気の相手を、更に上回る実力で叩き潰すこと。それが奴の望みだろうからな」

 そう言う人間は、己のプライドにプライドを持つ。

「見限られること。見くびられること。見下されること。それがどうしても我慢ならない。格下相手に全力で戦うことが我慢ならないものだ」

「慢心だね」

「高慢、と言え」

「同じじゃん」

「高、の字が入っているか否かで印象が違う」

「細かいなぁ」

「兎も角、奴を怒らせるには、真剣にふざけることが必要なのだ。更に言えば、奴の記憶に語りかけるにも、お前たちの何時もの雰囲気が出る分有効だろうな」

 セツがサイクロイドに対し、半ばトラウマ染みた苦手意識を持っているのも、動揺させるには効果が高い、と言える。これは流石に、半ば以上こじつけだが。

 視線の先では、セツが鬱陶しそうに走り回るサイクロイドを睨みつけていた。不愉快さを隠しもしないセツを見つめて、立案者である友紀は自信ありげに笑みを浮かべる。

「さあ……ここからだよ」

 目指すは……敗北(サレンダー)。

 

 

 

 

 

 






 大事なデュエルですが、盛大にふざけます。まあ、限度はありますが。ホント、我ながらどんだけサイクロイド前面に押し出すのか。
 それでは、悠でした!
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