アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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第十九話「絶対助ける!」

アルカナ~切り札の騎士~

第十九話「絶対助ける!」

 

 

 

 

「ごめん……なさい」

 アテナが消えて、しばし呆然と立ち尽くしていた俺たちに、俯いていたさだめが突然の謝罪をした。

「どうした?」

「さだめ、アテナさんには特別に酷い事を……」

 さだめが言うには、他の魂を閉じ込めただけの人たちと違って、アテナだけは口に出すのもおぞましい精神的凌辱を精神世界で繰り返していたらしい。

「口に出すのもって……」

「う、蛆虫が……」

「オーケーわかった皆まで言うな」

 想像するだに恐ろしい。

「だから……その……」

 もしかしたら、壊れてしまっているかもしれない。

「そんな……」

 ここまで来て、アテナを救えなかったら。アテナが、壊れてしまっていたら。

「そんなことになったら……俺は……」

「……ごめん、なさい」

「……大丈夫だ」

「え?」

「十代?」

「妹さんは知ってるだろ? アテナがどれだけ強いか」

「……うん」

「アテナは強い。簡単に潰れたりしないって」

「……そうだな」

 そうだ。アテナは強い。さだめとのタッグデュエルの時、会場の人間が皆気絶するような中でも、アテナは正気を保っていたじゃないか。

「アテナはお前に振られても立ち直ってまた前に進もうとしてたくらいなんだぜ? きっと大丈夫だ。それより、早く見つけて連れ戻してやろう」

「ああ!」

 まずは足取りを掴まないと。希冴姫たちにも協力してもらうか。

「きさ……」

『その必要は……ないわ』

 希冴姫を呼び出そうとした時、俺たちの耳に聞き覚えのある声が届いた。

「シャルナ!?」

『……久しぶりね。元気そうで何より』

 そういうシャルナは、完全に憔悴して今にも倒れそうな面持ちだった。

「どうした? アテナは無事なのか?」

 そうだ、こいつはずっとアテナと一緒にいたはずだ。それなら居場所も知っているはず。

『……どのあたりを指して無事、と言うのかは知らないけど、あんまり大丈夫じゃなさそうね……』

 シャルナは立っているのも辛いと言わんばかりにその場に座り込んだ。

「アテナは……どうなったんだ?」

 恐る恐るそう聞くと、シャルナは言い辛そうに目を逸らしたが、俺たちが引くつもりはないとわかったのか口を開いた。

『……端的にいうなら、そうね。ダーク化した、と言うのが適切ね』

「なっ……」

「そんなッ……!」

「お、おい、どういうことだよ!?」

『貴方達が言ってた通り、アテナの精神は強かった。でも、流石に延々と体中を蛆に這い回られ続ければいくら精神が強くても限界があるわ』

「うっ……」

 予想はしていたが、やっぱり聞くだけで吐きそうだ。

『それでもアテナの精神は抵抗を続け……結果、防衛本能から周囲の闇を取り込んだのよ』

 つまり、闇と同化することによって精神の均衡を保った、と言うことだろうか。

『そんなときに、貴方が呪縛を解いたからでしょうね。アテナの精神は解放され、ダーク化したまま、当てもなく飛び出して行ったの。止めようとは、したんだけどね』

「……そのアテナは、今どこに?」

 それが最重要だ。アテナがどうであろうと、俺はアテナを救いだす。なら今一番必要なのはアテナの居場所だ。

『……アカデミアのデュエル場。ボーっとしながらそこに立ったまま動いてないわ』

「デュエル場……」

 俺とアテナが最初に出会った場所。思い返せば、シャルナと出会ったのもさだめと会ったのもあのデュエル場だった。

「よし、じゃあ決まりだ。アテナの所に行くぞ!」

「ああ!」

「……うん!」

 十代は元より、さだめも覚悟と決意を秘めた目で頷いた。

 

 

 

「アテナ!」

 夜の帳。闇の中に沈むデュエル場で、アテナは静かにたたずんでいた。

「アテナ……?」

「……」

 声をかけても、アテナは特に反応も見せず、ただデュエルフィールドを見つめるばかりであった。

「……セツ……」

「! なんだ、アテナ?」

 ボソリ、と小さく俺の名前を呟いた。すぐに返事をするも、アテナはまたしばらく無言で、俺の方を見てもいない。

「ここで……」

 どれだけ黙っていただろうか。ようやくアテナが口を開いた。

「セツに、会って……」

「……ああ」

「ここで……セツに、振られました」

「…………ああ」

 否定はしない。出来るはずもない。俺は確かに、ここでアテナを振ったんだ。

「なぜ? 私はずっと、セツだけを見ていました。セツも、私を見てくれていました」

「ああ、そうだ。俺は……」

 俺は誤魔化さない。もう、そんなのはやめだ。

「俺は、お前に惹かれていたよ」

 後ろで静かに、さだめが息を呑む。

「でも、セツは……私を捨てたんです」

「っ!」

「あんなに一緒にいたのに。あんなに一途に、献身的に、健気に一緒にいたのに。私は、振られました」

「アテナさんそれはっ!」

「絶望……目の前が真っ白になって、苦しくて、切なくて……」

 さだめがなにかを言おうとしたが、アテナはまるで無視して言葉を紡ぐ。

「夜になる度。ベッドに入る度、私の中の誰かが呟くんです。『怨んでいるんでしょう?』って……」

「それはっ! さだめがっ!」

「さだめ?」

「全部っ! 全部さだめがやったことでっ! お兄ちゃんは……」

「よせ。何があったのか、俺は知らんが……結局、俺があんな形で振ったのが悪い」

「否定しようとしても……その声はいつでも囁いてきて……。その度に、暗い暗い地の底に沈んでいくようで……」

「アテナ……」

 アテナはゆっくりと、しかし一歩ずつ確実に俺の方へと近づいてくる。

「なんで……ですか? なんでセツは、私を振ったんですか? 私、セツにとって迷惑でしたか?」

「そんなわけないっ! 俺はっ……俺だって……んむっ!?」

 トンっと床を蹴って伸びあがったアテナの唇が、俺のそれに合わせられていた。軽い、それでいて確かな熱を帯びたその感触に、俺は一瞬意識がスパークしたような感覚を味わった。

「っは、あ、アテナ……」

「じゃあ……」

 唇を離したアテナが次に目を向けたのは、突然の口づけに驚き固まっていた俺の後ろ。

「答えは一つ、ですよね」

「っ!」

 さだめだった。

「貴女が……私からセツを奪ったんです。貴女さえいなければ……セツは私を……」

 ここに来て、ようやく俺にも理解できた。

 このアテナは……さだめだ。さだめによって追いつめられたアテナの精神が、さだめの闇を取り込んで、アテナと混ざりあった……。

「私は……貴女を……」

「アテナ待て! 今のお前は……」

「『兄さん』は黙っててください!」

「!?」

 今、確かにアテナが俺のことを兄さんって……人格がかなり本格的に混ざり合っている。記憶も、想いも、何もかもが今のアテナは不安定だ。

「セツ様。デュエルディスクを!」

「希冴姫?」

 いつの間にか現れていた希冴姫が、俺にデュエルディスクを渡してきた。

「今の彼女が妹君の闇を内包しているのでしたら、妹君の時と同じく、祓ってしまえば良いのですわ……闇の、ゲームで」

 っ! そうか!

「よし、なら早速……「待ってお兄ちゃん!」さだめ?」

「さだめがやるよ。そのデュエル」

「お前が……って、お前はさっき!」

 さだめはさっきの闇のデュエルでのダメージが抜けてない。なにより、本来これは俺の問題で……。

「二人の邪魔をしたのは、さだめ。アテナさんにとり憑いている闇も、さだめ。こうなったのはさだめの責任。言ったよね? 責任を果たすんだって」

「さだめ……」

「だから、これはさだめの役目。お兄ちゃんには、譲ってあ~げないっ♪」

 こんなときだと言うのに、さだめの顔は明るい。いたずらっぽい笑みすら浮かべてデュエルディスクを構える。

「あ、大丈夫。禁止カードや制限無視はしてない。正真正銘、ガチのメインデッキだよ」

「いや、俺が心配してるのはそういうことじゃなくって……」

「さあ、やろっか。アテナさん」

「聞けって!」

「もー、どうしたのお兄ちゃん」

「どうしたもこうしたも、ここは俺が……」

「往生際が悪いよ。もうさだめもアテナさんもやる気満々。今更止める気ないよ」

「でも!」

 闇のゲームの疲労が残っているのに、無理させるわけには……。

「……痛みもね」

「え?」

「痛みからも、苦しみからも、もう目を背けちゃいけないんだ。もう目を閉じて、耳をふさいで聞かないふり見ないふりは、できないよ。さだめは、もう逃げない。だからお願い。ここはさだめにやらせて。心配は、いらないから」

「さだめ……」

 俺はもうそれ以上何も言えず、デュエルフィールドに上がっていく二人を間抜け面で見上げるだけだ。

「セツ……」

「十代、俺は……」

「信じてやれ。兄貴なんだろ?」

「……ああ。そうだな」

 俺は祈るような気持ちで、二人の大切な少女たちを見つめる。どうか、誰にとっても良い結末で終わりますように……。

 

 

 

「……これで、三回目かな。さだめとアテナさんがデュエルするのは」

「……」

 アテナは何も答えない。ただ無言で、デュエルディスクを構えるのみだ。

「なんだかなぁ……そのどれも、どちらかが正気じゃない、悲しいデュエルだね……全部、さだめの所為だけど、さ」

 悲しいし、申し訳ない気持ちがあふれそう。だが同時に、別の感情もまた、ふつふつと湧きあがってくる。

「……まあ、どんな理由があっても、お兄ちゃんとドサクサ紛れにキスするとかさだめにとっては許されることじゃないんだけど……」

 ちょっと前の黒い自分がまた戻ってきている気もする。が、前とはちょっと違う。

「これは……純粋な嫉妬かな?」

 自分の思考にちょっと苦笑い。

「まあいっか。後でさだめもお兄ちゃんにしてもらおーっと」

 下でその兄が悪寒に身を震わせていることを、さだめは知らない。

「……何言っても無反応、か。しょうがない。じゃあ始めよう」

「……デュエル」

「うん。デュエル!」

 さだめLP4000

 アテナLP4000

 デッキからカードを引く。手札をざっと見て、さだめはすぐに宣言する。

「さだめの先攻! ドロー!」

 自分のデッキは多少準備が必要だ。まずはそのための布石を整える。

「『終末の騎士』を守備表示で召喚! 効果でデッキから『ダーク・ネフティス』を墓地に送るね。カードを一枚セットしてターンエンド!」

 『終末の騎士』DEF1200

「……私のターン、ドロー。手札から魔法カード『天使の施し』を発動。デッキからカードを三枚ドローして二枚捨てます」

「手札交換……」

 さだめとしては、以前それで痛い目を見ているので苦い表情。

「私は手札から『堕天使エデ・アーラエ』と『堕天使スペルビア』を墓地に送ります」

「堕天使……」

 やっぱり。とさだめは表情を曇らせた。

「私は『ダーク・ヴァルキリア』を召喚。手札から装備カード『戦線復活の代償』の効果を発動。『ダーク・ヴァルキリア』を墓地に送って『堕天使スペルビア』を墓地から特殊召喚! 自身の効果により『堕天使エデ・アーラエ』を墓地から特殊召喚!」

 『堕天使スペルビア』ATK2900

 『堕天使エデ・アーラエ』ATK2300

「速い!?」

 一ターン目からいきなり攻撃力2900と2300の貫通効果持ちの上級モンスターがフィールドに並んだ。しかも、アテナは手札を二枚しか消費していない。

「バトルフェイズ。『堕天使エデ・アーラエ』で『終末の騎士』を攻撃。『堕天の翼』」

「ぅああああっ!?」

「さだめ!」

 LP4000→2900

 攻撃を受けたさだめ以上に悲鳴のような声を上げる兄に、思わず苦笑する。確かにこれで『堕天使スペルビア』のダイレクトアタックを受けてしまえばちょうどさだめは負ける。

「『堕天使スペルビア』で、プレイヤーにダイレクトアタック!」

「トラップ発動!『サンダーブレイク』! 手札からカードを一枚捨てて『堕天使スペルビア』を破壊するよ!」

 スペルビアが雷に撃たれて消滅していく。

「さだめは『ダーク・アサシン』をコストとして墓地に送るよ」

「……カードを一枚セットしてターンエンドです」

「さだめのターン。ドロー! 手札から魔法カード『トレード・イン』を発動! 手札から『ダーク・ホルス・ドラゴン』を墓地に送ってカードを二枚ドロー! カードを一枚セットしてターンエンド!」

 手札には、通常召喚できるモンスターがいない。仕方なくそのままターンを終える。

(相変わらず事故るなぁ……)

 割と回りやすいデッキを使っているつもりだが、昔からどうしてもドロー運がない。とはいえ、今回はまだ何とかなる。

「私のターン。永続トラップ『血の代償』発動。『終末の騎士』を召喚して『堕天使スペルビア』を墓地に送ります。ライフを500支払い『終末の騎士』をリリースし、『堕天使ディザイア』を攻撃表示で召喚」

 アテナLP4000→3500

 『堕天使ディザイア』ATK3000

 紅い翼を持った全身甲冑の天使が召喚される。その攻撃力は……3000。

「『堕天使ディザイア』で、プレイヤーにダイレクトアタック」

「トラップカード!『リビングデッドの呼び声』! 墓地から『ダーク・ホルス・ドラゴン』を攻撃表示で特殊召喚!」

 『ダーク・ホルス・ドラゴン』ATK3000

「!」

 『ダーク・ホルス・ドラゴン』の攻撃力は同じく3000。

「っ……バトル続行! 『堕天使ディザイア』で『ダーク・ホルス・ドラゴン』を攻撃!」

「くっ!?」

 『ダーク・ホルス・ドラゴン』と『堕天使ディザイア』の攻撃が激突し、両者が共に吹き飛んだ。

「『堕天使エデ・アーラエ』でダイレクトアタック!」

「あああああああああっ!?」

 さだめLP600

 かろうじてライフは残ったが、セツとの闇のゲームによるダメージと併せて、さだめの体力が限界に近い。ともすれば血を吐いて倒れこみそうになるのを必死で耐える。

「アテナさん、は……さだめが、絶対助ける!」

 それは誓い。自分の所為で、この純粋で強い少女を闇に堕としてしまったことに対する責任。それを果たすため、さだめは必至でデュエルを続行する。

「さだめのターン! ドロー!」

 戦況は最悪。あと一歩で負け。そんな状況ですら、さだめの引きはいいとは言えない。

(あーあ。大山センパイにでも弟子入りしようかな)

 ついそんなことも考えてしまう。修行でドロー運が良くなるなら是非とも弟子にしてほしい。

「さだめは手札から『闇の誘惑』を発動するよ! カードを二枚ドロー!」

 だからさだめはドロー加速カードを多用する。そうでなければあんな鬼引きには対抗できない。

「うん! 手札から除外するのは『ネクロフェイス』! お互いにデッキの上からカードを五枚除外する!」

 相変わらず不気味な顔のモンスターの効果でカードが除外される。

「手札から『天使の施し』発動! デッキからカードを三枚引いて二枚捨てる! さだめは『ダーク・クルセイダー』と『ダーク・グレファー』を墓地に捨てるよ」

 更にドロー。これでかなり良くなった。だがまだだ。

「手札から速攻魔法『異次元からの埋葬』を発動! ゲームから除外されているモンスター二体を墓地に戻す!」

 戻すのは『ネクロフェイス』と『ネクロフェイス』で落ちた『ダーク・クリエイター』。

「魔法カード『終わりの始まり』! 墓地の闇属性モンスターの数は八体! その内五枚をゲームから除外してカードを三枚ドロー!」

 やるだけやった。そう思ってドローしたカードを確認する。その中に、一枚のカードを見つけた。

「っ!」

 そのカードを見たとき、さだめの体は強張った。

 もう一度、さっきから何度も飛び出しそうになっては十代に止められている兄を見る。とても、心配そうだった。

「……さだめの墓地にいる闇属性モンスターはこれで三体。よって手札から『ダーク・アームド・ドラゴン』を特殊召喚!」

 『ダーク・アームド・ドラゴン』ATK2800

 フィールドに、漆黒の龍が召喚される。

「墓地の『ネクロフェイス』をゲームから除外して、『ダーク・アームド・ドラゴン』の効果発動!『堕天使エデ・アーラエ』を破壊!」

「くぅ……!」

「『ネクロフェイス』が再び除外されたことにより、デッキの上からカードを除外!」

 そして、その除外されたカードの中に、もう一枚、不気味な人形の顔が。

「っ! もう一度『ネクロフェイス』の効果発動!」

 大分デッキがなくなった。そろそろ決めに行かないといけない。

「っ……」

 さだめは迷った。手札のカードを出すかどうか。だが、唇を噛んでそのままバトルフェイズに入る。

「『ダーク・アームド・ドラゴン』でプレイヤーにダイレクトアタック!」

「きゃあああああああああっ!」

 アテナLP700

「さだめはこれでターンエンド」

「っ! 私のターン! ドロー!」

 互いにライフは互角。フィールドを見ればこちらが圧倒的優位だが、まだ油断はできない。

「リバースカード発動!」

「!」

 そういえば、あのカードはアテナが最初のターンにセットしたまま使われてなかった。一体何を……。

「まさか……あれ……」

 その時、下で見ていたセツは気がついた。アテナとの最初のデュエル。その時も最初に伏せて、あの時は結局使われることのなかったあのカード。

「『奇跡の光臨』!」

「え!?」

「ゲームから除外されている天使族モンスターをフィールドに特殊召喚します。私が選択するのは『堕天使アスモディウス』!」

 『堕天使アスモディウス』ATK3000

 召喚されたのは、黒い翼を持った正に堕天使。攻撃力……3000。

「バトル!『堕天使アスモディウス』で『ダーク・アームド・ドラゴン』を攻撃!『ヘル・パレード』!」

「うあっ!」

 さだめLP400

「ターン終了です」

「うくっ……さだめの、ターン……」

 くらくらする。ドローするためにデッキに手を伸ばそうとしても目の焦点が合わず、空振りする。

「さだめ!」

「お、兄ちゃん……?」

「もういい! もういいからやめろ! もう限界だ!」

 それはさだめの体か、それとも我慢できないセツ自身なのか。そんなことを考えてさだめは苦笑する。

「だいじょうぶ。まだ、行けるよ」

「さだめ……!」

「それに、闇のゲームじゃサレンダーしたって結果は同じだよ。だから……最後までやらせて」

「っ……っく!」

 その表情から、さだめが決して引かないことが分かったのだろう。悔しそうにしながらセツは沈黙する。

「それに、まだ本当に終わっちゃいないよ。ドロー!」

 なんとかドローを成功させる。引いたカードを見て、さだめはこのデュエルの結末を確信した。

「さだめは手札から……『終焉の精霊』を攻撃表示で召喚するよ!」

 『終焉の精霊』ATK???

 後ろでセツたちが驚愕に目を見開いている気配を感じる。フィールドには、あの忌々しい影の精霊が姿を現していた。

 さっき、『ダーク・アームド・ドラゴン』と一緒に通常召喚すれば勝てていた。だが、このカードを出す、という気にどうしてもなれなかった。だが、もうそんなことを言っている場合ではない。

「『終焉の精霊』は、互いのゲームから除外されている闇属性モンスターの数×300ポイントの攻撃力と守備力を得る! 除外されているモンスターの数は、あわせて12体! 攻撃力3600!」

 アテナが瞠目する。『ネクロフェイス』による大量除外。それによって『終焉の精霊』はまさしく終焉を迎えるに相応しい攻撃力を持っていた。

「『堕天使アスモディウス』に攻撃! 『ジ・エンド・バースト』!」

「ぐぅああああああっ!?」

 アテナLP100

 終焉の炎に焼かれ、苦しそうなアテナを見て、さだめも表情をゆがませる。

「……っ! わ、私は『堕天使アスモディウス』の効果でアスモトークンとディウストークンの二体を特殊召喚します」

 『アスモトークン』DEF1300

 『ディウストークン』DEF1200

「……カードを一枚セットして、ターンエンド」

 もう、お互いに限界だった。ライフも、自身の体力も。

「アテナさん……」

「……?」

「さだめは……謝ろうと思ってお兄ちゃんについてここまできた」

 でも、と言ってまたいたずらっぽく笑う。

「やっぱり、謝ってあげない。アテナさんが正気に戻ってから、改めて謝ることにするよ。だから……」

 ――死なないでね。お互いにさ。

「っ! 私のターン! ドロー!」

 さだめの顔から壮絶な覚悟を読みとったアテナは慌ててドローする。

「……私の、勝ちです!」

「っ!?」

「私の墓地にいる闇属性モンスターは『ダーク・ヴァルキリア』、『堕天使スペルビア』。『堕天使ディザイア』、『堕天使エデ・アーラエ』、『堕天使アスモディウス』の五種類。よって手札から『堕天使ゼラート』を、アスモトークンをリリースして特殊召喚!」

 『堕天使ゼラート』ATK2800

「ゼラート……!」

 堕天使究極のリセットモンスター。それがこのデュエル終盤で現れた。

「相変わらず……タクティクスを馬鹿にしたような引き……」

 さだめは苦々しげな表情でそうつぶやく。

「手札から『堕天使エデ・アーラエ』を墓地に送り、相手フィールド上モンスターを全て破壊します!」

 『終焉の精霊』が消えていく。自分のモンスターながら、思わずホッとしてしまう。

「これで……終わりです!『堕天使ゼラート』で、プレイヤーにダイレクトアタック!」

 ゼラートの剣がさだめに迫る。

「うん……これで、終わりだね」

 さだめはどこかさびしげな笑みを浮かべて兄を見る。今にも泣きそうになっている顔が情けなくて……とても、愛しい。

「リバースカード発動!」

「っ!」

(さだめの罪は、きっと死んでも償えない)

 だから、ここでは死ねない。償えない罪を、放り捨ててなんて逝けない。

「『破壊輪』!」

「なっ!?」

 リングにいくつもの手榴弾が取り付けられたような形をした首輪が、ゼラートの首にはまる。

「さだめは、勝てない! 勝っちゃいけない! あれだけ酷いことをして、涼しい顔で勝つなんてできない!」

 でも、負ければ兄が悲しむし、アテナも救えない。だから。

「一緒に、吹き飛ぶ!」

 首輪が爆発を起こし、アテナも、さだめも、一切合財を吹き飛ばした。アテナの纏っていた闇までも。

「さ……」

 吹き飛んだ二人を見て、セツが叫ぶ。

「さだめっ! アテナァァァァァァ!!」

 互いのライフが、同時にゼロになった。

 

 

 

 

 




 天使の施しや破壊輪は、現在は当然禁止カードですが、当時は現役でした(よね?)。次回、第一期最終話「終わりの始まり」お楽しみに。
 それでは、悠でした!
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