アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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 今回の話は、再掲載に辺り序盤では最も多く修正、加筆した話ですので、以前読んでいた方も新鮮な気持ちでお楽しみください。








第十五話「恋する乙女の憂鬱」

アルカナ~切り札の騎士~

第十五話「恋する乙女の憂鬱」

 

 

 

 

「はぁ……」

 静まり返った寮の自室で、アテナはもう何度目かもわからない溜息をついた。

「何してるんでしょう……いつになったら、割り切れるんでしょうか……」

 セツに振られてから、もう何ヶ月と経った。いい加減割り切って前に進まなくてはならないとわかっているのに、体は動かない。心が拒否している。

「セツ……今どこにいるんでしょう」

 アテナに別れを告げたあの日から、セツはアカデミアから姿を消した。

 定期船を使った様子も船が奪われた事実もないことから、まだ島内にいるのかもしれないと何度も島内全域を捜索したが、足取りの一つも掴めなかった。なにしろあの時はさだめの発していた瘴気のようなオーラによって殆どの生徒や教員がダウンしていたのだ。得られた情報は、港とは逆方向にルインと向かったらしいという情報くらいだ。

「セツ……せめて、帰ってきて……」

 この数ヶ月、アテナはずっとこんな感じだ。振られたことに落ち込み、セツの無事を心配し、セツに会いたい気持ちでまた落ち込む。明日香たちも何度か元気づけようとしてはいたのだが、何を言っても上の空。まるで魂が抜け落ちたようなアテナには何の効果もなかった。せめて時間が解決してくれたら、と願うも日々アテナの憂鬱は酷くなるばかりである。

「セツのお部屋……行きましょう」

 そしてアテナは毎日のようにセツの部屋に通い、セツの部屋の掃除をする。

 少しでもセツの存在を感じたくて。少しでもセツの役に立ちたくて。

 セツが帰ってきたときに、埃だらけの部屋で過ごすことがないように来る日も来る日もセツの部屋に通い、掃除をしていた。

 尤も、毎日掃除しなければいけない程大きな部屋でもないので最近はもっぱらセツの部屋でボーっとしているだけだが。

 アテナはすでに授業にすら出ていない。部屋から出るのは食事などの生活上必要な場合とセツの部屋に通う時だけだ。

『言ったでしょう? 貴女にはなにも与えない。嘆いて狂って堕ちるといいわ』

 アテナには、時折そんなさだめの嘲笑が聞こえてくる。幻聴だ。聞くことはないと思っても耳に残るあの声が常にアテナを責め立てる。

『お兄ちゃんはさだめを選んだの。貴女じゃなくて、さだめと一緒にいることを選んだのよ』

「うるさい……」

『これでわかったでしょう? いい加減未練ったらしいことはやめて……』

「うるさい!!」

 狂ってきている。アテナはそう自覚しながらも、幻聴に怒鳴り続ける。

「さだめさん……こんな気持ちだったんでしょうか……」

 心の支えがいなくなる。今までずっと自分の味方で、隣にいてくれた愛しいヒトが忽然と消えて、その傍に他の女性がいる。

 これは……地獄だ。なるほど今ならさだめの狂気も理解できる。これは狂いたくもなる。

『何馬鹿なこと言っているの? たかだか数ヶ月一緒にいただけの貴女と、それまでの一生を共に過ごしてきた私とで、存在の重みが同じだとでも? 想いの深さが同じだとでも? 喪失感が同じだとでも? 絶望感が……同じだとでも?』

「っ!」

 さだめの幻聴が心を蝕む。もしこれら全て、さだめの思い通りのシナリオだったとしたら……。

「……大成功ですよ。私、そろそろ耐えられそうにありません」

 部屋の隅で蹲り、震えてしまいそうになる体を必死の思いで動かして、アテナは今日もセツの部屋に向かうのだった。

 そんな折、アカデミアのレッド寮。十代の部屋に一人の編入生が加わった。

「早乙女レイです。よろしくお願いします」

「おう! よろしくな!」

「いやー助かるんだニャア~。ホントは部屋数が足りないからセツ君の部屋に入ってもらう予定だったんだけどニャア」

「それは……ごめん、遠慮してくれ。大徳寺先生」

 流石に、今はいない仲間の部屋を勝手に使うのは気が引ける。なによりアテナが今心の拠り所にしているセツの部屋を、少しでも荒らしたくない。

「わかっていますのニャア」

「え……と、そのセツ君って……?」

「ああ、オレたちの……仲間だ。御堂切って言ってな……」

 言葉を濁した十代に、レイは少し不思議そうな顔をする。

「どうしたんだ? そのセツって奴がどうかしたのか?」

十代たちはレイの言葉にちょっと戸惑う。

「……えっと、その」

「どうしたんだ?」

「今、セツ君は行方不明なんだよ。何ヶ月も前から……。僕たちも必死で探してるんだけど……」

「行方不明? この島で、か?」

 アカデミアのあるここは、所謂孤島である。森なども多いとは言え、数ヶ月も行方をくらませる事などできるのだろうか。

「うん。でもホントに、いきなり消えちゃったんだ。船で島を出た形跡もなくて……」

「ふ~ん、不思議なこともあるもんだな」

「でも、セツのことだし、きっとどっかで飄々としてるさ。今は顔を出し辛いだけだって」

「そうだね」

 セツに関する話題はそこで一旦終了となり、気を取り直すように翔が声を上げた。

「じゃあアニキ、僕たちはお風呂に行ってこようよ」

「え!?」

「レイも一緒に来るんだなぁ」

「おう、すぐ行くぜ!」

「ちょ、ちょっと待って!」

「あん? どうしたレイ」

 洗面用具片手に部屋を出ていこうとしたタイミングで、レイから待ったがかかる。

「そ、その……風呂は、ちょっと」

「なんでだ?」

「い、いや、後で……そう、後で入るから!」

「何言ってんだ。折角新しく仲間になったんだし、裸の付き合いと行こうぜ!」

「は、はだか!?」

 赤面して慌てるレイに、十代たちが訝しげな表情を浮かべる。

「ホントにどうしたんだ?」

「あ……そ、その、そうだ! さっき言ってたセツ? って人について、もっと教えてくれよ!」

 別にセツに興味があったわけでもないが、話を逸らすために使わせてもらった。

「ほら、流石にこの部屋に四人じゃ狭いだろ? さっき先生も言ってたけど、なんでボクがその部屋使っちゃダメなんだ?」

「あぁ……そうだ!」

 言いづらそうに十代が黙る。が、何か思いついたように声を上げる。

「そのセツの部屋、見てみるか? 今なら丁度いるだろうしさ」

「いる?」

 セツは行方不明だと言っていたのに、誰かいる? レイは少し首をかしげた。

「まあいいからいいから」

「でもアニキ……」

「アテナだって、いつまでも沈んでても仕方ないだろ? ここらでちょっと気分転換でもしねーとな」

 それは、十代にしては珍しく気の利いた発言だった。しかし、逆に言えばそれほどに、今のアテナの状態は見ていられないものだったのだ。

 翔たちは先に風呂に向かい、レイは十代に案内されてセツの部屋へとやってきた。

「ここがセツの部屋。まあ、あいつはいつもオレたちの部屋に遊びに来てたから、ここには殆ど寝るときくらいしか帰ってなかったけど」

「ここが……」

 あまり多くの物がない殺風景な部屋。幾つか机の本棚にノートが置いてある。机の上に開きっぱなしで置いてあるノートには、デュエルの研究だろうか。ちょっと読みづらい字でメモが殴り書きされている。

「……何ヶ月も放置されてたのに随分綺麗だな……」

「ああ、それは……」

「……十代さん?」

 アテナのことを説明しようとした時に、ちょうどそのアテナ本人がやってきていた。

「おう。いつもの掃除か? ごくろうさん」

「いえ……十代さんは? それにそちらは……」

「え、えっと、早乙女、レイです。今日、こちらに編入してきました」

 誰だろうと思いつつ、簡単に自己紹介を済ませる。

「そうですか……天音アテナです」

 ぺこりと頭を下げるアテナ。そんなアテナに十代が声をかける。

「セツのことなんだけどさ」

「……はい」

「オレじゃ上手く説明できそうにないから、アテナに話してもらおうと思ってさ」

 それは、今のアテナにはかなりキツいことだ。しかし、十代は躊躇なく踏み込んだ。

「色々あったけどさ。アテナにとって、セツとの思い出って悲しいことじゃないだろ? レイに説明するついでにさ。整理してみればいいんじゃねえかな?」

「そう、ですね……」

「オレは先に風呂行ってるからさ。レイも、また後でな」

「あ、ああ!」

 ピンチを切り抜けられたことで、レイは僅かに声に喜色をにじませる。そしてアテナも、いつまでも沈んでいる訳にもいかないと、アテナはレイに、セツとあったことについて説明し始めた。

「それで、その時セツが……」

「アテナさんって、ホントにセツって人のことが好きなんだね」

しかし、レイにそう無邪気に言われた途端、アテナは言葉に詰まってしまった。

「だって、そんなに楽しそうにその人のことを語るってことは、そういうことでしょ? いいなぁ。ボクも、好きな人とそんな関係になりたいな」

「かん、けい……」

 なんと答えればいい? セツと自分の関係を。

『告白して、振られたんでしょう? そう答えればいいだけよ。何を迷っているの?』

(やめて……)

『事実じゃない。否定したい? したいよねぇ? そろそろ私の気持ちもわかってきたでしょ? そうよ、そんな惨めな思いを感じて生きてきたのよ』

「っ……ぅ」

 幻聴が酷い。頭が痛い。

「ねえ、どうしたの? 頭痛いの?」

「わ、たしは……」

 セツの……なに?

「わかり……ません」

「わからない?」

「私がセツにとってどんな存在なのか……今の私には全然わからないんです」

「……」

 レイはそんなアテナをじーっと見つめて、おもむろにデュエルディスクを取り出した。

「アテナさん。ボク……ううん。私と、デュエルして!」

 そういってレイは被っていた帽子を脱ぎ捨てた。帽子の下から現れたのは長い黒髪。

「え……女の、子?」

 そう、紛れもなくその風貌は女の子のそれ。その目に強い意志を込めて、レイはアテナに申し込む。

「私、アテナさんとデュエルしたい! いいよね?」

「え、えっと……」

「決定! 行こう。寮の裏手でいいよね?」

「え、え?」

 問答無用でレイに引っ張られ、何が何やらわからぬままアテナはレイとデュエルをすることになってしまった。

「な、なんでこんなことに」

「行くよアテナさん! デュエル!」

「デュ、デュエル」

「私のターン、ドロー!」

 戸惑うアテナをよそに、レイはさっさと自分のターンに入る。

「私は手札から『恋する乙女』を攻撃表示で召喚するよ!」

 『恋する乙女』ATK400

 フィールドに人形のようにかわいらしい女の子が現れる。

「そ、それがモンスター?」

「私はターンを終了! アテナさんのターンだよ!」

「わ、私のターン。ドロー」

 アテナは伏せカードの一枚もなしに攻撃力400のモンスターを攻撃表示で出してきたレイに戸惑いを隠せない。

「ええっと……私は『シャインエンジェル』を攻撃表示で召喚してバトルします」

 『シャインエンジェル』ATK1400

 召喚された天使モンスターが、光で『恋する乙女』に攻撃を加える。

『はぁ!』

『きゃああああん!』

「ううっ」

 レイLP4000→3000

「と、通った?」

 しかし、何故か『恋する乙女』は破壊されずにその場に残り、うるうるとした目で自らを攻撃した『シャインエンジェル』を見つめていた。

『うっ……』

 その何するの? 何でひどいことするの? と問いかけるような瞳で見つめられて、『シャインエンジェル』が動揺している。

『りょ、良心の呵責が……!』

「『恋する乙女』は攻撃表示の間、戦闘では破壊されないんだよ! そして、『恋する乙女』を攻撃したモンスターに乙女カウンターを一つ乗せる!」

『恋する乙女』からポワワ~ンとハートが飛び、それを『シャインエンジェル』が受け取った。

「お、乙女カウンター?」

 聞き慣れないカウンター名にアテナは戸惑う。なんだか今日は戸惑ってばっかりだ。

「え、えと。ともかく、ターン終了です」

 わからないものはしょうがない。何かと物知りなセツなら『恋する乙女』の効果についても教えてくれたんだろうが……。

『でももう兄さんはいない。なにも言ってはくれない』

「っっ!」

 また、幻聴。さだめの声だが、やっぱりこれは自分の心の声なのかもしれない。

「私のターン! ドロー!」

 レイの声が随分と遠くに聞こえる。

「私は手札から装備カード、『キューピッド・キス』を『恋する乙女』に装備! バトルフェイズ!」

「えっ!?」

 レイのフィールドにいるモンスターは相変わらず『恋する乙女』一体。装備魔法も、別段攻撃力を上げる類のものではなかったらしく攻撃力は400のままだ。

「これが『恋する乙女』の真髄!『恋する乙女』で『シャインエンジェル』を攻撃!『一途な想い』!」

『天使さま~』

 攻撃というよりどう見ても抱きつきに行っているだけとしか思えない『恋する乙女』は、『シャインエンジェル』にひしっ! と抱きしめられた。

 レイLP3000→2000

「え、ええ~?」

 自分からダメージを受けに行っているとしか思えないレイのプレイングに、アテナは困惑の声を上げた。

「そして『キューピッド・キス』の効果発動! 乙女カウンターが乗ったモンスターに攻撃してダメージを受けた時、そのモンスターのコントロールを貰うよ!」

「ええ!?」

 『シャインエンジェル』が抱きしめた『恋する乙女』をそのままお姫様だっこしながら背中の翼でレイのフィールドに移ってしまった。

「そして『シャインエンジェル』のダイレクトアタック!」

『申し訳ありませんマスター! 私は……私は愛に生きます!』

 そんな天使らしいようならしくないようなことを叫びながら『シャインエンジェル』がアテナを攻撃した。

「きゃああああ!?」

 アテナLP4000→2600

「ターンエンド! どう!? 恋する乙女は強いんだよ!」

「恋する乙女……」

 そのフレーズに、アテナの心はまた沈んだ。

 そんなアテナに、レイが静かに問いかける。

「……ねえ、アテナさんってセツさんが好きなんだよね?」

「え……?」

「そうだよね。あからさまだし」

「わ、私は……」

 もう、振られた。その事実がアテナの心に重くのしかかる。

「まあ答えなくてもいいよ。見ればわかるもん」

 私はね。と前置きしてレイは話し始める。

「見ての通り、ホントは女の子で……歳も11歳なんだ。でも、このアカデミアに好きな人がいて……それで、こんな風に嘘吐いてまでアカデミアに来たんだ」

 好きな人のために、いけないと解っていても違法な手段でこの島に来た。その、迷いの全く感じられないその言葉に、アテナは打ちのめされた気がした。

「……多分、私も振られると思う」

「え?」

「歳も違うし、殆ど話したこともないし、その人はとってもすごい人で……もう恋人がいるかもしれないし」

 それでも。それでも、レイは来た。

「実際に振られた時、私がどうするかはわからない。でも、きっと後悔はしないと思う。悲しいけど、その人を好きになって良かったって思いたい。あ、勿論振られるつもりなんてないけどね?」

 冗談めかしてそう言うレイが、眩しかった。

「アテナさんがどうするのかはわからないけど……アテナさんにとってその恋は、もう終わっちゃった? それとも、まだ続いてる?」

「わたし、は……」

「終わっちゃったならそれでもいい。でも、今見る限り……そうは見えないなぁ」

 アテナは、そう言われて思い返す。自分の中の、セツへの想いを。

「さっきの質問、もう一回聞くね? いい?」

「え……」

「アテナさんの恋は、もう、終わっちゃった?」

「…………」

 また、答えに窮する。振られた。その結果だけ見れば、アテナの恋は、もう終わった。失恋という形で、幕を閉じた。だが……。

「わ、わかりません」

「じゃあアテナさんにとってのセツさんって何? これも答えられない?」

「そ、れは……」

 自分にとってのセツ。

 考えてみる。

 最初にセツが、『アルカナ ナイトジョーカー』を召喚したときの凛とした横顔に引きつけられた。その後の『融合解除』を使うときの無邪気な笑顔が可愛かった。

 本当に、一目惚れだった。

 それから女子寮の裏で本気のデュエルをした。罠かもしれないのに恐れず向かってきたセツがカッコよかった。

 セツと過ごす時間の中で、どんどん、どんどん好きになっていって……。

『振られたんでしょ?』

「っ」

 そうだ。どんなに思い出を振り返ったところで、最後に待つのは振られたときのあの絶望。目の前が真っ白になって、知らず涙がこぼれていたあの時に辿りつくだけ。

『それまでいい感じだったのに、あっさり振られた貴女はどう思った? 兄さんのこと、怨んだんでしょう?』

「怨……んだ」

 そうなのか? 自分はセツを、大好きだったセツを今、怨んでいるのか?

『怨むよねぇ。それまでどこまでも献身的に、一途に寄り添ってきたのに、あっさり捨てられて……憎いんだよね?』

「……ちがう」

『……』

「違う……!」

 そうだ、違う。セツが自分のことを本当はどう思っているか。それはわからないし、本人に確かめてみるべきことだ。

 それでもただ一つ、間違いのないこと。

「私にとって、セツは大切な人です。それだけは、確かです」

『振られたくせに……』

(それでも……)

「私は、セツが好きなんです」

 セツの瞳に恋をして、セツの笑顔に胸がときめき、セツの声が愛しくて、セツの背中に憧れた。

 一目惚れなんてしない。そう思っていた。

 普通にしゃべって、普通に友達になって、その内にいつの間にか恋をして……そんな恋愛をすると思っていた。でも……ちがった。

「全部全部全部、吹っ飛んじゃいました。それまで私が考えていた恋愛観。全部あの時セツに会って、なくなっちゃいました」

『運命感じちゃいました!』

 あの時そう言った。

「でも、もう言わない」

 『運命』なんかで、恋はしない。

「私は私の意志で、セツが好きになったんです。『運命』なんかじゃない。だから……」

 『運命』には……さだめさんには、負けません。

『……ふん。好きなだけ吠えてればいい。直に、そんな余裕はなくなる』

「ありがとうございます。レイさん。私、ようやく前を向けそうです」

「……うん!」

 レイは満面の笑顔で頷く。アテナもくすりと笑う。

「それでは、復活記念ということで、手早く済ませてしまいましょう!」

「へっ?」

「ドロー! 私は手札から『ヘカテリス』の効果を発動! デッキから『神の居城―ヴァルハラ』を手札に加えて発動!『アテナ』を特殊召喚!」

 『アテナ』ATK2600

『まったく……心配させてくれちゃって。人騒がせな娘ね』

「えへへ。ごめんなさい。でも、もう大丈夫です。だからシャルナ! ちゃちゃっと済ませてしまいましょう!」

『ま~かせなさい! まずは、あの馬鹿天使からね』

『あ、アテナ様……?』

『ったく。天使ともあろうやつが、あっさり色香に参ってんじゃないわよ。ちょいと反省しときなさい』

「バトルフェイズ!『アテナ』で、『シャインエンジェル』を攻撃!『ジャッジメント・レイ』!」

『さっさと……』

『ひぃっ!?』

『役目果たしてこんか馬鹿モンがぁ~!』

『たっ、ただいまぁ~!』

「きゃああ!?」

 レイLP2000→800

「墓地の『シャインエンジェル』の効果発動! デッキから『コーリングノヴァ』を攻撃表示で特殊召喚!『アテナ』効果で600ダメージ!」

「わああ!?」

 レイLP800→200

「『コーリングノヴァ』で『恋する乙女』を攻撃!『新星の輝き』!」

「うわあああああっ!?」

 レイLP200→0

 

 

 

「ふう。すっきり!」

「……私は複雑」

 迷いも吹き飛び、流れるように勝利を掴んだアテナはともかく、余計な助言の所為でちゃちゃっと片づけられたレイは不満げだ。

「あ、あはは。ごめんなさい」

「……ううん。まだこんなに差があるんだなぁって実感できたから、良かったよ」

「そう言って貰えると嬉しいです」

「ん。でもすごかったよ。とっても強かったんだね。アテナさん」

「セツには負けましたけどね」

「う~んセツさんって凄いんだね。私も強くなったつもりだったけど、もっと強くならなきゃだめだね」

「お互いに、ですね」

「うん!」

 お互いに笑顔で握手を交わす。

「お~い!」

 そんなときに、寮の影から十代たちが現れた。

「わっ! やばっ……」

 慌ててレイが帽子をかぶり直そうとするが、念入りにバンダナで括って仕舞わないと入りそうにない。

「ああ、もういいって。全部そこから見てたからさ」

「そ、そうなの……?」

「ああ。レイの様子がなんかおかしかったし、とりあえず明日香も呼んで観戦してた。二人ともすっげえデュエルだったぜ!」

「……アテナも、立ち直れたようでなによりよ。レイちゃんには感謝しないといけないわね」

「明日香さん……御心配をおかけして、どうもすみませんでした」

「いいのよ。元気になってくれたなら何よりだわ」

「はい……」

「それじゃあ、レイはどうすんだ?」

「えっと……」

「今日は、私の部屋に泊めましょう。明日、定期船を使えばいいと思います」

「……いいの?」

「はい! レイさんには恩ができてしまいましたから、恩返しです」

「うん! ありがとう!」

「へへっ! やっぱデュエルは最高だな!」

「ええ。二人とも、すっかり仲良しになったみたいね」

 視線の先には、笑顔で話す二人の姿。

「今日はレイさんの恋のこと、聞かせてください!」

「いいよ~。でも、アテナさんも、セツさんのこと聞かせてね!」

「はい! えへへ、今日は眠れなくなりそうですね!」

「うん!」

「……なんか、ここにはいない奴が不憫になってくる気もするな」

「そうです! どうせだから加藤さんとかも呼んじゃいましょう!」

「え~誰々その加藤さんって!」

「それがですね……」

 きゃいきゃいと、この場にいない人間のことで盛り上がる女子たち。

「……セツ。オレにはちょっと力になれそうもないや。帰ってきたら覚悟しといた方がいいぜ」

 それを見ながら、今はどこにいるともしれないセツに、十代は呼びかける。

「早く帰ってきた方が、説教は短く済みそうだぞー?」

 だから、早く帰って来い。そんな想いをこめて、十代は空の向こうへと呼びかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……せっかく趣向を凝らしたのに……」

 闇に包まれた部屋。その部屋以上に暗い瞳をしたさだめは唇を噛む。

「早乙女レイ……腹立たしい。私の趣向を邪魔するなんて……」

 さだめは少し考えて、くすっと笑った。

「そうね。ちょっとした肩慣らしでもしましょうか。ちょうどいい贄ができたわけだし。くふっ! くふふふふっ! アハハハハハハハハハッ!!」

 狂気は止まることを知らず、やがて暴走する。その手に、悪魔の力を携えて……。

 

 

 

 

 

 




 というわけで、以前はあったレイのセツフラグが消し飛んでおります。ついでに、流れの都合上、カイザーへの告白もしてませんので、十代フラグすら消えてます。
 ちなみに、アテナがワンキルしなかった稀有な例。ホントに、ここ以外に思い浮かばないくらい珍しい例です。あ、アテナで恋する乙女を攻撃してればシャインエンジェル攻撃する必要なかったんですが、あれは演出の都合上です。
 それでは、悠でした!
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