アルカナ~切り札の騎士~
第四期第三十九話「絶えぬ野心、その果てに」
皆がそれぞれの敵と相対している時。私もまた、因縁の敵を前に内心複雑な思いを抱えていた。
「終焉の、王」
「女神よ。余は、諦めぬ」
終焉の王、デミス。私の世界。その最期の王。
「余の妃となれ。女神」
「……お断り」
考えるまでもない。私の心に住む人は、たった一人いればいい。
「貴方のものには、なれない」
「……何故だ」
デミスは、重厚なアーメットヘルムに隠された顔を、見えなくてもわかる程屈辱に歪め、デミスは叫ぶ。
「何故だ!? 何故だ女神! 何故貴様は、あのような人間の男などに!」
「愛しているから」
端的に。それだけを語る。
「愛だと!? ならば余とて変わらぬ! あの男が女神を想う以上、遥かに強く求めておるわ!」
「……愛は、一方通行じゃ意味がない」
「だから! 何故女神はあの男を愛する!? あの男には、他にも愛する女がいるだろう!?」
「……そう」
彼は、私だけを見てはくれない。それは、わかっている。私は、きっと彼の一番にはなれない。
「それでも、私の答えは変わらない」
彼が……セツが、好き。
「私、女神ルインは……生涯、御堂切ただ一人を愛する」
「貴様は……何故、何故そこまで……」
「似ているから」
彼は、私と。
「でも、違うから」
私と似ているのに。同じような境遇を生きていたのに。
「セツは私には選べなかった道を選んで、私はその先に、希望(ヒカリ)を見つけたから」
屈しない、彼の姿に。傷つきながらも、心が砕け散りそうになりながらも、誰かの為に歩み続けようとする背中に。私はもう一度、歩き出す勇気を貰えたから。
「だから、好き」
それが、私の理由。物語では、好きに理由なんてない、なんて書かれていることが多いけれど。そんなのウソ。理由もなく、人を好きにはならない。その理由も説明できずに、その人が好きなんて胸張って言えない。
「歩き出す勇気だと……?」
絞り出すように、デミスが呻く。
「ふざけるな……! 貴様は……女神は、歩く必要などない! ただそこに、泰然と存在すれば良い! 女神は女神のままあれば良い!」
私は、私のまま。好意的に解釈すれば、ありのままの私がいい、という意味にもとれるけれど、私がデミスのその言葉から感じたのは、維持ではなく、停滞。
「貴方は……」
理解する。そして納得する。
「貴方は、私が欲しいんじゃない」
傲慢(プライド)よりも驕り高ぶり、嫉妬(エンヴィー)よりも卑屈で、暴食(グラトニー)よりも貪欲で、色欲(ラスト)よりも淫らで、強欲(グリード)よりも欲深で、憤怒(ラース)よりも感情的な終焉の王。
「貴方は……怠惰(スロース)としての私が欲しいだけ。貴方に唯一欠けている、終焉の属性である、私を」
「っ……!」
「貴方は私を見ていない。私を求めていない。そんな貴方を、私が愛するわけがない」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
叫び、デュエルディスクを構えるデミス。それに応じて私もデュエルディスクを装着する。
「……終わらせましょう。これ以上、傀儡となった貴方は見てられない」
「「デュエル!!」」
デミスLP4000
ルインLP4000
「余の先攻! ドロー!」
憤りのままに、先攻を奪うデミス。けれど、それは悪手。デミスの効果は、後攻での一撃必殺に向いている。
「余は手札から儀式魔法『高等儀式術』を発動! デッキから『デーモン・ソルジャー』と『D・ナポレオン』二体を墓地に送り、手札から余の現身を儀式召喚する!」
『終焉の王デミス』ATK2400
「更に、墓地の悪魔族モンスター三体をゲームから除外し、『ダーク・ネクロフィア』を攻撃表示で特殊召喚する!」
『ダーク・ネクロフィア』ATK2200
「ッ……あれは」
デミスのフィールドに、壊れた人形を抱いた悪魔が現れる。あのモンスターは、確か倒すとこちらのモンスターのコントロールを奪うモンスター。攻撃力も2200と、明らかに私を意識したカード。
「余はカードを二枚セットし、ターンエンドだ」
これでデミスの手札は残り一枚。相変わらず手札使いが荒い。
「私のターン、ドロー」
慌てることなく、私はカードをドローする。
「私は『終末の騎士』を召喚。効果を発動」
『終末の騎士』ATK1400
「デッキから闇属性モンスター『儀式魔人プレサイダー』を墓地に送る」
プレサイダーはレベル4。フィールドの『終末の騎士』と合わせればレベル8。
「手札から儀式魔法『エンド・オブ・ザ・ワールド』を発動。フィールドの『終末の騎士』と墓地の『儀式魔人プレサイダー』をリリースして、手札から『破滅の女神ルイン』を攻撃表示で儀式召喚」
『破滅の女神ルイン』ATK2300
「女神の攻撃力では、余は超えられぬぞ」
「……足りないなら、足せばいい。装備魔法『ダグラの剣』」
『破滅の女神ルイン』ATK2300→2800
「バトル。『破滅の女神ルイン』で『終焉の王デミス』を攻撃。『ルインズ・ゲート』!」
交差させた剣から、滅びの光弾が放たれる。
「甘いわ! トラップ発動『立ちはだかる強敵』! この効果で女神の攻撃は『ダーク・ネクロフィア』に向かう!」
放たれた光弾が捻じ曲げられ、そのまま『ダーク・ネクロフィア』を撃ち抜いた。
「ぐ……っ」
デミスLP4000→3400
やっぱり、攻撃誘導系。これ見よがしに『ダーク・ネクロフィア』を出してきた以上、何かあるとは思ったけど。
「『ダグラの剣』の効果。相手に与えたダメージ分、ライフを回復する」
ルインLP4000→4600
「……『儀式魔人プレサイダー』をリリースに使った儀式モンスターが相手モンスターを破壊し、墓地に送った時、デッキからカードを一枚ドローできる。更に、『破滅の女神ルイン』も同じ条件でもう一度だけ続けて攻撃することができる。『終焉の王デミス』に攻撃。『ルインズ・ゲート』」
……慣れない長台詞でちょっと疲れた。
「させぬ! トラップ発動『ドレインシールド』! 女神の攻撃を無効にし、その攻撃力分ライフを回復する!」
「っ……!」
デミスLP3400→6200
これは、あまり宜しくない。デミスを倒せなかった上に、デミスの効果の為のライフまで稼がれてしまった。
「……私はターンエンド」
「ならば! このエンドフェイズに、墓地に送られた『ダーク・ネクロフィア』の効果を発動する! 女神の装備カードとなり、女神のコントロールをこちらに奪う! さあ、我が軍門に降れ!」
デミスの墓地から黒い靄のような怨念が湧き出し、私に取り憑こうとする。
「……お断り。私は手札から速攻魔法『サイクロン』を発動。装備カードとなった『ダーク・ネクロフィア』を破壊する」
私は纏わり憑こうとする怨念を振り払う。
「……言ったはず。私は貴方のものにはならない」
セツにNTR趣味はない……はず。
「ちぃ……余のターン、ドロー!」
……とはいえ、状況はよろしくない。デミスの効果を考えると、攻撃力1600以上のモンスターを出されるだけで私は負ける。……そう考えると、やはりデミスは最初冷静ではなかった。後攻を選んだり、『ダーク・ネクロフィア』を出さず、このターンに出していれば、それで勝てたのだから。私を奪うことや、憤怒に流された結果、勝機を逃した。……最も、それならそれでやりようはあったけれど。
「余は自身の効果を発動する! ライフを2000ポイント支払い、余以外の全てを終焉の闇に!『終焉の嘆き』!」
デミスLP6200→4200
「くっ……!」
私の装備した『ダグラの剣』ごと、空に浮かんだ魔法陣が破壊し尽くして行く。
「バトル! 余自身で、女神にダイレクトアタック!『ジ・エンド・カタストロフ』!」
「く、ああああああああっ!?」
ルインLP4600→2200
デミスの攻撃が、私を強く打ち据える。流石に、キツイ……。
「余はこれでターンエンド。女神よ。そろそろ楽になれ」
「お、断り……私のターン、ドロー」
これで、手札は三枚。まだ、諦める必要はない。
「私は『マンジュ・ゴッド』を召喚。効果発動」
『マンジュ・ゴッド』ATK1400
「デッキから儀式魔法『未来への光』を手札に加える」
「『未来への光』……だと?」
「そう。それが……」
私が見つけたもの。セツが私に見せてくれたもの。今の私が、手に掴むべきもの。
「私は手札から装備魔法『契約の履行』を発動。ライフを800ポイント支払って墓地から『破滅の女神ルイン』を蘇生」
『破滅の女神ルイン』ATK2300
ルインLP2200→1400
「そして儀式魔法『未来への光』を発動。フィールドの『マンジュ・ゴッド』と『破滅の女神ルイン』をリリースして、『希望の女神ルイン』を攻撃表示で儀式召喚」
『希望の女神ルイン』ATK2500
「バトル。『希望の女神ルイン』で、『終焉の王デミス』を攻撃。『シャイニング・ホープ』」
「ぐぅっ!?」
デミスLP4200→4100
「そして『希望の女神ルイン』が戦闘によってモンスターを破壊し、墓地に送った場合、その攻撃力の半分ライフを回復する」
ルインLP1400→2600
「くっ……おのれおのれおのれぇぇ!」
私の反撃に、デミスは苛立つように地団太を踏む。
「本当に、聞き分けのない子」
「黙れぇ! 余のターン!」
デミスは、私の言葉に耳を貸さない。
「余は手札から魔法カード『死者蘇生』を発動! 墓地から『終焉の王デミス』を攻撃表示で特殊召喚する!」
『終焉の王デミス』ATK2400
「っ……性懲りもなく」
「余の効果を発動! ライフを2000ポイント支払い、余以外の全てに等しく終焉を!『終焉の嘆き』!」
デミスLP4100→2100
「くっ……!」
「見たか! これでもわからぬか!? 希望など、所詮儚いものでしかないと! 絶望が、終焉こそが、世界を支配する力であると!」
「……わからない」
「っ……! ならば今一度、その身に受け、知るがよい!『ジ・エンド・カタストロフ』!」
「ぅ、あああああっ」
ルインLP2600→200
デミスのハルバードの一撃が、私の身を打ち据える。
「これでわかっただろう!? いつまであの小僧に、光などに囚われ、縛られているつもりだ!?」
「……縛られてなんか、いない」
「縛られているだろう! 愛などというまやかしに! 愛は鎖だ。捕え、縛るものだ! 解き放ってやろうというのだ。余が!」
「……そしてまた、縛るのでしょう? 貴方の愛とやらで。そんなのは御免」
それに、貴方は一つ、大きな勘違いをしている。
「……貴方の愛と、彼の愛は違う。違いすぎるほどに」
「何が違う!? 余と、あの小僧と、一体どこが違うというのだ!?」
「……彼の愛は、鎖じゃない」
そう。愛は、縛り付けるものなんかじゃない。
「……愛とは、翼だから」
「なに……?」
「愛は縛るものじゃない。彼の愛は、私に|翼(自由)をくれたから」
「翼……自由だと?」
「絶望し、蹲り、俯いていた私に、彼の|愛(光)が希望をくれた。もう一度、羽ばたく勇気を、翼をくれた。だから、私は」
立ち上がり、カードをドローする。
「……魔法カード『壺の中の魔術書』。お互いにデッキから三枚のカードをドローする」
手札の三枚のカード。これが、私の勝利への鍵。
「私は、手札から魔法カード『死者蘇生』を発動。墓地から『破滅の女神ルイン』を特殊召喚する」
『破滅の女神ルイン』ATK2300
「今更何を……!」
「私は、手札・フィールド・墓地それぞれに存在する、『慈愛の女神ルイン』『破滅の女神ルイン』『希望の女神ルイン』をゲームから除外する」
現在、過去、未来。全ての私を一つに。
「これで終わり。手札から『暁光の女神ルイン』を特殊召喚する」
『暁光の女神ルイン』ATK3500
「な……なんだ、これは」
暁。それは、夜明けのこと。暁光は、その名の通り夜明けの光。私が、手に入れた光。
「……バトル。『暁光の女神ルイン』で、『終焉の王デミス』を攻撃。『シャイン・セイニー』」
「ぐおおおおおっ!?」
デミスLP2100→1000
「そして、『暁光の女神ルイン』が戦闘によって相手モンスターを破壊し、墓地に送った場合、そのモンスターの攻撃力分ライフを回復する」
ルインLP200→2600
「ぐっ……」
「更に、ライフを2000ポイント支払うことで、破壊し、墓地に送った相手モンスターを相手フィールドに特殊召喚し、もう一度だけ追加攻撃が出来る」
「なんだと!?」
ルインLP2600→600
「もう一度、バトル!『暁光の女神ルイン』で、『終焉の王デミス』を攻撃。これで、最期!『シャイン・セイニー』!」
「馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
デミスLP1000→0
ルインLP600→3000
デミスの頭上から降り注いだ光が、その野心ごとデミスを焼き尽くした。
「…………」
全てが終わった。デミスは今度こそ、完全に滅した。
「……私は」
決して、彼を嫌っていたわけではなかった。
「貴方を、女として愛することは出来ないけれど」
私の世界に生まれ、育ち、生きていた愛し子である事に変わりはない。例えどんなに歪んでしまっても、私にとっては愛しい子供と同じ。
「だからせめて、魂だけは、安らかに」
デミスのいた場所に落ちていた、『終焉の王デミス』のカードを拾い上げ、胸に抱く。そのカードが逆位置の『皇帝』へと変化した。
「……っ!」
――そして、気付いた。
「……おかしい」
自分のセリフに。自分の思考に。違和感を覚えた。
「……まさか。だとしたら、一体……っ」
――伝えなきゃ。
そう思い、彼の下に……セツのところに走り出そうとして。
「エリアル!」
「っ!?」
聞こえてきた声に、足を止めた。
「エリアル! エリアル、返事をして!」
一瞬の躊躇。けれど私は、すぐに踵を返し、その声の方へと向かった。
(セツなら、大丈夫)
私以外にも、彼を支えてくれる人はいる。私の気付いたことが、例え真実だったとしても、彼ならきっと、間違いはしない。例え間違えても、正してくれる人がいるはずだから。
「だったら、私のやるべきことは」
誰一人、欠けさせたりしないこと。彼の下に、全員で帰る為に、今私がすべきこと。
「あ……あなたは」
「助けが、必要?」
「お、お願いします! エリアルが、エリアルが……!」
「大丈夫」
傷つき、倒れている水鏡の少女に杖をかざす。
「必ず、助ける」
きっとそれが、今私がすべきこと。
・『未来への光』 儀式魔法カード
効果
(1):『希望の女神ルイン』の降臨に必要。フィールド上から、『破滅の女神ルイン』を含み、レベルの合計が12になるように生贄に捧げる。その後、手札から『希望の女神ルイン』を特殊召喚する。
・『希望の女神ルイン』 光属性 天使族 ☆12 攻/守 2500/2500
儀式・効果
『未来への光』により降臨。自分フィールド上の『破滅の女神ルイン』を含み、レベルの合計が12になるように生贄に捧げなければならない。このカードは『未来への光』の効果によってのみ特殊召喚することができる。
このカード以外に、自分フィールド上に『女神ルイン』モンスターが存在する場合、このカードを破壊する。
(1):このカードは相手フィールド上のモンスターの数だけ攻撃することができる。
(2):このカードが相手モンスターを戦闘によって破壊し、墓地に送った場合、その攻撃力の半分ライフを回復する。
・『暁光の女神ルイン』 星12 光属性 天使族 攻/守3500/3500
効果
このカードは通常召喚できない。手札・フィールド上・墓地にそれぞれ存在する『破滅の女神ルイン』『慈愛の女神ルイン』『希望の女神ルイン』をそれぞれゲームから除外することで特殊召喚することができる。
『暁光の女神ルイン』の(2)の効果は、一ターンに一度しか発動できない。
(1):このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し、墓地へ送った場合、墓地に送った相手モンスターの攻撃力分、ライフを回復する。
(2):(1)の効果使用後、ライフを2000ポイント支払うことで、破壊した相手モンスター一体を相手フィールド上に特殊召喚し、もう一度だけ続けて攻撃することができる。
最後のルインオリカです。結局ルインのオリカはリストラなしです。うん。まあどうやらアルカナの顔みたいにもなってるみたいですしね。
さてさて、これで『皇帝』が手に入り、残るタロットは一枚。果たして誰が持っているのか。
それでは、悠でした!