アルカナ~切り札の騎士~
第十七話「三銃士」
「アテナ! おいしっかりしろアテナ!」
「そんな……起きて、ねえ起きてよ!」
必死でアテナに呼びかける十代たちがまるで目に入っていないさだめはその脇をすり抜けて部屋を出る。が、その腕を十代に掴まれた。
「待てよ……今度の相手はオレだろ……!」
「はぁ?」
何を言っているのかまるで理解できないとでも言いたげに眉をひそめるさだめ。
「オレとデュエルしろ! それでオレが勝ったら、アテナたちを解放しろ!」
「やだ」
「なっ……」
にべもないさだめの拒絶。
「もうさだめの目的は九割方終わったもん。後はお兄ちゃんを探して一緒に生きていく。それだけで十分」
お兄ちゃんを探して。つまりそれは、セツの居所をさだめも知らないということ。
「まあお兄ちゃんならそのうち自分からさだめに会いに来てくれるよ。だってお兄ちゃんだもん」
無邪気でありながら魔性の色しか感じられない不可思議な笑顔を浮かべる。
「それより、そろそろ手を離してよ。さだめのカラダに触れていいのはお兄ちゃんだけなんだから」
振り払おうとするが、十代はしっかりと握って離さない。
「オレとデュエルしろ。そうしたら離してやる」
「……もう、仕方ないなぁ……」
やれやれと溜息を吐き、さだめはデュエルディスクに手を……伸ばさなかった。
「闇よ……」
「なっ!?」
さだめの周囲から闇が噴き出し、十代を呑みこもうとする。慌てて十代は手を離して後ろに下がる。
「アニキ!」
「大丈夫。なんともない」
「じゃあ、さだめは帰るね。蛆虫さんたちは闇と遊んでるといいよ」
そう言い残して、さだめは己の創りだした闇の中へと消えていく。後に残されたのは、アテナの部屋を覆う闇と、その中に閉じ込められた十代たち。
十代は気を失っているアテナを背負い、逃げ出す準備を整える。
「くそっ! どこから出れば……」
『クリクリ~』
「ハネクリボー!?」
迫ってくる闇を、ハネクリボーが祓っていた。
『クリ~!』
そのハネクリボーが示す先には出口の光。
「よし! 助かったぜ相棒! こっちだ! 翔!」
「え? え?」
「いいから走れ!」
「う、うん!」
闇を祓い、出口へ導く。十代たちは、ハネクリボーのおかげでなんとかことなきを得たのだった。
「……そうですか。アテナ君までも……」
話の経緯を聞いた鮫島校長は両手を組んで額に当て、俯いた。その口から深い、深い溜息が洩れる。
「これで……残るは十代君ただ一人。いよいよ進退窮まりましたか……」
「校長先生……」
アテナを救えなかった無力を悔やむ十代。そんな十代に、鮫島校長は名案を思い付いたと言うように明るく声を上げた。
「そうだ! 君たちは今日温泉にでも入ってくるといい」
突然の提案に十代たちは困惑した。
「え!? イヤ、今はそんな場合じゃ……」
「十代君も二度にわたるセブンスターズとのデュエルや、さだめ君との一件で疲れがたまっているだろう。疲れの溜まった体では、満足に戦えない。戦士には休息も必要だよ」
「けど……」
「いいから、行ってきなさい。気分転換もしなければ、今度はキミも倒れてしまう」
「……はい」
しぶしぶ、といった感じで頷く。疲れがたまっているのも事実だ。闇のゲームはそれだけ体力と精神力を使う。さだめの一件ではなおさら精神力を消耗した。
「アニキ……」
「行こうぜ、翔。校長先生の言うとおり、オレもちょっと疲れた」
「うん……」
鮫島校長の提案を受け、十代は翔と共に校長室を後にした。
「うおっ。でっけー風呂だなー!」
「レッド寮の風呂とは段違いなんだなぁ」
「温泉というより、スパリゾートみたいなところッスね」
校長室から退出した後、早速十代たちは隼人も誘って三人で温泉に来ていた。
「おー! ここなんかプールみたいで楽しいな!」
「だからって泳いじゃダメッスよ!」
「へへっ! ……」
十代は湯に潜り、翔のタオルをはぎ取った。
「あっ! こらー!」
「こっちこっち!」
「待てー!」
「結局翔も泳いでるんだなぁ」
そうして十代が束の間の休息を楽しんでいると、ハネクリボーが何かを伝えたそうに十代の周りをクリクリと舞う。
「どうしたハネクリボー」
『クリ~』
まるでついてこいとでも言うように飛んでいく。
「お~い……なんなんだ?」
『クリクリ~』
「へ? うわっ!?」
突然床が抜けたような浮遊感と共に、十代は温泉の底へ沈んでいく。
「うわぁああああああああああ!?」
十代が落ちた先にあったのは精霊界であった。後から落ちてきた翔、隼人と共に奥へと進むと、その先に待ち構えていた『正義の味方カイバーマン』と出会った。
「『青眼の白龍』が貴様と戦いたがっている」
カイバーマンはそう言って十代にデュエルを申し込む。
「『青眼の白龍』の攻撃!『滅びのバーストストリーム』!」
カイバーマンの召喚した『青眼の究極龍』を、『E・HEROエッジマン』専用サポートである『エッジ・ハンマー』を使って勝利したかと思われた十代だったが、カイバーマンはその十代の更に上を行き『融合解除』を使うことによって『青眼の究極龍』を三体の『青眼の白龍』に分離させることで『エッジ・ハンマー』をかわし、三体の『青眼の白龍』によるダイレクトアタックを決めて勝利した。
「強靭! 無敵! 最強!」
カイバーマンの勝利の哄笑が響く。
「粉砕! 玉砕! 大喝采ィ!! ハーッハッハッハッハッハッハ!」
「くっそぉー!」
「あ、アニキ!」
「負けちまった……でも、楽しいデュエルだったぜ!」
「フン……まあいい。そういえば貴様」
「? なんだ?」
「最近、貴様と同じ人間界の者がこちらでチョロチョロと動きまわっているようだ。お仲間ならとっとと連れて帰れ。目障りだ」
「!」
「アニキ!」
「ああ! なあカイバーマン! そいつの特徴、何か聞いてないか!?」
「さあな。オレはさして興味も湧かなかったからロクに聞いちゃいない。何事か騒いでいたそこらの雑魚共ならば知っていることもあるだろう」
そう言って後ろでデュエルを観戦していた雑魚共を示すカイバーマン(ATK200)。
「サンキュ! カイバーマン!」
「ねえキミたち、その人間のこと、何か知ってたら教えてくれないかな!?」
カイバーマンの言う自分たちと同じ人間。
もしや、それは行方不明になったというセツのことではないか?
船で島から出た様子もなく、港と反対側。即ちここへの入り口のある温泉に向かったという目撃証言もある。
考えれば考えるほどにセツである気がする。
「その人間さんならボク見たよ~」
「ホントか!?」
聞き込みに反応して声をあげたのはハッピーラヴァー。そう、セツがこちらにやってきたときに空をふよふよ飛んでいたハッピーラヴァーだ。
「うん。ルインさまのお供の人間さんでしょ?」
ルインのお供。目撃証言でもルインと一緒であることが確認されているし、間違いなさそうだ。
「今、どこにいるかわかるか!?」
「わかんない」
「そっか……」
「それはわたしが知ってますの!」
そう言って飛び跳ねているのはキーメイスだ。小さくて可愛らしい体で一生懸命飛び跳ねながら自己アピールしている。
「今その人間さんは、ルインさまとかと一緒に色んな種族の里を回っているようですの」
「色んな種族の里?」
「特に天使族の多い辺りによくいるですの。わたしも何度か御挨拶をさせていただきましたの!」
セツと会ったのがそんなに嬉しかったのかぴょんぴょんと飛び跳ねまくって喜びを表している。
「よし! じゃあ早速その天使族の里に……」
「……その必要はない」
十代たちが天使族の里に案内してもらおうとした時、聞き慣れた、けれど久しぶりに聞く声がその場に響いた。
「セ、セツ?」
「……久しぶりだな。十代」
そこにいたのは、一体何があったのか服を見るも無残なまでにボロボロに炭化させ、体中やけど塗れなセツの姿。
「セ……ツゥ~! この馬鹿野郎ー!」
「がっ!」
十代はセツの顔に思い切り拳を入れる。始めからよろよろだったセツはあっさり吹っ飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。
「……っつ~。効いたぁ……。いきなり大した挨拶だな」
「お前が……! お前がいなくなってどれだけアテナが……」
「……ああ」
「それに、今アテナは……!」
十代は今、アテナがさだめに倒されて魂を捕えられていることを説明する。
「……さだめの奴。早まりやがって」
セツはその事実に苦々しげな表情を浮かべたものの、随分と落ち着いたものだった。その様子に十代は思わず掴みかかる。
「なんでそんなに落ち着いているんだよ!? アテナがやられたんだぞ! アテナだけじゃない。他の皆だって!」
「……予想は着いてたからな」
「なんだって!? じゃあなんで戻ってこなかったんだよ!」
「……今のままじゃさだめを止められない。アテナたちを助けることができない。だから俺はここにいる」
「どういうことだよ?」
「さだめを事前に止めるだけなら、あいつが闇に落ちる前に俺があいつの所に行けばさだめが暴走することもなかったさ。でも、それじゃダメなんだ」
それはつまり、セツが一生さだめの奴隷になるに等しい。だがセツも、それで全てが解決するなら迷いなく自分からさだめのところに向かっただろう。
「……俺はアテナたちを救うと同時に、さだめのことも救ってやらなくちゃいけない。そのためには、まだ俺には力が足りてなかった」
セツは思い出す。あのネイキッドとのデュエルの後、そのネイキッドに言われた言葉を。
「セツ。お前にあのデッキは合わない。お前はデッキを変えろ」
……………………………………。
「…………………え?」
長い沈黙の後、俺はそう漏らすのが精いっぱいだった。と同時に。
『ガシャンッ!』
何かが落ちて割れる音。驚いてそちらを見れば、そこにはお見舞い用なのか切り花の差してあったはずの壊れた花瓶と立ち尽くすクィーンの姿。
「く、クィーン……」
「……っ!」
俺が言葉をかけようとすると、クィーンはハッとして走り去ってしまう。
「クィーン!」
「お待ちください主様!」
「ジャック!? どうして……」
どうして止める? と聞き出そうとする前に、ジャックから口を開いた。
「まずはネイの話をお聞きください。クィーンについては、今は私が」
「……わかった」
ジャックの表情に本気の色を見て、俺はしぶしぶベッドに戻った。
「……ではネイ。主様を」
「おう。サンキュな」
ネイの感謝に一つ頷き、ジャックはクィーンを追って走っていく。
「……さて。予定外のアクシデントがあったが、話を続けようぜ」
「ああ……」
正直クィーンを追いたい気持ちもあるが、ネイキッドも逃がすつもりはなさそうだ。
「お前とさっきデュエルしてみて、我が抱いた感想なのだがな。お前さん、デッキの構築能力とか運用、タクティクスの面ではすごく優秀だ。なんだが……どうも攻撃が下手くそだな。戦闘に入るときに迷いが見える」
実際、最初のターンの攻撃は迂闊だった。確かに返しのターンで『ライトニング・ボルテックス』を使われればどっちにしろ全滅だったわけだが、それでも迂闊な攻撃だったことに変わりはない。
「んで、デッキのコンセプトも妙に戦術色が強い上保守的。あいつら使うんなら『メタモル・ポッド』とかもいいが、戦士族で統一して『一族の結束』とかを入れた方が攻撃力も高い。『オネスト』だのも優秀だが、やっぱり後手後手に回るカードだ」
確かに、それも言えている。種族統一は何かとおいしい面が多い。『一族の結束』然り『不死武士』然りだ。
「というか、自分から攻めるのに向いてないんだな。お前は」
「……」
それは自分でも思っていたことだ。
「デッキもお前さんを信頼して、お前さんもデッキを信頼してるから、ある程度回りはいいしここぞってとこでいいカードも引ける。……だが、それでも根本的に、お前はビートダウンに向いてない。それじゃあ、相手の回りが悪かったり相手が愚図なことしない限り勝てねえ」
セツは今までのデュエルを思い返す。試験官戦は、自分の初期手札が神懸かり的なほどに揃っていたので除外。
アテナ戦。思えばアテナは除去カードが思うように引けず、最後まで攻撃するしかなかった。
試験でのブルー生徒戦。デュエル前に相手の平常心を乱し、プレイングミスを誘導した。
タイタン戦が一番まともだっただろうか。それでも、あの時『堕落』を使われれば負けていた。
さだめ&ルイン戦。これは明らかだ。自分は何もできなかった。アテナに全てを任せ、自分は事前のデッキ構築で助言しただけ。
「そして、我に負けた」
「……」
「わかるな? セツにはビートダウンは向いてない。これはもう明らかだ」
「……けど、俺の相棒は……」
「わかってる。だが、やつらも騎士の端くれ。自分たちに固執された揚句主が負けたんじゃ、奴らだって気に病むさ」
「それはそうだが……」
「……まあ、我の話はこれだけだ。後は、自分で話してくるんだな。お前の『相棒』たちとよ」
「ああ。わかった。ありがとう」
「気にすんな。我とて、気に入った人間がやられるのなぞ気分のいいものじゃない」
「それでも、サンキュ」
俺は最後にもう一度お礼を言って、クィーンたちの後を追うのだった。
『申し訳ありません主様。クィーンの方は、もう少しお時間をくだされば……』
「……そっか。わかった。じゃあまた後で来るよ」
『はい』
クィーンの部屋まで行ったはいいが、ジャックに追い返されてしまった。
キングはどこだろう。ちょっとバルコニーにでも出て探してみるか。
「……いないな」
バルコニーから城の中庭を見降ろすも、その景色の中にキングの姿は見えなかった。
「……」
俺は、どうすればいいんだろう。
確かに、最近デッキに力不足というか、自分とのシナジーを感じていなかったのは事実だ。ビートダウンは楽しいし、アルカナは好きだが、やはり使い辛い。どこか運用するのに違和感が付きまとうのだ。これから先、セブンスターズや光の結社。異世界と敵も強くなっていく中で、今のままでは生き残れない。
「でも……」
それでも俺は、クィーンたち『絵札の三銃士』が好きだった。彼らをずっと相棒として傍に置いておきたい。一緒に戦っていきたい。そんな気持ちが捨てられない。
「……ひどく悩んでおるようじゃな」
「キング……」
思い悩む俺の前に、探していたキングが現れていた。その顔はいつもの好々爺然としたものではなく。紛れもない騎士としての顔。
「……ああ。違和感を感じてたのは最初からだ。でも、お前たちと戦うのが楽しくて……考えないようにしてた」
「儂らも、主とともに戦場に立つのには胸が躍った。久しぶりじゃったよ。あんな高揚感は。クィーンなぞ、事あるごとに儂やジャックに惚気ておる。いかに主が素晴らしい主かとな」
冗談めかしてほっほっほと笑う。空気が少し和んだ。
「……じゃから、儂らにとって何よりも恐ろしいのは、主と戦場に立てなくなること……」
「……」
「では、ないんじゃ」
「……え?」
あっさりと前言を撤回したキングは優しい、年長者特有の安心する笑みを浮かべていた。
「儂らがな。真に一番恐ろしいのは、主が儂らの所為で敗れること。儂らが強く、凛々しい主のお姿を見れなくなること。それが、一番なのじゃよ」
「キング……」
「主が儂らを好いてくれているように、儂らとて主を心から好いておる。主には、どうか儂らに縛られず、伸び伸びと主らしく戦って、そして勝って欲しいのじゃ」
もちろん、これはクィーンやジャックとて同じことじゃと言って、キングはまた笑った。
「クィーンは特別に主を好いておったから、まだ気持ちの整理がつかないだけじゃ。そろそろ落ち着くころじゃし、行ってやってくれぃ」
「ああ。ありがとうキング」
そして、ごめん。
「なぁに、お安い御用じゃ」
キングは更に謝る必要はない、とも言ってくれた。……聞こえない様に小声で言ったんだけどな。
コンコン。
少し緊張しつつ、クィーンの部屋の戸をノックする。ガチャリと扉が開いて中からジャックが顔を見せる。
「お待ちしておりました。クィーンもようやく落ち着きましたよ」
「ああ。ホント、お前にはずっと世話をかけるな。ジャック」
「なんの。いままでも、そしてこれからもずっと、私は主様のサポートをさせていただきますよ。どんな形であれ、ね」
「……そっか」
参った。先に答えを返されちまった。相変わらずよく気がつく男だ。
「クィーン……」
部屋の中心にあるベッドで、クィーンは鎧を脱ぎ捨て、アンダーウェア姿で膝を抱えていた。
「主様……」
「クィーン、俺は……」
「申し訳ございませんわ。先に、わたくしの話をさせてくださいませ」
「……ああ」
クィーンが何故そこまで俺を慕ってくれるのか。それはずっと気になっていたことだ。
「……わたくしたち『絵札の三銃士』は、今まで特定の主を持っておりませんでした」
そう言えば最初にクィーンたちが出てきたとき、ジャックが言ってたな。ようやく出来た主だと。
「それというのも、わたくしたちは昔から扱い辛いとされて、誰にも手を取って貰えなかったからなのです」
え? でも確か遊戯が……。
「……確かに、わたくしたちを最初に使ってくださったのはデュエル王、武藤遊戯様です。ですが、それでも所詮は神への布石。捨て駒。生贄のための騎士扱い」
……あー、それは確かに。まともに『絵札の三銃士』として活躍したのは遊戯王Rの時くらいか。
「そのわたくしたちを、デッキの中核に据えて、多くのデュエルを戦い抜く主。わたくしは昔から、それを夢にまで見ていたものです」
そして、その主は現れた。
「はい。その上主様はわたくしたちカードの精霊と心を通わすことのできる稀有なお方。精霊を顕現させる能力まで持っているとわかり、狂喜したのを覚えていますわ」
「それで……俺に、か」
しかし、クィーンは首を振って否定する。
「それだけならば、ここまで心が拒絶することもありません。わかっているのでしょう? わたくしの気持ちも」
「そりゃ、な」
あそこまで明確に態度で表わされれば、どれだけ鈍感でもそうと気付く。
「きっかけはそれ。けれど育っていった心はわたくし自身が育てた紛れもない本物。……今更主様とお別れなんて、できるはずがありません」
「クィーン……」
「もちろん、主様がわたくしたちを捨てるなどとは思っておりません。ただ、それでもわたくしは、何か一つでも、主様と繋がりが……決して断ちきれぬ絆が欲しいのです」
絆、か。
デッキとして使う以外に、明確な絆が欲しい。クィーンの望みはそれだ。
「
「えっ……?」
「お前の名前だ。ずっと考えてた」
月一試験の時。明らかに名前を欲しがっている様子だったから、なにかいい名前はないかと考えてた。やっと、思い付いた。
「希望の剣、冴えわたる姫。そんなところか。それと、クィーンだから妃ってのもある」
安直かもしれない。で思い付いたらそれ以外に思い付かなかった。
冴えわたる希望の剣をその手に構え、俺のそばで見守ってくれるお姫様。
「希冴姫……」
「どうだ? これじゃあ、俺との絆にはならないか?」
「希冴姫……」
クィーン……いや、希冴姫は何度もその名前を呟き、心と体に馴染ませるように体を抱きしめる。
「十分ですわ……ありがとう。ありがとうございます。セツ様……」
希冴姫は始めて見るかもしれない満面の笑顔で俺を見つめる。セツ様、という初めての呼び名に、俺が戸惑っていると、ジャックが一度手を叩いた。
「っ!」
「うあっ!?」
「さて、話は纏まったようですね」
「じゃ、ジャック……脅かすな」
「そ、そうですわ。も、もうちょっと空気を読んでくれてもごにょごにょ……」
「いえ、このままですと私とキングの存在を忘れたままベッドシーンにでも突入する勢いでしたので。流石にここらで止めるべきかと」
「ベ、ベ、ベッド……っ!?」
ぷしゅー。と蒸気を上げて希冴姫がオーバーヒート。目を回してベッドに倒れ込んだ。
……ちょっと面白かったのは内緒だ。
「やーれやれ。せっかく想いの一端が叶ったと言うに、相も変わらず純情じゃのう」
いつの間にかやってきていたらしいキングも嘆息気味だ。
「それでは主様。これからも我々一同、これまでとは違った形でサポートさせていただきます」
「……ああ。そうだ、お前らも名前、考えないとな」
「はは、我らの事は後回しで構いませんよ。それよりも、新しいデッキのことですが」
「ああ。大体どんなデッキがいいかは決まっているんだ」
「そうでしたか。それでは、これからその使う精霊と契約しては?」
「……そうだな。ホントは今すぐにでも人間界に戻ってアテナにも謝りたいけど……」
「はい。まずは御自身の方を固めるのがよろしいかと。どうやら今度の相手は一筋縄ではいかないでしょうから」
……今度の相手。俺の予想では、十中八九それはさだめだ。あいつとは、色んな意味で決着をつけなくちゃならない。そしてあいつは、一筋どころか二筋も三筋もいかない。万全の態勢を整えていく必要がある。
「よし、希冴姫の準備が整い次第、出発しよう。あんまり時間をかければ手遅れになる」
精霊のカードが持つ力は未知数。だが、その力は必ず俺を助けてくれる。せめて切り札級のあいつは精霊のカードとして着いてきて欲しい。
「待ってろさだめ。必ず、お前も救って見せるから」
「十代。俺もお前と一緒に人間界へ戻る。アテナたちと……さだめを助けるために」
「……ああ。まだお前に言いたいこととかぶっ飛ばしたい気持ちとかあるけど、その辺はアテナのために取っておく」
「そりゃ怖い。アテナにはたかれるのなんて、想像したくないな」
「自業自得だろ」
「違いない」
互いに笑みを交わし、俺たちは人間界へと帰還する。
さだめと決着をつけ、皆を……アテナを助けるために。
クィーンの名前ですが、以前掲載しているときから和名!? というツッコミはありましたが、変わらず行こうと思います。
……ベッドの上で絆が欲しいとか言われたら普通ベッドシーンですよね。
それでは、悠でした!