アルカナ~切り札の騎士~
第一期最終話「終わりの始まり」
さだめとアテナの盛大なドローから一週間。
あれからさだめとアテナはすぐに病院に担ぎ込まれ、丸一日目を覚まさなかった。
無事、アテナの取り込んでいた闇はあのゲームで取り除かれたようで、目を覚ましたアテナはいつものアテナだった。
……ただ、ダーク化していた時の記憶はあったようで、自分の行いに対して落ち込むと共に真っ赤になって縮こまってしまった。……まあ、それに関して俺はノーコメントとさせていただく。誰しも自分の恥は語りたくないものだからな。
さだめの方も憔悴しきってはいたものの無事に目を覚まし、とりあえず俺がありがたいお説教をくれてやった。説教されている時のさだめは苦笑気味ではあったが、どこか幸せそうで、俺もついつい説教の手を緩めない様気をつける必要があったな。
……セブンスターズとの戦いは、まだ続いている。だが、あんなことがあってすぐ戦線復帰ができるはずもなく、アテナは脱落。俺もアテナやさだめについていたいので、結局余った七星門の鍵は大徳寺先生が代理で預かることになった。
「歴史は繰り返す……ってのとは、ちょっと違うか」
結局、あれだけすったもんだあったというのに、物語は原作に沿う形に修正された。世界の修正力、という言葉はラノベを始めとした創作物ではたまに聞く言葉ではあるが、なるほど実感した。
タイタンをセブンスターズから除き、さだめがその空いた席に座ることになっても、世界は元の姿を取り戻すらしい。
結局俺のやったことは無駄だったのか。そう思ったこともある。だが、例えさだめがセブンスターズにならなくても、結局は同じことが起きたと思う。それに、今はこうしてさだめの狂気も消え、万事上手く行ったのだから、それを無駄、と考えるのはやめた。
そのさだめの処遇についてだが、情状酌量が適用されたのか、軽い謹慎処分と反省文で済んだ。それも入院期間とさして変わらないので、実質お咎めなしみたいなもんだ。
むしろ問題は俺とアテナだな。俺は元より、アテナも俺がいなくなってから授業にも殆ど出ていなかったらしく、出席日数がヤバかった。校長が掛け合ってくれたおかげで、なんとか先生方からのありがた~いレポートの山を全て片づけることで進級することができるようだ。
アテナに関しては完全に疑う余地なく全て俺の所為なのでアテナの分も全部やると言ったのだが、アテナがそれを固辞。曰く「それじゃあ私のためになりません」だとか。どこまでいっても真面目な奴だ。
「といいますか、入院中ってとっても暇なんです。もしセツがレポート取り上げて、それで私と会ってくれる時間が減っちゃったら最悪です」
「いや、俺ならあれくらい物の数ではないぞ? 面会時間が終わって寮に帰ってからやり始めても一週間あれば終わる」
「えっと……そうじゃなくてですね。ほら、レポートがあればこうしてセツに勉強見てもらえるじゃないですか。進級もできるし暇もなくなるし何よりセツがつきっきりで勉強を見てくれます。いい事尽くめですよ。ビバ! レポートです!」
らしい。まあ、ポジティブシンキングで良いことだ。
ああっとそうだ。忘れちゃいけなかったな。俺とさだめは二人してアテナを始めとする関係者各所に頭を下げて回った。大抵皆カード一箱おごりとか下僕生活一週間(俺)とかで許してくれた。全く皆お人好しにも程がある。
……で、肝心のアテナとの折衝だが、俺にはデート十回。デートの間はアテナに絶対服従をオプションとしてつけることで手打ちとのこと。微妙に恐ろしい気もするが……俺もまあ、嬉しくないわけじゃないし、少しの不安くらい受け入れてやるさ。
そしてさだめ。こちらには二週間俺との接触禁止。要は俺限定の謹慎処分のようなものだ。そんなんでいいのかと拍子抜けした俺だったが、顔を真っ青にしてこの世の全てに絶望したようなさだめを見ると、相当に重い刑罰らしい。……事実として、この刑が執行されて五分でさだめは血を吐いて倒れ、入院期間が延びた。んなバカなと言いたいだろうが、それが事実なんだから笑えない。アテナもここまでの被害は想定していなかったらしく、慌てて刑を解いた。代わりに自分のことは呼び捨てで呼ぶことをお願いする、という方向で決着がついた。ちなみにその時の会話は下記の通りである。
「さ、さだめさん大丈夫ですか? ま、まさかここまで甚大な被害があるとは思いもせず……」
「だ、大丈夫だよアテナさん。さ、さだめがしたことを鑑みればこのくらいは妥当なけいば、げはぁっ!」
「わ、わぁぁぁぁぁっ!? さだめさん、さだめさん大丈夫……じゃないですよねどう見ても! わ、わかりました刑罰は別のに差し替えますから気をしっかり持って!」
「う、ううん……それでもやっぱりさだめのしたことは……」
「これ二週間も続けたら間違いなく死んじゃいそうです! 今の一瞬でなんかリットル単位の喀血してましたよ!?」
「ごぶぅっ!? あ……目が……かすんで……」
「き、きゃあああああああ!? さだめさん!? さ、さだめさんの病室が一瞬にして血の海に!? セツ、セツーーーーーーーー!」
アテナの悲鳴で病室に入ると、そこは血塗れでぶっ倒れているさだめと同じく血塗れでパニック状態のアテナ。その惨劇の現場を見て、俺は震える指でアテナを指差す。
「あ、アテナ……まさか、殺っちゃった……のか?」
「殺っちゃってないです!」
「お……兄ちゃん?」
「さだめ! 大丈夫か? 生きてるか?」
「あ、ああ……お兄ちゃん、お兄ちゃんだぁ……復☆活!」
「何故明らかに致死量オーバーの血を吐いて普通に立ち上がれるんですか!」
「お兄ちゃんさえいればさだめはどこまでも高みに……イケる!」
「もうそれ中毒ですよ! ヤク中患者と反応が同じです!」
「あ……でもアテナさん。さだめの罰は……」
「急にシリアスに戻るの止めてくれません!? テンションの違いに対応できません!」
さだめは治っても尚、人を振り回す存在であるらしい。
「ん、んんっ! え、えっとですね。その、アテナ『さん』っていうの、止めてくれませんか? さだめさんの方が年上ですし……」
「「…………え?」」
兄妹二人して面喰った。
「……なんですかその『驚愕の新事実!』みたいな顔は」
「え、だってさだめって俺の一個下だぞ?」
「だから、私より年上じゃないですか。それも二つ」
「「…………」」
「え、あれ? なんでそこで黙るんですか? 私言いましたよね? 13歳ですって!」
思い返してみると、そういえば確かにそう言っていた。だが……。
「う、うそ!? 13歳!?」
「わ、忘れてた……全然そうは見えないからすっかり……」
「ぜ、全然そう見えないってなんですか! もしかして私、とっても失礼なこと言われてますよねぇ!?」
「じゅ、13歳にしては……」
「してはなんですか!? 老けてるとでも言いたいんですか!」
「い、いや……あ、アテナは大人びてるから……」
「全っ然フォローになってませんよ! うわーん! 13歳で老け顔認定される私の不幸!」
「ち、違うよ! ほら、アテナさんおっぱいもおっきいし!」
「大して大きくないですよ! さだめさんが絶望的なだけです!」
「ぜ、絶望的……」
orz←さだめ。
被害がさだめに飛び火していた!
「なぜ……? お兄ちゃんに散々エロい事してても体は全然大人っぽくならないし……挙句二歳も年下の子に絶望的とか……」
「ふ、ふふ……どうせ私は老けてますよ。伊達にネタでやった精神年齢鑑定で39歳をマークしてませんよ……」
「マジで!? 妙に納得! あ、いやそうじゃなくて!」
マズイ。なんだか知らんが鬱病患者が二人、しかも病院内で発生した。なんとか二人を宥めてさだめがアテナのことを呼び捨てにするようになったころにはすっかり日が暮れていた。
相変わらずの混沌とした状況に思わず涙が出るね。色んな意味で。……うん。そういえばアテナって13歳だったよね。精神的にも肉体的にも圧倒的にさだめより上だけど。
あとは……そうだ、希冴姫たちのその後についても言ってなかったか。
希冴姫はもう完全にこっちの世界で生活している。住むところについてはまた一悶着あったが。
俺の精霊でパートナーなんだから一緒の部屋で過ごすという希冴姫に対し、まあ当り前と言えば当り前だがアテナとさだめが猛反発。断固とした態度を崩さない希冴姫も希冴姫だが、まああの二人も凄まじい剣幕で激論を交わしてたな。結局議論は病院側から苦情が入ってストップ。結果として妥協案で俺の部屋に希冴姫。俺は部屋を追い出されて十代たちの部屋に編入、と。……なんか俺が一番被害者な気もするが、まあいい。十代たちの部屋はそこそこ楽しいし、元々あの部屋に入り浸ってたしな。
で、なぜかルインもちゃっかり希冴姫と同じく元俺の部屋に寄生していた。女っ気が増えてレッド寮の馬鹿共は狂喜乱舞していたが、その二人がいつも俺にべったりな所為で余計に俺が居心地悪くなった。周囲からの視線が最早物理的ダメージを伴って俺に突き刺さる。日常的に闇のゲームをしている気分になってきたね。
ジャックとキングは前と変わらず時々出てきてはひっかきまわして(キング)皆の喧嘩を仲裁して(当然ジャック)と変わり映えのしない生活をしている。
さだめによって魂を封じられていたレイも、無事に目を覚ましたと連絡を貰った。何故か十代フラグも立たずに亮さんへの想いが継続中らしいが、その辺はまあ俺には関係のないことだ。折角の十代にとってのフラグだったのに、俺たちの所為でそのフラグが潰れたかと思うと善良な……おいそこ笑うな。俺の心は罪悪感と言うか当然の倫理観でチクチクとした痛みを覚える。
同時に吹雪さんの意識ももどったそうで、明日香が兄を伴ってお礼にやってきた。……問題があるとすれば俺が吹雪さんに物凄く気に入られてしまったことぐらいか。亮さんと共に振り回される日々だ。その代わりと言ってはなんだが亮さんとも仲良くなれたな。今までそれほど接点がなかったのでちょっと嬉しい。
……回想も疲れてきたな。それだけ色んな事があったってことなんだろうが、俺としてはあまり実感がわかない。それだけ充実した、忙しい日々だったからだろう。
そして今日。やっとアテナとさだめの二人が退院する。
「まったく……病室を血の海にするわ夜中まで騒がしいわ散々な患者だった」
「あ、あはは……ご、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「なんどこれどこが病人だと叫びたくなったことか」
「あうぅ……」
二人はせっかく退院の日だと言うのにすっかり顔見知りになった医師さんに説教を食らっていた。
「君もだぞ御堂君!」
「はい!?」
「まったく彼女らが騒いだり病室を血の海にする根本の原因は全て君だというのに……」
訂正。俺も一緒に怒られてます。
「……まあ、それでも君たちの起こす騒ぎは迷惑でありながら、何処か楽しいものだった。正直、これで君たちが全員ここからいなくなるというのは……不謹慎だが、とても残念でもある」
「先生……」
「うむ。だから君たち。いつでも運び込まれてきなさい。スタッフ一同大喜びで歓迎しよう!」
「いやいや喜んじゃだめでしょう!? 普通もう来ないように言うのが医者でしょうが!」
「だってさびしいじゃないか!」
「私事か!」
「なんなら私たちが怪我させてあげるから!」
「あんたら本当に医者か!? 積極的に病人けが人作ろうとすんな! アホか!」
まったく……卒業を反対する教師といい(TF3参照)ロクな大人がいないなここは!
「でも……私もちょっとだけ残念です」
「アテナ?」
「私がずっと入院して、ベッドに寝た切りだったら……ずっとセツに世話してもらえるかな……なんて」
「あ、それさだめも思った。病院で禁断の一線を越えるっていうのも中々クるシチュエーションだよね!」
「いえ……そういう意味では、ないんですけど……」
……ったく、こいつらは……。
「……言っておくがな」
「「?」」
「俺は、介護が必要な妹を持つ気も……恋人を持つ気もないんだからな」
「「え!?」」
言うだけ言ってさっさと荷物持って逃げる。
「ちょっとお兄ちゃん!」
「い、今の言葉の真意は……」
「ええいうるさい! 勝手に想像してろ! ただし! 想像通りとは限らんことも考えておけ!」
「ま、待ってください! 真意が聞けないことには今夜眠れそうにありません!」
「そうだよ! このままじゃアテナもさだめもそのことを考えて枕を……じゃなくてパンツを濡らす羽目に……」
「そ、それはなりません!」
「さだめはなるもん!」
「なぜそこでキレるんですか!」
何事か口論しながら追いすがってくる二人の声を聞きながら、俺は空を見上げた。
突き抜けるような青い空。まだ危機は去ってなくて、三幻魔のじいさんは己の若返りを狙っていて……それだけじゃなく、この先光の結社だの異世界だのと色んな問題が控えているのも知っている。
「だが、まあ」
今はただ、この幸せに浸っていよう。
だから世界よ。
これが、単なる終わりの始まりだったとしても。
今だけは。
俺たちに平和な時間を。
辛いこと苦しいこと。そんなものは全部まとめて、後で相手してやるからさ。
とりあえずは。
いつの間にか服の裾を掴んでいる少女たちに言い訳するくらいの時間は、さ。
これにて、アルカナの第一期は終了となります。もうこの辺りでアテナとさだめのキャラクターは完成形に近いですね。このままの感じで最後まで行きます。タグでもありますが、二期からはオリカも登場します。以前掲載時よりは減らす方針ですが、それでもそこそこの数が出ますのでご注意ください。
それでは、悠でした!