アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

112 / 129
第四期第三十九話「絶えぬ野心、その果てに」

アルカナ~切り札の騎士~

第四期第三十九話「絶えぬ野心、その果てに」

 

 

 

 

 皆がそれぞれの敵と相対している時。私もまた、因縁の敵を前に内心複雑な思いを抱えていた。

「終焉の、王」

「女神よ。余は、諦めぬ」

 終焉の王、デミス。私の世界。その最期の王。

「余の妃となれ。女神」

「……お断り」

 考えるまでもない。私の心に住む人は、たった一人いればいい。

「貴方のものには、なれない」

「……何故だ」

 デミスは、重厚なアーメットヘルムに隠された顔を、見えなくてもわかる程屈辱に歪め、デミスは叫ぶ。

「何故だ!? 何故だ女神! 何故貴様は、あのような人間の男などに!」

「愛しているから」

 端的に。それだけを語る。

「愛だと!? ならば余とて変わらぬ! あの男が女神を想う以上、遥かに強く求めておるわ!」

「……愛は、一方通行じゃ意味がない」

「だから! 何故女神はあの男を愛する!? あの男には、他にも愛する女がいるだろう!?」

「……そう」

 彼は、私だけを見てはくれない。それは、わかっている。私は、きっと彼の一番にはなれない。

「それでも、私の答えは変わらない」

 彼が……セツが、好き。

「私、女神ルインは……生涯、御堂切ただ一人を愛する」

「貴様は……何故、何故そこまで……」

「似ているから」

 彼は、私と。

「でも、違うから」

 私と似ているのに。同じような境遇を生きていたのに。

「セツは私には選べなかった道を選んで、私はその先に、希望(ヒカリ)を見つけたから」

 屈しない、彼の姿に。傷つきながらも、心が砕け散りそうになりながらも、誰かの為に歩み続けようとする背中に。私はもう一度、歩き出す勇気を貰えたから。

「だから、好き」

 それが、私の理由。物語では、好きに理由なんてない、なんて書かれていることが多いけれど。そんなのウソ。理由もなく、人を好きにはならない。その理由も説明できずに、その人が好きなんて胸張って言えない。

「歩き出す勇気だと……?」

 絞り出すように、デミスが呻く。

「ふざけるな……! 貴様は……女神は、歩く必要などない! ただそこに、泰然と存在すれば良い! 女神は女神のままあれば良い!」

 私は、私のまま。好意的に解釈すれば、ありのままの私がいい、という意味にもとれるけれど、私がデミスのその言葉から感じたのは、維持ではなく、停滞。

「貴方は……」

 理解する。そして納得する。

「貴方は、私が欲しいんじゃない」

 傲慢(プライド)よりも驕り高ぶり、嫉妬(エンヴィー)よりも卑屈で、暴食(グラトニー)よりも貪欲で、色欲(ラスト)よりも淫らで、強欲(グリード)よりも欲深で、憤怒(ラース)よりも感情的な終焉の王。

「貴方は……怠惰(スロース)としての私が欲しいだけ。貴方に唯一欠けている、終焉の属性である、私を」

「っ……!」

「貴方は私を見ていない。私を求めていない。そんな貴方を、私が愛するわけがない」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 叫び、デュエルディスクを構えるデミス。それに応じて私もデュエルディスクを装着する。

「……終わらせましょう。これ以上、傀儡となった貴方は見てられない」

「「デュエル!!」」

 デミスLP4000

 ルインLP4000

「余の先攻! ドロー!」

 憤りのままに、先攻を奪うデミス。けれど、それは悪手。デミスの効果は、後攻での一撃必殺に向いている。

「余は手札から儀式魔法『高等儀式術』を発動! デッキから『デーモン・ソルジャー』と『D・ナポレオン』二体を墓地に送り、手札から余の現身を儀式召喚する!」

 『終焉の王デミス』ATK2400

「更に、墓地の悪魔族モンスター三体をゲームから除外し、『ダーク・ネクロフィア』を攻撃表示で特殊召喚する!」

 『ダーク・ネクロフィア』ATK2200

「ッ……あれは」

 デミスのフィールドに、壊れた人形を抱いた悪魔が現れる。あのモンスターは、確か倒すとこちらのモンスターのコントロールを奪うモンスター。攻撃力も2200と、明らかに私を意識したカード。

「余はカードを二枚セットし、ターンエンドだ」

 これでデミスの手札は残り一枚。相変わらず手札使いが荒い。

「私のターン、ドロー」

 慌てることなく、私はカードをドローする。

「私は『終末の騎士』を召喚。効果を発動」

 『終末の騎士』ATK1400

「デッキから闇属性モンスター『儀式魔人プレサイダー』を墓地に送る」

 プレサイダーはレベル4。フィールドの『終末の騎士』と合わせればレベル8。

「手札から儀式魔法『エンド・オブ・ザ・ワールド』を発動。フィールドの『終末の騎士』と墓地の『儀式魔人プレサイダー』をリリースして、手札から『破滅の女神ルイン』を攻撃表示で儀式召喚」

 『破滅の女神ルイン』ATK2300

「女神の攻撃力では、余は超えられぬぞ」

「……足りないなら、足せばいい。装備魔法『ダグラの剣』」

 『破滅の女神ルイン』ATK2300→2800

「バトル。『破滅の女神ルイン』で『終焉の王デミス』を攻撃。『ルインズ・ゲート』!」

 交差させた剣から、滅びの光弾が放たれる。

「甘いわ! トラップ発動『立ちはだかる強敵』! この効果で女神の攻撃は『ダーク・ネクロフィア』に向かう!」

 放たれた光弾が捻じ曲げられ、そのまま『ダーク・ネクロフィア』を撃ち抜いた。

「ぐ……っ」

 デミスLP4000→3400

 やっぱり、攻撃誘導系。これ見よがしに『ダーク・ネクロフィア』を出してきた以上、何かあるとは思ったけど。

「『ダグラの剣』の効果。相手に与えたダメージ分、ライフを回復する」

 ルインLP4000→4600

「……『儀式魔人プレサイダー』をリリースに使った儀式モンスターが相手モンスターを破壊し、墓地に送った時、デッキからカードを一枚ドローできる。更に、『破滅の女神ルイン』も同じ条件でもう一度だけ続けて攻撃することができる。『終焉の王デミス』に攻撃。『ルインズ・ゲート』」

 ……慣れない長台詞でちょっと疲れた。

「させぬ! トラップ発動『ドレインシールド』! 女神の攻撃を無効にし、その攻撃力分ライフを回復する!」

「っ……!」

 デミスLP3400→6200

 これは、あまり宜しくない。デミスを倒せなかった上に、デミスの効果の為のライフまで稼がれてしまった。

「……私はターンエンド」

「ならば! このエンドフェイズに、墓地に送られた『ダーク・ネクロフィア』の効果を発動する! 女神の装備カードとなり、女神のコントロールをこちらに奪う! さあ、我が軍門に降れ!」

 デミスの墓地から黒い靄のような怨念が湧き出し、私に取り憑こうとする。

「……お断り。私は手札から速攻魔法『サイクロン』を発動。装備カードとなった『ダーク・ネクロフィア』を破壊する」

 私は纏わり憑こうとする怨念を振り払う。

「……言ったはず。私は貴方のものにはならない」

 セツにNTR趣味はない……はず。

「ちぃ……余のターン、ドロー!」

 ……とはいえ、状況はよろしくない。デミスの効果を考えると、攻撃力1600以上のモンスターを出されるだけで私は負ける。……そう考えると、やはりデミスは最初冷静ではなかった。後攻を選んだり、『ダーク・ネクロフィア』を出さず、このターンに出していれば、それで勝てたのだから。私を奪うことや、憤怒に流された結果、勝機を逃した。……最も、それならそれでやりようはあったけれど。

「余は自身の効果を発動する! ライフを2000ポイント支払い、余以外の全てを終焉の闇に!『終焉の嘆き』!」

 デミスLP6200→4200

「くっ……!」

 私の装備した『ダグラの剣』ごと、空に浮かんだ魔法陣が破壊し尽くして行く。

「バトル! 余自身で、女神にダイレクトアタック!『ジ・エンド・カタストロフ』!」

「く、ああああああああっ!?」

 ルインLP4600→2200

 デミスの攻撃が、私を強く打ち据える。流石に、キツイ……。

「余はこれでターンエンド。女神よ。そろそろ楽になれ」

「お、断り……私のターン、ドロー」

 これで、手札は三枚。まだ、諦める必要はない。

「私は『マンジュ・ゴッド』を召喚。効果発動」

 『マンジュ・ゴッド』ATK1400

「デッキから儀式魔法『未来への光』を手札に加える」

「『未来への光』……だと?」

「そう。それが……」

 私が見つけたもの。セツが私に見せてくれたもの。今の私が、手に掴むべきもの。

「私は手札から装備魔法『契約の履行』を発動。ライフを800ポイント支払って墓地から『破滅の女神ルイン』を蘇生」

 『破滅の女神ルイン』ATK2300

 ルインLP2200→1400

「そして儀式魔法『未来への光』を発動。フィールドの『マンジュ・ゴッド』と『破滅の女神ルイン』をリリースして、『希望の女神ルイン』を攻撃表示で儀式召喚」

 『希望の女神ルイン』ATK2500

「バトル。『希望の女神ルイン』で、『終焉の王デミス』を攻撃。『シャイニング・ホープ』」

「ぐぅっ!?」

 デミスLP4200→4100

「そして『希望の女神ルイン』が戦闘によってモンスターを破壊し、墓地に送った場合、その攻撃力の半分ライフを回復する」

 ルインLP1400→2600

「くっ……おのれおのれおのれぇぇ!」

 私の反撃に、デミスは苛立つように地団太を踏む。

「本当に、聞き分けのない子」

「黙れぇ! 余のターン!」

 デミスは、私の言葉に耳を貸さない。

「余は手札から魔法カード『死者蘇生』を発動! 墓地から『終焉の王デミス』を攻撃表示で特殊召喚する!」

 『終焉の王デミス』ATK2400

「っ……性懲りもなく」

「余の効果を発動! ライフを2000ポイント支払い、余以外の全てに等しく終焉を!『終焉の嘆き』!」

 デミスLP4100→2100

「くっ……!」

「見たか! これでもわからぬか!? 希望など、所詮儚いものでしかないと! 絶望が、終焉こそが、世界を支配する力であると!」

「……わからない」

「っ……! ならば今一度、その身に受け、知るがよい!『ジ・エンド・カタストロフ』!」

「ぅ、あああああっ」

 ルインLP2600→200

 デミスのハルバードの一撃が、私の身を打ち据える。

「これでわかっただろう!? いつまであの小僧に、光などに囚われ、縛られているつもりだ!?」

「……縛られてなんか、いない」

「縛られているだろう! 愛などというまやかしに! 愛は鎖だ。捕え、縛るものだ! 解き放ってやろうというのだ。余が!」

「……そしてまた、縛るのでしょう? 貴方の愛とやらで。そんなのは御免」

 それに、貴方は一つ、大きな勘違いをしている。

「……貴方の愛と、彼の愛は違う。違いすぎるほどに」

「何が違う!? 余と、あの小僧と、一体どこが違うというのだ!?」

「……彼の愛は、鎖じゃない」

 そう。愛は、縛り付けるものなんかじゃない。

「……愛とは、翼だから」

「なに……?」

「愛は縛るものじゃない。彼の愛は、私に|翼(自由)をくれたから」

「翼……自由だと?」

「絶望し、蹲り、俯いていた私に、彼の|愛(光)が希望をくれた。もう一度、羽ばたく勇気を、翼をくれた。だから、私は」

 立ち上がり、カードをドローする。

「……魔法カード『壺の中の魔術書』。お互いにデッキから三枚のカードをドローする」

 手札の三枚のカード。これが、私の勝利への鍵。

「私は、手札から魔法カード『死者蘇生』を発動。墓地から『破滅の女神ルイン』を特殊召喚する」

 『破滅の女神ルイン』ATK2300

「今更何を……!」

「私は、手札・フィールド・墓地それぞれに存在する、『慈愛の女神ルイン』『破滅の女神ルイン』『希望の女神ルイン』をゲームから除外する」

 現在、過去、未来。全ての私を一つに。

「これで終わり。手札から『暁光の女神ルイン』を特殊召喚する」

 『暁光の女神ルイン』ATK3500

「な……なんだ、これは」

 暁。それは、夜明けのこと。暁光は、その名の通り夜明けの光。私が、手に入れた光。

「……バトル。『暁光の女神ルイン』で、『終焉の王デミス』を攻撃。『シャイン・セイニー』」

「ぐおおおおおっ!?」

 デミスLP2100→1000

「そして、『暁光の女神ルイン』が戦闘によって相手モンスターを破壊し、墓地に送った場合、そのモンスターの攻撃力分ライフを回復する」

 ルインLP200→2600

「ぐっ……」

「更に、ライフを2000ポイント支払うことで、破壊し、墓地に送った相手モンスターを相手フィールドに特殊召喚し、もう一度だけ追加攻撃が出来る」

「なんだと!?」

 ルインLP2600→600

「もう一度、バトル!『暁光の女神ルイン』で、『終焉の王デミス』を攻撃。これで、最期!『シャイン・セイニー』!」

「馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 デミスLP1000→0

 ルインLP600→3000

 デミスの頭上から降り注いだ光が、その野心ごとデミスを焼き尽くした。

 

 

 

「…………」

 全てが終わった。デミスは今度こそ、完全に滅した。

「……私は」

 決して、彼を嫌っていたわけではなかった。

「貴方を、女として愛することは出来ないけれど」

 私の世界に生まれ、育ち、生きていた愛し子である事に変わりはない。例えどんなに歪んでしまっても、私にとっては愛しい子供と同じ。

「だからせめて、魂だけは、安らかに」

 デミスのいた場所に落ちていた、『終焉の王デミス』のカードを拾い上げ、胸に抱く。そのカードが逆位置の『皇帝』へと変化した。

「……っ!」

 ――そして、気付いた。

「……おかしい」

 自分のセリフに。自分の思考に。違和感を覚えた。

「……まさか。だとしたら、一体……っ」

 ――伝えなきゃ。

 そう思い、彼の下に……セツのところに走り出そうとして。

「エリアル!」

「っ!?」

 聞こえてきた声に、足を止めた。

「エリアル! エリアル、返事をして!」

 一瞬の躊躇。けれど私は、すぐに踵を返し、その声の方へと向かった。

(セツなら、大丈夫)

 私以外にも、彼を支えてくれる人はいる。私の気付いたことが、例え真実だったとしても、彼ならきっと、間違いはしない。例え間違えても、正してくれる人がいるはずだから。

「だったら、私のやるべきことは」

 誰一人、欠けさせたりしないこと。彼の下に、全員で帰る為に、今私がすべきこと。

「あ……あなたは」

「助けが、必要?」

「お、お願いします! エリアルが、エリアルが……!」

「大丈夫」

 傷つき、倒れている水鏡の少女に杖をかざす。

「必ず、助ける」

 きっとそれが、今私がすべきこと。

 

 

 

 

 

 




・『未来への光』 儀式魔法カード
効果
(1):『希望の女神ルイン』の降臨に必要。フィールド上から、『破滅の女神ルイン』を含み、レベルの合計が12になるように生贄に捧げる。その後、手札から『希望の女神ルイン』を特殊召喚する。

・『希望の女神ルイン』 光属性 天使族 ☆12 攻/守 2500/2500
 儀式・効果
 『未来への光』により降臨。自分フィールド上の『破滅の女神ルイン』を含み、レベルの合計が12になるように生贄に捧げなければならない。このカードは『未来への光』の効果によってのみ特殊召喚することができる。
このカード以外に、自分フィールド上に『女神ルイン』モンスターが存在する場合、このカードを破壊する。
(1):このカードは相手フィールド上のモンスターの数だけ攻撃することができる。
(2):このカードが相手モンスターを戦闘によって破壊し、墓地に送った場合、その攻撃力の半分ライフを回復する。

・『暁光の女神ルイン』 星12 光属性 天使族 攻/守3500/3500
 効果
 このカードは通常召喚できない。手札・フィールド上・墓地にそれぞれ存在する『破滅の女神ルイン』『慈愛の女神ルイン』『希望の女神ルイン』をそれぞれゲームから除外することで特殊召喚することができる。
 『暁光の女神ルイン』の(2)の効果は、一ターンに一度しか発動できない。
(1):このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し、墓地へ送った場合、墓地に送った相手モンスターの攻撃力分、ライフを回復する。
(2):(1)の効果使用後、ライフを2000ポイント支払うことで、破壊した相手モンスター一体を相手フィールド上に特殊召喚し、もう一度だけ続けて攻撃することができる。



 最後のルインオリカです。結局ルインのオリカはリストラなしです。うん。まあどうやらアルカナの顔みたいにもなってるみたいですしね。
 さてさて、これで『皇帝』が手に入り、残るタロットは一枚。果たして誰が持っているのか。
 それでは、悠でした!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。