アルカナ~切り札の騎士~
第十八話「埋めてくれたよ……」
俺は十代たちと精霊界を出てもう数ヶ月ぶりにもなる人間界へと戻ってきた。
「どうするんだセツ。アテナたちを救うって言ってもまずは妹さんを見つけなきゃ話になんないぜ?」
「それは問題ないだろう。俺が探しに行かなくても、向こうからこっちに来るはずだからな」
さだめが俺を放っておくはずがない。きっと今にも……。
「見ぃ~つけた♪」
「っ!」
「……やっぱりな」
「そっか~精霊界かぁ。忘れてたよそんなとこ。兄さんもいい隠れ家を見つけたみたいだね」
「隠れてたつもりはないんだけどな」
「くふふっ! なんでもいいよ。それで兄さん。私ね、がんばったんだよ。兄さんに近づこうとしてる蛆虫たち。みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな頑張って消したよ。頑張って頑張って……もう兄さんと私の間を阻むもの、ないもの。だから兄さん……」
「悪いが、俺はお前のものになるつもりはないぞ」
先手を打ってやる。さだめはピクリとコメカミをヒクつかせた。
「……どうして?」
「わからないか?」
「わかんないよ!」
そうか。なら言ってやろう。
「お前が、アテナたちを倒したからだ」
「っ!?」
もしここでさだめのものになる選択をしても、アテナたちは戻ってこない。さだめとデュエルして、勝たなければアテナたちの魂は解放されない。さだめの闇を、祓わなければ。
「わかるかさだめ! お前のやったことは、俺を頑なにさせ、自らの首を絞めたと同じだ! もう、選択肢は一つしかない」
即ち。
「お前が負けて、皆を解放するか。俺が負けて……お前のものになるか、だ」
「なら……倒してあげるよ! 完膚なきまでに!」
そうだ。それでいい。
「じゃあやろうか。さだめ。俺の方こそ……完膚なきまでに叩きのめして改心させてやる!」
「セツ!」
「止めてくれるなよ十代! お前にも思うところがあるかも知れんが、ここだけは何が何でも譲れない!」
「……あったりまえだろ! 絶対に、負けんじゃねーぞ!」
「それこそ、言われるまでもない!」
さあ、始めるか。
「「デュエル!!」」
俺とさだめの、最後の決闘!
「さだめ! 俺はもう、お前に何物も奪わせはしない! 俺のターン! ドロー! 俺は『豊穣のアルテミス』を守備表示で召喚! カードを二枚セット。ターンエンド!」
『豊穣のアルテミス』DEF1700
俺は助けるんだ。アテナたちだけじゃない。こいつを……俺の大事な妹を!
「私のターンだよ兄さん。ドロー! さだめは『終末の騎士』を攻撃表示で……」
「カウンタートラップ『キックバック』!『終末の騎士』の召喚を無効にして手札に戻す!」
「っ!? パーミッション……くすすっ! なんだ、お兄ちゃんらしいデッキだね。なぁに? あの貧弱なお姫様は遂にリストラ?」
「……俺は『豊穣のアルテミス』の効果でカードを一枚ドローする」
「アハハッ! まあなんでもいいや。そっちの方が兄さんらしくて私好き。私は手札から『闇の誘惑』を発動! デッキからカードを二枚ドローして手札の闇属性モンスターを一体ゲームから除外。除外するのは『ネクロフェイス』!」
不気味な顔の人形らしきものが何処かへと消える。
「『ネクロフェイス』が除外されたとき、お互いにデッキの上から五枚を除外するよ!」
互いのカードが除外される。だが、その中にあるカードを見つけた。
「私はカードを三枚セット。ターンエンド!」
「……俺のターン。ドロー!」
手札は五枚。頭の中で戦力を練る。現在の手札で出来ること。勝つためのタクティクス。
「俺は『救済のレイヤード』を守備表示で召喚! カードをさらに三枚セット! ターンエンド」
『救済のレイヤード』DEF1500
「あんなに伏せるのかよ……」
「私のターン! ドロー!」
「永続トラップ連続発動『
俺は布石として、一枚の罠を発動させておく。これで、態勢は整った。
「アハハッ! 私は手札から『ハーピィの羽箒』発動!」
「なっ!? 禁止カードじゃねーか!」
「ズルイッス!」
後ろで十代たちが驚いているが、俺はさだめならそれくらいやると端っからわかってたさ!
「もう何も奪わせない! 俺のカードも、ライフの1ポイントだって奪わせるか! カウンター罠『魔宮の賄賂』! 相手にカードを一枚引かせる代わりに魔法・罠カードの効果を無効にして破壊する!」
「っく……わ、私は『魔宮の賄賂』で一枚ドロー……」
「カウンタートラップが発動したことにより、『豊穣のアルテミス』の効果でカードを一枚ドロー!『救済のレイヤード』の効果で除外されていた『裁きを下す者―ボルテニス』『智天使ハーヴェスト』の二枚を手札に戻す!『人造天使』の効果で『人造天使トークン』を一体特殊召喚!」
『人造天使トークン』DEF300
「す、すげえ……相手には何させずに自分だけ……」
「さらに、カウンター罠が発動されたことにより、俺は手札から『裁きを下す者―ボルテニス』を、自分フィールドの全てのモンスターをリリースして特殊召喚!」
俺のフィールドのモンスターたちが、一斉にはじけ飛ぶ。
「ボルテニスの効果発動! リリースした天使族モンスターの数だけ相手フィールドのカードを破壊する! 裁きよ!」
『裁きを下す者‐ボルテニス』ATK2800
俺のリリースした天使族はトークン含めて三体。さだめのフィールドには三枚のリバースカード。それら全てをボルテニスの雷が焼き払う。
「うああああ!?」
「こ、これ、妹さんのターン……だよな?」
「すごい……まるでセツ君のターンみたいにカードを展開してる」
さだめ……。思い出してきたよ。これが俺だ。
「っく!? そんな……ま、またそんなあり得ない引き……」
「あり得なくない。俺とこのデッキなら、絶対に出来ると確信していた」
なぜならこれが、俺と最もシナジーするデッキ。そう、これこそが自分から攻めるのが不得手で、迎撃することが得意な俺に合ったデッキ。言うなれば……。
「ずっと俺のターンだ!」
考えに考え抜いた。俺にシナジーするデッキ。『元の世界』の俺に合っていて、『この世界』の俺が持っていたビートを楽しむその気持ち。全てをひっくるめた『俺』そのもの!
「これが、俺の新デッキ」
「エンジェルパーミッション!? このっ……私はモンスターをセットしてターンエンド!」
「俺のターン。ドロー!」
さだめ……今のお前は、悪い夢を見ているんだ。
「俺は『智天使ハーヴェスト』を攻撃表示で召喚!」
『智天使ハーヴェスト』ATK1800
お前の歪み。お前の狂気。お前の『
「バトルだ! ハーヴェストで守備モンスターを攻撃!」
俺が断ち『切』る!
「ぐぅ! 『クリッター』の効果で『黒き森のウィッチ』を手札に加える……」
「ボルテニスでダイレクトアタック!」
元の世界は、辛かったよなぁ……さだめ。
「あぁぁ!?」
さだめLP1200
「カードを一枚セット! ターンエンド!」
どこに行っても、お前は悪魔呼ばわりで……。
「ぐ……ぅぁ……わ、たしのターン」
ずっと、狂気の裏で泣いてるお前を……見ているのが辛かった。
「認めない……お兄ちゃんは、絶対絶対、ずっとさだめと一緒にいるの……誰にも邪魔されない……二人だけの世界で、生きていくんだッ!!」
皆お前を恐れて、壊れてしまう中で……。
「もう……もういい……もう、眠れ」
俺は……俺だけは、壊れなかったから……お前は俺に縋るしかなかったんだ。
「ぃやだやだやだやだあ! 全部、全部消えちゃえ!『幻魔の扉』!」
苦しみも痛みも、全部俺が一緒に背負うから。
「! あれはカミューラが使った……」
お前を、絶対に一人にはしないから……。
「私と兄さん、二人の魂を!」
だから……。
「させない! させるか!」
今は……。
「カウンター罠『封魔の呪印』! 手札から『光の護封剣』を捨てて無効化! 貴様には、もう何も奪わせない! さだめをもう、苦しめるな! 幻魔ぁ!」
今だけは……。
「眠ってくれ……! 魔法カードを無効化したことによって、手札から効果を発動する!」
さだめ……俺の妹
「こいつは、お前のカードの効果をカウンターしたときに発動する!」
目が、覚めたら……
「さだめ……さだめの狂気……冥王の咆哮にて消え去れ!」
きっと……
「いや……いやぁ……」
世界は優しいから……
「こいつは……魔法カードの効果を無効にした場合、召喚と同時に相手ライフに1500ポイントのダメージを与える……」
やってしまったこと、償おう……
「さあ……姿を見せろ……」
俺も……一緒だから
「冥王竜……」
一緒に償うから……だから!
「ヴァンダルギオン!!!」
お前は、ここで眠るんだ。
「うああああああああああああああああ!?」
新しい朝を、迎えるために
「俺の、勝ちだ。さだめ!」
さだめLP0
「……ぁ」
闇が消し飛び、後に残ったのは、一人の、なんの力もない、女の子。
「ぅあ……え、えぇぇぇぇぇん……えぐっ、うぁぁぁぁぁぁん……」
「さだめ……」
「ぉ、兄ちゃん……うあ……」
「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ……」
ゆっくり、包み込むように抱きしめる。
「お兄、ちゃん……」
「なんだ?」
俺の腕の中にいるさだめが、消え入りそうに小さな声を出す。
「さだめはね。生まれた時から、なかったの……」
「なにが?」
「……心の、一欠片」
まるで、イヴを創るため、肋の一つを掠め取られたアダムのように。
「順番は逆だけど……お兄ちゃんが、さだめにとってのイヴなんだって……思ってた」
欠けたココロ。それを埋めてくれるヒト。
「ホラ……」
――埋めてくれたよ……。
そう言って、さだめは気を失った。
「セツ! それ……」
「!」
さだめの影で、黒い靄のようなものがくすぶっている。
「こいつか……! さだめの闇の根源は……! ルイン!」
「っ!」
ルインが杖を振る。『ソレ』はさだめの影から追い出され、苦しげにうめいた。
「『
「コイツ……コイツが!」
ルインの目が憎悪に染まる。
旅の途中、ルインから聞いた。ルインの街を滅ぼした元凶。デミスにとり憑き、終焉の王へと仕立て上げた邪悪な精霊!
「消えてっ!」
『ギィィィィイィッ!?』
ルインの放った光弾が、闇の塊のような精霊を貫く。俺も、さすがにあいつは許せそうにない。
「ヴァンダルギオン! あいつを……焼き尽くせ!」
『ゴオオオオオオオオオオッ!!』
俺が必死の思いで契約した精霊、ヴァンダルギオンはルインによって粉々になったその欠片を一欠片も残さず蒸発させる。
「これで……」
「全部、終わり」
ペタンとルインが地べたに座り込む。積年の恨みを果たし、気が抜けたのだろう。
「それにしても、あれは一体いつから……」
さだめの中にいたのか。あのタッグデュエルの後からだろうか?
「……それは違う」
だが、俺の考えはルインによって否定された。
「そもそも私がこの子に近づいたのも、この子から仇の気配を感じたから」
だとしたら……こちらの世界にやってきてすぐ? いや、でもタッグデュエルの時、さだめからはいつもと同じ感覚しか受けなかった。じゃあ……?
「多分、最初の最初から」
「……おい、待て。じゃあまさか……」
思い出せ。さだめが最初におかしくなったのは何時だ? どこからさだめは『外れ』た?
「さだめが……二歳の頃? いやでもその頃俺とさだめは……」
こちらの世界にはいなかったはず。
「わからない。でもよく考えて。キミがさっきまでいた精霊界も……」
異世界。
俺は愕然とした。そうだ。俺は渡ったじゃないか。精霊界という異世界に。それに、未だに俺とさだめがこちらに来た原因はわかっていない。だが、こちらに飛ばされてくることがあるならその逆もあって不思議ではない。
「じゃあ……まさか本当に全部……」
あの精霊が原因だったのか。
「その可能性は高い」
「じゃあ……じゃあこれでさだめは……」
「治る。少しの歪みは残るかもしれないけど、矯正できる範囲」
「は、はは……」
良かった。
「ほんとうに……さだめ!」
溢れてくる涙が止められそうにない。俺は腕の中で眠るさだめを更に強く抱きしめる。
「……! セツ、皆の魂が……!」
十代が持つカードから、人魂のようなものが飛んでいく。これで、さだめに負けた皆も目を覚ますはずだ。……それに、アテナも。
「……お兄ちゃん」
「さだめ? すまん、強すぎたか」
強く抱きしめすぎたかもしれない。苦しかったかと問いかけると、そうじゃないと首を振って答えた。
「アテナさんのところ……行くの?」
「……ああ」
「じゃあ、さだめも行く」
「え? けど……」
さだめはゆっくりと立ち上がり、俺を見上げた。
「さだめは、謝らなくちゃ。許される許されないは関係なく、元凶がいたとかも関係なく……やってしまったことへの責任、果たすよ」
「さだめ……」
「それに、さだめはあの精霊によってずっと歪んでいたけど……元々は、皆さだめの願望だったから……お兄ちゃんが好きなのも……やっぱりさだめの本当の気持ち」
「それに、決着をつけるのか?」
俺が尋ねると、さだめはふるふると首を横に振った。
「
「……わかった。行こう」
「うん!」
「そういうわけだ。十代、いいか?」
十代はまったく躊躇いもせずに頷く。
「おう! セツ……」
「なんだ?」
「妹さんが治って、良かったな!」
……ははっ! 本当に、こいつは……。
「ああ! まったくだ!」
アテナたちは病院の個室でそれぞれ寝かされているという十代の後に続いて病院まで走る。
「! セツ、あれ!」
「どうした!?」
十代が指差す先に、窓が割れ、カーテンが風に靡いている病室が見えた。
「あそこの部屋……たしかアテナの部屋だ!」
「なんだと!?」
慌てて病院に駆け込み、その部屋に向かう。中は……もぬけの殻だった。
「アテナ……?」
「置いてあったデュエルディスクもなくなってる……」
「どこに行ったんだ……アテナ」
俺の呆然とした呟きが、風に流れて消えていった。
というわけで、セツの新たなデッキはエンジェルパーミッション……というかヴァンダルギオンでした。希冴姫たち三銃士の今後については後々。
それでは、悠でした!