……あ、ギャグ回ですよ?
アルカナ~切り札の騎士~
第十三話「精霊界 沈む心」
俺が目を開くと、そこに広がっていたのは滅びた街。生命の息吹を感じさせないその光景に、俺は何故か心が落ち着くのを感じた。
「……ここはもう終わってしまった街。私が管理していた、そしてデミス王の誕生と共に滅びた世界」
「エンド・オブ・ザ・ワールド……か」
「まさかここに出るとは思わなかった」
「え? お前がここを選んだんじゃないのか?」
「扉を開いたのは、厳密にはキミ。ここを選んだのも、キミ」
「そう、だったのか」
ルインが一緒だから、俺の意識が潜在的にここを選択したのかもしれない。
「……違う」
「え?」
「ここはきっと、キミの心象風景に最も近い地。ここを選んだのは、キミのココロ」
そう話すルインの顔が悲痛に歪んでいるのを見て、俺は周囲を改めて見渡す。
滅びた街。倒壊した家屋。風化した頭骨。そこには、そのような息吹も感じることができなかった。
「これが……俺の」
「心象風景。キミのココロ。もうとっくの昔に傷つき壊れた、キミの精神」
「さっきのルイン達の例で言えば、俺の心はさだめが生まれた時に壊れた、ってことか」
「私に言わせれば、あの子のなんかより、キミの方がよっぽど病んでいる。あの子と十年以上も一緒にいて、今も明るく何事もないように毎日を過ごしている、キミの方が」
「……俺の元気はから元気だよ。常に、な」
「……から元気で、あそこまで楽しそうにできるもの?」
「簡単だ。自分を騙してしまえばいい。今の俺はすごく楽しいんだって。幸せでしょうがないんだって」
仮面(ペルソナ)を被り続けていれば、何時かそれが本当の顔になると信じて。
「やっぱり、壊れてる」
「……いいさ。それでさだめの支えになれる。十分だ」
「何故、そこまでしてあの子を?」
「妹だからだ。俺にとっての唯一無二、絶対不可欠な肉親だからだ。おかしいか」
「その大事な肉親に、キミは殺されかかってる」
「ただの、じゃれあいさ」
「それは、紛れもなくキミの狂気」
「……言っただろ。一途にずっと慕ってくれて、惚れないわけないって」
「キミは……」
「ルインの言った通り、さだめは純粋で、曇りない瞳で、ずっと俺を、俺だけを見てきたんだ。何年も、何年も、ずっと、一途に」
俺は覚えている。あいつの、さだめの笑顔。今の歪んだ笑いじゃない、綺麗な笑顔。
「だから俺は……」
「自分を壊して、自分を騙して、支え続けるの? その果てに待つのが、無残な最期でも?」
「さあ、な。さだめが二歳の頃から変わらずに、俺を慕い続けていたように、俺もまた、そのころからあいつの『支え』であり続けた。もう、他に思い付かない」
思い付いても、選べない。
「砕け散ったガラスのココロ。その破片でまたココロを傷つけて……見てられない」
「……俺も同じだ。見てられないんだ。見たくないんだ。壊れたさだめを。俺の、妹を」
おかしいかもしれない。壊れているかもしれない。狂っているかもしれない。
「でも俺は、それを肯定する」
「清も濁も、併せて呑み乾す。キミは、聖者にでもなるつもり?」
「何にもなる気はない。ただ、妹を護る兄でしかない」
変だな。いつもみたいな仮面(ペルソナ)が被れない。素のままの自分でしかいられない。
「それは当然。ここはいわば、キミの心が露出した地。そんなところにいれば、キミが仮面(ペルソナ)を被れるはずもない」
困った場所だ。素のままの俺なんて、ただの狂って壊れたシスコン兄貴でしかない。
「ここを出よう。素の俺ではいたくない」
「清濁呑み乾すキミが、自分だけは受け入れないのね」
「それができたら……揺るぎはしないさ」
そうさ。それができたら……どうなるんだろうな。アテナの告白を素直に受け入れたか、さだめのためにきっぱり断って、ああして沈みもしなかったろうにな。
滅びた街を出て、しばらく進む。その頃になって、俺はようやくいつもの自分を取り戻していた。
「しかし、精霊界って結構混沌としてるなぁ……」
ハッピーラヴァーがふよふよと飛んで行ったりしたかと思えば、すぐ近くでスカゴブリンが昼寝をしていたりする。道の向こうは昼で、反対側は夜だったりする。
「様々な精霊が混濁して、世界に整合性が取れていない。平和は平和。でも秩序なし」
「なるほどなぁ……で、これからどこに向かうんだ?」
「王都。キミのお姫様たちが待ってる」
「クィーンたちか。そこまでどれくらいあるんだ?」
「……さあ?」
「さぁってお前……」
「さっきも言った。混濁してる。現在地が不透明」
「それじゃ辿りつけなくね?」
「タクシーを使う」
「タクシーあんの!? いや待て、タクシーと見せかけてツクシーだったりするオチはないだろうな?」
「流石にそれはない」
ルインがなんか魔法陣っぽいのを地面に描くと、そこから一体のモンスターが現れた。
「よう、お呼びかい美人の姉さん?」
ルインにそう気軽に声をかけるタクシー(仮)……っていうか!
「サイクロイドだよなぁ! これどう見ても!」
「なんだいなんだい文句があるなら乗せないぜ兄さん。およ? っつーか人間サマじゃねーか。こりゃ驚いた。珍しいお客さんだ」
「……なあ、タクシーじゃなかったのか?」
「タクシー」
ルインがサイクロイドを指差す。サイクロイドがぐっ! とサムズアップした。
「えー」
「精霊界ではこれが一般的」
「え、精霊界ってサイクロイドが一般的な交通手段なの? 何なの? 死ぬの?」
「ほらほら、さっさと乗った乗った! おれっちも暇じゃないんだから、早く目的地を言ってくれ」
「王都まで」
「オーケーわかった任せな」
「早く乗る」
待った。これ一台しかないんだが。
「二人乗り。経費節約」
「おれっちなら大丈夫だ! これでもその昔、岩石の巨兵を二人乗りで送ったことがあるってもっぱらの評判さ!」
「乗ったの!? あれが二つ!?」
物理的にあり得ん。
まあとにかく乗らなければ話は始まらないのでルインと二人乗りでまたがる。俺が前だ。
「おっ! いいケツしてるねぇ人間さん」
「車体の変更を要求する! 俺こいつに乗りたくない!」
なんかこいつ怖いこと言った! 下手したらさだめより怖いこと言った!
「冗談、冗談だって。さっ、早くペダルを漕いでくれよ」
「……」
え? 漕ぐの?
「な~に当り前のこと聞いてるんだい。自転車は漕がなきゃ動かないよ!」
そ、そりゃそうだが……これはタクシーじゃなく普通のレンタサイクルなのでは……。
「出発」
「お、おう!」
それからの道のりは困難を極めた。
「お、おい! なんか異常にペダルの足回りが悪いんだが!?」
「あ~すまんね。最近利用者少なかったからすっかり錆びついちまったらしい」
「ちゃんと整備してから来いよ!」
「ぐっ……坂道は……流石にキツイ」
「ほれほれ、もっときりきり漕げってばよ。こんな速度じゃ欠伸が出らぁ」
「ファイトーいっぱーつ」
「主にペダルが重いのお前らの所為なんだが!?」
「おっ! 兄さん、ガソリンスタンドだ。そろそろガス欠だから寄ってってくれ」
「お前完璧手動だろ!? むしろガソリンつかエネルギー使ってんの俺だからな!?」
「ひゃっほーぅ! 坂道だ! ウィリー!」
「バカ野郎!? 何勝手にウィリー決めてんだ! 落ちるっ、落ちるって!」
「曲がり角さいこぉー! いえーい!」
「ドリフトすんなぁー! ていうかんなことできんなら自分で動けこのポンコツ~!!」
エトセトラエトセトラ。
基本的に道案内しかしない癖に態度だけ妙に偉そうなサイクロイドと一人だけ後ろで涼しい顔で煽るルインの所為で俺の体力精神力ゲージは完全にレッドゾーンに突入していた。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
「ほい到着。ここが王都だ」
「やっと……着いたか、ぜえっ! はっ!」
「んで、料金になりますが……」
このポンコツ、自分じゃ殆ど何もしてない癖に料金までしっかり請求しやがるのか。
「料金決定ルーレットスタート~」
「ルーレット!? タクシー料金ってランダムなの!?」
しかもどう見てもルーレットというよりスロットだし!
「っじゃーん! おおっ! なんとおみごとスリーセブン! フィーバーですぜお客さん!」
「ダメじゃね!? 支払う金額フィーバーしちゃダメじゃね!?」
「カードで。一括」
「毎度ありー!」
「カードあるの!? しかも一括! え、結構安かったの?」
「王国の国家予算五年分」
「たっか!? え? なに? この自転車、一夜にして億万長者じゃね!?」
「私の三日分のお小遣いが……」
「お小遣いすげぇ! 一体誰が払ってんの!? つーか王国の財政末期じゃね!?」
「あーあ、でもこれっぽっちじゃ車体のオーバーホールもできないよ」
「どんだけ金かかるんだよその車体の整備! そんなボロい癖に!」
「こりゃやっぱり国家転覆が急務かな……」
「なに言っちゃってんのこの自転車!? 800の1000の弱小モンスターの癖に!」
精霊界における国家事情が混沌だ。わけがわからない。
「よし、早速パーフェクト機械王の暗殺を計画しよう!」
「無理だよ! そりゃどう考えても実現不可能な
「おっと、その前に酸のラスト・マシン・ウイルスを調達してこないと……」
「それならイケる! ってイケちゃダメだし! 反乱はダメー!」
「おいおい兄さん、この世界じゃ反乱なんて子供のお遊びの一環だぜ?」
「精霊界終了のお知らせ!」
ここはそんなに反乱がありふれた魔窟なのか……。
「じゃーそういうわけで、またなー」
そう言ってサイクロイドはチリンチリンとベルを鳴らして去っていった。……ってやっぱり自分で動けるんじゃん!
「うん……また会えるといいな……いやホント」
「スクラップ状態でなら会える」
「死亡確定!?」
精霊界は、ツッコミどころ満載の世界だった。
「とにかく、お姫様たちのところに行く」
「ああ……そうだな。ちょっと休みたいけど。切実に」
あれ? おかしいな。さだめによって摩耗されつくした俺の精神が痛みを訴えてきてるぞ? 枯れ果てたはずの涙が……うっ!
「これで、いつものキミ。お姫様も心配しない」
「……」
ふ、複雑だ。励ましてくれたような更に精神的に追い詰められたような……。
ともかく、なんとか気を取り直して王都に入る。周りを見渡せばモンスターたちがたくさんいる。中には格闘戦士アルティメーターのような懐かしい奴もいる。外見が全く変わらない同じモンスターもいたりして結構面白い。
「主様。お迎えに上がりました」
「おっ」
そんな風にして見物していた俺に一人の騎士が声をかけてきた。
「ジャック!」
「こうして直接お会いするのは初めてですね。ようこそ。精霊界へ。ようこそ。私たちの王国へ」
そういって頭を垂れてくる。
「よしてくれ。普通に観光に来たってんならともかく、ただ現実から逃げだしてきたバカに、そんな礼を尽くす必要はない」
「は。ですが、例えここに来た理由がなんであろうと、主様が私たちの主様であることに、なんら変わりはありませんよ」
「……サンキュ、な」
「いえ。ですが、せめてクィーンの前ではいつもの主様で居られた方がよろしいかと。……随分と、気を揉んでおりましたので」
「……ああ」
クィーンには、ちょっと厳しく当たっちまったし、謝りたいとも思うが、確かにまずは安心させてやるのが最優先だ。
「……けど、いつも通りの俺とクィーンじゃ、またお前がストライキを起こしそうで心配だよ」
「……それを言わないでください。ですがまあ、その調子ですよ。少しずつ調子が戻ってきてらっしゃるようでなによりです」
「私のおかげ」
「……いや、ルインには凄まじい勢いで体力を奪われたんだが」
「無駄な体力があるから余計なことを考える。それを見越して敢えて疲れさせる私の妙手」
「体力がなくなったらその分気軽な考え事出来なくなると思うんだが?」
「でも今は大分元に戻った。結果を見るべき」
「終わりよければすべてよし、なんてのは過程から目を背けた後ろ向きな言葉だと、俺は認識している」
「ハハハ、大分仲良くなられたようで。これはやはり、私の胃が痛むことになりそうですね」
「なんで機嫌が良さそうなんだお前は」
やっぱりジャックは気ぃ使いだな。……苦労をかける。
「ほら、また表情に陰りが出てきましたよ」
「あ、ああすまん」
ホントに、よく気がつくこって。
ジャックの先導で、王城の中へと案内される。
「む。ジャック殿か」
戦闘を進むジャックに、精悍な面差しの戦士が話しかけてきた。
「おやネイ。今日は、あの鎧は着てらっしゃらないので?」
「今日は久々の休暇だ。我も、休日まで鋼鉄の鎧に身を包む趣味はないよ」
親しげな笑みを浮かべるのは紛れもなく剣聖ネイキッド・ギア・フリード。当り前だが、こんな奴も精霊なんだなと変なところで感心。
「おや、そちらの御仁はもしや……」
「はい。我ら、絵札の三銃士が主、御堂切殿です」
「おお、やはりそうか。なるほど不思議な気配をしている」
「ええと、どうも?」
「はっはっは! そう硬くなられるな。ジャック殿たちの主ならば、この王国の元首も同じ。我のような一兵卒に恐縮することはない」
「い、一兵卒ですか……」
『アテナ』と同じ攻撃力を持つ剣聖に、これほど似合わない言葉もない。
「剣聖。久しい」
「おお! ルイン殿! 今日も変わらずお美しい」
「当然。美貌はいつでも最前線」
「はっはっは! 違いありませんな」
なんかこの人、頬染めてね? え、ルインてもしかして結構モテるのか? 良く見ればネイキッドの他にも男たちがルインをどこか熱い視線で見ているような……。
「当然だぞジャック殿たちの主殿! ルイン殿の美貌は、その美しさで何人もの男を破滅させてきたことから破滅の女神と呼ばれているとも言われるほどだ」
「破滅ってそういう意味だったの!?」
「モテる女は辛い」
「うっわ余裕の発言!」
「でも私は処女」
「いいよそういう情報は! っていうか俺、そんなルインと混浴したんだよな……」
うわ思い出すと恥ずい!
『何だとぅ!?』
「うおおっ!?」
何やら物凄い勢いでネイキッド始め男たちが詰め寄ってきた。
「あ、主殿、否! セツ! そ、それは真か!? るるルイン殿とこここっ混浴!?」
「あ、ああいや、ルインの悪ふざけのようなもんで……」
「気持ち良かった」
『気持ち良かった!?』
「温泉のことだからね!?」
「彼は優しい」
『おのれ貴様ー!!』
「ルインさん紛らわしいこと言わんといてー!? っていうか面白がってるでしょ!? 混浴の時といいさっきといい今といい、俺が困ってるの見て楽しんでるでしょ!?」
ルインは鷹揚に一つ頷く。
「私は破滅の女神」
「超納得!」
なるほどこいつは破滅するわ。
「セツ! 我とデュエルしろ! 騎士の誇りと……主にルイン殿との混浴を賭けて!!」
「すでにその言葉に誇りが一切感じられない!」
精神状態もあってまったく気が進まないが、こいつらの形相からしてやらないとは言えそうもない。
「ははは、これはやるしかなさそうですね。ネイはこうなったら引きませんよ」
「私のために勝ってー」
「お前らちょっと黙れ! 特にルイン!」
「貴様、ルイン殿の麗しい発声を邪魔するか!」
「何より直々に激励の言葉をかけていただけるなど……うらやま、いや妬ましい!」
「お前らも黙れ!」
くそぅ……なんで精霊界まで来て女絡みのいざこざに巻き込まれなきゃ……。
「がんばー」
「ルインてめえ!……ええい! やりゃいいんだろ! やれば!」
「そうこなくては!」
「「デュエル!!」」
こうして、わけのわからないままに俺の精霊界初デュエルが幕を開けた。
ついに登場! この小説のマスコット、その名も……サイクロイド! 以前掲載していた時に行った人気投票でもやけに高い順位を占めていたり(第一回五位、第二回六位)妙に人気のあるキャラだったりします。つか、アルカナ再開した理由もペア・サイクロイドがついにOCG化したことに歓喜して、なので、地味にアルカナ再開の立役者です(嘘のようなホントの話)。
それでは、悠でした!