では、心の準備が出来た方からどうぞ。
アルカナ~切り札の騎士~
第十六話「そして誰もいなくなる」
「じゃあね~! 今度はー! またちゃんと小学校卒業してから入学試験受けにくるからー!」
昨夜は遅くまで話し込んでいたというのに、まったく疲れた様子を見せないレイが定期船に乗って帰っていく。
アテナたちはそれを皆笑顔で見送る。
「おー! 次来る時までにー! セツの奴連れ戻しとくからなー!」
「次はちゃんと連絡してくださいねー!」
「気をつけるのよー!」
声が届かなくなるまで大声で別れの言葉を投げ合う。本当に、レイには感謝してもしきれない。レイがいなければ、アテナは精神的に参ってしまっていたかもしれないのだから。
「さあ、そうと決まれば、どうやってセツを探すか考えないと、です!」
「ふふ。調子が戻ってきたじゃない」
「大体、たかが一回振られたくらいで諦めてたらそもそもさだめさんには勝てませんから。押して押して押しまくって勝利を掴んで見せますとも!」
ぐっ! と改めて気合を入れるアテナだが、明日香は別のところに引っかかりを覚えた。
「さだめ……彼女は、今どうしているのかしら?」
「……正直、あんま思い出したくないけどな」
「けど、彼女の執着具合を考えると、セツは彼女のところということも考えられるわ」
拉致、監禁。どちらもさだめならためらいなく実行することだろう。
「それに去り際のセリフも考えれば、放っておくわけにもいかない、か」
三人で顔を見合わせ相談していると、三沢が走り寄ってきた。
「お~い! 十代、アテナ、天上院君!」
「三沢? どうしたんだよ」
「ああ。校長が俺たちを呼んでいるそうだ。なんでも俺たちに頼みたいことがあるらしくてな」
「頼みたいこと?」
「ああ。メンバーは俺・十代・アテナ・天上院君・カイザー・万丈目・クロノス先生の七人だそうだ」
「亮やクロノス先生も?」
「俺もまだ内容は聞かされていない。とりあえず、校長室に向かおう」
「わかりました!」
「七星門?」
三沢と共に校長室に入室したアテナたちは、その聞き慣れない言葉に首をかしげた。
「うむ。この島の奥には、かの『幻神獣』三体とも並ぶと言われるほどのカードが封印されているのだが、七星門は、その封印を護るための門なのです」
校長の何時になく真剣な様子に、アテナたちも表情を引き締める。
「そして、最近この七星門を開こうと暗躍している者たちがいるという情報を聞きつけ、急遽、対策を取ることにしたのですが……」
早い話が、七つある七星門の鍵をアテナたち七人に護って貰いたい、と言うのが校長の話だった。
「暗躍している者たちの通称はセブンスターズ。彼らは恐ろしい闇のデュエリストで、闇のデュエルというものを挑んでくることでしょう。とても危険な任務になりますが……」
「任せとけって! 鍵は絶対、オレたちが護る!」
「フン! お前たちだけに任せておけるか。いいだろう。このオレ様もやってやる」
「はい! 俺も必ず、任務を果たします!」
「ああ。デュエルを悪用しようとしている奴らを、放ってはおけん」
「イヤなノ~ネやりたくないノ~ネ。でもドロップアウトボーイたちに舐められるのはもっとイヤなノ~ネ」
「アテナ、大丈夫? 私はやるけれど、貴女は……」
「アテナ君。私としても、君のように幼い女の子をこんなことに巻き込みたくはないのですが……本当なら、御堂切君に頼むことも考えていたのですが……」
セツは今行方不明。頼むこともできない。そしてアテナは、紛れもなく校内最強の一角である。
「……いえ、やります。私がセツの穴を埋められるのなら、喜んで!」
そうして、アテナたちが七星門の鍵の守護者を引き受けた頃、すでに闇の胎動は動き始めていたのだった。
「ぅう~ん。でも、アテナ。セツさんに会えるといいな。今度会ったら、どうなったか聞こうっと」
軽く伸びをしながら、レイは定期船を降りて本土へと到着していた。
「そう。でも、貴女があの女に会えることはもうないわ」
「っ誰!?」
レイが振り向いた先にいたのは、黒髪をショートポニーテールにした小柄な少女。
「貴女は……」
「私? 私はさだめ。今は、セブンスターズのさだめ、とでも言えばいいのかな」
「セブン……スターズ?」
「ああ、貴女は何も聞かされてないんだっけ? まあいいか。私の要件はね?」
デュエルディスクを装着し、昏い笑みを浮かべる。
「折角順調だった流れを勝手にせき止めた、邪魔な蛆虫を消すことよ。早乙女、レイ」
「っひ!」
突如広がった闇に、レイは恐怖する。何だ、一体何が起きている?
「さあ、デュエルディスクを構えなさい。これから楽しい楽しい闇のゲームの始まりよ」
「あ、あぁうあ……」
殺される。レイは直感的にそう思った。
「デュ、デュエルで勝てば……・見逃してくれるの?」
「ええもちろん。だってこのゲームの敗者は魂を永遠の牢獄に囚われてしまうもの。貴女が勝てば、私はもう貴女を消せない。簡単でしょ?」
なにが簡単なものか。つまり、勝てなければ自分は殺されるのと同義だ。
「逃げようったって無駄。もう闇のゲームは始まってしまったもの。今から逃げようとすれば、サレンダーとみなして魂を奪わせてもらうわ」
「そんな……」
つまり、もう勝つしか生き残る術はない。
「さあ、さっさと構えて、そして死ネェェェェ!!」
「ひぃっ!?」
構えなければ殺される。その恐怖に震えながらレイはデュエルディスクを手に取った。
「じゃあ始めましょうか。デュエル!」
「デュエル……」
「お姉さん優しいから、貴女に先攻は譲ってあげるよ。さあ、ドローしなさい」
「ど、ドロー! 私は『恋する乙女』を攻撃表示で召喚! ターンエンド!」
周囲の闇に脅えているのか、『恋する乙女』も不安げだ。
「……フフ。私のターン。ドロー!」
そんな怯えるレイと『恋する乙女』を満足げに眺めるさだめ。
「私は手札から『処刑人―マキュラ』を攻撃表示で召喚!」
「えっ!?」
レイは驚愕した。なぜならさだめが出した『処刑人―マキュラ』は……。
「き、禁止カードでしょそれ! なんでそんなの……」
「貴女こそ何いってるの。これは闇のゲーム。公式試合でもなんでもない、いわば野試合と同じ。なら、禁止だの制限だのなんて些細な違いよ」
「そんな……ズルイ」
「アハハッ聞く耳持たなぁ~い。改めて自己紹介しておくわ。私はさだめ。『禁止スタンダード』の御堂運命よ」
さだめの掲げたカードから迸った雷撃が、レイの『恋する乙女』を貫いた。
「あああああああ!?」
「さあ……闇のゲーム、本領発揮だよ?」
そして十代たちも、大徳寺の企画した課外授業で、闇のゲームというものを体験した。まるで本当に自分が攻撃を受けているかのような衝撃。恐怖もあった。だが、だからと言って守護者の任を降りるわけにもいかなかった。
課外授業を終えて、数日としないうちに、第一のセブンスターズとしてダークネス。即ち、明日香の兄である天上院吹雪が十代とデュエルした。結果は辛くも十代の勝利。しかし、そのデュエルで十代は大きく体力を消耗した。
続いて襲いかかってきたのはヴァンパイアのカミューラ。相手のモンスターを全て破壊し、自らの墓地からモンスターを特殊召喚する凄まじい効果を持った『幻魔の扉』というパワーカードを使い、その上人質や蝙蝠によるデッキの盗み見等、卑怯な戦術を駆使する難敵に、クロノスとカイザーが敗れるも、またそれを十代が撃破。今に至る。
その日、アテナは未だ意識の戻らない兄を看病している明日香に、差し入れを持っていくため病室へと向かった。
「明日香さん。アテナです。入っても大丈夫ですか?」
ノックと共に声をかけるが、しばらく待ってみても反応がない。
「明日香さん? 入りますよー」
仕方ないので一応断ってから扉を開く。
「あれ? いませんね……お手洗いにでも行ったんでしょうか……」
とりあえず差し入れをテーブルの上に置こうとして、そこに置かれている一枚のカードを発見する。
「何、これ……『ウィジャ盤』……?」
明日香のデッキコンセプトにも吹雪のデッキコンセプトにも合わないカードだ。何より、病室に置いておくには不吉に過ぎる。
「不吉……」
ふと、アテナの脳裏に『終焉のカウントダウン』を使っていたさだめの顔が過る。
「まさか、そんなことないですよね……」
いくらなんでも考え過ぎだ。そう思って気にしないことに決めたアテナだが、その日、いくら待ってみても明日香が帰ってくることはなかった。
「明日香さん、どうしたんでしょう」
「明日香まで行方不明って……セブンスターズのこともあるし、心配だな……」
十代にも相談したが、今度はセツの行方不明騒動と違ってセブンスターズの脅威もある上に明日香は七星門の鍵も持っている。
「やられちゃった、とか……ないですよね?」
「大丈夫! 明日香の奴、すっげー強かったじゃねーか! 簡単にやられたりしねーよ!」
「アニキ!」
十代がアテナを励ますように明るくそう言った時、顔を真っ青にした翔が部屋に駆けこんできた。
「ど、どうした翔、そんなに慌てて……」
「お兄さんが……お兄さんがいなくなっちゃった!」
「なんだって!?」
「亮さんが……!?」
「それで……お兄さんの部屋の扉にこれが……」
そう言って翔が見せたのは……『死のメッセージ「E」』。
「これ……って」
アテナは明日香がいなくなったときに見つけた『ウィジャ盤』のカードを取り出す。
「犯人からの……死のメッセージ……ってことか」
「じゃ、じゃあお兄さんは……」
「つかまってしまった可能性が非常に高いです……」
「そんな……」
「くそっ!」
あのカイザー亮が誰にも気づかれない内に易々と。まだ見ぬセブンスターズに、アテナたちは戦慄した。
「これ以上やらせるか! 翔、他の皆に召集かけるぞ!」
「う、うん!」
兄が倒されたかもしれないと落ち込みかけた翔だったが、十代の言葉に急いで他の守護者たちに連絡をする。しかし……。
「あ、アニキ! クロノス先生に連絡がつかないよ!」
「なんだって!? 行くぞ翔、アテナ!」
「うん!」
「はい!」
イヤな予感がした三人は急いでクロノスの部屋へ向かう。そしてそこには……。
「あ……」
「そんな……」
扉の真正面にある壁に何枚もの『死のメッセージ「T」』のカードがTの形に張り付けられていた。
「エスカレートしてる……」
「『死のメッセージ』は、特殊勝利までの準備カード……ってことは」
明日香や亮、クロノスは即ちまだ準備運動でしかない、ということか。
「ねえ……確か死のメッセージはEの次はAだったはずだよ!?」
「それじゃ……まさか」
他の誰かがもう一人……。
「これは……なんということだ」
「校長先生!」
愕然とするアテナたちの後ろに、何時の間に現れたのか鮫島校長が立っていた。
わけを聞いてみると、万丈目の部屋の惨状と、今起こっている異常を照らし合わせた結果、クロノスも危ないのではということで確かめに来たのだという。
「万丈目の部屋が……どうしたんだ?」
「……万丈目君の部屋が、カードで埋め尽くされていると連絡があったんだ。それでそこに行ってみたら……」
「何のカードが……あったんですか?」
半ば確信していたが、そうでなければいいと願い、アテナは尋ねた。
「……『死のメッセージ「A」』が、部屋中に散らばっていたよ。でたらめに、部屋を荒らしまわった後のような酷い有様だった」
もう……その答えは明らかだった。
「み、みんな……」
「う、うそでしょ? うそッスよね……?」
信じたくない。そう思って周囲を見回す翔だが、全員その表情は暗い。
「あと残るメッセージはたった一つ」
そんな中で鮫島校長が重苦しい口調で語り出した。
「最後のHが揃ったときのことはあまり考えたくありませんが……」
「待ってくれ……三沢は?」
「あ……」
守護者にはあと一人、三沢大地がいたはずだ。その彼はここにいない。一同に不安が走る。
「……行ってみよう! 三沢の部屋に!」
「っ!」
「ひぃ……」
三沢の部屋。翔は思わず腰を抜かしてへたり込んだ。彼らの目に飛び込んできたのは、壁一面に五寸釘で打ち付けられた大量の『死のメッセージ「H」』。
「し、正気の沙汰じゃない……」
恐怖に震えるように鮫島校長が漏らしたそのセリフに、アテナはこれをやった犯人が誰なのかがわかった。わかって、しまった。
「さだめさん……」
「え?」
「これ……さだめさんじゃ……」
「は、はは。ま、まさか……」
その可能性に、流石の十代も顔を引き攣らせた。
大いにあり得る可能性だ。
この陰湿で、恐怖を煽る悪質な手口。途方もない憎しみの感じられるメッセージ。
「だとしたら……」
一行は全員、アテナを見つめた。さだめがここまでの憎しみを向ける相手はアテナ以外にいない。まだアテナが無事なのも、アテナの恐怖を極限まで煽るためだと考えれば辻褄も合う。
「けど、なんでオレは無事なんだ?」
「十代さんは、大抵誰かとずっと一緒にいたからじゃないでしょうか」
「もしくは、彼女が十代君を危険視しているからかもしれません」
「オレを?」
なんだかんだで、今までのセブンスターズを全員撃退してきたのは十代だ。そのことでさだめが十代を避けた、と考えるのはそれほどおかしなことでもない。
「よし、じゃあしばらく、アテナにもレッド寮で過ごして貰うっていうのはどうだ?」
「ふむ……悪くはないと思いますが……」
「アテナはどうだ? 寝泊まりするところは、それこそセツの部屋使えば……」
こんな状況だが、セツの部屋で寝泊まりするというのを想像し、アテナは顔を赤らめた。
「そ、それもいいかもしれませんね。そうしましょう」
即決。特にためらいもなく、アテナはそうすることに決めた。鮫島校長も特例として許可してくれ、アテナはしばらくの間レッド寮セツの部屋で寝泊まりすることが決定された。
「じゃあ私、部屋から数日分の生活用品取ってきますね」
「気をつけろよ」
流石に女子寮に入るわけにもいかず、十代たちは女子寮前で待機する。
「大丈夫です。寄り道せずに取って帰ってきますから」
不安をふっ切るように笑顔でそう言って、アテナは部屋に戻る。
「えっと、カギカギ……っと」
ポケットから部屋のカギを取り出し、扉を開く。
「…………………き」
部屋に一歩踏み入った瞬間、アテナは思わず悲鳴を上げた。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
アテナの絶叫は外にいた十代たちにも当然聞こえた。その時ばかりはここが女子寮だとかいうことを忘れ、アテナの部屋までダッシュした。
「アテナ! 大丈夫か!?」
「アテナちゃん!」
「あ、あ、あ、あ」
アテナの部屋の扉の向こうには……。
「……!?」
「あ……」
十代は絶句し、翔は一瞬意識を飛ばした。なぜなら、扉を開けた先にあったのは扉と同じ大きさの『墓場からの呼び声』だったのだから。
「……クソ!」
十代がその巨大な『墓場からの呼び声』を押しのけて部屋に押し入ると……。
「……いらっしゃい」
悪魔が、手招きをしていた。
「さ、さだめさん……」
「余興は楽しんで貰えた? 蛆虫さんたち」
悠然とアテナのベッドに座るさだめはごくごく自然体で、普通に遊びに来た客をもてなすかのよう。この異常な状況下で、そんな『普通』は逆にどこまでも『異常』。
「ああそうそう。これ、さだめちゃんからのプレゼント。ありがたく受け取って」
そう言ってさだめがアテナたちの足元にばら撒いたカード。それは……。
「お、お兄さん!?」
「明日香たちも!」
『魂の牢獄』そう書かれたカードに描かれていたのは行方不明になった仲間たちの姿が。しかもそれだけではなく……。
「レイ……さん!?」
そう。その中にはつい最近友達になった、早乙女レイのカードがあった。
「ああ、その子ね。肩慣らしとしてさくっと」
それがどうしたと言わんばかりのさだめ。
「なんで……レイさんを……」
「私の趣向を邪魔した。ほら、有罪は確定じゃない」
「貴女……」
「さ、それじゃあ最後の最後。クライマックスと行きましょうか。蛆虫」
さだめがデュエルディスクを構え、アテナに視線を向ける。
「待て! あんたの相手はオレだ!」
アテナを庇うように十代が立ち塞がるが、さだめはにべもなく否定する。
「お断り。私の目的はそこの蛆。三幻魔とか、ぶっちゃけどうだっていい。それに誰が好き好んで主人公補正バリバリのチートドローなんて相手にするものですか」
「しゅじ……?」
十代たちはさだめの言った意味がわからず困惑する。
「わ、私が勝てば、みんな解放してくれるんですよね?」
「さあ? してくれるんじゃないかな? 解放の仕方とかしらないけど」
「な……」
「大丈夫だよ。どうせテンプレで助かるように出来てるから」
さだめの言葉の意味はさっぱりわからない。わからないが……。
「ごめんなさい十代さん。やっぱり、ここは私にやらせてください」
「アテナ……」
「さだめさんとは、やっぱり私が決着をつけなきゃいけないと思うんです。だから……」
アテナの瞳に、強い決意の色を見た十代は、しぶしぶ頷く。
「……わかった。けど、絶対無理すんなよ!」
「はい!」
「テンプレ展開乙。それじゃ、ここからテンプレを外れるとしよっか」
「「デュエル!!」」
「私のターンよ。ドロー」
さだめはアテナを先攻にする気はないらしく、問答無用で先手をとる。
「私は手札から魔法カード『名推理』を発動」
「『名推理』?」
「さあ、モンスターのレベルを一つ宣言しなさい。蛆」
「え、えっと?」
「『名推理』は、私のデッキの上から通常召喚可能な出るまでカードをめくり、それが貴女の宣言したレベルだった場合それをそのまま墓地へ。そうでなかった場合はそのカードを特殊召喚するの。さあ、さっさとしてよ」
「じゃあ……レベル4」
アテナは、通常最もデッキに入る割合の高いレベル4を選択した。
「くふっ! ええ。いいわ。じゃあ始めましょう」
さだめはすごい勢いでカードをめくり始める。レベル4はおろか、モンスターさえ全然出てこなかった。
「あいつ、めちゃくちゃ事故ってるんじゃないか?」
「じゃあもしかして、結構簡単に勝てちゃったりするかも!」
「フフ……これでいいのよ」
「え……」
そしてようやくモンスターを引き当てる。
「レベル1!『サイバー・ヴァリー』を特殊召喚!」
『サイバー・ヴァリー』ATK0
「サイバー流モンスター!?」
驚く翔に、さだめは愉快そうに解説する。
「アハハッ! 貴方のお兄さんはとってもいい贈り物をしてくれたわ。おかげでこんなデッキが組めたんだもの」
亮を倒した際に奪い取ったのだろう。卑劣な行為にアテナは憤慨する。
「死力を尽くして戦った相手のカードを勝手に……!」
しかしさだめはまったく気にした様子を見せない。
「死力? そんなもん尽くす前に負けたんだからいいじゃない。何がアカデミア最強よ。使ってくるカードがわかってるなら、それに合わせたデッキを組めばいいだけ。テーマデッキなんか相手にもならないわ」
「お前……!
仲間を馬鹿にするような言動に、十代が色めき立つ。が、やはりさだめは無視。アテナのことしか目に入っていないのだろう。
「さあて、続けよっか。『サイバー・ヴァリー』の効果で自身をゲームから除外して墓地の『マジカル・エクスプロージョン』をデッキの一番上に戻す。手札から『手札抹殺』を発動」
「え!?」
アテナの手札の『オネスト』『神の居城―ヴァルハラ』『光神テテュス』『ジェルエンデュオ』『紫光の宣告者』が全て墓地に捨てられる。その中の『紫光の宣告者』を見てさだめは本当に愉快そうに笑った。
「アハハハハハハハハハハッ! ああ良かった良かった。私ってば最高! アハハッ」
「な、なんです?」
「貴女の勝ちはほぼなくなったってこと。カードを三枚セット!もう一体『サイバー・ヴァリー』を攻撃表示で召喚してターンエンド!」
『サイバー・ヴァリー』ATK0
さだめの狙いがわからない。一体何を思って自らのデッキを破壊したのか。
「私のターン! ドロー!」
とにかく、さだめの真意がどうあれ、何かする前に速攻でケリをつければ問題ない。そう思っていつものようにカードを展開しようとして……。
「前に言ったでしょう? 貴女には何も与えない」
「……え?」
アテナが自らのライフゲージを唖然として見つめる。
アテナLP4000→0
「貴女のスタンバイフェイズにトラップカード『マジカル・エクスプロージョン』を発動したんだよ。『マジカル・エクスプロージョン』は、墓地の魔法カードの枚数×200ポイントのダメージを相手に与える。私の墓地にある魔法カードの枚数は23枚。合計4600ダメージで死亡確定」
「そ……な」
「貴女には何も与えない。加速する時間も、カードを発動する機会も……兄さんも。何も与えないし、全部奪うよ。貴女の持っているもの全部」
そう酷薄な笑みを浮かべるさだめの声を、アテナは何処か遠くに聞いていた。
声が、上から聞こえてくる。目の前が真っ暗だ。
(……あ、わたし、たおれてるんだ……)
十代や翔の呼びかけももう聞こえない。聞こえるのは、こちらを見下したさだめの声だけ。
「永遠の闇を彷徨うがいいわ。貴女のは特別製。苦痛と絶望が延々と繰り返される闇の奥底に沈めてあげる。それでも正気を失うことができない真の地獄だよ。悶え苦しみ、後悔しなさい。兄さんに手を出したことを。そう……」
さだめの狂気を宿した笑顔が、アテナの脳裏に浮かび上がる。その唇が、最後に五文字の言葉を紡ぎ出すのを、アテナは薄れていく意識の中で聞いていた。
「永遠に」
そして、アテナの意識は闇へ呑まれた。
尚、原作に居て今作にいないセブンスターズはタイタンです。原作だと偽闇のデュエルの後、セブンスターズになっていましたが、そこからセツが介入しているため、代わりにさだめが加入しています。当然、彼女にとって三幻魔なんて完全にどうでもいいことですが。
それでは、悠でした!