アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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 番外編となります。以前バレンタインデーに更新した際の特別編になります。時系列等はあまり気にしないでください。後、デュエルはありません。


番外1「聖戦という名の殺戮」

アルカナ~切り札の騎士~

番外1「聖戦(ジハード)という名の殺戮(ジェノサイド)」

 

 

 

 

「出来ました!」

 ブルー女子寮の厨房。他にもちらほらと同じ目的を共有する同志(ライバル)たちがヘラ片手に奮闘する中、私は一足先に目的のブツを完成させることに成功しました。

 私が、さてラッピングをどうするかと次の問題に悩み始めていると、背後で奮闘中の同志(ライバル)たちの会話が耳に入ってきました。

「ねえ、あんた誰にあげる気?」

「もち、カイザー亮さまに決まってるじゃない!」

「うっわー、また無茶なとこ行くわねぇ……」

「む、無茶ってなによ!」

 カイザー、カイザー亮。……丸藤翔さんのお兄さん。顔良し勉強良し運動良しデュエル良し性格クールでデュエル中は相手へのリスペクトを忘れない。確かに非の打ちどころがない女子寮内人気ランキングぶっちぎりトップのオベリスク・ブルー三年生。なるほど、やはり大半はそちらに流れそう。

「でも実際競争率高すぎだって。亮サマどれだけ人気あると思ってるのよ」

「う、うぅ……そういうあんたはじゃあ誰にあげるのよ」

「ん~とりあえずあたしも亮サマにはあげるけど……」

「ほらやっぱり!」

「違うって。だから、本命は別~」

「え~うそ、誰々?」

「ちょ、あんたら近寄ってくんな!」

 そうです。近寄るのではなく私のように耳をそばだてて盗み聞くのが正解です。

「わたしは三沢君」

「……誰だっけ?」

「ちょ、イエローのナンバーワンでしょ。何言ってんのよ」

「あ、ああ~思い出した思い出した。確かに顔も性格も勉強も運動もデュエルもトップクラスだよね」

「……でもなんか地味」

 確かに。

「でもさ~わたしは御堂くんとか良いと思うんだけど」

 ピク。

「え~御堂君ってオシリス・レッドじゃん」

「イエローとかなら兎も角レッドはなぁ~」

「でもデュエルは強いよね」

「まあそれは……」

「顔だって悪くないし、こないだの筆記、満点だったんだって」

「嘘!? あたし必死に勉強して70そこそこしか取れなかった」

「あたしなんか59点。出す問題が一々やらしいんだもん」

「た、確か三沢君で98点って……」

「お~良く知ってるわね。流石」

「か、からかわないで!」

「そういえば、ユーキもこないだは結構良かったんだっけ?」

 ピクン!

「そうなの?」

「そうよ。お~いユーキ!」

 呼びかけられたことに気づいたらしく、加藤さんがいつの間にやら集団になって話しこんでいる女子に近づいていきます。

「呼んだ~?」

「呼んだ呼んだ。あんたたしか、こないだのテスト、すごい良かったって嬉しそうに跳ねてたじゃない」

「は、跳ねてはいないわよ~」

「言葉のアヤよ。で、何点だった?」

「は、89……」

「うは、すごいじゃないユーキ。いつも60点位をうろうろしてたあんたが、急にどうしたの?」

「え、え~と……」

 最早当初の話題はどこへやら。

「せ、セツくんが予想試験問題と勉強スケジュール作ってくれて……殆どそのまま出たからするすると……」

 む、むむぅ……。私にはそんなことしてくれなかったというのに……相変わらず加藤さんには甘い気がします!

「え~嘘、それって超すごいじゃん!」

「野球とかテニスの時も結構活躍してたみたいだし……」

「亮サマと違って気さくで話しやすいよね」

「クールさはないけどね」

「なるほど……結構優良株だ」

 ま、まずいです。こ、こんな直前になってセツの株が急上昇とか……流石に積み重ねの面で圧倒的優位な自信はありますが、うかうかもしていられません! こ、これは普通のではインパクトがなさ過ぎて……。

「それで? ユーキはそのセツくんにあげるのかにゃ~?」

「え、え~と。……うん」

「きゃ~! キタ! 甘酸っぱいのキタ!」

「あ、でも御堂君って……」

 女子集団の視線がこちらに集中するのを感じます。……気付いてないふりで作業を続けます。

「……まあ、こ~いうのは戦争だし」

「そうそう、これも一つの決闘(デュエル)だよ」

 デュエル……。

「それです!!」

 思わず私は叫びました。これは……まさしく天啓! シャルナ辺りの天啓に違いありません!

『いや~あたし何もしてないんだけど……まあ勘違いしてるならしてるでいいか。さあ! あたしを崇め奉りなさ~い!』

「早速準備です!」

『……アテナって、ホントにあたしのこと見えてるのよね? なんかあたし、常に悉く無視がデフォになってきてる気がするんだけど』

 私は降りてきたアイデアを形にするべく、急ピッチで作業を再開しました。

 

 

 

 SIDEセツ

 今日という日を、心躍らせわくわくとした心持で迎えるか、目をギラつかせ、憎しみに狂った精神状態で迎えるかは、残念ながら人により様々だろう。もうはっきりと言ってしまえば、前者は勝ち組、後者は負け組である。そして肝心の俺はといえば……。

「勝ち組……ふははっ!」

 告白までされている上、アテナから明日は楽しみにしていてくださいとまで言質が取れている。そう、俺はもう家族からしかもらえなかった寂しい負け組とはおさらばぶっ!?

「リア充氏ね!」

「モテ男死すべし!」

「でえい! うっとうしい!」

 だめだ。このレッド寮においてリア充は敵! 実際割と心労も溜まるということを知らない飢えた獣どもめ。

 ピッピー、ピッピー!

「お、アテナだなげはぁっ!?」

「滅びろ!」

「これは正義の鉄槌じゃ!」

「がふぅ!? おのれ、貴様らは普段からの好感度上げを怠るからそういうことに……ぐはっ!?」

「黙れリア充!」

「女子に話しかけることすらドキドキバクバクもののシャイボーイなめんな!」

 駄目だ。こいつらはすでに修羅! 或いは羅刹! ひとまずここから避難しないことにはアテナのメールすら読めん!

 

 

 

「ったく……」

 魔窟と化したレッド寮から満身創痍で逃げ出した俺は、とりあえずアカデミアの方角へ向かって逃亡を続けていた。

 いや、気持ちはよくわかる。俺だってこっちに来る前は全面的にあいつらの味方だった。

「まああいつらのことはいいか。さてアテナのメールはっと」

『アテナです。お渡ししたいものがありますので、今からそちら……レッド寮の方へと向かいます』

 む。じゃあちょっと戻らないと行き違いになるな。あんましあっちへは戻りたくないのだが致し方ない。

「これも、アテナのチョコのため!」

 そう、今日は(セント)・バレンタインデー。恋する乙女の聖戦であり、男にとっての最後の審判とも言える日であるのだから。

 

 

 

 アテナとは、レッド寮に戻る途中で合流した。すぐにくれるものかと思っていたら、何故かまだあげませんともったいぶられた。

「大体、セツは八方美人なんですよ。もうちょっと自重してください!」

 そして、何故か説教を食らっていた。

「んで、なんだってレッド寮に行くんだ?」

 チョコを渡してくれるのはすでに明言されているので別にもったいぶらなくても、と言外に聞いてみる。シチュエーション的な是非を問うなら、餓狼の徘徊するレッド寮はむしろ鬼門。というか万一今日奴らの前でラブコメってみろ。確実に今日が俺の命日だ。

「もう……私だってホントは普通に手作りで頑張って作ったチョコをロマンチックなシチュエーションでセツに渡してそのまま……とか考えてましたけど……」

 そのまま……の後は何もない。ありがとう、大事に食べるよ、位のやり取りで帰宅である。断じてそれだけだ。最近はなんかもう半ば以上恋人みたいな関係にまでなっている気がするのも事実だが、まだ明確には返事をしていないのも事実だ。

「けど! セツが八方美人すぎたから、この案は没にせざるを得なくなったんです!」

 え~なにゆえ~?

「それではインパクトに欠けます」

 いらんし。インパクトいらんし。

「なので、ちょっと奇をてらってみることにしました」

普通であって欲しかった!

 こういった場合、奇をてらったものは確実にコメディオチが来ることを、アテナはわかってない!

「で、その結果チョコの分量が多くなりすぎたので、普段セツがお世話になっているレッド寮の皆さんにもおすそ分けしようかと」

「なるほど」

 そりゃ奴らは滂沱の涙を流して喜ぶことだろう。基本、女日照りのレッド男子だし。

「そこで、なんですけど、セツには皆さんを食堂に集めて欲しいんです」

「正に、命懸けのミッションだな」

「は?」

 今の奴らは獲物(チョコ)を求めて徘徊する亡者の群れであり、獲物(チョコ)を手に入れた者の喉笛を容赦なく食い破るハンターだからだ。

「まあいい。アテナは食堂で準備するのか?」

「はい。まあ準備と言ってもそう時間のかかることじゃないんですけど」

「よしわかった。……ニプーカ・ニペーラ」

「? ニプーカ・ニペーラ」

 戦場から生きて帰るためのおまじないを唱え、俺は神風特攻を決行するのだった。

「ゲーム……スタート!」

 リプレイは、ない。

 

 

 

「ほほぅ……今この時、俺たちの前に戻ってくるとは……勇気のあるやつだ」

「或いは……よほど死にたいらしい」

「なんだ自慢か? 俺は今日これだけ貰いましたよすごいだろうとでも言いに来たかああん!?」

「同情ならするな。嘲笑なら死ねばいい。おすそ分けなら殺してくれる」

 そこは……ソリッドビジョンを通していないのに『万魔殿―悪魔の巣窟』が再現されていた。いやむしろ『アンデット・ワールド』の方だろうか。

「お、落ち着け。いいか、お前らに妖精の贈り物のお知らせだ!」

 ピクリ、と亡者の群れが濁った瞳でこちらを見据える。……怖ぇ。

「アテナが、日頃お世話になっているお前らにも幸せのおすそ分けを……」

『犬と呼んでください御堂様』

「変わり身早ぇ!」

「どこだ! どこでその素敵イベントを行っている!」

「だからそれを今から案内してやるってんだ! 少し落ち着け!」

 全員が片膝ついて頭を垂れてきた。本当に調子いい奴らだこと。

「こっちだ」

 まるで軍隊のように隊列を組んでぞろぞろと後を着いてくる奴らを不気味に思いつつも、アテナが待つであろう食堂の引き戸を開ける。

「おーいアテナばっ!?」

「あ、セツ。連れてきてくれたんで……」

「女神さまの降臨だ! さあ、神輿だ! 神輿を持てぃ!」

「神様仏様アテナ様! ボクはこれから毎朝、女子寮に向かって最敬礼することを日課とします!」

「ひゃあっ!?」

 奴らはアテナの前に跪き、おお神よとばかりに祈り始めた。ちなみに俺は引き戸を開けた瞬間に奴らに弾き飛ばされ顔面を強打したところである。

「き・さ・ま・ら~! 落ち着けつってんだろが! アテナがおびえてるだろ!」

 そう叫ぶと瞬時に大人しくなった。……こいつら、もうアテナの犬だな。

「あ~とりあえずアテナ。連れてきたぞ。命懸けで」

「は、はい。ありがとうございます……?」

 まだちょっとおびえてるっぽい。まあ仕方ないだろ。こいつら眼がギラついてるし。

「で、アテナ。説明してくれ。こいつらも呼び寄せた理由」

「はい。実はですね。このバレンタインをデュエルに例えまして、ドローパンならぬドローチョコというものに挑戦してみたんです!」

「さすがアテナ様」

「凡夫とは眼の付け所が違う」

「崇めよ、称えよ」

『はは~!』

「せ、セツ……?」

「気にするな。こいつらはただの阿呆だ」

 本気でアテナ信仰が始まっているレッド男子は放っておいて説明を始めさせる。

「は、はぁ……。えと、これがそのドローチョコです。表面はみんなチョコでコーティングしてありますが、中身は結構色々です」

 机に、黒かったり白かったりするチョコが並ぶ。どれもそこそこのサイズで、全部食べるとなれば確かに俺一人じゃ無理だろう。

「中身は秘密ですけど、普通のホワイトチョコか何も入ってないチョコが当たりです。チャンスは一人一回。どれが正解かは実は私にも……」

「初手は貰ったぁ!」

 一人のレッド男子が果敢にチョコに飛びつく。馬鹿! 一番手は死亡フラグだ!

「がふぅ!?」

「佐藤ー!?」

 ……オチたか。

 ちなみに中身は納豆だった。……なるほど。ドローパンでも、納豆パンがあったな。

「こ、これは……」

「もしや……」

「とてつもない地雷臭が……」

 ここにきて、レッド男子の威勢が急激に落ちた。

「……ここは、せっしゃが逝こう」

「峠!?」

「武士の誉れは、戦場での死と見つけたりー! がはぁ!?」

「峠ー!!」

「す、ステーキにチョコは……絶望的に合わぬでござる……げふぅ」

 ……ああ、そいつは合わんわ。

「くっ! 佐藤、峠……お前らの遺志は、俺たちが受け継ぐ!」

「そうだ! 総員、チョコを持てぃ!」

「赤信号、皆で渡れば怖くない!」

 全員が一斉に思い思いのチョコを手にする。確かに、全員で行けばだれか一人位は当たりを引けても良さそうなものである。

『目覚めろ! 俺たちの鷹の目(ホークアイ)!』

 ……だが忘れてはならない。ここはレッド寮。もっともデュエルに弱い男子が集まる格下寮。

 彼らがここにいるのは、未熟なタクティクスでありデッキ構成であり、

『ぎゃはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?』

 ……類稀なる、引きの弱さだということを。

『…………………』

 そして……死屍累々。

「さ、後はセツですね♪」

「鬼!?」

 冗談ではない。この惨状を見せつけられてまだ食べようとする奴はよっぽどのギャンブラーか真性マゾのド変態だ。

 無論そのどちらでもない俺はすぐにでも逃げ出したいのだが、期待に目を輝かせるアテナをがっかりさせるのもしのびない。

「大丈夫です。大分減りましたし、セツなら当たる確率は高いですよ!」

 もしかしてそのためにこいつらを当て馬にでもしたのだろうか。アテナ、恐ろしい子!

「食べて……くれませんか?」

 ……覚悟を決めるか。

「そうだ。俺だってここまでなんだかんだと鬼引きでデュエルに勝利してきたじゃないか。そう、俺はあたかも主人公補正と思わんばかりのラックの持ち主。いける、いけるはずだ……!」

 いざ!

「俺のターン! ドローォォォォォォォ!!」

 俺は特に数が少なかったホワイトチョコ(暫定)を掴み取った。数が少ないから当たりやすいと思ったのもあるし、俺はどちらかと言えばホワイトチョコの方が好きだからだ。

「俺は……このホワイトチョコを、召喚する!!」

 そうして俺はひと思いにチョコに食らいついた!

「逝った!」

 結果は……。

「アテナよ……」

「せ、セツ……どう、でした?」

 いままで納豆だのステーキだのくさやだのと散々なチョコばかりだったが……。

「ロウソクは……食い物じゃない……」

 げふ。

「そ、そんな……よりにもよって最大のハズレを……!」

 いや……きっとそれは最大の『当たり』だったんだ。そう、今この場では、主人公補正よりもギャグ補正が優先されたように……。

 薄れ行く意識の中で、俺はそんなことを思っていたのだった。

 

 

 

 おまけin保健室

「セツくん、大丈夫~?」

「ああ……なんとかね」

 あの後、アテナはレッド寮におけるバイオハザード実行犯として三日間の謹慎処分を受けた。俺はと言えばまあロウソク食ったからと言って死にはしないので大事をとって保健室で休んでいる。

「ユーキちゃん? どうしたんだそんなにそわそわと」

「え、えっとね。セツくん。もう、過ぎちゃったけど……」

 そう言ってユーキちゃんが手渡してくれたのは何の変哲もないチョコレート。

「これ……」

「えっと、ホントは当日に渡したかったんだけど、あんなことになっちゃったから……」

 あ、ああそりゃロウソク食った後に食いたくはないな。

「だから、1日遅れだけど、ハッピーバレンタイン!」

「あ、ありがとう……」

 軽く頬を染めてはにかむユーキちゃんを見て、やっぱり普通が一番だ。そんなことを思う俺なのだった。

 

 

 

 

 




 と、いうわけで、結果として勝者はユーキちゃんということになりました。この辺りから、ユーキちゃんの沈黙の闇狩人(サイレント・ダークホース)としての活躍が始まったんだなぁ……。
 それでは、悠でした!
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