アルカナ~切り札の騎士~
第四期第三十八話「あたしに出来ること」
「……アハッ!」
姿が安定した『リチュア・エミリア』が愉しそうに笑みを浮かべた。
「ねぇお母様? アタシたちってさぁ……」
エミリアの狂気に染まった瞳が苦痛に喘ぐエリアルを射抜く。
「あそこでへばってるポンコツをぶっ殺すことなんだよねェ?」
「っ……ぁ」
見つめられるエリアルの目が恐怖に染まる。
「待って! エリアルはやらせない!」
そんなエリアルの前に、凛が立ち塞がる。
「アァ~?」
その凛を気に食わなそうに睨みつけるエミリアは、ピンと来たように嗤う。
「あぁそっか! アンタそのポンコツのマスターだ! アハハッ! そっかそっか! アハハハハッ!」
「何がおかしいの!?」
「いやだってさぁ……」
ねぇ? とエミリアは先ほどからニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべるのみの『リチュア・ノエリア』に視線を向ける。
「……そのような、出来そこないの裏切り者に肩入れする神経を疑う、ということさね」
「なっ……!?」
あまりの発言に絶句する凛。ノエリアは淡々と続ける。
「そうであろう? 姉も同然のエリアを裏切り、力に溺れ、挙句罪を償うでもなくのうのうと生きる……何処をどう見ても、出来そこないではないか、のぅ?」
「ぁ……ぅ」
ガクガクと震えながら杖を支えに蹲るエリアル。
「エリアル! 気にすることはないわ! 貴女は出来そこないなんかじゃ……」
「で、も……」
水色の目に涙を一杯に溜め、震えてところどころつっかえながら、エリアルが話す。
「でも、あたしの、所為で……敵も増えて、それに、そもそもあたしがおねぇちゃんを……う、うらぎ」
「エリアル!」
「っ!」
それ以上言わないで。と言うようにエリアがエリアルを強く抱きしめる。
「……許せない」
そんな二人を見て、凛は激昂する。
「エリアルは、頑張ってる! 臆病で、いつも自信なさげだけど……それでも! そんなエリアルが、勇気を振り絞って私たちの戦いに着いてきた! 何か役に立ちたいって! その意志を……勇気を! 馬鹿にするのは許さない!」
凛はデュエルディスクを構え、戦闘態勢に入る。
「私とデュエルして! 私の大切な精霊を、馬鹿にした貴女たちは、私が必ず倒すから!」
「へぇ?」
「ほほ……小娘が。独りで我ら二人の相手をするというのか?」
「馬鹿にしないで!」
「ま、待って! 待ってください凛さん!」
「エリアル?」
顔を真っ青にして冷汗をびっしょりと掻いているエリアルが、それでも強い目で私たちを見ていた。
「あ、あたしも……あたしも戦います!」
「エリアル!? でも……」
「あ、あたし……」
ぐっ……と力を溜めるように一拍置いて、エリアルは話しだす。
「あ、たし……ずっと、めぃ、迷惑、かけてばっかりで……こ、このままじゃあたし……あたし、ダメ、なんです! あたしは、ダメダメで、出来そこないで、だけど! このまま、何もしないで守って貰ってるだけじゃ、ホントのホントに、足手纏いにしかならないから……あたしは、あたしに出来ること、します!」
身体を震わせて、言葉もところどころつっかえながらも、エリアルは自分の想いを語ってくれた。
『でも、エリアル貴方……』
「い、いくら凛さんでも、リチュアデッキ二つを一人で相手するなんて無茶です! あ、あたしが……あたしが、サポートします! あたしも、あたしもリチュアですから!」
「エリアル……うん。お願い、手伝って!」
「あ……」
私の言葉に、エリアルは一瞬呆けて、次の瞬間嬉しそうに微笑んだ。
「はい!」
『そちらの二人も、文句ないわよね』
エリアの確認に、リチュアの二人は面白くなさそうに頷いた。
「……フン」
「そんな出来損ないが加勢したところで、此方の攻め入る隙を与えるようなものさね。好きにするがいいよ」
「エリアルは、出来損ないなんかじゃない!」
『デュエル!!』
凛LP4000
エミリアLP4000
エリアルLP4000
ノエリアLP4000
「行くよ、私の先攻、ドロー!」
エリアルが勇気を出したんだ。このデュエル、絶対に負けられない!
「私は手札から『リチュア・アビス』を守備表示で召喚!」
『リチュア・アビス』DEF500
「『リチュア・アビス』のモンスター効果発動! デッキから『シャドウ・リチュア』を手札に加えるよ!」
まずはリチュアの基本戦術。サーチ効果で手札を整える!
「そして『シャドウ・リチュア』を手札から捨てて効果発動! デッキから『リチュアの儀水鏡』を手札に加える!」
儀式魔法確保! 次は……。
「手札の『ヴィジョン・リチュア』を捨てて、デッキから『イビリチュア・ガストクラーケ』を手札に加えます!」
とりあえずこれで手札はオッケー!
「行くよ! 手札から儀式魔法『リチュアの儀水鏡』を発動! 手札の『リチュア・マーカー』とフィールドの『リチュア・アビス』をリリース!『イビリチュア・ガストクラーケ』を儀式召喚!」
『イビリチュア・ガストクラーケ』ATK2400
「……ふん。ガストクラーケか。初手に出すべきイビリチュアはわかってるようだね」
「っ……ガストクラーケの効果発動! ノエリアの手札を二枚確認する!」
「そら」
「……『サルベージ』と『リチュア・ビースト』……私は『サルベージ』を選択します」
「忌々しいねぇ……」
どちらも強力なカードで、どちらを選ぶか迷ったけれど、私は『サルベージ』の方を選択した。リチュアデッキ相手の『サルベージ』ほど、怖いものもないから。
「私はカードを一枚セットしてターンエンド!」
「アタシのターン! ドロー!」
エミリアがカードをドローし、その顔に笑みを張りつける。
「アハハッ! アンタ、態々先攻取ったケド、リチュア相手に先攻取るなんてどうかしてるよ! アタシは手札から『ヴィジョン・リチュア』の効果発動! デッキから『イビリチュア・ソウルオーガ』を手札に加える!」
「ソウルオーガ……!」
私も使うから、その効果は知ってる。まずい、このままじゃ……!
「手札から儀式魔法『リチュアの儀水鏡』を発動! 手札の『シャドウ・リチュア』を8レベル分のリリースにして『イビリチュア・ソウルオーガ』を儀式召喚!」
『イビリチュア・ソウルオーガ』ATK2800
「そしてソウルオーガの効果発動! 手札の『リチュア・ヴァニティ』を捨てることでアンタの『イビリチュア・ガストクラーケ』をデッキに戻す!」
「くっ!?」
「ま、こんなモンね。アタシはカードを一枚セット。これでターンエンド」
「あ、あたしのターン! えと、ど、ドロー!」
『エリアル……』
すっごく頼りなさげなエリアルのターン開始宣言を、エリアが心配そうに見つめる。
「え、えと……まずは永続魔法『儀式の檻』を発動します!」
「エリアルナイス! ありがとう!」
エリアルの発動した永続魔法『儀式の檻』は、こちらの儀式モンスターがソウルオーガとかの対象を取る効果と効果モンスターによる破壊を防ぐカード。リチュアのモンスターを守るにはうってつけのカード。
「あ、あたしはあたしに出来るだけのサポートをします! あたしはモンスターを一体守備表示でセット! カードを二枚セットしてターンエンドです!」
エリアル……それ、どう考えてもエリアル自身だよね? ちょっとわかりやす過ぎるんじゃあ……。
「ふん。私のターンだね。ドロー」
ノエリアの手札はガストクラーケの効果で一枚少ない。だからと言って安心出来るものじゃないけど……。
「さて……手札から『リチュア・ビースト』を召喚。コイツの効果でエミリアが墓地に送った『シャドウ・リチュア』を守備表示で特殊召喚するよ」
『リチュア・ビースト』ATK1500
『シャドウ・リチュア』DEF1000
「そして儀式魔法『リチュアの儀水鏡』を発動。フィールドの『シャドウ・リチュア』をレベル分のリリースとして、手札の『イビリチュア・テトラオーグル』を儀式召喚」
『イビリチュア・テトラオーグル』ATK2600
「『イビリチュア・テトラオーグル』の効果を発動するよ。一ターンに一度、魔法・罠・モンスターの内一種類を宣言して発動。選んだ種類のカードを全員デッキから墓地に送る。相手は手札を一枚墓地に送ることで効果を無効に出来るが……どうするね。出来損ない」
「あ、あたしですか……? え、えと……無効にします! あたしは手札の『リチュアの儀水鏡』を捨てます!」
「ふん。構わないよ。さて、私が四人の中で最後の手番であることだし、バトルフェイズに入らせてもらうよ」
「っ……!」
「バトル。『リチュア・ビースト』で出来損ないのマスターにダイレクトアタック」
「くっ!?」
「さ、させません! リバースカードオープン!『儀水鏡の幻影術』! 手札から『イビリチュア・マインドオーガス』を守備表示で凛さんのフィールドに特殊召喚!」
『イビリチュア・マインドオーガス』DEF2000
「仕方ないね。ビーストの攻撃は中断。『イビリチュア・テトラオーグル』で『イビリチュア・マインドオーガス』を攻撃!」
テトラオーグルの繰り出した津波が、エリアルのマインドオーガスを呑み込む。
「ふん。虚しい抵抗だったねぇ……エミリアのソウルオーガでダイレクトアタック!」
「きゃああああああっ!?」
凛LP4000→1200
「っノエリア! どうして、どうして凛さんを……!」
「決まってるじゃないか」
ノエリアは邪悪な笑みを浮かべて言った。
「あんたのような出来損ない、いつでも倒せる。そもそもダイレクトアタックが出来るなら、そちらを狙うのが当たり前だろう?」
「そんな……! また、あたしは……」
「だ、大丈夫だよ……エリアル」
「凛さん!」
「こ、の前先輩から受けたバーンダメージの方がよっぽどキツかったし……それに」
こんな奴らに、絶対負けてやらないから。
「……ふん。私はカードを一枚セットしてターンエンドだよ。さっさとおし」
「私の、ターン。ドロー!」
大丈夫。まだ挽回できる。
「私は手札から『リチュア・ビースト』を召喚! 墓地から『リチュア・アビス』を守備表示で特殊召喚! 効果でデッキから『シャドウ・リチュア』を手札に加え、効果発動! デッキから二枚目の『リチュアの儀水鏡』を手札に加える!」
『リチュア・ビースト』ATK1500
『リチュア・アビス』DEF500
「墓地の『リチュアの儀水鏡』の効果発動! このカードをデッキに戻すことで、墓地の『イビリチュア・マインドオーガス』を手札に加えます!」
これで、手札が四枚。とりあえず儀式召喚の手札は整った。でも、マインドオーガスの攻撃力は2500。テトラオーグルの2600には僅かに届かない。
(あ、でもエリアルの残してくれた守備モンスター……)
十中八九エリアル自身だと思ってたけど、どうなんだろう? エリアル自身だったとしても使い様がある。
そう思って守備モンスターを確認すると……。
「えっ!?」
思わず驚いて声が出ちゃった。だって、伏せてあったのはエリアルじゃなくって……。
「……私は守備モンスターを反転召喚!『水霊使いエリア』!」
『水霊使いエリア』ATK500
「なっ!?」
「エリア……!?」
そう。エリアルがセットしていたのは自分自身じゃなくて姉のエリアの方だった。そしてこれなら、私のデッキと合わせて状況の打開が可能になる!
「エリアの効果発動! リバースした時、相手フィールドの水属性モンスター一体を選択してコントロールを得るよ! 私が選択するのは当然、『イビリチュア・ソウルオーガ』!」
「チィッ!?」
エリアによってエミリアのソウルオーガがこちらの場に引き寄せされて来る。
「そして『水霊使いエリア』とコントロールを奪った『イビリチュア・ソウルオーガ』をリリースして、デッキから『憑依装着-エリア』を攻撃表示で特殊召喚!」
『憑依装着-エリア』ATK1850
『エリアルを苦しめた報いは受けて貰うわ』
エリアの周囲を踊る水流も荒々しく、エリアの静かな、でも激しい怒りを表しているみたい。
「そしてライフを800ポイント支払って、手札から魔法カード『洗脳-ブレインコントロール』を発動! ノエリアの『イビリチュア・テトラオーグル』のコントロールを得るよ!」
凛LP1200→400
「ちぃ!」
「バトル!『憑依装着-エリア』で『リチュア・ビースト』を攻撃!『アクア・ロッド』!」
「ハン! アタシたち母娘を甘く見るな! 永続トラップ『忘却の海底神殿』!」
「更に永続トラップ『竜巻海流壁(トルネードウォール)』! 海が存在する限り、私たちへの戦闘ダメージを無効にするよ」
「くっ……」
通らなかった。『リチュア・ビースト』を破壊することは出来たけど……。
「それなら、トラップカード『水霊術-『葵』』の効果発動! 私の水属性モンスター一体をリリースすることで相手の手札を確認。一枚を墓地に送るよ! 私は『イビリチュア・テトラオーグル』をリリース! エミリアの手札を確認するよ」
『受けなさい……水霊術、葵!』
「この……! ウザいんだよ! 一枚だけなんだから、これ捨てればイイんでしょ!?」
憎々しげに悪態をつきながら、手札を公開してくるエミリア。といっても一枚しかないんだけど。えっと、『リチュア・マーカー』だね。
「じゃあ、その『リチュア・マーカー』を捨てて貰うよ」
「チッ、わかってる! 一々わかりきったこと言うな!」
うん。これで手札アドバンテージに大きな差をつけられた。エミリアとノエリアの手札はゼロ。これでそうそう大きな反撃は出来ない筈。
「私はこれでターンエンド!」
「チッ……アタシのターン!」
ドローカードを見たエミリアの表情が凶悪に歪む。
「何か……来るっ!?」
「アハハッ! さっきはよくもやってくれたじゃない! 目に物見せてあげるわ! アタシは手札から魔法カード『サルベージ』を発動! 墓地の『シャドウ・リチュア』と『リチュア・ビースト』を手札に加えるわ!」
「ッ……このタイミングで『サルベージ』……折角手札を減らしたのに」
「そして墓地の『リチュアの儀水鏡』の効果発動! デッキに戻すことで墓地から『イビリチュア・ソウルオーガ』を手札に加える!」
だ、大丈夫。例えソウルオーガを出されても、効果は使えないし……。
「……と、思った?」
「っ」
「安心した? 大丈夫だと思った? あらあらそれじゃあお生憎様! アンタ、死ぬわよ?」
「な、何を……」
「まさか、エミリア……!?」
エリアルが何かに気付いたように慌て出したけど、エミリアのプレイは止まらない。
「ブッ潰してやる! 手札の『シャドウ・リチュア』を捨てることでデッキから『リチュアに伝わりし禁断の秘術』を手札に加える!」
「禁断の秘術……!?」
「不味いです……凛さん! おねぇちゃん!」
「儀式魔法……発動」
『これは……ぐぅっ!?』
「エリア!?」
エミリアが儀式魔法を使った瞬間、エリアと『リチュア・ビースト』の前に儀水鏡が出現し、エリアの姿を写し取る。同時にエリアが苦しみ始め、徐々にその姿が浸食されて行く。
「エリア!? これは……なに?」
「アハハッ! いいわ。教えてあげる。この『リチュアに伝わりし禁断の秘術』は、相手モンスターを儀式の生贄にすることが出来る、リチュアの秘術。あまりに凶悪だからって、禁断の秘術にされてたけど……晴れて解禁っ! アハハハハハハハッ!」
『あ、ああああああああっ!?』
「エリアッ!」
エリアの姿が完全に鏡に写し取られると、私のフィールドからエリアが消えた。
「お、おねぇちゃん……」
「さぁて……この儀式で召喚した儀式モンスターは攻撃力が半分になっちゃう上にこのターンアタシはバトルを行えない。けど、守備なら問題ないわ」
『イビリチュア・ソウルオーガ』DEF2800
「それに、効果は使える! ソウルオーガの効果発動! 手札の『リチュア・ビースト』を墓地に送ってアンタの『リチュア・アビス』をデッキに戻す!」
「くっ!?」
しまった。サーチし難いアビスが戻されちゃった……。フィールドのモンスターもいなくなっちゃったし、かなりマズイ状況だ。
「ターンエンド! さあ、ポンコツ。さっさとサレンダーでもして負けちゃいなよぉ。あとがつかえてんだからさぁ」
「く、うぅ……」
ニヤニヤと、負けることなど考えていないようなエミリアの態度に、エリアルは悔しそうに歯噛みし、けれど言い返すことも出来ずに黙りこんでしまった。
「負け癖が付いた奴が、今更頑張ろうったって遅いのよ! 出来損ないは何時まで経っても出来損ない。ポンコツは所詮ポンコツ。負け犬はどうしたって負け犬よ!」
「そんなことない! エリアルはそんな自分を変えようと、勇気を振り絞って……」
「うっさい! 部外者は黙ってなよ!」
「なっ……」
「勇気を振り絞って? ハッ! 勇気なんて、弱い奴が最後に縋る藁みたいなもんよ。強い奴は、そんなモンには縋らない。必要がないもの! 勇気なんてモンに縋りついてる時点で、そのポンコツは一生ポンコツ! アハハハッ! ザ~ンネ~ンで~した!」
「酷い……!」
「酷い? 事実でしょうが。それに大体、自分のことなのに反論も人任せな弱虫のどこに勇気があるっての? 悔しかったら自分で反論してみなさいよ。ホラホラホラァ!」
「う、うぅ……」
マシンガンのように繰り出されるエミリアの言葉に、気の弱いエリアルは委縮してしまう。
「エリアル……」
「あ、あたし……は」
必死に、たどたどしく、言葉を紡ごうとするエリアル。
「あたしは、それでも……」
「ア~ン?」
「ま、負けることには、慣れてます。諦めることも、得意です。逃げるのだって、いつものことです。あたしは、そんな……弱い、精霊です」
「ハッ」
「漸く認めおったか」
「エリアル……!」
「それでも!」
思わず言葉をかけようとした私を遮って、エリアルが俯いたまま続ける。
「慣れてても、得意でも、いつものことでも。しちゃいけない時が、あるんです……! 例え負けても、諦めても、逃げても……次に繋げなくちゃ、いけないんです……!」
今にも泣きそうで、くじけそうで、膝をつきそうで。それでも必死に言葉を紡ぐエリアルは、儚くも強い意志のオーラを身に纏う。
「愚図で、とろくて、弱っちくて……そんなあたしでも、誰かの足手纏いにはなりたくないの! あたし……あたしは……!」
エリアルはグッ、とデッキトップに力強く指をかけ、思い切りドローする。
「強くなりたい!」
ドローカードを確認したエリアルは、ゴクリと恐れるように喉を鳴らした。
どうするんだろう? エリアルの手札は、今ドローした一枚のみ。墓地のマインドオーガスと儀水鏡で手札補充は出来なくないけど……。
「り、リバースカードオープンです!『儀水鏡の瞑想術』! あたしは手札の『リチュアの儀水鏡』をオープンして、墓地から『シャドウ・リチュア』と『ヴィジョン・リチュア』を手札に戻します!」
あれは……エリアルが最初のターンに伏せていたトラップカード? エリアルの祈りに応えて、墓地から二つの魂が呼び戻される。
「そして『ヴィジョン・リチュア』を手札から捨てて効果発動! デッキから『イビリチュア・ジールギガス』を手札に加えます!」
「ジールギガスだって!?」
「あ、アンタ正気!?」
「え!? な、なにっ!?」
エリアルがその名前を出した瞬間、それまで余裕そうだった二人のリチュアが突然慌てだした。一体、どういう……?
「あたしはもう、逃げない! 何もないあたしに唯一残された武器……この命(ライフ)を懸けて!」
「エリアル!? 一体何を……」
「手札から儀式魔法『リチュアの儀水鏡』を発動! 手札の『シャドウ・リチュア』をレベル分のリリースとして……『イビリチュア・ジールギガス』を儀式召喚!」
『オオ……』
「大、きい……!?」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
『イビリチュア・ジールギガス』ATK3200
「攻撃力……3200」
「そしてジールギガスのモンスター効果! 一ターンに一度、ライフを1000ポイント支払うことでデッキからカードを一枚ドローする! う……ドロー!」
エリアルLP4000→3000
「そ、そして……ドローしたカードがリチュアと名のつくモンスターカードだったなら……フィールド上のカード一枚をデッキに戻す!」
「なっ……」
ドローした上に、バウンス効果……!? な、なんなのそのアドバンテージの塊みたいな……!
「あたしがドローしたのは……『リチュア・チェイン』! リチュアモンスター!」
「ぐっ……!」
「この……っポンコツぅぅぅ!」
「デッキに戻すのは『忘却の海底神殿』! そして『海』がなくなったことで『竜巻海流壁(トルネードウォール)』は破壊されます!」
ノエリアたちを守っていた竜巻が消滅する。す、すごい……!
「そしてあたしは『リチュア・チェイン』を召喚! チェインの召喚に成功したとき、デッキの上から三枚をオープンして、その中に儀式魔法か儀式モンスターがいれば、手札に加えることができます! オープン!」
『リチュア・チェイン』ATK1800
そういってエリアルがオープンしたのは『リチュア・エリアル』『昇華する魂』『リチュアの写魂鏡』の三枚。他の二枚はわかるけど……写魂鏡?
「……ぁ」
サッ、とエリアルの顔から血の気が引いた。
「っ……それでも、いいや」
『エリアルあなた……何をする気!?』
エリアの言葉に耳を貸さず、エリアルはそのままバトルフェイズに入る。
「……『リチュアの写魂鏡』を手札に加えます。ノエリア。あたしは確かに弱いです。でも、敗北者で弱者だからこそ、出来ることも、あるんです。それが、この結果」
「グッ……」
ノエリアのフィールドは空。『竜巻海流壁(トルネードウォール)』の防御も消えた今、確実にノエリアを倒せる!
「まだ、です……!」
「エリアル?」
「まだ、終わってません! ノエリア、貴女の反撃の目、確実に潰させてもらいます!」
「な、何を……!」
「墓地の『リチュアの儀水鏡』の効果で、マインドオーガスを手札に戻します……そして、手札から儀式魔法……」
儀式魔法? エリアルの手札は二枚。写魂鏡とマインドオーガスのみ。フィールドのモンスターのレベルは4と10。どちらもマインドオーガスの6とはレベルが合わないんじゃ……?
「あ、アンタ、本気? 死ぬわよ!?」
「なっ……?」
ど、どういうこと!?
「しゃ、写魂鏡は『リチュアに伝わりし禁断の秘術』以上に禁忌の術よ! レベル1につき500ポイントのライフを支払うことで、モンスターをリリースすることなく儀式モンスターを儀式召喚する術……いわば、自分自身を生贄にする禁呪!」
「なっ!? エリアルやめて!」
「……やめません」
「どうして……」
エリアルは、今にも泣きそうな顔で微笑んで言った。
「今、ここで確実に反撃の目を潰しておかないと、ダメな気がするんです。ヨワヨワで、ネガティブ思考のあたしじゃ、こうでもしないと安心できないから……」
「でもだからって!」
「ごめんなさい凛さん。ごめんなさいおねぇちゃん。迷惑ばっかりかけて。でも、今度は、今回だけは……」
『エリアル!』
「頑張るから!『リチュアの写魂鏡』!!」
「エリアルぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
マインドオーガスのレベルは6。必要なライフは3000。エリアルのライフも……3000。
「マインドオーガスの効果……エミリアとノエリアの墓地にある、『シャドウ・リチュア』『ヴィジョン・リチュア』『リチュア・マーカー』『リチュア・ビースト』『イビリチュア・テトラオーグル』をデッキに戻します」
『イビリチュア・マインドオーガス』ATK2500
マインドオーガスの効果が、二人の墓地からリチュアを奪う。そして……。
「あたしに出来るのは……ここまでです。凛さん。おねぇちゃん……勝っ、て」
エリアルLP3000→0
「エリ、アル……」
ドサッ、と音がして、エリアルの身体が地面に沈む。その顔からは、精気が感じられず……。
「そ、んな……」
エリアル、まさか……まさか。
「うそ……」
やっと……やっと強くなれたのに。やっと、一歩を踏み出す勇気が出せたのに。こんな、こんなことって……。
『凛!』
「エリア……」
『ボサッとしないで! エリアルはまだ生きてる!』
「えっ!?」
『これはタッグデュエル……たとえパートナーが力尽きても、貴女が勝てば命は助かる!……いえ、助けるのよ!』
「助、かる……助ける」
『エリアル……がんばったわね。おねぇちゃんが褒めてあげる。きっと、貴女は強くなる。私なんかより、ずっと』
エリアに撫でられているエリアルの顔からは、未だ精気は見えない。でも……。
「必ず。必ず、助けるから……!」
エリアルを、こんなところで死なせない。大好きだった姉(エリア)と和解して、漸く強くなる第一歩を踏み出したエリアルが、こんなところで死ぬなんて許せない。そのためにも……。
「勝つ! 絶対に!」
「くっ……私のターン、ドロー」
ノエリアのターン。でも、ノエリアの手札は今ドローした一枚のみ。墓地はエリアルの献身のおかげで殆ど無し。フィールドには攻撃力の半減したソウルオーガ。でも、エリアルの残してくれた『儀式の檻』の効果に阻まれて、効果対象に出来るのは『リチュア・チェイン』のみ。
「おのれ……折角の『サルベージ』を」
あ、危なかった……もし『サルベージ』を使われてたら、逆転はないにしてもかなり手痛い反撃を受けていたところだった。エリアルのお陰だ。
「……くっ。ターンエンド」
「私のターン、ドロー!」
勝つ! 何が何でも! そのための手札はもう揃ってる!
「私は手札から魔法カード『サルベージ』を発動! 墓地の『リチュア・ビースト』と『ヴィジョン・リチュア』を手札に加える!」
これで、完全に揃った!
「『リチュア・ビースト』を召喚! 効果で墓地から『シャドウ・リチュア』を守備表示で蘇生!」
『リチュア・ビースト』ATK1500
『シャドウ・リチュア』DEF1000
「手札から『ヴィジョン・リチュア』の効果発動! 手札から墓地に捨てて、デッキからリチュアと名のつく儀式モンスター……『リチュアルクィーン-エル・アリア』を手札に加えます! 儀式魔法『リチュアの儀水鏡』を発動! フィールドの『シャドウ・リチュア』を8レベル分のリリースとして……! 私は、『リチュアルクィーン―エル・アリア』を儀式召喚!」
『リチュアルクィーン―エル・アリア』ATK2800
「こ、コイツは……?」
「エル・アリアの効果発動! 一ターンに一度、フィールド上のリチュア儀式モンスターをリリースすることで、相手の手札・墓地・フィールド上から一枚をデッキに戻す! 私がリリースするのは……『イビリチュア・ソウルオーガ』!」
「なっ!? アタシのカードを!?」
エル・アリアの効果は、リリースするカードを自分フィールドに限定してない。普通ならコントロール奪取でもされない限りあんまり意味のないものだけど……ミラーマッチでこそ、この効果は強い!
「この効果でノエリアの手札をデッキに戻すよ!」
もしかしたら、なんてこともあり得る。『サルベージ』だ、というのが嘘で、手札誘発のカードである可能性。フィールドや墓地に、他に戻すカードもないからこれでいい。
「……勇気は、確かに弱い人が最後に縋る、藁なのかもしれない」
強い人に勇気は必要ない。それは、間違いない。
「でも、それは決して無駄じゃない。勇気には、縋るだけの価値がある。だって……」
勇気は、弱さを強さに変える、その第一歩を踏み出すためのものだから。
「エリアルは、一歩踏み出した。怖くて、泣きそうになりながら、それでも精一杯の勇気を振り絞って。……だからこのデュエルは、きっと私の勝利じゃない」
エリアルの、勝利なんだ!
「バトル! 五体のモンスターで、エミリアとノエリアにダイレクトアタック!『タイダル・エクスプロージョン』!」
「「あああああああああああああああっ!?」」
エミリアLP4000→0
ノエリアLP4000→0
津波の大爆発が、エミリアとノエリアの呑み込み、跡形もなく吹き飛ばす。私はそれを見届けてから、急いでエリアルの下に向かった。
「エリアル!」
「……………………」
「エリアル! エリアル、返事をして!」
「……………………ぅ」
「エリアル!」
エリアルは一瞬呻いた後、すぐにまた反応を見せなくなる。その様子に不安が掻き立てられるけど、絶対諦めない。エリアルが起きるまで、呼びかけ続ける。
「エリアル。起きて……! エリアル。エリアルのお陰で、私勝ったよ! だから、だから……お願い。起きて……エリアル!」
キラキラと、エリアルの命を繋ぐように、その胸元に光るタロット。逆位置の『月』だ。『月』は『太陽』の裏で、その光を受けて輝く星。それは、エリアの庇護の下でしか、エリアルが輝けないかのような暗示だけれど……。
「……違う。きっと違うよ。エリアル」
だって、この『月』は逆位置。過去からの脱却、未来への希望を示す、これからのエリアルの人生を輝かせてくれるカードだから。
「だから……起きて。エリアル!」
エリアルを抱えて叫び続ける私たちに、ふと、影が差す。
「あ……あなたは」
その人影を見て、私は思わず安堵の息を漏らすのだった。
さ、流石に儀式好きの悠と言えど、儀式だけで頭がパンクしそうです。作者ですらそうなんですから、多分読者の皆さんには優しくないデュエルだったろうなぁと反省しております。リチュア×4のタッグデュエルとか、もう絶対やらねぇ……。
それでは、悠でした!